青の悪意と曙の意思   作:deckstick

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アルハザード編9話 崩壊

 お姉様の最高貴族院議長就任未遂から1年。

 新たに議長になった貴族も、暴走気味。

 ついでに、最高貴族院自体も暴走気味に。

 

 自分たちが抱える研究者では、お姉様の技術を扱い切れないのが不満なのか。

 色々と研究や実験を繰り返している様子。

 特に執着しているのが、空間魔法と時間魔法。

 この二つの魔法に関する実験は、群を抜いて多い。

 同じくらい、資料の要求や身に覚えのない糾弾も多い。

 

「必要な資料は全て公開しているのだが、何を疑っているのやら」

 

 お姉様は、理解できないとばかりに嘆いている。

 事実、空間魔法と時間魔法に関する資料は、全て公開済み。

 

「実力不足を認めるのが嫌なのでしょう」

 

 同じ資料で、主様の研究室は再現に成功している。

 常時展開できる規模での空間生成は試せていないようだが。

 

「それにしても、上層部もテロ組織も、相当焦っているな。

 崩壊は近い、か」

 

 チャチャマルがいれたお茶を飲みながら、二人はのんびり話している。

 ここにいるのは、お姉様と主様、それにチャチャマルとチャチャシスターズのみ。

 盗聴防止も完璧。

 遠慮なく話ができる。

 

「崩壊の切っ掛けを予想してみましょうか?」

 

「切っ掛け、か。

 予想する以前に、既に始まったようだ」

 

 主様が「切っ掛け」と発言するのとほぼ同時。

 貴族達の実験場が不自然に光った。

 

「自爆テロ、かしら?

 今は時間魔法の実験中だから……まずいわね」

 

 主様が、実験内容についての資料を見ている。

 実験内容は、過去への干渉。

 お姉様や私達も手を付けていない領域、手法。

 

「暴走は必至だろう。

 既に、空間の崩壊が始まっている」

 

「終わりの、始まりね。

 どれくらいの人を見捨てることになるのかしら?」

 

「この崩壊の仕方は……恐らく、この星が虚数空間に落ちる程度で終わるだろう。

 20億と少々だな。

 私達が今まで殺してきた数より、ずっと少ないとも言える」

 

「そうね。

 それでも、知り合いを見捨てるのは……辛いわ」

 

「助けるか?

 不可能ではないだろうが、アルハザードの存続に繋がるぞ」

 

「……やっぱり、アルハザードという国の存続は望めないのよ。

 でも、身近な、助けることもできる友人の死を見届けるのは、予想以上にね」

 

「私達の選んだ道だ。

 後悔は、今まで殺してきた者達への侮辱に繋がるぞ」

 

「分かっているわよ」

 

 そう言いながらも、主様の顔色は優れない。

 お姉様は、一見いつも通りの雰囲気を保っている。

 それでも、やるせない思いでいることは、私達に伝わってくる。

 

 

 そのまま、無言のまま時間が10分ほど過ぎた頃。

 アルハザードの空気が変わった。

 

「虚数空間に落ちた、か。

 これで、アルハザードから殆どの魔法が消えた事になる」

 

「そうだけど……どうして普通に活動していられるの?

 魂はともかく、活動媒体としては魔導具のはずだけれど」

 

「ああ、知らなかったか?

 空間生成の魔法は、虚数空間内に実数空間を作る魔法だ。

 それに、虚数空間は魔法に虚数ノイズが入る空間でもある。

 虚数ノイズを拒否できる結界を自分の周囲に展開する事で、通常通りというわけだが」

 

「そう……だったの……」

 

 主様は、衝撃の事実に唖然。

 空間魔法の真実についてなのか、虚数空間の実態についてなのか。

 どちらにしても、公開した事のない情報。

 

「ただ、虚数空間に包まれている点は動かしようがない。

 自分から結界までの僅かな距離しか魔法は届かないし、正常な転移は使用不可。

 脱出はランダム転移か無限転生頼みという点に変わりは無い。

 転移での脱出率が0ではない事と、実行するタイミングを選ぶ事が出来るだけだな」

 

