お昼を少し過ぎた頃。ある程度の説明を終えたお姉様は、八神宅を出た。
今からの目的であるアースラへの接触のため、ビルの屋上でカートリッジをロード、探知魔法の為に白色の魔法陣を展開。
そのまま、しばらくお待ちください。
その頃、アースラの艦内では。
「あの子……あんなところで魔法を?」
「あ、エヴァちゃん」
「どうしてエヴァがあんなことを……?」
お姉様の姿をエイミィ・リミエッタが発見。
司令部で待機していた高町なのはも誰なのかに気付き、ユーノ・スクライアは頭の上に疑問符を浮かべてる。
「何か探してるみたいだけど、何をしてるんだろう……あ、手を振ってる」
お姉様の様子は、エイミィ・リミエッタの表現で正しい。
映像のお姉様は、確かにこちらを見て手を振っているように見える。
明らかに、サーチャーに気付いてる。
お姉様としてはサーチャーの存在を確認した上での行動だけど。魔法陣は接触するための演技。
「私達に用事でもあるのかしら?
原作知識というもので知っているでしょうけれど、クロノと直接の面識はないはずだし……
そうね、なのはさん。迎えに行ってもらえるかしら?」
「はい、行ってきます!」
◇◆◇ ◇◆◇
というわけで、アースラに乗り込んだお姉様。
今は、勘違い和風の部屋で、重要そうな人達を前にしてる。
お姉様の向かいに座っているのは、リンディ・ハラオウン、クロノ・ハラオウン。
ちょっと離れたところに、高町なのはとユーノ・スクライアが座ってる。
この2人は、傍観の立場。
関係者として話を聞く事はよいけど、必要以上の口出しは駄目という事に。
全員が何らかの形でお互いを知ってるため、自己紹介は簡単に終了。
その後で、思考支援を開始。お姉様は本題に切り込んだ。
「つまり、ジュエルシードの封印に協力したい、という事ね?」
「あまり乗り気ではなかったようだが、何か状況が変わったのか?」
リンディ・ハラオウンとクロノ・ハラオウンは、不思議そう。
お姉様の姿勢が大きく変わったことに戸惑い?
「ああ、少々厄介な事になっていてな。
今はまだ管理局に対しては何も言えないが、ジュエルシードとは別のロストロギアについて、必要な環境を整える必要に迫られてな。
そのために、ジュエルシードの封印に協力したい」
「協力は有り難いのだけれど……必要な環境と言うのは、私達の事かしら?」
リンディ・ハラオウンの表情が少し硬くなった。
時空管理局を便利道具として使われる事を警戒してる?
「詳しく話したいところだが、ここからの説明はオフレコとしてもらっていいか?
あまりにも荒唐無稽過ぎて信じてもらえないかも知れないが、真偽に関わらず、これが広まるだけで厄介な事態になる内容だ」
「それだけ重要な内容を含んでいる、という事ね。
事態が終息、もしくは公表が必要になった際は報告してもいいのかしら?」
話の内容が闇の書についてだと予想は出来るはず。
その上で、提督としての任務をどこまで遂行する事を認める気があるのか、重要な点の確認。
リンディ・ハラオウンは、きちんと弁えてる。
「いや、それも困る様な内容も含む。
もちろん公表して良いと思える部分は必要に応じて公表してくれて構わないが、全面的に記録に残る事は避けたい」
「そう、分かったわ。
クロノ、記録を停止して。レイジングハートも記録しないでおいてくれないかしら?」
「了解です、艦長」
『All right, lady』
「さてと、これでいいかしら?」
「ここまでするんだ、納得できる話なんだろうね?」
さあ話してみろと言わんばかりのリンディ・ハラオウン。
クロノ・ハラオウンは、記録を禁止されたのが不満らしい。
「当然だ。さて、この前の千晴やチクァーブとの話を全て聞いていた前提で話を進めるぞ」
「……やっぱり気付いていたのか」
クロノ・ハラオウンの口元が引き攣った。
ポーカーフェイスを保ててない。
「あの程度の隠蔽は気付けるさ。
と言うわけで、闇の書の現状と対策についての話だ」
