青の悪意と曙の意思   作:deckstick

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無印編22話 探究心も程々に

 それからしばらく、主と長宗我部千晴はのんびりと雑談。

 主への思考支援は雑談になった時点で終了済み。お姉様と同様に、頭痛を感じる模様。

 元の世界とこの世界の違いとか。

 原作と関わらないために翠屋を避けていたけど、もったいなかったとか。

 転生者同士としては、割と普通と思える会話。

 感情が無くても普通に会話できるせいか、長宗我部千晴もどことなく安心した雰囲気に。

 緊張もある程度解れたと判断、お姉様が転移で戻ってきた。

 

「さて、そこのネズミは後で話をするとしてだ。

 千晴、制限するのは魔力の探知だったな?」

 

「ああ。何とかなりそうか?」

 

 長宗我部千晴の目が期待で輝いてる。

 最初から無理と判断されなかっただけでも、期待が高まっている模様。

 

「とりあえず、妨害用の結界を張ってみようかと思う。

 その前提条件になるが、魔力はあるか?

 探知妨害の特典のせいか、調べてもよく分からん」

 

「ユーノの助けてって声は聞こえた覚えがあるから、リンカーコアはあるみてーだ。

 どれくらいあるのかまでは……」

 

 今度は長宗我部千晴も覚えてた。

 でも、量は不明。

 どうやって調べればいいんだろう。

 

「それなりにありそうなら問題ない。

 とりあえず、このミサンガを付けてみろ。かなり簡易的だが、魔導具の一種だ。限定的なストレージデバイスと言った方が分かりやすいか?

 使える魔法は探知妨害の結界のみで、強度も固定だ。その代り、魔力持ちが持っていれば、その魔力を使ってほぼ常時発動する」

 

「あ、ああ……こんな短時間で用意したのか?」

 

 長宗我部千晴は唖然としながら、ミサンガを腕に付けた。

 その直後、その表情が驚愕に変わる。

 そして、嬉しそう。

 むしろ泣きそう。

 

「ああ……凄いな、これ……マジで分からなくなった」

 

「所詮は簡易版で仮封印に近いものだ。

 それに、耐久性は普通のミサンガと変わらん。

 どうせ魔法の練習をしろとでも言われただろう?

 それが使い物になる間に、その程度の結界は自分で張れるようになれ。そうすれば、自分で調べる範囲やらの制御も出来るようになる。

 ベルカ式でよければ、練習用に簡単なデバイスも作ってやるぞ?」

 

「そ、それは……いいのか?

 いや、嬉しいんだけどよ、大して返せるもんはねーぞ?」

 

 雰囲気的に、長宗我部千晴が小躍りしそう。

 笑みが全然隠せていない。

 

「何かあったら協力してくれ。とりあえずはその約束だけでいい」

 

「同じ転生者、この世界に対する愚痴を言える相手は貴重だと思う」

 

 お姉様が提示した簡単な条件に、主がちょっと追加。

 要求はしていないけど、仲良くしようと提案しているのと同義。

 

「ああ、それもあったな。他の転生者は程度が悪すぎる。

 ようやく会えたマトモそうな相手だ、その意味では逃がさんぞ?」

 

「そ、そうか……そんな事でいいなら、こっちも願ったりだ。よろしく頼む」

 

「魔法の練習は、高町家の道場を借りてある。

 なのははもうアースラに行っているが、いつでも来るといい。

 デバイスは色々と説明もあるから、練習に来た時に渡そう。

 さて、千晴はこれでいいとしてだ。

 そっちのちくわぶは初めましてだな」

 

「初めまして、エヴァ様。チクァーブでございます」

 

 やっとチクァーブが喋った。

 空気を読むネズミ。

 凄い違和感。

 

「元ネタはちうたんアーティファクトのおでんダネ電子精霊だろう?

 まあ、それは置いておくか。お前達は、今後どうしたい?」

 

「あー、私は、出来れば普通に暮らしたいんだけど……無理か?」

 

 無理。

 間違いない。

 

「他人とは明確に異なる力を持ち、原作という限定的な未来の知識持ちでもあり、同時にここを物語の中だと認識してしまう異常思考持ちでもある。

 普通の一般人として過ごすのは、難しそう」

 

「ぼろを出さない自信があるなら、自力でやってみるといいさ」

 

 主は考察がそのまま口に出てる。

 容赦ない。

 お姉様も追い打ち。

 

「……わりぃ、無理だ」

 

「だろうな。ここにいる時点で、既に音を上げているんだ。

 一応、私も静かに暮らすことを目指したいのだが……闇の書があるなら助けたい人がいる以上、それを何とかするまでは静かに出来んらしい」

 

「助けたい人、でございますか?」

 

 ネズミの首が曲がってる。

 チクァーブは、首を傾げてる……?

