青の悪意と曙の意思   作:deckstick

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A’s編34話 最後の

 その後、八神チャチャは収容所に行ったり、地球に戻ったり、こっそりと別の次元世界へ行ったりしながら、蒐集を続けてる。

 もちろん、黒の騎士団も活動を継続中。

 合わせると、ペースはまあまあ。回復するまで闇の書を起動しない前提に、アースラのスタッフからの蒐集を早めに終えた事もあって、管制人格の起動に必要なページは目前。

 

 というわけで、11月最初の土曜日の今日。

 朝早めの時間に別荘へと来たカリム・グラシア達、つまり聖王教会や時空管理局からの派遣組は。

 

「これは、なかなか難しいですね……」

 

「はい。ですが、確かにこれまでよりカートリッジの力を感じる気がします」

 

「力を扱う技術って、体術と自身の魔力操作以外は研究されてなかったからね。

 魔力さえあれば、これだけで充分な力を扱えるし。魔力が無い人が魔力の研究をするのも難しいしね」

 

「でも、いくら私に適性が無さそうだからって、試すのも駄目って酷くないですか?」

 

 急いで行うべき事も特にないため、気の適性検査をしてる。

 適性の高い方からシャッハ・ヌエラ、シルフィ・カルマン、カリム・グラシアの順だけど、3人共それなり。守護騎士達と大差ない水準とも言えるから、うまく扱えば問題ない。

 マリエル・アテンザは、黒羽早苗と変わらない水準。つまり、原則使用禁止。可愛そうに。

 

「そうは言っても、適性を考えると危険なんだぞ?

 それに、カートリッジを使うのは駄目と言ったが、気の鍛錬や研究を禁止する気はない。美容効果狙いで鍛錬に参加するもよし、それなりに適性があるシルフィと組んで差の理由を調べるもよし、適性がなくても安全に使うための方法を探すもよし、だ。

 適性が無いからこそ可能なこともある。そう悲観するな」

 

「でも、やっぱり使ってみたいじゃないですか。

 魔法の素質だって、それほどないですし」

 

「その気持ちは理解出来るが、あえて言ってやろう。

 望んだ結果として過ぎた物を得てしまうと、なぜこんなものを望んだんだ、としか思えなくなるぞ。ついでに、少しでも魔力を持つ分、アリサよりは恵まれている。

 制御に失敗した時のリスクは……私が腕を吹き飛ばしかけた時の映像でも、リンディに見せてもらったらどうだ?」

 

「もう、見せてもらっています。言っている事も理解出来るんですけど……」

 

 マリエル・アテンザは、どう見ても未練たらたら。

 めっちゃ不満そう。

 そんな感じで膨れてるところに、高町家の兄妹とテスタロッサ家の御一行様が到着。

 ただし、高町美由希、アリシア・テスタロッサ、アルフを除く。3人は、道場で軽くリハビリを兼ねて体を動かすらしい。

 

「あら、もう始めているの?

 素質の確認は終わっているのかしら」

 

 真っ先にお姉さまの方に来たのは、プレシア・テスタロッサ。

 どうも、興味津々。技術者としての興味が勝ってる感じ。

 

「終わっているが、お前ほど素質がある人物など、滅多にいないからな。

 チャチャが本局で簡易調査をしているが、別荘に連れてきた連中の水準は異常だ。上位陣……高町や月村に匹敵する可能性があるのは、100人に1人もいないのがほぼ確実のようだぞ」

 

「そう。リンディが期待しているような、高ランク魔導師の鼻を折る事は難しいのかしら?」

 

「微妙なところだな。守護騎士達やフェイトからカイゼくらいの素質なら、そこそこいる可能性が高いようだが……簡易調査では判らん事も多いし、そもそも全てを解明出来ていないしな。

 それに、高ランクの連中の中にも素質がある者は似た割合で存在する。そいつらの選民意識が暴走しない保証は無いな」

 

「それでも、中ランクの局員の底上げになるなら、交渉では使えそうね。

 それに、技術的にはベルカ式、聖王教会向きでしょうから、そちらとの話し合いでも、ね」

 

「そうなんだが、リンディが管理局にどこまで喋るか次第だろうな。

 カートリッジシステム使用の可不可を判断するための簡易検査技術、とかに落ち着く可能性もあるし。それはそれで有用だが」

 

「いずれにしても、要研究かしらね」

 

 そうやって話をしているうちに、他の人達は頭を下げたり手を上げたりで挨拶した後で、ケアンズ拠点へ移動。

 でも、プレシア・テスタロッサは移動する気配がない。

 

「行かなくていいのか?」

 

