バーベキューから帰った後、日曜の夜。
大騒ぎの後だけど、土曜の朝に来日した事になってるヴィヴィオの歓迎会、それと、連れて行けなかったアギトを含めたパーティー的なものを決行。
ヴィヴィオは公的な身分が必要でなければ日本で行動出来たから、食器や家具等の準備は完了済み。バーベキューの後で温泉に入ってきたから、改めてお風呂に入る必要も特に無い。
「つまり、後は着替えて寝るだけだから、ゆっくり楽しんでくれ。
但し、明日は平日だ。学校やらに響かない程度にな」
というわけで、パーティー開始へ。
但し、みんなお昼に食べ過ぎてるから、お鍋がメインのプチパーティー。雑炊の準備も完璧、というか、こっちがメインの可能性あり。アギトも昼は別荘で従者達とバーベキューだったから、凄くお腹が空いたわけでもないし。
ちなみにアギトは、StrikerSの寒そうな服装じゃない。赤い半そでのワンピース、ぶっちゃければ東方のチルノを赤くしたような感じになってる。
「けど、アタシまでこっちに来て、本当にいいのか?
この世界って、魔法が隠されてるんだろ?」
「見られなければ問題ないし、その程度の対策はしてある。
裏で何かやってると思われるのもなんだし、今のところシグナムがロード候補だと聞いているから、変に離しておくのもあれだ。
それに、フルサイズの状態が安定したら、こっちに来るだろう? その予行練習のようなものだと思えばいい」
「そりゃあ、一緒に居れるのは嬉しいけどよ。ずっと居ていいわけじゃねーよな?」
「まずは雰囲気に慣れるところからだな。他人に見られる状況にするわけにいかないから、たまにこっちに呼ぶ程度になるだろう。
普通に暮らせる程度に安定するには、最低でも1年程度の時間をかけた方がいい様だしな。精々数か月の予定だったヴィヴィオはともかく、そこまで長いなら、別荘だけというよりもいいだろう?」
「そりゃそうだけど……アタシみたいな大きさの人は、ここにはいないんだろ?
なのに、アタシが使える食器なんてあっていいのか?」
アギトの前にも、当然食事を用意してある。
でも、お猪口や小皿、フルーツフォークといった一般的なものを使ってるから。
「食事関係の道具として普通にある物だけで、見られて困るようなものは使っていないから気にするな。
その分、使いにくい大きさのものも交じるし、どうしてもという場合は何か考えるが……フルサイズが安定するまでは、ある程度諦めてくれ」
「使い勝手とかはそこまで気にしないし、旨いものが食えるんだし、文句は無いって。
とりあえず、あれだ。これからはこっちにもたまに顔を出すけど、よろしく、って事でいいんだよな?」
「ああ、それでいい」
「それなら、私からも。
これから正式にエヴァさんの片腕として働くため、こちらに住まわせて頂くことになりました。
仲良くしてくださいね」
「別荘で散々会っとるし、硬い挨拶はええよ。
な、エヴァさん」
「そうだな。それに、待ちきれない様子なのがいるようだし、そろそろ始めよう」
「待ちきれてなくねーです」
八神ヴィータがじと目でお姉様を見てるけど、箸とフォークを握りしめてるから説得力無し。
でも、無意味に引き延ばす必要も無い。鍋の中もいい感じだから、そろそろ食べるべき。
◇◆◇ ◇◆◇
翌日、つまり月曜日。
夕方と言うには少々早い、おやつの時間。別荘にプレシア・テスタロッサがアリシア・テスタロッサを連れてきた。
「ひろーい!!」
アリシア・テスタロッサは、訓練場となってる広い荒地を嬉しそうに駆け回ってる。
蘇生してから、ここまで広い場所に行った事は無いかもしれない。
療養した時間加速型の別荘、時空管理局の病院、日本の街中。
温泉近くのバーベキュー場も、ここまでの広さは無いし。
「転ばないよう気を付けて、アリシア。
怪我をしたら大変だから」
「はーい!」
その様子に目尻が下がりっぱなしのプレシア・テスタロッサだけど、今日の目的は別荘の紹介じゃない。
「それで、いつ魔法の練習を始めるんだ?
