◇◆◇ クリスマスイブ ◇◆◇
「……というわけだから、私達が家族になる事になったわ」
クリスマスイブを名目に、別荘で行われてるパーティー。
その途中、プレゼント交換がそれなりに終わった後で、プレシア・テスタロッサが重大報告。
内容は、
「えっと……私達もなん?」
困惑が声に出たのは、八神はやて。
リインフォースも、それっていいの?みたいな顔をしてる。
「結婚に関しては知らなかったが、養子については私の提案だ。
アコノもはやても、母親のいる家庭ではなくなってしまっているしな。そろそろ、それなりの形の“家族”としたかったんだ」
「書と主という事は、エヴァも?」
「そうだな。プレシアが母で、子は上から私、ヴィヴィオ、リイン、アコノ、はやて、フェイト、アリシアが、日本での戸籍年齢順だな。
アルフは戸籍を作っていないから、今のところは子に数えていない。それと、守護騎士やチャチャ達は、ある程度様子を見てからと考えている」
「えー、わたしがいちばんいもうとー?」
アリシア・テスタロッサは、ちょっと不満そう。
でも、日本の戸籍は6歳として扱うようになってるから、既にフェイト・テスタロッサの妹になってるとも言える。
「えっと、姉さんが妹になって、お姉ちゃんが本当にお姉ちゃんになるって事でいいのかな……?」
フェイト・テスタロッサは、姉と呼ぶ2人の扱いに困惑中。
でも、どこか嬉しそうだから、問題は無さそう。
「エヴァが良いと判断してプレシアを頼ったなら、それでいい」
「日本での戸籍上は問題無いでしょう。
管理世界向けの設定も、同じ順で扱うのでしょうか?」
「アタシは自由に動ける今の状態の方が良さそうだし。
ご主人様と離れなくていいなら、どっちでもいいさ」
主とヴィヴィオ、それにアルフはとりあえず問題無さそう。
管理世界というか、時空管理局向けの設定も、取り敢えずは同じ順が無難だとは思う。
変えると混乱するし。
変える意味もないし。
「だ、だが、私まで家族になってよいのだろうか……?」
一番というか、唯一狼狽えてるのがリインフォースというのは、想定の範囲内。
だけど、現実はリインフォースの想定を超えてる。
「気にするな。管理世界では、悲劇のヒロインみたいな扱いになっているんだ。
過去の罪を気にしすぎると、世間の夢を壊すぞ?」
「しかし、結果的に私が破壊を振りまいていたのは確かなのだ。
その責任がだな……」
「何十億と殺してきた私も英雄などと呼ばれ、最高評議会の議長とやらに就任するらしいんだ。
それに、評議員になるお前が率先して人を助ける様に動く事で、助けられる命もあると言われたのだろう?
過去ばかり見ずに、未来も見ろ。それに、今の主を蔑ろにしていいのか?」
「そうや。いっぱい悲しい事や辛い事があったんやから、今度はいっぱい幸せにならなあかん。
リインフォースが消えてもうたお話ともちゃう。
私らは、胸を張ってハッピーエンドを目指そうな?」
「はい……我が主」
リインフォースが嬉し泣きしてるけど、この主従も了承って事でいいんだろうか。
というか、お姉様が
「とまあ、これが、私とプレシアからのプレゼント “家族”だな。
次に、私達からはやてへのプレゼントだ」
そう言いながらお姉様が出したのは、プレシア・テスタロッサと買いに行った小さな箱。
「わ、ありがとうなエヴァさん。
えーと中身は……夜天の書の表紙にあったマークのネックレスやね?」
早速箱を開けて、中から出てきたのは剣十字のアレ。
「ただのネックレスじゃないぞ?
出番だ、起きろ」
「待ちくたびれちゃったですよぅ。
初めまして、マイスター・はやて」
「おおっ、ちっちゃいリインフォースや!
エヴァさんどないしたん!?」
「リインのユニゾン能力は、実質的に使い物にならなくなったからな。それに、消滅前に力を残したという事も無いから、正直に言えば“原作の八神はやて”の実力に届かないはずなんだ。
そこで、リインとはやてを繋ぐバイパス役と直接の補佐役として、リインを修復した際に削った部分やらを流用して融合騎を作ったんだ。それがこいつ」
「ルーナ・リインフォースなのです!