 

(済まないが、アースラの監視があるから、フェイト、はやて、夜天、リインフォース、それにグレアムとリーゼの名前は口に出さないでくれ。

 まだ、管理局としては動いて欲しくないんだ)

 

 身内以外には初めて使うかもしれない、お姉様の念話。

 おや? 2人の表情が……

 何とか維持した。

 前世の分の経験や知識は伊達じゃなかった。

 でも、また闇の書の名前が出て、ハラオウン親子の表情が引き締まった。

 何処まで情報を聞かせるか、要注意。

 お姉様への思考支援を開始。

 がんばる。

 2人への思考誘導も、好奇心を若干高める程度の水準で開始。

 効果が無くて元々、本人もおかしいと気付かない程に留める。

 良い質問が出る事を期待。

 

「ああ。直接会ったことは無いが、間接的に色々と助けてもらった相手だ。

 この世界が原作の2作目も忠実に再現するなら、最終的に闇の書と一緒に消滅してしまうからな。

 なのは達にも悲しい思いをさせる事にもなるし、私個人としても助けたいんだ。そうすると、闇の書を何とかする必要があるだろう?

 それに、中途半端に2作目を含む場合、奇跡無しで闇の書事件が発生する可能性もある。そうなれば、日本が滅ぶ可能性はかなり高いからな。流石に、それは避けたい」

 

「あ、ああ……アレか……要するに、最後に全員でフルボッコにしたアレを何とかするって事か?」

 

「クリスマスに全員でフルボッコにした上でアースラのアルカンシェルで吹き飛ばしたアレを何とかすると言った方が、より正しいはず」

 

 主の誘導。

 というか、どこまで言っていいかの例示?

 お姉様の指示の範囲内。

 だけど、長宗我部千晴は、A’sの知識もある?

 原作知識の範囲が掴めない。

 

「つまり千晴様は、今回の件で悩みを解決出来ていなければ、闇の書と守護騎士、それにアルカンシェルにも怯えなくてはならなかった可能性が高いという事でございますな?」

 

「な!? ……そ、そういえばそーなんのか……相談にきといて良かった…………

 アルカンシェル、あんた達が介入してもやっぱ使う必要あんのか?」

 

 長宗我部千晴のうっかりが更に浮き彫りに。

 これは、お姉様以上。

 でも、質問の内容はとても良い。

 

「今のところは分からん。そもそも闇の書事件が発生するかも分からんし、仮に発生しても、闇の書の暴走を回避出来るのならしたいからな。

 まあ、最悪の場合でも、原作より悪化はさせん。少なくとも解決の道筋が見えるまで、要するに原作の最終戦終了後の状態になるまで明確な死者がいないことが、死守すべき最低条件だな。原作では主要メンバーは全員生存して戦闘終結だから、こちら側の関係者が死亡した時点で私の失態だ。

 その後の出来事は私の知識や技術、それに何が起きるかを知っているアドバンテージで何とかできるだろうし、してみせる」

 

 一番良いのは、暴走せず、最終戦も無い事。

 夜天が問題なく目覚めて、きちんと修正出来ることが最善。

 でも、今は最悪のケースでの話。

 ハラオウン親子は、戦闘終了まで死者を出さない事が最低条件という点に驚いてる。

 

「ふむ、アレをどうにかして彼女を助けるという事は、犠牲者無しで闇の書の悲劇の終焉を目指すという事でございますかな?

 大がかりで困難な目標でございますな」

 

 チクァーブの、表現もいい感じ。

 名前は出さず、お姉様の指示を守りつつも、適度な情報漏洩。

 

「状況はまだ確定じゃないんだが、結果的にはそういう事になる。

 闇の書はともかく、あいつが消滅するのだけは何とかして避けたいからな。

 だが、闇の書の状態も不明だから、状況は未だに流動的だ」

 

「こんな短時間でコレを準備できるだけの実力があるなら、調べたらすぐ判明しそうなもんだけど。

 できねーのか?」

 

 長宗我部千晴の中の、お姉様の評価が気になる。

 でも、その予想は恐らく正しい。

 但し、不法侵入と猫対策と八神はやてとの関係と言う意味で問題が。

 

「色々と準備はしているが、問題なく詳細な調査が出来る状況に持ち込めていないからな。調査自体が出来ていない、というのが現状だ。

 私は闇の書自体を直接確認した事が無いし、原作で闇の書の主になる人物ともまだ会っていない。

 後の事を考えると友好的に接触したいから、問答無用で押しかけるわけにもいかん。

 最も、今の心配や準備が徒労に終わるなら、それが一番なんだがな。実は闇の書はありませんでした、なんて肩透かしなオチが一番楽なんだ」

 

