<本編完結>親友のお隣さん~万の羽が彩るハッピーエンド~ 作:白豆男爵
万羽が倒れ、私はすぐに救急車を呼んだ。
搬送中もずっと私は万羽に付き添っていた。
搬送先で詳しい検査が始まり、その最中、私はずっと万羽の無事を祈っていた。
やがて検査が終わり、診断結果が出た。
『脳に深刻なダメージ。命に別状はないが、意識が戻るかは現時点で不明。また、後遺症が残る可能性あり。』というものだった。
まだ、生きている。最後の最後に九尾化を解いたのが功を奏したのだろう。
私は万羽が生きているという安堵と共に、万羽がずっと起きないかもしれない、万羽が今まで通りの生活を送れないかもしれないという不安に駆られていた。
私はただ、病室のベッドで横たわる彼を見つめていた。
「ごめんね、私がもっと強ければ、万羽に無理させることもなかったのに。」
言葉が、零れる。
「私がちゃんと止められていれば、こんなことにならずに済んだのかもしれないのに。」
涙が、溢れる。
私の傍で、ずっと支えてくれた人の手を握り締める。
「私、いつも助けられてばっかだ...私を介抱してくれたあの日から。」
万羽と共に過ごした時間が、万羽がずっと傍にいた思い出が溢れ出す。
いつも私のことを気にかけてくれたこと、海でナンパから助けてくれたこと、熱中症になった私に頼ることを教えてくれたこと、かぐやと一緒に慌ただしい日々を過ごしたこと。
いつの間にか、万羽が隣にいるのが当たり前になっていた。
記憶の中の万羽の笑顔が、眩しかった。
そっか、私...万羽のこと、好きだったんだ。あの日から、ずっと。
かぐやの時もそうだ。失いそうになって、初めて気づく。
「私、万羽がいないと寂しいよ...ずっと傍にいるから。だから万羽も、私の傍にいてよ...かずはぁ...」
そんな、誰にも届かない我儘を吐露するのだった。
それからほどなくして、万羽のご両親と会った。
病院から連絡を受けて急いでやってきたのだ。
「もしかして、酒寄彩葉ちゃん?」
「は、はい...」
「万羽から何度か話は聞いてる。放っておけない友達がいるんだって、あなたのこと話してた。」
「そう、なんですか...」
万羽に似て、優しそうな人だった。だからこそ、申し訳なかった。
「...ごめんなさい。私が万羽に守られてばっかりだったから...かぐやを守るために、万羽に無理させちゃったから...だから、万羽の意識がないのは私のせいで...」
「それは違うんじゃない?」
「えっ?」
「彩葉ちゃん、万羽の中学生の頃の話、聞いたのよね?」
「はい、叶さんのことですよね?」
「万羽はね、私たち以外に叶ちゃんのことについて話したことがないの。きっとそれだけ彩葉ちゃんを信頼してるってことだと思うわ。」
「かぐやちゃんの卒業ライブは僕たちも見ていたよ。万羽が最近よく一緒に配信しているライバーだったからね。詳しい事情は分からないけど、あんなに必死な万羽は初めて見た。万羽は自分の判断で君やかぐやちゃんを守るって決断をしたんじゃないかな。」
「...っ!...ぅぅ...あぁっ...!」
その優しさは、肯定の言葉は、今の私に染み込んでいった。
さっき流したはずの涙が、また溢れてくる。万羽のお母さんに抱きしめられ、その腕の中で泣きじゃくった。
「高校生に頼むのもあれだけど、万羽のことよろしくね、彩葉ちゃん。」
しばらく泣いた後、万羽の両親は仕事があるからと戻っていった。
気づけばもう朝日が昇る頃だ。
万羽が目を覚ますまで傍に居たかった私は学校を休んだ。
時間が経ち、学校が終わった頃だろうか。病室のドアが勢いよく開かれた。
芦花と真実だ。
「彩葉、大丈夫!?万羽君が入院したって聞いて...」
