<本編完結>親友のお隣さん~万の羽が彩るハッピーエンド~   作:白豆男爵

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お隣さんとの軌跡

携帯のアラームとともに、私はいつも通りの朝を迎える。

といっても、昨日の夜はいつも通りじゃなかったけど...

自己管理をおろそかにして、過労で倒れてしまったところをお隣の神崎君に介抱されてしまった。

まったく、自分が情けない。

誰かに助けられてるようじゃ、いつまで経ってもお母さんみたいになれない。

そう思いながら私は外に出て家の鍵を閉める。

 

「あっ...」

「あ、おはよう、酒寄さん。」

 

噂をすれば神崎君がほぼ同時に扉から出てきた。

どうやら登校のタイミングが被ってしまったようだ。

てか今までよく会わなかったな。

入学して二か月...お隣同士、しかも同じクラスなのにもかかわらずまったく会う機会がなかった。

 

「昨日はその、ありがとう...」

「当たり前のことをしただけだよ...せっかくだし一緒に行くか?」

「え。う、うん...」

 

こうして私と神崎君は一緒に学校に登校するのだった。

 


 

俺は隣人の酒寄さんと一緒に学校までの道を歩いていた。

いや、正確には駅に向かってそこから電車に乗るわけなのだが。

昨日酒寄さんを介抱したが、倒れた原因はおそらく過労だという。

 

(...めちゃくちゃ心配だな。)

 

そう思った俺はいつもより家を出る時間を早め、酒寄さんとタイミングが被るようにした。

薄い壁越しに聞こえてくる生活音や、ドアが開く音から、俺よりも登校時間が早いのはわかっていたから。

こうして無理やりにでも酒寄さんと会話する機会を作ったというわけだ。

 

「なあ、どうして酒寄さんは自分で学費も生活費も稼いでるんだ?親からの援助すらないのは何か理由が?」

「あっ、それは、えっと...」

 

俺の質問に酒寄さんは言い淀む。

少し踏み込みすぎたか...?

 

「ごめん、ちょっと無神経だったな。言いたくないなら無理に言わなくていいよ。」

「あ、ありがとう...」

 

きっと何かしら事情があるのだろう。

気になったからといってすぐに聞くのは配慮が足りていなかったか。

そんな折、酒寄さんの方から話しかけてくる。

 

「ねえ、何かお礼させてもらえないかな?このまま助けられっぱなしは嫌というか...」

「お礼か。別にお礼してもらいたくて助けたわけじゃないんだけど...」

「そうしないと私の気が済まないの。さあ、何でも言って!」

「お、おお...」

 

思わずその気迫に少したじろいでしまった。

その顔には、どこか使命感というか、焦りが混ざっているようにも見えて...

 

『私は、みんなの求める深見叶じゃなきゃ...!』

(っ!)

 

突然、記憶がフラッシュバックする。

その姿は、在りし日の彼女と重なった。

だからこそ、そんな酒寄さんを放っておけないと感じてしまった。

 

「じゃあ、俺と友達になってくれないか?」

「...えっ?」

「お隣さん同士、これからも仲良くってことで。よろしく、酒寄。」

「そんなのでいいなら...よろしく、神崎君。」

 

俺が差し出した手を酒寄が握り返し、道端で握手を交わすのであった。

 


 

授業も終わり放課後、芦花と真実と会話していた。

 

「ねえ彩葉、噂されてるの、気づいてる?」

「えっ?そうなの?やけに視線を感じるとは思ったけど...」

「やっぱ気づいてなかったか...」

 

私のその答えに芦花と真実はやれやれ...と言わんばりに首を横に振る。

 

「彩葉が突然男子と一緒に登校してきたって噂になってるんだよ。」

「そうそう、今生徒たちの話題はそれで持ち切り。」

「あー...」

 

確かに神崎君と一緒に登校したけど、そんなに話題になる?

私の頭にそんな疑問が浮かんでくる。

 

「一部の人たちの間では付き合ってるんじゃないかって言う人もいたよ。」

「えっ!?つ、付き合ってないよ!?」

「本当~?実は彩葉にも春がきたんじゃないの~?」

「ほ、本当に違うから...!」

 

確かに、助けてくれた神崎君には感謝してるけど、別にそういう関係じゃない。

 

「彩葉は人気者だから、そこら辺自覚した方がいいよ〜?」

「いやいや、そんな事ないでしょ。フレンドリーな芦花と真実の方が人気だって。あっ、もうこんな時間。じゃあバイトあるから、またね、芦花、真実。」

「ダメだこりゃ...」

 

私は呆れたような真実の言葉を背に受けながら教室を出るのだった。

 


 

「神崎万羽君、だよね?ちょっといいかな?」

 

放課後、帰宅の準備をしていた俺に女子2人が話しかけてきた。

この人は確か...

