青の悪意と曙の意思   作:deckstick

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蛇足:StrikerSのはずだった何か 06

 予定された休暇の日。

 朝の訓練で第2段階のテストをクリアし、フォワード4人のデバイスのリミッターも1段階解除する事になった。

 そして、【八神一家】と【高町なのは】、それに【フェイト・T・ハラオウン】が食堂でテレビを見ながら食事をしてる時に。

 

「このおっさんは、まだこんなこと言ってんのな。

 敵も多そうだし、命があぶねーってのはわかっけど、本来の目的って何なんだ?」

 

 【レジアス・ゲイズ】の演説を聞いた【八神ヴィータ】が、難しい顔をしてる。

 

「レジアス中将は、古くから武闘派だからな。

 発言自体は不思議ではないが、何か裏があるという事か」

 

「本人の気性もあるが、一種のパフォーマンスでもある。派閥を纏めたり、資金を集めたりするのに効果があるらしいぞ。

 それと、本当の目的はミッドチルダの平和を守る事だ。現在の手段はともかく、目標自体は純粋で真摯な、本質は夢を追う少年なんだぞ。見た目と態度と手法がアレなだけで」

 

 【八神シグナム】の言葉を受け、お姉様が会話に参加。

 但し。

 

「エヴァさん!? いつからおったん!」

 

 コーヒーを片手に座ってるのを、この場の誰にも気付かれないままだった。

 認識阻害やらを使ってのこっそり転移、楽しいです。

 

「いや、疑問を解消しておこうかと思ってな。

 ちなみに演説でも言っていたアインヘリアルは、純粋魔力攻撃の誘導弾で犯罪者を遠隔狙撃する事を狙っているらしい。陸士部隊で対処出来ない相手を強引に叩き潰す切り札だそうだ。

 艦載砲や対空砲の技術が元らしいが、よくここまで改造した物だと感心するよ」

 

「……それ、言ってもええん?」

 

「陸士部隊で対処出来ない相手にアインヘリアル自体を襲撃される事を想定していない、運用面の欠陥を抱える不良品だしな。大規模な組織立った犯行には力不足だとも思う。それでも、普通の犯罪者には脅威だ。さっきの20%やら35%やらの数字を達成出来るかは知らんが、きちんと運用出来れば少しは効果を出せるだろうな。

 但し、ある程度情報を広めなければ抑止効果が出んから、順調に話が進めばきちんと発表するんじゃないか?」

 

「情報の筒抜けが酷いなぁ。

 導入を焦る理由は……やっぱり、人手不足なんか?」

 

「優秀な魔導師を本局に取られると嘆く人物が、人の育成を優先する、優先出来ると思うか?

 兵器であれば、最悪でも技術を渡せば実物は維持出来る。そんな思惑があるようだぞ」

 

「地上と本局の仲が悪いのは、その辺もあるんやね……」

 

「戦力を魔導師に頼る組織や文化なんだから、限りある“人”の取り合いになるのは当然だな。

 金で有力選手を引き抜いていった巨神を苦々しい思いで見る阪人、程度の敵愾心か?」

 

「うわ……なんか嫌なもん想像してもうた」

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 実にのんびりした空気が流れてる。

 【八神はやて】達は簡単な事務仕事や調査を。

 フォワードの4人は街で買い物などを。

 【カリム・グラシア】と【クロノ・ハラオウン】は聖王教会の方で話し合いを。

 【八神シグナム】は、合同捜査の会議を。

 【八神ヴィータ】は、海上で演習を。

 【ギンガ・ナカジマ】は事故現場の検証の手伝い等を。

 【ヴィヴィオ】は地下水路で放浪を。

 だんだんのんびりって感じじゃなくなってる気がするけど、そんな感じでいろいろやってる、おやつの時間。

 お姉様は【八神はやて】の部屋で、のんびりと雑談中。

 

「でも、こんなにのんびりしててええの?

 夕方までには、って言っとったけど」

 

「すぐに慌ただしくなるからな。今のんびりしなければ、いつするんだ。

 そうだな……あと数分で、エリオとキャロがヴィヴィオと接触する。

 気付けばという条件は付くが、気付かなそうなら適当に音でも出してみるか」

 

「えーと、ちょい待ち。

 いつから捕捉してるん?」

 

「輸送していたトラックが爆発した直後くらいからだな。

 もうすぐ20分ほど経つか」

 

「小さい女の子を、そんなに放置したんか!?」

 

「だが、休暇中のあいつらを何でもないのに地下水路に行かせるわけにもいかんしな。

 周囲の警戒はしているし、箱の中にあったレリックも回収済みだ。

 箱が2個あって重そうだったから、1個を水の中に落とす手伝いもしてみたが」

 

「そういう問題やない! ああもう、何でイベント待ちなんてせなあかんのや!!

