青の悪意と曙の意思   作:deckstick

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蛇足:或いはこんな未来も/StrikerSだった何か2012年

 ◇◆◇ 2012年(新暦73年)05月 ◇◆◇

 

 

 成瀬カイゼが大学に進んだり、スカリエッティ家にセッテが加わったり、教導の生徒が入れ替わったりしながら、既に5月。

 そんなとある休日に、テスタロッサ家のリビングではちょっとしたお茶会状態になってる。

 来てるのは、偶然だけどカリム・グラシアとアリサ・バニングスの金髪コンビ。

 アリサ・バニングスははやてやすずか達と遊びに。そしてカリム・グラシアはお姉様と話をしに来た。

 

「そうか、エリオがか……」

 

 そんなカリム・グラシアが持ってきた話の内容は、某モンディアル家の子息の事。

 要約すると、キャロ・ル・ルシエを守りたいからという不純な理由で、親衛隊か近衛騎士団経由で護衛部隊を目指し、早く近くに行きたいから親衛隊の教導に参加したくて、比較的参加条件が緩い聖王教会の門を叩いた、という事らしい。

 ヴィヴィオがいるせいもあって最終的な競争倍率は半端ないけど、後ろ盾が重視されないという点で時空管理局より敷居が低いと判断したらしい。まだ10歳にもなってないのにちゃんと情報を調べ、決めた後の動きが早いあたりは、商家の血を引いてるだけあると感心すべきところ?

 

「聖王教会の勢力が小さい世界なのですが、逆に、所属支部の推薦を取りやすく、かつテコ入れで本部から枠を与えられる可能性もある、という計算もあるようですよ。

 両親はあまり歓迎していないと言っているのですが、これらを調べたのも両親だそうですから、応援半分、反対半分といったところの様ですが」

 

「……違うな。エリオは単純に、キャロを目指しているだけだろう。それに、あの世界の聖王教会の力とモンディアルの立ち位置を考えると、枠を与えられる可能性は低いはずだ。

 恐らく、競争率から考えて願いが叶うとは思えないから、強硬に反対してミッドやらに行かれたり、管理局に行かれたりするより、目が届き権力も弱い地元の聖王教会に行く理由を考えた……と言ったところか」

 

「聖王教会も時空管理局も、何らかの梃入れを意図した割り当てを行った事が実際にあるそうですから、根拠のない話ではないようです。

 それに、初恋の人を守る為に直近護衛部隊を目指すなんて、世間受けが良さそうでしょう?」

 

「キャロは、正確には私達の家族ですらないんだがなぁ……

 それに、確率は低いだろう?」

 

「勿論です。人格面と能力面で、聖王教会の代表として相応しいと示さなくてはなりません。

 それが出来て初めて、枠の争奪戦に参加する資格を得る事が出来ます」

 

「当たり前だな。まあ……本人がその気なら、別に止める義理も無いが。

 ギンガはゼストやメガーヌの下で元気に暴れてるらしいし、スバルやティアナは目標があって陸士訓練校に行っているようだし、ルーテシアは順調に召喚魔法やらの才能を開花させているらしいし……若い連中が元気なのは、良い事なんだろう、きっと」

 

「少しばかり、年寄りくさいですよ?」

 

「2500年も前の骨董品なんだ、古臭くもなるさ」

 

「こんなに可愛らしいお姿ですのに」

 

「……見た目だけだ」

 

 身内だけだからと、幼女モードでいたお姉様の油断。

 だけど、2500年は正しいけど間違ってもいる。

 意識のある期間だと……前世も合わせると45年を超えるくらい。

 ロリBBAならぬ、ロリ中年オヤジ?

