青の悪意と曙の意思   作:deckstick

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ここからしばらくは、テレビ版の第5話に対応します。
タイトル通り、温泉での話となります。


無印編10話 温泉へ

 温泉旅行当日。

 お姉様はまだ存在を見せる気が無いため、家で留守番……と言うより、別荘でデバイスを作製しつつ、主の近辺を警戒している。

 作成しているのは、入門用デバイス。知っている魔法の都合で真正古代(エンシェント)ベルカ式、但しカートリッジは無し。インテリジェントタイプで、指導能力に容量の多くを割り振る。

 マトモそうな転生者が確認できたため、魔法を教える時に渡せるよう、色々準備しておく予定。

 高町なのはとの遭遇については何種類かの場面を想定。開示する情報の打ち合わせも行い、後は適時判断と決めてある。

 ギル・グレアムに関しては、ヘルパーとして来ているリーゼアリアが伝えていたし、八神はやても手紙も送っていた。

 

 主は、タクシーで迎えに来た八神はやてと共に駅へ移動。

 (リーゼアリア)が八神はやてを家から尾行している事は確認済み。

 そこから電車で山の方にへ向かい、再びタクシーに乗って旅館へ到着。

 今回宿泊するのは、山の宿という名の旅館。

 

 この旅館を含む海鳴温泉と呼ばれる地域は、それなりの歴史と知名度があり、いくつもの温泉宿が点在している。

 少々古めかしいが、庭に小さな池と滝があったり、中庭向きにだが縁側の様に開放的な廊下があったりと、古さを歴史的な雰囲気として魅せる、趣のある温泉旅館である。

 以上、主に渡された紹介記事の切り抜きを一つ読んでみた。

 海鳴温泉の紹介なのか、山の宿の紹介なのか、よく解らない。

 

「こういう古い建物って、いいと思わへん?」

 

「何だか、落ち着く感じの雰囲気。

 でも、こんな建物にベッドというのは、似合わないと思う」

 

「それは堪忍してな?

 私らが和室の布団で寝るなら他の人の助けがあったほうがええし、車椅子で和式の部屋に入ったら畳を痛めてまうかもしれへん。

 部屋の外だけやけど、こんな雰囲気に浸るのもええと思ったんよ」

 

「うん、日本らしい建物」

 

 板張りの廊下でギシギシと音を立てながら、二人は宿の中を散策。

 通路は広めで、車椅子の二人が通っていても、さほど邪魔にならない。

 それに、ゴールデンウィークの前の週だからか、少々時間が早いせいか。

 今のところ、他の客もそれほど多くない。

 だからこそ車椅子の2人を受け入れたのかもしれない。

 

「古い日本らしすぎて、完全なバリアフリーやないのが欠点やな」

 

「スロープはちゃんと用意されてるし、宿の人も協力的だから問題ない。

 それに、洋風の方が下足を脱ぐ場所が点在する分、厄介なこともある」

 

「お風呂の入り口とかやな?

 ここは玄関で靴を脱ぐから、入ってしまえば割と平和や。

 それも選んだ理由なんよ」

 

「多分、正解」

 

 そんな感じで、のんびりと散策。

 主の前をゆっくりと進んでいた八神はやてが、自販機前で止まった。

 

「アコノさん、何か飲むか?」

 

「うん、何か飲もう。

 はやては何にする?」

 

「日本家屋なら、やっぱお茶が合うやろ。

 ……ん? でも、お茶はちょっとボタンが上過ぎやな。

 アコノさん、孫の手持ってへん?」

 

「今は持ってない。

 部屋に戻る?」

 

「部屋よりも、玄関近くの売店の方が近いんやない?」

 

「あんたたち、何やってんの?」

 

 アリサ・バニングスがあらわれた。

 月村すずかがあらわれた。

 高町なのはがあらわれた。

 フェレット(ユーノ・スクライア)があらわれた。

 アリサ・バニングスはいきなり話しかけてきた。

 月村すずかは様子を見ている。

 高町なのはは様子を見ている。

 フェレットは高町なのはの肩に乗っている。

 

「お茶を買おうとしたんやけど、ボタンに届かへんのや。

 申し訳ないけど、押してもろてええやろか?」

 

「いいけど、家族とか連れはどうしたのよ」

 

 ボタンを押しながら、不思議そうに周りを見るアリサ・バニングス。

 この場にいる5人以外、見える範囲に人がいない。

 小動物は人と認めない。

 

「いない。二人旅」

 

「「「えー!?」」」

 

「有り得ないでしょ!?

