青の悪意と曙の意思   作:deckstick

147 / 162
蛇足:StrikerSのはずだった何か 12

 お姉様と主の事実婚が成立して、早1週間。とは言っても、その事実は2人とも口にしてないし、指輪もまだ出来てないし、元々主従として一緒にいたし。そんな感じで、表面上の変化はない。

 細かい変化は、もちろんある。

 お姉様と主の距離(物理)が近付いたり、お姉様と主の接触(物理)が増えたり、主の甲斐甲斐しさがアップしたりと、いちゃついてると言われてもおかしくない行為が増加してる。けど、元々主が何度も求婚求愛してたからか、あり得る変化として生暖かく見守られてる。

 人前以外、要するにベッドの中だと、一緒に寝る時に主がしがみつく部分が腕から体に変わって密着度が大幅アップ。但し、性的な欲求が希薄になってるからか、(ピー)や(アッー)な事にはなってない。

 

 山場を過ぎ、お姉様のやる気が地に落ちてる並行世界への介入は、やる気と同じくらい手を出す必要性も下がってる。

 細かい問題は山積みだし、問題が無いとは言えない。だけど、致命的になる前に対処したり、急ぎでないものを見極めて先送りしたり出来てる。表に立つべきはこっちの世界の人だし、【八神はやて】や【レジアス・ゲイズ】達はしっかりと役目をこなせてる。

 成瀬カイゼ達の調査も終了したし、主要な人物には顔を見せ終わってる。こっちに留まる必要性は無くなったと言っていい。

 

 というわけで、撤収の連絡等を兼ねた、関係者というかお姉様達と機動6課の3人娘による雑談タイム。

 場所は、機動6課の部隊長室。要するに【八神はやて】の仕事場。

 

「破壊したはずの聖王のゆりかごをどうするかとか、色々先送りしとるけど……通信機も預かったし、悩むのは後でええな。

 けど、メールとチャット……文字通信機能だけのを3台ってのは、理由があるん?」

 

「時間の流れが違うから、通話は候補から除外した。以前は60倍速だったから、あっちの1秒がこっちの1分に相当していたしな。2倍でも早送り状態になるから、リアルタイムの通信では会話が成立しない。

 3台渡すのは、壊れない事を保証出来んし、紛失や盗難の可能性だってゼロではないからだな。魔力やらでガチガチに使用者を限定してある思考制御型だから、お前達以外は使えないはずだが」

 

 というわけで、文字通信専用通信機を【八神はやて】、【フェイト・T・ハラオウン】、【高町なのは】の3人に進呈。

 こちら側で対応する端末を持つのは、お姉様、主、フェイト、プレシア、はやての5人という事にしてある。

 

「うー……」

 

「だから、何かあった時に動ける権力や実力と、責任を負える立場を持つ人物に限ると言っただろう。

 今のなのはでは、実力はそれなりにあるが、権力や立場が不足するぞ」

 

 そして、高町なのはが恨めしそうにお姉様を見てる。

 フェイトも持つのにとか思ってそうだけど、フェイトは明確に最高評議会側でシグナム達に近い立場でもあるから、親衛隊管轄でしかない高町なのはとは条件が違う。

 同じく、【高町なのは】もちょっと寂しそう。

 だけど。

 

「なのは同士で話をすると、本人達だけで突っ走る可能性があるから駄目。直接の手出しはエヴァがいないと不可能だけど、誰かが手助け出来る事も2人で完結されたら誰も気付けない。

 言ってくれれば普通のメールとして転送するから、連絡は出来る。

 事態が落ち着く事、きちんと安全性の確認が出来る事、何かあった時に対処出来るようになる事が、クリアすべき最低条件」

 

 主の説明に加えて、高町なのはに関しては全力全開の癖が無くなる事が必要かも。

 少なくとも、こんな並行世界のゴタゴタに首を突っ込まない程度には。

 

「ああ、これは全員に言っておくが、通信の記録は全て保存するつもりだし、通信の影響調査は随時行う。何かあった時には、メールの内容を参照する事もあるかもしれん。

 並行世界関係は、私達も手探りで調べている段階だからな。監視や干渉をする気は無いが、見られて恥ずかしい話や困る話は別途やってくれ。ある程度落ち着いたら、たまに会うくらいは何とかなるだろうしな」

