青の悪意と曙の意思   作:deckstick

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蛇足:或いはこんな未来も/StrikerSだった何か2009年

 ◇◆◇ 2009年(新暦70年)04月 ◇◆◇

 

 

 今年もお姉様達が拝まれたり、チョコレート爆撃を受けたり、ようやくヴィータが聖祥大学付属の学校に合流したり、セツナが何故か農学の道に進んだり、ノーヴェとウェンディが挨拶に来たりしながら、既に4月。

 ようやく時空管理局の新しい体制が落ち着いてきたのか、少しは時間に余裕が出来たと言って、クロノ・ハラオウンが地球に顔を出した。

 偶には休めとばかりにユーノ・スクライアも連れて来てるし、日程もちょうど良かったから、この際だからと関係者を多数集めて、恒例のパーティを増員して開催。

 人数が多くなったから、会場は別荘になったけど。

 

「は、初めまして、エヴァンジュ最高評議会議長さま」

 

「別に肩書のイメージ程偉いわけでもない。気軽にしていいんだぞ、ティアナ」

 

「済まねぇな。コレが目的で預かったように見られちまいそうだから、会わせる気は無かったんだが」

 

「権力ボケしてるなら拒否するが、なかなかしっかりしてそうな目をしてるじゃないか。それに、それなりの素質もありそうだ。

 指揮官に向きそうだが、クイントよりお前に師事した方が伸びるんじゃないか?」

 

「おいおい、俺は最近部隊の指揮もせずに、事務仕事ばっかりだ。

 やり方を見せる場もねぇし、どう考えても錆びついちまってるよ」

 

 集まった中にナカジマの家族with居候がいるのは、偶然にも日本に来てたから。

 この際だからと、ついでにティアナ・ランスター脱凡人用の仕込みを少々。地位も実力もあるお姉様に認められる発言をされた経験がどう影響するか、知らないけど。

 ゲンヤ・ナカジマについては、地球と管理局の連絡係の片手間に交易の監視をする立場に落ち着いてるから、部隊指揮より経営とかの能力が求められるようになってきてたりする。

 そんな感じで、ナカジマな家族(クイント、ギンガ、スバル)やらとも久しぶりと挨拶したり。

 

「この先、どうするのか。

 答えは出たか?」

 

「いえ……今でも迷ったままですし、急に立場を変えられない身分でもあります。

 ですが、前を見ているつもりで、後ろを向いていた事を自覚しました。もう少し周りを見てみようと思います」

 

 もうすぐ教導期間が終わる、ティーダ・ランスター達と話をしてみたり。

 

「こうして会うのは久しぶりだね、なのは」

 

「うん、久しぶり。お仕事は落ち着いた?」

 

「無限書庫には未だに驚かされるけど、日常の業務は何とか」

 

「そっか」

 

「で、成長しても外見が女々しいフェレット君が挨拶するのは、なのはだけなの?」

 

「つまりあれや、恋は盲目で他の人は目にはいらへんって事か?」

 

「ちょ、そ、そんなんじゃなくて……」

 

 高町なのはに声をかけたユーノ・スクライアが、アリサ・バニングスやはやてに絡まれたり。

 

「そうか、執務官は権限を縮小して当面は存続か」

 

「ゆっくりとだが、次元航行部隊に協力する、僻地での捜査や簡易的な司法判断を行うための役職に変えていくそうだ。逆に言えば、本局やきちんとした司法機関のある地域では、あまり力のある役職ではなくなる。

 これで、僕も肩の荷が下りるかもしれない」

 

「どうかな。適当な地位と権限を持たされて、祭り上げられる可能性は否定出来んぞ?」

 

「普通の人の、一生分の苦労はした気がするが。

 親衛隊は次元航行部隊に所属しているし、僕がアースラの司法権限を預かったままだ。執務官の制度はまだ変わっていないし、そろそろ本来の役職に戻って良い頃だ」

 

「だから昇進を蹴っていたのか。将来は執務官長を任せたかったと、少し前にグレアムが嘆いていたぞ。

 しかし、アースラの司法関連は、お前抜きでどうやっているんだ?」

 

「エイミィは、あれで優秀な執務補佐官だ。

 執務官資格は持っていないが、司法官資格は持っている。僕の代理という立場も使えるし、そもそも管理局の司法が役に立つ場面は少なかった」

 

「密航や密輸は、発見次第本局に連行していたからなぁ……

 護送はアースラの連中に任せていたが、立場を悪くしていたか?」

 

