最高評議会の断罪開始から、1週間が経過。
既に【ヴィヴィオ】を利用せずに【聖王のゆりかご】を起動する目途はついてて、今は、破壊を印象付けるためのデモンストレーションの準備中。
時空管理局の改革については、こちらの世界の人、具体的には【レジアス・ゲイズ】や【クロノ・ハラオウン】達に任せるべき段階になってる。
【ゼスト・グランガイツ】と【アギト】は、【八神シグナム】達と共に現場を駆け回ってる。その過程で【八神シグナム】と【アギト】の仲が良くなってるのは、どう見ても早目に死ぬ気でいると思える【ゼスト・グランガイツ】の仕込み。
未だ意識が戻らない【メガーヌ・アルピーノ】は、レリックを抜いて療養が必要になった【ルーテシア・アルピーノ】と一緒に、シャマル特製カルテ付きで聖王教会の病院に移送済み。概ね被害者という扱いになってるし、カルテの内容も【八神シャマル】の確認と納得の上だから、後は任せられる状態。
戦闘機人達の大半は【ジェイル・スカリエッティ】の所に戻って、今では助手的な役目を担ってる。【トーレ】はトーレや高町兄妹との手合せやらを通じて少し落ち着いたし、例外は反抗的な【ドゥーエ】と【クアットロ】の、収容所行きになった2人のみ。これくらいは許容範囲か。
というわけで手が空いたお姉様は、別荘で何度も報告書やらを見直してる。
「そんなに見ても、意味は無いんじゃないかしら?」
その様子を見てるのは、のんびりお茶してるプレシア達。
特に問題は発生してないのに、みたいな視線で。
「いや……いつもそろそろ終わるというタイミングで、予想外の事があるんでな。
気になってどうも落ち着かん」
「それでも、報告書を何度も見る意味は無いわ。予想出来ないからこそ、予想外なのだから。
ねえ、アリシア」
「だよねー」
「予想外といっても、悪い事だけではありませんよ。
次元空間に身を投げたはずの私が保証します」
アリシアとリニスはにこにこと笑ってるし、フェイトも黙ったままうんうんと頷いてるし。
けど、ジュエルシードの時(主様のクローン発覚)も、闇の書の時(ぶっとびナハトヴァール&お姉様更にチート化)も、ついでにアルハザード崩壊時(主様殺害命令)も、お姉様は予想してなかった事態に直面してる。
警戒したくなるのも、理解は出来る。
「想定外の事態に警戒しつつ、例え戦闘中だろうと回復出来る時は疲れを取る。
長期戦では重要な事だ」
「戦闘中だろうとって辺りが、無茶言ってる気がするけどね」
高町恭也と高町美由希は、すぐ動けるようデバイスを手元に置きつつリラックスしてる。
その隣にいる高町なのはは、役に立つ場面が少なかったせいか不満そう。
「解ってはいるんだが……もうすぐ、ゆりかごの偽装破壊だからな。
何かあるとすればその時か、そうでなければ腐れ脳味噌の悪足掻きか、スカリエッティの暴走か、帰る時か。
罠がありそうな場面が、まだいくつもあるんだ」
「立場や今後が気になるのは、ゼストかしらね。
レリックの回収を拒否されたのでしょう?」
「ロストロギアが埋め込まれている事を公表する為に、実験体としての証拠を残すとかでな。
こっちの技術では安全に除去出来ないからと言っていたが……死に急ぐ必要も無いだろうに」
「それもまた、責任の取り方よ。
本人に悪気は無いでしょうし、必要以上に1人で抱え込む点で、誰かさんと同類かしら」
「目的の為に自分を含めた全てを投げ出そうとした誰かさんには、言われたくないな」
◇◆◇ ◇◆◇
別荘はそんな緩い空気のまま、次の日になって。
ミッドチルダでは【聖王のゆりかご】が浮上して大騒ぎ。
その様子を空中モニターで見てる、フル装備のお姉様といつも通りの他の人達がいる。
というか、浮かんでいる空中モニターが多数。どれも内容が異なってて、中には【聖王のゆりかご】の状況を表示してるのもある。
「起動レベルは想定通りで、状況も安定しているか……」
「当然だよ。本物の聖王核を持つ聖王の協力も、聖王核の模造品であるレリックも、事前調査で得た情報もあったのだ。それらが有効である事が確認出来た以上、失敗する要素など無いと言っていい。
仮に問題があっても、いくつもの予備策を用意してあるのだよ。文字通り大船に乗った気分で待っていたまえ」
自信満々のジェイル・スカリエッティが、笑ってる。
起動レベルが落ちても破壊予定場所までの移動は何とか出来るよう準備してあるし、最悪の事態に備えて【ヴィヴィオ】も搭乗済み。
同じ名前のヴィヴィオを姉と教えたせいかいい感じに懐いてるし、転送要員やらで一緒に来てる私達ほか数人も、お友達として一緒に遊んだりしてる。予定してる演説の時は、聞かれないよう席を外してもらうつもり。
【クロノ・ハラオウン】率いる艦隊も、巡回任務という形でミッドチルダの近くを通りかかっていた時に連絡を受けたという形で、もうすぐ到着するし。