命名はマイスター・アコノで、ツヴァイって番号で呼んじゃ嫌なのです!」
「なんや、アコノさんもグルなんか?」
「私は名前を付けただけ。技術面は理解出来ないから、製作には関わってない。
あと、ルーナもリインフォースを希望したから、念のために姉にもノッテと名前を付けた。普段はリインとかリインフォースでいいと思うけれど、駄目だった?」
「ううん、問題無いよ。厳密に区別する時にはそっち使う感じやね。
やけど名前を貰った上にバイパス役って事は、リインフォースも知っとったはずやね?」
「も、申し訳ありません我が主。
エヴァンジュにどうしても今日までは秘密にするようにと強く頼まれていたので、言うに言えなかったのです」
「びっくりさせよう思ったんやろうけど、びっくりさせ過ぎや。
ほんま、ありがとうな……」
八神はやてまで泣いちゃった。
どうしよう、この涙もろい主従。
◇◆◇ なはと ◇◆◇
「エヴァンジュ、少しいいだろうか?
ナハトヴァールの再構築が完了した。少し不安定だから、実体具現化させても大丈夫か確認してほしい」
八神はやてとリインフォースが、お姉様を訪ねてきた。
「そうだな、念のために別荘でやるか。
どんな姿になりそうか、知ることは出来たか?」
「大きさは大人の身長を2倍にしたくらいのようだ。人ではない姿を取るのだろう」
「構造情報から姿を割り出すのは、思ったより大変や。
だいたいの大きさを計算したとこで、力が尽きてもうた」
「そうか。それくらいのサイズなら、結界もそこまで巨大じゃなくていいな。
なら、早速やってしまおうか」
「ワイも連れて行ってもらってええか?
何度かヤられた相手や。気になってしゃーない」
野生じゃないチクァーブが現れた。
口調はだいぶ慣れてきたらしい、怪しい関西弁的な何かになってる。
「まあ、いいだろう。変な手は出すなよ?」
「もちろん。顔を拝むだけや」
というわけで、今日はまだだれも来ていない別荘の訓練場へ。
ここなら、大抵の事は何とかなる。
結界も準備出来た。念のために、大型結界も発動準備は整えてる。
「とりあえず、調査からだな。
初期状態に戻っているかぐらいしか調べられんが……見える範囲に、問題は無さそうだぞ?」
「そうか、良かった。
実体具現化を行うから、念のため少し離れてくれ」
本当に念のため程度の意味しかないけど。
お姉様と八神はやて、それにチクァーブが少し離れたのを確認してから、リインフォースがナハトヴァールの実体具現化を開始。
先ず現れたのは、六芒星の魔法陣。その上に姿を見せたのは。
「……ラミア、か?」
「ラミアやね」
「幼女ラミアって辺り、狙ってるんちゃうか?
てか、防衛プログラムと思えへん」
下半身が蛇の女性、造形としては3人の意見が一致してる。但し、チクァーブが言ってる通り、幼女。上半身を見た感じでは推定7歳くらい。
なんだかぽやぽやした雰囲気だから、吸血鬼だの子供を食べるだのという部分は何処へ行ったと聞きたいところだけど。
「ナハトヴァールって厳つい名前やなくて、なはとちゃんやね。
はじめまして、なはとちゃん。私の事、解るか?」
八神はやてがナハトヴァールの前に移動して、笑顔で挨拶。
ナハトヴァールは、じれったいくらいゆっくりと頷いて。
「主。夜天の。私、護る」
「んー、護るのは、今は危なくないし、そんな頑張らんでも大丈夫や。
それより、みんなと一緒にいても大丈夫なように、お勉強をせなあかん。頑張れるか?」
「一緒、いる。勉強。頑張る」
どうやら色々頑張る必要がありそう。
だけど、魔力や能力の制御は問題無さそう。安定してる。
「うん。それで、とりあえず今一緒に居る人達を紹介しとくな。大切な家族やから、あんま気を張らんでええよ。
先ずは、エヴァさん。私のお姉さんで、リインフォースの妹さんや」
「書……管制役。偉い人」
「初期状態でも、関係性は理解出来ているのか。
まあ、指令書としての力を使う事は、そうないだろうからな。普通に家族でいいぞ」
「解った」
「それで、こっちのネズミさんが、チクァーブさん。
エヴァさんの部下みたいな……ネズミさんや」
「ネズミは大切なんか?」
「大切やから、2回言っといたんよ?
なはと、どないしたん?」
ナハトヴァールは、チクァーブを見てにっこり笑ってる。
嬉しそう。
但し、口元からよだれが垂れてる。
「食べないでくれナハトヴァール!
あんな姿だが恩人なのだ!」
「ワイは食いモンやない!」
「なはと、あかんよ! エヴァさんの部下で恩人さんから、食べたらあかん!」
「……残念」
みんなに止められて、ナハトヴァールは本気で残念そうにしてる。
というか、侵入直後に殺されてたのって、排除されたんじゃなくて食べられてた……?