デバイスは準備済みだと聞いているし、魔力の封印を解くから訓練場に来たんだろう。
というか、いつの間に準備していた?」
「本局で缶詰になっている時に構想を練って、裁判が終わった後で手配していただけよ。
時間がある時に調整していたから、かなり良い出来になったと自負しているわ」
「そうか。私は基本的に立会いでいいんだな?」
「娘の事だもの。だけど“おねえちゃん”として手を出したいなら、構わないわ」
「いや、本人に望まれない限りは、様子見をしよう。
魔法の資質が増えた理由は気になるし、目的があったとはいえ助けた以上は見捨てないが、指導方針で対立しても面倒だ。ミッド式なら、私の出る幕は無いだろうしな」
「そう。じゃあ、始めましょう。
アリシア、こっちにいらっしゃい」
「はーい、ママ」
そして始まる、魔法教室。
アリシア・テスタロッサに渡されたデバイスは、待機状態は改造前のバルディッシュに似た三角ワッペン、起動状態は水晶球付きの短い杖……ぶっちゃけマイクみたいなデザインのインテリジェントデバイス。
声は外見に似合わないけどバルディッシュと同じ渋い声で、名前はバルエシュカというらしい。
「早目に、魔力の制御に慣れる必要があるわ。デバイスが補助してくれるけれど、あまり頼り過ぎても駄目よ。
まずは、光を灯してみましょう。魔力を込めすぎると眩しいから、気を付けるのよ?」
「うん、わかった!」
◇◆◇ ◇◆◇
そんな感じで、アリシア・テスタロッサも幼稚園の後に別荘で訓練するようになって、数日。
合宿組が帰った後、要するに夜中に、リインフォースから受け取ったデータの解析結果の報告を敢行。ぶっちゃけあまり宜しくない結果だから、早めに報告しないと後がやばい。
「随分と無茶な改造がされたものだな……方向性の予想だけは出来たが、斜め上過ぎるだろう」
防衛プログラム、ナハトヴァールの魔改造。内容はともかく、方向性は想定内。
管理者権限の抑制や自爆まがいの暴走は、闇の書の破壊を目論んだ改造の結果。正確に言えば、主の権限を抑え込んで蒐集した魔力を横取りし、自己を巻き込む破壊行動に出る。これは、無限書庫の資料にも残ってた。
これを実現する為か、本来は重要なリインフォースとのパスが劣化してるし、主とナハトヴァール間の直接パスが超絶強化されてる模様。結果的に、侵食が無くても命を削る上に、こっちのパスが上位として扱われるような腐れ仕様化してるけど。
守護騎士はリインフォースとのパスではなく、ナハトヴァールとのパスを使用してる。元々の仕様ではないような感じだけど、最終的に守護騎士が取り込まれるのは、ナハトヴァールが全力稼働する際に邪魔になるからという可能性も。
このパスの現状を放置すると、ナハトヴァールの降格が出来ない。ナハトヴァールを切り離してリインフォースに接続すると、ユニゾンで事故を起こす可能性が高い。劣化してるリインフォースとのパスだけだと、真の主になるには心許ない。
「……接続を変えた場合に、ユニゾン事故を起こさない可能性は?」
限りなく0%。現状ですら事故率が高すぎる。
パスの加工は、少なくとも八神はやて側が困難。既に穴をあけられた状態だし、ここを短時間で変えるのは無理。
夜天の魔道書側だけを本来の状態に戻したら、守護騎士へのパスが消失する上に、パスの能力不整合で、やっぱり八神はやてが主としての資格を喪失する可能性が高い。そうなると、転生してしまう可能性がある。
八神はやてが夜天の主として生存するためには、現在ナハトヴァールにつながってるパスをリインフォースに繋げるのが最良。接続を変えなくてもユニゾン事故を起こすなら、ユニゾン自体を諦めてもあまり変わらない。
「うん、色々と駄目だな。抜け道があればいいが、ゆっくり探るしかないか。
基礎構造自体についてはどの程度調べてありそうだ?」
かなり微妙。少なくとも、変に弄った形跡が多々あるのは間違いない。
詳細な調査を行うには、情報不足。
だけど、リインフォースも権限が制限された状態で調べてる以上、ここまで解ったのはきっとすごく頑張った結果。
「そうだな。やれやれ、最終手段の候補だった完全初期化も、はやてが犠牲になるとはな。
誰だ、はやてをこんなに苦しめる様な仕様にした馬鹿は」
答え1、人の欲望。
答え2、神もどき。別名ジュエルシード。
答え3、世界。現実は非情。
「……つまりあれか。1で八つ当たりすべき相手がいない事でもやもやして、3だと思い絶望するも、最終的にジュエルシードのせいだという事か?
