<本編完結>親友のお隣さん~万の羽が彩るハッピーエンド~ 作:白豆男爵
それからかぐやによるライバー活動が始まった。
初配信はお世辞にも上手とは言えない一枚絵、不安を煽るジングル、十数秒で終わる配信、終いにはインカメになりかぐやの顔と部屋の一部が映るという情報量が大渋滞のスタートを切った。
だがそれらの強烈なインパクトやヤチヨのライブ会場で目立っていたのも相まって意外と再生数は回っていた。
そしてかぐやは爆発的にファンの数を増やしていく。
彼女のハングリー精神はとどまることを知らず、二番煎じなど、かぐやには関係ない。
やりたいと思ったらやる。その怒涛の勢いは多くの人を引き付けた。
一方酒寄はかぐやの押しに負け、プロデューサーとして活動することになった。
チャンネル名はかぐやいろPに改められ、酒寄の作った曲をかぐやが歌うことによって更なる需要を満たしていった。
まさに無敵のコンビと言わんばかりにランキングが上昇。既存のライバーたちに大きく食いついていた。
夏休み中盤の現在、芦花や真実の手助けもありランキング順位は180位。
半月で8000位からここまで来たのは正直すごい。だが、かぐやが目指すのは優勝。まだまだ遠い道のりだ。
かぐやは海に来ても、スマホに表示されているランキングとにらめっこしていた。
「ぐぬぬ、まだまだ足りない!どうすればいいのだー!」
「こないだの歌配信めっちゃよかったけどねー。」
「ねー。かぐやちゃん、ゲームも歌もうまいよね。」
「まさに天性の才能だな。」
「天っ才、歌姫ですから。でも優勝したい~!どうすればいいのだ~!」
俺は酒寄、綾紬、諌山、かぐやとともに海に来ていた。
いや、最初は女子だけで行けばいいと断ってたんですけどね?
かぐやの押しには勝てなかった。どうやら俺も同類らしいぞ、酒寄殿...
「やはりここは彩葉が着ぐるみを脱ぐことによって新たな需要をだね...あーっ!今の噓!ごめんなさいぃぃ!」
「配信で着ぐるみはぜったいに脱がないから!」
諌山の提案に対して酒寄は罰と言わんばかりに諌山の焼きそばを啜りつくす。
「今更だが俺も来てよかったのか?」
「なんで?万羽が来ちゃいけない理由ないじゃん。」
かぐや、違う。そう言うことじゃないんだ...
「私たちは万羽君のこと信頼してるからね~。」
「それにナンパ避けにもなるし~。」
「神崎君のこと誘わない理由ないし...それにマジのエリートは遊びもおろそかにしないはず、睡眠時間削ってでも遊ぶ!」
「倒錯してるなぁ...」
「ねえねえ万葉君、私たちの水着、似合ってると思う?貴重な男子の意見が欲しくてさ~。」
「あ、私も気になる~。どうなの万羽っち。」
「ん?ああ、皆似合ってると思うぞ。全員可愛いし、素材がいいからかな。」
「よくそんな堂々と言えるよね。少しは恥ずかしくなったりしないの?」
「事実を述べることに何を恥じる必要があるんだ?」
相変わらずよく分からんことを言う。
しかしかぐやはそんなことそっちのけである。
「ねぇ彩葉~新曲作ってー!万羽もかぐやの配信出てよ~!」
「新曲なんて作ってる時間ないって...」
「男の俺が出たらいろいろ騒ぎになるから却下。」
そう、俺なんかがかぐやの配信に出たら炎上待ったなしだ。
かぐやの男性視聴者に焼き殺される未来しか見えない。
しかしその瞬間、かぐやは目を潤ませる。ヤバい、あれがくる!
「このままじゃ優勝できない...かぐや、彩葉と万羽に助けてほしぃ...」
負けるな俺!断るんだ!これはかぐやの未来のため...