 

「綾紬さんと、諫山さん?」

「そ、私綾紬芦花。よろしくね、万羽くん。」

「諫山真実だよ~。そんな堅苦しく呼ばずに、名前で呼んでくれてもいいよ〜?」

「いや、名前呼びはちょっとハードルが...さん付けなしで呼ぶから許してくれ...」

 

この2人、よく酒寄と仲良さそうに話してるよな。

多分、酒寄の友達か?

 

「それで、何か用か?」

「いやー、万羽くん、彩葉とどういう関係なのかな〜って。一緒に登校してきたって、話題になってるからさ。」

「あー、そういう...たまたまだよ。同じアパートの隣同士で、登校時間が被ったってだけだ。」

「へ〜、お隣さんなんだ〜。彩葉とは友達なの?」

「まあ、そうだな。つい最近のことだけど。」

 

出会った経緯は...まあ言わないほうがいいだろう。

彼女らに心配をかけさせてしまうかもしれないし、酒寄にとっても勝手に話されるのは気持ちのいいものじゃないだろう。

話しかけてきたのは、彩葉の友達として俺がどういう人物か気になるってところか?

 

「...ねえ、万羽君はさ、彩葉のことどう思う?」

「どう思う...とは?」

「彩葉と関わって思ったこと、率直な印象を聞かせてほしいの。」

 

印象か...まだ関係は浅いけど、登校中に話していてわかったことは一つある。

 

「突然フッって消えてしまいそう...って思ったかな。どこか、焦りと強がりが垣間見えるような...なんというか、心配になる。」

「...そっか。やっぱりそう思う?」

「やっぱりってことは、綾紬たちもか?」

「うん。だからさ、彩葉のこと心配なんだ。でも彩葉、全部一人で抱え込むから。万羽くんもさ、彩葉のこと気にかけてくれない?」

「お隣さんなら私たちのいないところでも支えられるでしょ?だから、お願い!」

 

そう言って綾紬と諫山は頭を下げる。

 

「頭を上げてくれ!言われなくても、もともとそのつもりだから。」

「本当!?」

「ああ、酒寄とは友達だからな。」

「ありがとう万羽君!これからよろしくね。」

「よろしく、綾紬、諫山。」

 

それと彼女らには言えないが、これは俺のためでもあるのだ。こんな考え方は卑怯だって分かってる。それでも...

その日から、酒寄彩葉のお隣さんとして酒寄を助けることに生きる意味を見出すようになり、止まっていた時間は動き出した。

 


 

お隣さんの神崎君と友達になってから早数週間。

彼は尋常じゃないくらいに世話焼きだということがわかった。

 

「なあ酒寄、晩飯作りすぎちゃってさ、よかったらもらってくれないか?」

 

「なんか困ってることとかないか?いつでも相談に乗るよ。」

 

「最近、バイトばかりじゃないか?たまには休憩することも大事だぞ?」

 

「コナトミズノパンケーキ...?それは食べられるのか?」

 

神崎君は何かと理由をつけて私を気にかけてくれる。

ちょっと過保護な気もするけど、同年代とのご近所付き合いってこんなものなのだろうか?

一人暮らしは初めてだから、よく分からない。

今は成り行きで一緒に下校をしているところだ。

私は率直に思った疑問を神崎君に投げかける。

 

「ねえ、神崎君はなんでそんなに私のことを気にかけてくれるの?」

「なんでって...友達だから?」

 

隣人の友達って、こんな感じなのか?

少なくとも、友達とは対等な関係であるべきじゃないのだろうか?

 

「私、神崎君に助けてもらってばかりで、何も返せてない。助かってるのは事実だけど、これじゃあ神崎君に迷惑じゃない?」

「うーん、でも俺がやりたくてやってることだからなぁ...」

「本当に?」

「本当だよ。酒寄を助けてると、生きてるって実感が湧いてくるんだ。」

「...何それ。変なの。」

「変か...確かにそうかもな。でも、これが俺だから。」

 

神崎君はきっと、誰かのためなら自分の身を粉にしてでも動ける人なのだろう。

お母さんはこういうタイプ好きじゃなさそうだけど、私は神崎君をすごいと思う。

自分のためではなく他人のために他人を助けられる人は、きっとそうそういないから。

 

「ありがとう。でも、もらった分は絶対に返すから。神崎君のお隣さんとしてね。」

「無理のない範囲でならな。これからもよろしくな、酒寄。」

 

そんな会話をしながら少し前に進んだ彼の背中は、普通の体型のはずなのに、とても大きく見えた。

そして彼が振り返った時の笑顔を見て、心臓の鼓動が少しだけ速くなったような気がした。




本編の前日譚?的なエピソードでした。
出会った頃から万羽は彩葉に対して過保護全開だったわけですね。
本編はめっちゃノリで描いてたので、本編との齟齬とかがあったらすみません。
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