当然、連絡したのは【ジェイル・スカリエッティ】から話を聞いた【八神はやて】と【カリム・グラシア】という事になってる。
関係者の多くが関わってるから、何かあっても多くの人が動ける態勢が整ってる。
「確かにそうなんだが……」
「何かあっても、大抵の事はどうにか出来るだけの力は揃っているわ。
1人で全ての対処をする必要も無いのだから、もっと私達を頼りなさい。
使うのではなく、よ」
「……善処する」
「どこかの政治家の様になっては駄目よ」
そんなゆったりだかグダグダだかの空気のまましばらく時間が過ぎて。
マスコミや市民の目が集まったところで、ヴィヴィオ達による宣言を開始。
『初めまして。私はオリヴィエ・ゼーゲブレヒト、今は聖王等と呼ばれている様ですが、兵器と成り果てた過去の遺物です。
私が乗るゆりかご……正確には聖王のゆりかごという名ですが、これは暴力の為の力、破壊の為に作られた兵器です。不完全なクローンとして目覚めた私は、残された時間を、平和な世界には不要なこの様な武力の象徴、過去の亡霊を無くす為に使いたいと思います。
今の世の話は聞きましたが、私とゆりかごは、違法な手段、後ろ暗い理由で確保され、目覚めさせられたようです。この身は盗難物を使用したクローン、ゆりかごも身勝手な目的の為に隠されていたと。
話をしてくれたのは管理局の方々ですが、無理に聞き出し、協力をお願いしたのは私です。
彼等、彼女等を責めないで下さいね』
『時空管理局 本局古代遺物管理部 機動6課 部隊長の八神はやてです。
突然な話なのは解っていますが、これまでの経緯と現時点での状況を説明したいと思います。
聖王のゆりかごについてですが、最高評議会が王政国家を作るための戦力として確保していたようです。そして、その起動に必要な鍵として、聖王のクローンを作ろうとしていました。
その結果として、ここミッドチルダで聖王のゆりかご、そして、聖王陛下の記憶を持つクローンが発見されました。
情報の提供者はジェイル・スカリエッティ。彼が持つクローンに関する技術的な見地と発見時の状況から、聖王陛下が生きて居られるのは安静状態でもあと数日、活動可能なのは数時間が限界だと判明しています』
「ヴィヴィオのショートヘアは久しぶりだな」
「元に戻すだけで、ばれにくくなるもの。
もうしばらくこの世界にいる事を考えると、悪くない偽装方法よ」
『聖王教会 教会騎士団 騎士 カリム・グラシアです。
聖王のゆりかごの歴史的な価値は、確かに計り知れません。しかし同時に、過去にいくつもの国や世界を滅ぼした記録がある、とても大きな危険性を持つものでもあります。
私は今回判明した悪用されつつあったという事実、そして何より、聖王陛下の強い願いを受け、聖王のゆりかごを破壊する事を決めました』
『時空管理局本局 次元航行部隊のクロノ・ハラオウンだ。
偶然とはいえ近くにいた我々は、確固たる平和への意思を尊重し、聖王のゆりかごの破壊を担当する事となった。
現在我々はミッドチルダに向けて航行中、間もなく到着する』
『ミッドチルダ首都防衛隊代表、レジアス・ゲイズだ。
地上の平和を預かる我々にとって、この様な兵器がミッドチルダに隠されていた事は脅威以外の何物でも無く、犯罪者の手で使われる前に対処出来る事は幸運である。
破壊という聖王陛下の決断を称え、しかし、あまりに急な事態であるが故に通達が間に合っていない事を、地上に住む全ての人々に謝罪する』
「……レジアスまで参加するのか」
「青二才だけでは本局の上層部を抑えられんだろう、等と言っていたそうよ。
地上の平和に対する願いだけは真摯という点で、どちらの世界も同じね」
「ツンデレがデレた……か?
それとも、燻っていた正義感がミラクルを起こしたか?」
お姉様達は好きに喋ってるけど、放送の多くは既に自称専門家による解説や解析に切り替わってる。
専門分野が政治やら歴史やらバラバラだけど、多くが通信での対応となってる辺り、手当たり次第に連絡して協力を取り付けた感が強い。
それくらいしか出来ないくらい、急な話にしたわけだけど。
「ゆりかごを破壊する事への反対は、思ったより低調だな。
やはり兵器である事実が、貴重な遺産という価値を曇らせてしまうか」
「どれほど貴重な物か知らないまま、世界を滅ぼした兵器だと言われたのだから、当然よ。
その上、教会の崇拝対象が決断した事でもあるし、しかも教会や管理局の支持を得ている様な内容の宣言付きなのだから。内心では反対であっても、表向きは正負の両面を説明しつつ中立の立場を取るのが限界よ」
「立場を明かして私達が決めたと言っているだけで、教会や管理局の決定だとは言っていないんだがな。
レジアスだけはトップの決断になるし、伝説かっこわらいの提督3人も破壊に関して明確な反対の立場は取らない約束は取れたから、大問題になる事は無いと思うが」
「あら、お偉方の説得は終わったのかしら?