◇◆◇ 親衛隊 ◇◆◇
「エヴァンジュ最高評議会議長様及び最高評議会関係者の、護衛任務及び業務補佐役に就く事になりました、リンディ・ハラオウン少将です。
親衛隊長への就任は後日でありますが、本日は僭越ながら挨拶に伺った次第です」
「……リンディ、そういうのは止めてくれ。
堅苦しいのは苦手なんだ」
「そう? それなら、今まで通りがいいかしらね」
年末も迫ったある日、八神家に尋ねてきたリンディ・ハラオウン。
挨拶に来るという話は聞いてたけど、今日は高町家にあるポートを使って、1人で来たらしい。他に人もいないし。
「私としては、肩書自体が要らないからな。そんなものは無い方が嬉しいんだ」
「それでも、抑止力としての意味はあるでしょう?」
「まあ、そうだな。
クロノは、かなり忙しいのか?」
「そうね、組織改革と犯罪者対策に駆け回っているわ。
本人は大丈夫と言っていたけれど、本当かしらね?」
「……まあ、これでも渡しておいてくれ。
穴が開く前に飲めと言ってな」
お姉様が出したのは、胃薬。
主に潰瘍の進行を抑える効果。
「そうね、頑張り過ぎないか心配だし。
有り難く受け取っておくわ」
「エヴァさん、リンディさん来たん?」
「ええ。お久しぶり、かしらね」
「そやね。今は何をしてたん?」
「胃薬を渡してたところだ。上層部の悪事をばらしたせいで、なかなか大変な状況らしくてな」
「そっか。なんか私とリインフォースも最高評議会とかいうのになるらしいし、私らに出来る事があったら言ってな?
今まで色々とお世話になっとるんやし」
「今後はあくまでも抑止力としてだから、前線に立つことは少ないと思うけれど……それでも、何かあったらお願いするわ。
だけど、その前に、フェイトさんとアルフさんにお願いしたい事があるのだけれど」
「あの2人にか?」
「ええ。護衛のための部隊だけれど、急に決まった話だから人を増やせそうにないのよ。誰が信用出来るかという調査が出来るような時間も余裕も無いし。
だから、信用出来て他の部署に恨まれない人に教導に関する勉強をしてもらって、部隊に所属してほしいのよ。名目としては、こちらにいる嘱託魔導師や現地協力者への指導役、という事になるわね」
「フェイトを指導役にするか……まあ、見た目はともかく、書類上の体裁だけなら繕えるか。
だが、指導役としては守護騎士連中の方が向くんじゃないのか?」
「本来はそうなのだけれど、勉強の間も護衛役を減らすわけにいかないもの。
それに、フェイトさんよりもアルフさんが主体ね。一番時間や立場に余裕があるアルフさんに、きちんと学んでもらうのがいいのではないか、って話になっているのよ。
フェイトさんはアルフさんの主だから、どんな場所でどんな事をするか確認して、ついでに基本部分を体験して欲しいと言っていたわ。ザフィーラさんにもという話があるのだけれど……護衛の問題もあるし、まだ検討中みたいね」
「うーん、立場って色々面倒やなぁ……」
「だから私は要らないと言っていたんだ。
だが、猫の手ならぬ犬の手も借りたいという事か。なかなか大変だな」
「ただでさえ人手不足なのに、その一部を捕まえる為に手間を取られるのだもの。現場はおおわらわよ?
そうそう、ユーノさんは正式に無限書庫の司書になるそうだけど、エヴァさんに無限書庫の設備管理をお願いしたいと言っているわ」
「……まあ、アレの深いところを動かせるのは、私と妹達だけか。
あくまでも設備に関する事だけで、蔵書やら利用者やらに関する管理業務はユーノというか司書達に任せていいんだな?」
「その辺は、まだ何も決まっていないわ。設備の依頼は今のところ内輪の話だし、今後検討すべき点ね。
さてと、今日は顔を見せに来ただけだし。お仕事に戻らないと」
「今日は、ほんまに顔見せと挨拶だけなん?」
「やはり、ゆっくりする暇は無いか」
「正式に日本に住むことになりそうだから、その手続きもあるのよ。
それに、エヴァさん達の名前が変わるでしょう? そっち方面でも、本局は大騒ぎよ」
「やっぱり、まずかったん?」
「撤回はせんぞ」
「いきなりだったから驚いた事が大きいだけよ?