 

「こっちで協力しようにも、ユーノ君もちょっと調べた程度では情報が見付からんゆーてたし、そもそも並行世界なんて前代未聞やしな。本格的に調べるには人手も時間もたらへんし、公開するわけにもいかへん。

 けど、個人で出来る範囲なら、調査の手伝いくらいいつでも協力するよ」

 

「並行世界など公開したら何が起こるか予想出来んのは、こっちも同じだ。

 調査は私達が個人的に行うだけに留めるから、当面はたまに話をする程度になるだろう」

 

 ついでに、時空管理局大改革の影響があるのも同じ。

 程度は違っても、

 

「別荘って言ってた、あの世界の人はどうなん?

 結構人がいそうやったけど、こっちを知ってるんやから公ってわけやないと思うし」

 

「あいつらは……手伝いはさせるが、あいつら主体ではやらせん。

 当分は調査するにも私の力が必要という事もあるが、研究熱心過ぎて暴走されても困る」

 

「ああ、そういう系統の人達なんや……」

 

 げんなりしてる【八神はやて】の脳内にはきっと、元気に暴走する【ジェイル・スカリエッティ】や、守護騎士システムやら融合騎やらをいぢりたくて仕方ない聖王教会や時空管理局の技術者の姿が。

 事件に直接かかわってない分、魔女っぽい【プレシア・テスタロッサ】の記憶は無いはず……だけど、【高町なのは】や【フェイト・T・ハラオウン】の脳内には、ちょっと浮かんだかもしれない。

 親馬鹿化してるプレシアの印象で上書きされてるかもしれないけど。

 

「ところで、私達が“気”と呼んでいる技術は、どの程度使えそうだ?

 すずか達からは、それなりに使えるようになってきたと聞いているが」

 

「素質は充分や聞いてたし、すずかちゃんの教え方もうまかったしな。時間が足らへんのが残念やけど、基本くらいは何とか理解出来たはずや。魔力素を意識して扱うのはまだまだやけどな。

 けど、こうやって色々と理論を聞くと、昔のなのはちゃんがどんだけ無茶しとったかを理解出来るくらいや」

 

「そ、それは秘密だって!」

 

「いやな、これは言っておかなあかんし、きっと知っとるはずや。

 それでも撃墜される前のなのはちゃんがおるんやから、先人として当事者として、ちゃんと伝えられる事は伝えなあかん!」

 

「私達よりもちゃんと教えてもらってるみたいだから、それも理解出来てると思うよ?」

 

「それでもやフェイトちゃん。

 いつも全力全壊ではあかん、見てる方は心配で堪らんと、何回言っても瀕死になるまで理解せんかったお方やからな。

 ちっちゃいなのはちゃんが撃墜してないのはいい事やけど、痛い目にも合ってないって事や。本質的には理解出来てないかもしれへん」

 

「ちゃ、ちゃんと理解してるのっ!」

 

 親友達に好き放題言われて言葉も出ないくらい落ち込む【高町なのは】と、必死で無実を訴えてる高町なのは。

 周囲の環境が違い過ぎて単騎で頑張る必要性が皆無という点は大きくても、友を心配する気持ちは同じで有難い事なのに。

 

「その辺は怖い先生もおるし、大丈夫やと信じたいけどな。

 ところで先生、今のフェイトちゃんの状況はええの?」

 

「死に別れた姉や母とのスキンシップなんだ。

 みんな嫌がってないんだから、好きにさせてやれ」

 

 正確に言えば、プレシアの両脇に“フェイト”がいて、【フェイト・T・ハラオウン】の膝の上にアリシアがいる。

 その上で、プレシアが全員を抱え込むように抱き寄せてるから、まさに団子。おかんの付いた3姉妹。

 

「会ってる時はずっとあの調子やからな……」

 

「そういうお前も、はやてとリインを両脇に抱えているじゃないか。

 まあ、はやてはダウンしているが」

 

