<本編完結>親友のお隣さん~万の羽が彩るハッピーエンド~ 作:白豆男爵
その後、俺と酒寄はかぐやを連れて店を出た。
あの二人には何とかごまかしがきいてよかったが...
「いやー、さっきの建物涼しかったねー。あれ彩葉の家でできないの?」
こいつ、一ミリも反省していない。
何ならさらに要求が出てきた。我儘のバーゲンセールかよ。
もちろん酒寄はたいそうご立腹のようで、
「正気!?なんで家から出てくんの!?正体ばれたらどうすんの!?」
「だってー、つまんないんだもん。」
「てか神崎君も!なんでかぐや連れまわしてんのよ!」
「えっと、校門をうろちょろしてたからどうにかして引きはがそうと思って...まさかああなるとは思わなったんだ。すまん。」
「...ごめん、ちょっと興奮しすぎた。」
「いやいや、酒寄の言うことはごもっともだから。気にする必要なんてない。」
「ねー、これどうやって使うの?」
そう言ってかぐやが取り出したのはスマコンだった。
「私のスマコン?持ってきた?」
「ううん、彩葉のノートPCで買えた。」
「...は?」
酒寄は絶句しながら自分のウォレットを確認する。
こいつまじか。スマコンって10万以上するぞ。酒寄の口座からそんな大金抜き取ったら...
「残高すっからかん...死ぬ気でためたんですけど...死ぬ気でためたんですけどっ!!」
「あ~...なんか銀行?のデータ書き換えれば数字増やせるっぽかったよ?やる?」
「「駄目に決まってるだろ(でしょ)!」」
そんな犯罪未遂やらなんやらがありつつ、無事?に帰宅するのだった...
「じゃーん!」
「こ、これは...」
酒寄の部屋に入るや否やいいにおいが漂ってきた。
まさかこいつが作ったのか?
でも昨夜はこんな食材冷蔵庫に入っていなかった。ということは...
「まさか、これもウォレットで...?」
「そだよ~。」
「...酒寄、金に困ったら言えよな。」
「大丈夫、また溜めなおすから...」
「はい、食べて!」
金銭問題に絶望している酒寄に対しかぐやはポタージュを強引に突っ込んだ。
まあ三人分あるようだしもったいないから食うか...
「なんなのよ、旨いじゃないのよ...久しぶりのおいしいごはんで、体が喜びに満ちていくじゃないのよ...」
「確かに旨いなこれ。料理初心者とはとても思えん。」
「えへへー、でしょ?」
「...悪魔。」
こんなクオリティのご飯は久しぶりに食べたのだろう。
絶望しながらも満足そうにご飯を食べる酒寄を見て、思わず笑みがこぼれた。
「あのさぁ、マジでここでは匿えないよ?」
「よし、できた!」
「人の話聞けよ。てか何?サイバー犯罪とかじゃないよね!」
「『犬DOGE』!これでいつでも一緒だって!」
酒寄の話を聞き流しながらかぐやは携帯ゲームキットでオリジナルキャラクターを生み出していた。
なんで生後5日目でプログラミングできるんだよ。
まずは常識を身に着けろ常識を...
「てか一生住む気満々かよ...」
「だって他に行くとこないし。もし捕まっちゃったらかぐや解剖されちゃうかも~。」
「じゃあ、迎えがくるまでね。」
「お。珍しく酒寄が譲歩した。」
「いいの!?」
「一、目立たない!「あっ、」ニ、許可なく外でない!「ゔっ、」三、私の邪魔しない!これが守れるならここにいていいよ。」
前言撤回。やはり酒寄は酒寄であった。
「じゃあかぐやは外にも出れず、楽しみもなく、すっとこのままってことー!?」
「自分でハッピーエンドにするんでしょ?巻き込まないで。」
「ええええ~?」
両者譲らない。そうして不毛な言い争いをしているうちに...
ピコンピコン、と酒寄の携帯のアラームが鳴る。
「酒寄、今日何かあったのか?」
「やばっ、もうこんな時間...予習終わらせるつもりだったのに...」
「何?どこ行くの?またかぐやを置いていくの!?」
「いやツクヨミに行くだけ...そうだこいつ...」
思い出したかのように酒寄はかぐやの方を向く。
そう、かぐやはスマコンを勝手に買ったのでツクヨミに行くことができる。できてしまう。
「連れてくか...あっ、あと食費は定額制!」
「増えた!後だしずるい!」
「ツクヨミに行くなら俺も行くよ。部屋に戻るから、ツクヨミで合流な。」
「えーっ!万羽もここにいてよ~。」
「流石にここでツクヨミに行くのは...」
「いいよ神崎君。そうしないとかぐや聞かなそうだし。」
「...分かったよ。酒寄がそういうなら...」
俺は自室からスマコンをとってきた。
正直まだ酒寄の部屋でツクヨミに入るのは気が引けるが、本人がいいというなら俺は拒否する手段を持ち合わせていない。
「いくよ...せーの!」
そうして俺たちは仮想空間ツクヨミへと意識を落としていくのだった...
