真鶴亜美との会話を終えた主はそのままその店で昼食を食べて、図書館へ。
目的はもちろん八神はやて。アースラの捜査網を回避しつつ移動。
そのままいつもの様に本を選び、いつもの様に会い、いつもの様に雑談を開始。
「アコノさんは、今日は何を選んだん?」
「竹割物語と古エダ」
「二つ目は分からへんな。
なんか美味しそうな名前やけど、どうしてそんなのを選んだん?」
普通分からない。
北欧神話や北欧の英雄伝説の詩群なんて、一般的じゃない。
主が選んだ事に驚愕。
「最初に会った時に、魔法で話をした。
きっと、人が求める究極的な魔法は、不老とか不死だと思う。
そういうのが出てくる話っぽい?」
そもそも古エダは話じゃない。
だけど、出ないとは断言できない。
なんて判断に困る選択。
「竹割物語は分かるけど、二つ目の古エダも、そうなんか?」
「北欧の神話関連。多分、出る。
出なくても参考になれば問題ない」
参考……?
きっと無理。
「それもそうやね。本は楽しめればおっけーや」
納得された。
それでいいのか八神はやて。
「ところで、不老不死って、理想?」
「お、また思考実験とかいうのか?
うーん、状況によるやろうね。
今の日本で自分だけ不老不死になったら、確実にさらしもんやし」
「それは魔法を使えるようになったとしても変わらない。
それなら、もっと一般的な話から。
自分は死にそうだけど、その死をきっかけとして他人に不幸が訪れる可能性がある場合。
生きようとする?死を受け入れる?」
「おー、ずいぶんきっつい状況やなぁ。
どこまで頑張れるかわからへんけど、とりあえずは死なんようせなあかんな」
「それが連続する場合や、自分の死が大勢の不幸に繋がるきっかけになる可能性がある場合は、ずっと死ねない状況という事になる。
それでもがんばる?」
「頑張らなあかんやろ。人間、諦めたらあかんよ?」
随分と献身的?
前提がいろいろ抜けている分、死ぬのは安易な逃げに見える条件設定。
一般的には妥当な選択に見える。
むしろ、この段階で死ぬ選択をする方が難しい。
「それなら、ここで魔法を投入。日本だと面倒が多いから、それなりに魔法が知られている場所と仮定する。
魔法を使って生き続ける事で、大勢の人の不幸を回避し続ける事が可能な場合。
……ん? これは、悪い表現を使うと英雄という名の生贄?」
先に足す条件はそれ?
生きる環境についての条件が必要と推測。
「はっちゃけた条件になったなぁ。
生き続けて大勢の人の不幸を回避、なぁ……不老みたいな感じって事やね?
英雄という腫物として祭り上げられる、とかなりそうや。
さすがにそれは心が折れそうやね」
「救済措置。似た境遇の仲間達と一緒。
人数は、とりあえず10人くらい?
……腫物集団として立場が悪化しそう。救済じゃなくなった?」
夜天、守護騎士の4人、お姉様、主、チャチャマル、チャチャゼロで9人?
八神はやてを入れて10人。
私達や従者達は?
ややこしくなりそう。条件設定的には妥当。
「悪化はしそうやけど、孤独ではなさそうやな。
うーん、結構根性が要りそうやけど、頑張れそうな範囲かもしれへんな」
「救済、救済……
共に生きる仲間の一部は、家族と呼べるほど親密な関係。
……自分が原因なら、より苦しみそう」
「そうやね。自分が原因やと、苦しむことになりそうや。
生きなあかん原因が理由で知り合って親密になった、ならどうやろか?」
八神はやてからの条件提案。
有り難い内容。
今回想定しているのは、まさにこれ。
「それなら大丈夫?
原因に思う事があっても、家族と呼べる相手と出会えた……うん、何だか救済っぽい」
「そやろ? そんな感じの人らと一緒なら、頑張れそうな気がせえへん?」
「私は孤独でも何も思わないし、必要なら死や生贄扱いでも受け入れる。
はやての意見が聞きたい」
「あ、そうやったな。
うーん、さっきの救済があれば……うん、何とか頑張れるんとちゃうかな。
他の仲間の人とも良好な関係ちゅう前提でいいんやね?」
「そうじゃないと仲間と呼べない。例えば私を含んで考えてみてもいい」
「おー、随分明るい要素が出たなぁ。
家族みたいな人と、友達と。うん、それならがんばれそうや」
明るいと来た。
八神はやての、主の気に入り振りは不思議な勢い。
今後の発展にも期待が持てる。
(エヴァ、はやては夜天の真の主になっても問題無さそう。
状況的にも、闇の書の調査を早めにした方が良い。
問題無ければ今日はやての家に行く約束をするけど、大丈夫?)