 今の【八神はやて】は、リインフォースとはやてを侍らせ、両肩にちっちゃいリインフォース(ルーナとツヴァイ)を乗せてる状態。

 団子っぷりでは、テスタロッサな母娘に負けてない。

 

「夏休みの宿題をサボり過ぎたとか言ってたから、自業自得なんやけど……しばらく会えへんかもしれんのやから、ちょっと寂しいな。

 でも、私と同じ性格なら怠けて溜め込むようなことはせえへんから、こっち来てはしゃぎ過ぎたのが原因や思うんよ。となると、ちっちゃいなのはちゃんとか、ちっちゃいフェイトちゃんも怪しい気がするんやけど」

 

 ばれてるーよ。

 フェイトと高町なのはが、ばつが悪そうに横を向いてるし。

 

「でも、楽しかったよ?

 帰ってもそれほど日にちが進んでないから、戻ってからでも挽回出来るはずだし」

 

 根が真面目なすずかは、余裕の表情。

 凄く成績がいいわけじゃないけど、極端に苦手な科目も無い。

 挽回する必要が無いくらいには、きちんと終わらせてある。

 

「その辺は自己責任で、こっちに来ている間に進めておくのも、こっちを堪能して帰るのも自由。

 こっちに1か月半くらいいるけど、あっちはまだ1週間くらいしか経っていない。来ている人は同じだけの時間があったけど、その使い方を細かく指示する気はエヴァも私も無い。期限までに出来ていない場合に、本人が苦しんだり誰かに叱られたりするだけ」

 

 既に大半の宿題を終わらせている主だけど、お姉様やすずかと同じく、それを人に強制する気は無い。

 少なくとも、余裕がある間は。

 

「一見優しいように見えて、冷たい考え方やね?」

 

「休みが終わるまでにやらないといけない事は、何度も言われなくても解ってるはず。それに、急いで済ませる必要が無い間なら、何を優先するかの問題。それくらいは判断出来るようになってほしい。

 あと、私は食堂とか人のいる場所で宿題をしていたし、決めたところまで終わるまでは何かに誘われても断っていた。私達がやらなくていい雰囲気を作っていたわけじゃない」

 

 主は言ってる通りだし、お姉様は基本的に情報収集や調査で留守がちだったし。

 のんびりした空気を醸し出してたのは、高町な人達と、元からテスタロッサだった人達。

 

「あー、それはちっちゃい2人の責任やね。

 ところで、あとどれくらいで帰るつもりなん? せっかくやから、一緒に食事でもどうや思うんやけど」

 

「もうすぐ昼か……まあ、それくらいの時間なら問題無いが、何処で食べるんだ?

 この人数と顔触れでは、別荘以外の選択肢は無さそうだが」

 

「あとちょっとでシグナム達も戻ってくるみたいやし、報告に来るついでに運んでもらうよ。

 お客さんが来るって言ってあるから量が多くても大丈夫やけど、ちょい時間がかかるかも知れへんから、早目に連絡しとくな?」

 

 そう言いながら、【八神はやて】はポチポチとメールを送信。

 音声での通話は、周囲の声が漏れる可能性がある。その意味では賢明な判断。

 移動する必要も無いから、のんびりと雑談してると。

 

「お待たせしました、主はやて」

 

「注文が多すぎて、まだ全部は出来てねーってよ」

 

「出来たら連絡してくれるそうですから、後で取りに行ってきますね」

 

「あー、腹減ったー……」

 

 ドアが開いて、色々な料理が乗ったカートを押す【守護騎士】の3人と【アギト】。

 それに。

 

「え……?」

 

「嘘……?」

 

「何で……?」

 

 同じくカートを押してるけど、驚愕の表情で動きが止まった【ギンガ・ナカジマ】、【ティアナ・ランスター】、【スバル・ナカジマ】の3人がいた。

 

「この3人には教えるという事か。

 だが、本当にいいのか?」

 

「ギンガには教えると言ってもうたし、そうなると2人に黙っておくのも心苦しいしな。

 そんな訳やから、説明よろしくや」

 

「丸投げか?