「なるほど、まだ公表したくないわけだ」
「貴女達の言う、原作にも関係するという事ね?」
「ああ、大いに関係する。
まずは、闇の書の現状についてだ。状況としては、ようやく主に会って話をしてきたところだ。
主の現状も含めて、私達の関与以外は原作と変わらん様だな。闇の書の存在も確認したし、解決のために協力してもらう約束もしてきたから、人間関係についての問題は発生していない」
「人間関係についての、ね。
技術的な問題はあるという事かしら?」
「それについてはまだ調査中だが、現時点での対処は難しそうだという事は分かっている。
少なくとも闇の書は起動するだろうし、闇の書と戦う事になる最悪の事態を回避できる保証も出来ん。
そうなると、どうしても話が大きくなる可能性を踏まえて動く必要があるからな。私が殴り込みに行かなくてもいいように、管理局の暴走を抑える必要があるだろう?」
「つまり、私達に裏で動いている提督との橋渡しをしてほしいという事かしら。
動かなくてよい、という状況でもない様だし」
困り顔のリンディ・ハラオウンの予想はちょっと惜しい。
現状で対策が確定出来るなら、それが第1候補になってた。
「いや、まだ説得できるだけの材料が揃っていないから、現時点で交渉しても合意するのは難しいだろう。それに、提督の説得はそこまで急がなくてもいいはずだ。
とりあえずの判断材料として、原作の流れを簡単に説明するぞ。
まず、封印の解除は来月だ。この時点で守護騎士が現れる。
闇の書の主は説明を聞いて蒐集を禁止し、守護騎士を家族として迎え入れる」
「蒐集の禁止だって!?」
「つまり、闇の書を完成させない事を決める、という事になるわね。
家族という事は、部下や駒として扱う気が無いという事だし……」
クロノ・ハラオウンが驚愕の表情。
リンディ・ハラオウンは、落ち着いて内容を理解してる。
この辺は、きっとねん……経験の差。
「守護騎士達は“闇の書が完成すると主が大いなる力を得る”としか知らないらしい。説明も当然その範囲だから、主は大いなる力とやらを得る機会を放棄するという事だな。
その後数か月は、平穏が続く。守護騎士達も平和の中で穏やかな時を過ごす期間だ。
そうするうちに主が倒れ、闇の書の侵食によりその命が失われているという事に守護騎士達が気付く」
「闇の書の侵食……主をも対象にするという事か」
クロノ・ハラオウンが、内容に付いてきた。
衝撃からだいぶ立ち直った模様。
「それを知った守護騎士達は、主が大いなる力を得れば命を失うことは無いだろうと判断し、主に秘密で蒐集を開始する。
これが闇の書事件の実質的な始まりだ。
確か10月頃のはずで、まだ闇の書の存在が知られていないから魔導師連続襲撃事件扱いだがな。管理局の局員から魔力を持つ野生生物まで形振り構わずだから、かなり被害が大きいはずだ」
「つまり、闇の書の主は何も知らないまま命を脅かされて、更に事件の首謀者に仕立て上げられるという事になるわね。
守護騎士達も、行動はともかく、動機は主の命を助けるため……」
「闇の書は地球にある。当然、蒐集行為は地球や近い世界で行われる。
その過程でなのはが襲撃されて撃墜、最終的に蒐集される。これが12月の初めだ」
「わ、私が!?
ひょっとして、死んじゃうの……?」
今度は高町なのはがびっくり。
襲撃、撃墜ときたら、その先くらいは想像できる模様。
でも、3作目でS+だと言われていた事を忘れてる。
「この時の戦闘はまだ詳しく言えない要素が残っているが、結果だけを言えばこの様な表現になるだけだ。しばらく魔法が使えなくなるが、死にはしない。
現場は地球で、なのは……アースラ関連の人物が関係した事もあるのだろうな。この直後に、アースラが事件の担当になる。
その時はアースラが整備中で、地球に一時的な司令部を置く部屋を用意する事になる。アースラにアルカンシェルを搭載するのも、確かこの時だな。
闇の書の主がすずかと出会い、友人関係になるのもこの頃だ」
「すずかちゃんが!?