グレアム提督は、表立ってアルハザードの関係者だと言えるプレシアさんがクーネさんの主になった事は安心したようだけれど、全員が家族になる事には少し難色を示していたわね」
「3冊の姉妹書を最高評議会に据える時点で、家族が前提だろうに。
そもそも、リインも含めれば最初から八神が過半なんだ。問題になる理由が解らん」
「ええ。だから少しで済んだみたいね。
さてと、そろそろ約束の時間が近いから、そろそろ行かないと。
こちらのお正月には、みんなで来る予定よ」
「そうか、解った。
年越しくらいは、ゆっくりしてくれ」
◇◆◇ 騎士団 ◇◆◇
『ええ。そちらの正月には、リンディさんと一緒に伺いますよ』
「うん、楽しみにしとるよ」
八神はやては、八神家に設置された通信機を使って、カリム・グラシアと歓談なう。
ここしばらく、聖王教会とどんな形で協力するかとか、色々相談してる。
「はやて、終わったのか?」
「うん、終わったよ。
やっぱあれや。原作でも言うとったけど、カリムはお姉ちゃん、って感じや」
「人当たりが優しいし、年も近いしな。
それで、正月は来るって?」
「その時に、ちょっと長めにいて色々と手続きとかやるらしいんよ。
戸籍の確保とか、してへんかったみたいやし」
というか、テスタロッサ家とハラオウン家以外の拠点組は、全員が違法滞在だったし。
長期滞在を考えて、カリム・グラシア、シャッハ・ヌエラ、シルフィ・カルマンの聖王教会組の3人は戸籍を確保する事になったらしい。
要するに、聖王教会からの派遣組が、そのまま近衛騎士団という名前に切り替わる。
ついでに、更に必要な人を追加投入したい、という意向も伝えられてる。
お姉様としては、別に人が欲しくないだけで。
「まあ、あいつらが来るだけなら、特に問題は無いか。
日本の生活にも、割と馴染んでいた様だしな」
「最終的には別荘にも、やね。
でも、実質的に聖王の側近やから、色々大変とは言うとったよ。予言もこっちの方が正確に解析出来そうやし、予言をする時だけミッドに戻る事になりそうやって」
「うん、まあ、その辺は何とかしてもらおう」
「そうそう、それとや。
今後は、なるべく秘密を作らないようにしてほしい、って言われてしもた。
やっぱり根に持ってるかもしれへんよ」
「……まあ、善処しよう」
◇◆◇ 正月に ◇◆◇
「ところでエヴァンジュ、そろそろ、ジュエルシードを回収した証拠を見せてもらっていいか?
それ自体に意味は無いんだが、何を仕出かしていたのか、興味がある」
ゲームが終わり、それなりに休憩もしたところで。
クロノ・ハラオウンが思い出したように依頼してきた。
確かに、お姉様は見せると言ってた。
「そうだな、見せていなかったな。
それなら……とりあえず、興味があるだろう連中は全員呼ぶか」
というわけで、大所帯で転移用の広場に集まり。
転☆送っ!
「……ここは、まさか……」
プレシア・テスタロッサが真っ先に気付いたらしく、目を見開いてる。
「時の庭園、現在改修中だ。
かなり荒れていたし、いくつか大穴が開いたりもしていたからな。使える様になるには、もうしばらくかかりそうだ。
もっと大切に使われていれば良かったんだが、とぼやいておこうか」
「こ、こんなものまで確保していたのか……
使うにしても、どう説明すればいいんだ、これは……」
クロノ・ハラオウンが頭を抱えてる。
報告書には、虚数空間に落ちたとはっきり書かれてるし。
「映像は、荒れ果てた状態のものしかないだろう?
動力炉のコアを持ち出し、それ以外は無限書庫やらの資料を使って復元したとでもすればいい。
実際、コアはチクァーブが持ち出していたからな。本当に虚数空間に落ちていたとしても、それなりに似た物は作れたぞ」
「……エヴァンジュ。リニスは残っていないかしら?」
「無理だ。体毛程度はあったかもしれんが、少なくとも“あのリニス”を蘇らせるには色々と不足しすぎている。
元々が人工魂魄で、魔力の供給が無ければ消滅してしまう存在だしな。その上、ジュエルシードの暴走する魔力に晒されたはずだ。既に調べてあるが、存在したという痕跡程度しか見付けられなかったな。情報やらも破棄されていたようだし」
「そう……次元空間に身投げするのを放置して色々破棄したのは失敗だったわ……」
時の庭園で死んでないなら、どう足掻いても無理そう。
残念っ!
2017/05/03 はなとちゃん→なはとちゃん に修正