落日の竜狩り ―真鍮の鎧と主への誓約―   作:もいもい130

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第五話:【真鍮の矜持と白磁の道標】

 

 

## 第一部:瞳の言葉、浄化の奇跡

 

安宿の硬い寝床が、容赦なく全身の節々を突き上げてくる。

 

オーンスタインは、微かな寝返りを打とうとした瞬間、身体を走る鋭い痛みに、唇を噛んで低く唸(うな)った。

かつてアノール・ロンドの聖堂で、彼は数日、数週間と不眠不休で槍を構え続けることができた。神の血筋に連なる肉体にとって、睡眠とは「義務」ではなく「余興」に過ぎず、休息が必要なのは、常に彼が纏(まと)う武具の方であった。

 

だが、今は違う。

ソウルという黄金の潤滑油を失った肉体は、たった一日の行軍と戦闘で、ひどく重く、脆い「鉛(なまり)の塊」へと変質していた。

 

昨夜、彼は宿に入るなり、震える手で真鍮の鎧を一枚ずつ剥ぎ取った。

皮膚を焼き、筋肉を強張らせていた金属の重みから解放された時、彼は初めて、自分がどれほど「生身」の限界を削っていたかを悟った。寝台に倒れ込んだ彼は、鎧を手入れする余力すらなく、ただ自身の荒い息が静まるのを待つことしかできなかった。

 

朝の光が窓の隙間から差し込み、部屋を漂う埃(ほこり)を白く照らしている。

オーンスタインは、肌着一枚の無防備な姿でゆっくりと身体を起こした。節々が軋(きし)み、昨日の「雷(火花)」を放った際の反動が、今もなお神経の奥を針で刺すように痺(しび)れさせている。

 

彼は卓上に整然と並べられた真鍮の武具へと、這(は)うようにして手を伸ばした。

 

脛(すね)当て、籠手(ガントレット)、そして重厚な胸当て。

一つ一つの重みを確かめるように、己の弱りきった肉体へ再び「騎士の皮殻」を被せていく。

 

最後に、獅子の意匠を模した兜を両手で持ち上げ、深く、覚悟を決めるように被った。

 

ガシャリ、という金属が噛み合う冷たい音。

 

その瞬間、寝台にいた一人の「脆い男」は消え去り、辺境の街に降り立った「真鍮の騎士」が再び顕現する。

 

これが、この異空の地で彼が自らを律するための、孤独な儀式であった。

 

宿を出て、朝の冷気に身を晒すと、街はすでに「生活」の音で溢れていた。

市場から流れてくる家畜の匂い、荷車が石畳を叩く音。

 

オーンスタインは、昨夜の報酬で得た数枚の「銅貨」を握りしめ、治療院へと向かった。

救い出した少女の安否。それが、今の彼にとって、この世界での「最初の手柄」であり、己の存在意義を繋ぐ細い糸だった。

 

治療院の門前。

そこには、朝の柔らかな光を浴びて、白い壁に背を預けて立つ一人の影があった。

 

泥にまみれていた昨夜とは違い、清潔な麻の服を着せられた彼女――あの少女だった。

 

「……っ」

 

オーンスタインの歩みが、不自然に止まる。

彼女は、自分の足で立っていた。

 

頬はまだ削げ、瞳には深い恐怖の残滓(ざんし)が影を落としてはいるが、その輪郭には確かな「生」の力が戻り始めていた。

 

本来、小鬼(ゴブリン)の巣穴に捕らわれた者が、これほど早く立ち上がれることは稀(まれ)だ。

肉を喰らわれ、心を壊され、そのまま虚無へと堕ちていくのが、この世界の「理(ことわり)」である。

 

だが、彼女の場合は違った。

 

オーンスタインが、並の冒険者では到達し得ない速度で痕跡を辿り、その圧倒的な武技をもって、蹂躙(じゅうりん)が本格化する前に巣穴を粉砕したからだ。

 

発見が、致命的なほどに早かった。

 

