落日の竜狩り ―真鍮の鎧と主への誓約―   作:もいもい130

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第二十九話:【東の鍛冶師と、天の火の伝承】

 

 

第一部:東の鍛冶工房と、打てない神代の鉱石

 

 

宿場町の朝は、幾重にも重なる「音」と共に明けた。

 

提灯の灯が消え、朝霧が立ち込める通りには、朝餉を売る威勢の良い声や、荷車の軋む音が響き渡る。

だが、町の中心部から離れるにつれ、それらの生活音は、地響きのような「鉄を叩く音」にかき消されていった。

 

「さあ、旦那、お嬢さん。お急ぎあれ。この街で一番腕の立つ、偏屈な『鉄叩き』のところへ案内しますぞ」

 

西を識る商人が、軽快に扇子を畳んで先頭を行く。

一行が辿り着いたのは、街の外れ、山裾の斜面に強引に張り付くように建てられた巨大な工房だった。

 

立ち並ぶ複数の煙突からは絶え間なく黒煙が上がり、周囲には焼けた鉄の匂いと、皮膚を刺すような熱気が漂っている。

工房の入り口には、納品を待つ武具の束や、巨大なふいごの予備が所狭しと積み上げられていた。

 

「――なんだ、西の珍客か。商売なら他を当たれ。俺は今、忙しいんだ」

 

工房の奥、火花が散る暗がりから現れたのは、煤で全身を汚し、岩山のように筋骨隆々とした『東の鍛冶師』だった。

腰に巻いた分厚い革のエプロンは数え切れないほどの火傷跡に刻まれ、その腕は成人男性の太腿ほどもある。

 

彼は、商人の背後に立つ黄金の巨躯を仰ぎ見ると、手にしていた重い金槌を危うく落としそうになり、その目を皿のように見開いた。

 

「……なんだ、その鎧は」

 

鍛冶師の声から、拒絶の色が消えた。

代わりに、職人特有の、獲物を見定めた獣のような鋭い光が宿る。

彼は、自らの掌の汚れも気にせず、オーンスタインへと一歩ずつ近づいていった。

 

「……細工の緻密さもさることながら、素材が……真鍮に見えて、その実、この世の金属とは思えん。東の『玉鋼(たまはがね)』とも、西の『魔銀(ミスリル)』とも違う。重厚でありながら、内側に恐ろしいほどの熱を秘めてやがる」

 

鍛冶師は恐れを知らぬ手つきで、オーンスタインの肩の装甲に触れ、その表面に刻まれた微細な獅子の意匠をなぞった。

 

「西の鎧といえば、板金を繋ぎ合わせた大味なものばかりだと思っていたが、これは違う。……金属そのものに『祈り』か何かが練り込まれてやがるな。一体どこの神代の遺物だ?」

 

商人が通訳を介して補足する中、オーンスタインは静かに、その重厚な十字槍を抜き放ち、鍛冶師の前に提示した。

2.5メートルを超える巨躯の持ち主が扱うに相応しい、あまりにも長大で、あまりにも美しい凶器。

 

『……打テ、ルカ』

 

低く、地響きのような言葉。

鍛冶師は十字槍をまじまじと見つめ、その穂先の十字の反りや、石突きの重心を確かめるように呻いた。

 

「打てるかだと? ……笑わせるな。この槍、造りそのものが西の剣術や東の刀術の理から外れてやがる。……突き、払い、そして……何だ、この溝は。ここから雷でも通す気か?」

 

「……! はい、そうです! オーンスタインさんは、この槍で雷を操るんです!」

 

小さな魔法使いが、少しだけ誇らしげに胸を張った。

自分の自慢の相棒の凄さを、この目利きの鍛冶師が見抜いたことが嬉しかったのだ。

 

鍛冶師は鼻を鳴らし、十字槍を食い入るように観察し続ける。

 

「雷か。なるほどな、この穂先の形状は電力を一点に収束させ、貫通力を極限まで高めるためのものか。東の大陸の『刀』は斬ることに特化し、鋼を幾重にも折り畳んで鋭利さを生むが……この槍は、一つの巨大な『避雷針』を武器へと昇華させたような造りだ。……面白い。これほどの名品を前にして、職人が指をくわえて見ていられるか」

