<本編完結>親友のお隣さん~万の羽が彩るハッピーエンド~ 作:白豆男爵
ー2030/10/11ー
その日はすぐにやってきた。今夜は満月、かぐや奪還作戦の決行日だ。
集合場所はツクヨミ内の、かぐやの卒業ライブが行われた特設ステージ。その天守閣の頂上だ。
俺と彩葉は配信部屋で準備をしていた。
「いよいよだね、万羽。」
「ああ。ようやくかぐやを迎えに行ける。」
「大丈夫...だよね?」
彩葉はわずかに俺の服の裾を掴む。その手は震えていて、彩葉の不安が伝わってきた。
でも、俺はもう間違えない。自己犠牲なんて選択はしない。
「安心しろ。俺は必ず、かぐやと
「...!うん!」
そんなやり取りを経て、俺たちはツクヨミにログインする。
どうやら俺たちが最後のようで、みんなは既に集まっていた。
「ようやく来たな。」
「おっそ~、待ちくたびれたんですけど~。」
「かぐやちゃん連れて帰ってこれなかったら承知しねえからな?」
「応援しかできないけど、頑張って、万羽っち!」
「かぐやちゃんもいれて、みんなでパーティーしようね!」
みんながそれぞれ、俺に言葉をかけてくれる。
「来たね、万羽。念のため重要事項の確認。一つ、制限時間はあっちの時間で約10分。それ以上はゲートの維持が出来ないからなるべく急いでね。残り時間は視界の隅っこに表示させておくから。二つ、もしあっちで攻撃を受けてゲームオーバーになったらこっちでも本当に死んじゃうから、絶対にゲームオーバーにならないように。もちろん、負荷が大きくなっちゃうから九尾化は使わないでね。」
「大丈夫、全部頭に入ってる。ありがとう、ヤチヨ。」
「お安い御用♪それじゃあ、そろそろ開けるよ。準備はいい?」
「応、いつでも。」
俺の言葉を聞いたヤチヨがウィンドウを操作すると、目の前にゲートが出現した。
この先が、月の世界...
俺はそのゲートに向かって歩みを進める。
「万羽!」
「彩葉?」
「行ってらっしゃい!」
「...ああ、行ってきます!」
その返事と共に、俺は月の世界に足を踏み入れるのだった。
「ここが、月...」
ゲートを潜り抜け目に入ったのは、荘厳な屋敷のような建物だった。
周りを見る限り建物はこれだけのようだ。
「待ってろ、かぐや。」
屋敷の門をゆっくりと押し開け、中へ入る。
屋敷の中は異様に静かで、人の足音も、話し声も、何も聞こえなかった。
俺は中庭から一番上の階層を見上げる。直感だが、あそこにかぐやがいる気がする。
そう感じた俺は<
部屋は一つだけ。俺はその部屋の襖を静かに開く。
その部屋の中心には...
「かぐやっ!」
「万羽...?万羽!?」
俺はかぐやに駆け寄り、その体を抱き寄せる。
「なんで、なんで万羽がここに...」
「迎えに来た。帰ろう、かぐや。俺たちの家に。俺たちのハッピーエンドには、かぐやも必要なんだ。」
「そりゃあかぐやも戻りたいよ。でも、仕事まだ終わってないんだ。ちゃんと終わらせてから行かなきゃ...」
そんな会話をしていると、背後から気配がした。
あの時俺と戦った菩薩だった。
「久しぶりだな。なにも争いに来たわけじゃない。俺はただ交渉がしたいんだ。」
「...」
「かぐやの仕事の引き継ぎデータをそっちに渡す。だから、かぐやを地球に連れて行かせてほしい。」
「なんでそんなデータ万羽が持ってるの!?」
「今は説明してる時間はないんだ、後で話す。頼む、この通りだ!」
俺は菩薩に向かって頭を下げる。
顔をあげると、菩薩は静かにうなずいた。
「えっ、いいの?かぐや、今すぐに地球に戻っていいの?」
「...」
「やった!かぐや、地球に行ってもいいって!」
「本当か!?ありがとう!」
俺は菩薩にもう一度頭を下げ、かぐやと一緒に帰路につくのだが、屋敷中から警報が鳴る。
「おい、許可出たんじゃなかったのか!?」
「いやー、どうやらこれ以上脱走されないように脱走者自動捕獲プログラムを組んだみたいで...」
「まったく、そううまくは行かないか...」
俺は腰から銃剣を取り出す。
かぐやは今丸腰だ。俺が守りながらゲートに向かうしかない!
「かぐや、しっかりついて来いよ!」
「うん!」
俺はかぐやを庇いながらこちらに向かってくる兎の電子生命体を射撃で撃ち落とし、近寄ってきた奴らを剣で迎撃する。
勝利条件はかぐやを連れて脱出すること。
こいつらを倒すのは最低限でいい。ターゲットを間違えるな。
残り時間は約2分。時間はあまりない。
「かぐや、舌嚙まないように気をつけろよ!」
「えっ?」
俺はそう言ってかぐやを片手で担ぎ上げる。
ブースターを点火し、ゲートを直線状に見据える。
「ブースター、起動!」
「うおおおおおおお!?」
ブースタを使い、ゲートまでの距離を一気に縮める。
しかし、あと少しの所で大量の兎が俺たちの前に立ちはだかる。
「くそっ、あと少しなのに!」
俺が前に進めず足踏みしていると、後方から大量の矢が飛んできて、兎を一掃した。
後ろを見ると、月人たちが弓を構えて援護の態勢に入っていた。
「あれっ、助けてくれるの?」
「月人がちゃんと話通じる奴でよかったよ!」
交渉という手段を踏んだからか、ちゃんとこちらを援護してくれるようだ。
あと30秒、もう時間がない!
「かぐや!投げるぞ!」
「うん!えっ?」
「おりゃあああああ!」
俺は力いっぱいに抱えていたかぐやをゲートに向かって投げ飛ばす。
「わああああああ!?」
かぐやは無事ゲートにストレートイン。
後は俺が辿り着くだけ!俺は即座に
「<蒼炎一閃>!」
「届けええええええ!」
俺はゲートに向かって手を伸ばした。
万羽が月に行ってからもう9時間以上が経過した。
もうすぐ制限時間。私たちはずっとゲートの前で二人の帰りを待ち続けていた。
そして次の瞬間、
「わああああああ!?ぐえっ!」
ゲートからかぐやが出てきた。
「かぐや?かぐやぁっ!」
「彩葉?彩葉っ!」
私はかぐやを抱きしめる。かぐやが今、ここにいるのだと、実感する。
かぐやにまた、触れられる。
「そうだ、万羽は!?」
「かぐやのこと先に投げ飛ばして...まだあっちにいる。」
目の前のゲートはもう閉じかかっている。
「ヤチヨッ!」
「ごめん、彩葉。結構頑張ってるんだけど、やっぱり最初の制限時間で精いっぱいみたい...!」
「万羽...」
戻ってくるよね?もういなくならないって約束したんだから、帰ってくるよね?
私は心の中でそうつぶやいた。
そして、もうゲートが人ひとり通れるかくらいまで縮まった瞬間。
「うおおおおおおおっ!」
万羽が出てきて、ゲートが完全に閉じた。
「万羽!」
「ふう、約束通り、
万羽はかぐやと帰ってきた。
ちゃんと、私との約束を守ってくれた。
「...おかえり、万羽、かぐや。」
私がそう言うと、二人は満面の笑みで、
「「ただいま!」」
と、そう返すのであった。
ハッピーエンドまであと少し。物語の終わりまで、ぜひお付き合いください。