青の悪意と曙の意思   作:deckstick

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A’s編46話 願い

「ちょっといい?

 アルハザードって、おとぎ話の世界じゃないの? 最初の話だとそう言ってたはずでしょ?」

 

 理解し切れてないアリサ・バニングスが、理解する下地の無い地球人代表で手を挙げた。

 というか、理解してる方が少数。ギル・グレアムやレティ・ロウランも、納得は出来てない。

 

「一般的にはそういう認識だな。

 まあ、あれだ。ラピェタは本当にあったんだ、みたいなものだと思ってくれればいい」

 

「要するに常識的には与太話って事じゃないの。誰が信じるってのよ」

 

「私としては、別に信じてもらわなくても問題無い。

 目標はクリアしたし、騙し続けるのも疲れただけだ」

 

 夜天の魔導書が本来の姿を取り戻し、八神はやても助かってる。

 時空管理局の横槍を、必要以上に警戒する必要が無くなったのと。

 

「燃え尽き症候群、かしらね。もしくは自棄かしら?」

 

 リンディ・ハラオウンの考えで、ほぼ間違いない。

 

「さあな。だがまあ……こんなしんどい事は二度とせん!

 もう働きたくないでござる!!」

 

「ござるって、どこの侍か忍者よアンタ。

 それに、手を貸してもいいみたいな事を言ってたじゃないの」

 

「衣はバリアジャケットが便利で、食べなくても機能上問題が無く、別荘という住居を持ち、おまけに優秀な部下が多くいるという現実が目の前にあるんだが。

 生活と言う点では、本当に働かなくても全く困らん」

 

「エヴァさん、あのニート侍は本来働き者や。

 まあ、やる事はしっかりやっとるから、文句は言えへんけど」

 

「言いなさいよ!

 いくら命を助けられたからって、甘やかしたらどこまでも引き籠りそうなんだから!」

 

「そう言われても、何かあったら、真っ先に動いてくれそうやし。

 なあ、エヴァさん?」

 

「まあ、そうだな。家族や友人達に火の粉が飛んでくるようなら、外聞を無視して全力で排除する所存だが。

 必要なら星の1つや2つ、吹き飛ばしてみせる!」

 

「外聞は気にしなさいよ。それに星を吹き飛ばすって、出来るわけないでしょ」

 

「これはなかなか勇敢な御嬢さんだ。

 では、私からのプレゼントだ。ウーノ、出来るかい?」

 

「はい、ドクター。

 先ほどの戦闘に関する記録がこちらです」

 

 というわけで、アリサ・バニングスを褒めた(?)ジェイル・スカリエッティ。その指示でウーノが上映した記録映像を見たアースラ非搭乗組は。

 

「な、何なのよアレ……」

 

 唖然としてるアリサ・バニングスを筆頭に、全員が言葉も出ない様子。

 

「ちなみにエヴァンジュが最後に使おうと準備していた魔法だが、集めていた魔力量を考えると、実際に惑星1つくらいなら吹き飛ばしかねない威力が出るであろう代物だ。

 ナハトヴァールが想定以上だった事を踏まえても、随分と思い切ったものだと感心するよ」

 

「アルカンシェルを超える威力で、真っ先に思い付いた魔法がアレだっただけだ。

 妹達1万人で攻撃しても墜ちなかった以上、可能性が否定出来なくてな」

 

「1万人って、チャチャさんは10人以上出せるとか言っていたはずだけれど?」

 

 リンディ・ハラオウンに突っ込まれた。

 3桁もサバを読むから。

 

「1万は10以上だ。嘘は言っていないが」

 

「確かにそうだけれど、随分と誤解を招く言い方ね。

 それに、魔力の計測だともっと多かったのだけれど、その言い訳も聞いておきましょうか」

 

「私とアコノが逃げ回っている時に攻撃していたのは、ほぼ1万のはずだぞ。

 他は魔力を集めたり、私やアコノの補佐をしたりだ」

 

「結局、チャチャさんは何人いるのかしら?」

 

「2万……誰も墜ちてないだろうな?」

 

 大丈夫、疲弊や破損はしても、破壊はしてない。

 一部は少し時間がかかるかもしれないけど、回復出来る範囲。問題無い。

 

「うん、2万だな」

 

「2万、ね……」

 

「つまり、オーバーS級の魔導師2万人を擁する軍を持っているに等しい。

 そう考えて良いのかね?」

 

 今度は、ギル・グレアムが質問してきた。

 保持戦力の確認という意味で、意図は理解出来る。

 

