青の悪意と曙の意思   作:deckstick

39 / 162
実質的に、今のアースラの状況説明です。
初の、エヴァや妹達以外の視点……というか、リンディの考察を交えた会話文です。


番外:その夜のアースラ(無印編22.5話)

 ◇●◇ リンディ・ハラオウン ◇●◇

 

 

「だけど、迂闊に動くべきではない、というのも正しいわよ。

 情報が未確定であり、かつ、目標が闇の書の悲劇の終焉に繋がる可能性がある以上、邪魔をするべきではないわ」

 

 ここは、アースラの一室。なのはさん達を招待するために作った、日本風のお部屋ね。

 ここにいるのは私と、息子で執務官のクロノの2人だけ。

 今日の昼に聞いた情報について話をしているのだけれど……盗聴なんてするべきではなかったかもしれないわね。

 

「だけど、闇の書がこの近くにある可能性が高いという事じゃないですか!

 相手は第1級捜索指定のロストロギアですよ!」

 

 あまりにも衝撃的過ぎる内容だったわ。

 クロノにとって、もちろん私にとっても無関係じゃない、闇の書に関する話。

 提督として即座に動くほど確定した情報ではないけれど、なのはさんの話から考えても、有り得ない話と放置するわけにはいかないわね。

 

「ええ、それは分かっているわ。

 だけど、あの子たちの話を纏めると、今、私達が動く理由と余力は無いわ」

 

「だからと言って、完全に放置するわけには!

 なのはの友人が巻き込まれるのを放置する事にもなるんですよ!」

 

「いい? クロノ。今までの発言と状況を纏めるわね。

 まずは、原作と呼んでいた物語についてね。話していた内容やなのはさんの話を聞く限りでは疎かにしていい水準でない事は確かだけれど、それがどれくらい現実と一致しているかも分からないし、すべて鵜呑みにしていいわけではないわ。現に、エヴァさん達も重視してはいるけれど、違いについてかなり気にしている様子よ。

 それに、不確定な情報で動いているエヴァさんやアコノさん達は間違いなく、巻き込まれるというなのはさんのお友達も守ろうという意思はあるわ。その為の行動の中に、私達へ伝えないという事が含まれているの。

 それをなのはさんやユーノさんも守っているという事は、2人ともある程度納得しているはずよ」

 

「しかし、ジュエルシードの時も言われていたでしょう。

 軽視や放置していたようにしか見えないと」

 

「今の時点で管理局として動くとすれば、捜索程度はジュエルシードと一緒に出来るでしょうね。あくまでも未確認の情報だし、すぐに本腰を入れて対処するという事にはならないわ。

 だけど、今の状況で闇の書が見付かってしまえば、本局からの増援を呼ぶことになるでしょう。それは、アコノさんが心配しているような、不用意な介入を招く可能性が高いという事よ」

 

 クロノの言う事も正しいけれど、今の私達はジュエルシードの回収という任務で来ているのだから、当然その任務が優先になるでしょう。

 そんな時に新しい、兼務するには重大すぎるロストロギアの発見の知らせ。

 特に、闇の書は過去に何度も大きな災厄を振りまいてきた代物だもの。それが発見されたとなれば、管理局として全力で対処する事になるでしょう。

 

「それに、私達はエヴァさんやアコノさん達に信頼されるだけの実績を提示出来ていないわ。今の管理局を本当の意味で知っているのは、ユーノさんだけだもの。

 それに、既に提督が秘密裏に動いていて、部下も来ていると言っていたわ。往来の申請を考えると、そうね……闇の書と因縁のある、地球出身者やその子孫をまとめた少数精鋭のチーム、と言ったところかしら? いくら秘密裏にと言っても、まさか、管理外世界への違法侵入を繰り返しているわけではないでしょうし」

 

 秘密裏に動いているという提督は、時空管理局の暴走や管理外世界の人達との衝突を避けるためにも、情報を表に出していないのでしょう。現地との関係や現地への思い入れがある人達を中心に動かせば、不必要な衝突は防ぎやすいでしょうし。

 だけど、罪を背負う覚悟という点は気になるわね。確かに、闇の書の対処は通常の手段では難しいのだけれど……悲劇を防ぐために、その時点では罪のない闇の書の主を永久凍結により封印して時代の闇に葬る、とはね。