ま、巻き込まれちゃうの……?」
「闇の書の主は襲撃や蒐集について関知していないし、魔法も使えないんだ。それに、原作のすずかとアリサは魔法についてまだ何も知らないから、普通に友人となるだけだな。もう少し先で主となのはも知り合うが、そのための橋渡し的な役割だ。
ユーノが無限書庫に行って闇の書の事を調べるのも、もう少し後だったか……」
「僕が無限書庫に、ですか!?」
そして元
悪い話じゃないのに。
「そうだ。確か、この際にリーゼ姉妹の協力があるはずだ。
弟子だったクロノは良く知っている人物だと思うが、間違いないか?」
「ああ、確かに良く知っている。ここでその伝手を使うのか」
クロノ・ハラオウンが頷いてる。
納得出来る人脈だった模様。
むしろ、原作のどこで師匠だと語られていたか気になってた?
「ユーノはそのまま無限書庫の司書になるはずだ。歴史好きとしては願っても無い状況だろう? っと、話が逸れたな。
その間も、守護騎士達との戦いがあったり、守護騎士達を助ける仮面の男が出現したり、ユーノが闇の書に関する歴史を見付けたりと色々あるが、詳細は長くなるから割愛するぞ。
最終的に、裏で動いていた提督の部下の手により闇の書は守護騎士達を蒐集して完成、守護騎士は全員消滅する。この際、この部下はなのはに変装しているな。
それまで何も知らされていなかった闇の書の主は、家族を友人……偽物だがなのはに奪われて絶望し、闇の書は主を護る為に主を内部に取り込む」
「闇の書の主も、被害者なのか……これが、闇の書の完成まで主に罪が無い理由か……!」
クロノ・ハラオウンの怒りが有頂天。
(大事な場面でふざけるな!)
怒られた。
ごめんなさい。
ネタ自重。
「クロノが偽なのはを取り押さえ、裏で動いていた提督と対峙する。この時の話は先日聞いていただろうから今は省略するぞ。
同時に闇の書の防衛プログラムが実体化、本物のなのはと戦闘になる。
この戦闘の間に闇の書の管制人格と出会った闇の書の主は、夢の世界で守られる事を拒否。管制人格と協力して防衛プログラムを切り離す事に成功し、戦闘中のなのはに防衛プログラムの強制停止を依頼する。この戦闘になのはが勝利して防衛プログラムの強制停止に成功。闇の書の主が現実に戻り、守護騎士達も復活する。
その後、本格的な暴走を始めた防衛プログラム……闇の書の闇と呼ばれていたが、これを、闇の書を持つ闇の書の主や守護騎士達も含む全主力メンバーで攻撃、最終的にそのコアを宇宙まで転送してアルカンシェルで消滅させる。
これで、壊滅的な被害は出ずに戦闘は終了だ。確か、なのはと防衛プログラムの戦闘で被害が出た程度だな」
「闇の書の闇を、闇の書とその主が破壊、ね……
だけど、これでめでたし、とはいかないのでしょう?」
リンディ・ハラオウンは、犠牲者が気になってる?
確かに、このままめでたしとは終わらない。
「その後、闇の書の管制人格は守護騎士も分離。狂った防衛プログラムが再生して主を殺してしまう前に自らを破壊するよう依頼する。そして、家族の実質的な自殺を悲しみ止めさせようとする主を守護騎士達に託し、闇の書と共に消滅。この時に消滅の為の儀式魔法を使うのは、なのは。お前だ。
これで闇の書は永遠に失われ、悲劇も終焉を迎えるが、友の手で家族を失う闇の書の主や、友人の家族を消滅させるなのはの心に傷を残す事になる。
省いた点も多いが、これが原作の闇の書事件の大まかなあらすじだ」
「そんな……悲しすぎるよ…………」
「ロストロギアの事件は、いつも、そうだ……こんなはずじゃない事ばかりだよ……!」
高町なのはの悲しみと、クロノ・ハラオウンの怒り。
誘導はうまく行った模様。
「だけど、不可解な点は残っているわ。
恐らく……それが、エヴァさんが隠していた点で、核心ね?」
リンディ・ハラオウンは、きちんと現実を見てる。
おば……お姉さん、すてきー。
「ああ。予想は出来ているだろうが、はっきり言っておくぞ。
裏で動いている提督は、ギル・グレアム。
クロノが取り押さえる提督の部下は、使い魔のリーゼ姉妹。
そして、闇の書の主は八神はやて……既になのはの友達だが、現在ギル・グレアムの監視下で孤独な生活を強いられている少女だ」
「何だって!?」
「はやてちゃんが!? そ、それじゃあ家族、って……」
クロノ・ハラオウンと高町なのはが煩い。
「はやては、今は1人暮らしだ。9歳に満たない少女が、だぞ?