「色々な役目を持っているから、全員が前線に出られるわけじゃない。

 司令部やバックヤード、その後ろにいる国の公務員まで含めて2万という表現なら、まあそうなるだろうが」

 

「だが、自分の領域を守る為になら、オーバーSの魔導師2万人が動く事が可能という事だ。

 時空管理局から見ても、大きな脅威に見えるだろう」

 

「火の粉を払う為以外に使う気は無いんだがな。

 さてと、ヴィヴィオ。そろそろ願いを聞こうか?」

 

「はい。

 私はオリヴィエ・ゼーゲブレヒトの記憶と力を持つ者として、ゆりかごを戦争や弾圧に使わせない事を望みます。

 手段についてはエヴァさんに相談したいのですが、どの様な選択肢が存在するでしょうか?」

 

「その願いだと……まずはスカリエッティと変態(ロリコン)の2人に聞きたい。

 ゆりかごについては、どの程度の調べが付いている?」

 

「機能の解析は進んでいるが、あれはなかなかに高度で複雑な技術が用いられているのでね。現時点で聖王の器があったとしても、私には全てをすぐに掌握出来るだけの情報は無いと言っていい。起動する事は出来るだろうがね。

 そうそう、先ほどの“原作”の様に、聖王の器側に細工をして制御する事は、恐らく可能だ。それを考えれば、10年後でも深層までの解析は出来ていないのだろうね」

 

「そこで、私の出番ですね。

 以前調べていた情報なのですが、それなりのものは掴んでいると思いますよ。転送するので、内容を確認してみてください」

 

 情報の転送を確認、受信開始。

 中身は……

 

「何故最初に来るのがオリヴィエの寝顔なんだ!

 ふざけているのか!? ふざけているんだな!!」

 

 振るうぜバット、燃え尽きるほどヒットぉ!

 最終的に天井まで打ち上げたけど、落ちてきたのは……ボロボロのゾンビ人形?

 

「いやぁ、とっておきの一枚だったのですが。

 可愛いと思いませんか?」

 

「そういう問題じゃないだろうが!!」

 

 スッ、という感じで横に現れた変態(ロリコン)にバットを突き付けて、お姉様が吠える吠える。

 

「いえいえ、エヴァちゃんも原作ヴィヴィオちゃん5歳の寝顔を見せていたじゃないですか。

 50歩100歩ですよ」

 

「原作を見せるという目的で、不用意に改変すべきじゃないと判断しただけだ!

 寝顔そのものが目的のお前と一緒にするな!!」

 

 お姉様は騒いでるけど、情報は最初の映像以外はちゃんとゆりかごに関するもの。

 使われてる技術の多くは、予想通りアルハザードのものが基盤となってる模様。これなら。

 それに、ヴィヴィオがお姉様に近付いてきてる。

 

「まあまあ、それほど騒がなくても大丈夫ですよ。それよりも、後で見せてもらえませんか?

 幼い頃の自分の寝顔がどのようなものか、興味があります」

 

「……ヴィヴィオ、それでいいのか……?」

 

「はい。当時の記録は多くが失われていますし。

 もちろん絵画や逸話といったものは残っているようですが、今代の父様の技術であれば、鮮明な映像を見られると思いますから」

 

「……はぁ、解った解った。

 で、ゆりかごに関して、私が提示出来る選択肢は4つある。

 1つ目、昔と同じように、お前が聖王としてゆりかごを起動する。止めておけと言いたいが、恐らく可能だろう」

 

 というか聖王核まで準備済みって、変態(ロリコン)の仕込みが恐ろしい水準。

 聖王核の劣化模造品がレリックって情報も気になるけど。

 

「それも視野に入れていたのですが、問題が大きいでしょうか?」

 

「私が言うのもなんだが、人として生きる事を諦める選択肢だ。薦める気は無い。

 2つ目、ゆりかごを破壊する。そうすれば、少なくとも“そのもの”を利用する事は出来なくなるからな。壊す場所によっては残骸やらの問題が出るかもしれんが、禍根を断つには有効だ」

 

「ゆりかごを残す選択肢が、2つあるのですか?」

 

「3つ目、ゆりかごを私の別荘に移す。移動させるだけなら起動する必要も無いし、私の別荘に入り込んで盗み出すのは、まあ無理だろう。

 ゆりかごを起動させずに残すなら、これがベストだ。私を信用出来るのであれば、という条件は付くが」

 