 知らん方が精神的に平和やん!!」

 

「私達が手出ししなくていい範囲で何とかしてほしい、お前達が必要以上に睨まれる要素を減らす。待つ理由は、主にこの2点だな。

 もどかしい気持ちはよく分かる。色々とばれている自分の世界なら、とっくに手を出している自信があるからな」

 

「うー、悪い意味でドキドキや」

 

 落ち着かない【八神はやて】は、とりあえず放置して。

 【エリオ・モンディアル】が音に気付き、【ヴィヴィオ】がマンホールから登場。

 

「ふむ、周囲がまるで気にしていない音に気付くとは。

 流石はエロオ、女の子には敏感だな?」

 

「茶化してる場合ちゃう! っと、一斉通信やな」

 

『こちら、ライトニング4。緊急事態につき、現場状況を報告します!』

 

 【キャロ・ル・ルシエ】の報告は、原作同様。ケースを開けてないから、レリックが無い事には気付いてない。

 それを受けて【高町なのは】がお休みの中断を宣言、【フェイト・T・ハラオウン】が救急の手配や【スバル・ナカジマ】と【ティアナ・ランスター】の移動を指示。

 そんな中、【八神はやて】はと言うと。

 

「全員待機態勢。席を外してる子達は、配置に戻ってな!

 先ずは、その女の子を安全確実に保護するよ!」

 

 お姉様の入れ知恵のせいで、レリックの話が抜けた。

 バタバタと人が動いてるけど、ヘリで現場に向かう人員や、市街地や海岸線を担当する部隊に戦闘の可能性を知らせてある点までは変化無し。

 【八神はやて】は移動せずに、聖王教会にいる【カリム・グラシア】、【クロノ・ハラオウン】、【八神シグナム】に連絡してるけど。これはきっと、お姉様がいるせい。

 

「レリックはエヴァンジュさんが確保済みという事や。

 残るは、聖王陛下の違法なクローンとはいえ、普通の女の子。きちんと保護せなあかん」

 

『本当に現れるとは、な。

 問題はガジェット・ドローンや戦闘機人の動きだが……』

 

「それは私が説明しよう。

 現在、海上と地下水路からガジェット・ドローンが侵攻中だ。特に海上は、クアットロがレアスキルの幻影で増量する準備をしてあるようだな。

 ヘリの狙撃にディエチ。恐らくサポートだろうが、少し離れてトーレ、セイン。さらに少し離れた海の方に、クアットロ。

 地下水路に近い位置に、ルーテシア、ゼスト、アギトの3人。

 それと、どうも水路の方に向かっていると思われる、チンク、ノーヴェ、ウェンディがいるんだが……この3人の動きが気になる。稼働が長いチンクはともかく、ノーヴェとウェンディは調整が終わっていないはずなんだが」

 

 【ゼスト・グランガイツ】が来てるのは、まあ解らなくはない。

 でも、原作的にも【ジェイル・スカリエッティ】からの情報的にも、【ノーヴェ】と【ウェンディ】の武装が調整中なのは間違いない。

 特にノーヴェは、原作でも出撃を止められてた……けど、何という事でしょう。止める立場だった【ジェイル・スカリエッティ】と【ウーノ】は、既にこっちに来てるではありませんか。

 

『6課で対処は?』

 

「今、なのはちゃん、フェイトちゃん、シャマル、リイン、ザフィーラがヘリで現場に向かってくれてる。

 少なくとも女の子をヘリに収容するくらいの時間はあるそうやし、フォワード達に地下水路の、フェイトちゃんとリインに海を、シャマルとザフィーラにヘリの守りを任せる予定や。逮捕はシグナムに任せるから、早目に向かってな」

 

『了解しました。では、早速』

 

「ついでに言えば、こっちのシャマルとザフィーラも支援の為に送り込む予定だ。

 Sランク相当の砲撃は少々荷が重いかもしれんが、4人いれば何とかなる。魔力が似ているから誤魔化しやすいしな」

 