 家族は何考えてんのよ!」

 

「私は家族から避けられてる。

 今頃はいない事を喜んでいるはず」

 

「それは、有り得ないよ」

 

「家族ならそんなことは無いよ、きっと」

 

 月村すずかは完全否定。

 高町なのはは希望的観測。

 過去の違い?

 

「大体、あんたたち似てないんだし、姉妹じゃないんでしょ!?

 そっちの……えーと、あんたの家族はどうなのよ!」

 

「え、えーと、その……」

 

「一人暮らしらしい。察して」

 

「あの、アコノさん、その言い方はちょっとあかんよ……」

 

「あんたは……なんでそんな平気そうな顔で重大な事を言うのよ!!」

 

「ん……?

 もしかして、またやった?」

 

「うん、そうやね。

 もうちょっと考えよか?」

 

 八神はやては、少し困った顔で頭を押さえている。

 だけど、どことなく嬉しそう?

 

「そう。……感情は難しい」

 

「難しいってあんた、何をそんなに考えなきゃいけないのよ!」

 

「感情が感じられない。

 感じられない感情を考えるのは、難しい」

 

「なっ!?

 ……あんたたち二人とも、有り得ないにも程があるでしょ!!」

 

 アリサ・バニングスが吠えまくり、高町なのはと月村すずかはおろおろしてる。

 高町なのはの行動力的に、少し意外。

 

「生まれてからずっと、こんな感じ。

 程があると言われても困る」

 

「そりゃあ……そうでしょうけど」

 

「で、でも、治らないわけじゃないん……だよ、ね?」

 

 確かに、主は困っていない。

 むしろ、アリサ・バニングスと月村すずかが困っている。

 高町なのはは、困惑している。

 フェレットの表情は読めない。

 

「わからない。

 だけど、話を続けるなら、そろそろ自己紹介をするべき」

 

「ここまで動じずに判断できるなんて、こりゃ重症ね。

 あたしは、アリサ・バニングス。聖祥大学付属小学校の3年生よ」

 

「高町なのは。アリサちゃんと同じ、聖祥大学付属小学校に通う小学3年生」

 

「私、月村すずか。二人のクラスメイトだよ」

 

「八神はやていいます。アリサちゃんたちとは同い年やね」

 

「小野アコノ。海鳴北丘小学校4年生。

 留年とかはしていないから、年齢も1つ上になる」

 

 実は2つ上。主は既に誕生日を過ぎている。

 特に高町なのはは早生まれ。当分は2歳差。

 

「なんだ、だいぶ年上に見えたけど結構近いんじゃない。

 はやての家は、遠いの?」

 

「住んでるのは海鳴市中丘町やから、アコノさんちに割と近いんよ?

 私はこの足のせいで通信教育やから、学校は行ってへんのや」

 

「足のせいって、小野さんは学校に行ってるん……だよね?」

 

 月村すずかは、主と八神はやての足を見比べてる。

 似た感じの車椅子に座る2人の違いは、あまり無い。

 

「中丘町は北丘町の近くなんでしょ。何か違うの?」

 

「私もアコノでいい。違うのは、家族や病院の考え方?」

 

「多分それやろうね。

 というか、この足で学校行くんは、アコノさんに会うまでは思ってもみんかったわけやし」

 

「そういえば、話してみると言っていた気がする。

 どうだった?」

 

 八神はやては、手紙で相談していた。

 返事が来たのは、昨日。旅行についての連絡の後。

 そういえば、主に結果を知らせてない。

 本人から聞いたほうが良い。問題ない。

 

「ここでする話やない気も……まあ、今更やな。

 おじさんは、あんまりいい顔はせえへんかったよ。

 天気が悪い日の通学とか、確かに大変やろうし」

 

「別に、濡れるだけ」

 

「ここは感情抜きで考えたらあかんよ?

 やる気の維持は大切や」

 

「あの、二人は随分と仲がいいみたいですけど……

 なんだか最近会ったみたいな話もしてるし、何時頃出会ったんですか?」

 

「すずかちゃん?

