青の悪意と曙の意思   作:deckstick

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番外:愛するが故に(クーネのA’s編裏事情)

 

 いやはや、プレシアさんがリーナのクローンとは驚きですね。若返った姿を見ると、本当にリーナとよく似ています。

 エヴァちゃんは何とか立ち直ってくれそうですし、アコノちゃん達には感謝しなければなりません。プレシアさんもなかなか良い母親の顔を見せていましたから、このまま良い関係になってくれれば理想的ですね。

 あまり道化として役に立てなかったのは妬けるところですが、道化らしく八つ当たりの的になっていれば、プレシアさんの負担も軽くなるでしょう。

 

 さて、問題はこれからです。

 

 エヴァちゃんは、夜天を治療する環境を整えるために、管理局との接触を持ち、スケープゴートとしてプレシアさんを確保しました。

 治療するまでの方針としては良いのですが、あのエヴァちゃんが、リーナのクローンであるプレシアさんを、恐らく感謝し慕ってくるであろうフェイトちゃんやアリシアちゃんを、簡単に切り捨てられるとは思えません。私としても切り捨てる気はありませんから、何とかして保護する方向で考える必要があります。

 となれば、今の方針を維持出来るのは、夜天の治療が行われるまでですね。最終的には最高評議会関連の犯罪者達、管理局の闇との対立は避けられないでしょう。

 最悪の事態になっても、エヴァちゃんなら本局とミッドチルダを丸ごと配下にする荒業が使えますから、力技で何とかするつもりかもしれませんが……自分だけの意志で滅ぼした事は無いはずですから、精神的に辛いでしょう。人らしく過ごしてもらう為にも、これは避ける必要がありますね。

 

 プレシアさんの過去を調査した結果として、少なくとも4月以前において原作との差異が小さい事は確認出来ています。つまり、最高評議会、レジアス・ゲイズ、ジェイル・スカリエッティの関係はStrikerSで描かれたものと大差なく、プレシアさんの過去に管理局の影が見えるのも事実であり、違法な内容の管理局関連施設が蔓延っているのも事実です。

 それに確か、スカリエッティはアルハザードの遺児とされていたはずです。

 レジアスも、正義の為という人参に釣られ過ぎている感じがします。

 横槍を防ぐ意味でも、早急に管理局に蔓延る最高評議会の実態を解明する必要がありますね。

 

 

 ……と思って、ミッドチルダに来てみたのですが。

 思ったより簡単に情報が見付かったのはいいんです。ええ、プレシアさんに関する調査と一緒に調べればよかった等と感じる程度は、よくある事ですから反省して終了すればいいんです。犯罪者が何人か不審な死を遂げたとか、気にするほどでもありません。それがたとえ地上本部の中に潜んでいた人物だとしても。

 ですが、プレシアさんが入院した際に卵子が取り出され、それを使ってスカリエッティが作られたと言うのは問題ですね。確かにアルハザードの遺児と呼べそうな経緯ではありますが、今度こそエヴァちゃんが暴走してしまいますし、今度はプレシアさんも暴れるかもしれません。

 少なくとも、敵としたまま放置する選択肢は選べませんね。となると、何とかして“無限の欲望の因子”なるものを排除する手段が必要です。プレシアさんのように、魔導具だけで済めばよいのですが。

 レジアスと最高評議会は……まあ、今はまだよいでしょう。

 

 

「なるほど。つまり私は、手の平で踊っていると。

 そういう事かね?」

 

「ええ、そうですよ。

 自由に研究出来る環境を求めている事が、既に自由な意思ではないとしたら。どうしますか?」

 

 さて、ここが正念場です。

 無限の欲望の因子、厳密には理性を麻痺させるような魂の改変と、それを安定させるための肉体改造のようなのですが、魂に関しては私の力で何とかする目処が立っています。肉体は難しいですが、胸の魔導具さえ何とかすればどうにかなるはずです。

 その為にも、この交渉は失敗出来ません。

 

「ふむ、技術を求める欲求が作られたものである可能性は知っているし、それを満たすのも吝かではない。が、それ以外に何かある、という事かね?」

 

「ええ。未知なるものへの興味も強いと聞いていますが、正しいですか?」

 