 

その言葉を合図に、小さな魔法使いは、意を決してローブのポケットへと手を入れた。

彼女は、自身の掌よりも大きな、青白く透き通るような神代の鉱石――『光る楔石』を慎重に取り出した。

 

「これを使って、彼の槍を……もっと強くしてほしいんです。……できますか?」

 

少女は、鍛冶師の巨大な掌の上に、その石を載せた。

石は工房の火光を浴びて、内側から淡い燐光を放っている。

 

鍛冶師はその石を預かると、顔つきをさらに険しくし、工房の最奥にある特注の炉の前へと移動した。

そこには、常に白熱した色を放つ最高級の炭がくべられ、弟子の少年たちが懸命にふいごを動かしている。

 

「おい、どけ! 邪魔だ!」

 

鍛冶師は弟子たちを突き飛ばすようにして退けると、自ら巨大な火鋏で『光る楔石』を掴み、炉の最も熱い中心部へと突っ込んだ。

 

「見ていろ。東の火が、西の石に負けるはずが……」

 

だが、数分、数十分と時間が経過しても、炉の中の光景は変わらなかった。

通常であれば、どんな強固な鋼であっても数刻で赤らみ、粘土のように柔らかくなるはずの熱量。

しかし、その石は青白い輝きを一切変えることなく、炉の炎の中で冷然と居座り続けていた。

 

「……なんだと?」

 

鍛冶師は汗だくになりながら、火力をさらに強めようとふいごを力任せに踏んだ。

熱風が工房全体を揺らし、小さな魔法使いが思わず顔を背けるほどの高温。

それでも、石は温もりすら帯びる様子がない。

 

鍛冶師は忌々しげに舌打ちをして、火鋏で石を炉から引き抜くと、それをまだ熱を持っているはずの床に無造作に転がした。

石は全く熱を帯びておらず、少女がすぐに素手で拾い上げられるほど冷たいままだった。

 

「……駄目だ。話にならん」

 

「え……? できない、っていうことですか?」

 

少女の声が不安に震える。

鍛冶師は額の汗を乱暴に拭い、炉の炎を忌々しげに指差して首を振った。

 

「俺の火が足りんと言ってるんだ。この石、東の最高級の備長炭を使い、全力で火を熾しても、表面の煤すら焼き付かねぇ。……地上の炎じゃあ、傷一つ付けることも、溶かすことも不可能だ」

 

鍛冶師は、少女の手の中にある石を睨みつけ、敗北感を隠そうともせずに続けた。

 

「東の刀鍛冶が一生をかけて追い求める『純度の極み』を嘲笑うかのような硬度だ。こいつを打てるのは、人間が薪を燃やして作る火じゃねぇ。……伝承にある『天の火』か、あるいは、かつての神々が遺したとされる、底なしの種火でもなきゃあな」

 

「天の火……」

 

小さな魔法使いは、返された冷たいままの石を両手で握りしめ、隣に立つオーンスタインを見上げた。

 

落胆する彼女とは対照的に、オーンスタインの兜の奥に灯る残り火は、どこか確信を得たように静かに揺れていた。

地上の炎が届かない。それは、彼がかつて仕えた神々の領域、そして探し求めている主君の痕跡に、一歩近づいたことを意味していた。

 

---

 

第二部:竜鳴の峰への道標と、鉄の門番

 

 

「――おい、西の言葉がわかる商人。この『楔石』とやらは、どこで手に入れた」

 

東の鍛冶師は、炉の前の床に転がっていた青白い石を、厚手の革布を介して慎重に拾い上げた。

その目は、先ほどまでの職人としての意地から、より深く、歴史の闇を覗き込むような色へと変わっていた。

 

「……おとぎ話だと思っていた。西の彼方から流れてくる、神代の武具を鍛えたという不思議な石の噂をな」

 

西を識る商人が通訳を介してその言葉を伝えると、小さな魔法使いが真剣な表情で一歩前に出た。

 