「いいのよ、今日は料理の方に参加させてもらうから。

 日本よりもここの方が、アリシアが食べ慣れた味を作りやすいのだから、活用させてもらうわ」

 

「……そうか。相変わらずだな」

 

「もちろんフェイトにも馴染のある味……の、はずよ」

 

「忘れかけていたというよりは、自信がないのか?」

 

「フェイトがこの世界に来る前、最後に食べていたのは、リニスの味だもの。

 基本的には私と同じはずだし、同じだと言ってくれるけれど」

 

「そこは、娘を信用しなくてどうする」

 

 そうやって話しているうちに、次の人達が到着。

 長宗我部千晴、真鶴亜美、夜月ツバサ、黒羽早苗の4人。

 

「あ、エヴァさん。今日も調理場を借りるね」

 

「来たわね。さあ、今日はスープを極めるわよ」

 

「おー!」

 

 お姉様の了承を待たずに盛り上がる、プレシア・テスタロッサと黒羽早苗。

 味見能力を持つ夜月ツバサは、巻き込まれないようちょっと離れてる。

 調理場には、既に八神はやてとお姉様の従者達、ついでにザフィーラがいて、色々と準備中。

 そこから見える食堂に主がいるけど、片隅で宿題の真っ最中。料理に参加する気はないらしい。

 

「いいのか? あれ」

 

「……まあ、楽しそうで何よりだ、とでも思っておくさ」

 

「お相伴にあずかれるのだから、役得よ?」

 

 呆れてる長宗我部千晴と、諦めてるお姉様。

 でも、真鶴亜美はちょっと嬉しそう。

 

「確かに、あのレベルの料理技術やレシピに比べたら、材料くらいは安いものだがな。

 この際だから、お前達も混ざるか?」

 

「私はあのレベルについていけねーし。大人しく味見役でもしとくよ」

 

「そうね、子供を見ながら作るには、少々手間がかかっているものが多いわ。

 味付けやちょっとした工夫は参考になるものもあるけれど、作り方はちょっと真似し辛いわね」

 

 完全に料理人の道を驀進してる黒羽早苗。

 魔法の練習もちょっとだけしてるけど、明らかに優先度は低いし。

 

「あいつに魔法を使わせる必要も無いだろうし、本人も楽しそうだから、料理を任せておくのがいいんだろうな。

 魔力量と特殊能力を考えると、蒐集的にもお得か……?」

 

「あー、闇の書だっけか。私達はいいのか?」

 

「お前達は、特殊能力まで蒐集されると危険すぎる。

 そこまでコピーされる可能性は低い様だが、なるべく安全策を取りたい」

 

「やっぱ、見付けられねーのはマズいか」

 

「私の場合は、治癒能力かしら?」

 

「そうだな。それと、健康な体というのが状態異常に対する耐性だと、氷結や石化に抵抗されるようになる可能性がある。

 決戦になった場合にそれらの魔法を使う可能性がある以上は、な」

 

「じゃあ、アタシは読心が問題?」

 

 黒羽早苗とプレシア・テスタロッサが建物に入っていったせいか、夜月ツバサが会話に参加。

 まあ、質問の答えは予想通りだろうけど。

 

「そうだな。そこから作戦が漏れる可能性はあるだろう?」

 

「まあ、ね。最後の戦いで失敗するわけにはいかないって事でしょ?」

 

 そんな感じで、転生者組の3人も、聖王教会組+1と合流。

 ベルカ式使いという事で割と仲良くやってるし、1人ミッドチルダ式のマリエル・アテンザは、技術者として輪に入ってる。

 騎士として後輩にあたるという感じで、カリム・グラシアやシャッハ・ヌエラも指導する事に異議は無い様子。知識や技術的にも、お互いに利のある交流になってるから、心配はいらない。

 

 さて、とお姉様が建物に入ろうとしたところで、今度は月村すずかと馬場鹿乃が到着。

 馬場鹿乃はあまり似合わない黒のスーツ姿で、月村すずかの斜め後ろに立ってる。

 月村忍による、護衛としての教育の一環。まず形から入ってみるらしい。

 

「ふむ。護衛役が少しは板についてきたか?」

 

「役に立ってる気がしねぇよ」

 

 あまりに似合ってない姿にお姉様が笑ってると、馬場鹿乃は大きくため息をついた。

 見た目だけで言えば、威圧感だけはばっちりなのに。

 

「だけど、変なおじさんの視線は減ってるから。

 痴漢とかの対策にはなってると思うよ?」

 

「……嬉しくねぇ評価だな」

 

「それが、戦闘を望んだ馬鹿の最後の言葉だった……」

 

「やめてくれ! それは洒落にならねぇ!!」

 

