青の悪意と曙の意思   作:deckstick

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プロローグ

 目の前に、グレーのスーツにちょび髭、黒髪オールバックなのに欧米顔の、胡散臭い男が立っている。

 周りは、白で塗りつぶされた空間……空間?

 ちょっと待て。俺、立って……いるのか?

 

 おーけぃ、まずは、落ち着こう。

 俺は、車田(くるまだ)一樹(かずき)。大学生。

 チョイオタは認めるけど、ここまで現実離れした世界に行きたいわけじゃない。

 

「落ち着きたまえ、カズキ君。困惑は理解できるが、自分の状況は理解しているかね?」

 

 胡散臭い男は、短い顎の髭を弄りながら、胡散臭い笑みを浮かべている。

 神様……と言う感じじゃない。

 むしろ邪神。

 悪意のある何かって方がぴったりだ。

 

「現実だけを見れば、何もない場所で知らない人に名前を呼ばれている。

 常識的に考えれば、有り得ない事を体験している。

 希望的に考えれば、夢を見ている。

 ……テンプレ的に考えれば、死んで神様転生的な何か」

 

 自分で言っていてなんだが、頭のネジが逝かれたとか思えないリストだ。

 

「ふむ、4つ目が正解だ。

 死因は分かるかね?」

 

 妄想乙、って茶化す相手じゃなさそうだ。

 心当たり……あー、アレか?

 

「……なんか、青い光に襲われたような気がする」

 

「うむ、正解だ。隕石的な物に頭を撃ち抜かれたカズキ君は、見ていて実に面白かったのだよ。

 というわけで、転生特典の相談と行こうか」

 

 頭を撃ち抜かれて面白いって、やっぱこいつは神じゃない。

 話を聞く気も無いようだし、さっくりと話を終わらせた方が得策か?

 

「まず、行先はリリカルな魔法少女の世界を基本としたものだ。

 これは変更できない、嫌でも諦めたまえ。

 転生特典だが、比較的漠然とした希望や能力の指定のみ3つまで可、立場・容姿を含めて詳細な指定は不可だ。

 なお、ジュエルシード事件までは色々制限があるから要注意だ。

 

 理解したかね?

 では、適当に調整してやるから、とりあえず言ってみろ」

 

 随分と変な言い回しだな。

 基本とした。比較的漠然とした。詳細な指定は不可。色々制限。適当に調整。

 最初はともかく、テンプレじゃあまり聞かない単語が並び過ぎだ。

 

「んー、具体的じゃなきゃいいって事か?」

 

 にやにやとした笑みを顔に張り付けていやがる。

 やっぱり話をする気は無さそうだ。早めに切り上げた方が、問題が少なそうだな。

 今の話は……裏を返せば、詳しい設定をしても希望通りにならない、ってことだ。

 曖昧な方が調整しやすい……違うな、言葉尻を取りやすい、だろうな。

 悪意のある邪神様転生ってとこか?

 なら、多少ぶれたところで問題ない方が良いってことか。

 

「わかった。真祖の吸血鬼みたいな能力、多くの知識、多くの友人。

 この3つが欲しい」

 

 リリカルなら、夜の一族になるか?

 基本とした、ってぼかしてあるから、他の作品の吸血鬼の可能性もあるか。

 真祖なら即死は無いだろうし、弱者って事も無いだろ。

 知識と友人は、あって困るものじゃない。

 何より、友人が多くいるなら、少なくとも人類との敵対は無いか、人類と関わらなくても大丈夫な程度の人外集落には落ち着けるはずだ。

 人間以外になる可能性は十分だけど、意思疎通が出来ないモノになることは無い。

 とりあえずは十分か?

 

「よし、良かろう。次は良い人生となると良いな?」

 

 ニヤリ、と背筋に寒気が走る笑みを胡散臭い男が浮かべた直後。

 

「やっぱりこれかーーー!」

 

 ……俺は、暗く深い穴に落ちた。




2021/09/29 以下を修正
 といわけ→というわけ
 抜かれ面白い→抜かれて面白い

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