「これは、西にある辺境の街の近くで……ただの岩トカゲだと思われていた、大きな結晶のトカゲから手に入れたんです。……でも、これを打つための火がここにはないのなら、私たちはどこへ行けばいいんですか?」

 

鍛冶師は無言で、工房の煤けた窓の向こうを指し示した。

 

その先には、宿場町を取り囲む山々のさらに向こう、分厚い暗雲に覆われて常に雷光が明滅している禁忌の領域――『竜鳴(りゅうめい)の峰』がそびえていた。

 

「あの峰の頂だ。東の大陸でも、あそこだけは万年、雷雲が晴れることはねぇ。……この石を溶かすことができる火があるとすれば、それは人間が炭を燃やして作る火じゃなく、天から降り注ぐ雷――すなわち『天の火』だけだ」

 

鍛冶師の言葉に、商人が思わず「無茶を言わんでください」と扇子を乱暴に振った。

 

「旦那、あそこは古の飛竜たちの巣穴ですぞ。東の帝ですら、軍を出すのを禁じている禁足地だ。生きて帰った者など、ここ百年は一人もおりません!」

 

商人の顔色は青ざめ、額からは脂汗が滲み出ている。

だが、オーンスタインの反応は全く違った。

 

彼は、商人の悲鳴じみた制止を無視するように、重厚な真鍮の装甲を軋ませて窓際へと歩み寄った。

その兜の奥に灯る残り火が、遠く、激しく明滅する雷雲の峰をじっと見据えている。

 

(……アソコ,、カ)

 

彼にとっては、武器の強化以上に重要な意味があった。

かつて共に竜を狩り、共に神の都を護った主君。

その主が愛した飛竜たちが集う場所であり、かつ、自分自身の根源でもある『雷』が支配する地。

そこに行けば、必ず主の痕跡がある。オーンスタインは確信に近い予感を感じていた。

 

しかし、鍛冶師の忠告はそれだけでは終わらなかった。

 

「……火の問題だけじゃねぇ。あの峰へと至る唯一の道、峻険な関所を塞いでいる『門番』の噂を知っているか?」

 

鍛冶師は、自身の太い腕を叩き、忌々しそうに顔を顰めた。

 

「いつから居座っているのかは誰も知らねぇ。だが、そこには山のような巨体を持った、全身が赤錆に塗れた『黒鉄』のバケモノが彷徨っているという。……妖怪とも魔物とも違う、ただ意志を持たぬ機械のように、近づく者を粉砕し続けているそうだ」

 

「黒鉄の、バケモノ……?」

 

小さな魔法使いが、不安そうにオーンスタインの黄金の鎧を見上げた。

 

「ああ。通称は『鉄の門番』。あるいは……」

 

鍛冶師は、通訳の商人を介して、その異名を慎重に告げた。

 

「――『竜狩りの鎧』」

 

その名を聞いた瞬間。

オーンスタインの周囲の空気が、パチリと静電気を帯びたように震えた。

亡者化しかけていた彼の意識の底、古びた戦いの記憶が激しく波打つ。

 

(……竜狩リノ、鎧……?)

 

脳裏に、かつての神の都の光景が過る。

神代の時代、空を覆う古竜たちに立ち向かったのは、己のような黄金の騎士だけではない。

 

分厚い大盾と巨大な大斧を振るい、雷の力をその『黒鉄の鎧』に纏わせて戦った、もう一人の恐るべき竜狩り。

同じ称号を持ち、同じように主君に付き従い、共に空を睨んだ、あの無骨で誇り高き戦友の姿。

 

鍛冶師は、オーンスタインの巨体をまじまじと見つめた。

 

「中身は空っぽだそうだ。蝶の羽のような奇妙な魔物が周囲を飛んでいるとも聞くが、本質はそこじゃねぇ。……そいつは、もう主もいないのに、ただ古い狩りの記憶と、何者かへの忠誠心だけで動き続けている。……いわば、自律機動する悲しき抜け殻だ」

 