「太陽が沈んで、夜がやってきます」
ふう、ログイン完了っと...
ツクヨミヘビーユーザーである俺と酒寄はエントリーを素通り。
久しぶりにツクヨミへ来た。この3連休は忙しかったからな。
俺は自分の姿に目をやる。
紅葉の意匠がはいった和服を着こなし、現実とは対照的な白い髪を靡かせている。
頭の上には狐の耳がついていて、尻尾は二本ついている。
やはり我ながらナイスデザイン...
対して酒寄は青を基調としたストリート風。同じく狐要素があるが、俺よりも耳は短く、尻尾も一本のみだ。
そして後ろの鳥居からもう一人の少女が現れる。
赤い和服に金髪、ウサギのような長い耳を垂れ流している。
「金髪、ギャルいかぐや姫...」
「あ、もしや彩葉!じゃあそっちは万羽だ!」
おいリアルネーム。
どうやらギャルかぐや姫にはネットリテラシーはないようだ。
「こっちではヨロズって呼んでくれ...歩く実名報道は困る。」
「えーなんで?彩葉は彩葉だし、万羽は万羽だよ?」
「そういう問題じゃなくてだな...てかその犬なんだ?」
「あっ、犬DOGE!連れて来れるんだ!」
何それ知らない。怖。
「とりあえず...かぐや、ヨロズ。いこ。」
「ああ、そうだな酒...いろ。」
ヤバい、俺も人のこと言えないかもしれない。
酒寄とはツクヨミではあまり会わないため思わず本名で呼んでしまいそうになる。
そうして酒寄と俺でかぐやを案内するのであった。
「あむっ...味しなーい!」
「味覚とかそういうのはまだ無理みたいよ。」
「なんか別の問題が発生しそうだしな。」
「...そういえばヨロズはライバーとして活動してるんだよね?私たちと居たりして大丈夫なの?その...いろいろと。」
そう、俺はヨロズという名前でツクヨミのライバーとして活動している。
ジャンルは主にKASSENなどのゲーム配信。たまに歌ったりもする。
自慢じゃないが知名度はそこそこあるといったところか。
「大丈夫だって。もしなんかあったらうまく言い訳するから。今はかぐやに純粋にツクヨミを楽しんでほしいんだ。」
「そっか、ありがとう。」
「ツクヨミ超楽しいよ、万羽!」
「だからヨロズで頼む...」
そうこうしているうちに酒寄が切り出す。
「時間だ、行くよ。」
そうしてついたのはライブ会場。
ここって...そうかチケット当たったって言ってたな。今日だったのか。
「いいのか?俺たちまで連れてきて。」
「いいの。同伴OKだから。せっかくだからヨロズも見て行って。」
「そういうことなら遠慮なく...」
『キタキタキター!これがないとツクヨミの夜は始まらない。本日もヤチヨミニライブの開演だあああーっ!』
その宣言と共にカウントダウンが開始する。
会場の声は一体となり、期待を高まらせる。
その期待はたった一人の電子の歌姫へ...
『5!4!3!2!1...0!』
その瞬間、鳥居の上にその歌姫が現れる。
「おまたせ!ヤオヨロ~!神々のみんな、今日も最高だった~?」
「よーし、今宵も皆を誘っちゃうよ☆Let's go on a trip!」
そうしてヤチヨのライブは幕を開ける。
「...すごかったな。」
終始圧巻だった。やはり生は違う。
パフォーマンス、歌声、何においても勝てる気がしない。
これが電子の歌姫、月見ヤチヨ...
「イェーイ!感謝、感激、雨アラモード!ヤチヨは果報者なのです。あ、ここでお知らせ!ヤチヨカップっていうイベントを開催しま~す!」
「参加資格があるのはツクヨミの全ライバー!一か月の間に最も新規ファンを獲得した人が優勝だよ。優勝者にはなんと、ヤチヨとのコラボライブの権利を進呈!」
「うっそ!?コラボォ!?」
「コラボライブって、マジかよ...」
「なにそれ、すごいの?」
「すごいも何も、配信のコラボはあったけど、ライブはいつも一人で歌ってたんだよ!?なに?だれとぉ!?」
「じゃあ彩葉、万羽!一緒にやろ!」
「俺はもうライバーとして活動してるから無理。」
「私も時間がないので無理ー。てか私らみたいなモブとやるわけないじゃん。こういうのは大体相場が決まってんの。」
酒寄さんや、あなたたちがモブならほかの人たちはどうなってしまうのだ。
なんだ?棒人間か?