 お姉様の冗談が通じなかった。

 せっかくのフォローを受け入れなかった罰。大人しくいぢられるがよい。

 

 

 ◇◆◇  ◇◆◇

 

 

 その後も、人が来たり帰ったり、休憩したり訓練したり。

 昼近く、昼食の準備が出来る頃に、お姉様が動いた。

 

「早苗、ちょっといいか?」

 

「うん、そろそろ準備も終わるし。

 何かあったの?」

 

「いや、無理強いはしないが、1つ依頼がある。

 魔力を蒐集させてもらっていいか?」

 

「んー、確認するって事は、何か問題でもあるの?」

 

 こてん、と首を傾げる黒羽早苗。

 この辺の話は、あまり聞いてないらしい。

 

「影響はなるべく抑えるが、1時間ほど安静にした方がいい程度の体調不良と、しばらく……2週間近く魔法が使えないのは確実だ。

 それ以外は、今の所確認出来ていない」

 

「それと、目的は?」

 

「最終的には私の姉を助ける事だな。芋蔓的にはやて達も助けることになる。

 その為に必要な事の為の準備、くらいの位置付けだ。他の伝手やらも使って行っている、献血に似た作業だから、お前である必要性は無い。嫌なら断ってくれて構わないぞ」

 

「そっか、誰かじゃなくて、広く浅くって感じなんだ。うん、いいよ。

 みんなが食べ終わってからでいいかな?」

 

「こちらの準備もあるから、その程度の時間はある。

 むしろ、食事の邪魔をして連中に怒られる方が面倒だ」

 

 というわけで、蒐集の予約終了。

 闇の書は現在、黒の騎士団として動いてる八神ヴィータが持ってる。

 蒐集と引き渡し完了まで、予想ではあと1時間くらい。それが終わるまでは作業出来ない。

 

 というわけで、食事の時間。

 ケアンズ拠点にいた訓練組も合流して、わいわいと昼食。

 スープを極めるとか言ってたのに、豚汁やボルシチ、カレーまで出てきてるのは、きっと気にしちゃいけない。クリームシチューやビスクもあるし。

 パンにご飯はもちろん、うどんや餅まで用意してある。

 主食の米に別荘産が多いのは、在庫削減のためらしい。現行の日本産の方が気に入ったようで、次回以降はそっちも生産するために、頑張って農地の改良や拡張をしてるとのこと。

 

「それじゃあ、私はアリシア達に昼食を持っていくわ。

 あの2人じゃ、どんなものを作るか心配だもの」

 

「あ、母さん。私も」

 

 うん、高町美由希とアルフの料理が信用出来るかというと、無理っぽい。

 しかも、黒羽早苗の料理は回復効果付き。

 愛娘のために持っていこうとするプレシア・テスタロッサも、一緒に行こうとするフェイト・テスタロッサも、いい感じで家族をしてる。

 

「あ……えっと……」

 

「一緒に行ったらどうだ?

 今日はアリサが来ていないし、アリシアがいるのは高町の道場だ。

 自宅に戻って食事にしても不自然じゃないし、賑やかな方がアリシアも喜ぶぞ」

 

 テスタロッサ親子、正確にはフェイト・テスタロッサの様子を見てた高町なのはが迷ってるところに、お姉様が後押し。

 迷ってる理由は、八神はやてと月村すずかにも向いてた視線を見ればすぐに解るし。

 

「ん? 私なら気にせんでええよ。

 エヴァさんやアコノさん、他にも大勢いるし、今日はお昼から病院や。

 早めにここを出なあかんから、あんまりゆっくり出来へん」

 

「私もご飯が終わったら帰る予定だよ、なのはちゃん」

 

「そっか。じゃあ、私も」

 

「俺も一度戻ろう。少し用事を済ませてから来たいが、大丈夫か?」

 

「私は夕方頃まではいるし、大丈夫だろう。

 誰がいるか確認してから来た方がいいかもしれんが」

 

「解った」

 

 というわけで、高町兄妹も退場。

 それを見送った主の反応は。

 

「ユーノの立場が、順調に無くなってる気がする」

 

「このままだと、なのフェイ派が歓喜する展開になるのか?