先生から万羽が入院していることを知らされ、私が無断欠席したこともあり、学校が終わってすぐにすっ飛んできたのだという。
「万羽の容体は安定してる。でも、いつ目を覚ますか分からない。後遺症も残るかもしれないって...」
「そんな...」
「彩葉は、彩葉は大丈夫なの?だって...」
「...かぐやがいなくなったことも、万羽が寝たきりなのも辛い。でも、今の私にできるのは、万羽を信じて待つことだけだから。」
弱音は、もう十分吐いた。涙だってもう流し切った。あとは、信じるだけだ。
「そっか、何かあったら連絡して!」
「私たちも力になるから!」
「うん、ありがとう。芦花、真実。」
私が感謝を告げた後、二人は病室を後にする。
「みんな万羽のこと心配してるんだよ?このまま帰ってこなかったら許さないんだから、バカ。」
私は眠っている万羽に向かってそう呟いた。
暗い、何も見えない。
俺は曖昧な意識の中、その暗がりをずっと歩いていた。
どこに向かっているのか、この歩みに終点はあるのかそんなのは分からない。
ただ漠然と目的もなく歩みを進めていた。
そんな時、道の果てが少し光って見えた。
あの光に辿り着けば、ゴールなのかな。
そう思い、俺はただ突き進む。
徐々に意識が鮮明になっていく。右手に、温もりを感じた。小さな手が力強く俺の右手を握りしめている。
ああ、そうか。また心配させてるんだ。
早く、目覚めなきゃ。
俺はその光に向かって走っていく。やがてその光に手を伸ばし、眩しい光に思わず目をつむる。
そうして目を開けるとそこには...
「いろ...は...?」
「万羽...?万羽っ!」
「うおっ!」
目を覚ました瞬間、彩葉が俺に抱きついてきた。
「バカっ!勝手に一人で飛び出して、無茶して倒れてっ!万羽までいなくなったらどうしようって、ずっと不安で...!」
「ごめん、心配かけたよな。約束破ってごめん。」
「本当だよ、心配だったんだからっ!もういなくならないって...約束して...!」
「ああ、約束するよ。この約束は絶対に破らない。」
彩葉の抱きしめる力が強くなる。
きっとそれだけ不安にさせてしまったのだろう。
でもそれはそれとして...
「あの~そろそろ離していただけると...」
「っ///ごめん!」
そう言うと彩葉はバッと離れる。
その後俺が起きたことは医者にも伝わった。どうやら三日も寝たきりだったらしい。
すぐに検査が行われたが、異常は何一つ見られなかった。担当医曰く、まったく後遺症が残らなかったのは奇跡に近いらしい。
そうして一日の経過観察を終え、俺はあっさりと退院することができた。
「久しぶりの我が家...ってほどでもないな。」
ただ、前に比べて圧倒的に静かだった。
改めて実感する。かぐやは、もういないのだと。
「万羽。」
「なんだ?」
「...おかえり。」
彩葉はそう言って俺の前に人差し指と中指を差し出した。
「ああ、ただいま。」
そうして彩葉と
俺たちは昼食を食べ、リビングのソファに腰掛ける。
「ねえ万羽。私、かぐやに言いたいことがあるんだ。」
「ああ。」
「私だって、もっとかぐやと歌いたかった。もっと話したかった。もっと遊んで、出かけて、色んな景色を見て、笑い合いたかった。」
「俺もだよ。」
「この思いを歌にしたい。『Reply』を完成させたい。」
『Reply』。かぐやが見つけた、途中で終わってた曲を形にしたもの。
だが、あの曲はワンコーラスまでしか完成していない。
「万羽。私のこと、手伝ってくれる?」
「もちろん。絶対に届けよう。」
そこから、俺と彩葉の共同作業が始まるのだった。
万羽のご両親登場です。名前はまだない。
万羽君は鈍感なので抱き着いた程度では気づきません(血涙)だれですかこんなくっつけにくいキャラ作ったのは。