そう思っていると、牛車ならぬ虎車がド派手に登場した。
そしてその中から登場したのはブラックオニキス。
雷、乃衣、そしてリーダーの帝の三人で構成されるプロゲーマーチーム。通称黒鬼。
「よう子ウサギども!お前らの帝様がきたぜ!」
黒鬼はアイドルとしても売り出しているため、人気もすさまじいものになっている。
俺のファンの数なんか比較にならないほどに。
酒寄はそそくさと俺を盾にして隠れる。何故...?
「また祭りが始まるな」
「俺って今日も作画良すぎ...でしょ?」
「俺たちに優勝してほしいよな?底なしの夢を見せてやるぜ!」
もうこの会場の熱気は完全に黒鬼が搔っ攫ってしまった。
流石、格が違うといったところか...
「というわけで俺たち優勝するからヤチヨちゃんコラボよろしくね」
「そういう運命ならもちろんヤチヨは従うよ~。最高なライブを約束するからみんなドシドシ参加してね!一緒にハッピーになってめでたししちゃお~!」
「しちゃう~」
「いろー、帰ってこーい。」
もう駄目だ。酒寄は機能していない。
ていうかあれ?かぐやは?
見回すと、かぐやが2歩3歩前にでて大きく息を吸っていた。
...まさか。
「すぅぅぅぅぅぅ...ヤチヨォォォォォォォォォォ!かぐやがヤチヨカップ優勝する!そんで絶対コラボライブする!いろh...むぐむぐっ」
「アンタはいつも勝手にっ...!」
今の大声で我に返ったのか、酒寄が急いでかぐやの口を塞ぐ。
もう時すでに遅しというやつだが...
「ほいでは!ライブは一旦ここでクローズ♪皆とちょこっとお話させてね。さらば~い!」
そう言うとヤチヨは分身してライブ会場に散っていく。
「じゃあな子ウサギども。いい夢見ろよ。」
黒鬼も終幕とともに去っていくようだ。
「ねえ彩葉、一緒にやろうよー。」
「アンタもう約束忘れたの?目立たないって言ったよね?」
「いやー、今のはさすがに面白いが勝ったなぁ...」
「ちょっとヨロズまで!?」
「私たちならできるって彩葉~。」
そうして俺たちが話をしていると...
「ムリムリムリ!小娘が!」
「こらっ。」
ヤチヨがこちらにやってきた。そう、酒寄が当てたチケットは握手券付きなのだ。
しかもこちらに来たのはミニヤチヨ。巷では条件不明のレア現象とされているらしい。
威嚇するFUSHIをヤチヨが制止する。FUSHIってこんなキャラだったっけ?
「お忘れかな?ヤチヨカップの参加はライバー限定なのです♪」
「そっか、じゃあかぐやライバーになる!そうと決まれば準備準備~。」
ヤチヨに言われ、かぐやは即座にログアウトする。
「じゃあ、俺も先に戻るから。後はごゆっくり~。」
そう言って俺もツクヨミからログアウトするのだった...
やばい、生ヤチヨが目の前にいる。
その事実でもう昏倒してしまいそうだ。うまく言葉が出て来ない。
「あのっ、いつもヤチヨに支えられてて...暗くて寒くて長いトンネルみたいな感じで...ヤチヨがいるから耐えられてるっていうか...」
何を言ってるんだ私は。
前後関係もあやふやな意味不明な文章になってしまった。
「えっと、き、今日はこれでっ「待って!忘れ物!」」
そう言ってヤチヨは私の手を握り締める。
「あっ、ありがとうございました!」
そう言って私は色んな感情をないまぜにしながらログアウトした。
「...来てくれてありがとう。彩葉、万羽。」
電子の歌姫は誰もいなくなったその場所でひとり呟いた。
ログアウトし、目を開けるとかぐやはノートPCでライバーのなり方について調べていた。
「早速やる気だな、かぐや。てか何で金髪のままなんだ?」
「えっ、だめ?じゃあえいっ、えいっ、」
髪の色がどんどん変わっていく。
俺はまだツクヨミにいるのか?
理解の範疇超えし宇宙人...
「でもやっぱこれっしょ~。万羽!どうやったらライバーになれるの?先輩ライバーとしていっちょお願いしますよ~。」
「そうは言われてもな...」
俺の場合、最初はKASSENをなんとなく配信してただけだし...
「とりあえず、自分のやりたいこと、やってみたいことをいろいろ試してみたらいいんじゃないか?」
「やりたいこと?」
「ゲーム、歌、ものづくり...何でもいいんだよ。自分のやりたいことをみんなに届ける。それがライバーだ。」
「ふーん...なんとなく分かった!」
そうしてかぐやはPCに向き直ってキーボードを打ち始める。
ほどなくして酒寄がツクヨミから帰ってくる。
金髪のかぐやに対して俺と同じ反応をしていた...
ここから超新星ライバー、かぐやの快進撃がはじまるのだった。
万羽のファン数は芦花真実よりちょっと多いくらいの想定。KASSENの腕については...実演までのお楽しみということで。