青の悪意と曙の意思   作:deckstick

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無印編16話 積極的乖離

「3人に質問だ。

 宝石や貴金属の換金は、誰が得手としている?

 色々な伝手のありそうな3家だからな。一番穏当な所に頼みたい」

 

 部屋の中は、数組に分かれて大騒ぎ中。

 お姉様は喧騒の中からアリサ・バニングス、傍観組から月村忍と高町士郎を連れ出した。

 目的は、怪しい表現をすれば“大人の会話”のため。

 

「うちの両親は会社経営だし、系列に宝石や貴金属の会社もあったと思うけど……何でそんな事聞くのよ?」

 

「お金が欲しいのかい?

 確かに、働くという選択肢を取るには、年齢が問題となりそうな外見だけど」

 

 バニングス家は手広いグループを展開している。

 その伝手は有効そう。

 高町士郎は、あまり伝手を使うつもりは無い?

 現実の考察を優先した模様。

 

「外見的にも立場的にも、働くという手段も自分で何かを売るという手段も取れなくてな。

 私は所詮モノで身分など無いし、アコノも下手に貴重品を扱えない年齢や立場だ。

 それでも、買い物をしたいから現金が欲しくてな」

 

 お姉様や主による、正当な手段での現金入手は早々に諦めた。

 でも、知人達の前で堂々と使用できるお金も必要と言うのはお姉様の判断。

 

「モノ? どう見ても人間じゃない」

 

「ああ、この姿では実感できないだろうな。

 私の普段の居場所はアコノの本棚で、本来の姿はこっちだ」

 

 アリサ・バニングスは、魔導具と言っていたのを理解してない?

 しゅん、と軽い音を立てて、お姉様が紅い本の姿に。

 主の部屋で目覚めてから、主の部屋以外で見るのは初めて。

 

「えーーーー!?」

 

「本……なの?」

 

「どう見ても、本、だね」

 

「本と会話するというのもシュールすぎるからな。

 周囲に魔法を見せてはいけない他人が居ないのならば、人の姿の方が話しやすいだろう?」

 

 アリサ・バニングスは叫び、月村忍は唖然とし、高町士郎は落ち着いて見ている。

 高町家の順応力がおかしい。

 再び、しゅん、と軽い音を立ててお姉様は人の姿に。

 

「というわけで、身分を証明する物や戸籍の無い私や、足が不自由なアコノでは、自由になる金を用意するにも真っ当な方法では色々苦労するわけだ。

 もちろん、借りを作る気は無いからな。鑑定の手間や費用もかかるだろうから、手数料として何割か持って行って構わん。ビジネスとして依頼したい」

 

「確かに、お金の準備は難しそうね。

 だけど、宝石は何処に?」

 

 月村忍は、換金する物の出所が気になる模様。

 

「眠る前に、研究素材として色々と持っていた物がある。

 ダイアモンドやらの宝石はそれなりにあるぞ?」

 

「なら、私が買いましょうか?

 市場で売るよりも高く買うわよ」

 

 月村忍の、本来は有り難そうな提案。

 でも、この件に関してはあまり有り難くない。

 

「自分が欲しいから買うというのであれば構わないが、高く値付けしたいからという理由ならやめてくれ。

 それをされると、次から頼み辛くなる」

 

「下手に貸しや借りを作るよりも、金額が少なくなっても再依頼がしやすい方法が良いという事だね?」

 

 高町士郎は理解してくれた。

 後々が大切。

 一度で終わると思ってない。

 

「なるほど、そういう事ね。

 なら、一旦私が預かって、私からの依頼って事でアリサちゃんの方で鑑定をしてもらいましょうか。

 その方が話を通しやすいでしょうし、欲しがる人がいそうなら私の方で買いたいし。

 買いたいものが特に無ければ普通に市場に流すって感じで。

 アリサちゃんもそれでいい?」

 

「いいわよ。それで、買い物って何を買いたいわけ?

 両親の会社で扱っている物なら、少し安く買えるわよ」

 

 一番無難な感じで落ち着いた。

 ついでに新しい購入ルート開拓の気配。

 

「主に食料だな。

 私の感覚では20年も日本を離れていた上に、その間の食事は今で言うカロリーメイドとボカリスエットの味を壊した様なものだった。

 栄養は十分なんだろうが、不味いから楽しみの欠片も無くてな。

 米やみそ汁や牛丼やハンバーガーやお菓子やケーキや、その他諸々が喰いたくてたまらん」

 

 実際に食べた事があるのは、お姉様と秘書(セクレタリー)、それに初期の数人程度。

 味と共に、食べてみて後悔した記録が存在。

 宵天の情報から再現した料理が救い。

 地球の実際の料理も食べてみたい。

 色々な意味で、お姉様の表現に全面的に賛同。

 

「あんた……貧しい生活をしてたのね」

 

「それなら、たまに遊びに来るといいわよ。

 アリサちゃんやなのはちゃんもたまに来るし、色々と御馳走するわ」

 

「それなら私達がやっている喫茶店にも来るといい。

 娘の事では随分と助けられた。その礼も兼ねて御馳走するよ」

 

 凄く同情された。

 嬉しいのに嬉しくない。

 

「それは有り難いが、店で飲食する場合の料金は払うぞ。

 その代り、転生者対策やらで長居する事も増えそうだからな。そっちを見逃してくれると助かる。

 そうだ、うちの従者に料理を教えてやってくれないか?