「いや、親衛隊が設定した監視域の外での捕縛だから、それは無い。

 最高評議会の戦力評価にプラスで、親衛隊の設定戦力が現状でいいのかという議論の元にはなっても、全体としてマイナスにはなっていないんだ。

 現状でも、隊員数に比べると広めなんだ。これ以上広げるには親衛隊の拡充が必要だという認識は持ってもらえている」

 

「……説得が大変そうだな。御苦労と言っておこう。

 ところで、執務官の形が変わるのは気にならないのか? 検討はされているようだが」

 

「僻地ならともかく、本局や大きな都市では権限が過剰だとは感じていた。それが改善されるのを問題視するほど馬鹿じゃない。

 グレアム提督の誘いがあったのも確かだが、僕では若すぎるし、人脈も弱い。一般人受けする広告塔になるだけで、実権は誰か別の人が握るか、そうでなければバラバラに分解だ」

 

「今でも広告塔に近い扱いだったと思うがな。

 最年少執務官の記録保持者で英雄の教え子、悲劇を超えて闇の書を止めた勇者……だったか?」

 

「間違っていないだけに否定出来なくて、恥ずかしいんだ。

 せめて君達くらいはそれを使わないでくれ」

 

「気持ちは解るが……リンディやエイミィ辺りが、嬉しそうに使いそうだが」

 

「だから、なんだ……」

 

「そうか、既に使われているのか」

 

 相変わらず気苦労が多そうなクロノ・ハラオウンが、お姉様と喋ってたり。

 いつもと似て、いつもとちょっと違うところもある風景。

 こんなのが、ずっと続くといいね(フラグ)。

 

「……いや、フラグにするなよ?」

 

 大丈夫、フラグって言っておけば、逆のフラグが立つから。

 

 

 ◇◆◇ 2009年(新暦70年)06月 ◇◆◇

 

 

「ええ、まだ予想になるけれど、もう少ししたら順次出荷出来る予定よ。

 秋頃からになるものもあるけれど、間に合うかしら?」

 

「いや、充分だ。

 日本食のブームは落ち着いたんだが、定着しちまったものもあって、品薄が続いてんだ。種なんかは生態系への影響やらの都合で簡単には持ち込めねぇし、助かる」

 

「私達としても、交易の一環よ。Win-Winでいきましょう」

 

 場所は、ゲンヤ・ナカジマが社長として扱われてる交易会社の会議室。

 そこで会話してるもう一人は、お姉様の眷属兼娘の、アルク。

 内容は、農作物の輸出について。

 ミッドチルダとかでは代替品を使った料理が広まってるみたいだけど、本場を謳う日本料理屋なんかの需要はかなり根強いらしい。

 もちろん、取引に関するお姉様の許可は取ってる。

 管理世界向けに輸出するのは、増産しつつある“地球の作物類”の過剰在庫やその加工品。高品質の物は必要分をお姉様達用に確保し、従者達の消費分も確保すれば、他は売っても問題ない。

 

 現状で最大の問題は、管理世界から買う物があまり無い事。

 管理世界の通貨で支払われてるお姉様達の給与すら、物凄く余ってる現状。

 従者達が気兼ねなく使えるお金もあれば、色々と買う物が増えるかなと期待してる面も。

 

「当面はこの量で何とかなるが、恐らくかなり早い段階で増量の要望が来るのは間違いない。

 その返事はどうしておけばいい。増産、いけそうなのか?」

 

「急には無理だけれど、順次増やしていく予定よ。

 元々あった地球との伝手を潰す気は無いし、当面は輸出する一方になりそうだから、様子を見ながらになるわ」

 

「有難いっちゃ有難いが、今後は直接取引を求める連中も出てくるはずだ。

 そいつらは、どうすればいい」

 

「お母様達とのパイプを欲しがってる連中は却下よ。その意味で、モンディアルと商売をする気は無いわ。

 それ以外なら……規模が大きくなったら、ある程度は付き合う必要があるかしらね。本来、貴方は交易担当ではないのだから」

 

「ああ。どうも最近、俺を地球との交渉役と勘違いする連中が増えてな。

 それも仕事の1つではあるんだが……本来は密輸や密航対策の筈だったんだが」

 

「あら。お母様や、優秀な親衛隊と近衛騎士団がいるのよ。それに、地球の組織だって無能ではないわ。

 その役目は名目で、本質はパイプ役でしょう?」

 

「違いねぇ」

 

 

 ◇◆◇ 2009年(新暦70年)08月 ◇◆◇

 