 まあいい、取り敢えず全員入ってドアを閉めろ。部外者にこの状況を見られるのは不味い」

 

「は、はい……」

 

 ぎこちない動きのままの3人も部屋に入り、料理を配って。

 まずは、いただきまーす。

 

「さてと、話を始める前に、これだけは言っておくぞ。

 今からの話は完全オフレコ、下手な者に漏らすと面倒なことになる情報が満載だ。黙っている自信が無いなら、ここで退室した方がいい」

 

「この部屋の状況を見ただけでも、ツッコミどころが満載やけどな」

 

「そこ、説明を任せたなら黙っておけ。

 これも様式美というか、念のための確認だ。私としてはこんな話を広める気は無いんだからな」

 

 それでも、聞かないって選択肢は無いと予想。

 表情を見ただけで、覚悟完了の気配がプンプンしてる。

 

「予想通りに退出なし、と。

 まあいい、取り敢えず説明するが……」

 

 と言うわけで、食事をしながらの説明タイム、スタート。

 その内容を簡単にまとめると。

 並行世界の存在について。

 お姉様達が並行世界から来た人物で、その並行世界では闇の書事件が終わって1年半程経過しているが、ジュエルシード事件以降の出来事に大きな差がある事。

 ここにいる“ちっちゃい高町なのは”達が、少なくともジュエルシード以前は本人と同じ経験をしてて、ある意味で本人である事。

 ジェイル・スカリエッティや戦闘機人達も連れてきていて、【ギンガ・ナカジマ】が話したトーレは連れてきた方の存在だという事。

 今回は世界間の悪影響を防ぐために介入した事。

 この辺までの、一方的な説明が完了。

 

「はあ、そんな事があるんですか……」

 

 説明を聞き終わった【ギンガ・ナカジマ】は、納得してるようなしてないような、微妙な表情。

 隣の【スバル・ナカジマ】も似たようなものだけど、更に隣の【ティアナ・ランスター】は、まっすぐお姉様を見てる。

 

「それで、その姿はいったい?

 私達に訓練をした時は、大人の姿でしたよね」

 

「あれは、肉体強化魔法の一種だ。この姿では威厳が足らんし、年上だと言ってもなかなか信じられんだろう?

 実際はヴィータの様なエターナルロリな訳だが、あの場でそれを納得させるのも無駄な手間だ」

 

「誰がエターナルロリだ!」

 

「私やお前だが。アコノやセツナを含めてもいいぞ?」

 

 【八神ヴィータ】が吠えてるけど、事実ではある。

 大人の姿で訓練をしたのは、実際には説明の手間よりも心情面を考慮した結果だけど。

 

「エヴァンジュ、私の妹であると言ってしまえば、この場での説明として充分ではないのか?

 これでもロストロギアと呼ばれた身なのだ」

 

「それはそうなんだが、それだと私までロストロギア扱いされそうだ」

 

「違う名前であっても、ロストロギア扱いはされていたはずだが」

 

 お姉様は主殺しの書の名で、確かに認定されてた。

 正式な名前での登録に変わった今でも、危険度が高いロストロギア扱いだったはず。

 敵対したらやばい的な意味で。

 

「この世界には私に相当する存在がいないらしく、どっちの名でもロストロギアとして登録されていないんだ。

 少しくらい抵抗させてくれ」

 

「存在が明らかになれば、明らかにロストロギアとして扱われるのだ。

 登録の有無は誤差でしかないだろう」

 

「そうなんだが、少しくらい夢を見たっていいじゃないか」

 

 お姉様とリインフォースが言い合ってるけど、【ナカジマ】の2人と【ティアナ・ランスター】は、誰か理解してない。

 

「何か、アインスの事を知ってる前提で話をしてへん?」

 

「だが、映像を……っと、そういえば、撃墜を避けたから過去の映像は見ていないんだったな。

 えーと、どこまで言っていいんだ?」

 

「まあ、ここまで言ってるわけやし、知ってる人は知ってる情報やから。

 ええと、このおっきいリインフォースやけど、うちのリインのお姉さんというか……元になった人に相当する人や。

 こっちでの名前もリインフォースで、今はリインがいるから、私らはアインス……リインフォース(アインス)って呼んでる」

 

「知っての通り、私はリインフォース(ツヴァイ)なのです」

 

