<本編完結>親友のお隣さん~万の羽が彩るハッピーエンド~ 作:白豆男爵
残酷な描写があるので注意です。
追記:誤字報告ありがとうございます。八方美人と才色兼備を間違えるとは...精進いたします。
・・・
俺には幼馴染がいた。
幼稚園からの付き合いで家も近く、腐れ縁のような感じだった。
叶は昔から男女問わず人気だった。きれいに整った顔と鮮やかな黒髪は見る人みんなを魅了した。
まあ、他己紹介もこのくらいにして、本筋に入ろう。
俺と叶が中学生の頃の話。
叶は入学してすぐに人気者へ。容姿端麗、頭脳明晰、まさに才色兼備という言葉がふさわしい人物だった。
周囲に期待の目を向けられ、それに応えようと努力していた。
だが、中学生にもなれば負の感情を向ける者も多くなってくる。
特に一部の女子生徒からはよく嫉妬の目を向けられていた。
「なあ、叶はつらくないのか?」
「何が?」
「中学生になってから嫉妬とか恨みとか、そういう感情を向けられるのが多くなってるだろ。当事者じゃない俺でも分かるレベルだぞ。」
「大丈夫!誰でもそう思うことはあるし、私も慣れてるから。」
叶は大がつくほどのお人よしで、多くの人を惹きつける優しさを持っていた。その上、彩葉のように完璧であることにこだわっていた。昔からの彼女を取り巻く環境が、完璧な少女『深海叶』という偶像を作り上げ、叶はそれに準じようと生きていた。
「...なんかあったら話せよ、いつでも相談乗るから。俺たち、幼馴染だろ?」
「ふふっ、ありがとう。じゃあさ、私が落ち込んだり、危なくなったりしたら守ってくれる?」
「ああ、約束する。」
いつもの帰り道、何気なく約束を交わした。
俺はそれ以降、叶が傷つく原因となるものを徹底的に排除した。根も葉もない噂は広がる目前に沈静化させ、嫌がらせは事前に阻止。
だが、俺一人で動くのには限界があった。俺の見えないところで嫌がらせが横行するようになったのだ。
俺の努力も虚しく、叶は次第に衰弱していった。
毎日向けられるみんなの期待と敵意を一身に背負うには、その背中はあまりにも小さかった。
「叶、一回学校を休もう。親や先生にも相談して...」
「駄目っ!みんなに心配かけたくない...それに休んだりなんかしたら、もう期待に応えられない...」
「叶...」
周囲の期待が積み重なり、叶は完璧でない自分に価値を感じれなくなってしまった。叶はもうすでに壊れてしまっていたのだ。
優しすぎる彼女は敵意を糾弾することもできず、やがて中1の7月...彼女は一人でこの世を去った。
部屋で縄を首に括り付け、宙に浮いて動かなくなった叶を、彼女の両親が発見した。
幼馴染を守る。そんな小さな約束すら俺は果たせなかった。
それからの俺は、無気力だった。
何をするにもやる気が起きず、堕落した生活を送っていた。夏休みに入っていたのは不幸中の幸いと言うべきだろうか。
ある日、叶と同じところに行こうかと考えた。でも、その時思い出した。叶の両親から俺に向けた遺書を渡されていたことを。『気持ちの整理がついたらでいいから読んでほしい』と。正直気持ちの整理なんてつかなかったが、どうせ死ぬなら読んでからでもいいかと思った。
『万羽へ
相談もせず勝手に一人で行っちゃってごめんね。こんな形でしか言葉を残せない私の弱さを許して。
最初は大丈夫って思ってたんだけどね、みんなの期待に応える深海叶でいることに疲れちゃった。
万羽も、私を守ろうと必死になってくれたよね。私の見てないところで頑張ってくれてたの、知ってるんだから。
その優しさはとてもうれしかった。でも同時に、つらくもあったんだ。
私のために万羽が擦り減っていくのを見たくなかった。これ以上万羽に迷惑をかけたくなかった。
だから私は、この世を去る決断をしました。あっ、私のこと追いかけたらだめだからね?
それじゃあ、私の死が無駄になっちゃうからさ。万羽には自由に、私に縛られずに生きてほしい。
だからさ、一方的になっちゃうけど、約束して?
