<本編完結>親友のお隣さん~万の羽が彩るハッピーエンド~   作:白豆男爵

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君に会えたから見えた輝き

「馬鹿だったなぁ...なんで気づかなかったんだろう」

 

私は自嘲気味に呟いた。

彩葉と万羽の歌を聴いて地球に戻ろうとして、ドジって彩葉たちの時代から何千年も前の地球に不時着して、ウミウシの体になって、長い年月が経った。

八千年かけて、私はようやくその真実に気づいたのだ。

 

「私が、ヤチヨになるんだ」

 

それから私は仮想空間ツクヨミを作り上げた。

ミニライブをするたびに、彩葉と万羽を探した。

今日はいるのかな、いつ来てくれるのかな、そんな期待が私の心を包んでいた。

彩葉と万羽が中学三年生になる頃だろうか。

彩葉もそろそろ限界ギリの生活が始まるのかと思っていると、ふと気になった。

 

「そういえば私、万羽の過去、ほとんど知らない」

 

私がまだかぐやだった頃、万羽の過去のことはほとんど聞いたことがなかった。

彩葉と出会ったきっかけは、倒れた彩葉を万羽が介抱したからだって聞いたことがある。

でも、それ以前の万羽について、私は何も知らなかった。

だからこそ、興味本位で万羽の過去を探ってみた。

FUSHIに「本気でやるのか?お前」と言われたけど、仕方ないよね。だって気になるんだもん。

色んなデータベースに潜り込んでは、様々な情報を覗いた。

彩葉と違って実家が東京都内にあるのとか、兄弟姉妹はいないのとか、そんな些細な情報さえ、私には新鮮に見えた。

そして何よりも特筆すべきは万羽の実家のPCに保存されている万羽の写真フォルダ。

ほとんどの写真で、幼い万羽の隣には同い年くらいの女の子がいた。

万羽の実家のお隣さんで、深見叶というらしい。

多分、幼馴染ってやつなのかな?

こんなに仲の良い幼馴染がいるなんて思わなかった。

そんな話、万羽から聞いたことなかったから。

でも、ある日の写真を境に、万羽の隣には深見叶は映っていなかった。

 

「なんで一緒映ってないんだろう?仲が悪くなったのかな?思春期だし、そういうこともあるのかな」

 

そうは言いつつも気になったため、私は深見叶について調べてみた。

 

「えっ...?」

 

そして、絶句した。

【深見叶:享年13 死因:自殺】

 

「万羽の幼馴染が...自殺?なんで...」

 

万羽の過去は、私の想像を絶するものだった。

私たちに話さなかったのは、もう乗り越えた過去だったから?

違う、いくら万羽でも当時は中学一年生。

 

「...私たちに、知られたくなかったってこと?」

 

叶さんが自殺した後に撮られた写真の万羽は、よく見ると貼り付けたような笑顔をしていた。

抱え込んでるのは、彩葉だけじゃなかったんだ。

私たちの知らないところで、万羽も苦しんでた。

なのに(かぐや)はずっと万羽に我儘を言って...

 

「ごめんね、万羽...気づいてあげられなくて...」

 

誰もいない空間で、私は静かにすすり泣いた。

 


 

それからまた少し経った。

私はチュートリアルを受け持つ分身の知らせを受け、即座に入れ替わった。

そこにいたのは紛れもなく、神崎万羽その人だった。

 

「チュートリアルってこんな感じなのか」

 

感極まって涙が出そうになったけど、私は月見ヤチヨを演じなければならない。

だからこそ私はその感動を抑えた。

 

「仮想空間ツクヨミへようこそ!管理人の月見ヤチヨでーす!こっちのモフモフはFUSHI!」

「おお、本当にヤチヨだ。といっても本人じゃないんだろうけど...」

 

いや、本人なんだけどね。

さすがに本人だって気付くわけもないか。

 

「出掛ける前に、その格好じゃあつまらない!」

「わっ、見た目ってこんなに自由度高いのか。悩むな...」

 

悩むとは言いつつも、次々に決められていく万羽の見た目はまんま私の知っているヨロズのもので、私の辿ってきた道は無駄じゃなかったんだと思えた。

 

「よし、こんなもんかな」

「ふふっ、決まったみたいだね。それじゃあ、行ってらっしゃーい!」

 

そして私は万羽...いや、ヨロズの手を引き、ツクヨミへと誘った。

 


 

そこから彩葉の初ログインやら、かぐやの到来やらなんやかんやありまして、vs黒鬼の竹取合戦。

第2ラウンドで万羽が暴走して、それを私が静止する。

あのときの(かぐや)は何が何だかよくわからなかったけど、今の(ヤチヨ)なら分かる。

スマコンの感情計測機能が暴走してる。

幼馴染の自殺から想起される大きな負の感情を源に、バグのような挙動を起こしているのだ。

といっても、輪廻通りになるように、私がそうなる余地を残してスマコンを作ったんだけど。

この基準値を超えられるのは、良くも悪くも万羽しかいないだろう。

私が介入した後は万羽が暴走することもなく無事にKASSENが終了。

予定調和と言うべきか、ヤチヨカップはかぐや・いろPの優勝で幕を閉じた。

 

