青の悪意と曙の意思   作:deckstick

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A’s編42話 作られた者達

 そんな感じで、アースラに戻ってきたお姉様達。

 ブリッジに直接転移したのはいいけど、カミティー・クカヴァタとガング・ロフィーニを中心に、武装局員が戦闘態勢を取ってる。査察官もその中にいる。

 ハラオウン親子とグレアム一派とテスタロッサ親子、八神チャチャ、成瀬カイゼ、ユーノ・スクライアが相対して睨み合ってる形。

 聖王教会組や派遣されてる執務官は中立というか、一方に肩入れするのを躊躇ってる様子。

 

『ふむ、何かお前達に不都合でもあったか?』

 

「あれだけ大口を叩いておいて、何人犠牲にしたか解っているのか!?

 それに、何十億もの人を殺してきたとは、どういう事だ!」

 

「それに、まさかユニゾンデバイスとは。

 明らかにロストロギア、見過ごすわけにはいきません」

 

 ガング・ロフィーニとカミティー・クカヴァタが、何か騒いでる。

 正義馬鹿に近い言動なのは情報として知ってたし、予想通りの行動ではあるんだけど。

 暴れてないだけマシとはいえ、予想通り過ぎて胸焼けしそう。お姉様もため息をついてるし。

 

『はやての命とグレアムの立場を犠牲にしようとしていたお前達に言われたくないな。それに、当時の私は軍人だ。上の指示に従い人を殺す役目を全うした事に、何の問題がある。

 それで、私達をどうしたいんだ。平穏を脅かそうというなら、容赦せんぞ』

 

「そんな満身創痍で、何をしようというのだ。

 大人しくした方が身のためだ」

 

『大人しく封印か破壊されろと?

 冗談じゃない、お断りだ』

 

 ユニゾン継続中だけど、主は目が潰れてるし、解除してもお姉様は片腕を飛ばしたままだし。

 見た目的には、五体満足とは言い難い。

 そうやって言い合っていると、カミティー・クカヴァタの秘書、要するにクアットロが、エイミィ・リミエッタの方へ。

 

「そうやって言い合っていても、事態解決の役に立ちませんわねぇ。

 ここで真打の登場、といきましょうかぁ」

 

「何をやっているヴィオラ!

 勝手は許さんぞ!」

 

「あらぁ、ご自分の胸に、それを言える立場か聞いてみてはぁ?

 それでは、ちょっと失礼」

 

 ぽちっとなという感じであっさり、エイミィ・リミエッタが止める暇も隙も無い早業で通信を繋げて。

 モニターに現れたのは、要するに変態博士ことジェイル・スカリエッティ。

 

『おや、予想通りの展開という事かね、クアットロ』

 

「ええ、やっぱりおバカさん達が暴走しましたぁ。喧嘩を売りたいみたいですねぇ」

 

『なるほど、2書共にユニゾンしたままという事は、少々お困りのようだ。

 ウーノ、予定通りだ』

 

『はい、ドクター』

 

 映像には1人だけど、近くにウーノもいるらしい。その声と同時にアースラとヴィクタムの、相互以外の通信がほぼ断絶状態になった。

 声はしないけど、他に誰かいる気配もある。

 

『さて、こうして話すのは初めてになる。

 知っている者もいるだろうが、私の名はジェイル・スカリエッティ。お偉方の2人には、馴染みのある名前だろうね?』

 

「有名な次元犯罪者ではないか。

 貴様のせいで、どれ程の被害が出ているか。大人しく捕らえられろ!」

 

 ガング・ロフィーニが騒いでるけど、仲間ではないらしい。

 同じように、後ろ暗い同類なのに。

 

『ほう、私に行動を指示した者の部下が、結果を問題にするとは。

 片腹痛いとは、こういう事を言うのだろうね』

 

「……何を言っている?」

 

『時空管理局最高評議会。

 事実上、次元世界を統べる組織で最上位にある彼らだが……さて、本当に今でもそれに値する人物なのかね?』

 

「何を言っている!