私のことは忘れて...幸せに生きて。
神崎万羽の幼馴染で親友の深海叶より』
やめろ、やめてくれ...叶、俺の生きる意味はお前だったのに。
お前を守るためならどんなことだってつらくなかったのに。
そんなこと、言わないでくれよ...
その約束は、俺にとって呪いになった。
どれだけ叶のいない世界で生きるのがつらくても、どれだけ自分の命を絶とうと思っても、叶の生きてほしいという願いが俺をこの世に縛り付けた。
それからの俺は、どんなに無気力でも、平静を装った。笑顔を張り付けた。
叶の願いである、『幸せに生きる神崎万羽』を演じるために。
・・・
「...何それ、万羽も、叶さんも、可哀そうじゃん...」
「そうだよ!万羽、叶のこといじめたやつ教えて!かぐやがぶん殴ってくる!」
「ありがとな、二人とも。でも、まだ話は終わってない。」
「えっ?」
そう、ここまでは神崎万羽という人物像の土台を作った出来事に過ぎない。
今の卑怯な俺を形作ったのはまた別の出来事。
「彩葉、お前と出会った日のこと、覚えてるか?」
「う、うん。過労で倒れた私を万羽が介抱してくれて...」
・・・
「ん...」
「お?目が覚めたか?」
キッチンで料理をしながら背後で起きた少女...酒寄彩葉に言葉を投げかける。
「うーん、ここは...私の部屋?じゃない...って誰!?」
「俺の部屋だよ。お隣の神崎万羽。廊下でぶっ倒れてたから仕方なく連れてきたんだ。すまん。」
「廊下で倒れて...?そっか、私倒れたんだ。ありがとう、介抱してくれて。」
「さすがにあれを見て見ぬふりは出来ないからな。ほら、口に合うか分からないけどよかったら食べてくれ。」
そう言って俺はおかゆを差し出す。
「...おいしい。」
「それはよかった。なあ、どうしてあんなところで倒れてたんだ?」
「多分過労...かな?最近バイトたくさん入ってたから...」
「バイトで過労って...どんだけ働いてんだよ。」
「だってそうでもしないとお金が足りないの。生活費も、学費も自分で稼いでるから。」
「...マジか。本当に高校生だよな?」
「ちゃんと同い年ですけど!?」
酒寄彩葉のことは知っていた。学校でも有名人で、どんな科目も完璧にこなす。
だがここまで超人だったとは。
「とにかく、今日はありがとう。いつかお礼させてもらうから。」
「ああ。またぶっ倒れないように気をつけろよ。」
そう言って俺は彼女を見送る。
それ以降、酒寄と関わって気づいたことがあった。
...似ている。容姿は整っていて、成績優秀、生徒たちにも人気で、どんなことにも手を抜かず、完璧であろうとする彼女は、叶にそっくりだった。
俺は叶の面影を酒寄に重ねるようになった。まるであの日から止まった時間が動き出したようだった。酒寄を友人として支えることで、生を実感できた。
・・・
「俺は彩葉を彩葉として見ていなかったんだ。叶の面影を重ねて、自分の生きる意味を作り出した。俺は卑怯者だ。」
「違う!」
「...彩葉?」
彩葉は珍しく大声を出して、俺の言葉を否定する。
「万羽は今も、私と深海叶を重ねてるの?」
「それは、多分違う...と思う。」
最近になって、彩葉と関わる機会が圧倒的に増え、叶の面影を重ねることは少なくなっていた。
ちゃんと、酒寄彩葉という一人の少女と接していたと思う。
「かぐやと万羽に支えられてきたから、今の私があるんだよ?だから、自分を否定するようなこと、言わないで。」
「そうだよ!かぐやと彩葉は、どんな万羽も受け入れるよ!」
「...ありがとう、本当にありがとう...!」
「万羽、泣いてる~。」
「泣いてない!男が泣くなんてみっともない...」
「ふふっ、これからもよろしくね、万羽。」
「ああ。彩葉、かぐや。」
叶、俺ちゃんと話せたよ。二人と本当の意味で友達になれた。
叶のことを忘れることなんて、できないと思う。でも、幸せに生きるって約束、ようやく果たせそうだよ。
俺は心の中でそうつぶやいた。三人で笑いあえる日々の終わりが近づいていることも知らずに...
万羽が一人暮らしを始めたのは両親に弱っているところを見られたくなかったからです。彩葉とお隣になったのは偶然です。