その後、昼食を挟みながら幾度となく対戦を繰り返して。
【高町なのは】や【ティアナ・ランスター】がある程度お姉様達の実力を判断したと思える頃。
「さて、次のお題だ。
高町なのは、攻撃魔法の使用禁止。
私、念話での発言禁止。
アコノ、移動魔法の使用禁止。
セツナ、カートリッジの使用禁止。
ティアナ、攻撃魔法の使用禁止。
スバル、5秒以上の接地を禁止。
エリオ、近距離以外の攻撃魔法の使用禁止。
キャロ、回復魔法の使用禁止。
休憩は今までと同じ10分。じっくり作戦を練ってみるといい」
今までとあまり変わらない様子の、お姉様。
その後ろ姿を見送った4人は、やっぱり固まって座り込んだ。
「みんな、今回はチャンスかも」
その中で【ティアナ・ランスター】だけは、お姉様の意図を見抜いた模様。
「え、なんで?」
でも、【スバル・ナカジマ】は理解してない。
「私以外は、戦力的な制限が殆ど無いからよ。
あと、今まで指揮してたのは多分エヴァンジュさん。あのなのはさんに怒鳴ってた事もあったんだから、間違いないと思う。
だけど今回は念話禁止だから、他の人が指揮を執るはず。攻撃魔法を禁止されたなのはさんになると思うけど」
「アコノさんやセツナさんの可能性もあるんじゃないかと思いますけど……」
そう言いつつも、【エリオ・モンディアル】自身、あまり無さそうだと思ってる模様。
やっぱり、攻撃魔法禁止のインパクトは大きい。
「アコノさんは、なのはさんの代わりに固定砲台でしょ。なのはさんが妙な事を任されたりしなければ、だけど。
自分の足で移動するのは速くないみたいだし、あれだけカートリッジを使うなら、魔法を使う時の集中はかなり必要になるはず。だから、普通なら指揮までは任されないと思う。
後は、セツナさんに前線を維持するのに手一杯になってもらえば何とかなるわ。多分、エヴァンジュさんがサポートすると思うけど……エリオ。2人を足止め出来る?」
「え、2人を、ですか?」
「そうよ。
セツナさんは近接がメインだし、勝つ必要は無いから、なるべく時間稼ぎ。
出来れば援護するけど、攻撃は隙があったらで。いいわね?」
「は、はい。頑張ります」
「スバルとキャロは、アコノさんを何とかして」
「わ、解りました」
「えー? あの射撃はきついし、接地は禁止なんだよー?」
「2人掛かりなんだし、地面すれすれをウイングロードで走るのは禁止されてないんだから、何とかしなさい」
「うーん……じゃあ、ティアナはどうするのさ。
攻撃魔法は禁止なんだし」
「遠隔操作で石をぶつけられて転がされてたじゃない。要するに、攻撃じゃなきゃいいのよ。
なのはさんの牽制と、サポートをするつもり。早く勝てそうな方から手を出すから、何があっても驚かずに行動する事。いいわね?」
【ティアナ・ランスター】は、“ルールを掻い潜る”をチャージ開始!
許された範囲での抜け道は、目的さえ間違えなければ有効な手段。特に、思い詰める生真面目な優等生タイプには、その辺のさじ加減が大事。
でも、攻撃魔法禁止の時のお姉様は、石をぶつけたわけじゃない。【スバル・ナカジマ】の目の前、ウイングロード上に石を置いて固定しただけ。
避け切れなかった【スバル・ナカジマ】が躓いて転んだだけ、と主張。遠隔のシールドでも同じことが出来るわけだし。
そんな感じで始まった試合は。
開始早々、突撃した【エリオ・モンディアル】の支援と【高町なのは】の指揮妨害を兼ねると思われる、閃光弾もどきが炸裂。
反応が遅れて体勢が崩れたセツナの足元にアンカーショットが撃ち込まれ、足が引っかかり気も散ったところに【エリオ・モンディアル】の攻撃が命中。早々にセツナが脱落した。
その直後、【ティアナ・ランスター】は、【エリオ・モンディアル】にお姉様へ突撃する指示を出すと、閃光発音弾的なものも混ぜて高町なのはに向けて発射。
援護無しとなった主が、【フリード】も含めた実質3対1の勝負で負けると、後は一方的に。
魔力を制限したお姉様を数で押し潰すと、攻撃魔法を禁止された高町なのはにまともな撃墜手段が残ってないため、勝敗が決まった。
「最後はなかなかいい動きをしたじゃないか。
だが、非致死性兵器に相当する魔法は攻撃魔法か否か、という点が問題か。
確かに、直接的な攻撃ではない。だが、光も音も、大出力になれば感覚に対する攻撃とも言えるからな。
お前は執務官志望だったな。今はともかく、問題になる可能性がある行動が隙になる事は知っておいた方がいい。少なくとも、目的を間違えた行動は後で問題になりやすい。
何のための行動なのか。得られるものは何か。どう評価される可能性があるのか。そういった事を考える事も必要だ」
「目的は達成したけど、過程とその評価と情報の拡散が予定や予想から大きく外れ、不要な肩書を持つ破目に陥ったのがエヴァ。
そもそも目的自体、最初の一歩が違っていれば抱えずに済んだ事。
経験者の愚痴と忠告だと思っていい」
主が思ってるのは、リインフォースを助けるという目的と過程、結果としての最高評議会の肩書について?
