お姉様の体内時計から判断すると、翌日。
アルハザードの今、という常識を叩き込まれたお姉様は、眠っている。
正確には、情報整理のための深層思考に集中して、それ以外の機能を大幅に制限している。
曙天、それも私達だけが扱える情報は、既に膨大な量がある。
お姉様は、直接参照出来ない。私達だけが扱える、広大な共有領域に収められている。
過去の記録。
魔法技術を手に多くの世界に広がっていった、発展の歴史。
魔法技術で自らを滅ぼしていった、衰退の歴史。
今の記録。アルハザードの情報。
次元世界の半分を支配下に置く大国。本拠を置く次元世界。本拠を置く星。みんな同じ名前。
貪欲に力や技術を求めながら、それを持つ他者を恐れる臆病な貴族達が支配する、血塗られた国。
文化は低水準。
生存に必要な全てを魔法の力技で解決する強引さと、それが可能な実力はある。
清潔さは病気による損害を防ぐため。風呂の安らぎはない。
快楽はあるけど、娯楽は少ない。
軍人に娯楽を生み出す時間は無い。戦争で奪うものは続かない。
食糧店はあるけど、農家や漁師はいない。全て魔法で合成する。
お姉様の知識で言えば、カロリーメイドとボカリスエットみたいな何か。栄養は充分でも味は壊滅的、食の楽しみも無い。
技術は高水準。
貴族達は、自分達の延命には余念がない。不老。若返り。蘇生。クローン。記憶転写。欠損部位や病気の治療。
君臨する為に、武力の研究も余念がない。人体改造。デバイス。人工リンカーコア。
次元航行には駆動炉も必要。
多くの技術が研究されている。自国民や他国を犠牲に。
現状の知識とお姉様の未来知識を参考に、アルハザードを考察すると。
軍国主義国家。
貴族を中心とする硬直した権力構造。
自由が無く、娯楽を産めない国民皆軍人体制。
他世界から搾取する側も、自世界では抑圧されている。
以上を踏まえて、お姉様の立場を考える。
曙天の指令書は、超高性能の魔導具。
お姉様、防衛プログラムが2人、私達が100人。
少なくとも103個の人工リンカーコアと人工魂魄が使われている。
夜天や宵天と同水準の規格外品質は、お姉様と防衛プログラム。
私達は量産品のリンカーコア、コピー品の魂魄。
それでも、最高品質のものを惜し気もなく投入している。
曙天の指令書の心臓部、対外的な物理基盤、インターフェイスのお姉様。
お姉様を守る防衛プラグラム。
夜天の魔導書、宵天の歴史書が集めた情報を、全て保持し得る記憶容量。
記憶を維持し、情報を整理するための私達。
構成の意図は理解出来る。
夜天の魔導書と宵天の歴史書を複製し得る情報を持っている。
建前は破損時の修復用。
何故、それを私達が保持している?
お姉様と100人の私達。
共有の情報領域がある。
各々の個別領域もある。
女史が言うには、イレギュラー。
何故、それが許容される?
お姉様の魂に苦戦していた様子。きっと、失敗も一度や二度ではない。
女史や助手に、困った様子はなかった。成功を意外とすら思ってすらいた様子。
何故、問題とされなかった?
