<本編完結>親友のお隣さん~万の羽が彩るハッピーエンド~ 作:白豆男爵
前回のより残酷なルートになってるのでご注意ください。
『駄目だよ、万羽。』
ふと気づくと、俺は真っ暗な空間に立ち尽くしていた。
そして俺の目の前に立っていたのは...
「叶...?」
もうこの世にいないはずの幼馴染、深海叶だった。
「どうして?それにここは...」
『ここから先は、駄目。それじゃあ、ハッピーエンドにならない。』
「叶...ごめん、それでも俺は、かぐやを守りたいんだ!」
俺はそう言って叶の幻影を振り払う。奥に広がる暗闇へと進んでいく。
この命がどうなってもいい。彩葉とかぐやの笑顔だけは、絶対に守り切る!
俺は目を開け、菩薩を視界の中心に据える。
「万羽!これ以上は...」
「ごめん、かぐや。でも俺には、これしか思いつかなかった。」
つんざくような痛みを感じる。脳が悲鳴を上げている。こりゃ本格的にヤバいな。
「彩葉のこと、頼むわ。」
「万羽っ!」
「ハアアアアアアアアッ!」
一歩を踏み出し、刹那。俺の剣と菩薩の斧が衝突する。
その結果...
「...!」
菩薩の身体は、塵一つ残らず消し飛んだ。
「今度は、守れた...」
その言葉を最後に、俺は意識を失った。
「かぐやっ!大丈夫!?」
「彩葉!かぐやは大丈夫だよ。でも万羽が、万羽がっ!」
「っ!」
私はとっさに万羽の方を向く。
最後の攻撃から、立ち尽くして動かない。
何か...様子がおかしい。
「万羽...?」
次の瞬間、万羽の体が消えていく。強制ログアウトだ。
「っ!?ごめん、みんな!先に戻るっ!」
私は下にいるみんなにそう告げ、即座にログアウトする。
かぐやも同様にログアウト。
目を開け、視界に入ったのは...
「...!万羽っ!しっかりしてっ!」
床に倒れ伏し、動かない万羽であった...
すぐに救急車を呼んだ。私とかぐやで、ずっと連れ添った。
検査中も、2人でずっと万羽の無事を祈っていた。
やがて検査が終わり、診断結果が出る。
『生きてはいるが、目を覚ます可能性は限りなく低い』
それが医者の出した結論だった。仮に目を覚ましても、ほぼ確実に後遺症が残るという。
それを聞いた私たちは、ベッドに横たわった、物言わぬ彼を見つめていた。
「ごめん、彩葉。かぐやのせいで、万羽が...」
「かぐやの...せいじゃないよ。私がもっと強かったら、万羽に無理させることもなかった...」
私たちはお互いに自分を責める。
命をかけてかぐやを守った。万羽にその選択をさせてしまった自分自身が許せなかった。
そんな生きた心地がしなかった、1週間。
その末に、万羽は、目を覚ました。
「万羽...?万羽っ!」
私とかぐやは彼を抱きしめる。しかし彼の口から出てきた言葉は...
「あ...う...ああ...」
「っっっっ!」
言葉ではない、なにかだった。
かぐやを守り抜いた神崎万羽の魂はもう、この世に存在していなかった。
彼の身体は、最低限生きる機能のみが残された、いわば抜け殻だった。
万羽の両親を説得して万羽を私たちの家に連れて帰った。いや、説得ではなく、懇願に近かったかもしれない。
償いの機会がなければきっと、私たちは壊れてしまうから。もしくは、もう壊れているのかもしれない。
「それじゃあ、行ってきます。お願いね、かぐや。」
「うん、かぐやに任しとき。」
そんな、どこか気力のない会話を交わす。
万羽は自立して動けないので、私たちが世話をしなければまともに生活を送ることもできない。
私はいつも通りに登校する。万羽が守ってくれた日常を壊したくなかった私は、いつも通りを振る舞い続けた。
笑顔を貼り付け、優等生の仮面をかぶる。
大丈夫、今までと同じ。優等生であり続ければいいだけ。
「おはよう、芦花、真実。」
そう、いつも通りに。
万羽は仮死状態になった。病院のデータを盗み見てそれを知った。
あの時、私は止めようとした。でも、間に合わなかった。
私がそこに辿り着く前に万羽の命は燃え尽きてしまった。
私が止めてくれるって、万羽は信じてくれてたのに、私はその期待を裏切った。
いつも大事なところでミスって、全部台無しにして...