最初の一歩は、転生特典? これが違っていれば、車田一樹という男性がお姉様になる事は無かったとは言えるけど。
そうなれば、お姉様と私達が存在しない事に。
それは悲しい。
「アコノ……それはフォローなのか? それともツッコミか何かか?」
「認めたくなくても、事実ではあるはず。
それに、机上の理論よりは納得してもらいやすい」
「それはそうなんだがな。
さて、そろそろいい時間だろうし、こいつらの勝利で今日の訓練を終了したいが。
なのは、どうする?」
「じゃあ、いつもより少し早いけど、今日はここまで。
かなりハードだったと思うし、体を休めるのも大切だからね」
「それでも何かしたいなら、今日の反省点や改善すべき点を話し合うのもいい。
チームで行動する以上、仲間の力や考え方を把握する事も重要だ」
◇◆◇ ◇◆◇
その夜も、相変わらず“自主訓練”を続けてる【ティアナ・ランスター】。
そこへ現れたのは、お姉様。
「やれやれ。休息も大切だと言われていたはずなんだがな。
無理をすると、伸びるものも伸びなくなるぞ?」
「それでも、詰め込んで練習しないと、上手くならないんです。
凡人なもので」
やっぱり、本人の認識は変わってない。
でも、そもそもそれが勘違い。
「凡人、か。
それは、20歳や30歳で武装隊の隊員をやっている連中、つまり管理局の主戦力は軒並み落ちこぼれだと言っているんだな?」
「そうは言っていません!」
「だが、既にBランクを取得し、訓練でAAランク相当の射撃魔法を成功させている16歳のお前が、凡人だと自称しているんだ。
武装隊の隊員はBランク、隊長でもAランクくらいが多いと聞いているぞ。20代や30代でそれくらいの連中は凡人のお前以下、つまり非才だという事になるだろう?
執務官やエースといった花形は、少ないからこそ成り立つ切札だしな。それとも、命懸けの武装隊が、訓練やランク試験で手を抜いているとでも言いたいのか?」
「いえ、それは……」
「確かに今のお前の力は、はやてやなのはといった化け物連中に届かんだろう。だが、平凡と呼ぶには高い才能を持つ事も自覚した方がいい。
全く……私から見ても羨ましい程の可能性を持っているのに、どこが凡人なんだか」
「それは、どういう意味でしょう?」
あ、ちょっと怒ってる。
というか、絶対に間違った認識をされてる。
「私が今日使った攻撃魔法など、シュートバレットを少々拡張したものばかりだぞ。他の魔法も得手不得手はあるだろうが、高難易度と言えるものはない。技術的にも魔力量的にも、お前なら私がやった以上の事が出来るはずだ。
私が魔法に出会ったのはお前が生まれる前だが、その時から寝食を放棄するような訓練をし、一般的な魔法に大した適性が無いと知った後はデバイスやらで何とかしようと研究を繰り返した結果が、私だ。はっきり言ってしまえば、デバイスや他の者に頼り切っているわけだな。
感覚で魔法を組めるなのはや、気合で高難易度の魔法を成功させられるお前の才能が、本当に羨ましいよ」
うん、大きな嘘は言ってない。
攻撃魔法は、誘導弾すら使ってないし。
小さな石を動かす程度は、人を浮遊させるよりも簡単だし。
2500年前に【ティアナ・ランスター】が生まれてるはずも無く。
一時期は寝食を完全放棄し。
アルハザードで一般的な魔法を高効率で使う為のデバイスをいくつも作成したのが、お姉様。
古代ベルカ式やアルハザード式の弱点、デバイスは設計時に想定してない魔法をあまり補助出来ないという点が、根本的な問題なんだけど。
「私が生まれる前から……?」
「そうだな。
正確な年齢は秘密にしておくが、間違いなく、私はお前達が思っているよりも年上だ。
アコノやセツナに魔法を教えたのは、私や私の仲間達が中心だしな」
うん、これも絶対に勘違いされる。というか、混乱させる言い方。
外見的にも実力的にも、指導歴2年ちょっととは思われないだろうし。
「……例え、そうだとしても。
私には夢があります。その為には、力が必要なんです」
「手段と目的を間違えるな。
目的は、兄が無能ではないと証明する事だろう。ならば、兄と同程度、むしろ少し下の魔法が使えれば充分だ。それ以上の力でねじ伏せてしまえば、兄が力不足だったと言っている事になりかねん。