 お姉様自身は、八神家の様子を見てない。

 むしろ、誰も闇の書との接触はしてない。私達もサーチャー経由のみ。

 八神はやてとは、主しか接触してない。

 夜天がここに居なければ、こんなに苦労してない。

 提案しておいてなんだけど、なんという嘘半歩手前。

 

(妹達。もう一度思考支援をお願い。

 管理局を縛るなら、私も話に参加した方が効果的な気がする)

 

(頭痛は大丈夫なのか?

 まだ痛みは抜けていないだろう?)

 

(大丈夫、だいぶ楽になっている。

 私が管理局を警戒する役をする。

 その方がアースラを縛りやすいし、今後のエヴァの交渉もやりやすいと思える)

 

 主の提案は、主の負荷以外はとても適切。

 今後の交渉を考えると、お姉様は管理局やギル・グレアムをあまり悪く言えない。

 主が原作知識や常識的な面から警戒して、お姉様がフォローするのが最適。

 

(それはそうなんだが……本当に無理するなよ)

 

 主の頭痛は治りきってない。

 先ほどより情報量を抑えて、思考支援開始。

 

「闇の書が実際に存在した場合、管理局に知られて下手な局員が来ると危険。

 蒐集されて闇の書の完成が早まったり、主を刺激して交渉すら出来なくなったりする可能性もある。

 それに、管理局が総力を挙げてという事態になれば、地球で魔法が大々的に使われたり、国と衝突したりしかねない。

 少なくとも、事件発生の確証が無く、解決策も確実と言えるか分からない今はまだ、原作の提督の様に秘密裏に動く方が無難」

 

「原作にも出ていた提督の部下が、たまにこの辺に来ているのは確認している。提督本人が来たことは、私が知る範囲では1度も無いがな。

 部下もやはり下手な手出しはしていない様だが、元々地球との関係が深い連中のはずだ。別の用事でここに来ているだけという可能性も否定はできん。

 ただ……提督が先走らないかは心配だな。氷漬けで永久封印なんて時間稼ぎより良い方法がある以上、そちらを試したい。説得するにも材料が不足し過ぎているから、現状では交渉も出来んし……」

 

「いろいろ変わってるって言ってたしなぁ。私は、被害や結果が悪化しなきゃいいや。

 だけど、提督の方法って、悪手なのか?

 原作でも、確かクロノに論破されてた気がするんだけどさ」

 

「いや、提督が持つだろう情報と手段を考えれば、妥当性はある。

 私が提督と同じ知識と技術しか持たないならば、同じ手段を使う可能性が充分ある程度にはな。

 

 闇の書そのものを完全破壊か無害化する手段が無いなら、動かないように止めておくのは次善策として有効だし、考慮すべきものだ。封印も無害化の一種だしな。

 闇の書の主を諸共にと言う点を無視すれば、今行っているジュエルシードの封印と大差は無い。方法論としては一般的な物に過ぎんよ。最終的にアルカンシェルの餌食になるなら似たようなものだという提督の部下の意見にも、私は同意できる。

 

 永遠は不可能でも、少なくとも封印されている間は悲劇を起こさずに済み、それは多くの命を救う事に繋がると思える歴史がある。

 闇の書の主を捕らえたところで自棄を起こされたら大惨事だし、だからと言って管理局が尻尾を振るわけにもいかんだろう。最初は協力的だったとしても、何年、何十年と特権階級の様に扱われたら、自分は特別な存在だと付け上がる可能性が高いぞ。人は増長する生き物だからな。

 

 提督が裏で動いているということは、今の管理局に闇の書自体を何とかする技術は無いのだろう。であれば、最終的には封印するか、アルカンシェルなりで吹き飛ばして問題を先送りにするかの2択だろうな。主が死ぬと闇の書が転生するなら、主も封印した方が封印可能な期間が延びる。1人の犠牲で、より多くの悲劇を防ぐことができそうじゃないか。

 だが、普通の封印は侵食されてあっさりと破られた過去がある。であれば、もっと強力な封印方法が必要だ。それを模索した結果が、永久凍結による封印だったのだろう。

 凍結封印は暴走開始直前にしか出来ないらしいが、逆に言えば、暴走前に対処できるということになる。暴走中より暴走前に対処した方が少ない被害で済むのは明白だろう? チャージに時間がかかるアルカンシェルに頼る前に、より被害範囲の狭い凍結封印を試みるだけでも理に適っているだろう。だが、そのためには暴走開始を把握する必要がある。その時に闇の書と主が同じ場所にいる必要があるだろうし、タイミングや場所を選ぶためにも、暴走開始を制御できれば理想的だ。