それに、態々妙な言い方で蔑まなくてもいいと思うのだけど」
「ついさっき、妹達から連絡があったぞ。出来れば賛成の声明が欲しかったところだが、現状では確約しかねるそうだ。情報不足だから妙な言質を取られたくない感じらしいが、これはまあレジアスが補ってくれたか。
そもそも、生きている人物を伝説の存在と言われてもな。過去に活躍したのは事実だろうが、本人がいるのに態々“かたりごと”の“噂話”だと主張する必要があるなら、恣意的な誇張が必要だという事だろう?」
「随分と歪んだ解釈だが、それも人というものだろう。
真実は伝えられる事も無く、多少関わった程度の事も本人の功績だと持ち上げられ、立場に縛られ、責任に縛られ、役目に縛られる。
よくある、少々目立ってしまった者の末路だよ」
「そうなるのが嫌だから、目立つ身分は要らないと言っているんだがな……」
そんな事を言いながら、待つことしばし。
聖王のゆりかごが大気圏を離脱し、アルカンシェルのやたら広い効果範囲でも地上に影響が出なくなった頃。
【聖王のゆりかご】の玉座では、ヴィヴィオがぐったりとしてた。見かけ上は。
『陛下、脱出を!』
『無理、なのです。
鍵となった聖王は、ゆりかごの一部となり、兵器として生きる事を、強いられます。
もはや、この部屋から出る事すら、叶わないのです』
『そんな!?
必ず戻ると仰っていたではないですか!!』
『今の私は、兵器、なのです。
お願い、します。私を、人として、死なせて下さい。
私を、人に、戻してください。このままでは、時間が……』
ヴィヴィオと【カリム・グラシア】の悲劇的な寸劇が繰り広げられて。
最終的に【クロノ・ハラオウン】の決断で、聖王のゆりかごはヴィヴィオと共に破壊された。
公式には。
当然、実態はそんなはずがなく。
「エヴァンジュお嬢様ぁ、任務は完了ですぅ。
嘘と幻の爆破イリュージョン、如何でしたかぁ?」
「流石に、戦艦の砲撃は強力でした……」
「だが、私も手助けしたとはいえ、あと少しであの威力の砲撃を受け切る可能性すらあったのだ。
素晴らしい実力だと言っていい」
「偽装の汗が気持ち悪いので、ちょっと流してきますね」
別荘には、やっぱり緩い空気が流れてる。
砲撃前に、【聖王のゆりかご】は聖王のゆりかごの近くへの転移が完了してた。転移以降はクアットロのシルバーカーテンで存在を偽装、砲撃が命中した事を計測させるためのシールドはお姉様のバックアップを受けたセツナが担当して、リインフォースにサポートとフォローを頼んでた。
転移は時間的に余裕を持たせてたし、他の2点は成功すれば計測値として嘘が無くなり、失敗しても情報操作やらで誤魔化せる部分。
安全策は、抜かりない。
その分、ヴィヴィオの汗は水分的な意味で本物になったけど。幻影やらで服や髪のべたつきまで再現するのは、手間ばかりかかって仕方ないし。
【ヴィヴィオ】も機動6課に帰してあるし、これで、私達が関わる必要がある作戦は、一通り終了したはず。
「後は概ね状況を見守るだけだから、峠は過ぎたか。
拍子抜けする程度に順調だが、いい事だ」
では、今後についての注意点を報告。
元の世界とこの世界の、時間経過速度の差が小さくなってる。
既に2倍程度になってて、なおもゆっくりと減速中。
元の世界での時間経過は、現時点で概ね3日半。
これも想定して長期休暇を使った決行になったけど、長居しすぎると色々よろしくない。
「問題は、そっち方面だったか。
想定はしていたが……随分と減速が早いな」
「世界間の繋がりが強固になったという事でしょう。不思議がる必要は無いわ」
「他の世界から切り離され、我々の世界と強く影響しあうようになったのだ。
我々の世界の時間がこちらの世界の時間に追い付く事になっても、何も驚かんよ」
「そうだが、思ったより減速が早い。
これは、早めに撤収した方が良さそうだな」
「ええ。フェイトやアリシアを不良にするわけにはいかないもの」
「……まあ、そうだな」
作戦目標はクリアしてるし。
お姉様は時間経過が早い方の世界にいた方が諸々の都合がいいけど、こっちに使い魔や私達が残る気は無いし、これくらいの速度差なら通信も何とかなるし。
というわけで、撤収準備開始?
やりたい事が残るとあれだから、すぐに帰るわけじゃないけど。
2016/04/11 リンフォース→リインフォース に修正
2019/07/31 ショートヘアは、何だか新鮮だな→ショートヘアは久しぶりだな に修正