さて、問題はここから。

(ヤチヨ)が万羽と話すのはなんとなく分かってる。

ツクヨミに用があると言って走っていったあの時の万羽はちょっと怪しかったから。

でも、その内容については全く分からない。

どこまで話すべきなのか、何を話してはいけないのか、線引きがわからない。

人間は未知を開拓し、同時に恐れてもきた。

ここまでの緊張は久方ぶりだった。

 

「来たね、ヨロズ」

「ああ、ヤチヨ。"あの現象"について、何か知ってるのか?」

 

そこから私は万羽に暴走の詳細について話した。

万羽の過去について知っていることも、万羽は特段気にしていない様子だった。

彩葉やかぐや、親しい友人に知られていなければいいということなのだろうか。

私はもうあの頃のかぐやじゃないんだって自覚させられた気がして、少し寂しくなった。

でも、それでいいの?

このまま過去を抱え込んだ万羽を見守るだけで、本当に私は後悔しない?

 

「ヨロズ、あんまり一人で抱え込みすぎないで。信頼できる友達にくらい、自分のことを打ち明けてもいいんじゃないかな?」

 

気付けば私はそんな事を口走っていた。

本当に思わずだった。

 

「8000歳からのアドバイス!」

 

私は自分への動揺を隠すために、そんな言葉を付け足した。

 

「そういえばあったなそんな設定...ああ、考えてみるよ」

 

万羽はそう言ってツクヨミからログアウトした。

 

「これで、良かったのかな...」

 

私の胸の中には不安が渦巻いていた。

 


 

更に時間は経ち、彩葉たちとのコラボライブ。

本当に楽しかったけど、それは同時に、タイムリミットまでのカウントダウンの始まりでもある。

月人が襲来し、かぐやを連れ戻そうとする。

その月人を私は指をスワイプしておはじきのように弾いていく。

 

(かぐや...あなたが帰るのは、今じゃない。)

「おいたはダメだよ〜」

 

そしてコラボライブは終了。

どうやら(かぐや)の知らない間にみんなと作戦会議をしていたみたいで、そこに(ヤチヨ)も呼ばれていた。

決まった作戦は、ツクヨミで月人を迎え撃ち、かぐやを守るというシンプルなもの。

しかし私は知っている、その作戦は成功しないことを。

でも、次の瞬間、目を疑う光景がそこにあった。

 

「...嘘」

 

万羽は、バグを引き起こしながら自我を保つことに成功していた。

少なくとも、私の見たあの時の万羽はとても制御できているようには見えなかった。

私の巡った輪廻から変わってる?

私があの時、過去を打ち明けてもいいってアドバイスしたから?

分からない、未知への恐怖が私の頭の中を埋め尽くしていた。

でも結局、未来は変わらなかった。

かぐやは月へ連れ帰られ、おとぎ話は終わりを迎える...そのはずだった。

 

「俺は諦めない」

「えっ?」

 

私の部屋へたどり着き、真実を聞いた万羽は私に向けてそう言い放った。

 

「ヤチヨの踏み出した一歩が、俺にくれた言葉が過程を変えた。だったら結末だって変えられるはずだ。俺は、四人で一緒に笑えるハッピーエンドがいい」

「私も。このおとぎ話はまだ終わってない。本当のハッピーエンドまで付き合ってよね!」

 

万羽と彩葉はそう言って、私に手を差し伸べた。

...敵わないなぁ、この二人には。

 

「もう、これで終わってもいいって、思ってたのに...」

 

私はその手を取った。

未知への恐怖は、もうすっかりなくなっていた。

 


 

「ヤチヨ?」

「ん-?どうしたの?」

「いや、ボーっとしてたように見えたから...」

「ヤッチョは今、万羽成分を嚙み締めているのです」

「なんだそれ...」

 

私は今万羽の膝の上にすっぽり収まっている。

配信が終わった後、時々こうして万羽に甘やかしてもらっている。

彩葉にも言ってない内緒の密会だ。

ちょっと過去を振り返ってると万羽に心配されたので、それっぽい理由で誤魔化す。

私はふと、万羽にお願いをしてみる。

 

「ねぇ万羽。二人きりの時だけはさ、私のこと、かぐやって呼んでくれない?」

「うーん、嫌...かな」

「...それはやっぱり、私が今のかぐやじゃないから?」

「いや、そうじゃないというか...ヤチヨをかぐやって呼ぶと、ヤチヨが今まで歩んできた八千年を否定してしまう気がするんだ。その代わり、待ち続けた八千年分、好きなだけ甘えていいからさ」

「...ずるいよ、その言い方」

 

そう言われたら、何も言えないよ。

天然で、時々厳しくて、でもやっぱり優しくて...

 

「万羽、大好き」

「ああ、俺もだ」

 

彩葉にはちょっと申し訳ないけど、この時間だけは私たちの英雄(ヒーロー)を独り占めさせてね。




ヤチヨ×万羽回というか、ほぼほぼヤチヨの回でした。
何気にこういうの書いてなかったなぁと思ったので。
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