 

「ええ、恐らく。

 秘密裏と言うなら関わっている人数も少ないでしょう。他世界の人ではそう頻繁に渡航許可は下りないはずですし、許可が下りても申請自体が不自然になります。

 場所や目的を考えると、人を集める際の基準として地球関係者という条件は不自然ではありません。11年前の事件で闇の書に係わった人物やその関係者は多いですし、それ以前の事件の関係者もいるはずです。条件に合う人を秘密裏に探す事はそれほど難しく無いと思います。

 ひょっとすると、グレアム提督も関わっているかもしれません。裏で動いている提督というのがグレアム提督自身の可能性もあります。

 ただ、僕の師匠についても知っていましたが、リーゼ達やグレアム提督についてはさほど詳しくない様子でした。グレアム提督だと言って良いか微妙です」

 

「地球に関係する提督で、闇の書との因縁があり、責任感も強い……関わりそうな要素は多いけれど、そうだと言い切る事は出来ないわね。判断は保留にしておきましょう。

 とにかく、こんな曖昧な情報のまま情報を出してしまえば、動いている提督やエヴァさんの動きを邪魔する上に、不要な危機を招く事になってしまうのは確実ね。本当にエヴァさん達が悲劇を平和的に終わらせることが出来るなら、無闇に動くことは良くないわ。

 もしグレアム提督も関与しているなら、話し合いの舞台を用意する事ぐらいは出来るかしら。違ったとしても、交流のある人物がチームにいるかもしれないし」

 

 だからこそ、エヴァさんは私達への情報提供をしていないとも考えられるわね。

 提督の事も法的な問題を除けば妥当と評価しているし、前提条件が違う事をきちんと説明して説得する事も考えている様子だったわ。

 アコノさんが心配していたように、話が表沙汰になれば早急に解決する事を求められるでしょうし、エヴァさんにその声を押しとどめる事は出来ないわね。そうなった時には管理局の実力者との協力は欠かせないわ。だからこそ、確信できていない今は私達に闇の書の存在を知らせず、説得できるだけの材料を揃えてから私達や動いている提督と交渉するつもりなのでしょう。

 

「それに、日本が滅ぶのは避けたいようだし、協力が必要な時に話すと言っていたのだから、現時点での危険性はそこまで高くないのでしょう。闇の書の主になる人物と会っていないと言っていたし、まだ主になっていないという事は、本格的な活動は始まっていないという事よ。

 今はまだ闇の書が無いのかもしれないけれど……動いている提督がいるという事は、この可能性は低そうね」

 

「場所の目星も付いているようでした。少なくとも、原作で示されていた場所の特定は終わっているはずです。

 障害となっているのは……やはり、僕たち管理局、でしょうか?」

 

「そう考えるのが自然ね。少なくとも、理由の1つではあるでしょう。

 だけど、私達が原作と同じなら協力したいとまで言っていたのだもの、今はジュエルシードに集中して早く解決してほしいと思っていそうよ。

 それに、最終戦の事も言っていたでしょう?」

 

 だからと言って、手をこまねいて見ているわけにもいかないわね。

 実は手遅れでした、なんて事になるわけにはいかないもの。

 

「ええ。アルカンシェルで吹き飛ばした、と。

 それならば、確実に管理局の協力が必要なはずです」

 

「少し違うわ。アースラのアルカンシェルで、と言っていたのよ。

 だけど、今のアースラにアルカンシェルは搭載されていないわ。

 搭載に必要な期間は知ってる?」

 

「設備の状況にもよりますが、通常は試験を含めて1週間から2週間だと聞いています。

 数日で搭載したという話も聞いた事はありますが……かなり特例のはずです」

 

「闇の書事件は半年近く後と言っていたわ。今は4月の終わりだから、9月頃かしら。

 仮にジュエルシードを集め終わるまでに2か月かかっても、充分間に合うわね

 私達の今の任務がジュエルシード関連である以上はここから動けないから、現時点で闇の書の存在が公になったら、確実にアルカンシェルを搭載した艦が増援に来るでしょう。それを防ぎたいという事は、私達と提督以外の介入を望んでいないとも取れるわ」

