その後、八神チャチャは収容所に行ったり、地球に戻ったり、こっそりと別の次元世界へ行ったりしながら、蒐集を続けてる。
もちろん、黒の騎士団も活動を継続中。
合わせると、ペースはまあまあ。回復するまで闇の書を起動しない前提に、アースラのスタッフからの蒐集を早めに終えた事もあって、管制人格の起動に必要なページは目前。
というわけで、11月最初の土曜日の今日。
朝早めの時間に別荘へと来たカリム・グラシア達、つまり聖王教会や時空管理局からの派遣組は。
「これは、なかなか難しいですね……」
「はい。ですが、確かにこれまでよりカートリッジの力を感じる気がします」
「力を扱う技術って、体術と自身の魔力操作以外は研究されてなかったからね。
魔力さえあれば、これだけで充分な力を扱えるし。魔力が無い人が魔力の研究をするのも難しいしね」
「でも、いくら私に適性が無さそうだからって、試すのも駄目って酷くないですか?」
急いで行うべき事も特にないため、気の適性検査をしてる。
適性の高い方からシャッハ・ヌエラ、シルフィ・カルマン、カリム・グラシアの順だけど、3人共それなり。守護騎士達と大差ない水準とも言えるから、うまく扱えば問題ない。
マリエル・アテンザは、黒羽早苗と変わらない水準。つまり、原則使用禁止。可愛そうに。
「そうは言っても、適性を考えると危険なんだぞ?
それに、カートリッジを使うのは駄目と言ったが、気の鍛錬や研究を禁止する気はない。美容効果狙いで鍛錬に参加するもよし、それなりに適性があるシルフィと組んで差の理由を調べるもよし、適性がなくても安全に使うための方法を探すもよし、だ。
適性が無いからこそ可能なこともある。そう悲観するな」
「でも、やっぱり使ってみたいじゃないですか。
魔法の素質だって、それほどないですし」
「その気持ちは理解出来るが、あえて言ってやろう。
望んだ結果として過ぎた物を得てしまうと、なぜこんなものを望んだんだ、としか思えなくなるぞ。ついでに、少しでも魔力を持つ分、アリサよりは恵まれている。
制御に失敗した時のリスクは……私が腕を吹き飛ばしかけた時の映像でも、リンディに見せてもらったらどうだ?」
「もう、見せてもらっています。言っている事も理解出来るんですけど……」
マリエル・アテンザは、どう見ても未練たらたら。
めっちゃ不満そう。
そんな感じで膨れてるところに、高町家の兄妹とテスタロッサ家の御一行様が到着。
ただし、高町美由希、アリシア・テスタロッサ、アルフを除く。3人は、道場で軽くリハビリを兼ねて体を動かすらしい。
「あら、もう始めているの?
素質の確認は終わっているのかしら」
真っ先にお姉さまの方に来たのは、プレシア・テスタロッサ。
どうも、興味津々。技術者としての興味が勝ってる感じ。
「終わっているが、お前ほど素質がある人物など、滅多にいないからな。
チャチャが本局で簡易調査をしているが、別荘に連れてきた連中の水準は異常だ。上位陣……高町や月村に匹敵する可能性があるのは、100人に1人もいないのがほぼ確実のようだぞ」
「そう。リンディが期待しているような、高ランク魔導師の鼻を折る事は難しいのかしら?」
「微妙なところだな。守護騎士達やフェイトからカイゼくらいの素質なら、そこそこいる可能性が高いようだが……簡易調査では判らん事も多いし、そもそも全てを解明出来ていないしな。
それに、高ランクの連中の中にも素質がある者は似た割合で存在する。そいつらの選民意識が暴走しない保証は無いな」
「それでも、中ランクの局員の底上げになるなら、交渉では使えそうね。
それに、技術的にはベルカ式、聖王教会向きでしょうから、そちらとの話し合いでも、ね」
「そうなんだが、リンディが管理局にどこまで喋るか次第だろうな。
カートリッジシステム使用の可不可を判断するための簡易検査技術、とかに落ち着く可能性もあるし。それはそれで有用だが」
「いずれにしても、要研究かしらね」