日本の常識では考えられん。誰か、つまりグレアムの介入があっての、この状況だ。
はやての足が不自由なのは、闇の書に侵食されているせいだ。魔法抜きでは原因を突き止めることが出来ないから、当然治療法も見付からない。希望の見えない、辛い時間を過ごしてきただろうな。
そんな少女の前に現れた、自分を大切にしてくれる人達。大切にするのは当然で、失った時の悲しみも当然大きいだろう」
「グレアム提督がそんな事をする訳が!」
「クロノはもう少し落ち着いた方が良い。
グレアムは天涯孤独になったはやてを、闇の書の完成直後に永久凍結で封印するために隔離状態にしている。孤独な人物であれば悲しむ人も少ないという理由でな。
リーゼアリアが認識阻害やらのメンテナンスと近況の確認に来ている事も確認済みだ。現実を見る限り、原作と同様の状況としか思えん。
リーゼ姉妹が怪しい男に変装して、闇の書を完成させるために守護騎士に手を貸すのもこの目的のためだ。封印が可能な条件は聞いていた通りだが、はやての状態は悪化していくんだ。はやてが死ぬ前に封印可能な状態に持ち込む必要がある以上、他に手が無いと言えるな。
闇の書との因縁が深い者同士、賛成は出来ないだろうが、理解が出来ないわけでもないだろう?」
「そうね、確かに不可解と言うほどではないわね。
だけど、最後の秘密も聞いておきましょう。
エヴァさんが助けたいと言っていたのは、最後に消滅すると言う闇の書の管制人格という認識でいいのね?」
リンディ・ハラオウンは、自分の疑問の解決を優先?
ギル・グレアムの関与や行動自体は、自分達で可能性を考えていた事もあってか、あまり疑っていない模様。
「まあ、そういう事だな。
あいつは元々ただの資料本で、魔法の技術やらの調査をしていただけだ。
少なくとも、好き好んで災厄を撒き散らすような阿呆ではない。この事は、最終的に自身の消滅を願う事からもわかるだろう?」
「なるほど、そういう事だったのね。
世話になったというのは、闇の書が暴走するようになる前の話、という事でいいのかしら?」
「そうだな。
闇の書は、本来は夜天の魔導書といってな。私、曙天の指令書の姉のような存在だ。
夜天が各地で魔法の情報を集め、その情報を私が管理する。そんな関係だな。私が今使っている魔法は、夜天が正常だった頃に集めてくれていた資料に依存しているんだ。
色々と調べてくれていたのは有り難いが、魔改造されて闇堕ちするなんてどんな悪い男に騙されたのやら……
……ん? 何だその間抜け面は」
高町なのはは内容を理解していない様で、頭の周りに大量の疑問符を浮かべてる。
他の3人は、唖然としてる。
闇の書の本当の名前?
姉妹?
過去の魔法の資料?
魔改造されて闇堕ち?
男に騙された?
突っ込み所が多過ぎて手に負えない。
きっと、そんな感じ。
「ええと、エヴァさんは、つまり、闇の書……いえ、夜天の魔導書と…………」
リンディ・ハラオウンが再起動。
流石提督、復帰が早い。
「製作者は同じ人物のはずだぞ?
少なくとも、私はそう聞いている。
夜天とは直接会ったことも、言葉を交わしたことも無いがな」
「そ、そう……」
それでも、戸惑いは隠せてない。
おば……お姉さん、残念!
原作無印の決定的ブレイク、始まりますか?
いいえ、まだ本格的ではありません。どちらかと言えばA’sブレイクの続きに該当するでしょう。
とりあえず、闇の書事件について、ジュエルシード事件に関係ない(≒フェイトを除いた)部分を盛大にぶっちゃけました。なるべく同情を誘うような表現を使っていたり、まだ色々隠していたりするだけで、言っている事に嘘は無いはずです。
原作でも(打算や損得計算はあるのでしょうが)いい人のリンディとクロノなら、きっと同情してくれるでしょう。
それなりに長いですし、話の区切りもいいのでここで一旦切ります。
実質的に前後編ですね。
なお、後半はアンチ・ヘイト要素が入ります。
2013/03/15 ジェルシード→ジュエルシード に修正
2013/06/07 魔方陣→魔法陣 に修正
2017/04/25 魔方陣→魔法陣 に修正