突き詰めれば、青のデバイスを作った私のせいなのか?」
そうは言ってない。
それよりも、夜天をどうするかが問題。
「可能な限り、はやてと守護騎士も助けたいが……そうなると、初期化は本当に最後の手段だな。
最低限、パスの構造を組み替えてリインをナハトより上位に戻すのは必須。融合事故は別途何とかするしかないが、方法は後で考えるか。
ナハトに限定した部分初期化はいけるか? 変に改悪部分を探るよりも早そうではあるし、予定通り闇の書の罪を背負って一度消滅してもらった方が、事後を考えると楽そうだ」
原作の流れを踏襲するなら、きっと可能。
但し、八神はやてとリインフォースの頑張りが必須になる。
「あいつらに大きな責任を負わせるのもどうかとは思うが、それ以外の手段となると……少なくともはやてが犠牲になる可能性が高い、か」
管理者権限無しで介入した時点で、八神はやてに死亡フラグが立つ。
フラグの回避方法が不明だから、これを前提とした作戦はお勧め出来ない。
「だが、はやての意識が戻らない場合は、私達でどうにかする必要があるからな。
強制介入も含め、使える手段の模索は続けるぞ」
了解。
◇◆◇ ◇◆◇
その後、調査をしたり、八神はやての協力で例の
やっぱり記憶領域の空き容量に問題が出たから、リインフォースの記憶もバックアップの為に受け取った。抜けも酷いしかなりあやふやになってる部分も多いし、魔法関連の記憶は有難いけど、判明した範囲でも正直言って色々酷い。
特に、歴代の主にリインフォースや守護騎士がどう扱われたか。原作で八神はやてを殺してしまう事を嘆いてたのがよく解るくらいに、道具扱いされてる事が圧倒的に多い。次に……うん、色々な意味で、言わない方が良さそう。とりあえず変態死ねとだけ言っておく、もう死んでるけど。
まれに現れる優しい主の多くが“闇の書”の破壊、そしてリインフォースと共に死ぬ事を求めたから主や自分を殺すような改編も受け入れて、他の主による扱いの悪さがそれに拍車をかけてたって、どれだけ世界に嫌われてるんだろう。
お姉様に関する記憶は無いけど、魔法の情報は義務感的な感じで送ってくれてた模様。闇の書完成から暴走までの短い時間しか出来ないのに、きっと生真面目な性格がそれを続けさせてた。ありがたやありがたや。
その間も本局でギル・グレアム達が色々と動いていたけど、とうとう闇の書を起動する世界や同行者の選定と調整に目途がついた。
概ね予想や想定の範囲内、第108無人世界ルスターに、執務官やら高官やらを合計20人くらい、それと武装局員の中隊を2つ連れて行くことになりそう。
調べてみたら、最高評議会の息がかかってるのはお偉方。参加者に名を連ねてる悠久の翼の幹部は黒。高官も黒。未確定だけど査察官も恐らく黒。
執務官や武装局員は、比較的白い模様。
「つまり、指揮系を掌握して査察を好きに出来れば、執務官や下っ端は黙らせやすい、と」
恐らくそういう人選。
何かあった場合に命懸けで動くのは執務官や武装局員が先。
手駒を捨て駒にしない意味もありそう。
「優秀なんだか、解りやすいんだか。
対策はどの程度出来そうだ?」
守護騎士を連れて行くべきか微妙。関係者としてプレシア・テスタロッサが来るのは確実で、嘱託魔導師の同行は拒否されないはず。聖王教会組とギル・グレアムと猫も来るのは確実だし、白い執務官が味方に付けば、アースラ内の戦力的には全く問題無い。
但し、執務官も敵だと、私達がちょっと本気を出す必要があるかもしれない。
問題は、高官、幹部、査察官。ここの権力をどう止めるか。黙らせるネタはそれなりに集まってるし、聖王教会と事を構える覚悟があるか不明だけど、うるさい可能性は高そう。
「連中が捨身で来ない限り、止まるはず……いや、腐れ脳みそが絶好の機会と見て、嫌な圧力をかける可能性もあるか。
下手につついて、過剰反応をされても面倒だ。現場で手を出して来たら全力で反撃、それ以外は基本スルーでいいか。
そろそろ蒐集も佳境のはずだったな。今のペースなら、あとどれくらいだ?」
既に600頁を超えてる。
魔力量的な意味で大物の犯罪者が数人、蒐集候補に挙がってる模様。決行時の最後の生け贄はこの数人を現地に連れて行く可能性が高い。計算上は、もう少し蒐集しておけば完成に手が届く。
あと1週間以内に、決行可能な状況が整う可能性が高い。ギル・グレアムや時空管理局も、それを想定して準備を始めてる。
あと数日は小口で蒐集、その後、待機してる巡航L級13番艦ヴィクタムに関係者やらが乗って地球方面に移動を開始する。
「……アースラの同型か? アルカンシェルは?」
もちろん搭載済み。但し、現場付近にはアースラだけで行くことになってる。
ヴィクタムは後方で待機し、最悪の場合の切り札を担当する形。
最前線で現地入りしないよう、ギル・グレアムががんばった。
「そうか。それなら、一応は安心か……? 中途半端に介入してこないか注意する必要はありそうだが。
しかし、リインフォースに本来の情報を渡せているだけマシだが、何とかしてはやてを助ける切り札も必要か……」
魔法幼女ミラクルアリシア、始まりま……す?。
活躍しないけどねっ!(プレシアの圧力的な意味で。危険な場面にはきっと、魔○○女OYABAKAプレシアが出張ります)
最初に練習するのは、ネギまでおなじみの火よ灯れ……ならぬ、光よ灯れ。戦闘に参加させるつもりが全くないから戦闘用魔法は論外、火は火傷するかもしれないぢゃない。