 

 原作の様に、闇の書の主や守護騎士までがなのは達と共闘し、アルカンシェルを使ったのに地球に被害を出さずに済むなど、奇跡でしかありえん。そんな奇跡を前提にした作戦を練る提督がいたら、予言者に転職させるか、最低でも降格が適正だ。それが出来ないなら、速やかに病院で監禁する事を提言するぞ?」

 

「あー、そういう事になんのか……ってことは、クロノの意見がずれてんのか?」

 

「あれは闇の書の主の扱いに対する怒りが大きかったように見えたし、完全に論破できていたわけでもないぞ。

 クロノが主張していたのは、封印が可能なタイミングでは闇の書の主が永久凍結されるような罪を犯していないという点、それに、封印はいくら隠そうがいつか見付けられて破られるという点だったか。これについては、全くその通りとしか言えん。

 だが、未来や目の前の悲劇を少しでも防ぐと言う点について、解決策や代案は無かったはずだ。暴走直前の現場で、対処法を闇の書の主や守護騎士と相談していたくらいだからな。

 

 つまり、法の準拠についての問題、人道的な問題、封印が絶対のものではないという問題について、クロノの指摘は正しい。

 だが、法に反してでも悲劇を減らそうと行動する提督も、私は否定出来ん。提督でありながら管理局にすら情報を明かさず、管理局としては使えない“罪のない者を永久凍結で封印する”という手段を使う罪を自ら背負い、誰にも知らない地へ隠匿して共に時代の闇に消える覚悟で挑んでいる以上、余計にな。

 二律背反とは、こういう事を言うのだろう。

 

 だが、ここには更に私がいる。闇の書事件が現実に発生するようなら、原作以上の奇跡を起こしてみせるさ」

 

「すげー考察と自信だなオイ。

 そこまで考えてるんなら、ついでに聞きたいんだけど……管理局に協力してもらうのはダメなのか?

 奇跡を起こすって事なら、別のやばい手段を使うんじゃないって事じゃないのか?」

 

 長宗我部千晴、ナイストス。

 アースラの動きを縛る、良い質問。

 何だか、2人の質問が予想以上に良質。

 

「相当分の悪い賭けになる。

 正直に言えば、アースラの連中が本当に原作と同じなら、協力してほしいくらいだ。

 実力的にも、人柄的にも、な。

 ただな……」

 

「管理局の表に情報を出すのは危険。

 2人は3作目をどれくらい覚えているか聞いていい?」

 

「いや……私は1作目以外見た事ねーんだ。

 知り合いに好きなやつがいて、そいつが色々喋ってたのは少し覚えてるけどよ。

 チクァーブは?」

 

「勉強の傍ら、横で流していた記憶がございます。

 3作全てその状態でございましたから、大きな流れ程度は覚えておりますが、細かな点等、見逃している点や勘違いしている点も多々あると推測いたします」

 

 長宗我部千晴の、原作知識の曖昧さの理由はこれ?

 チクァーブも、まともには覚えて無さそう。

 

「そうか。それならどう説明すればいいか……」

(済まんが、3作目で登場する連中の名前も出さないでくれ)

 

「3作目を少し説明した方が良さそう。

 舞台はミッドチルダ。なのはも管理局員になっていて、登場人物に管理局関係者が多い。

 その中に、執行猶予期間も過ぎた過去の事件の中心人物について、犯罪者だ、罪が消えるものかと暴言を吐く人物がいる。それは覚えてる?」

 

「わりぃ、私は聞いた事ねーや」

 

「そういえば、武闘派の大物でございましたか。

 それらしい台詞があった気がしますな」

 

 チクァーブは知ってた模様。

 表現もいい感じ。

 

「組織は別だけど、階級的には提督のリンディと同じかそれ以上になるはずだから、かなりの大物。

 罪というのは、本人は何も知らないまま巻き込まれて、知った後は解決する為に管理局に協力した事件のもの。有罪となっている事自体が納得できない。

 仮にそんな暴言を吐くような人物が闇の書の対処に来た場合、闇の書は存在が罪だとか言いながら日本にアルカンシェルを撃ち込む可能性がある。

 それに、闇の書は過去に何度も大きな悲劇を生んでいるはずだから、闇の書を恨む人も多いと思える。闇の書が見付かったと知られたら、すぐに破壊しろという声が大きくなる可能性もある」

 

