<本編完結>親友のお隣さん~万の羽が彩るハッピーエンド~ 作:白豆男爵
『Reply』の続きを作るにあたり、俺たちはまず学校やバイト先、綾紬や諌山に連絡を入れた。
彩葉はけじめをつけるためか、長らく拒否していた母親からの着信を迷わず取った。
直接は聞いていないが、時々漏れ出てくる言葉だけでも、
『やっとではったね、根性なしが。』とか、『甘ちゃんやから話すの怖いもんね?』とか、『謝罪されて黙るようなやわな人間やない。』とか。
とにかく聞いていたよりもずっと厳格な人という印象だった。
彩葉は母に、自分は母の理想にはなれない、やりたいことを見つける時間が欲しい、と、そう言った。
彩葉の母親はそれを『甘い』と一蹴。
そこからはただの言い合いが始まった。二百キロ以上離れた親子喧嘩。
その末に、『ええよ、やってみ。』という言葉と共に彩葉の母親は電話を切った。
「万羽、私、ちゃんと言えた...」
「ああ、よく頑張った。」
それからようやく共同作業に入る。といっても俺は作曲に関しては疎いので、家事をしたり、綾紬や諌山が持ってきてくれたノートをまとめたりしていた。
歌詞に行き詰ったときはちょっとアドバイスしてみたり、
「なんかいい感じのフレーズないかな~。」
「それならこういうのとかいいんじゃないか?」
「確かに、ありがとう。」
ずっと寝てない彩葉を寝かしつけたり、
「ほら、無理して起きてないで今は寝ておけ。」
「あともうちょっとで思いつきそうなの。」
「そう言って一時間は経ってるぞ。早く寝なさい。」
そんな生活を繰り広げていた。
私、綾紬芦花は気になることがあります。
それは...
「いや〜、いつもノートありがとな、綾紬。」
目の前の青年、神崎万羽君のことについてです。
彼は今、曲を完成させるべく部屋に籠りっきりの彩葉の身の回りの世話をしています。
「いやいや、私にはこれくらいしかできないから。」
「そのこれくらいがありがたいんだよ。今お茶入れてくるから。」
「ありがとね~。」
私は彩葉のことが好きだ。友達としてではなく、恋愛的な意味で。
万葉君はどうなんだろう。
最初は隣人として彩葉と関わって、かぐやちゃんとの生活を経て、少し前から彩葉と同棲している。
そんな彼は彩葉のことを異性として好きなんだろうか。
よし、ここは思い切って聞いてみよう。
「ねえ万羽君、一つ聞いていい?」
「ん?いいぞ、なんだ?」
彼はお茶を口に含みながら聞き返す。
「万羽君ってさあ、彩葉のこと好きなの?異性として。」
「っ!?げほっ、ごほっ!」
「ご、ごめん!大丈夫!?」
「大丈夫。少し驚いただけだ...」
ちょっと直球すぎたかな...少し反省して万羽君が落ち着くのを待つ。
「ふう...それで、彩葉のことを異性として好きか、だったか?」
「うん、ふと気になっちゃって。もし答えづらいなら無理に答えなくてもいいけど...」
「そうだな...分からない、かなぁ...」
「分からない?」
「ああ。最初はさ、本当にただ放っておけなかったんだ。昔の友達と似てて、重なって見えて、そんな彩葉が心配だった。」
昔の友達...彩葉に似てるってどんな人だったんだろう。
ちょっと気になるけど、本筋からずれるのでそこは聞かないことにした。
「でも、最近になって彩葉とずっと近い距離で接するようになって、昔の友達と重ねた彩葉じゃなくて酒寄彩葉を支えたいって思うようになったんだ。」
...敵わないな。踏み込むのが怖くて足踏みしていた私なんかよりずっと、彩葉の隣を歩くのに相応しい人だ。
「俺は恋愛経験がない。だからこの感情がどっちなのか、俺には分らないんだ。」
「...きっと、異性としてなんじゃないかな。」
「そうなのか?」
「どっちを本音にするかは万羽君だよ?でも、支えたいっていう気持ちは、彩葉のこと異性として好きな証拠なんじゃないかなって私は思う。」
万葉君は知らないかもしれないけど、かぐやちゃんや万羽君と一緒にいるときの彩葉は本当に楽しそうに笑ってたんだよ。
「綾紬が言うなら、きっとそうなんだろうな。俺よりも先輩なわけだし。」
「ふふっ、何それ。」
「だって綾紬も彩葉のこと好きなんだろ?恋愛的に。」
「えっ、気づいてたの?」
「ああ、諌山が彩葉に向ける感情とはちょっと違う気がしたからな。」
変なところで敏感だな、万羽君。自分に向けられる好意には鈍感なくせに。
「うん、自分の気持ち、わかった気がする。ありがとう、綾紬。なんかすっきりした。」
「質問したのは私の方だけどね~。お役に立てたなら良かった。じゃあ私はそろそろ行くから。」
聞きたかったことを聞けた私は荷物を持って玄関に向かう。
ドアを開け、外に出る時、
「彩葉のこと、幸せにしてあげてね。万羽君。」
私はそう言い残してドアを閉めた。
「彩葉のこと、幸せにしてあげてね。万羽君。」
綾紬はそう言葉を残して去っていった。
笑顔だが、どこか寂しそうな表情だった。
きっと彼女は気持ちを伝えずに身を引くつもりなのだろう。
俺としては気を遣う必要も、自分の気持ちを押し殺す必要もないのに、と思う。
でも、それが綾紬の選択なら俺はそれを尊重する。
「任せろ、綾紬。」
俺は誰もいない玄関に向かってそう言い放った。
万羽の感情を知覚させるために芦花さんに立役者となっていただきました。