 

 

 ◇◆◇ 2012年(新暦73年)08月 ◇◆◇

 

 

「これで、全員が揃ったのか」

 

「全ての娘達が目覚めたのでね。

 ようやく、子育てに精を出せるというモノだよ」

 

「子育てと言える年齢ではないでしょう」

 

 お姉様達がモンディアルな別荘から帰って来た後の、テスタロッサ家。

 ジェイル・スカリエッティ達が、セッテ、オットー、ディードの3人を連れて来た。

 軽く挨拶をした後で、セッテとディードははやてに連れられてお風呂に行き。

 オットーは、ウーノに台所の説明を受けてる。

 お姉様、プレシア、ジェイル・スカリエッティが座るテーブルには、オットーが練習で入れた紅茶と、手土産で持ってきたお菓子が並んでる。

 紅茶の味は、良くも悪くもない。基本の手順通りに作った普通の味。

 起動直後に近い状態だと考えると、よく頑張ってる。ぶっちゃけると今のシャマル(ミスしなかった時限定)と同程度なわけだし。

 

「特にあの3人は、原作で感情に乏しかったようだからね。

 だからこそ、人らしくあるために、念入りに調整を重ねたのだよ。

 人はそれを、子育てと言う。違うかい?」

 

「間違ってはいないが……そうか、あの3人は最初から精神面が魔改造されているのか」

 

「魔改造とは人聞きが悪い。

 きちんとした教育を与えた、と言ってくれたまえ」

 

「ああ、その方が耳触りがいいな。

 だが、オットーも女だろうに、あんなに男っぽくていいのか?」

 

「それも個性、嗜好の問題だよ。

 それに、行動が男性的な女性にも、心当たりがあるからね」

 

「……いや、何故そこで私を見る」

 

 いや、中身は男だと公言してるし。

 ガワは幼女だし。

 

「管理社会で実質的な頂点に立ち、経済的に不自由がなく、女性ばかり家族にしている、外見は女性の男性がいたと思ってね。

 外から見れば完全無欠だが、精神面が男性である以上、ある種のハーレムである家庭内では微妙だろうとね」

 

「ほっとけ」

 

「エヴァンジュの場合は、出しゃばらずに任せるべきことは任せ、周囲もそれを当然としているから、上に立っているように見えるだけよ。特に家庭内の事は、女性の方が得手としている事なのだから。

 ジェイルも食事だけでなく、身嗜みもウーノに頼りきりなのでしょう?」

 

「うむ。やはり、研究に没頭してしまうと、他の事に頭を使う気になれなくてね。

 これがマッドと呼ばれる所以なのだろうが、2人とも覚えがあるのではないかね?」

 

「……ほっとけ」

 

「……不必要な過去は振り返らない主義よ」

 

「ククク……以前の私が見ればぬるま湯に浸かっていると思うのだろうが、やはり、この様な空気は良いものだ。加えて、娘達の成長を見守ることが出来る。

 平凡な幸せというのは、この様な物なのだろう」

 

「娘達と幸せの点だけは、同意するわ」

 

「……マッドな時点で平凡じゃないだろう」

 

「だが、幸せを感じる内容については、平凡そのものだよ。

 無限の欲望と呼ばれた私が、この様に感じるとは。実に感慨深い」

 

「……私に迷惑にならない範囲なら、好きにすればいいさ」

 

 ああ、お姉様が何かを諦めた。

 というか、性格面が魔改造された戦闘機人の内、2人は楽しそうにお風呂ではやてと揉み合ってるし。1人は静かに紅茶を入れる練習をしてるし。3人とも、問題があるようには見えない。

 お姉様の迷惑にならない範囲は割と広いから、随分と甘い裁定なのは確定的。

 おかげで私達や眷属従者達が、色々と研究したり工作したり出来るわけだし。

 

 

 ◇◆◇ 2012年(新暦73年)11月A ◇◆◇

 

 

「うーん、こうなるのは予想していなかった……」

 

「可愛らしいお姿ですね」

 

 随分と長く眠ったままだったイクスヴェリアに漸く変化があったため、駆け付けたお姉様とヴィヴィオ。

 その前にいるのは。

 

「サイズとしては、ルーナやアギトの本来の姿くらいか。

 脳波やらは覚醒状態だし、移動端末の様な感じだが……喋れないのか?」

 

 お姉様の言葉にコクコクと頷いてる、ちっちゃいイクスヴェリア。

 ふわふわと浮いてるところも、とっても融合騎っぽい。

 本人と言うか本体と言うか、お姉様が連れて来た体は寝てる様にしか見えない。

 サイズが違っても外見的な特徴は一致してるから、別人という事も無いようだし。

 

「こちらの言っている事は伝わるようですから、会話の手段は何かあるでしょう。

 それよりも、服を揃える必要がありますね」

 

「そうだな……とりあえずはルーナとアギトに借りるのが一番早いな。

 この時間なら学校が終わる頃だろうし、適当に持ってきてもらうか」

 

「他の人達にも伝えた方が良いですよ?