「未知なるもの、か。甘美な響きだが、今の私にとって生命操作技術がまさにそれなのだよ」

 

「その技術を使って生まれ、操作された存在だという事は、知識としてはあるのでしょう。

 では、操作されなかった自分はどの様な存在だったのか。操作はどの様な結果をもたらしているのか。興味はありませんか?」

 

「つまりは本当の私に興味がある、という事なのだろう。

 わざわざ私に接触してまで話をしているのだ。目的は何かね?」

 

「私の目的は単純ですよ、幾人かの少女達の未来を憂いているだけですからね。

 先に言っておきますが、私が想定している敵は最高評議会です。今は周囲にいる人物を見定めているところですよ」

 

「なるほど、この場所を突き止める情報力は確からしい。

 だが、今の研究が楽しいのも事実なのだよ」

 

「そうですか。今の研究は、生命操作技術、それに戦闘機人関係でしたか。それらの、より高度な技術を知っているのですが……知りたいですか?」

 

「それが手札というわけかね。

 だが、私が敵と判断した場合は敵対するのだろう?」

 

「結果的にはそうなるかもしれませんが、私はこれでも約束を守る男ですから。

 そうですね、1週間以内に本当の自分を見る事と、他人に広めない事を保証してもらえるなら、情報を先に渡しても良いですよ。反故にした場合は排除すべき敵と認定しますが」

 

「ふむ……敵対しても問題無い自信はあるようだね」

 

「それはもちろん。ですが、無意味な殺生は好みませんから」

 

「なるほど、嘘を言っている様子は無いようだ。

 いいだろう、情報はウーノに渡してくれたまえ。納得出来る内容であれば、私の素顔を見るのも面白そうだ」

 

 その後10分ほど待たされただけでOKが出たのは予想外でしたが、魔導具の摘出に立ち会えましたし、同時に魂の改変部分の除去も成功しました。これで、最も大きな壁は越えられたと見て良いでしょう。

 後で聞いた話ですが、本物であれば今の研究が無意味になると判断したからという理由は、らしいと言えばらしいですね。それに、私自身への興味もあったようです。

 

 それからの1週間ほどは様子を見ながら情報交換を進めていたのですが、闇の書に関して動いている人達の情報は有り難かったですね。ちゃんと裏を取ってエヴァちゃんに知らせてみたら、即オハナシに動いたのはある意味で予想通りでしたが、意外でもありました。

 この頃には、スカリエッティの理性もだいぶ回復し、それなりに信用出来る状態になってくれました。それに、最高評議会関係者からの情報も欲しかったので、地球関係の情報も少々話していたのは確かなのですが。

 

「程度の悪い転生者とやらを、こちらで確保してはどうかね?

 迂闊な動きをされるより、犯罪者である私の手元に置いた方が、動きを制限しやすいだろう。

 転生特典とやらに興味があるから、私に益が無いわけでもない。

 一考の余地はあるのではないかね?」

 

 こんな提案が、スカリエッティ側からあるとは意外でしたね。

 いえ、少しでしたがアルハザードやエヴァちゃんに関する情報を最初から持っていた事を考えると、協力的になる事も不自然ではないのかもしれませんが。

 

「いえ、それ自体は願ってもない事です。ですが、この場所がエヴァちゃんに知られるのは、少々まずいですね。

 近い内に、ある人物のクローンを作りたいのですが、その際に設備を借りようと考えていますから。その情報が漏れるのは、かなりまずいのですよ。

 そもそも、私がここに顔を出している事自体も問題ですからね」

 

「ふむ。エヴァンジュ達の調査を避ける技術はあるかね?」

 

「短時間であれば妨害する自信はありますが、頑張っても1時間、度々行うなら30分程度が限度でしょう。長時間は無理ですね」

 

「それなら話は早い。他の次元世界にある研究室を使うといいだろう。

 近い内に最高評議会とは手を切るつもりなのでね。この研究室もいずれは閉鎖するつもりなのだよ」

 