「まあ、アインスに会った事のある人はかなり少ないんやけどな。

 簡単に言えば、アインスは闇の書の管制融合騎で、闇の書の悲劇を繰り返さない為に消えてもうた、私の大切な家族や」

 

 語ってる【八神はやて】は懐かしむようなちょっと悲しそうな表情。

 それを見て、余計に3人が理解に苦しんでる。

 闇の書の悪名と【八神はやて】の態度が、どうにも結び付かないからかも。

 

「はやてを我が主とした当時の私は、改悪され、呪われていたのだ。主の命すら蝕み、最終的に破滅をもたらす事しか出来ない程に。

 エヴァンジュに救われた私は破滅をもたらさずに済むようになり、アインスと呼ばれるこの世界の私は破滅の再現を防ぐために自らの消滅を望んだ。

 それが、闇の書と呼ばれた私なのだ」

 

「お前を助ける事が、妹機として作られた私の役目でもあったからな。

 まあ、私達の関係はこんな所だ。理解したか?」

 

「は、はあ……」

 

 どう見ても、あんまり解ってない。

 けど、大食いの2人の食が進んでないくらいには、衝撃的な話だったらしい。

 時間と状況的に、【八神シャマル】が運んできた追加の料理を食べたら撤収しとく?

 

「ま、深く考える必要も無いさ。

 私達はこの食事が終わったら、元の世界に戻るからな」

 

「そう、です、か……」

 

 どう見ても、【ティアナ・ランスター】がオーバーヒートしてる。

 訓練の時の手加減がとか騒がれないのはいい事だけど。

 だめだ、こりゃ。

 

「後は……アギトは何か言いたそうだな?」

 

「んー、まあ……あの辺でバッテンチビがデレデレしてんのが気に入らねーっていうか……

 そもそも、アンタも融合騎だったよな。全部で何人いるんだ?」

 

「融合騎が、か。

 私と3人のリインが一応そうだな。

 ここにはいないが、こっち側のお前も当然そうだし、もう一人変態(ロリコン)がいる。

 お前以外に6人という事になるのか」

 

「そうか……はぁ。今までのアタシは何だったんだ……」

 

 深いため息をついてる【アギト】だけど。

 世界はそんな筈じゃない事ばかりなわけで。

 

「今だからそう見えるだけだ。

 ずっと幸せそうなのは、変態(ロリコン)くらいなものだぞ? 本人だけだろうが」

 

「とてもそうは見えねーよ!

 大体、そんだけの力を持ってりゃ大抵の事は出来んだろ!?」

 

「私は1人目の主をこの手で殺し、2人目の主に出会うまで意識が無いまま2500年ほど彷徨っていた。その上、2人目の主からは知らないうちに人としての生を奪い、永遠などという檻に閉じ込めてしまっていたからな。

 意図せずに余計な事ばかり仕出かす力が疎ましい時も多々あるぞ」

 

 やれやれと言いたげなお姉様を見て居られなくなったのか、【アギト】は視線をずらして。

 

「私か?

 呪われ、闇の書と呼ばれるようになってから、100人以上の主と、数え切れない程の人を殺してきた。エヴァンジュに救われたが、融合すると確実に事故を起こすようにもなっている。

 今の私は、融合騎としては欠陥品だ」

 

 私も主と融合したいのだがな、と呟くリインフォースも見て居られなくなったのか、更に視線をずらして。

 

「私ははやてちゃん専用の融合騎なのです。

 シグナムやヴィータとの相性もアギトに負けるですし、何より、はやてちゃんとの繋がりが消えたら、2度と目覚めないはずなのです!」

 

「ちょ、何なんやそれは!?」

 

 【八神はやて】が驚いて叫んでるけど、はやては未だ熟睡中。

 だからこそ、ルーナも言えたと思うけど。

 

「お母さん達の絆が羨ましかったのです!

