<本編完結>親友のお隣さん~万の羽が彩るハッピーエンド~ 作:白豆男爵
ヤチヨカップ終了後、俺たちの身辺は激変した。
かぐや・いろPが優勝したことによるファン数の激増や注目度のアップ、案件の依頼やコラボの依頼とか、諸々のそういうことは関係なく、
「では、また後ほど。15分くらいで着きますので。」
「はい、向こうに二人いるんで、よろしくお願いします。」
単純に引っ越しを決行しているからである。
物件はいつぞやにかぐやが見せてきたあの看板物件。
これから新たな生活が始まると思うと緊張する。
今までは部屋が別という防波堤があったが、そんなものはもうなくなった。
より一層気を引き締めなければ。
ちなみに余談だが、彩葉が帝...いや、朝日さんに保証人の印鑑をもらいに行ったときに、あの一件についてきちんと謝ろうと思って同行した。
だが朝日さんは全然気にしていなかったようで、
・・・
「ええよええよ。あれくらい彩葉のことで怒ってくれる奴ならお兄ちゃん安心やわ。」
「お兄ちゃん、なんか勘違いしてない?」
「え?お前ら付き合ってるんとちゃうの?」
「なっ///付き合ってないから!」
「そうですよ。俺なんかじゃ彩葉と釣り合いませんって。」
「そうだったん。早とちりやったみたいやな。すまんすまん。」
「...釣り合ってないって、そんなことあらへんのに...」
「ん?なんか言ったか、彩葉。」
「な、何も言ってへん!ほら、行くよ!」
「ちょっ、そんな力強く引っ張らないで!」
・・・
と、そんな一幕もあった。
さて、話を戻して、俺は新居に到着していた。
「うおおおおおおおお、すごいすごい!」
「おい、あんまり乗り出すと落ちちゃうぞ。」
「眺めヤバッ!すっげー!最強になった気分...」
かぐやは滅茶苦茶嬉しそうだ。そんなかぐやを見てか、彩葉も少しばかり顔が緩んでいる。
「じゃあ、ちょっと買い物行ってくるから。」
「さみしーから一緒行く!」
「おい、俺じゃ不満かかぐや殿?」
「ちょっと、死ぬほど荷解きあるでしょ。万羽と一緒にちゃんと片付けてね。」
「はーい...」
二部屋分の荷物が大量に積まれている...というわけでもない。家電は二人のを比べて性能が良かった方だけを持ってきたし、俺の部屋は元々そんなに物が多くなかった。
そうして俺とかぐやは彩葉が帰ってくるまでに荷解きを進める...はずだった。
「かぐやー、この意味わからんトーテムどこに置...く...」
気づけば、気づけばである。部屋を見渡してもかぐやの姿はなかった。
「どこ行った!?」
まさか彩葉に付いていったのか?まったく、何も言わずに消えるとは...
女子の私物に手を出すわけにもいかないし...
「自分のと共有物だけ片づけておくか...」
俺は新居でひとり孤独に荷解きをするのであった...
