<本編完結>親友のお隣さん~万の羽が彩るハッピーエンド~ 作:白豆男爵
「...できた。」
「本当か!」
「うん、完成したよ!」
共同作業に入って数日、とうとう『Reply』が完成した。
俺たちは窓を開け、バルコニーに出る。
左半分を闇に隠した月の明かりが俺たちを照らす。
そこにいるんだろ?かぐや、聞いてくれ。
俺は左手で、彩葉は右手で銀のブレスレットを持ち、歌い始める。
「「──昨日の続き──喋りたかった──くだらなくても──ちょうどよかった──本音を聞かせて──ただ叶えてみたいから──」」
何度も、何度も繰り返し歌う。いつしか歌声は重なり、三人で歌っていた。
『彩葉、万羽!そんならかぐや、もう一回!』
かぐやの声がブレスレット越しに聞こえた気がした。
そこからも、俺たちは日が昇るまで歌い続けていた。
歌い終えた俺たちはリビングのソファーに腰掛ける。
「ねえ、『Reply』のメロディー、ヤチヨのデビュー曲...『Remember』と同じなの。」
「メロディーが同じ?」
それはおかしな話だ。だって『Reply』はかぐやの卒業ライブまで世に出ることはなかった。
たまたまかもしれない。でもなにか確信めいたものが俺たちの中にはあった。
「ヤチヨは、何かを知っている...」
彩葉も同じ考えのようで、すぐにツクヨミにログインする。
『ヤチヨは最近ドジョウ掬いを練習してるんだー。すっごく面白い踊りだから紹介するねー。じゃ、いくよ。あ、それっ♪あ、よいしょっ♪』
ログイン直後、ヤチヨの配信画面の放送が目に入る。
なんかよく分からん踊りをしているが...
「ヤチヨは配信してるぞ?いったん出直した方が...」
「いや、あれは再放送!今までこんなことなかったのに...」
「やっぱり何かあったのか...ん?」
今、視界の端で何か動いた気がした。
あれは...FUSHI!
「待て!なんであんただけで...」
「追うぞ!」
FUSHIはちょこまかと路地を駆け回り、やがて袋小路にたどり着いた。
「ようやく追い詰めた。」
「どこにいるか、教えて。」
「...」
「あくまでも答えない気か...」
「だったら私たちで探すよ。行こ。」
「バカタレ、どこを探すって?」
ようやく口を開いたかと思えば、どこを探すかだって?
そんなの、決まってる。
「「教えてくれないなら、世界中!」」
「...目を開けてみろ。」
FUSHIの言う通り目を開けてみると、現実にFUSHIがいた。
AR機能がONになってる。いつの間に...
「こっちだ!」
「ちょっ、着替えるから待ってよ!」
部屋着のまま出るわけにもいかない俺たちは私服に着替えて急いでFUSHIを追う。
FUSHIは現実世界を知り尽くしているかのようにすいすいと進んでいく。
角を曲がって坂を下り、電車を使って、辿り着いたのはとあるマンションの一室だった。
俺たちは意を決してその部屋に入ると...
「なんだ...これ...」
大量のPCと配線が張り巡らされた、サーバールームのような部屋だった。
その中心には水槽があり、中には謎のタケノコが浸っていた。
「ここからツクヨミに入れ。」
俺たちはFUSHI言われるがままログインした。
そうして目を開けると、見覚えのある場所だった。
ヤチヨの、プライベートルーム。
帝さんとの竹取合戦の後、バグについてヤチヨに告げられた場所だ。
「かぐや...?」
部屋の中心に座る人物に対し、彩葉はそう投げかける。
でも、振り返ったのは、
「ヤチヨ...」
ヤチヨであった。
「ヤチヨは、かぐやなの?変なことを言ってるのはわかってる。でも...」
彩葉はそんな疑問を投げかける。俺も、なんとなくそう感じていた。
時折見せる仕草、笑顔、言葉にはかぐやと似ているものがあった。
ヤチヨはそっと微笑み、立ち上がる。
「今は昔──」
そうしてヤチヨは語り始めた。このおとぎ話の真実を。
「月に帰ってバリバリ社畜してた、えらえらかぐや姫の所に歌が届きました。それはかぐや姫のために作られたかぐや姫だけの歌。」
歌...『Reply』のことか?
「かぐや姫は大喜び。それでもっかい地球に行こ~~って、お仕事爆速ですっかり片付けて引き継ぎも完了。ただ、地球の時間では大遅刻。でも、安心。月の超テクノロジーは時間も超えられます。時を超えて、地球に向かうかぐや姫。でも、もう少しの所で、でっか~い石に当たっちゃったの。」
俺たちは黙りこくってヤチヨの話を聞いていた。その情報を必死に理解しようとしていた。
「ヘロヘロになりながらやっとのことで辿り着いたのは、ざっと八千年前の地球でした。」
八千年...縄文時代あたりか?いや、そんなことよりもだ。それって、つまり...