たった数刻、あるいは数分の差。

竜を狩るために磨き抜かれた追跡の術が、彼女の魂をギリギリのところで引き留めていたのだ。

 

少女は、近づいてくる真鍮の巨躯(きょく)に気づき、肩を大きく震わせた。

無理もない。彼女にとって、鎧を纏った男という存在は、依然として死と暴力の象徴でしかない。

 

だが、オーンスタインが立ち止まり、その獅子の兜を静かに、しかし威厳を保ったまま下げた時。

 

彼女の瞳に、変化が生じた。

 

昨夜、地獄の暗闇の中で、自分を抱きかかえてくれたあの温もり。

真鍮の胸当て越しに聞こえた、神話のように力強く、規則正しい鼓動。

 

それらが、彼女の脳裏で恐怖を上書きしていく。

 

「……あ」

 

少女が、掠れた声で何かを口にした。

 

彼女は足を引きずりながら、オーンスタインへと一歩ずつ歩み寄った。

そして、彼の真鍮の籠手(ガントレット)に、恐る恐る、自身の小さな掌(てのひら)を重ねた。

 

冷たい、金属の感触。

だがその奥には、彼女を救うために振るわれた、あの熾烈(しれつ)な「火花」の余熱がまだ宿っているかのような錯覚を覚えた。

 

彼女は、雲の合間から顔を出した太陽を指差した。

 

「……た、い、よう」

 

彼女の唇が、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

 

オーンスタインは、その音を噛み締めた。

 

タイ、ヨウ。

 

意味はまだ正確には分からない。

だが、彼女が指し示すその光芒(こうぼう)は、かつて彼が一生を捧げて守護してきた、あの神聖なる「太陽の光」そのものだった。

 

この地でも、あの輝きは畏敬の対象であり、希望の名前なのだろうか。

 

オーンスタインは、言葉の代わりに、そっと彼女の頭に手を置いた。

 

巨大な掌は、彼女の頭を包み込んでしまうほどに大きかったが、その力加減は、かつて王宮の庭園で傷ついた小鳥を愛でた時のような、繊細な慈しみに満ちていた。

 

少女の目から、一滴の涙がこぼれ落ちた。

 

それは悲鳴を押し殺した絶望の涙ではなく、己が「救われた」ことをようやく確信できた、安堵の露。

 

オーンスタインは、彼女の背中を、治療院から出てきた修道女たちに託した。

彼女たちが、感謝と、反映を映すような「人智を超えた存在」への畏怖を込めた一瞥(いちべつ)を彼に投げかける。

 

彼は無言のまま、踵(きびす)を返した。

 

今、この瞬間。

彼は、ただ主(名も無き王)の背中を追うだけの「迷子の異邦人」であることをやめた。

 

この世界の言葉を識(し)り、この世界の理を学ぶ。

 

それこそが、主を探し、再び騎士としての「王道」を歩むための、唯一の道標(みちしるべ)になると確信したからだ。

 

真鍮の騎士は、朝の喧騒へと再び身を投じる。

 

掲示板に並ぶ依頼書の数々。

行き交う冒険者たちの囁き声。

 

それらの「音」が、少しずつ、意味を持った「言葉」として、彼の魂に響き始めていた。

 

---

 

## 第二部:槍の理(ことわり)、武の断絶

 

冒険者ギルドの裏手には、荒削りな石畳が広がる訓練場がある。

そこは、血気盛んな若者が技を競い、あるいは初陣を控えた新兵たちが死への恐怖を木剣(ぼっけん)にぶつける、鉄と汗の匂いが染み付いた場所だった。

 

その片隅、木陰の石段に腰を下ろし、オーンスタインは静かに「儀式」を行っていた。

 

膝の上に横たえられた、長大な十字槍。

彼は油の染みた布を使い、その複雑な装飾が施された穂先を、一点の曇りもないよう丁寧に拭(ぬぐ)っている。

真鍮(しんちゅう)と鋼が擦れる、規則正しい音。

 