 理性が戻った場合は犯罪から距離を置くことは予想していたのですが、やはり“すぐに”というわけにはいきません。しかし、これはいい感じです。

 なので、喰い付きそうな餌、つまり“原作の情報”を渡してみたら、やはりスカリエッティは面白いですね。色々考え始めているようです。

 まずは、この場所がどうなってもいいように、製造中の戦闘機人を別の施設へと移す事。これは逃亡先を確保する意味もありますから、生活環境を整える事を含みます。予定しているクローン作製作業はそちらを使用する事で話が付きましたから一安心です。私は先行でそちらに移り、連絡時のみ強烈なジャマー結界を使用すれば大丈夫でしょう。

 それが完了した上で、次は転生者の確保です。

 重要な2人の内1人は交渉で失敗したようですし、重要ではない程度のおまけが2人ほどいるようですが、まあいいでしょう。こちらで更生出来れば、エヴァちゃんの負担も減ると思いますし。

 

 などと思っていたのが、フラグだったのでしょうか。

 重要だと考えていた1人は落ち着いてくれたのですが、おまけの片方は魔改造ルート、もう片方は我儘放題のまま更生する余地が無い感じですね。

 

「いっその事、管理局の更生プログラムを受けさせるのはどうだろう。

 レジアスからの依頼で、ジュエルシードの輸送を襲撃して、詳細な調査を要求されたのだよ。

 私としてはあまり時間が取れないのでね。襲撃を失敗したいのだが、その際に生贄として差し出す事は可能だ。初犯であり、私に諭された等と言えればそう大きな罪とならないだろうが、人格面を考えれば施設行きはほぼ確実だろう。

 どうかね?」

 

 優秀な人物はやりにくいですね。思わず同意してしまったじゃないですか。

 仕方ありません。カイゼ君とチクァーブがこちらで活動していますから、彼らに話を付けて協力してもらうとしましょう。

 

 と思っていましが、正直に言って彼等も優秀すぎです。

 エヴァちゃんやクロノ君に気付かれないように舞台を整えた挙句、きっちりとジュエルシードを奪い返した体裁を整えながら標的の1人だけを捕らえるとは。これもチートの一種、主人公体質的なナニカなのでしょうか。逃亡する映像を残して提出する事で、戦闘機人達を表に出せない理由を作り上げる事すらやり遂げていますし。

 私としてはチクァーブとの協力関係を作れたことが、今回の件で最大の成果ですね。

 

 さて、次は聖遺物を奪うお仕事です。最高評議会からゆりかごに関しての進展を要求されているという話は聞いていますが、その一環の様ですね。

 ゆりかごを起動する為の鍵に関する情報という、かなり直接的な指示があったそうです。

 もちろん、成功させる理由は、私やスカリエッティの中にありません。今回も状況を利用する事にしましょう。今回もあの2人に頼るのは大人として少々情けないものがありますが、パイプ役として最適な位置にいますから、仕方ありません。

 

「うむ、この研究所は閉鎖しても問題ない程度になっているよ。

 踏み込ませるのは、やはり聖王教会の予言騎士かね?」

 

「そうですね。他に適任者も思い付きませんし、エヴァちゃんの関係者が直接交流している教会関係者は、彼女達だけなので。

 将来的な身分を確保する意味でも、手柄はある方が良いでしょう。もっとも、相応の手腕が必要ですので、その試験にもなりそうですが」

 

「うむ、最高評議会の手の者が妨害工作を行うらしいのでね。我々の撤収までに踏み込むことが出来ればよし、出来なければ奪還失敗だ。

 今回は追跡側で参加するという事は、エヴァンジュに存在を知られても良いのかね?」

 

「変に無視する事で疑われてもいけませんからね。

 聖遺物を追跡する事で、こちらとの繋がりが無い事をアピールしますよ」

 

 ヴィヴィオをエヴァちゃんに紹介するまでは、疑われたくありませんからね。

 ルスターという無人世界の設備は、なかなかに優秀ですし。もうすぐ目が覚めるはずですから、ここで監視が強化されても面倒です。いくらカイゼ君に私の居場所を積極的には伝えないよう依頼してあっても、エヴァちゃんに聞かれたら誤魔化すのも難しいですからね。

 

 さて、予定通りにカリムちゃんに花を持たせ、ミッドチルダから撤収する事に成功したわけですが。

 

「近いうちに最高評議会の関係者を殲滅するのだから、この辺で脛に傷を作っておいてはどうだい?」

 

 またですか。しかも殲滅について断定形なのは何故ですか。

 

「どうやら、最高評議会とレジアスは黒の騎士団がお嫌いらしく、躍起になって粗を探そうとしているようだ。少々つついてやれば簡単に暴走するだろうし、過剰な行動に出る前に、適度にガス抜きしておいた方が良いのではないかね?