 仲間外れは良くありませんから」

 

「……そうだな」

 

 そんな流れで、一通り声を掛けた結果。

 

「初めまして、イクスヴェリア陛下。

 私は聖王教会 騎士カリム・グラシアと申します」

 

 護衛も付けずに最速で駆け付けた教会関係者がいて。

 

「色々持ってきたのです!」

 

「おー、本当にアタシらと同じくらいなんだな」

 

 ルーナとアギトが、いくつかの服を持って現れて。

 2人とも子供サイズのままだったけど、同じくらいとアギトが言った時にイクスヴェリアが頷いてたから、本来の姿も記憶にあるらしい。

 いつから周囲を見てたんだろう。

 

「おお、ほんまに融合騎っぽい姿やね。

 可愛いなぁ……リインフォースは美人さんで方向性が違うんやから、悔しがらんでええよ?」

 

「は、はい」

 

 相変わらず小さくなれず融合も出来ない事を気にしてるリインフォースが、恨みがましい視線を向けて、はやてにフォローされ。

 

「か、可愛い……」

 

「アリサちゃん、表情が崩れてるよ」

 

「Shut up! そう言うなのはだって崩れてるじゃないの!」

 

「2人とも、喧嘩は駄目だよ……」

 

「こうして話をするのは初めてだから、初めまして。

 エヴァから聞いてるけど、私達の事は知ってる?」

 

「私の事も知ってるのかな?」

 

「知ってるみてーだな。って事は、あたしの事も知ってるって事か。

 ま、よろしくな」

 

 はやてと一緒に高校から直行してきたアリサ・バニングスと高町なのはが妙な言い合いを始め、すずかが仲裁しようとしてる横で、主とフェイトとヴィータが満面の笑みで頷いてるイクスヴェリアと握手して。

 

「すみません、遅くなりましたっ!」

 

 体調管理の為にちょくちょく訪れてたシャマルが飛び込んできて。

 

「……いや、現状はとりあえず安定しているし、私達もいるんだ。

 そこまで急がなくても良かったんだが」

 

「そ、そういえば……」

 

 お姉様の冷静なツッコミに落ち込んだりもしたけど。

 イクスヴェリアに対しては予想以上に好意的な反応。

 

「さてと、全員に一応言っておくが、どの程度活動出来るのか、どこまで移動出来るのかを確認するのはこれからだ。この姿では地球に連れていけんし、管理世界やらに連れ出したりするのも問題が無い事を確認してからになる。

 特に、どうやって政治的に問題が無いかを確認すればいいのか、頭を悩ませているところだ。その意味でも別荘の外に行く目処が立っていないから、当分は別荘の中だけになる。

 そういう訳だから、無理に連れ出そうとするなよ?」

 

 はーい、って元気な返事をしてる、高校生以下組。

 その横で、どう扱うか考え込む様子のカリム・グラシア。

 古代ベルカ、ガレアの王。しかも本人。

 記憶等を受け継いだクローンと公表してあるヴィヴィオより、扱いに慎重を要する。

 

 

 ◇◆◇ 2012年(新暦73年)11月B ◇◆◇

 

 

 イクスに関する話をしたチャットログから抜粋。

 

エヴァ:という訳で、こっちのイクスは融合騎風謎生物になった。

 

大はやて:早く見てみたいなぁ。

大はやて:こっちはようやく事態が終息したとこやし。

 

エヴァ:ルネッサの改心は無理だったか。

 

大なのは:ティアナも頑張ったんだけど。

 

大はやて:残念ながら、聞いてたみたいな結果になってもうた。

大はやて:陸士部隊ではマリアージュに対応できへんかったのが敗因や。

 

大フェイト:イクスも診断で、もう目覚めないかもって言われてたんだよ。

大フェイト:良かった、目が覚めるんだ。

 

アコノ:自由に会話が出来るわけでも、自由に動けるようになったわけでも無いけれど。

 

エヴァ:イクスに融合騎的な機能も組み込まれているのは確認済みだ。融合は無理だがな。

エヴァ:マリアージュとリンクして制御する部分に、似た部分があった。

エヴァ:それを利用して、交流用の端末を生成しているような感じだな。

 

大なのは:普通に目覚めるのは無理なの?