 

「もうすぐ開店、か……」

 

 世間は夏休みのある日。お姉様は、リビングの窓から、南側に出来た建物を見下ろしてた。

 そこは元々、工場があった場所。

 今では3階建ての、店舗とオフィスが入る複合ビルが建ってる。

 1階は店舗。コンビニ(バニングス家の伝手)、イタリアンレストラン(お姉様とプレシア関連+別荘関連)、ガールズ&レディスのカジュアルウェア(各国裏組織+別荘関連)、雑貨屋(各国裏組織+別荘関連)、和菓子屋(使い魔関係)と、バリバリに裏側とコネで構成されてる。

 2階も店舗。文具店と100均のお店は、普通にバニングス家の伝手。フォトスタジオは使い魔に写真家がいたから実現。こっそり魔法を使う予定の美容室と、別荘が全面協力するコスプレコスチューム&小物製作販売がめっちゃ裏側。

 3階はオフィス。ごった煮会社(レッドヘッド株式会社)の事務所だけじゃなく、お姉様のコンサルティング会社や、中島商事……ゲンヤ・ナカジマが社長を務める時空管理局の会社も入る。日本の裏側に関係する法律事務所と会計事務所まで入る事になってるのは、重視されてると見るべきか警戒されてると見るべきか。

 

「どの店も、普通に収益を上げるつもりで準備している。

 出資してる組織も、お金を捨てるつもりは無いはず」

 

 主が言ってる通り、お店のビルや住んでいる建物、それに土地を含む不動産、中に入る店等も、テスタロッサ家の為に設立された会社が管理する事になってる。その出資者にいつの間にかバニングス家が混じってた辺りが、恐ろしいというか何というか。

 

「だが、雑貨はほぼ世界を網羅する勢いだし、衣服はどちらかと言うと私達を着飾らせようと企んでいる気がするんだが……

 紹介されたメーカーや販売会社の担当者の目が、本気すぎる。変態(ロリコン)に似た方向で」

 

「全員の本来の姿の写真を持ってて、大人と子供両方のサイズを測らせてくれと土下座まで覚えてきたのはどうかと思うけど、本腰を入れてるのは間違いない。

 それに、使い魔の写真家も、熱意は似た方向を向いていた。オタクの素質もあったのか、コスプレの撮影も諸手を挙げて喜んでいた」

 

「コスプレも、民族衣装は本物や本場で生産された物を調達可能な体制が整っているからな……

 大手製作会社やゲーム会社とのライセンス契約も取って、更に各種制服の小口販売窓口も兼ねるって、いったいどこまで協力を求めたんだか」

 

 民族衣装は、各関係組織が地元企業との伝手を売り込んできた結果。文化交流的な意味合いもあるらしい。

 制服類は、製作会社と交渉した時に本物も扱ってみるかと言われた結果。特撮やドラマで使う衣装の内、普通に購入している物を作ってるメーカーを紹介された。

 実績と技術次第ではこっちへの発注(特撮の衣装や小道具製作的な意味で)もあり得るかもとか言ってたけど、これはきっとリップサービス。メーカーやらの権利でガチガチのはずだし。

 

「少なくとも、準備段階は問題無くクリアしている。

 あとは、やる気が空回りしなければ大丈夫かもしれない」

 

「いくら近くに学校や住宅街が多くて、交通量もある道沿いだと言ってもな……

 まあ、心配しても仕方がないか。私達が直接関わっているわけでも無いしな」

 

「お手並み拝見。

 ただ、近いうちに着せ替え人形にされる覚悟だけは必要かもしれない。

 下手をすれば、本格的な写真撮影付きで」

 

「……そうだな。まあ、お前の生みの親に送る写真を撮るにはいい事だと、喜んでおくか……」

 

 なんて、お姉様がため息をついてるという事は。

 当然、フラグなわけです。

 具体的には数日後、正式開店の前日に招待されてた内覧会にて。

 

「……どうして、こうなった……?」

 