 それに、エヴァンジュが誰を警戒しているのか、幾人かは把握出来ていると言っていたではないか。そういった人物を利用すれば、対策が遅れる事も無いだろう」

 

 しかも、やはり反論の余地が無いじゃないですか。確かにチャチャちゃん達が警戒している人物を動かせば、完全な奇襲にもならないでしょう。

 もちろん、結果は予想通りの返り討ちでした。

 任務内容やポートの履歴を改竄し、監査依頼を握り潰した証拠は押さえましたから、とりあえず目的は達成しているのですが。

 いけませんね、どうも主導権を握られっぱなしです。結果が悪い方向でないのが救いですが。

 

「父様、どうなされたのですか?」

 

 ああ、ここではヴィヴィオだけが癒しですよ。転生者な人達との接触を避けるために別の区画にいるので、チンクちゃんにも会えませんし。

 当面はプレシアさんの裁判や、カリムちゃんとエヴァちゃんとの直接接触待ちですね。余裕がある間に、元オリヴィエ陛下のヴィヴィオに、今の知識を色々教えておくとしましょう。

 

 そう思っていたのは、もう1か月も前になりますか。エヴァちゃんにヴィヴィオを紹介したところ予想通り怒っていましたが、保護対象にも入れてくれました。

 計画通り、と言っていいでしょう。

 ですが、蒐集の進捗があまり宜しくないのが気になりますね。と呟いたのがフラグだったのでしょうか。

 

「闇の書の存在を表に出すきっかけが必要そうだ。もう一度、管理局に手を出させた方が良いのではないかね?

 それに、起動していない娘達を移した研究所の辺りの捜査が強化されつつあるようでね。担当部署に都合よく動いてくれそうな人物もいるようだから、気をそらす餌としても有効そうだ」

 

 どうしてこう、悪くない提案をされるのでしょうね。

 確かに、未起動の戦闘機人を見付けられるのも、あまり好ましくありません。闇の書を表に出すには何らかのきっかけがあった方がやりやすいでしょう。

 ああもう、この提案に乗る方が良いと思ってしまうあたり、駄目駄目です。

 

「随分と気にしてもらえているのは嬉しいのですが、ここまで来ると、少々警戒したくなるのですが。

 人が変わり過ぎではありませんか?」

 

「アルハザードの英知の結晶と渡りを付けられる可能性があるのだから、この程度の先行投資は必要だろう。ああ、楽しみだ。最終兵器と呼ばれながら研究者の最高峰にまで上り詰めた、曙天の指令書、エヴァンジュに会えるのが楽しみで仕方ないのだよ。

 その価値は、私が作ってきた全ての技術をはるかに超えるのは間違いない。最高評議会が必死に隠してきたアルハザード、あらゆる魔法が究極の姿と言わせる程の実力があった国の技術を、多く持っているのだろう?

 その一端に触れられるのならば、最早価値の無い最高評議会に関する全てを投げ捨てても利益しかない。そう思わないかね」

 

 ……本質的には、変わっていませんか。ですが、触れる事が重要であって、得る事は重視していない様にも聞こえますね。

 しかも、本人も気付いているかどうか不明ですが、自身の身内と認めた相手には少々甘いところもありますか。この辺は、リーナの血のなせる業なのかもしれませんが……この情報は、いつ伝えればよいのでしょうね。既に本人も知っている可能性も無いではありませんが、証拠や詳細情報を持っていないので、説明し辛いのですよ。

 

 悶々としているうちに襲撃は完了し、無事に闇の書発見という形で動き出しましたね。

 というか、襲撃した局員が関与を認めるとは、いったいどんな伝手で何をしたのか、気になります。都合よく動き過ぎでしょう。

 それよりも、無限書庫です。結界が意外に堅牢ですし、ここはユーノ君の出番ですね。予想通り調査員として送り込まれるようですし、転移目標……いえ、最初からこっそり同行した方が良いかもしれません。