 

「確かにそうですが、搭載していない事を知らない可能性もあります」

 

「アルカンシェルを使うのはクリスマスとも言っていたわ。少し調べてもらったけれど、12月の終わりにあるお祭りみたいね。

 発生や解決のタイミングが同じであれば、最悪の場合でも事件が発生してから急いで搭載しても間に合うわ。闇の書への対処であれば優先してもらえるでしょうし、その頃にアースラの整備で10日程の休暇の予定があるわね。

 アースラにアルカンシェルを搭載するとすれば、この時かしら?」

 

「ですが、エヴァンジュ達も原作の知識がどこまで有効か分からないと言っていたように、手遅れになる可能性もあります。

 ロストロギアの犠牲者をむやみに増やすような真似はできません!」

 

「ええ。だけど、エヴァさんは助けたい人がいると言っていたわ。

 原作で助からない人を、助けたいと」

 

 これに関しては、消滅するとエヴァさんが言明していたのよね。

 最終戦終了まで死者がいない事が最低条件で、それは原作と同じという事なのだから、戦闘中の大魔法やアルカンシェルに巻き込まれるわけではないという事。戦闘中の負傷で亡くなるなら、消滅という表現にはならないでしょうし。

 問題は、その後。何があって消滅する人物がいたり、闇の書の悲劇が終焉を迎えたりするのかだけれど……

 

「ですが、エヴァンジュが言っている事が正しければ、2500年前から眠っていたはずです。

 そんな彼女が助けられた女性など、今でも生きているものでしょうか?」

 

「そこが分からないのよね。

 恐らく最終戦と言っていた戦いが闇の書との決戦でしょうし、闇の書をアルカンシェルで破壊したのでしょう。他にアルカンシェルを使わなければならない程の相手は居ないでしょうし。

 だけど、それでは悲劇が終わらない。すぐに転生して別の場所に現れるという事を私達は知っているし、エヴァさん達が知らないとは思えないわ。

 そうすると、戦闘終了後に犠牲者が出るのは転生先の場所という事になるけれど……」

 

「しかし、エヴァンジュ達の話では、女性を犠牲にして闇の書の悲劇が終わったと取れます。

 その女性の犠牲を防ぎたい……転生先にエヴァンジュの知人がいる? いや、それだとなのはが悲しむ理由が……まさか、それがなのはの友人?

 だけど、犠牲者と言っていたが、命に係わる状況に陥る立場、つまり死にはしないとも取れる言い方も……それに、助けたい人となのはの友人は別人の様な口ぶりだったし、魔力の制御は完全に素人だったとレイジングハートも言っていた。大昔にエヴァンジュを助けたことなどあるわけが…………

 となると、消滅するのは闇の書と守護騎士か? 敵対している相手にも同情するなのはなら、悲しむ可能性も……しかし、アルカンシェルでも消滅させられない事は歴史が証明しているし、闇の書の力も破壊以外に使われた記録は無かったはず。エヴァンジュを色々と助けたと言う話とは結び付きにくい…………」

 

 レイジングハートが提出してくれた記録を見ると、エヴァさんは助からない人を助けたいと言っていて、その際にアコノさんはなのはさんのお友達に仲間意識を持ったからだと言っているだけ。

 別人の様に思えるけれど、本当に別人なのかしら?

 最終戦でなのはさんと一緒に戦うと言っていて、それだけの才能を持つと称賛もしているのに、具体的な実力や3作目での扱いに触れていないし……

 

「なのはさんもいたし、優しい言い方をしたとも考えられるわね。

 レイジングハートの記録を見ても、別人と思える言い方をしているけれど、それを否定する発言も無いわ。エヴァさんが助けられたという話との齟齬は解決できないけれど、闇の書や守護騎士に助けられたという奇跡と、どちらが現実的かしら?」

 

「まさか……過去の人物の記憶や能力が、なのはの友人に?