 次元世界を平定した功労者達が、行く末を見守るために作った組織なのだぞ!」

 

『ふむ、やはりその程度か。やれやれ、これでは犬と呼ばれるのも仕方がない。

 それでは、最高評議会に作られた私に与えられた、最高評議会からの指示はどう判断するかね?

 具体的には、人造魔導師の製造、戦闘機人の製造、ロストロギアの研究、最近では聖王教会から聖遺物を奪え、というものもあったのだがね』

 

「自らの罪を、最高評議会の方々に擦り付けるつもりか!

 ふざけるな!!」

 

『感情的になるだけで、論理的な反論は無いのかね?

 では、説明してあげるとしようか。

 今から60年少々前、暦が新暦に変わって間もない頃の話だ。最高評議会がある女性の遺伝子情報を手に入れたのが、私達の始まりになる』

 

「女性の遺伝子だと? 男のお前に何の関係がある!」

 

『その人物の名は、リーナ・ファ・ニピン。ある古い国で大魔導師や技術者の頂点等と呼ばれた人物なのだが、最高評議会は、そのクローンを作る事に成功する。

 そのクローンは順調に成長し、オリジナル同様に大魔導師と呼ばれるほどに成長するのだが、ここで一つの誤算があった。本格的な人造魔導師の研究を行わせるはずが、興味が別の技術開発に向いてしまったのだよ。

 管理局に入った後に生命の誕生を目論む精神誘導も行われたようだが、それは結婚と出産に意識が向くという結果に終わった。そのため娘を殺害され、蘇生の代替手段としてのクローンによる人造魔導師の製造に携わる事になるのだが……』

 

「何を根拠のない嘘を並べている!

 そんな証拠がどこにあると言うのだ!!」

 

『おや、その本人を前に、よくそんな事が言えたものだ。

 どうかね、プレシア・テスタロッサ』

 

「……否定するだけの根拠は、持ち合わせていないわ。

 リーナとかいう人物のクローンであり、精神に影響する魔導具が体内に在ったというのは、事実よ。

 それがどう関係するのか、嫌な予感しかしないけれど」

 

『では、話の続きといこうか。件の大魔導師が管理局に入った後、精神誘導のための魔導具の交換が行われた際に、体内からある物が取り出されたのだよ。

 それが何か、正義感の塊に予想出来るかい?』

 

「それが何だと言うのだ!

 ここにこうしている以上、命に別状はないのだろう!?」

 

『うむ、命に問題は無い。だが、生命に対する冒涜ではあるだろうね。

 正解は卵子であり、それを使って生み出されたのがジェイル・スカリエッティという人形、つまりは私だ。

 解るかね? プレシア・テスタロッサとジェイル・スカリエッティという存在は、最高評議会が意図的に生み出した奴隷なのだよ』

 

「何を馬鹿な「黙りなさい」っ……!!」

 

 プレシア・テスタロッサの一睨みで、ガング・ロフィーニが黙った。

 大魔導師の本気の威圧感、半端ない。

 

「ジェイル、今の話は本当なのかしら?」

 

『勿論だとも、プレシア・テスタロッサ。

 いや、母上とでも呼んだ方が良いかな?』

 

「虫唾が走るわ、その呼び方は止めなさい」

 

『それは残念だ。

 私も最近知ったのだが、君が入局して2年程した頃に、卵子を取り出されたらしいのだよ。それを材料に5年程の歳月をかけて作られたのが私、という事になるようだ。

 実に面白いと思わんかね? 私が作られ人造魔導師の研究を命じられたのは、クローン技術の権威であったリーナ・ファ・ニピンのクローンである君が、その道に進まなかったからなのだよ』

 

「……そんな話を今している意図は、何かしら?」

 

『これに見覚えがあるだろう? 私の中にも、これがあったのだよ』

 

 ジェイル・スカリエッティが見せたのは、見覚えのある思考誘導の魔導具。

 プレシア・テスタロッサの体内にあったものと、見た目は一緒。

 