昨日の戦闘でこびりついた小鬼(ゴブリン)の返り血や、無理に「火花」を通したことで生じた微かな煤(すす)を、彼は愛おしむように取り除いていく。

この槍は、彼にとって単なる武器ではない。

主(名も無き王)と共に古竜の雲海を駆けた、誇り高き過去そのものであった。

 

ふと、背後に気配が立ち昇った。

 

オーンスタインは手を止めず、ただ視線だけを僅かに動かした。

そこに立っていたのは、昨夜のギルドで彼を執拗(しつよう)に凝視していた男――「槍使い」だった。

 

男は、この辺境の街でも指折りの実力者として知られている。

使い込まれた軽装の鎧、鍛え上げられた前腕。そして何より、彼の手にある長槍の扱いには、数多の修羅場を潜り抜けてきた者特有の、無駄のない鋭さが宿っていた。

 

「……おい」

 

男が、低く、しかし野心と焦燥の入り混じった声で呼びかけた。

 

オーンスタインにはその言葉の意味は分からない。

だが、男が自身の槍を正しく中段に構え、その穂先を僅かに震わせながら自分を射抜かんとしているのを見て、すべてを理解した。

 

これは、言葉による対話ではない。

武を以(もっ)て相手の底を覗こうとする、戦士特有の無礼で、かつ純粋な「問い」であった。

 

オーンスタインは、ゆっくりと立ち上がった。

 

ガシャリ、という重厚な装甲の音が、訓練場に響き渡る。

周囲で訓練をしていた新人冒険者たちが、異様な殺気を察知して一人、また一人と手を止め、二人を遠巻きに囲み始めた。

 

白磁(ポーセリン)の板を下げた、黄金(真鍮)の新人。

そして、この街の「武」の象徴とも言える槍使い。

 

あまりに不釣り合いな対峙に、場には凍り付いたような緊張感が走った。

 

槍使いの男は、じりじりと間合いを詰めていく。

彼はオーンスタインの十字槍を見て、その長大さと重さに「扱いづらい玩具(おもちゃ)だ」と内心で断じていた。

狭い洞窟ならいざ知らず、この開けた場所ならば、取り回しの利く自分の槍が、あの鈍重そうな得物を凌駕(りょうが)するはずだ。

 

男が、一気に踏み込んだ。

 

空気を切り裂くような、鋭い一突き。

反映を描くように的確にオーンスタインの喉元を狙ったその速さは、観衆の目には一条の光の筋にしか見えなかった。

 

だが。

 

オーンスタインは、槍を振るうことさえしなかった。

 

彼が行ったのは、僅かな「歩法」のみ。

 

吸い込まれるような踏み込みに対し、彼は半身を僅かにずらし、槍使いの死角へと滑り込んだ。

男の穂先が、真鍮の肩当ての僅か数ミリ横を虚(むな)しく通り過ぎる。

 

「な……っ!」

 

槍使いの目に見開かれたのは、驚愕だった。

 

全力の突きを、これほど最小限の動作で、しかも「反撃の意思」さえ見せずに回避されるとは。

男は焦り、すぐさま槍を引き戻しようとした。

 

だが、その瞬間にはすでに、オーンスタインの「理(ことわり)」が完成していた。

 

オーンスタインは、脇に抱えていた十字槍の向きを、流れるような動作で変えた。

穂先を使うのではない。

彼が突き出したのは、槍の末端――重厚な真鍮の「石突き」だった。

 

ゴン、という鈍い音が響く。

 

槍使いの男は、何が起きたのか理解できなかった。

気づいた時には、喉元に、冷たく硬い金属の感触が押し当てられていた。

 

あと数ミリ、オーンスタインが踏み込んでいれば、その男の喉笛は木端微塵(こっぱみじん)に砕け散っていただろう。

 

男の槍は、完全に死んでいた。

長大な十字槍という獲物を、これほど至近距離で、しかも「杖」のように自在に操る神技。

 

沈黙が、訓練場を支配した。

 