 もちろん、エヴァちゃん自身が乗り込んできて、無限書庫の機能を掌握してしまったのは予想外です。流石に斜め上過ぎたので、エヴァちゃんに地球へ戻るよう促したのですが……

 

「私達やユーノ・スクライアだけでも、調査は出来る。

 ここに居座っている理由は何?」

 

 流石に、常駐しているチャチャちゃんの目は厳しいですね。

 ここはひとつ、賭けに出るしかなさそうです。

 

「いえ、エヴァちゃんにまだ知られたくない情報を隠したいのですよ。

 チャチャちゃんが隠してくれるのであれば、私も調査に協力する方向で力を使えるのですが」

 

「内容次第。お姉様が知る事で不利益が発生するなら、隠す事も必要と判断する。

 知った方が良い事であれば、報告する」

 

「それでは、エヴァちゃんの心を乱す情報は、どの様な扱いになりますか?

 せめて夜天の対処が終わるまでは、そちらに集中してほしいと思っているのですが」

 

「……不利益と判断、するかもしれない。

 それでも知るべきと判断する可能性は否定しない」

 

 ふむ、思ったよりも思考を維持していますね。エヴァちゃんの考え方が影響しているのかもしれませんが、独立した存在として仕えている、という感じです。

 リーナの言っていたイレギュラーのひとつですが、チャチャちゃんの感情や行動は、思っていたよりもエヴァちゃんに依存していないようです。これならば。

 

「では、夜天の対処が終わった後に発生するであろう騒動の予測とその対処を、私達で開始しておくというのはどうでしょう。

 事後に動けば後手に回りやすいですし、動きを知られたらエヴァちゃんの気が逸れる可能性もあります。それでも、一筋縄でいかない可能性くらいは予測出来ているでしょう?」

 

「それは否定しない。だけど、それは報告すべき情報と判断する」

 

「対処手段の選択理由に、まだエヴァちゃんに知られたくない情報を含むのですよ。

 せめて、夜天の対処が完了して、気持ちに余裕が出来てから知らせたいのです」

 

「内容次第。どの程度知られたくない情報か、判断材料は?」

 

「そうですね、プレシアさんの卵子が本人の承諾も認識も無しで取り出されていて、それから作られた人物が最高評議会の手下として動いていると言えば、衝撃の大きさは理解してもらえますか?

 遺伝子的に、リーナの子に相当してしまうのですよ」

 

「……確かに、お姉様に言い辛い内容。

 その人物を協力者として取り込む予定?」

 

「ええ、そうです。それと、闇の書関係で動いている提督達にも協力して頂くと、より安全な道を選択しやすいと考えています。

 いかがですか?」

 

「その道とは?」

 

「現在の最高評議会を排除した上で、エヴァちゃんを時空管理局の監視者という立場に据えます」

 

「本気?」

 

「もちろん、本気ですよ。

 まず、独善的な野望を持つ最高評議会の排除は前提です。プレシアさんもそうでしたが、エヴァちゃんやアルハザード関係の情報を持っている人物がいるのですから、闇の書の脅威が無くなれば余計な手出しがあるのは確実です。

 この情報が外部にまで漏れてしまえば、管理局としては何らかの対処をせざるを得なくなるでしょう。そして、公ではないとはいえ既に拡散していると思われる、どこまで広まっているかも不明な情報を秘密のままにするなど、現実的に考えて不可能と言わざるを得ません。

 だからと言って、管理局まで殲滅すれば、今度は治安が悪化するでしょう。当然、犯罪者が溢れる事になります。

 これらを回避するには、少なくとも管理局と敵対しないという明確な姿勢を示す以外の手は無いと言っていいのですよ。最も有効な手段はエヴァちゃんが管理局の中に入り込む事ですが、アルハザードの頂点に立つことすら拒否したエヴァちゃんに、管理局を支配する気は無いでしょう。だからと言って管理局に所属すると、上に立つ者が暴走する可能性が高いです。