そうやって話をしているうちに、他の人達は頭を下げたり手を上げたりで挨拶した後で、ケアンズ拠点へ移動。
でも、プレシア・テスタロッサは移動する気配がない。
「行かなくていいのか?」
「いいのよ、今日は料理の方に参加させてもらうから。
日本よりもここの方が、アリシアが食べ慣れた味を作りやすいのだから、活用させてもらうわ」
「……そうか。相変わらずだな」
「もちろんフェイトにも馴染のある味……の、はずよ」
「忘れかけていたというよりは、自信がないのか?」
「フェイトがこの世界に来る前、最後に食べていたのは、リニスの味だもの。
基本的には私と同じはずだし、同じだと言ってくれるけれど」
「そこは、娘を信用しなくてどうする」
そうやって話しているうちに、次の人達が到着。
長宗我部千晴、真鶴亜美、夜月ツバサ、黒羽早苗の4人。
「あ、エヴァさん。今日も調理場を借りるね」
「来たわね。さあ、今日はスープを極めるわよ」
「おー!」
お姉様の了承を待たずに盛り上がる、プレシア・テスタロッサと黒羽早苗。
味見能力を持つ夜月ツバサは、巻き込まれないようちょっと離れてる。
調理場には、既に八神はやてとお姉様の従者達、ついでにザフィーラがいて、色々と準備中。
そこから見える食堂に主がいるけど、片隅で宿題の真っ最中。料理に参加する気はないらしい。
「いいのか? あれ」
「……まあ、楽しそうで何よりだ、とでも思っておくさ」
「お相伴にあずかれるのだから、役得よ?」
呆れてる長宗我部千晴と、諦めてるお姉様。
でも、真鶴亜美はちょっと嬉しそう。
「確かに、あのレベルの料理技術やレシピに比べたら、材料くらいは安いものだがな。
この際だから、お前達も混ざるか?」
「私はあのレベルについていけねーし。大人しく味見役でもしとくよ」
「そうね、子供を見ながら作るには、少々手間がかかっているものが多いわ。
味付けやちょっとした工夫は参考になるものもあるけれど、作り方はちょっと真似し辛いわね」
完全に料理人の道を驀進してる黒羽早苗。
魔法の練習もちょっとだけしてるけど、明らかに優先度は低いし。
「あいつに魔法を使わせる必要も無いだろうし、本人も楽しそうだから、料理を任せておくのがいいんだろうな。
魔力量と特殊能力を考えると、蒐集的にもお得か……?」
「あー、闇の書だっけか。私達はいいのか?」
「お前達は、特殊能力まで蒐集されると危険すぎる。
そこまでコピーされる可能性は低い様だが、なるべく安全策を取りたい」
「やっぱ、見付けられねーのはマズいか」
「私の場合は、治癒能力かしら?」
「そうだな。それと、健康な体というのが状態異常に対する耐性だと、氷結や石化に抵抗されるようになる可能性がある。
決戦になった場合にそれらの魔法を使う可能性がある以上は、な」
「じゃあ、アタシは読心が問題?」
黒羽早苗とプレシア・テスタロッサが建物に入っていったせいか、夜月ツバサが会話に参加。
まあ、質問の答えは予想通りだろうけど。
「そうだな。そこから作戦が漏れる可能性はあるだろう?」
「まあ、ね。最後の戦いで失敗するわけにはいかないって事でしょ?」
そんな感じで、転生者組の3人も、聖王教会組+1と合流。
ベルカ式使いという事で割と仲良くやってるし、1人ミッドチルダ式のマリエル・アテンザは、技術者として輪に入ってる。
騎士として後輩にあたるという感じで、カリム・グラシアやシャッハ・ヌエラも指導する事に異議は無い様子。知識や技術的にも、お互いに利のある交流になってるから、心配はいらない。
さて、とお姉様が建物に入ろうとしたところで、今度は月村すずかと馬場鹿乃が到着。
馬場鹿乃はあまり似合わない黒のスーツ姿で、月村すずかの斜め後ろに立ってる。
月村忍による、護衛としての教育の一環。まず形から入ってみるらしい。
「ふむ。護衛役が少しは板についてきたか?」
「役に立ってる気がしねぇよ」
あまりに似合ってない姿にお姉様が笑ってると、馬場鹿乃は大きくため息をついた。