「……あんたの黄金とは違うが、同じ『竜狩り』の称号を持つ西の騎士の成れの果てかもしれんな。そいつを越えない限り、天の火には辿り着けねぇぞ」

 

小さな魔法使いは、胸元の『獅子のペンダント』を握りしめ、オーンスタインの巨大なガントレットにそっと手を触れた。

 

彼の全身から、これまでにないほど強烈なソウルの波動が漏れ出している。

それは、悲しみと、過去の因縁を受け入れた者だけが放つ、静かで圧倒的な闘志だった。

 

(アイツモ、主(王)ヲ捜シテ……ココマデ来タノカ)

 

「……オーンスタインさん」

 

『……行カナケレバ、ナラヌ』

 

彼は短く、しかし鋼のように固い決意を言葉にした。

 

かつての戦友であったかもしれない抜け殻を、眠らせてやらねばならない。

その後にある天の火で再び槍を鍛え直し、主君の元へ辿り着くために。

 

工房の外では、いつの間にか強い風が吹き始め、山裾の木々を激しくざわつかせていた。

目的地は定まった。次なる戦いは、もはやただの魔物退治ではない。

竜狩りとしての自身の過去と向き合う、激しい闘いの予感が、暗雲の峰から静かに迫っていた。

 

---

 

第三部:相棒の誇りと、旅の支度

 

 

「天の火」に「鉄の門番」。

 

提示されたあまりにも険しい道のりに、工房を包む空気はぴりぴりと張り詰めていた。

だが、その沈黙を破ったのは、小さな魔法使いの凛とした声だった。

 

「……商入さん。出発は明日の早朝にします。それまでに必要な物資を全部揃えたいので、市場へ案内してください」

 

「お、お嬢さん? 本気ですかな。あそこは生きて帰れぬと言われる禁忌の――」

 

「本気ですよ。オーンスタインさんがあそこへ行くって決めたんですから、私はそれを支えるだけです」

 

小さな魔法使いは、腰に下げた革袋を軽く叩いて見せた。

中には、これまでの冒険で得た金貨が詰まっている。

彼女は不安を押し殺すように、努めて明るく、誠実な、そして頼もしく笑ってみせた。

 

「それに、あの『光る楔石』。辺境の街で彼が命懸けで手に入れたものなんです。あんなに綺麗な石が、いつまでもポケットの中で眠っているなんて、もったいないでしょう?」

 

その言葉に、オーンスタインは兜の奥で小さく息を吐いた。

過保護なまでに彼女を護ろうとする騎士の矜持。

それに応えようとする、少女の「相棒」としての意地。

かつての自分を救い出してくれた英雄を、今度は自分が目的の場所へと導くのだという強い意志が、彼女の瞳には宿っていた。

 

「……ハッ。西の娘さんは気が強ぇな」

 

東の鍛冶師が、面白そうに喉を鳴らした。

彼は自身の黒く汚れた腕を、オーンスタインの真鍮の肩装甲へと叩きつけ、豪快に笑う。

 

「おい、黄金の旦那。惚れ直したぜ。この娘さんに免じて、俺にできる限りの手助けはしてやる。……お前さんの装甲の緩みを締め直して、槍の重心を研ぎ直してやるよ。これくらいの『手入れ』なら、地上の炎でも十分だ」

 

鍛冶師の申し出に、オーンスタインは無言で頷き、長大な十字槍を預けた。

 

カン、カン、と。

金槌が真鍮を叩く甲高い音が、熱気のこもる工房に響き渡る。

その規則正しい響きの中で、オーンスタインの意識は、遠く古い神代の記憶へと沈んでいった。

 

――灰色の空。天を覆い尽くすほどの、巨大な古竜たちの群れ。

神の都を守護するための、終わりの見えない防衛戦。

 

その最前線には、常に一つの巨大な『黒鉄』の背中があった。

獅子の意匠を持つ己の黄金の鎧とは対極にある、一切の装飾を削ぎ落とした無骨で分厚い黒鉄の重装甲。

 

岩山のような大盾を構え、古竜の吐き出す灼熱のブレスを真正面から受け止める圧倒的な耐久力。

それに対し、ブレスが止んだ一瞬の隙を突き、天の雷を纏わせた大斧を振り下ろす豪快な一撃。

 