「エヴァさんでしたら、ゆりかごを不要と言い切る事が可能な力も技術も持っていますから。これ以上の適任はいませんよ。

 最後は、まさか私のクローンですか?」

 

「まさか。クローンだろうが1人は1人だ、そんな事はせん。

 4つ目、ゆりかごを改造して、王も人として生きられる程度に制限を緩和する。

 お前がゆりかごの王になり、その力と庇護を得た上で人に近い生活を送ることを可能とする事は、出来なくはないだろう。少々時間がかかる可能性はあるがな。

 聖王として表舞台に立つなら、手札としては最強だ」

 

「なるほど、その選択肢もあり得るのですね。

 それぞれの利点、問題点……少し、考える時間を頂いても大丈夫ですか?」

 

「すぐに答を出せるものでもないだろうしな。

 多少時間がかかっても、納得出来る選択をしてくれ」

 

「はい」

 

 重大な選択を突き付けられたとは思えない笑顔を残し、ヴィヴィオが離れて。

 次にお姉様の前に来たのは。

 

「少々時間があるようですので、成功報酬について話してしまいたいので御座いますが、宜しいでしょうか?」

 

「チクァーブか。そうだな、確かに成功したし、話を聞こうか」

 

「では、単刀直入に参ります。

 チャチャ様とのお付き合いを認めて頂ければ幸いに存じます」

 

 私達?

 お付き合いって?

 

「友人的な意味か? それとも、男女的な意味なのか?

 前者なら今でもそう変わらんだろう。後者だと、そもそもお前達の性別は男と女でいいのか?」

 

「現実的な意味で前者、気分的な意味で後者で御座います。性別すらあやふやな人外であり、意識や記憶を共有する多数の存在を持つ、という点で近しい存在と言えましょう。

 もちろんエヴァ様に従う事に異存は無く、従属する事にも問題は無く、いずれにせよ共に精一杯お仕えする所存。

 如何で御座いましょう?」

 

「簡単な、無理に押し通すような願いでもない、か。まあ、言っている事は理解した。

 だが、私が認めるかどうかと、妹達が受け入れるかどうかは別問題だぞ?」

 

「当然で御座います。まずは第一歩、本人同士の意思以外の要因でお付き合いが不可能とならない事を確認したいので御座います。

 現時点で否とされるならば、絶望的で御座いますから」

 

「ふむ……」

(さて、どうする? 今なら拒否は簡単だし、本人に何か言いたいなら好きに言えるが)

 

 服従属性の眷属なりにするかどうかは、とりあえず別の話として。

 私達はお姉様の役に立ちたい。これは譲れないけど、邪魔する気は無さそうに見える。今までの態度や今の発言を考えると、むしろ協力的。

 以前から、私達に対してそれなりに手の内を見せてたのは事実。ちなみに、5万ちょっとくらいまで増える事が可能だと聞いてる。制限とか色々あるらしいけど、最大人数は今の私達を超える。

 とりあえず、みんなで相談。どう判断するか、意見のすり合わせが必要。

 

「それにしても、何故妹達なんだ?

 普段は千晴の所にいる事が多いはずだが」

 

 よし、流された。

 幻想空間(ファンタズマゴリア)にいる全員集合。ヴィヴィオ達の会話には触れない方向で。

 

「千晴嬢とは、能力的な相性はとても良いので御座います。ですが、比較的平凡な生活を志向する千晴嬢とは、考え方の相性はあまり良いとは言えないので御座います。

 そして、我等の生態を鑑みましても、我等では千晴嬢を幸せにすることは不可能である、という結論に達したので御座います。

 我等としても幸せを願う気持ちは御座いますし、気に入った相手であるからこそ、その幸せを応援したいので御座います。我等ながら女々しい話では御座いますが、千晴嬢につきましては、気に入った相手の不幸を少しでも回避する為に、近くに侍っている次第で御座います」

 

「らしいぞ?」

 

「あー、いや、なんだ。

 ありがとう、とでも言っとけばいいのか?」

 

「色々仕出かしてしまいましたからな。

 自己満足では御座いますが、せめてもの罪滅ぼしだと理解して頂ければ幸いで御座います」

 

「えーと……まあ、いいか。とりあえず、ありがとうとは言っとくよ」

 

「どういたしまして、で御座います」

 

「それで、妹達はどうなんだ?」

 

