最近
side 障子
針目を初めて見たのは入試実技試験の会場前だった。小柄ながらに巨大なツインテールをしており、服装も俺や周りの受験生のようなジャージや運動服とは違い……何と言えば良いか分からないが、ピンク色のフリフリとした服を着ていたから嫌でも注目してしまう。
「ハイスタート!……どうしたあ!?賽は投げられてんぞぉ!?実戦にカウントなんざ無ぇんだよ!走れ走れぇ!」
プレゼント・マイクから試験開始のアナウンスはあまりに突然で、俺含めた多くの者は数秒固まった。
だが針目だけは飛び出した。俺達はそれに次いで駆け出した。
良くも悪くも彼女に注目していたから出来た事だ。でなければまだ混乱していただろう。
一部の受験生は負けじと食らいつこうと彼女に追いすがるが、そうしたところで見られるものはせいぜいガラクタの山がいいところ。恐らく増強型の彼女に対して俺は機動力も力も負けている。何より戦闘よりも索敵をする方が得意な個性だ。ビルを登り、屋上から全体の
仮想敵はこの会場に満遍なく散らばっており、ポイントの大きい仮想敵は比較的数が少ない。狙い目は3Pだろうが図体がかなり大きく見える。俺の力では難しいだろう。だから1、2Pを狙って倒す。そう方針を決めた時だった。
俺の複製した耳と目が、彼女を捉えた。
……蝶のように舞い、蜂のように刺す。こういえば良いのだろうか?あまり例え話は得意じゃないが、本当にそのようにしか言えない。
1Pと2Pの敵が挟み撃ちにしようと襲い掛かるが、それを針目は軽く跳んで避ける。次に胸元に手を入れたと思えば……そこからどう引っ張り出したのか理解できないが、服と似た装飾の
それに驚いていると既に2体の仮想敵の頭部が破壊されていた。彼女は残骸を振り返る事もなく次の標的に向かって行く。
……速いなんてものではない。下手すればそこらのポイントは彼女に総取りされてしまう。
俺はビルを降り、仮想敵が多くまだ人が集まっていないポイントへと足を進めた。
-----------
試験開始から5分以上は経過した頃、俺は20P近く稼いで次の仮想敵を探そうと複製椀を伸ばしていた。
「……地響き?」
ズン、という振動と轟音。まさか、とは思ったが……プレゼント・マイクが言っていた
……事前の説明では避けるべきギミックのような説明だったが、ああまで巨大だと俺では本当に逃げる以外の選択肢が取れない。周りの受験生も同様に逃げ始めた……のだが。
仮想敵は進行を止めた。止めたというよりは、その場で暴れ始めた。
既に周囲のビルは倒壊し、破壊する対象など少ない筈なのにその腕を振り回している。
何故か?その答えはすぐに
「ッあああもう!早く壊れなさいよ!」
針目だった。
あの巨躯相手に、傘一本で果敢に立ち向かっていた。あの傘何製なんだ?
跳び回り、巨腕どころか
何故数十メートルあるはずのビルより更に大きい敵相手に何の躊躇もなく戦おうと思えるのか。
恐ろしいとは思わないのか。
しかし、奮闘も虚しく彼女の攻撃ですら有効打になっていない。
いくら攻撃しても外装に多少の傷と
原因は単純に敵が大きすぎた。まるで寄って来る羽虫を追い払うかの如く、仮想敵は腕を薙ぎ払う。その一振りで俺のようなそこらの受験生は何人リタイアさせられるだろうか。考えたくもない。
-----------
『残り2分を切ったぜ!』
プレゼント・マイクのアナウンスが響く。それに呼応するかの如く彼女らの戦いも激しさを増し、その余波は俺達のいる場所まで及び始めた。
大きいものでは人間大の大きさを持つビルの瓦礫が飛んでくる。
「きゃー!助けて!潰される!」
砂埃が舞う中、背後から僅かに叫び声が聞こえた。声色から女子だろうか。
「
「ごめーん!こっち!個性で透明なの!」
「ッ!そこか!捕まれ!」
どうにかギリギリ見えたのは手袋だけが浮いて動いている姿。腕を伸ばして彼女の手を掴んだ。
……透明なのに手袋だけ見える、という事は……これ以上想像するのはやめておこう。
「ありがとう!助かったー!」
「どうして今まで逃げずに残っていた!危険だろう!」
「ギリギリまでポイント稼いで逃げるつもりだったけど間に合わなかったの!」
―――危険が及ばないであろう場所まで逃げてきた。もはや試験どうこうの心境ではない。残り時間も1分と無いので敵Pを稼ぐことは諦め、負傷した受験生を助けていた。
「あの子、大丈夫かな……」
「あそこで戦っているツインテールの女子か?」
「うん、あのでっかいロボットが出てきてからずっと戦ってるの。怪我とかはしてなさそうだったけど……」
土煙と破壊音は未だに収まらない。戦闘能力もそうだが、あれだけ戦い続けられる体力を持っている事にも驚きだ。