 2人とも恋愛感情は無さそうだし、そういう年齢でもないとは思うが」

 

「それでも、これ以上存在感が無くなると厳しいはず。

 一度離れて想いに気付くとか、そんな仲でもなさそう」

 

「あいつらの恋愛にまで口を出す気は無いし、なるようになるだろう。

 なのはに変な虫が付くなら家族が黙っていないはずだがユーノには好意的だし、なのは自身も嫌っている様子は無いしな」

 

「ユーノの方は?」

 

「知らんな。発掘の責任者を任される程度に大人扱いされていたはずだから、そういう文化の部族なのだろう。

 ならば、それを尊重するまでだ」

 

「ユーノって人とはあんま会ってへんけど、悪い人には見えへんかったし。

 焚きつけるのはあかんの?」

 

「あの2人は恋愛方面に疎そうだが、やりたいなら止めんぞ。

 もっとも、ユーノはもうしばらく無限書庫に籠もる事になっているし、終わった後にどうするかは聞いていない。

 元々地球の人間ですらないんだ。最後にどうなるかよりも、一歩踏み出す時の壁が問題だな」

 

「そっか。ままならんもんやね」

 

 

 ◇◆◇  ◇◆◇

 

 

 そんな感じで昼食も終わり、それぞれ訓練等のやるべき事に戻っていく。

 料理担当の黒羽早苗は、後片付けやおやつの準備まできっちりと行ってから、医務室で約束の魔力蒐集。

 その結果。

 

「……400ページ到達、か。

 有り難う。現状で必要な作業の、最後の一歩になったようだ」

 

「役に立てたなら良かったよ。

 さてと、夕食の仕込みをしたいから、行くね?」

 

 いやいや、それは。

 

「ちょっと待て。せめて1時間程度は安静にしておけ」

 

「え? 思ったよりも体調はいいし、大丈夫じゃないかな?」

 

 確かに、顔色は悪くないし。

 足取りもしっかりしてるし。

 動くなと言い辛い程度に、問題無さそうにしか見えないけど。

 

「それでも、安静にしていろ。

 何かあってからでは遅いんだ。私を安心させるためだと思ってくれ」

 

「そっか……うん。わかったよ」

 

 やっとで納得してくれた。

 念のためベッドに横になったけど、何だか、顔色が悪くなってる気がする?

 

「うー、気持ち悪い……

 料理してた方が、気が紛れそうだけどなぁ」

 

「どこまで料理好きなんだ。

 正直に言って、ちょっと異常だぞ」

 

「そうかな、面白いよ?

 前の人生で一番打ち込んでた事だから、そのせいだと思うけど」

 

 作るのも食べるのも楽しい、というのは理解出来る。

 それでも、ちょっと突っ走り過ぎの様な?

 

「前世も料理人だったのか。自分の店でも持っていたか?」

 

「それはそれで、面倒も多いからね。調理師専門学校を出てから、小さなホテルで働いてたんだ。

 料理長がフリーダムな人で、一緒に色々と挑戦させてもらえたし。食べた人を笑顔にする料理を目指すっていうのは、料理長の影響だよ」

 

「そうか。特典でそれを望んだのは、自力での達成を諦めてたのか?」

 

「他に何も思い付かなかったから、料理長の言葉をそのまま言ってみたんだ。

 具体的な要求はダメ、とか言ってたしさ」

 

 確かに、切れ味が新品のままの包丁とか、道具系は具体的になるだろうし。

 金銭面だと、きっと(ゴールド)への変換資質が、お金関連の特典の結果。期待した物でないのは確実。

 その意味では、害のない選択だったかもしれない。

 

「食べてほしい、元気になってほしい、笑ってほしい、だったか?

 料理人なら食べてほしいのは解るし、食べて笑ってほしいは解るが……元気はどこから出た?」

 

「医食同源、元気じゃなきゃ心の底から笑えないだろ、ってね。

 そのせいか、薬膳とかの研究もしてたし。あ、和洋中その他を問わずに手を出してたから、料理法や食材に拘りは無いからね。守りたいのは伝統じゃない、笑顔だ! とか言ってさ」

 

「言いたい事は解るが、随分と極端だな。

 その影響を受けたお前は、今度は異世界の料理に手を出すわけだ」

 

「ボクも料理長と同じで、新しい可能性を探したりする方が好きだし。

 伝統を守るのは、その意思がある人に任せるよ」

 

「適材適所、か。

 その考え方なら、将来は私の所……私が関係している会社に旅館や料亭もあるから、その辺で働いてみるか?

 表向きとしては難しいだろうが、個人的になら別荘の施設や農地、異世界の情報も使えるぞ」

 

「いいかもしれないね。

 えーと、前向きに考えさて頂きます」




日常回です。めっちゃ日常のつもりです。何やら怪しい企みの気配がちらほら見えますが、日常のはずなんです。
あ、「最後の」のサブタイトルは、「日常回」にはかかっておりません。日常回はまだありますよ、きっと。


カリムやマリーの魔力量やランクって、NanohaWikiにも無いですし、公式で出てないですよね?
というわけで、毎度お馴染みの独自設定になります。
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