「いえ、それでも、やりたい事が増えたわ。

 現状を確認すると、アルハザード首都を含むこの星は、虚数空間に落ちた。

 この星では最早魔法は使えず、魔導具や魔導炉も停止。

 太陽も魔法も無い絶望的な環境で、人類は滅亡以外に道は無い。

 この認識に間違いは無いわね?」

 

「無いな。

 気合のある人間がいても、自給に耐える自然もない。

 飲用水すら得られない環境では、どうにもならないだろう。

 建物も魔法の補助なしでいつまで建っていられるか怪しいものだ。

 それにしても、虚数空間は思ったより明るいな。

 空の色は不気味としか言い様がないが」

 

「原作の虚数空間そのままじゃない。

 理解不能という程ではないわ」

 

「そうだな」

 

 主様は多少落ち着いてきたようだ。

 やはり、予想外の事態と情報に動揺していただけなのだろう。

 

「さて、ここで動けるという事なら、二つ命令があるわ。

 完遂してもらえるかしら?」

 

「内容次第だ。

 ここまで来たんだ、勿体ぶる必要はないだろう?」

 

「そうね。

 一つ、この地のアルハザード人全ての抹殺。

 一つ、この地に残る技術の完全破壊。

 返答は?」

 

「二つ目は了承した。

 一つ目の意図は?」

 

「飢えや乾きで獣に堕ちる友人を見るのは忍びないわ」

 

「ふむ、確かに。

 その意図なら、速やかに行うべきだな。

 とは言っても、魔法の範囲が狭い以上、物理的な手段を取る必要があるか」

 

「拡散は資料の一部でも防ぎたいから、全てが灰になるまで焼き尽くして。

 出来る?」

 

「徹底するのか。善処しよう」

 

 

 ◇◆◇  ◇◆◇

 

 

 在庫を抱えていた各種高性能爆弾を乱発。

 1日に満たない時間で死の星と化したアルハザード。

 全ての建物は崩壊し、一部は地形すら変わっている。

 

「これで、研究所や情報がある場所は全て破壊。

 生きている人もいない事は確認済み。

 これで、アルハザードの終焉は見届けたか」

 

 お姉様は、何かをやり遂げたような、やってしまったような。

 複雑な表情で、荒野と化した地上を見下ろしている。

 隣に浮かぶ主様も表情は似たようなものだ。

 

「……まだ、全ては終わっていないわ」

 

「ん?

 漏れがあったか?」

 

「いえ……ここに、アルハザード人がまだ一人いるもの」

 

「……死ぬ気か?」

 

「貴女のせいよ?

 私のやってきたこと。

 私がやろうとしていた事。

 良い面だけを見れていたら幸せだったのだけれど」

 

「……私が、何か言ったせいか」

 

「そうとも言えるわ。

 だけど、貴女に罪は無いから安心しなさい」

 

「どこに安心できる要素が?」

 

「全ては私が選択して行動した結果よ。

 それと、これを渡しておくわ」

 

 主様の言葉と共に、渡される記憶。

 お姉様だけが発動できる、お姉様のための魔法。

 意図的に残されたバグ。

 チャチャゼロが主を登録しようとすると、剥奪した魂の感情が逆流。

 それを逆手に取る、自壊魔法。

 剥奪済みの、億を超える魂。

 怒り。悲しみ。絶望。

 喜び。楽しみ。希望。

 方向は様々。きっと、引き裂かれる。

 

「私だけが死ねるのは、不公平でしょ?」

 

「私は既に、7000人を超える命と、億を超える魂を抱えているんだ。

 早々死ねるものではない」

 

「……そうね。

 だけど、それは私が命じた結果よ。

 少なくとも、貴女の意思で奪った命は無いわ」

 

「それでも、私が背負っているものだからな。

 まあ、折れるまでくらいは付き合ってやるさ」

 

「強情ね。たまには息抜きを覚えることも大事よ?