 ここで、集まった面子を発表。

 曙天組、お姉様、主、チャチャマル、チャチャ、セツナ、フェイト、アルフ、すずか。

 夜天組、はやて、リインフォース、ルーナ、シャマル、ヴィータ。

 宵天組、プレシア、ヴィヴィオ。

 その他テスタロッサ家関係者、アリシア、アギト。

 親衛隊、リンディ・ハラオウン、エイミィ・リミエッタ、マリエル・アテンザ。

 近衛騎士団、カリム・グラシア、シルフィ・カルマン。

 スカリエッティ家、ウーノ、ドゥーエ、クアットロ、チンク、セイン、ディエチ、ウェンディ。

 その他友人関係、高町なのは、アリサ・バニングス、長宗我部千晴、夜月ツバサ。

 いくら開店前だからって、呼び過ぎた。というか、何人か不参加なだけで、地球にいる関係者の女性殆どが集結。当然、日本なんだからお姉様達は大人モード使用で。

 残念そうにしてた真鶴亜美はともかくとして、シグナム、トーレ、ノーヴェ、シャッハ・ヌエラの4人は、ぶっちゃけ仕事の都合とかを言い訳に逃げた気がする。

 特にシャッハ・ヌエラ。護衛役が、メイドさん(聖王教会から派遣された、護衛を兼ねる近衛騎士団員)と普段出来ない掃除を一緒にする為に護衛対象と別行動するって、どう考えて無理があるから。

 

「いや、何か珍しいブランドのがすごく安く買えるって聞いて……」

 

「ヨーロッパからの輸入物って、いいのは安くないのよね」

 

 うん、関係者割引に釣られた長宗我部千晴と夜月ツバサは、大人しく着せ替え人形になってなさい。お姉様達と並べても大きくは見劣りしない程度に、整ってる外見なんだし。

 メーカーや商社の担当者が、てぐすねひいて待ってるから。

 当然、お姉様も無関係でいられるはずが無く。

 

「待て、スカートは嫌だと言っているだろう! ましてミニのタイトスカートなど絶対はかんぞっ!!」

 

「いえいえ、こちらは当社のチーフデザイナーが全身全霊を籠めて、お嬢様の為に手作りした一品で御座いますから。

 お嬢様の魅力を最大限に引き出してみせます!」

 

「私の魅力など引き出さなくてもいいんだっ!」

 

 明らかに商品じゃない物を着せようとするメーカーの営業(?)から逃げ回ってたりしてる。

 その近くでは。

 

「やっぱり、エヴァンジュさんは女性らしい服装も持っておくべきよね?」

 

「普段の服装も、悪くはないのですが」

 

 リンディ・ハラオウンとヴィヴィオが、次の服を選んでたりもする。

 まあ、それはそれとして。

 

「やっぱ、和服系が似合うよなぁ……元ネタの家柄ってやつか?」

 

「キャラとしては、そういう方向付けの設定がされている気がする。

 でも、浴衣を着るのは久しぶり」

 

「ちょっと前の正月で着させられてたわね。

 けど、着物とかも写真を撮るとかで着させられてたんじゃないの?」

 

「お雛様のデザインとかで、着させられたことがある。

 その前は温泉だから、回数自体は多くない」

 

「デザインって……着せる意味あんのか?

 しかもアレって十二単衣だろ」

 

「重かった。

 でも、エヴァの束帯姿を見れたから、私は満足」

 

「……ちょっと見てみたいな、それ」

 

 主は長宗我部千晴や夜月ツバサと一緒に、何故か浴衣のコーナーにいたり。

 

「エヴァさんの横は、アコノさんががっちり押さえとる。その周りをフェイトちゃんとすずかちゃんが固めとるから……やっぱ、真っ向勝負するなら色気しかない。

 シャマル、必要なのは若奥様の色気や!」

 

「こ、こんな露出の多いのは、若奥様でも色気でもないですっ!」

 

 ヘソ出し超ミニのボディコンを着させられてる、シャマルがいたり。

 犯人ははやてだけど、恥ずかしがっててもしっかり着てる辺りがまあ。

 色々な意味で、拒否出来なかったんだろうなー。

 

「あんな服もありっスかねぇ」

 

「ウェンディなら似合いそうだけど、一歩間違えたら、エヴァ様の嫌いなケバいねーちゃんじゃ?

 私じゃ胸が足らな……胸……」

 

「下品にならない様に着こなすのは、難しいと思いますよ?」

 

 そんなシャマルの様子を見てるウェンディは興味津々だけど、胸が足らないセインと淑女なカリム・グラシアには、不評だったり。

 はやてもある意味では本気じゃないらしく、この恥じらい方がとか言ってるし。

 

「これ、夏に着る服じゃないですよ……というか、どうしてこんな時期に?」

 

「一通り選んでって希望を叶えてるだけよ。

 それに、服はお店に並ぶ時期が早いし、北欧とかの寒い地方なら夏でも普通に売ってるんじゃないの?」

 

 デニムパンツにニットセーター、更にトレンチコートを着たセツナが、選んだアリサ・バニングスに暑いと訴えてたり。

 

「チンク、これを着なさい!」

 

「私にそれは似合わないし、威厳も何もなくなってしまう!

