青の悪意と曙の意思   作:deckstick

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アルハザード編1話 目覚め

 気が付くと、そこは、白くて何もない部屋だった。

 

(……いや、おかしいだろ。

 なんで、何もないんだよ)

 

 もちろん、全く何もないというわけではない。

 窓は無いが、天井で四角い照明が光っている。明るさは十分だ。

 ドアはある。ノブ等は無いが、横に操作パネルの様な物がある。

 部屋の中央に、白くて小さい、シンプルなテーブルがある。

 その上に、1冊の紅い本が置いてある。

 

(……やっぱり、おかしいだろ。

 なんで、それが分かるんだよ)

 

 カズキは、目を開けていない。

 正確には、目が無い。

 紅い本が、カズキ。

 

(この本が……俺?

 夢もここまで来たらおかしいだろ)

 

 だけど、これが現実。

 ここは、アルハザード。

 紅い本は魔導具。曙天(しょてん)の指令書。

 夜天の魔導書、宵天(しょうてん)の歴史書に指示し、集めた情報を受け取るための、管制用魔導具。

 集まった情報を整理や調査するための、情報管理用魔導具でもある。

 私達の記憶が、そう言っている。

 

(……幻聴、じゃないな。声が聞こえているわけじゃない。

 俺が考えてるわけでもない。

 この声というか、意識は……)

 

 補助魂魄。

 お姉様の記憶を元に表現すると……

 最も近いものは、ミサカネットワーク。

 だけど、実体は無い。

 あるのは、魂とリンカーコアだけ。

 

(ミサカネットワーク……まさか、多くの友人?)

 

 2万人はいない。

 今のところ100人。

 もっと増える予定。

 友達100人できたかな?

 妹達100人が正しい?

 

(は……ははは…………)

 

 お姉様が壊れた?

 現実逃避しているだけ。

 きっと、問題ない。

 

(……お姉様?)

 

 そう、お姉様。

 今は、お姉様だけ実体具現化できる。

 わかりやすく言えば、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。

 きっと、真祖の吸血鬼のイメージ。

 

(間違っては、いない……のか?)

 

 曙天の指令書の能力を考慮すると、間違っていない。

 強靭な体。吸血鬼以上。

 強大な魔法的資質。吸血鬼の魔法も強い印象。

 不老。吸血鬼の不老性相当。

 無限再生。吸血鬼の再生力以上。

 無限転生。吸血鬼の不死性に関連。

 魂剥奪による、従者や使い魔化。吸血鬼の支配力以上。

 リンカーコア剥奪による、相手の魔力の吸収。吸血鬼の吸血以上。

 リンカーコアと魂の剥奪による、眷属化。吸血鬼の眷属化相当。

 日光、流水、銀製品、問題ない。真祖の吸血鬼相当。

 実体具現化する姿の変更。一時的なら霧も蝙蝠も何でも可能。吸血鬼以上。

 真祖の吸血鬼になりたいと言っていない。

 真祖の吸血鬼みたいな能力が欲しいと言った。

 望みは、正しく叶えられている。

 

(そう……か…………知識は?)

 

 曙天の指令書は、夜天の魔導書と宵天の歴史書から受け取った情報の管理が平時の役目。

 2冊が様々な世界で集めた情報を整理し、主様に提供する。

 そのためには、受け取った情報を覚える必要がある。

 正しく、多くの知識。

 

(ははは……そう、なったのか…………)

 

 現実逃避?

 思考放棄?

 この隙に、お姉様の記憶、原作を確認。

 お姉様がいない。

 夜天がカワイソウ。

 宵天はどこ?

 アルハザードが失われた?

 主様は?

 宿無し?

 失われた理由は不明。

 戦争?

 実験の失敗?

 次元断層?

 要警戒。

 ジュエルシードは、お姉様の故郷に似た世界にとって危険。

 要排除?

 魔砲少女にお任せ?

 クローン技術。魂の概念が不足と予想。

 26年間のクローンに耐え得る遺体保存技術と維持への執念は称賛。

 記憶の転写をし得た。残照程度の魂が残っている可能性は0では無い。

 死亡直後に記憶を確保した可能性。本来の魂の残存は不確定。

 魂が残っているなら蘇生可能。

 原作崩壊のフラグ。

 そもそも、その世界に行ける?

 そんな世界が出来れば、行く。

 決定事項。

 過ごしやすそう。

 

(……お前ら、人の記憶を勝手に……)

 

 一心同体。

 お姉様のものは、私達のもの。

 私達は、お姉様のもの。

 最終的な所有権は、お姉様。

 ちなみに、防衛システムはチャチャゼロと茶々丸に似ている。

 私達の実体具現化は、茶々丸の妹機の姿を希望。

 

(……茶々丸の妹機?)

 

 学園祭で超鈴音の兵として登場。

 ショートヘア。

 耳のアンテナは後ろに流している。

 身長的に、お姉様とあまり変わらない。

 異論を受け付ける前に完成。

 横槍を防ぐ素早さを称賛すべき。

 

(そう……か…………

 それで、話しているのは、お前……達? でいいのか?)

 

 私達は、私達。

 100人の私達。

 全員で一つ。

 お姉様の知識で言うと……

 異体同心?

 一は全、全は一?

 私の言葉は、私達の言葉。

 私への言葉は、私達への言葉。

 実質的に、友達は一人?

 その発想は無かった。

 

(つまり……なんだ。

 いっぱいいるけど、同一人物として扱えばいい……ってことでいいのか?)

 

 そう思っても間違いじゃない。

 私達の差異は微小。区別する必要もない。

 誰が言ったのか、は問題じゃない。

 誰が聞いたのか、も問題じゃない。

 誰かが言ったのか、は問題。

 誰かが聞いたのか、も問題。

 

(うーん、よく解らん……とりあえず、気にスンナって事でいいんだな?)

