青の悪意と曙の意思   作:deckstick

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蛇足:或いはこんな未来も/StrikerSだった何か2006年01月~

 ◇◆◇ 2006年(新暦67年)01月 ◇◆◇

 

 

 年が変わり、ギル・ガーメスが殺人の事を秘匿されたままひっそりと日本にある魔法関連の少年院に入ったりした頃。

 未だにミッドチルダの留置所にいる金子狗太について、お姉様に打診があった。

 曰く、だんだん話が通じなくなっているが、ジュエルシードの影響を調査する方法は無いか。

 リンカーコアを回復不可になるまで蒐集したつもりだったけど、治療のせいでちょっとだけ魔力が回復したせいか、余計に引き籠りが悪化してるらしい。

 無限書庫の調査が主な役目になってるユーノ・スクライア経由だけど、統幕議会も噛んでる依頼。明確な理由が作り辛いから、実質的に拒否権は無いに等しい。

 

「で、なのはまで呼ぶ必要はあったのか?」

 

「一応は関係者だし、原作を知ってる人だし、それに、その……」

 

 とまあ、微妙に色気づいてるユーノ・スクライアをそのまま高町なのはに引き渡して、お姉様はミッドチルダへ。

 クロノ・ハラオウンに案内され、留置所といいながらも隔離されたような部屋で、金子狗太と対面。

 

「さて、まともに話が通じないと聞いたが……

 クロノ、会話を成立させられるだけの会話能力は残っているのか?」

 

「少なくとも意思疎通に関する能力が健在なのは確認している。

 その意思が無いだけだそうだ」

 

「……失せな。勝者の憐れみなど受けたくもない」

 

 金子狗太は、ぼんやりと椅子に座ったまま。

 力のない目をお姉様とクロノ・ハラオウンに向けてる。

 

「別に、憐れんでなどいないし、自分を勝者だとも思っていない。

 今の状況で勝者と言えるのは、この状況を作り出したジュエルシードや、死ぬ運命から逃れたレジアスやゼスト達の方だろうな。

 グレアム達は相変わらず本局で忙殺されているし、私もやりたくもない仕事でこんなところにまで来させられる立場だ。

 最高評議会などという肩書が欲しいなら、是非替わってくれ」

 

「……権限が減りまくった残骸だろうが」

 

「そんな立場の私を勝者と呼んだんだ。羨ましいのだろう?

 さて、私としてはこんな面倒な仕事はとっとと終わらせたいから、先ずは一方的に喋るぞ。

 事の発端はジュエルシードだ。前世で日本に降ってきて、頭やらを貫かれて死亡した者の意識に干渉、特典のような悪ふざけの改造を行った上で、この世界に生まれさせたと思われるのが私達転生者だ」

 

「……は?」

 

「ちなみにこの悪ふざけは、言葉遊びに近い。

 冷静になりたいで感情消失とか、撫でられたら相手に惚れるナデポとか、撫でたらぽっと火が付くマッチもどきになっていたとか、微笑みを向けたらヤンデレになり刺されて死んだというのもあったようだな。

 お前の場合、魔力だけは多く、それを黄金に変える事で金を得る手段を持ち、雌の犬に好かれるわんわんハーレム体質だ。まあ、これについては、はっきり言ってどうでもいい。魔力の大半は失っているしな」

 

「な、何だよそれ……」

 

「いや、良くはないだろう」

 

 金子狗太は驚きで目を見張り、クロノ・ハラオウンは小さくため息をついてる。

 珍しい能力だけど、すごく有効というわけでもない、微妙な能力とお姉様は判断したから、どうでもいいのは事実。

 

「一般人に戻りたいなら、早目に立ち直る事だ。今ならまだ、日本に戻る事もミッドで暮らす事も可能だろう。真面目に復帰する意思と行動を見せれば、管理局としてはきちんと支援すべき対象となるだろうし、魔法を知る身であるから日本で魔法関連組織に保護される事も不可能ではない。

 腐ったままいたいなら、フェイトに拾われる前のキャロのような立場、もしくは金のなる木のような扱いになる事は覚悟しろ。既に情報が裏で出回り、乏しくても魔力がある以上は、少しくらいなら変換出来るだろうと考える馬鹿が湧くのは防げん。