「……ええ、あるわ。精神誘導の魔導具でしょう?」

 

『忘れていないようで何よりだ。

 私の場合は、未知に対して高い興味を示す事と、時空管理局や最高評議会といった権威あるモノを無条件に信用するという事の2点の様だ。つまり、研究者という名の奴隷を作るのにちょうどよい代物という事になる。

 特に、無条件に警戒感を解く処置は効果的だ。同様の処置をされていたのではないかね、プレシア・テスタロッサ。

 あれほど愛していた娘を殺された事故で、不確定な研究対象を示されただけで取引を受け入れたのは何故か。駆動炉を個人的に開発するなどという指示を受けたのは何故か。大した体調不良でもないのに何日も入院しなければならなかったのは何故か。

 これらについて、考えた事はあるかね?』

 

「……ふふっ、影響が無くなった今でも、改めて考えたくない過去よ。

 それで、何を言いたいのかしら? 管理局と一戦交えろ、とでも?」

 

『結果的にそうなる可能性は否定しないが、少なくとも今は違うのだよ。君達が現在住む世界の言い方だと……そう、旅は道連れ、といったところか。

 私が私であるために、最高評議会は障害なのだよ。それは、君やその仲間達にとっても同様だ。

 誤った正義感で固められた人物の態度を見る限り、理解出来ていると思うが。どうかねエヴァンジュ……いや、曙天の指令書殿?』

 

 お姉様に話が振られたけど、ジェイル・スカリエッティは割とお姉様を立ててる。

 アルハザードの名を出さないとか、殿と呼ぶとか。

 

『私の事も調査済みか。

 だが、今の話だと世界に喧嘩を売りたいようにしか聞こえんぞ』

 

『精神の支配が解けた後に、改めて考えてみたのだよ。私が私であると言えるのは何処か。私が何をやりたいのか。その為には何が必要か。

 無限の欲望と呼ばれる程の知識欲、障害を排除してでも突き進む探求心は、無くなったわけではない。生命操作技術への興味も残っている。それは認めよう。

 だが、私としても意外なほど落ち着いている上に、未知なるものへの興味が、今の私を動かしているのだよ。つまり、根幹は研究者や探究者であると考えて、間違いないのだろう。

 そして、研究や探究を続けるために必要となるのは何か。それは、自由だ。

 おっと、勘違いしないで貰いたいが、別に管理局を今すぐどうにかする必要性は感じていない。むしろ、それなりに落ち着いた世界でなければ落ち着いて研究する事も出来ないだろうから、管理局やそれに類する組織の必要性は理解出来ている。その意味では、今の私は比較的管理局自体に敵意を感じておらず、むしろ協力しようという気にすらなっている。この点は安心してくれたまえ』

 

『つまり、やりたいのは交渉か……?』

 

『依頼、もしくは取引だよ。私としては、犯罪者としての扱いを止めてもらいたいのでね。

 当然、今後は無暗に周囲を巻き込むような研究やらを行わない事が前提となるだろう。加えて、私にそのような行動を取らせていた、最高評議会に関する情報を渡す事が可能だ。

 理解しやすいように言えば、諸悪の元凶に関する情報提供者となり、今後の行動について周囲への影響を考慮する代わりに、元凶の指示によるこれまでの行動の責を求めるな、という事だよ』

 

『私に利は無いな。受けなかった場合は?』

 

『管理局の者達は、明日も生きている事を、居もしない神に祈る事になる。

 書の2人は、管理局を潰すという大仕事を行う事になるだろう。

 最高評議会や管理局には、人には過ぎた力だという事実も理解出来ない者や、扱い切れない力だと理解し切れないまま利用出来ると盲信する者が多いのだよ。

 このままでは全面戦争、私が手を出すまでもなく管理局が壊滅する事は確実だ』

 

『ふむ。受けた場合は?』

 

『最高評議会やその配下の排除に、全面的に協力しよう。

 利が無いと言っているエヴァンジュにも、愚か者が減る恩恵はあるだろう。加えて助手も用意するが、どうかね?』

 