槍使いは、額から一筋の汗を流し、自身を制圧している十字槍を凝視した。

 

自分が磨いてきた技術。

自分が誇ってきた経験。

 

それらが、目の前の男の前では、泥遊びに等しい稚拙な振る舞いに見えていた。

 

次元が、違う。

 

この男が使っているのは「武術」ではない。

それは、神々が巨大な竜を屠(ほふ)るために定めた、冷徹で、絶対的な「殺しの理」であった。

 

オーンスタインは、静かに石突きを引き、再び槍を自身の傍らに戻した。

 

彼には、勝ったという高揚感も、相手を見下す傲慢さもない。

ただ、手入れの途中に飛んできた羽虫を、無造作に払いのけただけ。

その佇まいは、戦士としての「敬意」すらも超越した、高嶺の存在そのものだった。

 

槍使いは、力なく槍を降ろした。

 

「……完敗だ」

 

言葉は通じなくとも、その男の折れた背中が、結末を雄弁に物語っていた。

 

周囲の冒険者たちは、言葉を失い、ただ去りゆく黄金(真鍮)の騎士の背中を見送ることしかできなかった。

彼らが今まで信じてきた「白磁級」という枠組みが、音を立てて崩れ去っていく。

 

この男は、この地の常識では測れない。

 

伝説の騎士は、再び石段に腰を下ろすと、何事もなかったかのように布を手に取った。

 

十字槍を、磨く。

 

かつての友たちが、あるいは主(名も無き王)が、この光景を見れば何と言っただろうか。

 

「……ふっ」

 

獅子の兜の奥で、微かな、本当に微かな笑みが漏れた。

 

主を探すための旅。

その足がかりとして、この世界の「武」を識(し)ることは、案外悪くない。

 

彼は、油に濡れた槍の穂先に、昇り始めた太陽の光を反射させた。

 

その輝きは、この泥臭い辺境の地においても、変わらず鋭く、そして気高く、周囲の反映を切り裂いていた。

 

---

 

## 第三部:第1章結末、主(あるじ)へと続く道

 

訓練場に漂っていた緊張の余韻が、ゆっくりと風に溶けていく。

オーンスタインは、再び独り、石段の上で十字槍の手入れを終えた。

 

彼は懐(ふところ)から、あの小さな金属の板――白磁(ポーセリン)の認識票を取り出した。

指先でなぞれば、安っぽい金属特有のざらついた感触が伝わってくる。

 

かつてアノール・ロンドの最盛期、グウィン王から直々に授かった「獅子の指輪」。あるいは、四騎士の隊長としてその胸を飾った、神聖なる黄金の勲章。

それらに比べれば、この白磁の板はあまりに軽く、あまりに脆(もろ)い。

この世界の法が定めた、最低ランクの冒険者という「烙印(らくいん)」に過ぎない。

 

「……ふむ」

 

オーンスタインは、獅子の兜の奥で低く呟(つぶや)いた。

 

栄誉など、今はもうどこにもない。

主(あるじ)を失い、次元の狭間を彷徨(さまよ)い、泥臭いパンを食らって食い繋(つな)ぐ。

今の自分には、この安っぽい白磁の板こそが、ふさわしい「名」なのかもしれない。

 

彼は、自らの槍を磨くために使っていた布で、その白磁の板にこびりついた昨日の返り血を、丁寧に、そして力強く拭(ぬぐ)い去った。

 

かつて竜を狩った誇りは、この小さな板の中に封じ込める。

今はただ、この世界で「生きている」ことを証明するための、唯一の身分証として。

彼はその板を、再び鎧の隙間へと大切に仕舞(しま)い込んだ。

 

ギルドの中へと戻ると、昨日までとは明らかに空気が違っていた。

 

入り口近くでたむろしていた冒険者たちが、黄金(真鍮)の騎士の姿を見るなり、一斉に道を空ける。

そこにあるのは、嘲笑でも、単なる好奇心でもない。

訓練場で一人の手練(てだ)れを圧倒した、あの底知れぬ「武」に対する、純然たる畏怖(いふ)であった。

 