『試験!終了~!!!』
「あ!終わっちゃった……」
「音も止んだか。あの仮想敵、試験終了と同時に停止するようになっていたようだな。
……この辺りで大怪我している人は居なさそうだ、彼女の元に行こう」
「そうだね。めっちゃ強い子だけど心配だし……」
-----------
「あれは……」
「すご……」
視界は晴れ、まだ遠いものの彼女が見えた。
仮想敵は俯いた姿勢で停止していた。外装、特に頭部に大量の凹みが出来ており、破壊こそしていないものの見た目はボコボコだ。
対する針目は無傷。多少汚れが付いた程度で、息が上がっている様子もないが……少し哀愁を漂わせるような後ろ姿だった。
俺があれだけ脅威だと感じた敵とたった一人で戦い、無傷なのだ。透明化の女子が言う通り、凄いと言う他無い。
「とりあえず、怪我とか無さそうで良かった!」
「ああ……杞憂だったか」
「はいはいそこのお二人さん!怪我はしてないかい?」
「「!?」」
胸を撫で下ろした気持ちになったのも束の間、後ろから聞こえた声に二人して驚いた。そこに居たのは低い背の白衣を着た……恐らく受験生ではなく先生か?
後にリカバリーガールというヒーローだと知った。
「い、いえ。俺は特に……」
「私も大丈夫です!」
「だったら早く出口に向かいな、後ろの子達は治療してとっくに出てってるよ。先にいるあの子も私が診ておくから安心しな。あ、ハリボーお食べ」
「あ、ありがとうございます……」
「わー!ありがとうございます!」
イチゴ味のグミを手渡された俺達はそそくさと会場を後にする事になった。
この時は名前すら聞けずに終わってしまったな……
-----------
side 轟
障子が言っていた事に正直俺は半信半疑だった。増強型と言っても、その体格の小ささと軽さによるスピードが売りなタイプだと思っていた。
「あッははは!ほらほら!そんな氷じゃ僕は止まらないよ!」
「ッ!クソッ!」
まるで違った、改める。コイツは強い。
氷で拘束しようにも避けられるか、傘で
「はいっ!」
「ガッ!?……ゲホッ」
氷結と拳を躱されて、
……てかどっから出したその傘。さっきまで持ってなかっただろ。
障子がビルに入る直前に針目は武器を使うと伝えられたが、落下中は手にしていなかったから油断した。
「……へえ、倒れないんだ。結構頑張るじゃない」
「……」
ふざけんなと叫びたい気分だ。
障子に索敵をさせ、俺がビル全体を凍らせることで敵の動きを封じる。そして核を触りさえすれば勝てる算段だったが、針目の奇襲でそれは崩れた。
だから先に障子をビルの中に入れ、索敵。俺は外で針目を捕らえてから核を探す。もしくはもう一人を拘束するつもりで、咄嗟に考えた作戦だ。
『轟!もう一人の位置は分かった!
障子もそれは分かっていた様だが、今ビルに入れば肝心の針目がノーマークになる。中に障子が居る以上、場所が分かったところでビルを凍らせるのは愚策だ。
「悪い、針目が厄介すぎる。正直すぐには捕まえられそうに無ぇ」
「あれ、無視?」
『分かった……なら俺が行く。針目は任せたぞ』
「……ああ」
「おしゃべりは済んだ?じゃあ僕ともっと遊ぼっか!」
「お前に時間掛けてらんねぇんだよ……とっとと捕まれ!」
俺は再び針目に向かって氷を出すが、やはり簡単に壊された―――
「……は?何だ、それ」
「さっきから氷出すだけでつまんないからね。僕の方から趣向を変える事にしたのよ」
が、コイツの手に持っている物がハート形の巻尺のような物になっていた。そして
巻尺の帯をカチカチと伸ばして振り回し始めて……嫌な予感がする。
「さあ!今度は君が避ける番だよ!」
-----------
side 針目
さっきからテンション高すぎ?豹変しすぎ?何楽しんでんだ……だって?*1
演じてるだけだから!戦いを楽しんでるとか人をおちょくるのが好きなわけじゃないから!!!
だってオールマイトに敵の思考を学ぶって具体的にどうすれば良いのかを聞いたら、
『
これだもの。
僕には敵の思考どころか最低な敵だった時の記憶まである。というかそれが一番のノイズなんだけど……だったらいっそそれを真似てしまえば良い。
さて。避ける番、なんて言ったけどそうさせるつもりなんて毛頭ない。多分さっき入っていった障子君*2が探し始めてるだろうし。
本当は二人共ビル前で倒したかったけど、それよりも轟君の反応と指示が速かった。
更に面倒なのが、轟君がかなりタフ。僕に攻撃を仕掛ける時は単調というか大雑把なんだけど、僕の攻撃を受けても倒れてくれないししっかり反撃してくる。まあそれも大雑把だから対処自体は楽なんだけど、無視出来るほどじゃない。他の子達より戦い慣れていると言えば良いのかしら?