 その記憶や能力が犠牲になるという意味合いであれば、別人の様な言い方や消滅という表現も説明が……だけど、制御が素人という事は説明できないし、管理外世界でそんな人物が生まれる可能性は……」

 

 クロノも、いろいろ考えてくれているけれど、何だか空回りね。

 確定できる情報が無い以上、机上の空論なのは間違いないのだけれど。

 

「本格的な活動を行っていない闇の書の場所が分かる事が、既に奇跡的な出来事よ。

 可能性の問題は、あまり重視しすぎてはいけないわ。

 だけど、考えれば考える程、辻褄が合わない部分があるわね。

 ある程度理解した上での会話を聞いているだけだから、前提が抜けているのでしょうけれど」

 

 今の私達の、最大の問題がこれでしょう。

 エヴァさん達、つまり転生者達は、原作と言う共通の情報がある状態で話をしているわ。それは、千晴さん達との会話を聞いていても嘘じゃない様子だし。

 私達が知らない情報はなのはさんやユーノさんに話した内容で補うしかないのだけれど、あまりにも断片的過ぎるわね。

 

「そうですね、判断材料が少なすぎます。

 それに、エヴァンジュ達自身も言っているように、本当にその知識が正しいとも限りません。そもそも、心配させないための嘘が混じっている可能性もあります。

 闇の書の存在という前提が正しければ、大きな戦力が必要になるのは間違いありませんが」

 

「だけど、闇の書との決戦時の戦力としては、私達、なのはさん、事件に巻き込まれるなのはさんのお友達という事になるのかしら?

 エヴァさんたちの動き次第では、なのはさんのお友達がエヴァさんたちに変わりそうね。

 原作では闇の書の主と守護騎士もという事らしいけれど、そんな事が本当にあり得るのかしら……?」

 

「やはり、情報が少なすぎます。

 表に出せる話ではないですし、時間が無かったので簡単な調査しかできていませんが、やはり現時点の闇の書に関連しそうな情報は見当たりませんでした」

 

「仕方ないわ。提督も秘密裏という事だし、事を大きくするわけにはいかないもの。

 あまりやりたくは無いけれど、エヴァさんとアコノさんに監視を付けないといけないかしら?

 原作について何か話してくれれば、理解するヒントくらいにはなるでしょう」

 

「そうですね。しかし、内容が内容ですから、誰にでも任せられる事ではありません。

 自宅の場所も正確には分かっていませんから、自動監視のサーチャーを学校に配置するくらいが精々です。後は、自動追尾で会話の内容をチェックする程度が限度でしょう」

 

「クロノやエイミィを張り付けるわけにもいかないし、だからと言って、他の人を付けるわけにもいかないわね。当面はそれで様子を見ましょう。

 原作と言えば、プレシアという人物がもっと大きな次元震を起こすとも言っていたわね。

 その人物は調べてる?」

 

 これはこれで問題ね。

 随分前に大魔導師と呼ばれていた人物と同じ名前だけれど、本人かしら?

 

「これは、エイミィに詳細を調べてもらっています。

 実際に動いている少女はフェイト・テスタロッサという名だそうですが、この少女の情報は見当たらないと言っていました。

 大魔導師プレシア・テスタロッサについては、どうも記録が抹消された形跡があるそうです。

 早めに本人かどうか確認できればいいのですが」

 

「そう。事件の黒幕の可能性が高いから、なるべく詳細な情報を集めておいて」

 

「そのつもりです。

 それにしても、こんな辺鄙な世界で、どうしてもこうも重大なロストロギアの事件が重なるのか……」

 

「物語の舞台だと言う話も、笑って流すわけにはいかないわね。

 確かに、普通は有り得ない事態だもの」

 

「だからと言って、放置も出来ません。

 ここは僕達の現実です。悲劇は、防がないと」

 

「クロノ。事件解決に力を入れるのは良い事だけど、出来る事をしっかりとすることも大事よ?」

 

「ですが、このまま放置しては、確実にこの世界は……」

 

「あの過保護気味なエヴァさんが、アコノさんやこの世界に大きな影響が出る事態を黙って見ているとは思えないわ。

 魔力はカートリッジに頼っているみたいだけれど、技術者としての腕はかなり高そうだし、地球と言うか、日本に愛着もあるみたいだし。

 それに、下手に手を出して闇の書を管理局に持ち込まれたら大問題よ。あの様子では本当にやりかねないわ」

 

 アコノさんに相変わらずの過保護者と言われているし、アコノさんを守るためなら管理局を敵に回す事も厭わないと言い切る程だもの、相当よね。

 アコノさんのデバイスもかなり高度な古代ベルカの技術を使っているみたいだし、古代ベルカの技術や知識を持っているなら、聖王教会との交流は有り得るかしら? うまく交流できて、エヴァさんの枷になってくれれば一番いいのだけれど。

 

「確かに……あの執着ぶりは、ちょっと異常と言うか」

 

「元々寂しがりみたいだし、前の主が死んだと言っていたから、その反動もあるのかしらね?