「ただ、3作目やそのために必要な前提がこの世界にもあるか、それ以前に管理局が原作と同じかも分かっていないからな。

 アースラについては原作同様と思えるが、現時点で1作目との差異も散見される以上、2作目や3作目とどれくらい一致するのか予想も出来ん。その大物がこの世界で実在するかも分からんし、原作通り実在しても地球に来る役職ではないはずだが、陸ではなく海……っと、表現が悪いか。要は地上部隊ではなくリンディの様に宇宙を飛び回る役職に就いているかもしれん。

 管理外世界だからといきなりアルカンシェルを撃つ阿呆が提督になれるとは思いたくないから、そこまで心配しなくてもいいだろうとも思っているがな。

 ただ、残念ながら、私は管理局に対して何の力も無い。そんな連中が実在したら止められないし、大勢の声に押された組織の行動もどうにもできない以上、知られないようにするしか穏便に済むと確信できる方法が無いんだ。広まってしまった情報は消せないからな」

 

「そ、そうか……大変、なんだな」

 

 アースラの動きを縛るはずが、長宗我部千晴の精神にかいしんのいちげき?

 これも一つの、知らない方が良かったことかも。

 

「原作より期間に余裕があるとはいえ、随分と綱渡りせざるを得ないようでございますな。

 もしも闇の書が実在し、厄介な者が担当者として来た場合……対処は可能でございますか?」

 

「穏便には無理だな。闇の書を何とかする事も出来なくなるだろう。

 それに、地上に向けてアルカンシェルを撃たれたら、確実にアコノが巻き込まれる。

 そんな事態は避けたいから、私に出来る事は管理局を壊滅させることくらいか」

 

「か、壊滅!?

 マジでそんな事できんのかよ!?」

 

「闇の書が実在している前提だろう? 最悪の場合は、それを持って本局に殴り込む。

 闇の書が無ければ日本にアルカンシェルを撃ち込む理由が消失するし、本局には大勢の魔導師がいるだろうから、完成して暴走するのも早いだろうな。問答無用で殺そうとする馬鹿なら、自分の手で自分達の本拠地を消し飛ばしてもらおうじゃないか」

 

「うわぁ……」

 

「なかなか過激でございますな。しかし、打てる手はそれぐらいでございますか」

 

 驚いたり引いたり、長宗我部千晴もなかなか忙しい。

 でも、2人ともなかなかいい反応をしてくれる。

 

「私にとっての最優先はアコノだ。アコノに害をなすなら、管理局だろうが知った事か。

 それにこの方法なら、あいつも消滅せずに済みそうだ。少なくとも、私としての最悪の事態は回避できるだろう。

 まあ、色々言ったが、闇の書が存在したら、だからな。

 闇の書事件が現実になるかどうかすら、これからだ」

 

「そ、そっか。平和に済むといいな。

 だけど、仮に現実になっても、私らに手伝えることは無いんじゃねーか?

 どう考えても対立した時の守護騎士やらに勝てると思えねーし、闇の書なんて論外だろ?」

 

「そうですな。我等は電子世界に逃げ込めば蒐集から逃れる事は出来ましょうが」

 

 2人は、自分の立ち位置をちゃんと理解してる。

 悪く言えば、獲物。太った豚相当の役目。

 守護騎士が蒐集に動き、見付かってしまえば、高い確率で美味しく頂かれる。

 

「ああ、戦力としては期待せん。

 自衛しろとも言わん。救助までの時間を稼ぐことが出来れば上出来、私やアースラが守護騎士を捕捉するまで耐える事が努力目標だろうな。

 頑張って、逃げ回れる程度には鍛える事だ。原作通りなら半年近くあるだろう」

 

「ああ……平穏が遠ざかる」

 

 長宗我部千晴はため息をついている。

 そもそも、転生する事になった時点で平穏は遠い彼方。

 但し、お姉様が言っているのは、努力の目標水準。

 そんな事態にはさせない。

 

「心配するな。それが済めば、私も平穏を求めるさ」

 

「おや、ミッドチルダへ行く予定は無いという事でございますかな?」

 

 お姉様の言う“それ”は、闇の書というか、夜天の事。

 終わった後まで原作を追う気は無い。

 チクァーブはそれを正しく認識した模様。

 

「行く意義が感じられん。

 将来的に、地球で過ごす事が困難になったら考えんでもないが……

 少なくとも、私は日本の文化が好きだ。好き好んで他に行く気は無い」

 

「てことは、3作目は不介入か?」

 

 長宗我部千晴は不思議そう。

 今介入してるのに、みたいな感じ?