それに、指揮や支援に長けるなら、その役目は仲間の力を最大限に引き出す事だ。
確かに地味で目立たないだろう。だが、最も勝敗に影響する立場であり、お前がその為の才能を持っているのは確実だ。
支援向きの人物を単独で運用する無能な上司がいる事を浮き彫りにする方が、よほど目的に適うと思うがな」
「なぜ、それを……」
「お前達を指導するという事で、経歴やらを調べさせてもらったし、色々と話も聞いている。
お前の兄が殉職した時に、無能な上司が阿呆な事を言ったようだが……ある種のトラウマだろうし、気にするなと言っても無理な事は理解出来る。
だが、囚われるな。阿呆な発言が問題になる程度の良識は管理局にもある以上、阿呆の妄言を絶対的な評価だと思い込むな。
お前に、お前が目指す執務官に必要なのは、精神的な強さと冷静な判断力だと私は思うぞ」
◇◆◇ ◇◆◇
「……偉そうにお説教しとるけど。
これって必要やったん?」
お姉様と【ティアナ・ランスター】の様子を出歯亀してるのは。
【八神はやて】以下、機動6課の中心人物達。
それと。
「無駄ではないはず。
誤射はしなかったけど、根本的な原因は改善してない。放置すれば、致命的な事故に繋がる可能性が高い」
本来の姿の主と、リインフォースがいる。
音声と映像を流してるのは、主だし。
「確かに、時々度を超えてる事はあったんだよな。
けど、これで改善すんのか?」
いまいち納得してない人代表は、【八神ヴィータ】。
やり方に思うところがあるのは、仕方ない。
「解らない。本当は1度痛い目を見た方がいいのかもしれない。
それでも、やらずに後悔するよりは、やって後悔する方がいい」
「そりゃそうだけどよ。
けど、あの訓練自体が出来レースだろ。すげーリミッターかけてんだし」
「エヴァが言っている内容に、嘘は無い。
今日使った魔法はどれも、あの4人ならすぐにでも同等以上のものを使えるようなレベル。
それでも最後以外は私達が勝てたのは、戦術や指揮の差があったからこそ。
それに、私とセツナの魔法使用経験は、まだ2年とちょっと。本来は私達が一番未熟なはず」
「ちょい待ち。2年とちょっとって、ほんとか?
それに、エヴァさんに一般的な魔法に適性が無いとは、とても思えへんよ」
「本当。エヴァと出会う2年ちょっと前まで、私とセツナは魔法に触れた事が無かった。時期としてはジュエルシード事件の頃で、私達よりもなのはの方が早かったくらい。
それに、エヴァの能力はかなり偏ってる。デバイス無しで一般的な魔法を使おうとすると、自分の魔力に振り回されると聞いている。それを、文字通り寝食を犠牲に、普通の人には真似出来ないような真似をして改善したとも」
「エヴァンジュの能力は指令書の名が示す通り、直接戦闘があまり考慮されていません。情報処理やその関連能力に特化しているのです。戦闘用の魔法を、デバイスを使わず同じ魔力量で行使するならば、殆どの場合で私の方が上になるでしょう。
それを補えるデバイスを作る技術や知識、それと、私を大きく超える魔力を持っているだけなのです」
リインフォースの説明は嘘じゃないけど、ちょっと微妙。
正確には、情報処理の為の“私達や眷属達の維持”に特化。
それに必要な能力として、剥奪という材料入手手段、強靭な体、膨大な魔力を持ってる。
転移はかなり遠くの次元世界間まで行けるけど発動に時間がかかり、飛行魔法は速度重視で機動性に欠ける長距離移動用のみ、攻撃魔法も数えるほどしか回路を持ってないのは、まともに戦闘する設計じゃないから。
数少ない攻撃魔法に
世界の魔力的なナニカは、今は考慮しない。
「何か意外や。色々と完璧っぽく見えとったのに」
「エヴァにも不得意な事はある。苦手な事もある。出来ない事だってある。
全知全能には程遠いし、どんなに大きな力を持っていても本質は人と変わらない。
目的に沿うように、納得出来る結果を得られるように努力するだけ」
「そか。それで、ティアナの説教も必要と思ったわけや。
こっちとしても気になってたみたいやし、当面は様子見や」
【八神はやて】は理解してくれたけど。
今回の最大目的が【高町なのは】の魔王化を防ぐ事だと言ったら……納得、してもらえるのかな?
この話のまとめ。
エヴァ、ティアナにSEKKYOUする。