己の『槍』が神速の刺突で竜の鱗を貫くならば。

彼の『斧』は重烈な一撃で竜の骨ごと叩き割る、剛の極致であった。

 

言葉を交わすことは少なかった。

だが、背中を預け合うに足る、並び立つ『竜狩り』としての確かな誇りと信頼がそこにはあったのだ。

あの黒鉄の戦友もまた、主君への忠誠を胸に、果てしない戦いを続けていたはずだ。

 

それが今、中身を失い、何者かに操られる悲しき抜け殻として、あの雷雲の峰を彷徨っているというのか。

 

(……待ッテイロ)

 

オーンスタインは、兜の奥で静かに目を閉じた。

狂った因縁の糸を断ち切り、あの誇り高き鎧に、騎士としての安らかな眠りを与えなければならない。

 

「ちょっと、鍛冶師さん! そんなに乱暴に叩かないでください。……でも、よろしくお願いしますね」

 

小さな魔法使いの声で、オーンスタインの意識は現在へと引き戻された。

 

彼女は、鍛冶師がオーンスタインの武具を調整する様子を見守りながら、少しだけ頬を膨らませていた。

以前のような、他者が彼に触れることへの暗い嫉妬ではない。

「私の自慢の相棒なんだから、大事に扱ってよね」という、晴れやかな誇らしさがそこにはあった。

 

オーンスタインもまた、そんな彼女の様子を、どこか宥めるように巨大なガントレットで頭を軽く撫でた。

 

その後、一行は宿場町の市場へと繰り出した。

 

「これ、もっと安くなりませんか? まとめて買うんですから、勉強してくださいよ!」

 

市場の雑踏の中、小さな魔法使いの鋭い声が響く。

彼女はパーティーの「絶対的お財布管理者」として、商人相手に一歩も引かぬ値切り交渉を繰り広げていた。

 

竜鳴の峰の寒気と雷雨に備えた、厚手の毛皮の外套。

長期間の山行に耐えうる乾燥肉と、保存性の高い東の乾菓子。

そして何より、雨の中でも水魔術を安定させるための、魔導触媒の防水処理に必要な油。

 

西を識る商人が呆れ顔で「お嬢さんの交渉術は、西の市場でも通用しますな」と漏らすほど、彼女の立ち回りは逞しかった。

彼を護られるだけの存在ではなく、共に歩む対等な一人として。

彼女は自分の役割を完璧に遂行し、出立の準備を整えていく。

 

夕暮れ時。

宿に戻った二人は、分厚い石床の部屋で静かに出発の時を待っていた。

窓の外,、遠くに見える竜鳴の峰では、依然として不気味な雷鳴が闇を裂き続けている。

 

小さな魔法使いは、自身の魔術書を開きながら、明日の山行での魔力配分を必死に計算していた。

ふと、彼女は顔を上げ、槍の手入れを終えたオーンスタインを見つめた。

 

「……オーンスタインさん。あの『黒鉄の門番』……あなたの知り合い、なんですよね?」

 

少女の問いに、オーンスタインは無言で頷いた。

かつての戦友。同じ称号を背負い、同じ主君を仰いだ、遠き日の記憶。

 

『……眠ラセテ、ヤラねばナラヌ』

 

「はい。一緒に行きましょう。あなたが彼と向き合う時、私は後ろから全力で魔法を撃ちます。……私たちは、二人で一つのパーティーなんですから」

 

小さな魔法使いは、胸元の『獅子のペンダント』をぎゅっと握りしめた。

地獄に独り置き去りにされる恐怖は、もうない。

今の彼女の胸にあるのは、愛するオーンスタインと共に、神話の続きを見届けるという相棒としての矜持だけだ。

 

翌朝。

宿場町の人々がまだ深い眠りについている頃。

決意を秘めたオーンスタインと小さな魔法使い、そして顔を引きつらせた商人を乗せた一行は、雷鳴轟く禁忌の峰へと向けて、静かに出立した。

 

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