『……さて、どうしたものか』

 

「あら。思ったよりも冷静ね?」

 

 困ったように呟いてるお姉様の声に、リンディ・ハラオウンが反応した。

 とっても意外そう。

 

『プレシアという前例があるだけに、腐れ脳味噌の連中なら確かにやりそうだと納得してしまってな。それに、私よりもプレシアの方が、直接的なだけに精神的なダメージが大きそうだ。

 それより、時空管理局としてはどうするんだ。最高評議会やらが主導して違法なはずの人造魔導師や戦闘機人を研究していたなどスキャンダルもいいところだろうし、その排除に動くなら協力するが』

 

「そうね……それに、そうでなければ、敵対する未来しかなさそうね。

 グレアム提督、ここで決断しましょう」

 

「そうだな。

 宣言する! 我々は、時空管理局を正しき道へ戻すため、時空管理局に巣食う闇の排除の為に立ち上がる!

 これは反逆ではない。時空管理局の理念に反する者、法に反する者に対する、強い姿勢と意思を示す為のものである!」

 

『素晴らしい、実に素晴らしいよグレアム提督。今はまだこの場にいる者達にしか伝わっていないとはいえ、その意気は称賛すべきものだ。

 では、宣言通り私が持つ情報を渡そう。有効に活用してくれたまえ』

 

「待て! 私達は納得していない!!

 そこのロストロギアを裁く方が先だろう!!」

 

 ガング・ロフィーニが煩い。

 というか、裁くって何をだ。

 

『ふむ、エヴァンジュの事かね?

 彼女が一体どのような罪を犯したのか、是非説明してくれたまえ』

 

「何の権限も無いまま何人も傷付け死に追いやった事が、何の罪にもならないとでも思っているのか!? そもそも大量殺人を自白しているのだぞ!!」

 

『権限があれば何をやってもいいように聞こえるし、自白があれば証拠はどうでもいいとも取れるが……とりあえず、被害者がいなければよいのか?』

 

「明らかに死傷しているだろう!」

 

『面倒な男だな』

 

 お姉様、ユニゾンアウト。書の姿経由で、本来の幼女モードへ。

 同時に、左腕の破損を修復。主は、えーと。

 

「エヴァ、一度放棄するから、再構成をよろしく。

 痛いのはそろそろ嫌」

 

「そうだな、解った」

 

 というわけで、主も躯体放棄、同時に解体。光の粒になって消えた。

 

「躯体再構成、アコノ、チャチャゼロ、チャチャマル、セツナ。

 ついでだ、少し修正するか」

 

 了解、主とセツナ・チェブルーの障害点の一部修正を前倒し。

 主の足に関する治療準備を適用。

 セツナ・チェブルーの古傷及び後遺症の修正を適用。

 チャチャゼロとチャチャマルは特に修正を指示や許可された点はない。現状維持。

 適用完了、再構成開始。

 

「むっ……な、何っ!?」

 

 驚いてる驚いてる。

 4人の再構成が完了。主は相変わらず浮遊魔法で浮いてるから、車椅子が無くても問題無い。

 

「ええと……セツナさん、よね?」

 

 リンディ・ハラオウンもびっくり。

 これで眷属についてばれるだろうけど、夜天の修正もそれなりに進んだし、問題無いよね。

 

「はい。言いましたよ、必ず生きてまた会えますって」

 

「ええ、聞いたけれど……どうして蘇生出来たのかしら?」

 

「厳密には、蘇生じゃないです。

 これ以上は、あまり人に話す事じゃないので秘密ですけど、他の人では無理ですよ?」

 

「え、ええ……」

 

 納得したのか、してないのか。

 リンディ・ハラオウンはとりあえず頷いた。

 

「チクァーブ。いるな?」

 

「勿論で御座います」

 

 お姉様の声で、再び計器の中から出てきたチクァーブ。もちろん、怪我1つない状態。

 これで、死地に送った全員が揃った。

 

「さて、これで全員の無事が確認出来た上に、誰も被害を受けたと言っていないわけだが。

 おっと、私は大人の姿の方が良かったか?」

 

 お姉様、大人モードに変更。

 これで、全員が元通り。むしろ内部的にちょっとバージョン・アップ。

 ガング・ロフィーニやカミティー・クカヴァタを始め、リンディ・ハラオウンやギル・グレアムも含む時空管理局員や聖王教会関係者達は唖然としてる。

 

『素晴らしい! 素晴らしいよエヴァンジュ!