 

エヴァ:こっちのイクスを調べた限りでは、という条件だが。

エヴァ:今以上に生命活動のレベルを上げると、マリアージュの生成機能も稼働するようだ。

エヴァ:影響を出さずに切り離すのは、なかなか難しくてな。

 

大はやて:難易度は、どの程度や?

 

エヴァ:はっきり言えばリインフォース、そっちのアインスを構造情報無しで治療するくらいだ。

エヴァ:救いは、時間の制限がとても緩い事くらいか。

エヴァ:既に1000年以上生きているんだ。10年や100年で死ぬ事は無いだろう。

 

大なのは:無限書庫は? ユーノくんに頼めば何か見付かるかも。

 

アコノ:こちらの無限書庫は調査済み。構造に関する情報は見付かっていない。

 

大フェイト:こっちにはあるかもしれないよ。

 

エヴァ:その可能性は否定しない。だが、こっちとそっちで構造が異なる可能性もある。

 

大はやて:やってみるまで解らんってことや。

大はやて:片手間でええから探してもらうよう、頼んでみよか。

大はやて:なのはちゃんが。

 

大なのは:え!?

 

大フェイト:夫婦なんだから、内密に伝えるのは私達より簡単だよ。

 

エヴァ:相変わらずのワーカホリックで、夫婦らしくない生活をしているのか?

 

大なのは:え? 違うよ? 違うからね?

 

アコノ:それなら、夫婦らしく愛のある生活をしている?

アコノ:エロ同人みたいに。

 

大なのは:ちょっと、それは!

 

大はやて:2言目で色々と台無しや。

 

エヴァ:意外に通じるものだな。人妻補正なのか、ユーノが仕込んだのか……

 

大なのは:違▽Б∩↑▽⇔γИ

 

大はやて:なんや、エラーか!?

 

エヴァ:思考が乱れすぎて、誤認識しているだけだ。

エヴァ:記号も処理できるようにしてあるから、その影響だろうな。╰U╯とかも書けるぞ。

 

大なのは:≫≡ζ∵γИ

 

大はやて:おー、まだ暴走しとる。

 

アコノ:時間の流れが違うと言っても、新婚の時期は終わってるはず。なのに、乙女?

 

エヴァ:免疫の無さは筋金入りか。

エヴァ:フェイトも沈黙しているし。

エヴァ:流石はやて、ネタ枠担当で追従を許さないだけある。

 

大はやて:(:D)rz

 

アコノ:弄られて喜んでいる芸人に見える。

 

大はやて:間違えた。こっちやorz




イクス覚醒……? この辺(覚醒内容)は、Vividに従いました。
但し、この話を書いている時点で、私(作者)のVivid知識は14巻までです。しかも友人宅で読んだ程度なので、ちょいあやふやです。


現在、アコノ(高3)、はやてフェイトすずかなのはアリサ(高2)、ヴィータ(高1)が、同じ「聖祥大学付属高校(名前は捏造)」に行っています。
というか、聖祥が小中高大を含む巨大な私立学園という事になってますが、高校以外は原作で存在が確定(とらハ込みなら高等部も確定)してるんですよねー。近くに私立風芽丘学園(高町美由希が通っていた高校。とらハなら恭也や忍も)や海鳴大学(はやてが通っていた海鳴大学病院を含むはず。とらハ設定なら国立)もありますし。
原作(リリなの)原典(とらハ)に登場した学校だけで、かなりの選択肢があるのですが……無理に他の学校に行かせる理由も無いわけでして。


2020/01/29 ―(横線)→ー(長音符) に修正

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