 命を投げ捨てるなら、早い方がいい。

 人道という糸で命を繋がれ、他人の金でマズい飯を食っているのが、今のお前の現状だ。それでもなお、黄金律などという希望が期待通りに機能していて、客観的に見て女に好かれる主人公だと思えるほど、おめでたい頭でもないだろう?」

 

「事実ではあるんだが、言葉を選んでくれないか。

 時空管理局としては、人権に配慮した選択をしたいんだ」

 

 クロノ・ハラオウンが困った顔をしてるし、金子狗太は沈黙したし。

 ぶっちゃければ、眷属化して金の生成を行わせるのが、お姉様的には一番有益な気がする。

 お姉様の“世界の書き換え”でどうとでもなるし、魔力が激減してるから、有益と言える程じゃないけど。たぶん、カートリッジとかで大量の魔力を突っ込むと、金が出てくる程度の能力。

 最近動物愛護団体が騒いでるフォアグラみたい。

 

「もう一度言うが、私達がこの世界にいる事自体が、ジュエルシードの悪ふざけだ。

 アレは誰かを主人公にしてくれるような都合のいい存在じゃない。特典が言葉遊びで済んでいるだけ幸運だとすら言える状況だし、そもそも転生者は21人いた。既に4人死んでいるがな。

 改めて言うが、お前が選べる選択肢は3つだ。

 一つ、真面目に一般人を目指すなら、ジュエルシードの影響で行動がおかしくなっていた事にしてやる。しばらくは教育期間やらがあるだろうが、犯罪者に飼われるよりはマシな生活が可能になるだろう。

 一つ、腐っていたい、もしくは手出しを求めないなら、私は何もしない。

 一つ、死にたいなら、そういう風に話を付けてやる。

 おっと、番外。金を産む存在として私の奴隷になりたいなら、そう扱ってやる。

 さて、どうする?」

 

「……俺の、ハーレムは……」

 

「あるわけがないだろう。雌犬を支配したいという願望の結果がわんわんハーレムだと、さっきから言っている。

 それも、純粋に雌の犬限定の能力だ。元が狼で人としての意識があるアルフにも効かんから、無駄な足掻きは止めておけ」

 

「……何でだよ……何でなんだよ!

 俺が主人公の筈だろう!?」

 

「ふぅ……強制認識が無くてもこれか。いくら犯罪者に幽閉されていたと言っても、どこまでねじ曲がっているんだ。

 私が羨ましいのか?

 油断すれば、以前の夜天やアギトの様に実験体として全てを貪られる可能性がある私が。

 誰かと仲良くなっても、特殊な例以外は看取る事になるのが確定している私が。

 自然にも自分の意志でも死ねなくなった私が。

 人類が滅亡しても死ねない可能性が高くなった私が。

 そんなに、羨ましいのか?

 文明がまともな間はまだいいだろう。だが、文明が滅ぶ理由など、戦争や環境破壊、他にも色々ある。何百年後か何億年後か知らんが、最終的に考える事をやめるしかなくなる可能性がある存在は、そんなに……羨ましいものなのか?

 替われるものなら、是非替わってくれ。人権の無い戦乱の時代は価値観や倫理観を保てないほどに酷く、2500年の眠りはよく正気を保てたなと自分でも感心するほどに長かった。おかげで、敵を殺す事を躊躇う心はとうに擦り切れている。ついでに言えば、今のお前は面倒な仕事の原因になった敵だ。

 このままウダウダし続けるなら……そうだな、心臓でも抉り出せばスッキリするか?」

 

「待ってくれエヴァンジュ、流石にそれは恐喝に該当する」

 

「な、何でそうなるんだよ!

 管理局は人道的なんだろ!?」

 

 クロノ・ハラオウンのため息が深くなり、金子狗太が恐怖でチキン肌。

 このままだと寿命がストレスでマッハに見える。

 

「お前も原作を知る身だろう? 最高評議会が何をやっていたか、覚えているんだろう?

 最高評議会が何をして、どんな末路を辿ったか。記憶は無くなっていないのだろう?

