<本編完結>親友のお隣さん~万の羽が彩るハッピーエンド~   作:白豆男爵

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思い出の味

ー2036/7/12ー

今日はツクヨミの大型メンテナンス。一般のプレイヤーはその時間ログインすることはできない。

そう、()()()()()()()()は。

 

「本日は、ツクヨミ味覚実装記念、パンケーキパーティーを開催しまーす!」

 

ヤチヨが、高らかにそう宣言する。

今日は味覚実装の記念ということで俺、彩葉、綾紬、諌山、かぐや、ヤチヨの6人でパンケーキパーティーが開催されることとなった。

提案者は彩葉。せっかくならヤチヨに一番に味覚を感じてほしいという彩葉の計らいだ。

なお、俺たちがメンテ中もログインできているのは彩葉のサーバー関係者権限だ。

端的に言えば権利の乱用である。うちの所長の行動力、恐るべし。

 

「イェーイ!」

「てか高校の頃の制服じゃん。懐かしー。」

「そ、どうせならあの時の再現しようと思って。」

「かぐやが芦花と真実と出会った日ね!」

「うわっ、思い出してきた。かぐやが食べ過ぎて俺の財布がすっからかんに...」

 

思い出されるあの日。かぐやと綾紬、諌山の邂逅により大ハプニング。そしてかぐやの食欲により、俺の財布の偉人たちは瞬く間に消滅した。

 

「ごめんね、万羽?あの時は美味しくてつい...」

「あははっ、今日は財布の心配しなくても大丈夫だから。」

「それじゃあ、始めますか。」

 

彩葉がそう言うと机の上に続々とパンケーキが出現する。

味覚実装にあたり食べ物にもそれ相応のふじゅ~が要求されるようになるらしいが、今回のパンケーキはすべてうちの研究所の経費だ。

味覚機能の実験という名目で無理やり通したらしい。この6年で彩葉はずいぶんと図太くなった。

いや、目標のためにまっすぐというべきか。

 

「「ん~!うま~!」」

「ふふっ、二人とも同じ反応~」

「美味しい~!」

「まさかツクヨミで味を感じられる日がくるなんてね~。」

「義体製作の副次的機能とはいえ、喜んでもらえて何よりだよ。」

「さすが研究所の天才コンビですな~。」

「やめてくれ。彩葉はともかく俺はまだまだだよ。もっともっと努力しないと。」

「私たちからすれば二人とも天才だよー。」

「そうだよ!彩葉と万羽はすごいんだから!」

「なんでかぐやが得意げなんだよ...それにしても美味いな。」

 

卒業研究の一環だったが、我ながら良い機能を開発したものだ。まだ義体完成には程遠いが...

 

「そうだ、ヤッチョあのパンケーキ食べたい!」

「え!?あのっていうと...あれ?」

「うん、あれ。」

「あのパンケーキ?」

「おい、まさかあれじゃないだろうな...」

「そのまさかだよ、万羽。おねがい、彩葉♡」

「わ、わかったよ...」

 

そうして彩葉が料理機能を使い、やがてテーブルの上に現れたのは、かつての画期的貧乏飯『水と粉のパンケーキ』であった...

 

「...え?これがパンケーキ...?」

「彩葉こんなの食べてたの?」

「返す言葉もございません...」

「いつ見ても見た目が終わっている...」

「ほんとにこれでいいの?」

「ヤッチョはこれがいいの。」

「かぐやも久しぶりに食べるー!」

「あっ、ちょっ...」

 

ヤチヨに続いてかぐやも一口その料理...料理?をほおばる。

二人が口を揃えて出てきた言葉は...

 

「「くそまじぃ...」」

「でしょうね。」

 

あまりにも分かりきっていた感想であった。

 

「でも、懐かしい味。」

「ヤチヨ...よし。」

 

物は試し。その思い出の味とやら、俺も味わってみようではないか。

 

「いただきます。」

「ちょっ、万羽まで!?無理して食べなくていいって!」

「...んぐっ!?こ、これは中々...いや、でも...」

「だ、大丈夫!?」

「これはまずいとわかっていながらも彩葉の手料理をまずいと言いたくない悶絶だね~。」

「別に怒んないからせめて素直な感想言って?」

「...くそまじぃ」

「あ、まずいが勝った。」

「正直でよろしい。」

 

さすがにあれを美味いと形容することはできなかった。

 

「そうだ、彩葉。そろそろいいんじゃない?」

「うん、そうだね。」

 

彩葉はウィンドウを操作する。今日は味覚実装ともう一つ、別の五感が実装される。

ヤチヨも知らないアップデート。それは...

 

「ん、なになに?触覚が実装されました...?」

「ヤチヨ」

 

次の瞬間、彩葉はヤチヨを抱きしめる。

ヤチヨに隠れて開発を進めていたのは、触覚。

人の体に触れる温かさを、ツクヨミで感じられるようになった。

 

「やっと、感じられた。ヤチヨの温もり。」

「...たかい。あったかいよ...!」

 

それはヤチヨが望んでいた感覚。感じれることのなかった、八千年ぶりの人の温もり。

 

「ねえ、万羽もこっち来て?ヤッチョのこと、抱きしめて?」

「ああ、もちろん。」

「かぐやも一緒にやる!」

 

俺とかぐやも加わって、4人で抱き合う。

 

「ありがとう、彩葉。すっごく嬉しい。」

「喜んでもらえて何より。でも、まだまだここからだから。でしょ?万羽。」

「ああ、ヤチヨの現実の体を作り上げて、みんなでハッピーエンドにする。」

「うん!お願い、彩葉、万羽!」

 

きっとヤチヨの義体の完成にはまだまだかかるだろう。

それでも、待っててほしい。今感じられる感覚を必ず現実でも感じられるようにしてみせる。

俺は改めて、決意を固めるのであった。




今回はヤチヨお労り回でした。
ヤチヨだけ電子生命体な分普段あんまり絡ませてあげられてなかったので...
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