 もちろん、完全に関係を断つという選択肢も存在はします。ですが、これは日本での生活を放棄するという前提が必要ですし、関係者達を見捨てるか連れて行くという選択をしなければなりませんから、現実的ではないでしょう。

 であれば、管理局が妙な事をしないか監視する立場、指揮系統の上ではなく、力関係での上に立つのが最も無難です。

 君臨すれども統治せず、という表現が適切かもしれません」

 

「……考えてみる。

 とりあえず、この話は秘密にしておく」

 

「それは何よりです。

 そうそう、プレシアさんの遺伝子的な子は、ジェイル・スカリエッティですよ。

 無限の欲望の因子を抑える事は成功しましたし、最高評議会の悪事の証拠を用意しながら、関係を徐々に断とうと動いています。

 この調子であれば良い協力者になってくれると思いますが、まだエヴァちゃんに知られたくない本当の理由は理解して頂けましたか?」

 

「…………本気で、考えてみる」

 

 ええ、この時の“本気”の結果は、私としても予想外でしたね。

 チャチャちゃんが禁書庫と呼ぶ領域の情報を、エヴァちゃんに隠したまま流してくれるようになりました。

 当然、スカリエッティがプレシアさんの卵子から作られた事を示す資料も見付かったので、これはそろそろ教えるべきだという事ですね。それに、プレシアさんの出生についても説明しておくべきでしょう。

 

「そうか。なるほど、道理で会った時に近しいものを感じたわけだ。

 まさか歴史に残る大魔導師の子、真実にアルハザード人の血を引く存在だったとは驚きだ」

 

「おや、驚きと言う感情があったのですね」

 

「私を何だと思っているのかね。

 だが、ふむ。私はプレシアを母と呼ぶべきなのだろうか?」

 

「全力で拒否されると思いますし、呼んだ結果の責任は取れませんが、ご自由にとしか言えませんよ」

 

「まあ良い、本人に確認してみる事にしよう。

 父と呼ぶべき存在はどうだったのかね?」

 

「幸いかどうか不明ですが、既に亡くなっているようですよ。

 古代ベルカの技術者を元にしたクローンだったようですが、稚拙な技術で作られたせいかあまり長く生きられず、名も残せなかったようですね」

 

「それは残念だ、プレシアと会わせてみるのも面白そうだったのだがね。

 ところで、黒の騎士団と守護騎士の関係が疑われ始めたようなのだが……解決策は必要かね?」

 

 襲撃ですね、解ります。ええ、黒の騎士団と守護騎士が同時に存在すれば、少なくとも同一人物とは思われないのは解ります。

 この辺の状況を見て判断出来る人物が、どうしてStrikerSで失敗……いえ、あれはなのはちゃんの無茶を読み切れなかったせいだと言えますか。天才に勝てるのは天才、なのですかね。

 

 さてと、セツナちゃんの眷属化や、アギトちゃんの救出は、私は関与していないのですからきちんと話を聞くまでは知らない方が良いでしょう。

 ですが、はやてちゃんが倒れた事は見逃せません。時間が無いという報告書も提出するようですから、そろそろ動く必要がありますね。その案も、スカリエッティのものがベースになって居る辺り、かなりどうかとは思いますが、有効な手段である事は確かです。聞いてしまえば、他の道が平穏ではないと思える程度の威力は、流石です。

 最初に説得すべきは……やはり、グレアムでしょうか。正論を振りかざして最高評議会を排除する役目は、彼が適任でしょう。エヴァちゃんを象徴的な立場に押し上げる際も、今までの実績は有用な筈です。

 手土産は、最高評議会の悪事に関する各種資料が良いでしょう。

 

「ふむ。実現は困難だと言わざるを得ないが……

 本当に、この様な手段しか残されていないのかね?」

 

「私の頭では、これ以上の良案を思い付かなかったのですよ。

 提督の計画を止める際に、かなり強引な説得、いっそ脅迫と呼べそうな話し合いがあったと聞いていますが、あの力を破壊に向かわせない唯一の方法だと考えています。

 加えて、時空管理局の歪みを正し、より良い未来を目指す事が出来ます。

 エヴァちゃんに権力を持つ気はありませんが、動きを警戒するのは一緒でしょうからね。どうせ警戒されるなら、管理局内部の腐敗を抑止する役に立ってもらった方が有益だと思いませんか?」