「ごめんなさい、ごめんなさい...」
私は、誰もいないその部屋で、ただ謝ることしかできなかった。
「万羽、今日はシチュー作ってみたんだー。ほら、食べて?」
「あ...」
「おいしいでしょ?いっぱい作ったから、たくさん食べて?」
私は虚ろな目をする万羽に話しかけながら、シチューを食べさせる。
補助さえしてあげれば万羽は生きられる。
食べ物を口に入れてあげればちゃんと咀嚼して食べてくれるし、ベッドに運んであげればちゃんと寝てくれる。そして、いつも万羽が起きてた時間に目を覚ます。
これはきっと罰だ。
私のわがままで地球に逃げてきて、月人たちはそれを連れ帰ろうとしただけなのに。
万羽はそんな私を地球に残すために、その命をかけた。
だから今度は、私が万羽を助けなきゃ。これから先も、ずっと。
「今度はかぐやが、万羽を守ってあげるから...」
「あ...う...」
返ってくるのは、虚ろな返事だけだ。
「酒寄、工学部を目指すのか?」
「はい、やりたいことができたんです。」
私は先生にそう淡々と告げる。
目指す学部を工学部に変え、理転すると。
「そうか、それが酒寄のやりたいことなら、先生は応援するよ。」
「ありがとうございます。」
私のやるべきことは決まっている。
万羽を元通りにする。私たちを守ってくれた万羽の魂を取り戻す。
そのためなら、倫理がどうだろうが知ったことか。
私の道は、誰にも阻ませない。
それから私は流れるように東大の工学部に入学。
電子工学に関するあらゆる知識を網羅した。
一方、かぐやは資金繰りのために、持ち前の料理の腕を活かしてレストランを開店した。
万羽の世話もある都合、13時から17時までと短い開店時間であるにも関わらず、その料理に胃袋を掴まれた多くのお客さんで大繁盛だった。
「いいの?かぐや、万羽のお世話もあるのに、大変じゃない?」
「大丈夫。彩葉が万羽を取り戻すために頑張ってるんだもん。かぐやだってもっと頑張らなきゃ。」
あの日から、前までのかぐやの笑顔は消えた。
私と同じ、貼り付けた笑顔。
それでも、私たちは止まれない。
万羽を取り戻すことこそが、生きる意味なのだ。
さらに年月は経ち、東大を卒業した私は研究所を設立。
そして今日、ついに万羽の魂を取り戻す実験が行われる。
私たちが見てきた万羽の情報、インターネットに散らばる、ヨロズの情報。
この2つを脳に流し込み、万羽の人格復活を図る。
電子工学史上類を見ない、高度で、危険な実験。
失敗すれば万羽の脳は間違いなく焼き切れてしまうだろう。
それでも、何度も何度も実験を重ねてきた。私たちはもう、これに縋るしかないのだ。
「ついにこのときが来たね、彩葉。」
「うん、かぐや。取り戻そう、私たちの日常を。」
その言葉とともに、私は装置を起動する。
何本ものチューブが光り、万羽の脳へと収束していく。
「...ろは、か...ぐや...」
「っ!万羽っ!」
「いろは、かぐや...」
ついに、成功した。そう思った矢先...
「
イロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤイロハカグヤ
」
「彩葉っ、何か変だよっ!?」
「まずい、今すぐ中止して...」
「イ...ロハ...カグ...ヤ...............」
その言葉を最後に、万羽の体はピタリと止まった。
私の隣で心電図が警報を鳴らす。
それは、彼の肉体までもが、機能を停止した合図だった。
「嘘、万羽...」
「...ははっ...」
「彩葉...?」
その警報とともに、私の中で何かが崩れた。
「アハハハハハハハハハハハハハハハッ!」
「っっ...」
「全部!全部無駄だった!これまでかけたすべてが!守られてばかりで、万羽に頼ってばっかだった挙句、何も返せずにその命を奪った!償うことすらできなかった!」
「彩葉...」
もう、生きる意味を失った。ここから先は、地獄で償おう。
そう思った私は研究所のビルの屋上へと向かう。
「なに一人で行こうとしてるの?彩葉。」
「かぐや...」
「万羽には会えないかもしれないけど、私たちはずっと一緒だよ?」
「うん、ありがとう、かぐや。一緒に逝こう。」
その言葉を合図に、私たちは共に身を空に投げる。
最後に私の瞳に映ったのは、かぐやのあの日のような、輝くような笑顔だった。
九尾化最大出力の末に万羽が仮死状態になったルートでした。
最初は初っ端◯亡エンドで描いてたんですけど、私の精神が持ちませんでした。
月人は覚悟ガンギマリの万羽に免じて増援を送らない選択を下しました。
結果的にかぐやは苦しむことになるんですけどね。
考えてたルート分岐としては一旦この辺りですかね。また思いついたら書くかもしれません。