私は駅前の激安スーパーに来ていた。
これから万羽と同棲...なんか緊張するな。
かぐや育て始めた時からほぼ同棲だったろって?それはそうだけど、気持ちの問題なのよ。
いざ住む部屋が同じってなると話が変わってくるわけよ。
悶々としながらカートを押していると、かぐやの好きなホットケーキミックスが目に入る。
「買って行ってやるか...いやいや、何考えてるんだ。」
「いーろはっ!」
「うわっ、どこから出た!てか荷解きは?万羽はどうしたの?」
「つまんないから飛び出してきた!」
「マジか...」
強く生きて、万羽。私は心の中で静かに万羽を鼓舞するのだった。
やがて買い物を終えて家に帰ってくると、かぐやはさっそく万羽にお叱りを受けていた。
「か~ぐ~や~?」
「な、なに?万羽。」
「どうして俺が怒ってるか、分かるかな?」
「...彩葉に付いていったから?」
「それもあるが、一番は
「分かった、もうしない...」
「分かればよろしい。次から気を付けること。」
...この万羽という男、めちゃくちゃ甘い。なぜなら怒っている原因は荷解きを放り出したことではない。あくまでも黙って私に付いてきたという点にある。
つまり裏を返せば申告すれば私に付いていくことを許可したということである。
(でろでろに甘やかしてんなぁ...)私はその光景を見ながらそんなことを考えていた。
今日の昼ご飯はかぐやの希望でパスタとなった。
さすがにキッチンに三人は狭いので、俺はソファーに座って待機する。
彩葉は製麺機を使って生地のシートを麺にしている。
だが楽しそうと思ったのか、かぐやに目を付けられたようだ。
「かぐやもそれやるー!」
「ちょっと、危ないって。」
「順番にやれ、順番に。怪我したらどうするんだ。」
二人は交代交代でハンドルを回し、最後の一回しは二人一緒に回していた。
やがてパスタはすぐに出来上がった。
美味しそうな匂いが食欲を刺激する。
「「「いただきます。」」」
三人一緒に手を合わせ、パスタを口に運ぶ。
「う~ま~♡」
「さすがかぐや。滅茶苦茶うまい。」
「一番、かぐや!ここ十年でさいこー!」
「「生まれて一か月だろ(でしょ)!」」
かぐやに対して俺と彩葉がつっこんで、みんなで笑っていた。
かぐやが来て、彩葉は明確に笑う回数が増えた。今まで見せることのなかった柔らかい表情も見せるようになった。
やっぱり、俺の予感は間違っていなかった。かぐやは見事に、彩葉の心の氷を溶かしたのだ。
かぐやと彩葉の信頼関係は、固く強いものになっている。
でも、俺は...
『信頼できる友達にくらい自分のことを打ち明けてもいいんじゃないかな?』夜になっても眠れず、リビングで黄昏れる俺の頭をヤチヨのアドバイスがよぎる。
結局俺の過去について、あの暴走事件について話せていない。
怖い。過去を話すことで彼女らとの関係性が変わってしまうかもしれないのが。
「ははっ、弱いなぁ...俺。」
以前までは絶対に吐かなかったであろう弱音。かぐやのいる生活は、俺の心にも影響を及ぼしているのかもしれない。
俺がそう逡巡していると、上の階から足音が聞こえてきた。いかんいかん、いつも通りに振る舞わなければ。
「あれ?万羽も寝れないの?」
「彩葉、まあそんなとこだ。」
「私も、明日コラボライブだって思うと緊張しちゃって。」
「彩葉とかぐやなら大丈夫だ。傍で見てきた俺が保証する。」
「ありがと。ちょっと楽になったかも。」
「「...」」
気まずい。さっきまでネガティブなことを考えていたからか、ダウナーな思考から抜け出せない。
やがてその静寂を破ったのは彩葉の声だった。
「ねぇ、何か隠してること、あるでしょ?」
「...分かるか?」
「分かるよ。いつも万羽の顔見てるから。」
それはかぐやが来た日の朝、俺が彩葉に放った言葉。
「...今は話せない。コラボライブの前日にこんな話...いや、これも言い訳だな。話したくないだけなんだ、俺自身が。」
「じゃあさ、約束してよ。コラボライブが終わったら、私たちに話して。万羽の秘密。」
「ちなみに、拒否権は?」
「問答無用~。私はちゃんと自分のこと話したんだから、万羽もにも話してもらわないと。」
「ははっ、いつの間にか図々しくなったな。」
「ちょっと、それどういう意味?」
「褒めてるんだよ。」
正直、ありがたかった。踏み出す勇気のない俺に、そのきっかけを差し出してくれたのだ。
やっぱり俺は弱い。彩葉に余計な気を遣わせてしまった。
「いつも助けられてるからさ。たまには私にも助けさせてよ。」
「...分かった。約束するよ。さあ、今日はもう寝よう。」
「うん、おやすみ、万羽。」
そうして俺と彩葉は自分の部屋に戻る。
違うよ、彩葉。いつも助けられてるのは、俺の方なんだ。
彩葉がいるから、生きてるって実感できるんだ。
自分の