 では、そんな君へのプレゼントだ。クアットロ』

 

「はぁい、ドクター」

 

 クアットロが、お姉様の前に歩いてきた。

 偽装も解除、原作同様のぴっちりスーツ姿になってる。

 

『まずはクアットロを、従属させてほしいのだよ。

 私が作った戦闘機人の内、4人には無限の欲望たる私の因子が組み込まれていてね。それに君の持つ古の技術がどう影響するのか、見てみたいのだ。

 もしも超えるなり抑えるなりすることが出来たなら、4人全員を君の下へ送ろう。どうかね?』

 

「片腕のウーノまで手放す気か。どんな意図だ?」

 

『言ったはずだよ、無暗に周囲を巻き込むような研究やらを行わない事は前提だと。しかし、その為には私の因子が障害となるのは明白だ。

 私としても、娘達を殺すのは忍びないのでね。君達との関係も強化出来るなら、そう、一石二鳥というものだ』

 

「ふむ……筋は通っているか。

 ところで、そこに変態(ロリコン)……クーネはいるか?」

 

『うむ、ようやくお呼びかね。

 出番の様だよ、大人しく叱られたまえ』

 

『おやおや、叱られるような事はしていないと思っているのですがね』

 

 映像の中、ジェイル・スカリエッティの隣に変態(ロリコン)が現れた。

 表情を見る限り、全く悪びれた様子は無い。

 

「さて、この件はお前の仕業だな?

 何時頃から動いていたのか、何故私に黙っていたのかの説明をしてもらおうか」

 

『時期的には、日本では春と呼ばれていた頃ですね。

 黙っていたのは、プレシアさんの過去を知った時の荒れようを考えて、なるべく穏便に済むよう努力していただけですよ』

 

「で、どこまでがお前の差し金だ。聖遺物の頃には関わっていたのだろう?」

 

『ええ、最高評議会の指示を無碍にするには、色々な準備が整っていませんでしたが。

 カリムちゃんが素早く動いてくれたので聖遺物を無事に返すことが出来ましたし、ついでにミッドチルダの研究所も封鎖出来ました。

 誰にも疑われずに撤収出来たのは、不幸中の幸いでしたね』

 

「まさか、局員が襲撃してきたのもお前達の差し金とか言わんだろうな?」

 

『ハエを追い払うために少々餌を撒いたが、その程度だよエヴァンジュ。

 ロストロギアが存在する疑いがあるという程度の情報に踊り、手柄を求めて突撃した結果があれだ。失敗した時や間違いだった時の為、他人に偽装出来る程度の小細工はしたようだがね。

 その後の行動を見る限り、なかなか良いタイミングだったようだが』

 

「き、貴様が妙な情報を流したというのか!?

 あれのせいで、何人の局員が被害にあったと思っている!!」

 

 あ、ガング・ロフィーニが復活というか、また騒ぎ始めた。

 というか、墓穴を掘る職人に思えてきた。

 

『妙? これはおかしなことを。

 闇の書という第1級捜索指定のロストロギアが、実際に存在していたのだよ。それを未確認情報として伝えたのだが、どこに問題があるのかね?

 身勝手な襲撃を行ったのは、時空管理局なのだよ』

 

「伝えた手法が問題なのだ!

 何故正式なルートで伝えなかった!?」

 

『広域指名手配されている私にとって、何が正式なルートというのかね?