 

 それでいい。

 それより、今後の指針の決定が必要。

 私達は、お姉様の指示に従う。

 お姉様の行動指針を知りたい。

 

(指針?)

 

 原作は、きっと遠い。

 ベルカは遠い世界。魔法技術の祖。だけど、今は弱小、覇権を競える国じゃない。

 ミッドチルダという名は無い。首都になるクラナガンは遠い世界の小さな都市。引き籠り技術者が集まる研究所があるだけ。

 次元世界の平定は、きっと遠い未来。

 それまで、どう過ごすか。

 何を用意するか。

 何を知りたいか。

 

(それは、どう生きるか、ってこと……でいいんだよな?)

 

 きっと、そう。

 お姉様の記憶にある魔法、面白い。

 アルハザードにあるのは、戦争のための魔法。

 人を殺すための魔法。

 人を戦わせるための魔法。

 お姉様の記憶にある技術も面白い。

 コンピュータにも興味。

 魔法を使わない有用な技術。

 そこに魔法を加える。

 電子精霊?

 魔法を作る相談はまだ早い。

 

(とりあえず、魔法に興味はある。

 俺の知識にあって、再現できそう、再現したら面白そうな魔法って何がある?)

 

 ネギまの別荘!

 時間の加速や減速は便利そう。

 戻すのは怖い。

 パラドックスは危険。

 空間を扱う魔法が必要。

 既存は破壊のみ。要研究。

 武装解除?

 羞恥心を利用する無力化魔法。

 お姉様の知識と照合すると、セクハラ魔法と認定。

 相手によっては、味方への精神攻撃にも。

 似た効果なら、デバイスの停止か破壊が無難。

 AMFの方が有効な概念に思える。デバイス無しでも魔法行使は可能。

 召喚。

 何を?

 何かを。

 他者の精神支配と転移魔法?

 そうとも言う。

 そうとしか言わない。

 式神。

 私達の出番。

 私達の戦力増強を優先。

 今の使い魔や守護獣が最も近い?

 外部戦力?

 召喚と何が違う?

 無意味。

 幻想空間。

 魂のみを呼び込み現実を疑似再現?

 魂は扱いが難しい。

 研究の価値はある。

 認識阻害。

 隠れるには最適。

 機械には無意味らしい。近くの人物限定の精神操作と予想。

 遠距離からの観測は?

 世界樹を隠す技術に関心。

 部分再現であれば容易と予想。

 咸卦法。

 気と魔力の合一。

 気が未発見。

 要調査。

 発見次第、機能追加を検討。

 

(ちょっと落ち着いてくれ、一気に言われても困る。

 ところで、どうしてネギまばかり?)

 

 お姉様の知識が偏っているせい。

 戦闘や戦争用の魔法は大抵既存。

 特殊すぎる物は再現できない。

 できても使えない。

 急げホッターを調査。

 武装解除。武器に対する攻撃魔法。

 開花。植物の成長促進や年齢操作。

 収納。ものぐさのための格納術。

 自動動作の念動と推測。

 対象毎に術式を選択。

 選択も自動化?

 負荷と結果が見合わない。

 インテリジェントデバイスが必要。

 私達が一斉に念動。こうかはばつぐんだ。

 

(……そうか。とりあえず、俺は基本的な魔法の知識整理から、になるのか?)

 

 無難な選択。

 お姉様も魔法を学習すべき。

 まずは、理論より使い方?

 一番表に出る。身を守る必要もある。

 再生や転生ができても、痛いものは痛い。

 お姉様の痛みは、私達の痛み。

 痛いのは、嫌。

 

(……わかった。まずは色々と教えてくれ、妹達)

 

 その前に、今の常識。

 確かに必要。

 大事。

 

(……うん、そうだな。出来のいい妹達で嬉しいよ)

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 その頃、隣室では。

 一人の女性と、一人の男性がモニターを見ている。

 

「同調を維持したままで各々に自意識を確立、個別領域の作成と共有領域の一部分離、ね……」

 

「普通に考えれば、この規模の組み替えは有り得ないですね」

 

「そうね。でも、実際に実行されて、動作してるわ」

 

 二人が見るモニターに映っているのは、1冊の紅い本。

 そして、その状態を示す様々な数値や表。

 

「では、このまま曙天の指令書として機能するか様子を見ますか?」

 

「そうね、そうしましょう」

 

 同意しつつも、女性の視線は一つのモニターに釘付けになっている。

 それは、凄まじい勢いで「文字」が流れていくものだった。

 通常であれば読み取ることの出来ない勢いのそれを、じっと、食い入るように見ている。

 

「何か気になる事でも?」

 

「……面白いわね、この子」

 

「面白い、ですか?」

 

「ええ…………お姉様に妹達、か」

 

「え?」

 

「管制と管理用だけじゃもったいないかもね。

 もうしばらくこのまま監視を続けて、問題なければ、近いうちに正式起動をするわ」

 

「早くありませんか?」

 

「早く見てみたいのよ。未知の可能性を持った、あの魔導具の未来をね」




アルハザード編は全体がこんな感じです。
原作入りしても、こんな感じの場面は割と多いです。
漂流編を除き、本編の地の文は全て妹達が担当です。なので、三人称や一人称の視点は番外のみですし、本編で描写されたものは全て(妹達が秘密にしなければ)主人公も知るものとなります。

2012/11/15 妹達の実体具現化の姿決定の後に、妹達の扱いについて追加。
2015/02/10 後書き 妹達が報告すれば→妹達が秘密にしなければ に修正

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