 そんな汚れ役を押し付けられるのは、どんな人物だと思う?

 ハッキリ言ってやるが、私は自分が真っ当な感性を持つ人間だとは思っていない。選択肢を与えられてるだけでも、譲歩されていると自覚しろ」

 

「ほ……本気、なのか……」

 

「兵器として作られた私の役目は、殺す事。せめてもの慈悲は、苦しませずに死なせる事。

 そんな時代に生まれたんだ。生きるために足掻く以外の選択肢など死しかなかったし、足掻いても力が足りなければ全てを奪われるだけだ。

 それに比べ、足掻かずとも命を奪われず、人格改造すらされていないように見え、妄想に引き籠ってなお生き長らえているお前は、何て幸せなんだろうな。嫉妬のあまり、永遠に金のなる木として家畜にしてしまいそうだ」

 

「いくら出来ると言っても、軽々しくやらないでくれ。

 その情報もあまり漏れてほしくは無いんだ」

 

「ッ!? ま、まさか本気で……」

 

 従者や眷属の実態を知るクロノ・ハラオウンのため息が海より深くなってく。

 それが、お姉様の言葉の信憑性を増す結果に。

 

「アルハザードの技術を甘く見るな。

 そもそも、最高評議会すら脳味噌の状態で命を繋いでいたんだ。私にそれ以上のことが出来ないとでも?」

 

「わ、解った! 一般人になる! なるから助けてくれ!」

 

 ついに恐怖が天元突破。

 人権に配慮発言が効いてるのか、クロノ・ハラオウンに縋りついてる。

 

「ふん、さっさと決めればよかったものを。

 とりあえずジュエルシードの影響で思考がおかしくなったことにしておいてやる。真面目にやれば、そのうち普通に暮らせるようになる……が、再び妄想を垂れ流すようなら、家畜化だ」

 

 必死で頷く金子狗太を放置し、お姉様が退室。

 ちょっと遅れて部屋から出てきたクロノ・ハラオウンが、呆れ顔で近付いてきた。

 

「あんなに脅さなくても良かったんじゃないか?

 どう見ても、君の方が悪人だ」

 

「忘れていたのか。私は悪人だぞ?

 おかしくなった原因にジュエルシードが関わっている事は間違いではない。それに、アレを養うための代金として金を作らせる事もやりたくないんだろう?

 そもそも、現実を忘れるために妄想に逃げている以上、逃げ続ける事にデメリットが無い限りはそう簡単には戻れんさ」

 

「だからと言って、あの脅しは……」

 

「必死にならなくても、自分を殺さなくても、生きていられたのが羨ましいのは本当だ。

 生きる気力や希望が無いなら、死んだ方が幸せかもしれん。

 あのまま他人に迷惑をかけるくらいなら、服従属性の眷属にして金でも作らせていた方が、よほど有意義だ。

 ほら、嘘は言っていないぞ?」

 

「……相変わらずだな、君は」

 

 それでも、調査を超えて自助努力を開始するための道筋まで用意した以上、充分な成果を上げてる。

 方法はともかく、結果に文句は言わせない。

 

 

 ◇◆◇ 2006年(新暦67年)02月 ◇◆◇

 

 

 ゼスト・グランガイツ達がミッドチルダに戻ってから、約半年。2期目の研修生を送り返す頃。

 気に関する報告と、各所が相談して立案した今後の指針が送られてきた。

 

 曰く。

 

 ミッドチルダでも、適性のある魔導師が有意な割合で存在してる事が確認出来た。また、適性がある非魔導師も同程度の割合で存在している事も確認出来ている。

 カートリッジシステムをミッドチルダ式デバイスに組み込む技術に関しても、レイジングハート及びバルディッシュでの実例があり、今後の研究で更なる発展が期待出来る。

 また、カートリッジを使用しない場合や、カートリッジの適性が低い魔導師についても、若干の能力上昇が認められた。これは、魔力運用に関する技術向上に伴うものと思われる。

 運用や教育に関する注意は必要だが、魔導師の能力向上技術の1つとして十二分な効果が得られると判断する。

 