見た目だけで言えば、威圧感だけはばっちりなのに。
「だけど、変なおじさんの視線は減ってるから。
痴漢とかの対策にはなってると思うよ?」
「……嬉しくねぇ評価だな」
「それが、戦闘を望んだ馬鹿の最後の言葉だった……」
「やめてくれ! それは洒落にならねぇ!!」
お姉様の冗談が通じなかった。
せっかくのフォローを受け入れなかった罰。大人しくいぢられるがよい。
◇◆◇ ◇◆◇
その後も、人が来たり帰ったり、休憩したり訓練したり。
昼近く、昼食の準備が出来る頃に、お姉様が動いた。
「早苗、ちょっといいか?」
「うん、そろそろ準備も終わるし。
何かあったの?」
「いや、無理強いはしないが、1つ依頼がある。
魔力を蒐集させてもらっていいか?」
「んー、確認するって事は、何か問題でもあるの?」
こてん、と首を傾げる黒羽早苗。
この辺の話は、あまり聞いてないらしい。
「影響はなるべく抑えるが、1時間ほど安静にした方がいい程度の体調不良と、しばらく……2週間近く魔法が使えないのは確実だ。
それ以外は、今の所確認出来ていない」
「それと、目的は?」
「最終的には私の姉を助ける事だな。芋蔓的にはやて達も助けることになる。
その為に必要な事の為の準備、くらいの位置付けだ。他の伝手やらも使って行っている、献血に似た作業だから、お前である必要性は無い。嫌なら断ってくれて構わないぞ」
「そっか、誰かじゃなくて、広く浅くって感じなんだ。うん、いいよ。
みんなが食べ終わってからでいいかな?」
「こちらの準備もあるから、その程度の時間はある。
むしろ、食事の邪魔をして連中に怒られる方が面倒だ」
というわけで、蒐集の予約終了。
闇の書は現在、黒の騎士団として動いてる八神ヴィータが持ってる。
蒐集と引き渡し完了まで、予想ではあと1時間くらい。それが終わるまでは作業出来ない。
というわけで、食事の時間。
ケアンズ拠点にいた訓練組も合流して、わいわいと昼食。
スープを極めるとか言ってたのに、豚汁やボルシチ、カレーまで出てきてるのは、きっと気にしちゃいけない。クリームシチューやビスクもあるし。
パンにご飯はもちろん、うどんや餅まで用意してある。
主食の米に別荘産が多いのは、在庫削減のためらしい。現行の日本産の方が気に入ったようで、次回以降はそっちも生産するために、頑張って農地の改良や拡張をしてるとのこと。
「それじゃあ、私はアリシア達に昼食を持っていくわ。
あの2人じゃ、どんなものを作るか心配だもの」
「あ、母さん。私も」
うん、高町美由希とアルフの料理が信用出来るかというと、無理っぽい。
しかも、黒羽早苗の料理は回復効果付き。
愛娘のために持っていこうとするプレシア・テスタロッサも、一緒に行こうとするフェイト・テスタロッサも、いい感じで家族をしてる。
「あ……えっと……」
「一緒に行ったらどうだ?
今日はアリサが来ていないし、アリシアがいるのは高町の道場だ。
自宅に戻って食事にしても不自然じゃないし、賑やかな方がアリシアも喜ぶぞ」
テスタロッサ親子、正確にはフェイト・テスタロッサの様子を見てた高町なのはが迷ってるところに、お姉様が後押し。
迷ってる理由は、八神はやてと月村すずかにも向いてた視線を見ればすぐに解るし。
「ん? 私なら気にせんでええよ。
エヴァさんやアコノさん、他にも大勢いるし、今日はお昼から病院や。
早めにここを出なあかんから、あんまりゆっくり出来へん」
「私もご飯が終わったら帰る予定だよ、なのはちゃん」
「そっか。じゃあ、私も」
「俺も一度戻ろう。少し用事を済ませてから来たいが、大丈夫か?」
「私は夕方頃まではいるし、大丈夫だろう。
誰がいるか確認してから来た方がいいかもしれんが」
「解った」
というわけで、高町兄妹も退場。
それを見送った主の反応は。
「ユーノの立場が、順調に無くなってる気がする」
「このままだと、なのフェイ派が歓喜する展開になるのか?