 最高評議会の指示とはいえ、犯罪者として名を馳せているのは私だ。そもそも、個人的に聞いた話で暴走する人物を要職に置く事自体が誤りなのだと、理解出来る頭も無いようだ。

 その頭で考える最も適切な手段とは何か。実に興味深い』

 

 なんというか、すごく低レベルな言い争いというか、ガング・ロフィーニの劣化ヘイト臭が天元突破というか。

 それより、そろそろガング・ロフィーニを冷めた目で見てるクアットロの処遇を決めるべき。

 

(……従属させるという事は、眷属、従者、使い魔の3択か。

 魔法を使う事を考えると、使い魔が無難か?)

 

 立場的には、一番無難。

 だけど使い魔は体に手を加えないから、血や薬品類に由来する影響の矯正処理は難しい。

 無限の欲望の因子を抑え込めるか、不安は残る。

 

(因子対策の安全策としては、色々修正しての従者か眷属。どちらにしても不老不死だし、魔法を使う事を考慮すると眷属になる、か。

 ……いつでも殺せるとはいえ、こんなのを永遠の配下にするのか?)

 

 嗜好や思考の変化は、従属による因子の抑制を求めてるジェイル・スカリエッティなら想定内のはず。

 実際に問題となるのは、残忍さや人間性の嫌悪、それに自分達を特別視する点あたり。この辺を緩和すれば、後は何とかなる?

 今まで調査してたけど、因子となりそうなのは2系統。魂の改変と、刷り込まれ固定化された思考や感情。魂の改変を定着させる基盤として、血の改造や薬品類も使われた形跡がある。

 魂や記憶に関しては、アルハザード時代に使ってた、洗脳状態の襲撃者から剥奪する際の処理を多用すればかなりの部分が矯正可能。体に関しても、薬物やらの影響を排除する処理でそれなりに何とかなりそう。時間がかかる部分や扱いが難しい部分は、追々調整すれば何とか。

 使い魔にして暴走されるより、眷属にして抑え込める方が無難。眷属なら強制躯体放棄で行動不能に出来るけど、自立型使い魔を強制的に止めるには殺すしかない。

 

(眷属化には賛成、なのか?)

 

 他に良さそうな手段が無い、が正しい。

 成功すれば、因子を持つ他の3人、ウーノ、ドゥーエ、トーレもジェイル・スカリエッティから切り離せる。特にウーノを奪えるのは大きい。

 ここで受け入れずに、ジェイル・スカリエッティやらが暴走するのは色々面倒そう。

 事実上の洗脳状態にある戦闘機人に対する、救いにもなるかもしれない。少なくとも、大手を振って外を歩けるようになるだろうし。

 

(私への忠誠という、別の洗脳にすり替わるだけだ。

 それでも、敵対勢力を減らし、騒動を抑える方向なのは間違いないか……)

 

「……さて、クアットロ。馬鹿共は放置して、今からの話をするぞ。

 スカリエッティの希望で私に従属させる事になったが、同時に、刷り込みと思われる思考や感情への影響の除外も行う。

 結果として実質的に私の所有物となり、生殺与奪権は完全に私が握る事になる。

 その後は基本的に私の助手か部下として扱う事になるだろうが、問題はあるか?」

 

「いいえ~、ドクターの希望ですもの、問題ありませんわぁ」

 

 そう言いつつも、目は挑戦的。

 やれるものならやってみろ、みたいな。

 

「ふむ。ならば、やってしまうか」

 

 従属属性の眷属化術式、洗脳解除版の起動を確認。

 記憶解析……完了。思考誘導及び固定の解除、クリア。感情誘導及び固定の解除、クリア。お姉様に関する知識の付与、クリア。属性付与、クリア。一部記憶の消去及び倫理関連知識の付与……クリア。

 躯体制御用パスの生成完了。

 肉体及び機械部分の解析……完了、機械部分との親和性に影響が出ない範囲で、遺伝子や血に刻まれた魔法の解除、薬物等の影響を除去…………当面の処置としては完了。記録完了。

 躯体に関する修正を適用する為に躯体を放棄、再構築へ。

 躯体とのリンクを確認……問題なし。

 

「あ、あらぁ?