 明確な敵には容赦しないし、無関係な人はどうでもいいけれど、自分に関係する人が傷ついたり亡くなったりする事には耐えられない、と言った感じに見えたけれど。クロノはどう?」

 

「そうでしょうか?

 明確な敵とは言えない相手も、殺して構わないような言い方もしていましたが」

 

「だけど、自分から殺そうとはしていないわ。

 明らかに殺人の罪を犯した人を把握していても、未だに何もしていないのよ?

 無関係な人を殺した人よりも、関係する人に有害そうな人を優先して警戒しているわね」

 

 これも不思議な点よね。

 明らかに人を殺している転生者を、実質的に放置しているんですもの。

 転生者だと断言出来るだけの情報を調べられたのだから、対処する気があるのならば、いつでも出来るでしょうに。

 

「そういえば、確かにそうですね。

 ミッドの事はミッドの人がやるべきだと言っているのも、その延長でしょう」

 

「そのことに関しては、確かにそうだとしか言えないわ。

 まして、ここは管理外世界。本来は管理局やミッドチルダの事を知っている時点でおかしいのだから、地球に住む彼女達を巻き込む事は本来あってはならない事よ。

 だけど、S+になり得る魔導師には来て欲しいわね」

 

 なのはさん、このままうちに来てくれないかしら?

 エヴァさんは、どうかしら。地球に駐在する現地職員か地方在住の技術者扱いなら、見込みがありそうだけれど……その前に、転生者で魔導具と言う点をきちんと理解しないといけないかしらね。

 

「か、母さん!?」

 

「オーバーSクラスの魔導師なんて、そうそういるものじゃないわ。

 その卵が目の前にいるのよ?

 原作では管理局の局員になるみたいだし、説得の余地はありそうじゃない?」

 

「し、しかし、なのははまだ……」

 

「大丈夫よ。無理に誘う気は無いわ。

 でも、なのはさんはきっと来てくれるわ」

 

「……そうですね。

 ですが、それよりも、電子精霊と言っていた者の対処を先に考えるべきです」

 

 チクァーブさん自身と、エヴァさんが作ったと言っていた存在ね。

 情報の収集と解析と言っていたけれど、何処まで収集できるかで、どれ程の脅威になるかが決まるわね。

 

「そうね。コンピュータに自由に侵入できるのであれば、脅威だわ。

 だけど、今のところはレシピを探すとか、ミッドについても住環境や文化の調査と言っていたわね。

 アンチウイルス……防衛プログラムの事かしら。それを警戒しているという事は、きちんと守られているものには手出し出来ない可能性もあるのかしら?」

 

「あの移動能力を見る限り、出来ないという可能性は信じられません」

 

 やっぱり、クロノもそう思うのね。

 携帯電話の中に入っていたから、コンピュータシステムの中なら自由に動けるという事かしら?

 

「そうね。だけど、今のところは悪用する気も無いようだし……

 エヴァさんが作れたという事は、私達にも作ることができる可能性はあるわね?」

 

「研究を依頼しますか? でも……何と言って?」

 

「そうね、稀少技能(レアスキル)に似た物が無いかの調査依頼と、可能であれば再現……再現?」

 

 再現と言っても、いったい、何を再現すればいいのかしら。

 コンピュータの中に入る事?

 それも、物理的ではなく、情報的に活動できる状態で?