本当は捕縛テープをさっさと巻いてしまいたいけど凍らされると厄介。だから付かず離れずを徹底して一方的に攻撃できるようにしていた。
でも、しばらく戦っている内に見えてきた轟君の弱点。
彼、想像以上に戦える時間が短い。
氷を出してくる度に右半身に霜が降り始めて、徐々に動きが悪くなっている。まあ僕の攻撃を受けてるからってのもあるでしょうけど。あと何で右だけに霜が降りているのかは分からない。
「ほらほらほら!避けないと!もっと痛い目に!合うよ!」
「お前ッ!?グッ!」
僕は
……これを使うと纏博士のこと思い出すからちょっと気が引けるけど……かといってノウハウがあるものはよっぽどじゃなければ使わない理由無いのよね。
ついでに昨日
だから、彼の動きが単調になってきたのも相まって。
「はい!捕まえた!」
「ッ!?」
随分と簡単に轟君の腕と体を縛ることが出来た。ここまではただの真似事。
そして、ここからが応用。先生は縛った後、捕縛布を引っ張って相手を引き寄せていた。
……それを僕の全力で出来たなら?
「こっちにおいでよ!」
轟君を、彼の体が大きく反る勢いで引き寄せる。同時に僕は彼に向って飛び込む。
……思えば纏博士にも流子ちゃん*4にも、似たような事を
「凍れ!」
僕と轟君の距離が大きく近づく。やっぱり彼もこのタイミングを狙ってた。帯が凍り、僕の手元まで冷気が走る。
彼も僕も同じ、捕まえるためには近づかなきゃいけない。でも、違う所もある。
今、僕の両手は自由だ。
巻尺を放り投げ、胸元から捕縛テープを取り出した。轟君はぎょっとしたけどもう遅い。いくら冷気を纏おうが、彼が引き寄せられて地に足つかず、僕が飛び込んでいるこの状況。僕を凍らせられるだけ余裕は無いはず。
テープだろうと要領は何も変わらない。むしろ体のどこに巻き付けても勝てるのだから巻尺よりも簡単。
「―――これで君の負け……で、良いのかしら?」
「バケモンが……」
「そう言われるのちょっと心に来るからからやめて?」
「……悪い」
「……ただではやられてくれなかったわね」
彼の冷気の影響を極力避ける為に、左足にテープを巻き付けた。それでも僕の手先が凍っている。もう1秒でも長く彼に触れていたら腕ごと凍らされていたかもしれない。
とにかく。厄介な轟君はこれで止められた。尾白君にも伝えておきましょう。
「尾白君?聞こえる?轟君は捕まえたわよ」
『針目さん!?丁度良かった!たった今障子と接敵したところだ!』
「あー……時間かけちゃってごめんね?すぐそっち向かうから」
『分かった!』
……本当にあの時、同時に二人を倒せたら良かった。
前より酷く弱体化したことは、
「……」
僕は彼に勝った……はず。
なのに、どうしても僕は力不足を感じてしまう。
MHA×KLK. FILE. 01
Class No. 17
NUI HARIME
針目’s目・・・でかい。左目はちゃんとあるのでコスでもオフでも眼帯はしていない。目の中のニコニコマークもない。
針目’s髪・・・クソデカカール金髪ツインテ。*1デカリボンはコスでなくとも着けている。
針目’s耳・・・ハート形のピアス付き。コスでなくとも〃
針目’s腕・・・細い。目同様ちゃんと自前のもの。高次縫製師としての手先の器用さも健在。
針目’s体・・・小さい。A組内では2番目に身長が低い*2胸元に色んな物を収納できる。何でできるかは本人もよく分かっていない。できるからできる。
針目’s服・・・大体自分で作っている。ただしそうでない服も生命戦維を入れ込んで形状記憶程度の改造している。
針目’s傘・・・フリフリの日傘。布地は生命戦維入りなのでとても頑丈。名前は
↑コミックスの話の合間に挟まれる『U.A.FILE』的なノリで書きたかったやつ
読んでいただきありがとうございます。
相変わらず遅筆ながら頑張りました。初めての戦闘描写ですがいかがでしたでしょうか。
手探りなので書ききる事が出来たのは良かったです。あとは出来が良いかですが、それは私には分かりません。
これからも精進して書いていきます。
感想・質問・誤字報告などあれば是非よろしくお願いします。