 ええと、エヴァンジュ……お嬢様ぁ?」

 

 クアットロは、目を白黒させながら、周囲をきょろきょろ見てる。

 冷静さもだいぶ失ったのか、どことなく不安気。

 

「しばらくは記憶の混乱やらがあるだろうから、落ち着くまで静かにしているといい。

 次は……とりあえずグレアムか?」

 

 ガング・ロフィーニはどうやら周囲に見捨てられたらしく、周囲の武装局員が円の内側を向いてるし。

 カミティー・クカヴァタや査察官は、ちゃっかりと輪の外に出てる。少なくとも映像として流されてるガング・ロフィーニの違法行為のリストを見てるようだから、無闇に助けようとはしないだろうし。

 ちなみにリストの内容は、時空管理局員の越権行為を押し通したとか、違法とされる手法での捜査とか、不十分な証拠での逮捕とか、それに起因する冤罪が多い。正義馬鹿にありがちな内容。

 ガング・ロフィーニは未だにこれは正義として正しい行いだったとか騒いでるけど、偏った価値観に酔ってる人ってコレだからやだ。




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続続・超☆フラグ&伏線回収+設定垂れ流し。いつから2話で終わると錯覚していた?
※たぶん誰も錯覚してない。
あと、内容的にこの先はStrikerS編と呼べなくもなさそうな雰囲気ですが、A’s編のままです。だってイベント的に切るのも微妙だし、ある程度区切りがつくとこまで進めてから切るとStrikerS編の存在意義が変になるんだもの。


ガングロについては、一応次話で若干のフォロー……フォロー?
うん、少し追加の説明をする、くらいにしておきます。


クアットロの口調が妙に鬱陶しいのは、仕様です。STSの喋ってる内容を文字でそのまま書くと意外に普通の女性言葉っぽくなる場合もあって、何だか違和感があったので。
でも、エヴァの「2人目の眷属」がクアットロ(戦闘機人)だとは、誰も予想してないかったに違いない。予想されてたら、私が驚きます。
エヴァが受け入れた理由を補足すると「セツナという前例、敵勢力の取り込みという実利と実績(従者や使い魔的な意味で)、該当人物への思い入れ(遠慮)の無さ」辺りの影響が大きいです。こんなの本文中(妹達視点)で説明出来ねぇっす。


リーナ、プレシア、スカリエッティの関係は、最初から決めていました。
プレシアとスカリエッティに共通点(本来は研究者、自分の望み>倫理観、狂気に走る)が割とあるなーと思ったのが元凶。前髪の形やもみあげのボリュームも、何だか似てません?
というわけで、「リーナ・ファ・ニピン」の元ネタは「ピニンファリーナ」ですよ、と。何か気になる人は、Wikipediaあたりで「ピニンファリーナ」や「フェラーリ・612スカリエッティ」を調べてみてください。


プレシア&スカリエッティ関連の、簡単な年表(情報元の記述が無ければ独自設定)
新暦06年:プレシア誕生(TV版や小説版?から計算。代理母による出産としました)
新暦16年:プレシア入院、魔導具埋め込み(10歳、無印編39話「幼い頃に入院した事がある」)
新暦24年:プレシアが管理局に入局(18歳)
新暦26年:プレシアから卵子摘出&魔導具交換(無印編39話「管理局員になって数年した頃に、体調を崩してしばらく入院した事がある」)
新暦29年:プレシア結婚
新暦31年:スカリエッティが成体の状態で製造完了
新暦34年:アリシア誕生(プレシア28歳、小説版?)
新暦39年:ヒュードラ事故(無印=65年の26年前,アリシア5歳,TV版)、プレシアの魔導具交換。
新暦51年:ウーノ製造完了(NanohaWikiより)


2014/05/29 ガング・ロフィーニとすべき場所がカミティー・クカヴァタになっていたので修正
2014/05/31 はやての命と~の周囲、前例があるだけに~の周囲に、台詞を追加

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