「一般人と言える存在ではないと言う点も大きいので御座いますが、最大の行動理念、エヴァ様のお役に立ちたいという意思も、全力を以て応援する事が可能で御座います。

 同じ方向を見て、同じ道を歩む事が出来る。人柄も好ましく感じられる。実体具現化している姿と言動を見る限りとても可愛らしい女性を基本としている。

 その様な存在であるチャチャ様と歩む事で、我等にも幸せが見えるのではないか、と考えた次第で御座います。

 我等が釣り合えるのかという心配は御座いますが、それでも、我等にとって魅力的な方なので御座います」

 

「気持ち的には、千晴の方を若干贔屓する感じか……?」

 

「そこはやはり、この世界で目覚めてから初めて出会い、助けて頂いた人物で御座いますからな。

 エヴァ様やチャチャ様と会う切っ掛けを用意して頂いたという事もあり、感謝という点で千晴嬢を超える人物は考えにくいので御座います」

 

「なるほどな。

 現状の確認だが、妹達に惚れ込み、入れ込んでいるというわけではなさそうだな?」

 

「そうで御座いますな。現状では気になる相手、小学生の“好き”と大差無いのではないかと判断する次第で御座います。

 ですが、前世の自分を鑑みまして、自身の言動に責任を持つべき年齢だと自覚しております。であれば、一歩踏み出す前の自己判断、そして状況確認は必須であろうと考えたので御座います」

 

「それがさっきの話であり、私への願いである。そういう事か」

 

「左様で御座います」

 

「そのレベルだと、未来は未定。永遠に寄り添う事を前提とせず、所謂結婚を前提ともせず。

 だから、お付き合いを認めてほしい、か」

(さて、どうしたものかな。あからさまにがっついてくるなら拒否しようかとも思ったが)

 

 とりあえず、現状で大勢の意見としては。

 絶対的に嫌いなタイプ、ではない。

 保有する能力や任務の遂行能力を見る限り、役立たず、でもない。

 協力者としては、特に問題ない。

 人の姿は犬上小太郎相当だと確認も取れてる。私達の基本形態を並べてみても、大きな支障は無さそうに思える。

 だけど、ジュエルシードが齎した前世の情報的な意味で、態度を作ってるらしいと知った。付き合うというなら、これは望ましくない。

 

「……なら、その“似非執事的な言動”を何とかしたら、考えてやろう。

 自覚はあるな? 元似非関西人」

 

「いえいえ、前世に関しては、似非ではなく関西人で御座います。

 ですが、両親の仕事の都合で、関西を中心に引っ越しを繰り返しております。素の言葉遣いは悪い上に色々な地域の言葉使いが混じってしまい、少々コンプレックスがあるので御座います。

 それに、先ほどの話を考えますと、人物関連に”魔法先生ネギま!“に類する世界からの強い影響が疑われるので御座いますが」

 

「そっちからの影響は、ある意味で誤差だから構わん。そもそも、言動を変えた程度で影響が変化するわけでもないしな。

 それよりも、付き合おうという相手に偽りの自分を見せ続ける気か?」

 

「……やっぱ、敵わへんなぁ。

 ワイの口調はあんまよーないけど、ほんまにええんか?」

 

 うん、ジュエルシードの情報的に、これが素の口調と思える。

 犬上小太郎よりもガラが悪い感じだけど、今までのあれよりはマシ。

 

「口の悪さなら、私も人の事は言えんさ。

 だが、コンプレックスがあるからと言って、今までの口調はどうなんだ?」

 

「東京弁やら標準語やらも馴染みはあるさかい、違和感はあらへん。けど、普通過ぎて地が出てまうんや。

 こらあかんと色々試してみたんやけど、馴染みの薄い口調の方が、ボロが出にくいねん。人外っちゅー事は、口調が変でもそーゆーもんや思てくれそうやし」

 

「人の姿がアレだし、関西弁といっても地域でだいぶ違うんだ。地のままでも大して問題は無いと思うがな。

 まあ、無理に地を出せとまでは言わんが、妹達には不人気だという事は覚えておけ。私からは、それだけだ」

 

「やっぱ、大っぴらに使うんは抵抗あるさかい……当面は、エヴァさんやチャチャさんと話す時と、小太郎の姿の時限定でええやろか?

 ネズミん時は、あのキャラ付けの方がイロモノで諦めてもらえそうやし」

 

「いや、それなりに拘る人しか気にしない口調より、イロモノ扱いの方が気にならないってのはどうなんだ?」




2014/07/06 チャチャの言葉(地の文)をちょっとだけ追加
2015/03/15 自分の領域を守る為に~の部分を修正
2015/04/10 切欠→切っ掛け に修正

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