 

「案について、理解は出来ているよ。

 だが、どの様に実現するのか、が問題なのだよ。私も、道を踏み外した者だ」

 

「道を踏み外したからこそ、正規でない場所を歩けるのですよ。

 今の法には、最高評議会の退任に関する規定がありません。力技で周囲を納得させない限り、諸悪の根源を排除出来ないのですよ。もちろん、殺害という手段に踏み切るなら話は別ですが、断罪し辛くなるのでお勧めしません。

 私としては、時空管理局内部の腐敗を一掃する為に行動する事をお勧めします」

 

「その対象が最高評議会である、と?」

 

「最高評議会も含まれる、ですね。

 犯罪者を指導者と仰ぎたい人はいないでしょうから、事実上の退任としても反論は出ないでしょう。その上で、エヴァちゃんを後釜に据えるのが無難です」

 

「時空管理局の頂点に立たせるつもりかね。

 それは誰も納得しないだろう」

 

「無限書庫正常化の実績があり、その頃には闇の書対策の実績も増えているでしょう。加えて、エヴァちゃんは広大な土地と人を保有していますから、国王に近い肩書も持っているのですよ。

 それに、エヴァちゃんは権力を嫌がります。恐らく拒否されますので、権力の返還という条件を付け、それを利用して最高評議会を監査役という立場に変えてしまうのです。

 そもそも、顔の見えない最高意思決定機関というものがまかり通っていた事が問題なのですが、今の法にそれを覆す手段はありません。ですから、権力を嫌がるエヴァちゃんを最高評議会という立場にし、最高意思決定機関という立場を使って権力の返還を行う。これが、悪しき構造を解体する最適な手段だと考えます」

 

「……彼女には、それだけの力と価値がある。

 私はそれを、どう信じればいいかね?」

 

「エヴァちゃんは単騎で、闇の書と戦える事を保証しましょう。そして、今のエヴァちゃんが使える全ての力で戦う気になった場合は、管理局と戦ったとしても確実にエヴァちゃんが勝ちます。それだけの力や手段を持つのですよ。

 しかも、無限書庫を掌握しつつありますからね。管理局の内部情報もエヴァちゃんに筒抜け、技術情報も見放題です。そういえば、本局機密区画の見取り図と、ロック機構の設計書を見付けたと言っていましたね。

 そもそも、本局内に部外者、つまりチャチャちゃんや私が気軽に出入りしている時点で、力の差は明らかでしょう。管理局を内部から崩壊させる事くらいなら、私でも可能ですからね。

 これでもまだ信じる事が出来ませんか?」

 

「彼女は秘密主義なのか、手の内をなかなか見せてくれなくてね。

 確かに本局に入られたのは事実だが、それ以外については、な」

 

「エヴァちゃんが力を見せる時は、覚悟を決めた時だけでしょうから、仕方ありませんよ。

 力を隠しているのは、事を荒立てたくないと思っているという、この1点が全てです。逆に言えば、事が荒立ってしまえば力を使わない理由が消滅します。

 管理局が荒立ててしまえば、力は管理局に牙を剥くでしょう。その際は、最低でも本局とミッドの全滅は覚悟して下さいね。

 エヴァちゃんが本気になれば、確実に1人も生き残れませんので」

 

「……冗談、では済まないのだろうね」

 

 ええ、済みませんよ。エヴァちゃんが覚悟を決めたら、広域剥奪で壊滅させるでしょうから。

 とは言えませんが、どうにか納得してもらえたようです。手土産として最高評議会関係者の悪事の資料を渡してきましたし、エヴァちゃんとプレシアさん、ついでにグレアムを英雄に祭り上げる事も提案しました。

 リンディさんやレティさん達と相談するそうですが、次回までに方針が固まるでしょう。

 

「引き入れられそうな人物の選定を依頼するわ」

 

 ……ええと、次回とはこんなに早いものなのでしょうか。

 翌日にレティさんからの連絡があるとは予想外ですよ。

 