 それに、貴女は本来魔導具。道具を使った責任は、主である私にある。

 必要以上に抱える必要はないわ」

 

「押し付けてよいものでもないぞ」

 

「あら、押し付けられてなんていないわよ?

 私が勝手に持っていくだけだもの」

 

「そうか。

 ……最後に、一つだけ教えてくれ。

 私は、リーナの希望で在れたか?」

 

「ええ、最大級の希望よ。

 後を託せる程に、ね」

 

「そうか」

 

 お姉様はしばらく目を閉じると、小さく微笑んだ。

 

「さてと。そろそろ行動開始かしら。

 私がいなくなってからは、貴女は貴方自身になりなさい。

 いいわね?エヴァンジュ……いえ、一樹」

 

「……分かった。では、始めるぞ」

 

 お姉様は自分の胸に手を当てると、薄紅色の光を二つ取り出す。

 

「最後の確認だ。

 本当に、いいんだな?」

 

「ええ。後はよろしくね?」

 

 

 ◇◆◇  ◇◆◇

 

 

 その後、リンカーコアを再剥奪されて眠るように倒れる主様を、お姉様は悲しそうに見下ろしていた。

 

「何が、後はよろしくだ……」

 

 それでも、手は動き、各種燃料を用意していく。

 

「何が、自分自身になれだ……」

 

 並べた燃料に火をつけ、傍らに腰を下ろす。

 待つ事しかできなくなったお姉様は、立ち上る煙をぼんやりと眺めている。

 

「私は、もう、何にもなれんぞ……

 お前だけに、持って行かせるものか……」

 

 その後、主様の遺体を入念に焼き、小さな墓を作った後。

 お姉様は、別荘へと向かう。

 

「理想は、転移での脱出。

 最終手段で無限転生になった時は、妹達も一時的に眠りにつく。だったな?」

 

 便利な技術も、どこかに制限はある。

 そもそも構造に無理のあるお姉様は、転生の際に殆どの機能を停止させる必要に迫られている。

 停止するのは、お姉様、チャチャゼロ、チャチャマル、私達。

 お姉様の停止に伴い、全員が停止して無限転生が発動。

 周囲の魔力素を集めて、最初に起動するのがチャチャゼロ。

 お姉様が眠っている間の主の選定と設定が、チャチャゼロの役目。

 お姉様を起動するために必要な魔力が集まったら、チャチャマルが自動起動。

 お姉様と私達を起動するのは、チャチャマルの役目。

 

 眷属、使い魔、従者は、お姉様から離れすぎると体の維持や制御が困難になる。

 転生の際にお姉様と離れた者は、停止に追い込まれる可能性が高い。

 魂やリンカーコアの本体はお姉様の中。体は死ぬけど存在は消失しない。

 別荘はお姉様と繋がっている。

 別荘にいる限り、停止は無い。

 別荘の空間座標は、お姉様、私達、チャチャゼロ、チャチャマルしか判定できない。

 お姉様が起動するか、チャチャゼロが知らせるかしない限り、出ることができない。

 

「つまり、私や妹達がいなくても大丈夫な位に設備を揃えたのは、正解だったわけか」

 

 無限転生の仕様から、可能性を考慮。

 宵天からの娯楽情報も、熱海の大型建築物に準備。

 各種研究も環境に悪影響が出ない限り許可。

 新技術や新しい食材の開発に期待。

 転生によるお姉様の休眠の可能性について、通達完了。

 転移及び転生実行可能。

 

「そうか。では、旅を始めようか」




次話は、漂流編(1話。割と短い)です。
簡単なまとめと言う名の設定資料を挟んで、ようやく原作に入ります。

なお、チャチャゼロがリーナを問題なく主として登録できた理由は「剥奪した魂」が無かった、つまり、逆流する感情が無かったからです。


2013/07/03 切欠→切っ掛け に修正
2017/04/25 だた→ただ に修正
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