 

「ミッドチルダの事は、基本的にミッドチルダの人間がやるべきだと思わんか?

 それに、助けたい相手も、倒したい敵も、あっちには居ない。余計な手を出されない限りは、私が手を出す理由は無いな。

 本当に3作目の事件が起こった時に、何らかの理由があれば手助けするかもしれんが」

 

「そりゃそうだろうけど、その考え方だと、アースラが地球に来てるのはどーなんだ?

 ジュエルシードとか闇の書とか、思いっきり地球の出来事なんだけどよ」

 

「ジュエルシードは元々ユーノと管理局の問題で、地球は巻き込まれた側だ。

 闇の書は、原作同様ならリンディとクロノは個人的な因縁があるはずだからな。無関係とは言えないだろう?」

 

「あー……誰か死んでたんだっけ?」

 

 やっぱり、長宗我部千晴の原作知識は微妙。

 それとも、クライド・ハラオウンの名前や立場を出すのを避けただけ?

 

「原作知識的には、リンディの夫でクロノの父親のクライドだな。11年前に闇の書を道連れにアルカンシェルで吹き飛んでいるはずだ。2人が闇の書に対して思う所があるのは当然だ。

 それと、この時にアルカンシェルを撃った艦長の使い魔がクロノの師匠だったはずだ。恐らく、責任感や罪悪感から目を掛けた結果なのだろう。

 この辺から変化があって、闇の書事件なんて無かったという結末が一番いいんだが……クロノは原作通り既に執務官になっているくらいには優秀なようだし、あの年齢でここまで努力する理由が他にあるとも思えん。リンディが夫を亡くしている事はなのはとユーノに言ってあるが、違ったという連絡は無いな。聞き辛い内容だから確認していないだけかもしれないが。

 現時点では、闇の書事件の前振りに原作から外れたと確信できる要素が無いんだ。そうである以上、備えをしておきたい。

 まあ、私の立場はこんな感じだ。お前達にも協力してもらうぞ?」

 

 アースラの空気が氷点下。

 闇の書の裏事情を聞いてしまったから?

 敵対は本局での闇の書暴走という未来につながるから?

 知られたくない過去を知られているから?

 それを当然の様に話されたから?

 色々と刺激が強すぎた模様。

 そろそろ思考支援と思考誘導を終了。

 主の状態が心配。

 顔色が良くない。

 

(大丈夫。少し頭が痛いだけ)

 

(だから無理をするなと言っただろう!)

 

「こっちこそ、これから迷惑かけそうだしな。私に出来る事なら手伝うよ。

 協力して、平穏に暮らそう」

 

「ああ、よろしく頼む。

 それで、だ。チクァーブはどうする?」

 

 表立って動ける、普通っぽい友人をげっと。

 小ネズミは……どうしよう?

 

「ふむ、我等も平穏が良いのでございますが……何しろ、人から縁遠い身でございますからな。

 何か手伝えることはございませんかな?

 その見返りと言うのも失礼でございますが、我等も平穏を目指す仲間に入れて頂ければ幸いでございます」

 

「電子精霊、か……何を手伝ってもらえばいいか」

 

「インターネット等での情報収集とか?

 料理のレシピとか、色々調べてる最中。

 それを手伝ってもらう?」

 

 主の提案が、一番無難?

 能力が不明。探る意味でも丁度いい?

 

「なるほど、我等の得意分野でございますな。

 では、千晴様とエヴァ様とアコノ様の友として、情報収集に邁進いたしましょう。

 可能であれば、ミッドチルダの情報も調べられると良いと考えますが、いかがでございますか?

 将来的には移住の可能性も否定出来ないと推測いたします。

 原作のなのは様のように管理局の局員になる方がいらした場合につきましても、治安や利便性の良い住居を探す、地球との文化の差異を調べる等、ささやかな助けとなれると推測いたします」

 

「ああ、それはいいな。

 だが、ミッドチルダは遠いし、通信方法も問題があるだろう。

 それに、あいつが局員になるとしても、移住はまだまだ先の話だ。

 中学校卒業後のはずだから、7年近く先になるか?

 時間はあるから、その辺は追々相談しよう」

 

「了解いたしました。それでは、我等は……」

 

「ちょっと待て。さっきから自分の事を我等と複数形で呼んでいるのは何故だ?」

 

 やっぱりお姉様も気になっていた模様。

 長宗我部千晴を含んでいるとは思えない。

 

「分体がおりますので、複数形が相応かと判断した次第でございます。

 ちなみに、最悪の場合でも分体が1体生き残れば、存在の維持が可能な様でございます」

 

「は? おい、私も聞いてねーぞ」

 

「聞かれませんでしたので」

 

 驚愕の事実?