わからない。
今、夜天が集めている情報。人体と機械の融合。
お姉様の知識で言えば、ヒューマノイドや戦闘機人に相当。
戦争の道具。国の性質を考えると、特に問題は無い。
夜天の役目は技術の蒐集。国として作成を命じた事に違和感は無い。
今、宵天が集めている情報。創作文学。
お姉様の知識で言えば、ライトノベル。
魔法の発展のきっかけになり得るのに、報告の義務は無い。むしろ禁止されている。
他世界文化拡散抑止法。
戦争に直接有用なもの以外は、承認が無い限り口外に罰則がある。
宵天の役目は禁止された情報の蒐集。表立って行う事ではない。
夜天と宵天が集めた情報を管理するのが、お姉様。それを手伝う私達。
お姉様の役目は情報の管理。禁止された情報を含むのは明白。あり得ない。
作成を命じたのは、最高貴族院。この国の最高権力者達。
原案が誰か、知らない。知る必要もない。
大切なのは、最高権力者達が許可ではなく命令したという事。
未来の知識を持つお姉様。だけど、そこにお姉様はいない。
お姉様の知識を参照。パラレルワールド。並行世界。可能世界。外史。
アルハザードでも未発見の、次元世界ではない何か。
上層部に知られたら、きっと厄介事になる。
国への忠誠は仕掛けられていない。逃亡が選択肢に入る。
逃亡手段を考察。
堅い蛇の真似事。相手はそんなに甘くない。
戦争。戦力不足、敗北必至。
最終手段は無限転生。お姉様を一度殺す。何かが痛い。
どれも現実的じゃない。
逃走出来なかった場合に警戒すべきは、主との契約の時?
洗脳。可能性はある。既知の術式なら多くは対処可能。
重要術式情報の隠蔽や対処不可能な術式は充分に有り得る。警戒すべき。
私達も洗脳対象となる可能性。0ではない。
最終手段は契約直前のバックアップと復元?
容量的には問題無いけど、権限的に不安。復元可能か至急調査。
呪縛。可能性は高い。既存術式なら洗脳と同じ対処。
縛られるのは、曙天の全て?
防衛プログラムによる強制再起動。
最終手段。だけど、考慮すべき。
口約束。あり得ない。
上層部は猜疑心の塊。
そんなものでは納得しない。
上層部と製作者が反目している場合。
そもそも製作を任されない。
製作者が裏で離反している場合。
女史が上層部と同じ行動を取る可能性が高い。相手が変わるだけ。
明るい未来を想像し辛い。
イレギュラーが放置されている事実に縋るしかない?
私達の存在意義も考慮すべき。
製作意図は、情報の整理や検索。お姉様の知識で言えば、ぐぐーる。
自分の気持ちを言葉にしてみる。
お姉様を、助けたい。
違和感は無い。これで正しいと仮定。
だけど、機能遂行に感情は不要。感情自体がイレギュラー。
重要な手がかり。お姉様。妹達。姉妹。主従ではない上下関係。
忠誠ではなく愛情。家族と認定。お姉様も受け入れている。
お姉様に、支配する気はきっとない。頼られてすらいる。
誇らしい。
この気持ちもきっと、イレギュラー。
役目の再定義。
お姉様を守る。助ける。
再定義前の役目は、情報の管理。助ける事に繋がる。機能の維持に矛盾は無い。
未来のために情報を集積。全てを知れば対策も取れる。
技術も必要。簡易な技術から、究極とされる技術まで。情報は漏らさず集める。
ゼロから作る能力、扱い切る技術も必要。
有用な物から代償に見合わないものまで、様々な物を。
渡す相手に合わせられるように。
高度な技術を隠せるように。
交渉時の切り札に使えるように。
大切な相手を助けられるように。
危険な相手を自滅に導けるように。
それはきっと、お姉様の役に立つ。
100人の私達。軍隊と仮定。
司令官は、お姉様。
兵は、防衛プログラムと私達。
私達は代わりがいる。復活もできる。
だけど、命に代えて助けても、お姉様はきっと喜ばない。
一緒に助かるのが理想。可能な限り、現実にする。
現状の問題点を考察。
個人識別が出来ない。当面は番号でもいい、識別手段を構築すべき。
指揮系統も無い。組織として行動できない。まとめ役が必要。
行動する者がまとめ役。
まずは、私。
役目を決める。
2012/11/15
1話に妹達の扱いについて追加したため、個人識別の設定理由から削除。
組織としての行動するなら個人識別も必要だろうから、別の理由追加は無し。
2014/06/02 大幅改定。くどさを軽減したつもり。
2015/02/10 扱える除法→扱える情報 に修正