2人とも恋愛感情は無さそうだし、そういう年齢でもないとは思うが」
「それでも、これ以上存在感が無くなると厳しいはず。
一度離れて想いに気付くとか、そんな仲でもなさそう」
「あいつらの恋愛にまで口を出す気は無いし、なるようになるだろう。
なのはに変な虫が付くなら家族が黙っていないはずだがユーノには好意的だし、なのは自身も嫌っている様子は無いしな」
「ユーノの方は?」
「知らんな。発掘の責任者を任される程度に大人扱いされていたはずだから、そういう文化の部族なのだろう。
ならば、それを尊重するまでだ」
「ユーノって人とはあんま会ってへんけど、悪い人には見えへんかったし。
焚きつけるのはあかんの?」
「あの2人は恋愛方面に疎そうだが、やりたいなら止めんぞ。
もっとも、ユーノはもうしばらく無限書庫に籠もる事になっているし、終わった後にどうするかは聞いていない。
元々地球の人間ですらないんだ。最後にどうなるかよりも、一歩踏み出す時の壁が問題だな」
「そっか。ままならんもんやね」
◇◆◇ ◇◆◇
そんな感じで昼食も終わり、それぞれ訓練等のやるべき事に戻っていく。
料理担当の黒羽早苗は、後片付けやおやつの準備まできっちりと行ってから、医務室で約束の魔力蒐集。
その結果。
「……400ページ到達、か。
有り難う。現状で必要な作業の、最後の一歩になったようだ」
「役に立てたなら良かったよ。
さてと、夕食の仕込みをしたいから、行くね?」
いやいや、それは。
「ちょっと待て。せめて1時間程度は安静にしておけ」
「え? 思ったよりも体調はいいし、大丈夫じゃないかな?」
確かに、顔色は悪くないし。
足取りもしっかりしてるし。
動くなと言い辛い程度に、問題無さそうにしか見えないけど。
「それでも、安静にしていろ。
何かあってからでは遅いんだ。私を安心させるためだと思ってくれ」
「そっか……うん。わかったよ」
やっとで納得してくれた。
念のためベッドに横になったけど、何だか、顔色が悪くなってる気がする?
「うー、気持ち悪い……
料理してた方が、気が紛れそうだけどなぁ」
「どこまで料理好きなんだ。
正直に言って、ちょっと異常だぞ」
「そうかな、面白いよ?
前の人生で一番打ち込んでた事だから、そのせいだと思うけど」
作るのも食べるのも楽しい、というのは理解出来る。
それでも、ちょっと突っ走り過ぎの様な?
「前世も料理人だったのか。自分の店でも持っていたか?」
「それはそれで、面倒も多いからね。調理師専門学校を出てから、小さなホテルで働いてたんだ。
料理長がフリーダムな人で、一緒に色々と挑戦させてもらえたし。食べた人を笑顔にする料理を目指すっていうのは、料理長の影響だよ」
「そうか。特典でそれを望んだのは、自力での達成を諦めてたのか?」
「他に何も思い付かなかったから、料理長の言葉をそのまま言ってみたんだ。
具体的な要求はダメ、とか言ってたしさ」
確かに、切れ味が新品のままの包丁とか、道具系は具体的になるだろうし。
金銭面だと、きっと
その意味では、害のない選択だったかもしれない。
「食べてほしい、元気になってほしい、笑ってほしい、だったか?
料理人なら食べてほしいのは解るし、食べて笑ってほしいは解るが……元気はどこから出た?」
「医食同源、元気じゃなきゃ心の底から笑えないだろ、ってね。
そのせいか、薬膳とかの研究もしてたし。あ、和洋中その他を問わずに手を出してたから、料理法や食材に拘りは無いからね。守りたいのは伝統じゃない、笑顔だ! とか言ってさ」
「言いたい事は解るが、随分と極端だな。
その影響を受けたお前は、今度は異世界の料理に手を出すわけだ」
「ボクも料理長と同じで、新しい可能性を探したりする方が好きだし。
伝統を守るのは、その意思がある人に任せるよ」
「適材適所、か。
その考え方なら、将来は私の所……私が関係している会社に旅館や料亭もあるから、その辺で働いてみるか?
表向きとしては難しいだろうが、個人的になら別荘の施設や農地、異世界の情報も使えるぞ」
「いいかもしれないね。
えーと、前向きに考えさて頂きます」
日常回です。めっちゃ日常のつもりです。何やら怪しい企みの気配がちらほら見えますが、日常のはずなんです。
あ、「最後の」のサブタイトルは、「日常回」にはかかっておりません。日常回はまだありますよ、きっと。
カリムやマリーの魔力量やランクって、NanohaWikiにも無いですし、公式で出てないですよね?
というわけで、毎度お馴染みの独自設定になります。