 闇の書の守護騎士に近い存在と仮定しても、低機能の端末に、見た感じでは物理的に侵入するなんて……

 

「エヴァンジュ自身が、ロストロギアに認定される可能性が十二分にある存在です。

 まして、そんな彼女が作った、理論どころか何をしているかも分からないものの調査や再現なんて、そう簡単に出来るでしょうか……?」

 

「うーん……難しそうね。エイミィに侵入や改変の痕跡が無いか、たまにチェックしてもらう程度にしておきましょうか」

 

「そう簡単に尻尾を出すとは思えませんが……」

 

「魔法技術を持たない世界の人が初めて魔法を見る時は、きっとこんな気分なんでしょうね」

 

「……そうですね」

 

 理解も対処も出来ない技術を前にした人の気分、ね。

 管理外世界で、そんなものを知ることになるとは思わなかったわ。

 




かなり頑張っているエヴァ&アコノのタゲ逸らし。
原作は知らないけど闇の書の過去を少し知っているリンディとクロノが、なのはやユーノの証言を聞きつつエヴァとアコノと千晴とチクァーブの発言を拾えば、こんな認識になると思います。
“ロストロギアの犠牲者で、エヴァも守るつもりの、アコノ&なのはのお友達”が“エヴァがまだ会っていない闇の書の主”だとは思うまい。
闇の書について、未確定かつ報告時の危険性が明示された上で協力可能な様子があるなら、管理局に正式に報告するのも躊躇うでしょう。
だが、誰も嘘は言っていない(キリッ)
特に千晴達との会話において、現状の事実を最大限活用してアースラの思考を誘導しています。単純に知恵と情報で勝負ですから魔法じゃありません。魔法抵抗(レジスト)も無意味です。
だけど、明らかな嘘はダメですよ? 後々不利になるので。

そして、標的にされたリンディとクロノ、それに今回は不在ですがエイミィはちょっと可愛そうな事に。
意図的に制限・歪曲表現された情報を渡されていますから、凄く空回りしています。



千晴との会話において、エヴァ側が仕掛けていたのは概ね以下の通りです。

・「原作」という微妙に現実とは異なる未来知識を前提とする
 確定情報ではないので、管理局が大々的に動く理由にするには微妙です。
 STSのカリムと違って実績もありませんし。

・闇の書がない場合という仮定の話を織り込む&存在を断定しない
 原作知識は未確定情報だとより認識させるため。
 「無ければ」という設定での考察ぐらいしてもいいじゃない。
 「闇の書事件」は発生させる気がありません。襲撃なんてやらせるもんか。

・闇の書の主とは未接触と説明
 アコノとはやては友人関係ですが、エヴァは本当に会っていません。
 エヴァが「私は(中略)まだ会っていない」と言っている時、アコノは黙っていただけです。

・「闇の書」と「防衛プログラム」を区別しない
 アルカンシェルで吹き飛ばしたのは「闇の書の闇(防衛プログラム)」であって、闇の書本体じゃないんですよね。アレ呼ばわりしていたので、事情を知らないと混同するでしょう。例え防衛プログラムの存在を知っていても、それだけが闇の書から切り離されて撃破されるとは考えないと思いますよ。

・「闇の書(魔導書本体)」と「管制人格」を分けて扱っている
 闇の書は破壊しても転生しますが、原作A’sでの管制人格の消滅は永遠の別れです。
 そもそも「夜天の魔導書」は大事ですが、「闇の書」はどうでもいいです。

・「裏で動く提督」と「グレアム」も分けて扱っている。
 グレアムは「アルカンシェルを撃った艦長でクロノの師匠の主人」として表現、提督と呼びません。また、わざと曖昧な表現にして良く知らないような顔をしています。

管理局についての発言は原作知識とそれに基づく推測なので、現実との差異は当然、むしろ違っていてほしいというスタンスです。レジアスが来たら本当に撃っても不思議じゃないですし。
「汚物は消毒だ!」とか言わせても、キャラ的にさほど違和感が無いと思いませんか?


そして、うっかり属性持ちの作者がびくびくしながら公開する話でもあります。
なら作るなよ、と言う話もありますが、作っちゃったんです、うっかりと。
何かやらかしてないか怖いよー。


2013/03/15 ジェルシード→ジュエルシード に修正
2013/11/15 無暗→無闇 に修正
2016/04/03 以下を修正
 それををなのはさん→それをなのはさん
 まねは→真似は
 アコノさんははなのはさん→アコノさんはなのはさん

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。