 夜天の魔道書の有無のせいか、細かく調べると違いはあるけど、普通は気付かない程度には似てる。

 ついでに言えば、主とシグナム、ついでにはやてとリインフォース姉妹とヴィヴィオもここに手を出せるように待機予定。

 地下水路にお姉様、高町恭也、高町美由希、トーレが。海にプレシア、セツナ、フェイト、ヴィータ、高町なのは、クアットロが。それぞれ手助け出来るよう準備してるから、別に偏ってるわけじゃない。どこも全力なら間違いなく過剰戦力になるし。

 

 そんな感じで、お姉様達が表に出ないまま、事態は着々と進行してく。

 【八神はやて】が私と一緒に司令部に向かうと同時にお姉様が別荘に引っ込み、【高町なのは】達が現場に到着し、ガジェット・ドローンを機動6課でも捕捉し、【八神ヴィータ】と【ギンガ・ナカジマ】が戦力に加わり、フォワード達が現場調査を始め、【フェイト・T・ハラオウン】と【リインフォースⅡ】が海上へと向かう。

 この辺の多くは、割と原作同様。

 明確な違いは、ヘリにザフィーラが搭乗している点、【八神はやて】に私が1人同行している点。

 それと。

 

『ルーお嬢様はぁ、地下のレリックを探して回収して下さいねぇ。

 邪魔する人がいますけどぉ、気にせずやっつけちゃって大丈夫ですからぁ』

 

 【ルーテシア・アルピーノ】に指示をしてるのが、【クアットロ】になってる点。

 【ルーテシア・アルピーノ】の横に【ゼスト・グランガイツ】と【アギト】がいる点も。

 だからか、指示の内容もレリックに絞られてる。【ジェイル・スカリエッティ】と【ウーノ】が不在だし、それを誤魔化す為にも、本人の目的に沿わせてる感じ。

 

 とりあえず事態は原作からあまり乖離しない。

 ある程度の戦闘の後、【クアットロ】がシルバーカーテンで幻影のガジェット・ドローンを出すところまでは。

 

「航空反応、増大!

 これ……嘘でしょ!?」

 

「実物に近い反応をする高度な幻術や、解析用のパターンは一応入手してる。

 チャチャちゃん、情報よろしくな」

 

「解った」

 

 通信用に調整済みの私達のデバイスから、情報転送を開始。

 元ネタは予め解析しておいたクアットロの情報だけど、同じやり方で識別出来る点は既に確認済み。こんな事もあろうかと、とか言う雰囲気じゃないから、これはちょっと自重。

 あと、識別は戦闘中の個人でやれる処理じゃない。負荷が大きくて、戦力低下が激しすぎる。

 

「識別成功……?

 全体の9割が幻影ですが、遠方にも実機が存在しています!」

 

「情報をフェイトちゃん達と陸士部隊にも送ってな。

 グリフィス君は航空武装隊に応援要請。範囲が広すぎるし、相手は今の所ほとんどが海上や。なのはちゃん達と陸士隊では対応し切れへん」

 

「了解!」「了解です」

 

 まあ、航空部隊は当てにしてないけど。

 少なくとも最速で情報を渡した事実があれば、後々つつく材料になる。

 というか、材料にするための応援要請。

 

 そんな感じで慌ただしい様子を、別荘から見ているお姉様はと言うと。

 

「エヴァンジュお嬢様ぁ。

 あのガラクタを操って被害を出させるのは、どれくらい後ですかぁ?」

 

「通信網の掌握は完了している。いつでも可能だよ」

 

「せめて10分か20分くらいは待ってやらないとな。

 急げば間に合ったと思わせないと、反省も出来んだろう」

 

「了解ですぅ」

 

 クアットロやジェイル・スカリエッティと一緒に、絶賛悪巧み中。

 具体的には、遠くにいるガジェット・ドローンの制御を乗っ取り、その付近の“お姉様の好みでないモノ”に被害を出させる。

 最高評議会関係の犯罪者に被害を与え、航空隊の動きの遅さを浮き彫りにし、用事が終わったら要らないモノ(ガジェット・ドローン)の機能を落として排除してもらうという、無駄のない計画。

 

「さて、海のゴミ掃除は任せるぞ。

 私は少し話をしてくる」

 

 というわけで、お姉様が転移。

 行き先は、ゆっくり接近してきている【ゼスト・グランガイツ】の一行。

 

「……突然だな」

 

 残念、【ゼスト・グランガイツ】はお姉様に慣れてしまった。

 臨戦態勢になってない以上は敵対する気は無いんだろうけど、警戒心は相変わらず。

 【ルーテシア・アルピーノ】は驚いてるだけで、【アギト】は臨戦態勢に見える。

 