 原作だと7体いた。予想出来ない範囲ではないかも。

 でも、長宗我部千晴も驚いてる。

 

「分体……分身の様な物?」

 

「そう認識して頂いて結構でございます。

 維持のためのエネルギーが確保出来る限りではございますが、ある程度の数までは、いつでも増える事が可能なようでございます」

 

 ある程度の数?

 あの7体ではない?

 チクァーブの表現から考えると、7よりも多い可能性が。

 

「ほう……面白い能力持ちだな。

 それで、お前はモノを食べられるのか?」

 

 お姉様が流しちゃった。

 気になるのに。

 

(どうせ味方に引き込むんだ。後でゆっくり調べるか、協力時に能力確認とか言って聞き出せ)

 

「ええ、問題ございません。

 この姿では無理でございましたが、人の姿になる事も可能でございます。

 そちらの姿であれば食事も可能である事は確認済みでございます」

 

「はあ!? お前、どんだけ重要な事を言ってねーんだ!?」

 

 長宗我部千晴が煩い。

 むしろコミュニケーション不足を指摘したい。

 

「ふむ、いいだろう、私の電子精霊と協力して、いいレシピを発掘してくれ。

 良い物を見つけたら、お前にも食べさせてやる」

 

「それはとても良い関係でございますな。気合を入れて調査いたしますぞ。

 では、さっそく参りますので、我等はこれにて失礼いたします」

 

 ネズミの姿のまま器用に頭を下げて、チクァーブは長宗我部千晴の携帯電話へと消えた。

 それを唖然とした表情で見送る長宗我部千晴。

 くっくっくと笑っているお姉様。

 お姉様配下の電子精霊達へ、チクァーブの情報を通達。

 協力体制の構築と、チクァーブの監視を開始。

 当面はレシピ発掘に専念。今はまだお互いに信頼できるか、どの程度の能力を持つかの探り合い。

 様々な意味で、いきなり犯罪行為(クラッキング)は任せられない。

 

「流石ちうたん、なかなかいい感じに現実離れしているじゃないか」

 

「あー……いや、なんだ…………平穏は?」

 

 長宗我部千晴は、目が点のまま。

 なんだか雰囲気が疲れ切ってる。

 草臥れた中年サラリーマンみたいな雰囲気。

 

「見た目と人間ではないという事実、それに魔法の存在を受け入れてしまえば、この程度は平穏だろう?

 美味しい料理を食べたいから、ネットで作り方を調べる。

 ほら、一般的な行為だ」

 

「そりゃあ、そうだけどよ……あーもう、何でこうなるんだよ!?」

 

 頭をかきむしっても、髪型が崩れるだけ。

 長宗我部千晴は、未だに魔法に拒否感がある模様。

 闇の書関係より子ネズミの方が大きな衝撃を受けてる様に見えるのは、現実感の違い?

 

「ちうたんになって転生したからだろう。

 いや、ちうたんになる様な要求と素質で転生したから、と言うべきか?」

 

「それを言うなら木乃香はどーなんだよ、京都弁の能天気な天然キャラになるべきだろ!

 どー見ても中身は20年前のアスナじゃねーか、外見もそっちになった方が説得力あんだろ!!」

 

「苦情はジュエルシードに。

 私が得たのはこの結果だけ」

 

 主の主張は正しい。

 でも、長宗我部千晴の主張も、理解は出来る。

 

「感情消失前の性格は木乃香なのかもしれんぞ?

 そういえば、アコノの前世はどんな性格だった?」

 

「天然でおっとりとしたのんびり屋だけどあわてんぼう。

 自分でもどうかと思う事があったから、冷静さを望んだ」

 

「ふむ、比較的木乃香に近い要素だな。

 積極性やら活発さが加われば、木乃香そのものになりそうだ」

 

 でも、今の主からは想像出来ない。

 感情消失の影響が大きすぎる?

 

「そういう問題じゃねー!

 てか、元の性格が影響ってどういう事だよ!!」

 

「そんなに叫ぶな。平穏が逃げるぞ?

 それに、千晴は性格の改変を望んでいないんだ。それなら、元々その性格の素質があったという事になる。

 前世と比べて、自分の考え方や行動に変化や矛盾は無いか?」

 

「なっ!? ……エ、エヴァはどーなんだよ!?」

 

 長宗我部千晴が自分の事を言うのを避けた。

 怪しい。

 心当たりがあるとしか思えない。

 

「私のこの口調は、前の主に矯正された結果だ。

 考え方は、人権の無い時代に貴族共とやりあった結果だな」

 

「貴族とやりあったって……どんだけエヴァンジェリンと同じなんだよ。

 てか、矯正って、前はどんな口調だったんだ?」

 

「もはやはっきりと覚えていないが……一人称が“俺”だった事は確かだ。

 前世は男だったからな」

 

 言っちゃった?