 よって、今後は魔法関連技術の一つとして、ゆっくりと広めるものとする。

 これに伴い、3期目の研修生は教導隊や学校の教官とし、1年の予定で技術を伝える事を依頼する。この準備の為に、次期は5月開始としたい。

 

「……統幕議会とミッド地上本部と聖王教会の連名か。

 随分と風通しが良くなったと見るべきか、予想以上の効果に喰い付いてきたか……」

 

 ついでに、英雄の肩書が余計な仕事をしてると予想。

 空中で魔法が使えなくなっても、虚空瞬動で撃墜を免れることが可能かもしれないとか。

 非魔導師がカートリッジ等で魔法を使うのは、補給しやすい防衛戦向き。

 犯罪者が悪用するにも、デバイスに起動用の魔力が必要だから隠密性に欠ける。

 コストも大き目だから、テロや襲撃には、低ランクで燻ってる魔導師や物理兵器の方がまだ使いやすいはず。

 AMFの機械化を研究してるジェイル・スカリエッティも、気の技術の価値を上げる要素。これ自体は設備防衛や防諜設備としての効果が期待出来るから、時空管理局公認で研究を継続中。

 

「まあ、これで堂々と使える方向になったわけだ。

 AMFの有効性も下がりそうだし、目標はクリア、だな」

 

 

 ◇◆◇ 2006年(新暦67年)03月 ◇◆◇

 

 

 進学やら進級やら、年度末でバタバタしている頃。

 お姉様は、ルスターで黄昏てた。

 原因は、能力の解析がそれなりに進んでいる事。

 

「……本当に、どうしてこうなったんだろうな……」

 

 まず、世界の魔力的なものがチート。

 少なくとも、空間として認識出来る場所であれば確実に存在するし、空間を削り取るように還元する事で強制的に生み出す事すら可能。次元空間や虚数空間にも若干ながら存在するし。

 要するに世界を維持する基盤的なナニカであり、神力とか呼んでもよさそうな勢い。

 それを使って、魔法の様な現象を引き起こせる。虚数空間だろうが問題なしで。

 一般的な魔法で出来る事、魔法の様なと表現される現象はほぼ可能。魂とイメージが魔力回路に近い働きをするようだけど、詳細は不明。

 空想具現化じみた世界を書き換える能力もこの一例。だけど、あり得ない水準。試しにルスターの重力を減らしてみたら、遠心力で大気や海、大地までもが吹き飛びかけた。

 無人世界で良かったとか、斜め下の方向で安堵。

 もちろん元に戻して、ついでに抉れたままだった地表もあっさりと復元。温室効果のある気体の濃度が高めを維持するよう調整して、マグマ露出に伴う超大型台風を超える規模の嵐を散らし、動植物を生成したらあら不思議。

 普通に緑豊かな星が出来上がった。

 まさに、天地を創造出来る程度の能力。

 3日目と5日目、それに6日目の一部を実証完了。

 

「他人の事なら、神とか言って草を生やすんだがなぁ……

 従者達の反応が怖すぎるぞ」

 

 以前から神に近いと言われてるし。

 いまさら、いまさら。

 

 同時に調査してた並行世界関係は、今でも情報の参照は可能だと判明してる。

 手出しは、現状では手法が未確立。

 並行世界への移動は、転生みたいな形なら可能だと判明してる。ジュエルシードが世界を渡ってたのはこの方法。

 世界の魔力を使い、書き換え技術を応用すれば、行き来も何とかなりそうな感じ。

 将来的に、他の並行世界に移住したくなる可能性がある。

 研究すべき。

 

「研究はいいんだが……

 本当に、どうしてこうなったんだろうな。どの辺が吸血鬼なんだ……」

 

 きっと、吸血鬼系キャラクターの能力を再現出来る辺り。

 あとは、吸血鬼系の能力を色々混ぜた上で相乗効果、みたいな。

 過剰性能なのは、気にしちゃいけない。たぶん。




2015/02/05 金子狗太の魔力の設定が以前と矛盾していた点を修正(流れは同じ)
2015/02/15 生まれたと→生まれさせた に修正
2017/05/03 論理観→倫理観 に修正
2019/09/23 教導隊や士官学校の→教導隊や学校の に変更

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