<本編完結>親友のお隣さん~万の羽が彩るハッピーエンド~   作:白豆男爵

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バグの名称について少し修整しました。


何気ない日常のために

かぐやの引退宣言はSNSで波乱を巻き起こした。

それはそうだろう。あれだけ注目を掻っ攫っていたかぐやが卒業するのだ。

ネットでは驚きや悲しみなどの声が相次ぎ、一部では真相語ります系や陰謀論系のネタにされているカオス状態。

なお、当の本人はというと...

 

「...何してるんだ?」

「蟹ビビらしてる。おらー、グーだぞー。恐れおののけ。」

「はい、俺がパー出したからあいこ。」

 

ちょっと悪ノリしてみた。

 

「あっ、乱入ずるいー!」

「ただいまー...何してんの?」

「おかー、蟹とじゃんけんしてたら万羽が乱入してきたー。」

「マジで何してるのよ...」

「すまんすまん、つい...」

 

己の行動を恥じる。こんな悪ノリするんじゃなかった。

 

「...ねえ、かぐや。卒業ライブするんだよね。」

「するよー。さあ正真正銘の真剣勝負だー。」

「新しい曲...作る?」

「え!?いいの?」

「うん。うまくできるかわかんないけど、どんなのがいい?」

「じゃあじゃあ、あの途中で終わってた曲!」

「途中で終わってた曲?」

「うん、ほら、これこれ。」

「だから人のPC勝手に開かないでって。」

 

どうやらコラボライブ前日の夜、俺と話す前に彩葉とかぐやでこの曲についてちょっと話していたらしい。

『タイトル未定(彩葉と共作)』と書かれている。

彩葉と共作って書いてあるってことは作ったのは彩葉じゃない?

曲を作れて、彩葉と親しい人...一人だけ思い当たった。

 

「これ...いや、なんでもない。」

 

俺はその結論を口に出すのをやめた。きっと俺の口から話すべきことではないと思ったから。

 

「分かった。じゃあちょっと、集中して作るから。」

 

そう言って彩葉は部屋に戻る。

 

「邪魔しちゃ悪いから俺も部屋戻るわ。うるさくするなよ?」

「りょー。」

 

そうして俺は部屋に戻って講習の振り返りをする。

しばらくすると、彩葉からメッセージが送られてきた。

『ツクヨミに来て。みんなも呼んである。』俺はそのメッセージを見て即座にツクヨミにログインするのだった。

 


 

「かあ~っ、かぐやちゃんが本当に月のプリンセスとは...わかるっ!」

「何が分かったんですか?」

 

俺と彩葉は現在、ツクヨミのミーティングルームにいる。

綾紬、諌山、ブラックオニキスのメンバー、それにヤチヨまでもが集合していた。

かぐやの事情を包み隠さず話すために。

口にすれば全部荒唐無稽な話でしかなかったが...

 

「築地生まれじゃなかったんだー。」

「海行っても肌真っ白だったもんね~。」

「電柱から生まれた...わかるっ!」

 

みんな各々に腑に落ちるところがあるらしく、すんなりと信じてもらえた。

 

「ヤチヨ、かぐやを守ることってできないかな。」

「うーん、調べてみたけど、どこからアクセスしてるかも分からなかったんだよね、ごめん。」

「いやいや、相手は宇宙人だし、仕方ないさ。」

「じゃあ、ライブも中止して、かぐやちゃんが一生ここにログインしないってのはどう?」

 

その意見は誰もが辿り着くだろう。でも彩葉曰く、月人は強引に現実のかぐやをログアウトさせるように攫って行ってしまう気がするらしい。

俺も同じ考えだ。

 

「かぐやは現実の電柱から生まれた。ツクヨミの方が近いってだけで、きっといざとなれば現実にも干渉してくる。」

「そっか...」

「なら簡単じゃねえか。わざわざツクヨミに来てくれるんだったらこっちで追い払えばいい。」

 

帝の言う通りだ。ツクヨミに来てくれるならこっちもツクヨミで迎え撃つだけだ。

 

「...私もやる。何ができるか分からないけど...お願いします。」

「俺からも、お願いします。」

 

そう言って頭を下げる彩葉に続いて俺も頭を下げる。

 

「よし!じゃあ準備だな、乃依。」

「えー、あれ?めんど~。」

「リーダーは絶対。」

「はーいはい」

 

黒鬼は早くも方針を固める。やはりプロゲーマーチームの団結は違う。

 

「来年も、みんなで海行こうね。」

「温泉もいこー!」

「...ありがと。」

 

さて、こっちはこっちで...

 

「ヤチヨ、ちょっと話があるんだけど...」

「なんだいなんだい?」

「あのバグ...あれを意図的に引き起こすことはできないか?」

「...前も言ったけど、あれは強い感情をトリガーとした本来起こらない挙動。いわば誤作動だよ。意図的に起こすなんて無理無理。」

「なら、抑制プログラムをアンインストールしてくれないか?せめて万が一にでも発動する状態にしておきたい。」

「...また自我がなくなるかもしれないよ?」

「かぐやを守れるなら安いもんだ。それに、いざとなったらまたヤチヨが助けてくれるだろ?」

「欲張りさんだなぁ~。分かった...ほら、アンインストールしたよ。無理はしないでね。」

「ああ、ありがとう。」

 

必要なトリガーは巨大な感情...前回は怒りだったが、正の感情でも引き起るのだろうか。

試しに目を閉じてみる。かぐやとの日々を思い出す。

波乱に満ちていて、それでいて楽しかった記憶。

そんな日々をこれからも紡いでいきたい。

かぐやを守りたい。その意思を固める。

 

「...嘘。」

「万羽、その姿...」

「え?」

 

俺は目を開ける。自分の手を見ると、赤い文様が刻まれていた。

背中を見れば、尻尾が三本になっている。

自我は...ある。ちゃんと自分の意志で体を動かせる。

 

「まさか制御しちゃうなんて...」

「これなら戦力増強に...っ!」

 

頭が痛い、眩暈がする。脳みそを直接揺らされてるみたいだ。

 

「万羽っ!?大丈夫?」

「あ、ああ。ちょっと立ち眩みがしただけだ。」

「本来の機能じゃないからフィードバックが激しいんだよ。使いすぎたら脳に負担がかかる。前回は自我がなかったからその分脳のリソースが多くて負担はあまりかからなかったみたいだけど...」

「三本でこれか。本番までにものにしないとな...」

「かぐやのためなのは嬉しいけど、それで万羽が倒れたら本末転倒だよ!」

「彩葉...ありがとな、心配してくれて。でも、かぐやを助けるために少しでも戦力を整えないと...」

「...じゃあ約束して。一つ、制御の練習は私の立会いの下行うこと。限界だと思ったら即座に中断するから。二つ、本番でも制御できた範囲までの機能しか使わないこと。」

「ヤッチョからも一つ。公開領域でバグを使わないこと。練習するならプライベートルームかトレーニングルームだけにしてね。」

「...ああ。分かった、約束するよ。彩葉に心配かけさせるわけにもいかないからな。」

 

そんな約束をしてこの場は解散となった。

綾紬や諌山、黒鬼からなにやら面白いものを見る目で見られていた気がするが...気のせいか。

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