 ごめんな、人と話すのは慣れてへんのや。普通に話してくれてええよ。

 えーと、アコノさんと初めて会ったのは、確か……」

 

「2週間前。直接会うのはこれで3回目」

 

「ほ、ほんとに?」

 

「ずっと長い友達に見えるよ!?」

 

「色々常識ってものを投げ捨ててるわね、あんたたち……」

 

 月村すずかと高町なのは、驚愕。

 アリサ・バニングスは、驚きより呆れの方が強い模様。

 

「アコノさんを見てたらな、常識の再確認は大事やなって思うんよ」

 

「一人暮らしの小学生にそれを言う資格は無いと思う」

 

「どうやったら、そんなに早く友達になれるの!?」

 

「なのは、何だか必死?」

 

 高町なのはが喰いついた。

 アリサ・バニングスが、じと目で様子を見ている。

 頼られないのが気に入らない?

 

「私らは参考にならへんと思うよ?

 お互い友達がおらへんかったみたいやし、足の事とか色々と共通点も……」

 

「話すキッカケとか、最初の印象とか……!」

 

「ほらほら、なのはもちょっと落ち着きなさいよ」

 

「なのはちゃん、どうしたの……?」

 

「きっかけは、今回と似たような感じや。

 図書館で私が本に手が届かんでな?」

 

「私が、孫の手で本を取った」

 

「ま、孫の手?

 それって、あれでしょ。背中掻くやつじゃないの?」

 

「本が傷んじゃうよ?」

 

「ハードなら、頑張ってほしい」

 

「やっぱアウトや。

 ちょっとは改善した気がせえへん事も無いけど、別の悪い方にいっとる」

 

 図書館に、大丈夫じゃなかった本がちらほら。

 この点は月村すずかと八神はやてが正しい。

 

「最初は何て言ったのよ」

 

「ハードなら大丈夫、やったか?」

 

「そんな感じ」

 

「にゃはは……やっぱり駄目っぽい」

 

 高町なのはが諦めた。

 やっぱり、孫の手は参考にならなかった。

 

「その後はまあ、共通点も多いことがわかってな。

 話すのも楽しいし、土曜ごとに会ってるんよ」

 

「2回目に会った時の別れ際に旅行を提案して、1週間で下調べから手配まで済ませて私を旅行に連れてきたはやての行動力は驚異的」

 

「そこは、時間のやりくりが楽な通信教育のおかげもあるんよ」

 

「いいコンビ、だね」

 

 月村すずかが笑ってる。

 いろいろ面白かった模様。

 

「うん、とっても仲良し」

 

 聞き出すのを諦めた高町なのはも、笑ってる。

 むしろ、感情をあまり見せないフェイト・テスタロッサ攻略方法として、何とかして話をしてみようと思っていそう。

 

「ところで、二人とも今から温泉?」

 

「アコノさん、どうしよか?」

 

「早めに行った方が、他の人の邪魔になりにくい。

 混み始めると、きっと邪魔だと思われる」

 

「それなら、あたし達も今からだから一緒に来なさいよ。

 せっかく知り合ったんだから手伝ってあげるわ。

 なのはとすずかも、いいわね?」

 

「うん、全然大丈夫」

 

「もちろん、いいよ」

 

「ほんまか?

 おおきに」

 

「名前を呼びあったら友達、という話?」

 

「ま、そんな感じだと思っときなさい」




テレビ版無印、地球の3人娘がようやく本格的に登場です。
うちのなのはは、なのなの言いません。テレビ版(サブタイトルを除く)になるべく準じます。準じられてますよね……?
そして、「初めに」に書いた「高町なのは達(原作の人物)が加わり始めると、グダグダになります。」の始まりでもあります。


アリサがツッコミです。というか、他の2人が空気気味に。
アリサの動かしやすさは異常。やっとで出てきたツッコミ役なせいか、なんか楽しいです。

その分、妹達がいつにも増して傍観しています。きっと、こっそり覗きながら笑ってます。
まとめと設定の「空気を読み過ぎて黙ってしまう」のも、人が増えるこの辺からが本格的です。
12/13の修正で何とかしようとしてみましたが……少しは読みやすくなったでしょうか?


2012/12/13 以下を修正、アンケートを削除
 そろそろは自己紹介→そろそろ自己紹介
 ギルアム→グレアム
 妹達(地の文)を全体的に見直し。アリサの発言も一部修正。
2012/12/17 駅から宿への移動を、送迎バスからタクシーに変更
2017/04/25 とこで→ところで に修正

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