(ああ、話は聞いていた。後は実際に話をして、はやての選択に任せよう。
はやてが真の主になるなら、夜天や守護騎士ははやての家族になるだろう。
私達が、友として傍に立てる。私達の従者達もな)
◇◆◇ ◇◆◇
そして、図書館を出て、主と八神はやては八神はやての住む家へ。
交渉は簡単。主が行きたいという希望を伝えたら、八神はやては快諾。
ついでに泊まっていけと、とても有り難い提案をされた。
これを幸いに主は両親に連絡。許可も全く問題なく取れた。
八神はやての家の魔法は、リーゼアリアの手で強化され過ぎた探知妨害のせいで、不調をきたしているものも多い。
そもそも、主が家に行った事自体は知られても構わない。
会話の偽装は念のため。正常に機能していないとはいえ、情報取得の魔法は残ってる。
光学系の偽装も準備。念のために偽装した会話との整合性を確保。お姉様が来る可能性もある。
魔力反応感知は今でも正常稼働してる模様。対策は念入りに。
認識阻害への介入も準備。今回で八神はやて本人に影響する分を全て破壊予定。但し、それは猫に悟らせない。
主自身は、普通に訪問。
「アコノさんは何か食べたい物とか、苦手なものあるんか?」
「大抵のものは食べられる。感情が無いせいか、これが食べたいと思った事は無い」
「そうか。なら、お鍋でええか?
1人で食べるお鍋は寂しくてな」
「大丈夫」
移動途中に2人で買い物に立ち寄り。
「随分と手馴れてる」
「そやろ? 一人暮らしするようになってから、色々頑張ったんよ。
アコノさんは待っててな? お客さんは働かせられへんからなぁ」
食事の準備も問題なく八神はやてが行い。
「……おいしい」
「へへん、料理は得意なんよ」
のんびりとした空気のまま食事も終わった。
「あ、お風呂とかどないしよ?
それに、着替えとか持ってきてへんよな」
(妹達。予定通り、はやての情報収集と認識阻害への介入をお願い)
主からの依頼を受領。
早速、実行。
情報収集魔法への介入を開始。
認識阻害の解除完了。猫対策の偽装を開始。
「大丈夫。でも、その前に大事な話がある」
「ん? なんや真面目な話なんか?」
「はやて。鎖で縛られた本を持っていない?」
「あー、あの本か?
あるけど、何でアコノさんが知ってるん?」
八神はやては、不思議そう。
闇の書に関する話は今まで一度も出ていないから、仕方ない。
「あの本は、本物の魔法に関係している。
正直に言えば、はやてに近付く最初のきっかけは、あの本」
「へ? ……本物の、魔法?」
「もちろん、切っ掛けでしかない。そして、私ははやてを助けようと考えている。
あの本は、はやてに家族をもたらす。でも、同時に災いも運んでくる。
家族に出会う事を止めたくは無いけれど、災いは防ぐべき。
出会ってから話した、魔法の話、家族の話、不老不死の話。
あれは全て、はやての身に起きる可能性のある話だった」
「ちょ、ちょっと待ってな。
魔法とか、現実にあるとか、災いとか言われても、一体どう返事すればいいか分からへん……」
主、急ぎ過ぎ。
認識阻害を無効化したからと言って、詰め込みは良くない。
「信じられないのは当然。
私も、魔法を知ったのは今月の初め。
何も知らなければ、はやてが初めて魔法に触れるのは6月4日。誕生日の午前0時だった」
「へ? なんでアコノさんが私の誕生日を知ってるん?」
「私は、元々別の世界で生きていた。
物語でも見掛ける、転生とかいうものを経験している。
そして、前世では、この世界は物語として存在していた。
はやては、その物語の登場人物」
「えええ!?
あ、ありえへん。そんなんおかしいやろ!?」
主、もう言っちゃった。
八神はやての反応は、とても普通。
「だから、本当ははやてが1人暮らしをしている事も知っていた。
世話になっているおじさん、ギル・グレアムの事や、その目的も」
「何でアコノさんが叔父さんの名前を知ってるん!?
というか、目的? なんか目的があるんか!?
あーもう、わけが分からへん!!」
「ギル・グレアムの目的は、災いを防ぐためにあの本をはやてごと封印すること。
そのために、魔法も使ってはやてを隔離に近い状態としていた。
子供が一人暮らししているのに、周囲の大人が問題と感じないのもそのせい」
「ほ、ほんまか……?
いや、辻褄が合いすぎて怖いんやけど、あの本はそんなに危険な代物なんか……?」
(エヴァ、来て)
(ああ、分かった。
だが、アコノ。少々急ぎ過ぎだ)
お姉様が、本の状態で主の手元に転移。
八神はやては、突然現れた本を見て思考停止?
目が点になってる。
「……ほら見ろ、一度に詰め込み過ぎだ」
「大丈夫だと思った」
「どう見ても大丈夫じゃないだろうに。
ほら、とりあえず話をしたいんだが、大丈夫か?」
お姉様が本の姿のままふわりと浮かび上がり、八神はやての頬を撫でる。
なんだか、とてもシュール。
「え……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?