 私はエヴァ様の様に凛々しくありたいんだ!」

 

「マスターに心酔するのは良いけれど、それとこれとは別よ!」

 

 ウーノがゴスロリドレスを持って、チンクを追いかけてたり。

 って、チンクがヴィータに捕まった?

 

「店の中を走り回ってんじゃねーよ。

 それに、ゴスロリくらいでうろたえんな」

 

「恥ずかしい服装が気にならない嗜好の持ち主に言われたくは無い!」

 

「アタシの騎士甲冑の事を言ってんのか?

 あれははやてから賜った大切なもんで、アタシにとっては奇跡の象徴で、あれを着るのは忠誠と感謝の証みてーなもんだ。はやてにも可愛いって言ってもらえたしな。

 そんな騎士甲冑を、誰にも批判はさせねぇ」

 

「そ、そうか。済まない。済まなかった。ゴメンナサイ」

 

 ヤバい、ヴィータの目の色がおかしい。

 本気で怒りかけてる。

 睨まれたチンクが、涙目で謝ってる。

 

「さあ、反省も済んだようだから、着替えなさい」

 

「し、しまっ!?」

 

 満を持して……?

 チンクが、ウーノに連れていかれた。

 一名様、ごあんなーい。

 

「なっ!? どうしてこんなに服が!?」

 

「チンクちゃんに似合いそうな服を用意してみましたぁ。

 どうですかウーノ姉様ぁ」

 

「いい仕事よ」

 

「どうしてこんなに種類がある!?」

 

「マスター達の本来の姿を知っている業者だと知っていれば、簡単に解りますよねぇ?」

 

 確かに、簡単だよねぇ。

 本来の姿の身長がチンクと近いのは、お姉様、はやて、フェイト、すずか、私達。

 現在小学3年生のルーナやアギトもいる。

 面子的にも人数的にも、手を抜くなんてあり得ない。

 

 

 ◇◆◇ 2009年(新暦70年)12月 ◇◆◇

 

 

 時空管理局の大改革から、5年。

 お姉様達、正確には最高評議会の6人と聖王認定されてるヴィヴィオ、加えて親衛隊と近衛騎士団に護衛少々は、ミッドチルダに来てた。

 表向きの目的は、記念式典への参加。もちろん、それも嘘じゃない。

 けど、ある意味で本命である裏の目的は、別にある。

 発端は、クロノ・ハラオウンから報告が来た、辺境管理世界発の地球襲撃計画。

 標的は当然、最高評議会であるお姉様達。

 

「ようやく得た機会だ。実に楽しみだと思わんか?」

 

 それを知ったお姉様は、喜んで“利用する事”を通達。

 お楽しみを邪魔するなという意図は、少なくともクロノ・ハラオウンには伝わってる。

 けど、その本人(クロノ)は、あまり嬉しそうな顔をしてない。

 

「希望通り本局からの護衛はいないが、僕は親衛隊としての護衛になる。

 その辺は考慮してもらえると助かる」

 

「善処の仕方が解らん。

 まあ、まだ執務官の権限が変わっていないなら、逮捕権は持っているな? それなら、事後処理を任せることは出来るが」

 

「現場がミッドチルダのクラナガンになる以上、それは本来、陸……治安部隊の仕事だ。

 今回は内通の疑いもあるし、僕が動く口実は充分以上にあるが」

 

「各世界に権力や戦力を割り振り過ぎという危惧に対応する意味もあるんだろう?

 少なくとも空港の警備に来てる連中は、ほぼ全員が内通している連中のようだ。上手くレジアスを出し抜いたものだと感心するぞ」

 

「それは……予想以上の事態だ。

 いいのか?」

 

「あのレジアスの足元でも発生したと、過剰に権利を主張する連中への牽制にもなるだろう?

 私は、不要な騒動を起こす連中に八つ当たりしたいだけだが」

 

「そんなあからさまな」

 

 それ以上の目的もあるにはあるけど、根本はこれだし。

 そんな無駄話をしながら、一行はクラナガン近郊の空港へ。

 どうしてミッドチルダの空港って、登場するたびに騒動の現場になるんだろうね?