(予定通り、可能な範囲で精神干渉。ルーテシアの思考を矯正するぞ)

 

 了解。

 外部からの干渉は既に妨害してるから、後は本人に仕込まれた部分を改善。

 何をどうやったかのは【ジェイル・スカリエッティ】の証言で判明してる。即時の除去は不可能でも、強制認識やらを使って、緩和くらいはやって見せる。

 

「なかなか連絡が無いから、来てしまったぞ。

 それと、スカリエッティを引き抜いてからクアットロの動きがおかしいんだが、お前達に妙な影響があったなら謝罪しよう」

 

「そうか、クアットロが口煩くなったのは、お前達の影響か。

 改めて聞くが、時間の猶予はどの程度残っている?」

 

「クアットロやドゥーエの行動次第だ。最速の場合、今日中に事態が大きく動く。

 逆に……そうだな。今なら、直ぐにレジアスと会わせる事も可能だ。突然押しかけても、お前なら話ぐらい出来るだろう」

 

 まだ【レジアス・ゲイズ】と接触してないから仕方ない。【ゼスト・グランガイツ】抜きでの接触は決裂しか想像出来ないし。

 その【レジアス・ゲイズ】は、ガジェット・ドローン大量発生と機動6課からの応援要請の報告はさっき受けてた。出動を指示して伝令が退出した後は【ジェイル・スカリエッティ】と【八神はやて】を罵倒しまくってるけど。

 部屋には、他に誰もいない。絶好の襲撃日和。

 

「そうか。だが、計画の割り込みになるのだろう。問題は無いのか?」

 

「無いな。どうせお前を連れていくことを先に伝える事は出来んし、事態が動いた後では会話自体が無意味になりかねん。その意味では、タイミングとして今でもかなりギリギリだ。

 私としては、もう少し余裕があると思っていたんだがな」

 

「ふむ……」

 

「……母さんは……?」

 

 考え込んだ【ゼスト・グランガイツ】にかわり、【ルーテシア・アルピーノ】が控えめな声で質問。

 その肩付近にいる【アギト】の表情は相変わらずだけど、話を中断させる気は無さそう。

 

「体の維持は今も行われているようだし、望むなら、すぐにでも連れてきて治療を行おう。

 時間の問題で、ゼストの話の方を優先させてもらうが……事態が動くか、クアットロ辺りが余計な事をするまでに決断したなら、治療成功を確約しよう」

 

「そう……わかった。お願い」

 

「うむ、了承した」

 

 細工は流々、仕上げはご覧の通り。【ルーテシア・アルピーノ】自身が望んだと、【ゼスト・グランガイツ】と【アギト】に認識されたから、設定目標をクリア。

 では早速、【メガーヌ・アルピーノ】の回収から。

 治療はすぐ始められる。でも、意識の回復は保留で。どうせすぐには効果が出ないし。

 

「んじゃ、次はアタシだ。

 研究対象にする必要が無いって事、どうやって信じればいいんだ?」

 

 融合騎として散々な目に遭ってた【アギト】の心配は、理解出来る。

 口先だけなら何とでも言えるのは確かだし。

 

「ふむ……なら、これでどうだ?

 私も融合騎の一種だからな。もっとも、適合率は恐ろしく低いが」

 

 お姉様、ベルカ式の魔法陣を出して、モードチェンジ。名付けて、妖精モード。

 外見は幼女のまま30cm程に縮むだけとはいえ、今回だけでお蔵入り予定。

 なんてもったいない。

 

「え……うそ……だろ……」

 

「嘘に見えるか?

 研究対象に見られて嫌な思いをする事は、私も共感出来る。それに、融合騎の構造や作り方も知っている。研究しない理由はあっても、する理由や意味は無いわけだ。

 そうそう、多少手を入れる事になるし、時間制限やらが付くが、お前も10歳程度の人の姿になれるようにする事も出来ると思うぞ。私はそっちの姿の方が安定するんだがな」

 

 お姉様、幼女モードに復帰。

 【アギト】の人間サイズ化は、アギトで使った手法を流用出来る、といいな。破損してる機能の復元と強化が主体だけど。

 難点は、アギトもまだ常用出来るほどには安定してない事。元がユニゾンしない戦闘時の身体能力向上が主目的の機能だけに、燃費が悪いし、長時間の連続使用が想定されてない。

 

「そんなわけだから、まあ、あれだ。

 同胞を歓迎する事に問題は無いだろう?」




2016/04/11 ガジェット・ドローンが機動6課でも→ガジェット・ドローンを機動6課でも に修正

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