 あれの他にも従者が居てな、私の話を聞いて地球の料理を楽しみにしているらしいんだ。

 私も入り浸るわけにはいかんしな。

 対価として従者を1人ずつ、労働力として提供しよう。

 基本的に食事や睡眠も可能だが必要ではない連中だ、人を雇う際の基本的なコストはほぼ無視できる。

 そいつを働かせるついでに、対価として料理を教えてやってほしい。

 真面目で、料理の研究やらも色々やっていた連中だ。最初はともかく、ある程度仕込めば使い物になるだろう。

 それに、私達は携帯電話も持っていないから、連絡係も必要だろう?」

 

 お姉様、ナイス判断。

 料理、料理。

 

「なるほど、いいわね」

 

「そうだね。なのはや魔法の事で相談する時にも役に立ちそうだ」

 

「いいの!?

 いえ、いいならいいんだけど」

 

 アリサ・バニングスうるさい。

 せっかくのいい話、ふいにしたら敵認定。

 お姉様と月村忍と高町士郎がんばれ。

 

「本人達がいいと言っているんだ。問題ないだろう?」

 

「そうだね。

 無償でと言うのは気になるから、何らかの方法は考えるよ」

 

「そうね。小遣いを渡すことくらいは許されるでしょ?」

 

「よし、決まりだな。チャチャ、2人よこせ」

 

 やった。

 業務内容は、協力者に対する家事労働力の提供。

 ついでに、協力者との連絡役、協力者の護衛及び情報収集。

 対価として現代日本の家事関連技術習得。特に料理に関しての知識と技能。

 希望者は、

 はい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

(うるさい! 何人が叫んだんだ!?

 個別に誰がってのは気にしなくていいんじゃなかったのか!?)

 

 料理の技術が大人気。

 料理に真っ先に触れられる優越感は捨てがたい。

 

(ああもう、誰でもいいからさっさと2人来い!)

 

 怒られた。

 現在全体的に業務過多。

 任務の再割り当て、急いで。

 別荘の管理者が比較的開けやすい。

 食事関連を扱う役目的にも適任。

 ぶー。

 お姉様の傍にて基本形態での実体具現化を開始。

 

「お初にお目にかかります。

 お姉様の命により、月村忍様のお手伝いをさせて頂くことになりました。

 月村家のチャチャ、またはチャチャとお呼び下さい」

 

「お初にお目にかかります。

 同じく、お姉様の命により、高町士郎様のお手伝いをさせて頂くことになりました。

 高町家のチャチャ、またはチャチャとお呼び下さい」

 

「あら、可愛い」

 

「そっくりだね。双子かな?」

 

「あんたの従者ってのは、頭にアンテナっぽいのが付いてるのがお約束なの?」

 

 実体具現化完了。

 補助リンカーコア装置を外し忘れてる。

 慌て過ぎ。

 でも、問題無さそう。

 魔法と、月村家メイドのおかげ?

 

「私が初めて見た時には、この姿だった。

 アンテナは……確か消せたな?」

 

「問題ありません」

 

「店や人前に出る際には外します」

 

 でも、アンテナじゃない。

 

「よし、問題ないな。

 この姿は、恐らく原作の姿を模したという事だろう」

 

「原作?

 本来いない人物だって言ってたじゃない」

 

 お姉様、説明を飛ばし過ぎ。

 アリサ・バニングスが理解できてない。

 正確には、全員理解してない。

 

「ああ、この物語の人物ではないという意味だ。

 どうも違う物語の登場人物の姿や能力に近いものになった様でな。

 私を見てエヴァンジェリンと言ったり、アコノを見て近衛木乃香と言ったりする者が居たら、そいつは転生者と見ていい。

 あっちのチャチャマルも、茶々丸というガイノイド……ロボットみたいなキャラクターに似ているし、こっちのチャチャは茶々丸の姉妹機とほぼ同じ外見だ」

 

「へー。で、あんたは何を望んだのよ?

 転生の時に特典みたいなのを貰ったんでしょ?」

 

 アリサ・バニングスが、特典を気にしている。

 転生特典という摩訶不思議な代物は、やっぱり気になる?

 

「吸血鬼の様な能力だ。

 要するに、長寿だの従者だのと言った部分がそうらしいな。

 人外という点では、本になったのもその一環かもしれん。

 ああ、血は飲まんから、そこは安心していいぞ」

 

「それだけじゃないわね?