 

「少なくとも今はマスコミと黄色い声の連中で騒がしいという辺りが、ありきたり感を醸し出してるがな」

 

 苦笑するお姉様達だけど、周囲はカメラやら人やらがいっぱい。

 式典に参加するという話は公表してるから、これ自体は予想の範囲。

 でも、こんな状況で襲撃しようという阿呆の気がしれない。

 

「あまり期待出来んとは思っていたが……予想以上に程度が悪いな」

 

「あんな相手じゃ、釣った意味が無いわね」

 

「まあ、八つ当たりのサンドバックにはなるか」

 

 プレシアも一緒にこっそりとため息をついてるけど、視線の先には、人ごみに紛れてるつもりらしい、不良系の若い男がいる。

 測定魔力量は、S+からSS-くらいと、かなり多い。

 ストレージデバイスの所持も確認。カートリッジシステムは搭載してない模様。

 周囲に協力者と思われる数人の魔導師もいて、デバイスを隠し持ってる。

 でも、魔力量的にせいぜいAくらい。役に立ちそうにない。

 

「……単独犯に仕立てるつもりか。

 切り捨て前提の様だが……実は邪魔だから捨てに来たとかいうオチか?」

 

「それでも、手加減はしないのでしょう?」

 

「当然だ。全力で遊んでやろう」

 

 思いっきりそっちを見てにやりと笑ったお姉様。

 それに釣られたのか覚悟を決めたのか、不良風の男がロープを飛び越えてきた。

 警備もちょっと声を掛けただけで、動く様子は無いし。

 

「このクソガキ!

 とっとと最高評議会を辞めやがれ!!」

 

「突然何を言うかと思えば。

 頭が悪いようだが、一応言っておいてやる。先に法を確認してから発言する事をお勧めするぞ」

 

「お高く留まってんじゃねぇぞクソが!」

 

 男は逆上してる風で、デバイスを構えた。

 お姉様は一歩前に進み、プレシア達はその後ろで傍観の構え。

 

「残念ながら、私はお前の要求に応える事は出来ん。

 それに、今の時代を作っているのは、代表評議会だ。最高評議会が最高権力者だった時代は、既に過去となっている」

 

「最高の評議会だろうがクソが!」

 

 あらいやだ、話が通じない。

 というか、どう逆上するとこんな感じになるんだろう。

 

「時代の流れは残酷だ。だが、流された方が平和な時もあるぞ?」

 

「流されるかよクソが!」

 

 お、シューター発射……いやん、低レベル。

 お姉様が避ける気すら無くしてる。

 

「可愛そうに、詰まってしまったのか。

 汚物は、綺麗にしないといけないな。消毒するには火か?」

 

 お姉様が攻撃する気になった……?

 というか、火?

 ぼう、って火が吹き上げる程度って、何て優しい。

 

「何しやがる! ンな攻撃が効くかよ!!」

 

 いや、髪の毛焦げてますやん。

 服も燃えかけてるし。

 

「ふむ、加熱したらヤケクソになってしまったか。

 何というか、余計に固まってしまった感じだな」

 

「うるせぇ!」

 

 お、今度はマトモな、砲撃……?

 マトモ?

 魔力量しか取り柄が見当たらない。

 

「……その程度で流れに逆らうか。実に詰まらんぞ」

 

 お姉様の機嫌が悪くなった。

 砲撃は魔力吸収陣であっさりと消滅ちゃったし。

 男は唖然としてるし。

 

「キサマ……この程度で私をどうにか出来るつもりだったのか?

 流されるのを拒否しても、馬鹿でも出来る力押ししか出来ない様では、所詮は恰好と感情だけの口先男としか評価出来んぞ。

 言っておくが、私はこの地位に固執する気は全くない。適任者がいるなら早く替わってほしいくらいだ。だが、代表評議会の過半数の支持を得る者が現れる、若しくは私達に関する法が改定されない限り、私達が最高評議会を辞める事は出来ん。現行法でそう決められてしまっているし、私に法を変える権限は無い。だから、先に法を確認しろと言ったんだ。

 その悪い頭でも理解出来たか?」

 

「ふざけんな! んな無茶苦茶な話があるか!!」

 

 あるんだよねぇ、困った事に。

 男の逆上っぷりが再燃したけど、お姉様の機嫌が更に悪化してる。

 

「ああ、実にふざけた話だ。だが、それが現実で、私がそれを直接変える事は権限と制限的に不可能だ。

 だからこそ、これからの若人に期待したかったんだが……」

 

「だが、何だってんだ!」

 

「現実を見ようともせんテロリストの分際で、巨大な管理局という組織をどうにか出来ると思いあがるな! 代表評議会の連中の支持も取れんような連中に後を任せても、組織が纏まるわけがないだろうが!

