あべこべ奇天烈平安京⛤   作:白石基山

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其の捌、羅刹天と玉ちゃん、頼光と綱

「雨陰様、無闇に拾ってはいけませんと何度も言ってますよね? 元の場所に返してきなさい」

「まあまあ玉ちゃん。ちゃんとお世話するからさあ……」

「あれ? 私捨て猫扱いなの?」

 

 

 うちの家事を担う妖狐の玉ちゃんに羅刹天を紹介したところ、ため息を吐きながら外を指差し元の場所へ返してこいと言われた。

 羅刹天もあまりの塩っぷりに困惑しているが、基本玉ちゃんは誰にでもこうなので慣れて欲しい。

 

 

「玉ちゃんと一緒に家事とかしてもらう予定だから」

「はっ?」

 

 

 玉ちゃんからとても低い声が発せられた。ずいずいと近づき、身体を密着させながら俺を睨む。

 

 

「私が不用だとでも?」

「そんなこと言ってないよね? 二人でって言ったよね?」

「家事は私とその辺の雑霊だけで充分です」

「でもそれだと玉ちゃん休むヒマないよね? 二人でやれば休みも作れるよ?」

「別に休みなぞ必要ありませんが?」

 

 

 今日の玉ちゃんは引いてくれない。何故か意固地になってしまった。困った。

 

 

「なるほど」

 

 

 それまで話を聞いていた羅刹天は何かに納得した。

 

 

「別に私は雨陰も、雨陰の中身も、取りはしないぞ?」

 

 

 その一言に玉ちゃんが羅刹天を睨む。

 

 

「むしろ私は雨陰を守りに来たんだから。何故か主に家事をすることになってるけど。別に晴明やらあの綱って武士みたいに下心もないぞ」

 

 

 少し困り顔で笑う羅刹天をじっと見つめた玉ちゃんが、またこちらを見て何かを察しもう一度大きなため息を吐いた。

 

 

「……仕方ないですね。こういう時の雨陰様に何を言っても無駄でしょうし。会ったばかりの羅刹天様に言われるほど渡辺様は相変わらずむっつりなようで」

「ま、ああいう手合いはむしろ手は出さなそうだから安心っちゃ安心だけど」

「視線がやらしいです。雨陰様じゃなければ避けられるくらい見てます。というか呪いのこと知っているから手を出さないだけかと思われます」

「ああ、そういえば雨陰の周りってみんな雨陰の呪いのことは知ってるの?」

「雨陰様と親しい人間だけ。雨陰様の命に関わりますし。あまり知らされず秘匿にされているのは、陰陽寮所属の陰陽師が妖怪の呪いに掛かっていて、それを誰も解けないという恥からじゃないですかね。陰陽師の威信に傷が付くでしょう?」

「いやまあぶっちゃけ私らでも雨陰の呪いはどうしようもないから、神でどうしようもないんだから人が威信とか言ってもとは思うけど。でもま、言われてみればそうだねえ。そりゃ隠したくもなるか」

「人は偉くなればなるほど面倒ですからね」

「それはどこの世界でも一緒だよ」

 

 

 

 気が付いたら綱が言われ放題で笑う。でもなんかそれで意気投合してるみたいだから放っておこう。綱、そんな感じじゃないと思うけどなあ。

 俺に掛けられてる呪いは、まあだいたいそんな感じであってる。陰陽師の権威に関わるからとかなんとか。そんなこと言われてもって感じ。晴明ちゃんは権威とかまったく気にしないほうだけど、師匠である我が母が問題視して止めたんだよね。

 

 

「雨陰の呪いは、パッと見てもある意味技術の集大成みたいな見事なもんだからねえ」

「それはそうです。当たり前です。妖狐族史上最高のお方です」

 

 

 玉ちゃんは誇らしそうである。元々、大陸の王朝に居たときに俺の中にいるきっちゃんに仕えていたとか。たまちゃんは大陸からきっちゃんを追いかけてきて、なんやかんやあってうちで家事をしてくれている。

 その最高のお方の呪い、本人が「魂とくっつくと思わなかった。ぶっちゃけ失敗した」と言ってるのは玉ちゃんには内緒である。

 

 

 

 

    ◇

 

 

 

 

「で?」

「で? とは?」

「雨陰がその大鬼神を式神にしたのは分かりました。で? 雨陰は?」

「『とりあえず晴明ちゃんに紹介してくるよ』と言ってました。雨陰の上司ですし当然かと」

「なんで連れて来なかったんですか?」

「ですから陰陽寮に行くと言っていたので……」

 

 

 また始まったよ、と目を閉じ深い溜息を綱は吐いた。

 雨陰と組で仕事に行き、源氏武士団の屋敷に連れて来なかった時、頭領である頼光はいつもこうである。そして他の時は絶対に来ないくせに雨陰と組で出た後だけ頼光の部屋で待ち構えている他の頼光四天王も同じくやれやれといった反応をしているが、綱からすれば「お前らも頭と同じく待ってたんだから私は違うみたいな反応はおかしい」と思っている。

 

 

「そこを! なんとか言って! 連れてきてくれても! いいじゃないですか!」

 

 

 頼光は座して姿勢こそ美しいが言ってることは癇癪を起こした子供でしかない。

 

 

「仕事の報告は大事でしょう?」

「どうせ! 晴明は遠見の術で覗いて知っているんですから! 報告しようがしまいが一緒です!」

「いや、そんなにヒマな方ではないでしょう?」

「いーえどうせ他の仕事を片手間に雨陰をじっと見てたに決まってます!」

 

 

 そんな頼光様じゃあるまいし、と頼光四天王一同は思うが、晴明は他の仕事は全部やっつけで雨陰ばっかり遠見の術で見守っていたから頼光のほうが正解である。

 やっつけ、とは言ったが晴明の能力が高すぎて仕事は完璧にこなしてはいる。仕事に気持ちが入ってないだけである。

 晴明に問えば結果は一緒だから良いだろうときっと言う。それを問い正そうとすれば、そして晴明は「じゃあ変われ」と言うだろう。晴明の片手間、は他の陰陽師が束になっても不可能な精度なので問い正した側が言葉を失ってしまうのだが。

 

 現状の平安京は晴明がいなければ、呪い祟り怨み呪術妖術呪縛といった各種フェスティバルが毎日開催されてしまうくらい問題が山積みであり八割くらい晴明一人で請け負っているので誰も変われないのである。

 

 そんな状態の晴明に息抜きするのをやめろと言われれば、さすがに晴明だってキレる。

 息抜きの仕方が完全にストーカーのそれであるが、誰も止められないし、雨陰自体も破廉恥男子と思われているのと、幼い頃から二人でいた姉弟弟子の関係というのも知られているので「……まあ相手が雨陰ならほっといてもいいか」となっているのである。

 

 

「安倍殿は立派に職務をこなしていると思いますが」

「別に何か起こっても私が斬るので問題ないです」

 

 

 頼光は斬ると言い切る。呪い祟り怨み呪術妖術呪縛。頼光は全て一刀にて斬る。実体があろうがなかろうが関係なく斬る。大袈裟ではなく、頼光は確かに全てを斬る。現状、頼光が対処出来ないのは晴明と同じく雨陰の呪いだけである。

 綱はそこまで言い切ることが出来ない。己の剣術が頼光に及ばないことを知っているからである。

 頼光は綱に、そこを言い切り自身を超えて欲しいと思っている。

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