 それに、私の役目はリインお姉ちゃんとはやてちゃんの橋渡しなのです。はやてちゃんが居なくなった後にリインお姉ちゃんが別の主を得ても、そこに私の居場所は無いです。

 それに、はやてちゃんとお母さんの関係を考えたら、問題無いのです!」

 

「いや、私自身も我が主を失えばどうなってしまうのか、確証は無いのだ。

 エヴァンジュは治療の為に研究を続けてくれているが……いつか我が主と共に眠りにつくなら、それも良いのではないかとも思っている。それが数年後なのか、幾千幾万の時を超えた先なのか、予想も出来ないが……エヴァンジュやアコノ達との関係を見ると、すぐに別れるという事もあるまい」

 

「治療は、不測の事態ではやてを殺してしまわないためという意味もあるからな?

 というか、こんな時に私をお母さん呼ばわりするのか」

 

「私を作ったのはエヴァちゃんなのですから、お母さんなのです!

 私が心配してるのは、はやてちゃんが居なくなっても稼働出来るよう、何か仕込んでいないかなのですよ?」

 

「いや、それを諦めて特化したからこその性能だから、仕込む余裕など無いぞ。

 仕込んでおきたかったのは認めるが」

 

「エヴァンジュの事だ、我が主が私やルーナ達を気にせず死という選択肢を考える事が出来る様にとでも考えているのだろう?

 だが、優しい我が主のことだ。仮に私達が生き残る事が出来たとしても、次の主がエヴァンジュ達とよほど良い関係を持てる者だと確信出来ない限り私達に遠慮するだろう。成長が止まった事以外の実感はまだ無くとも、不老や不死について考える時間や知識はあるのだ」

 

「……まあ、はやてはそうだろうが、それでも、枷を増やすのは正直に言ってな……」

 

「エヴァちゃんだって、アルクとかウーノ達とかを増やしてるですよ?

 それに、はやてちゃんやフェイトちゃん、すずかちゃん、セツナちゃんやヴィヴィオちゃんだっているのです。過保護なエヴァちゃんがみんなを見捨てるとは思えないのです!」

 

「自分から関わった分に関しては、納得済みだからいいんだよ。そもそも私は死ぬ方法すら見失っているから、枷がどうとかはあまり関係なくなってしまっているしな」

 

「リイン、心配しなくていい。

 エヴァにとって最大の枷は、主である私のはず。私はエヴァを残して死ぬ気は無いし、都合の良い事に私も死ぬ方法を無くしている」

 

「いや、都合がいいわけがないからな?

 人にとって、永遠なんて猛毒だからな?

 私達も何も変わらないわけじゃないからな?」

 

「猛毒になるのは、元々人だったエヴァにとっても同じ。

 私は最低でもエヴァの隣に立てくるくらい、出来れば頼られるくらいに成長したいから、全く変化出来なくなる方が怖い。自分の迂闊さは理解してるつもりだから、死別を気にせずじっくりと取り組めるのは、とても有難い」

 

「そういう意味じゃなくてな?」

 

「私も一緒になったのは、お姉ちゃんの重荷になってるのかな……

 でも、一緒じゃなくなるのは死ぬ時だけだって聞いてるし……」

 

「ああもう、フェイトは久しぶりに内罰的な考え方を発揮するんじゃない!

 既に数千人も抱えているんだ、1人2人増えただけと思えば大した事じゃないだろう!?」

 

「だけど、話をした時もあまり嬉しそうじゃなかったから……」

 

「友人が永遠なんて狂気の世界に縛られる事を喜ぶわけがないだろうが!」

 

「何だ、この空気」

 

 ダダ甘になった空気に、思わず【アギト】がげんなりと呟いてる。

 ただ、話してる内容はかなりネジが外れてるような?

 現時点では連続稼働可能時間が短いだけの【リインフォース(ツヴァイ)】は、微妙に隠れ気味だし。

 説明してさらに混乱させてる気がするのは、説明させた【八神はやて】達が悪いという事で事後処理を丸投げする事にして、と。

 呆然と様子を眺めてるだけになってる3人が復活しないうちに食事を食べて、撤収~!




この回のまとめ。
・並行世界間で連絡が取れるようにした。
・ティアナ、ギンガ、スバルが真実を知る者の仲間入り。
・「はずだった何か」終了。

そして、次回から「だった何か」に戻って、設定垂れ流しが加速します。たぶん。比較的サクサクとイベント(フラグ)を消化する的な意味で。
この影響で、登場人物が減る傾向になる感じです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。