 だいたい、どうして私に反抗しようという気骨を見せたのがこんな阿呆なんだ! せめて論戦でも交わせる程度の能力があるなら、多少は私を蹴落とす手助けを出来る物を!!」

 

「バカにするなクソが!」

 

「だったらもう少しまともな方法を考えろ!

 私は単身でアルカンシェルとの撃ち合いが出来るような化け物で、腐れ脳味噌以上の骨董品なんだぞ!? 私に喧嘩を売るくらいなら、管理局自体を襲撃するなり、代表評議会の支持を取り付けるなり、法の内容が異常だと訴えるなり、他に方法は幾つもあるだろうが!」

 

「他の方法なんて知るか!

 考えるのはお偉い連中の仕事だろうが!」

 

「だったら貴様の言うお偉い連中に考えさせろ!

 ここで騒ぐだけ無駄だと言っているんだ!」

 

「どうやって考えさせりゃいいってんだ!?」

 

「指示を拒否すれば別の手段を取らざるを得んだろうが!

 貴様は口を開けて指示(エサ)を待つだけのサルか!」

 

「んな権利あるわきゃねーだろーが!」

 

「……ふむ、やはり誰かの命令、それも強制か。

 背後にいる連中について、調べるとするか」

 

 急にテンションを落としたお姉様が、男をバインドで大の字に固定して。

 ついでに、障壁で保護。下手すれば後ろから撃たれそう。

 

「な、何をしやがる!?」

 

「少々調べるだけだ。貴様の意思は無関係だから、拒否しても無駄だぞ。

 取り敢えずは……静かになってもらうか。リイン、こいつの魔力を死なない程度に奪ってくれ。

 このままだと大暴れしそうだ」

 

「良いのか?

 あの力は、その、あまり好まれるものではないが……」

 

「私がやると殺してしまうからな。

 殺さずに無力化する手段としては優秀なんだ。後遺症が出ない程度なら問題無いさ」

 

「そうか」

 

 お姉様が引きそうにないからか、リインフォースは夜天の魔道書を具現化して。

 ズキューン的な感じで、魔力蒐集。

 ちょっと呻いたけど、叫ばない辺りは随分と我慢強い。

 意識も失ってないし。

 

「変わった魔法はあったか?」

 

「……いや、ありがちな物だけの様だ。

 次元世界間の転移魔法だけは少々高度だが、他は比較的簡易な魔法しかない。ミッドチルダ式でも少し古いようだが」

 

「わざと古い技術を流されているか、取り残されているかのどちらかという事か。

 さてと、せっかく喧嘩を売ってくれたんだ。面白い物を見せてやろう。

 Load : Verossa Acous

 Ready : Imitation skill - Umfrage Speicher - Go」

 

 お姉様の右手の周りを、帯状の魔法陣がくるくる回ってるけど。

 空想具現化もどきで、ヴェロッサ・アコースの思考捜査技能を再現しただけとも言える。

 再現出来ちゃった辺り、呆れるしかないだけで。

 

「……思考捜査スキル、再現出来たのか……」

 

 クロノ・ハラオウンの表情が引きつってるし、呻くような声になってる。

 仕事で協力する中で仲良くなった人物のスキル。

 腐れ脳味噌にも使ってるし、割と有名になったものでもあるけど。

 

「いや、使えたら便利そうだろう?」

 

「レアスキルなんて、普通はホイホイ再現できるモノじゃないんだが」

 

「出来たのだから仕方ない。

 心配しなくても、私以外には真似の出来ない方法だ。私と同レベルの化け物がいない限り広まる事は無いし、そもそも私は相手を殺していいなら全ての記憶を奪える能力持ちなんだ。

 殺さなくて済む分、優しくなったつもりだぞ?」

 

「そうなのかもしれないが、それでもだな……」

 

 葛藤するクロノ・ハラオウンをよそに、記憶の調査完了。

 必要情報を無限書庫で補完して、と。

 

「ふむ。頑張れよクロノ、見事に厄介事だ。

 コイツは辺境にある管理世界の行政府主流派の鉄砲玉だ。敵対組織や反対派を物理的に潰す役だな。

 わざわざ私達を狙った理由はよく解らんが、代表評議会で気に入らない議決が多かった事に腹を立てているようだし、最高評議会というある意味で特殊な権力を羨んだ結果かもしれん。