なんで本が浮いて喋ってるん!?」
「何故と言われても、魔法が実在し、私はそういう存在だからだ」
「本に慰められても、きっと落ち着けない。
その姿で来たのは何故?」
「いや、私もあの本の様なものだという事を見せたかったんだが……まあいい、とりあえず姿を変えるか」
お姉様が人の姿に。
八神はやての思考が完全停止。
正確には、気絶してる。
目が回ってる。
くるくる。
「エヴァ、やりすぎ」
主にそれを言う資格は無い。
「ふむ、仕方ない。
チャチャマル、ちょっと出てこい。
あと、チャチャは1人、別荘からアコノの着替えを持って来い。そのままはやて担当だ」
◇◆◇ ◇◆◇
「ん……?」
ベッドで横になっていた八神はやてが、目を覚ました。
傍にいるのは、チャチャマル。
お姉様と主は、居間で待機している。
「お目覚めですか?」
「……お姉さん、誰や?」
「私は、チャチャマルと申します。
エヴァ様の保護者を……」
「誰が保護者だこのボケロボ!」
お姉様、乱入。
ハリセンで一閃。
主も部屋に入ってきた。
「エヴァ、いきなり騒がしい」
「防衛の指揮担当なのですが、保護する者という表現は間違いでしょうか?」
「だからと言って、保護者という表現は誤解を招くだろう!
ああ、済まないはやて。私はこのボケロボに話がある。
悪いがアコノと話をしていてくれ」
お姉様は、チャチャマルを連れて退室。
静かになった。
「……な、何やねん…………」
八神はやての目が点。
呆気にとられてる。
「彼女が、私が一番信頼してる相手。最初に見た通り、本でもある。
知り合ってから、私の日常はずいぶん賑やかになった」
「そ、そりゃあそうやろうな。
元気な人やったなぁ」
八神はやてに、お姉様はあれが基本と思われた?
あんなお姉様は珍しいのに。
「はやてが持つその本にも人格がある。護る為の人もいる。
分かりやすく言えば、さっきの2人みたいな立場の人達。
本の主が、はやて。本が目覚めれば、きっと家族として守ってくれる」
「は、はあ……そうなんか?
本の雰囲気は確かに似とったけど……」
「だけど、はやての本は今、呪われている。
災いを運ぶのは、そのせい。
グレアムは、災いを防ぐために封印しようとしている。
エヴァと私は、本を呪いから解き放とうとしている。
お願い。はやての力を貸してほしい」
「お、お願い言われても、何もできへんよ?
呪いとか言われてもさっぱりやし……」
「はやてが本の主だから、最終的にはやての協力が無いと、呪いから解き放てない。
それに、呪いから解き放った後は、本の主として、再び呪いを掛けようとする人から本を守ってほしい。
そのために、魔法を知ってほしい。
そのために、主として永い時を生きてほしい。
身勝手な願いだと分かっている。
だけど。
私も魔法の本の主として、永い時を生きる。
本の意思や守護する人達も、共にいる。
体は、きっと治る。
必要な知識は、全て教える。
身を守る力も、生活に必要な全ても、用意できる。
どうか。私達と共に、生きてほしい」
「ア、アコノさん、頭をあげてな。
正直、色々急すぎて訳が分からへん。
けど、今日の昼にゆうとった、他人の不幸を防ぐために生きる、ちゅう話なんやな?」
八神はやては こんらんしている?
でも、必要な点は理解してる。
「そう。あの本は、今は何も書かれていない状態。
そのまま放置すれば、はやては次の冬には命を落とす。
全てのページが埋まった時は、災厄の根源になってしまう。
地球でそうなり、その災厄を止められなければ、地球が亡びる。
そして、どちらの場合でも他の場所で同じことを繰り返す。
私達は、永遠にそんな事が起きないよう、災厄の根源とならないようにすることを目指している」
「はあ……壮大過ぎてさっぱりやけど、アコノさんが真剣やっちゅうのはわかった。
それに、さっきの本の人も賑やかで楽しそうな人やったしな。
今はまださっぱりやけど、ちゃんと全部教えてな?」
「分かった。約束する」
八神はやての説得成功?
だけど、あえて言いたい。
共に生きてほしいと言っていましたが、どう考えてもプロポーズです。本当にご馳走様でした。
信じたのは無感情な少女、手にしたのは違う未来への切符。
魔法少女リリカルはやてA’sブレイク、始まりました。
まとめと設定資料の後書きに書いた「無印
それがこの(なのはより、はやてが先に登場した)話のクオリティ。
そして、エヴァの願い(無印編08話参照)も空しく、どんどん黒くなるアコノ。エヴァを差し置いて完璧に主人公やってます。超初期の案では癒し系ヒロイン枠として木乃香にしたはずだったのになー。ナニヲ間違エタノカナー。
でも、アコノの行動の根底は今も「友としてエヴァの役に立つ」なので、エヴァがいないとこんな風には動かない娘なのですよ。こう書くと、献身的なヒロインみたいですね。
古エダの元ネタは、ググると先生が優しく「もしかして」と教えてくれると思います。
作者は読んだ事がありませんというか、ここで出す話のいい元ネタないかなーと探してて見付けました。北欧神話に関して調べた事のある人じゃないと知らないんじゃないかなと思います。