「じ、時間があったらね...」
「ま、まぁちょっとくらいなら出てやらんこともない...」
「よしゃー!もっともっと配信するぞー!」
「「なぜ断れない...」」
「二人そろってちょろは~。」
「ちょろはだね~。」
くそっ、あの二人、他人事だからっていい気になりやがってっ!
そうして、酒寄と俺は海の家まで来ていた。
酒寄は飲み物を買いに、俺はお手洗い兼ナンパ避け要員だ。
お手洗い行ってる途中にナンパされるなんてことはないだろうと思っていたのも束の間、俺が出てきたときにはすでに酒寄は男二人組に絡まれていた。
「ねぇ、キミ、可愛いじゃん。俺らと遊ばない?」
「あの、友達と来ているので...」
「そんなこと言うなって。ちょっとだけだからさ~。」
「ちょっ、離してください!」
その瞬間、何かがプツンときれる音がした。
自分の内からどす黒い怒りがこみあげてくる。
俺は即座に酒寄のもとへと向かい、その男の手を振り払う。
「神崎君っ!?」
「俺の連れに何してんだよ、お前ら。」
「あ?なんだお前。今いいとこなんだけど。」
「失せろ。これ以上しつこいと何するか分かんねぇぞ...」
「じゃあ教えてくれよっ!」
そう言って目の前の男は俺に拳を振りかぶる。
だが日ごろからKASSENをやっている俺にとって、あの日から必死になって人を守る力を身に着けた俺にとって、それはあまりにも遅すぎた。
逆に相手の腕をつかみ、柔道の要領で背負い投げをかます。
「遅ぇよ。」
「がっ!?」
「で?お前もやるか?」
「すっ、すすすいませんでしたぁぁぁ!」
後ろにいたチンピラ2号は怖気づいたのか倒れた1号を連れて逃げて行った。
私は開いた口が塞がらなかった。
神崎君の技術もそうだが何よりも...
「あんな神崎君、初めて見た...」
あそこまで怒気をはらんだ彼は見たことがなかった。
いつも温厚で、優しくて、でも案外ノリもよくて。
だからこそ驚きを隠せなかった。
「大丈夫か!なんかされてないか!?」
「あ、うん。大丈夫。ありがとう、神崎君。」
「よかった...彩葉に何かあったら俺...」
そう言いながら彼は安堵の表情を見せる。
やはり彼は優しい。守ってくれて、本気で私のことを心配してくれる。
でもその表情はどこか不安定で、どれか一つでも欠けたら崩れてしまいそうだった。
それはそうとして...
「ね、ねぇ。今私のこと名前で...」
「え?あっ、す、すまん!ほっとしたらつい...」
「い、いいの!なんか苗字で呼び合うって距離感あったし、これからは名前で呼んでほしい...私もその...万羽って呼ぶ...から///」
やばっ、テンパって変なこと言っちゃった...
頬が熱を帯びていくのを感じる。
「あ、ああ。分かったよ、い、彩葉。」
そうして私は彼の腕を少し掴む。
恐怖がぬぐえない。人のぬくもりを感じていないと不安で仕方なかった。
ええい、こうなればままよ。
「...みんなの所に戻るまで、こうしててもいい?」
「...ああ。もちろん。」
なんだろう、今までと違う。こんな感情、初めて...
私は彼の優しさを感じながらみんなのもとへ戻るのだった...
彼女はそっと、けれども力強く俺の腕をつかんだ。
きっとそれほど不安だったのだろう。
ナンパ野郎を追い払う時は夢中だった。
自分ってあんな声を出せたんだと思ったほどだ。
彩葉が無事でよかった。
誰かを守れない俺なんて価値のない存在だから
なお、戻ったら案の定綾紬と諌山に詰め寄られた。
神崎万羽…誰かを守ることに関して少し歪な面がある。中学のころに柔道や合気道などの護身術を一通り身に着けた。