「つまり、後ろ暗くない人の選別ですか?」

 

「それもあるけれど、後ろ暗くとも、やむを得ない事情があるとか、実態を知らないとか、更生出来る可能性がある人物の情報がより重要よ。

 あの資料だと、優秀とされている人や、重要な役職に就いている人の多くも後ろ暗い事になっているから、現状だと指揮系統がそのまま敵対勢力になってしまうわ」

 

 ご尤もです。もっとも、これはチャチャちゃん驚異の調査力に期待でしょうか。私の能力は個人相手の情報収集には向きますが、集団を調査するには向きませんからね。

 ですが、更生出来る可能性がある人物、ですか。

 レジアスを説得出来れば、ミッドの地上については動揺を防げますかね。ゼストがまだ生きていますから、そちらから手を回せば説得出来るかもしれませんし。

 それに、執務官の上役や艦隊司令辺りには、グレアムの顔が利く人もいるでしょう。

 押さえるべきは、実働部隊の指揮に関わる人達ですね。監査は今までの実態を公開すれば事実上の崩壊に追い込めるでしょうから、怖くありませんし。

 この方向で、チャチャちゃんと相談しましょう、そうしましょう。

 またチャチャちゃんの手の早さに舌を巻く結果になるのでしょうが、未来の為です。何の問題もありません。

 

 さてと、手は尽くしました。

 各所への根回しも順調、プレシアさんの英雄化も本人の許可を貰えましたし、グレアムに日本の奥義DOGEZAも教えました。後は夜天の治療を待つばかりなのですが。

 

『全員アースラに戻れ、邪魔だ!!』

 

 どうして、こうも世の中はままならないのでしょうね。

 

「ふむ、これはあまり好ましくない状況ではないかね?」

 

「この後の展開次第ですね。あまり被害が大きくならなければよいのですが。

 力を見せるという判断をしたという事は、最終的な説得には好材料ではありますし」

 

「だが、闇の書もなかなかに手強いようだ。

 ウーノ、魔力反応は?」

 

「オーバーSが400、ニアSが600、AA以下が100を超えたところまでカウント出来ましたが、計測器が限界です。

 また、広域の結界が張られました。これ以上の観測は不可能です」

 

「ふむ、所詮は哨戒用の設備か。

 エヴァンジュは、あれと正面から戦っているようだが……個人の戦力だとは判断しにくい。空間から突然放たれている砲撃を行っているのは、何かね?」

 

「威力や数を考えると、チャチャちゃんでしょう。

 見た感じでは、数百人は攻撃に参加しているでしょうか」

 

 砲撃の高速連射など、それなりの人数でなければ現実的ではないでしょう。他の場所からの攻撃も行っていますから、ひょっとすると1000人以上かもしれません。

 しかし、チャチャマルにチャチャゼロ、それに、恐らくセツナちゃんの眷属化もこれで情報が漏れる事になるのでしょう。自棄になったわけではないでしょうが、形振りを構うよりも、夜天の、リインフォースの事が大切という事ですか。

 

『私の為に生き足掻けリインフォース、私にこれ以上家族を殺させるな!!』

 

 ……なるほど。思ったよりも、外聞より家族を、姉を優先するのですね。

 ですが、これは好都合です。この会話は、悲劇の魔導書であるリインフォース、必死に姉を助けようとする人道的な兵器(エヴァちゃん)という構図で広める事が出来ます。

 必要な種は、チャチャちゃんやスカリエッティと共に、既に準備してあります。

 提督達は、今後のプランで既に行動を開始しています。

 協力者達の説得も順調です。

 ヴィヴィオにはゆりかごの存在を教え、権力を持つ者としてエヴァちゃんの傍にいる事を了承してもらっています。

 これだけやったのですから、後は確実に芽吹かせるだけですね。

 茶番劇ですが、エヴァちゃんの平和な未来に必要な、最後の一押しとなる舞台です。高官の人達は夜天と曙天の確保が秘密任務なのですから、うまく踊って下さいよ?




感想返しや誤字修正などは、盆休みが終わってからになります。


2017/05/03 結果的は予想通りの→結果は予想通りの に修正
2020/01/29 ―(横線)→ー(長音符) に修正

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