 複数あるって言ってたし」

 

 月村忍も食いついた。

 転生特典、大人気?

 

「多くの知識も要求した。

 仲間が色々資料を残してくれていたからな。それが該当するのだろう。

 質や鮮度はともかく、量は確かに多いからな」

 

「……それだけ?」

 

「なんだその眼は」

 

 アリサ・バニングスが、何だか疑いの目で見てる。

 

「それだけじゃなくて、何か隠している目をしているって事よ?」

 

 月村忍も、似た目をしてる。

 聞き出すまで納得しない感じ。

 

「…………多くの友人、だ」

 

「へー……意外に寂しがり?」

 

 アリサ・バニングスは、本当に意外そう。

 

「し、仕方ないだろう。

 吸血鬼の様な能力を要求した時点で、人外は確定だ。

 孤独な最強は避けたいと思っても……何だその子供を見る様な目は!」

 

「だって……ねぇ?」

 

「アコノちゃんへの拘りを考えると、予想出来る事ではあったと言うべきかしら?」

 

 アリサ・バニングスと月村忍が結託した。

 なんだか、高町士郎も似た目をしている。

 

「なっ!? わ、私は決してそんなつもりでは……!」

 

「大丈夫、分かってるわよ」

 

「心配しなくても、外見相応じゃないかしら?」

 

「なっ……」

 

「エヴァ、諦めるべき。

 下手に反論をして、自分で傷口を抉る未来しか予想出来ない」

 

 主が参入。

 主の意見に、全面的に同意。

 

「……くっ」

 

「それより、今後の相談が必要。

 私やなのはの魔法訓練の場所や方法とか」

 

 主の助け舟。

 お姉様は、傷口を抉りたくないなら乗るしかない。

 

「……そうだな」

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 それから軽く打ち合わせをして、ついでに前金だと言いながら高町恭也の膝を完治させた後。

 お姉様は高町家と月村家のチャチャ2人と共に、別荘へと戻ってきた。

 主は八神はやてのいる部屋へ。

 高町家や月村家、それにアリサ・バニングスは今後の打ち合わせをする模様。

 主と交代で戻ったファリン・K・エーアリヒカイトを含め、全員で話し合い中。

 

「さて、昨夜のジュエルシード封印から色々あったが……オリ主様の方はどうなっている?」

 

 ギル・ガーメスは、原作に関する記憶を思い出した模様。

 既に翠屋の位置を特定、店に行くために家を出て移動中。

 高町家は全員家族旅行中。

 行動を考えると、明らかに原作娘狙い。

 

「やはり、そういう行動になるのか……面倒な阿呆が介入してくる事は確定か。

 高町家に行くチャチャは、厄介なのやつが絡んでくることを警告しておいてくれ。

 ついでに、写真も持って行っていい」

 

 現在確認済みの、全員の写真を準備済み。

 警戒対象ではなく、案内対象も含むため。

 月村家への提示分も用意済み。

 

「準備がいいな。他に動きは?」

 

 真鶴(まなづる)亜美(あみ)……保育士の“あみ”より連絡。

 今度の土曜の11時頃に、駅に近い喫茶店で会う事に。

 

 新たに、転生者と思われる少女を発見。

 名前は夜月(よつき)ツバサ。小学3年生の少女。外見はネギまのアンナ・ユーリエウナ・ココロウァそのもの。

 アーニャと言った方が伝わりやすいと予想。

 塾への移動中と思われるところを、偶然捕捉。

 魔力量は辛うじてAに届く程度。

 やはり魔力量が相当多くないと、発見が困難。

 様子がおかしい。人間不信?

 原作への関与の気配は無い。むしろ他人との関与自体を避ける傾向。

 

「……助けられるものなら、助けた方が良さそうなタイプか」

 

 原因が特定できれば、対策もとれる。

 機会があれば、接触を試みるのもありかもしれない。

 但し、相手は人間不信の可能性。接触は慎重に。

 

「そうだな。

 ようやく俺様じゃない転生者が見付かり始めたと思ったら、こうなるのか。

 やるせないな」

 

 これが現実。

 戦わなきゃ、現実と。

 緊急追加報告。

 新たなサーチャーを確認。

 隠蔽のレベルは、アルフや猫より下。

 タイミング的に、管理局到着の気配?

 決められたコースを辿る様に移動している。

 アースラによる偵察の可能性が高い。

 

「もうすぐ到着か。となると、すぐに次元震だな」




ここまでが温泉イベントです。
10話から16話まで、僅か2日間の出来事です。
そして、はやてと温泉が空気になりました。はやてと来た温泉旅行のはずなんですが。




通常営業の木曜日、普通に本編を公開です。
三箇日連続更新です。無茶しました。
明日ですか? ……どうでしょうね?(笑)


2013/01/04 以下を修正
 身分や戸籍の無い→身分を証明する物や戸籍の無い
 別荘の役目的にも→食事関連を扱う役目的にも

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