 ばれても、あまり問題は無い。

 隠す気も無い?

 

「は? 性別まで変わってんのかよ!」

 

「魔導具に性別があればだが、そういう事になる。

 おかげで、自分が恋愛をするところが想像できん。

 男に抱かれるなんて、想像するだけで虫唾が走る」

 

「おいおいおい……まさか、心は男だから女が好きだってのか?」

 

「それも無い。触れ合うなら男より女だとは思うが……まあ、その程度だ。

 何より、自分を含めて身近に見た目のいい人物が多い上に、今の私は小娘だからな。

 その辺の女を見ても何とも思わなくなった。

 ああ、アコノや千晴が美人だとは思うぞ?」

 

 お姉様が、長宗我部千晴を口説き始めた?

 こっそりと主も口説き気味。

 

「わ、私もかよ。てか、アコノも黙ってんじゃねーよ!」

 

「私は知っていたし、感情も感じない。

 改めて言われても、特に何も思わない」

 

「くっ……味方がいねー」

 

「そんな感じだから、私やアコノに男を取られる心配は無いぞ。

 男が勝手にこっちを向くのは知らんが、望むなら蹴倒してでも向き直らせてやる。

 もっとも、ずっと幼い私達に言い寄ってくるような変態(ロリコン)とは、付き合わない方が良いだろうとは思うが。

 どう足掻いても、男を取り合うような修羅場にはならんよ。どうだ、平穏じゃないか」

 

「そーなんのかよ!

 いや、言ってる事は分かるんだけどよ……」

 

 微妙な表現だけど、実質的に主も不老だと言ってる事に気付いてない?

 八兵衛もびっくり。

 

(千晴。エヴァに、付き合うことになった相手に悪意があったり、最初から捨てるつもりだったりしたらどうするか聞いてみると、エヴァがどんな人かわかる)

 

「……私が付き合う相手に悪意があったり、最初から捨てるつもりだったりしたら、どーする?」

 

 主の、長宗我部千晴限定の念話。

 お姉様には聞こえてない。

 でも、長宗我部千晴は素直に従った。

 気になる質問だった模様。

 

「そんな人間の屑は視界に入れたくも無いな。

 さくっと排除して終了だ」

 

「相変わらずの過保護者」

 

「過保護とは何だ、泣かれると鬱陶しいだろう!?」

 

「だから助けようと思う辺りが、過保護」

 

「くっ……」

 

 お姉様が主に負けてる。

 でも、過保護なのは事実。

 

「あー、何だ。

 とりあえず、あんた達がいいコンビだって事はわかった」




今度の木曜にバレンタイン企画みたいな顔をして番外投稿予定、その前に22話まで公開する必要があったので、本編を前倒し投稿です。
この後、木曜に「とある少女の日記帳」、土曜に「その夜のアースラ(22.5話)」を投稿予定なのです。


前話~今話はアースラ(リンディ、クロノ、エイミィ)に対する、肝心なところ(はやてやグレアム)を隠した情報提供と牽制がメインですね。
明らかな嘘は言っていませんよ。ギリギリで嘘じゃないとか、誤解を招く言い方はしていますが。
設定(原作&この話共に)と明確な矛盾があったら、作者の力不足かうっかりです。心配だなぁ……
この話もかなり苦労したというか手を入れまくっています。2012年11月中旬頃のバックアップを見たら6500字ほどでしたが、今ではなんと13000字ほどに。最大級というか、多分完結まで最大のままじゃないかと。妹達増量等もあったとはいえ、なんて恐ろしい。

ここからしばらく(27話まで)、エヴァとアコノの発言がとても多い・濃いです。これのせいで、恐ろしいほど遅筆をこじらせてました。ほんと、思考支援(妹達のみでも大歓迎)が欲しいです。
それと、人によってはかなり鬱陶しいと感じる話や流れになっているかもしれません。爽快感が無いのは確かですし。


ああ、ノリだけで馬鹿会話したい。28話は、きっと反動です。
書いていて楽しいちうたん(もどき)ですが、今回は最後の方のみですし。
ある程度ノリで発言できる千晴とアリサは、作者の癒し担当です。2人とも(特にアリサの)次の出番は遠いのが難点。千晴は物語時間で1週間後なのに、話数的には……あぅ。


2013/02/14 主が、長宗我部千晴を→お姉様が、長宗我部千晴を に修正

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