 ほれ、こんな化け物を権力で縛っている弊害が、解りやすく出て来たじゃないか」

 

「どうしてそんなに楽しそうなんだ」

 

「これを機に、最高評議会の位置付けを見直す動きになれば、私としては嬉しいからな。

 早く一般人になりたい、と叫びたいのを我慢しているんだぞ」

 

「いや、自分で化け物と言っていたじゃないか」

 

「身分的な意味でだ。心配しなくても、今更普通の人間になれるとは思っていないさ。

 さて、コイツの記憶と無限書庫の資料をまとめた物は、追って用意しておく。

 とりあえずはコイツの処理は任せるぞ」

 

「……了解、しました」

 

 クロノ・ハラオウンは思いっきりため息をついてるけど、お仕事お仕事。

 でも、この様子は思いっきり生中継されてたけど、いいのかしらん?

 お姉様は自分の立場がおかしい事を広めるつもりだけど、統幕議会と聖王教会は、親衛隊と近衛騎士団の合同で護衛の随伴部隊を作る理由にする気でいるらしいのに。




ヴェロッサの「思考捜査」スキルの再現ですが、実際は「ヴェロッサ(Verossa Acous)の存在を再現(Load)して、思考捜査スキル(Umfrage Speicher)実行(Go)する」という手順を踏んでいます。エヴァが直接実行しているわけじゃないので、疑似的だと本人は主張しております。
あくまでも「存在の再現(エミュレート)」なので、ヴェロッサ本人には特に影響は無いです。再現したいから調査に協力してほしいと協力要請があったり、実際の調査に付き合わされたりした程度しか。


身長については「大外れはしない程度の捏造」です。画像の身長から計算したり、成長分をちょっと考慮したりしている感じで。
そもそも小中学生なんて伸び盛りなので、正確な数字が出ていても「いつ時点のか」が問題ですし、そこからの成長を考慮する必要もありますし。

というわけで、公式の身長をそのまま使えるのは、不老不死で体形が変わらない
・エヴァンジュ=エヴァンジェリン=130cm
・アコノ=近衛木乃香=152cm(不老不死化時点でネギまでの外見まで成長、という前提ありき)
・シグナム=167cm(@NanohaWiki。StrikerS情報)
くらいですかね。セツナは半年以上の成長分を加味する必要があるので不可。

そのほかの人を考えてみるとですね。

例1:月村すずか(すずか・月村・テスタロッサ)の場合
・無印の高町なのはと月村すずかは、ほぼ同じ身長に見える
・「とらハの高町なのは」は、小学3年生で129cmらしい
・日本の小学3年生の平均身長は128.2cm(2013年のデータ)
・すずかが小学4年の8月に不老不死化した
・日本の小学4年生の平均身長は133.6cm(上と同じ資料)
 つまり、1年で5.4cmくらい伸びる計算となる。
Q.では、「とらハの高町なのは」の身長計測は何月で、ほぼ同じ身長の月村すずかは翌年8月までにどの程度まで伸びるでしょうか?
A.わかりません。きっと、134±3cmでしょう。

例2:フェイト・テスタロッサの場合
・高町なのはより、明らかに身長が高い
・不老不死化は小学3年生の1月下旬
Q.では、フェイトが不老不死化した時の身長は?
A.わかりません。135~140cmじゃないかなー?

例3:八神はやて(はやて・八神・テスタロッサ)の場合
・高町なのはと同じか、ちょっと低い感じ?
・不老不死化は小学3年生の12月上旬。
Q.では(略
A.130±3cmじゃない?

例4:チャチャ
・原作(ネギま)では、明確な名前すら作中では使われてない。当然設定なし。
・根拠は茶々丸同型との比較のみ。
・本作のチャチャは、エヴァとの兼ね合いを(勝手に)考慮している。
Q.じゃあ、設定は?
A.127cmでいいんじゃない?

そしてチンクですが、画像とかで見る限り、たぶん130cm~135cmくらい。スカ&戦闘機人がずらっと並ぶアイキャッチ(STS20話)と、クアットロ約160cm(@NanohaWiki)から考えて。
つまり、チャチャ≦はやて≒エヴァ≦チンク≦すずか≦フェイト、と思われます。
中央に位置するチンクは、高い確率で他の人用の服を着る事が可能です。


2016/05/07 お姉様→お母様 に修正
2019/09/23 アルカンシェルの撃ち合い→アルカンシェルとの撃ち合い に修正

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