オーンスタインは、騒然とする酒場を横目に、掲示板の前へと歩みを進めた。

 

そこには、一人の先客がいた。

 

汚れた鉄兜。

実用本位の革鎧。

そして、周囲の視線を一切介さず、ただ小鬼(ゴブリン)の依頼書だけを凝視し続ける、あの男。

 

**ゴブリンスレイヤー**だ。

 

二人の間に、言葉はない。

 

オーンスタインは、隣に立つ男から漂う「執念」を、冷徹に観察した。

それは、英雄の華やかさとは無縁の、ただただ一握の毒を根絶やしにするためだけに研ぎ澄まされた、呪いにも似た殺意。

 

対して、鉄兜の男は、隣に立つ巨躯から発せられる「オゾン」の匂いを、その鼻腔(びくう)の奥で捉えていた。

 

昨日よりも鋭く、そして静かに研ぎ澄まされた、破壊の気配。

男は、オーンスタインが掲示板に並ぶ小鬼の依頼をじっと見つめていることに気づき、反映を映すように短く、一言だけ口にした。

 

「小鬼(ゴブリン)か?」

 

その問いの意味を、オーンスタインはやはり正確には理解できなかった。

だが、男が指差した先に描かれた、あの醜悪な小鬼の姿を見て、彼は静かに、しかし力強く、獅子の兜を縦に振った。

 

手段としての殲滅を誓う者。

騎士道としての掃討を誓う者。

 

二人の歩む道は、決して交わることはないだろう。

だが、この瞬間、彼らは互いに「同好の士」ではなくとも、「同じ闇を払う怪物」であることを、沈黙の中で認め合っていた。

 

ゴブリンスレイヤーは、一枚の依頼書を無造作に引き剥がすと、そのまま受付へと歩み去った。

 

オーンスタインもまた、受付嬢(ギルドガール)へと近づいた。

 

彼女は、彼が差し出した白磁の板と、指し示された依頼書の内容を確認すると、晴れやかな、しかしどこか名残惜しそうな笑みを浮かべた。

 

「……受理いたしました。お気をつけて、真鍮の騎士様。あなたの武勇が、また誰かの『明日』を守ることを願っています」

 

彼女の言葉が、音の響きとして、オーンスタインの魂に優しく降り注ぐ。

 

ギルドを出ると、街は昼下がりの柔らかな活気に満ちていた。

門へと向かう街道の脇、治療院の二階の窓から、あの少女が身を乗り出して手を振っているのが見えた。

 

彼女の唇が、必死に動いている。

今朝、彼女が教えてくれた、あの言葉。

 

「タイ、ヨウ……!」

 

その呼びかけに応えるように、オーンスタインは、一度だけ十字槍を高く掲げた。

 

主(名も無き王)を追う旅は、依然として霧の中にある。

この世界が、かつての都とどう繋がっているのか、それすらもまだ分からない。

 

だが、彼はもはや、途方に暮れるだけの異邦人ではなかった。

 

この地にも、自分を待つ命がある。

この地にも、自分の武を必要とする闇がある。

 

そして何より、この地にも、あの「太陽」が、変わらぬ輝きを以(もっ)て自分を導いている。

 

オーンスタインは、街の門を潜(くぐ)り、広大な荒野へと踏み出した。

一歩ごとに、真鍮の鎧が陽光を反射し、眩いばかりの残光を石畳に焼き付けていく。

 

腰に提げた白磁の板が、風に揺れて小さな音を立てた。

 

それは、伝説の騎士が、この異空の地で「白磁の騎士」として再生したことを告げる、ささやかな祝砲のようでもあった。

 

主の影を追い、雷鳴の如(ごと)く世界を翔ける。

 

真鍮の騎士の「第一章」は、今、ここに静かに、しかし力強く幕を閉じた。

 

行く手の地平には、まだ見ぬ戦場と、語られるべき新たな神話が、夕闇の向こうで手ぐすね引いて待っている。

 

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