「壊れた舟の僅かな力で、同行していた犬DOGEだけが体を得ました。たまたま近くを泳いでいたウミウシになれたのです。かぐやはウミウシを通してだけ、世界と交流を持てました。」
そんなの...あまりにも...
「時は経ち、人は見えないものを形にし、多くの人とつながる力を手に入れた。それは月の世界と少し似ていて、かぐやは初めて、魂だけの自分が世界と関われる可能性を知りました。そして、仮想空間ツクヨミの歌姫として再び彩葉と万羽に会うことが出来たのです。」
かぐやが...可哀想じゃないか...
「っっってぇー、これじゃあ手放しでめでたしめでたしとはならないか~~、やっぱ♪」
「...私たちと居たかぐやは?」
「今もまた、同じ輪廻を巡ってる...と思う。」
「思う?なぜ確信が持てないんだ?」
「結果は同じだよ。でも、ここに至るまでの過程は、私が見たものとはちょっと違うの。」
過程が...違う?俺たちの過ごした時間は、
「ヤチヨがかぐやだったとき、万羽は九尾化を使いこなせなかった。」
「っ!?使いこなせなかった...?」
「そう。
どこかで輪廻が崩れた?どこだ?きっとどこかに要因があるはずだ。九尾化を使いこなせなかった...その原因は...
「ヤチヨ。ヤチヨがかぐやだったころ、俺の過去を聞いたか?」
「...ううん、聞いたことない。私はヤチヨとして万羽の動向を調べたときに初めて、その過去を知った。」
「...やっぱりか。」
『信頼できる友達にくらい自分のことを打ち明けてもいいんじゃないかな?』
そのヤチヨの言葉は、確実に影響を及ぼし、ここに至るまでの過程を変えてみせた。
「ヤチヨ。どうして、俺にあのアドバイスをしようと思ったんだ?」
「どうしてだろ、分かんないな。心のどこかで期待してたのかもね。これで私じゃないかぐやが救われるんじゃないかって。でも、現実は甘くなかった。結局かぐやは連れ戻されて、そしてきっとまた、八千年前に辿り着く。輪廻は...決まったことはもう、変えられないんだよ。」
諦めるように、ヤチヨはそうは吐き出す。
俺たちの知っているかぐやならこんなこと言わなかっただろう。八千年という長い年月が、かぐやをヤチヨにしてしまったのだ。
それでも...
「俺は...諦めない。」
「えっ?」
「ヤチヨの踏み出した一歩が、俺にくれた言葉が、過程を変えた。だったら、結末だって変えられるはずだ。俺は、
「私も。このおとぎ話は、まだ終わってない。本当のハッピーエンドまで、付き合ってよね!」
俺と彩葉はそう言ってヤチヨに手を伸ばす。
「もう、これで終わってもいいって、思ってたのに...」
ヤチヨは、俺たちの手を取る。
「うん、行こう!私たち
俺たちは
「そうだ、八千年、あったこと全部聞かせてよ!私、寝ないから!」
「ええ?」
「俺も聞く。ヤチヨの見てきたもの、俺たちにも聞かせてくれ。」
「無茶言うねぇ~。ほっ!」
ヤチヨが手を払うように動かすと、今までいた部屋が以前住んでいたアパートの一室に変わる。
そこからは丸二日、ずっとヤチヨの話を聞いていた。
「そろそろおやすみなさいよ、二人とも。死んじゃう。」
「今江戸じゃん!まだまだ!」
「こっからが本番だろ?」
「ネムッテ!ネムッテ!」
「あっちゃ〜、ヤチヨの方が眠る時間だ。じゃ、おやすみ〜」
FUSHIのアラームを聞くと、ヤチヨの方が先に眠ってしまった。
「ずっとけらけら笑っちゃって、私みたいになっちゃったんだ。」
彩葉はヤチヨの頭を優しくなでながらそう言う。
「ねえ、FUSHI?ヤチヨが隠してること、あるよね?」
「...ヤチヨが言わなかったなら、それは...」
「見せてくれ、FUSHI。俺たち、かぐやの全部を見なきゃ。」
「人の体で耐えられるかわからない。」
「「問答無用」」
FUSHIはしばしの沈黙の後に...
「ヤチヨは...さっき久しぶりに、本当に嬉しそうだったんだ。」
「うん」
「ああ」
「行くぞお!」
FUSHIの目が赤く光る。ばらばらと部屋が壊れ、八千年の追憶が始まるのだった。
文字数多くなっちゃったのでここで区切ります。記憶見終わるくらいまでは行きたかったんですけどね...
実は何気ないヤチヨのアドバイスが輪廻を崩壊させていたという話。過去を打ち明け、トラウマを克服することによって九尾化の制御が可能になったんですね