青の悪意と曙の意思   作:deckstick

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無印編27話 闇と暗部と咎人と

「まあ、そういうわけだ。私が助けたい相手と理由、それに、公表出来ない理由については理解してもらえたか?

 ついでに、私が表に立つわけにいかない事も理解してもらえているとありがたいが」

 

 今は、みんなリンディ・ハラオウンからお茶を貰って休息中。

 もちろん砂糖やミルクは入れないけど、やっぱりリンディ・ハラオウンは残念そう。

 お姉様も一緒に一息入れてる。思考支援も小休止中。

 

「ええ、充分すぎるほどに、ね。

 だけど、まだ秘密はあるでしょう?」

 

 秘密?

 いっぱいあり過ぎて、どれの事やら。

 

「私の生もそれなりに長いからな。秘密と言うか、言っていない事は多いと思うが……何か気になる事でもあったか?」

 

「そうね、例えば、エヴァさんは主殺しの書でしょう?」

 

 見当を付けられてた?

 この期間で辿り着くとは、恐るべしアースラ陣営。

 

「主殺しの書……すまんが、それは何だ?」

 

「エヴァさんは眠っていて知らないかもしれないけれど、魔力の多い魔導師の元に現れて、衰弱で死亡させた後は姿を消す本があるのよ。

 第3級指定のロストロギアなのだけれど、心当たりは無いかしら?」

 

 表情的に、完璧にばれてーる。

 主の魔力の多さも予想されてるかも?

 でも、お姉様は動揺しちゃいけない。

 

「ふむ……私が目覚めるまで主候補に負荷をかけるのは、アコノを見ても間違いなさそうだしな。

 過去の主候補を殺してきた可能性は、否定できんか」

 

「意図的に殺してきたわけじゃないという事かしら?」

 

「眠っている間も意図的に動けるような、びっくり魔導具じゃないぞ私は。

 というか、それは眠っていると言わん」

 

「ふふ、そうね。それなら、今後は主殺しの書の犠牲者は出ないと見ていいのかしら?」

 

「それが本当に私を指すなら、そうなるだろうな。

 私が殺す可能性は、主にする時と、主候補にかける負荷……という事になるのか? 少なくとも、アコノがいる限りはそんな状態にはならんだろう。

 というか、私が主殺しの書だと言うのは決定事項なのか?」

 

「可能性は高いと思ってるわよ。でも、原因がはっきりして、今後再発の可能性が低いという事であれば、特に問題は無いわ。

 表に立つわけにいかないと言うのは、闇の書……いえ、夜天の魔導書と言った方がいいのかしら。その妹と知られたら闇の書と同様に思われる可能性がある、という事を心配してでしょう?」

 

 自分のお茶にミルクを入れながら、リンディ・ハラオウンは話を進める。

 通称リンディ茶。実体は砂糖たっぷり緑茶オレ。

 試した従者曰く、抹茶アイスに近いとのこと。

 但し劇甘。糖尿病を気にしない甘党の人以外にはお勧め出来ない。

 

「そうだな。妹が姉を助けると言う美談に出来るのは、成功した事を示した後だ。

 それまでに公表した場合は、信用できない、早く破壊しろ、といった声の方が大きいだろうな」

 

「だけど、私達にそれを言ってしまっていいのかしら?

 闇の書と同様の能力を持つと言っているのと同じだと思うのだけれど」

 

 何だか話が真面目な方向に?

 休息が終わっちゃう。

 念のために、思考支援再開。

 

「成功すればどうせバレる話だからな。それに、夜天を何とか出来る技術を持つ理由や、助けたい理由を簡単に説明出来るだろう? 変に取り繕って、信じられないよりはマシだ。

 だが、破壊に特化する方向で改悪された闇の書と同じと思われるのは迷惑だな。

 そもそも、国の内外を飛び回っていた夜天と違い、私は研究所に引き籠っていた研究者だ。それなりに身を守る能力はあるが、あれはあれでボケだしなぁ……能力も防御や支援寄りだから、暴れるには向かんし」

 

 あれって、チャチャマル?

 確かに、お姉様はボケロボ呼ばわりしてた。

 

「あれというのは、闇の書の守護騎士や、暴走するという防衛プログラムの様なものかしら?

 得手不得手はあるにしても、行動や状態次第で大きな脅威となりそうだけれど」

 

「守る役目を持つと言う意味ではそれらと似たようなものだが、妙な改造はされていない。無意味に暴力を振りまいたり、暴走したりという事は無いはずだ。

 だがなぁ……私を強制転移させて顔面から落とした上に、追い打ちをかけるように正座で落ちてくるのはどうなんだと」

 

「そ、それって、チャチャマルさん!?」

 

 高町なのはがびっくりした表情で叫んでる。

 ユーノ・スクライアは、ああ、あの時の、と納得……しかけたのに、驚きの表情へ。

 

「そうだ。私の一部と言っただろう?

 まあ、ボケではあるが防御や補助に関しては一級品だ。魔力さえ確保できれば、なのはの全力砲撃でも軽く防ぐぞ。そういえば、リーゼアリアの転移を追跡して本局の位置特定もしていたな。

 ああ、気付かれていないし、本局に侵入したりもしていないから、トラブルになる要素は無い。そこは安心してもらっていい」

 

「そ、そうなの……」

 

 リンディ・ハラオウンとクロノ・ハラオウンの表情が、微妙に引き攣ってる。

 既に本局殴り込みに必要な情報を持っている事を明示された衝撃……だけ?

 リーゼアリアに気付かれていない事も衝撃的かも。

 

「だけど、ジュエルシードの封印に協力する理由については、よく分からないのだけれど……

 私達の協力が欲しいから、という事でいいのかしら?」

 

 リンディ・ハラオウンの質問というか、話題転換?

 確かに、そこに繋がる理由は説明してない。

 

「それもある。少なくとも、余計な手出しをする阿呆が来ることは避けたいからな。

 お前達が担当になれば不用意な増援は来ないだろうが、その為にはジュエルシードが邪魔だ。

 だが、一番の理由は、優秀な技術者を1人助けたい事だ。

 具体的には、プレシア・テスタロッサの事なんだが」

 

「何だって!? ジュエルシードの黒幕だと言っていた人物を保護しようと言うのか!?」

 

 クロノ・ハラオウンの声が、さっきから大きい。

 叫び過ぎ。

 

「だから、クロノは落ち着けと言っているだろう。執務官ともあろう者がいちいち動揺するな。肩書を持っている以上、若さは言い訳にならんぞ。

 そもそもプレシアについては、かなり疑問があるんだ。お前達は、何処まで調べられた?」

 

「くっ……分かった、判明している範囲は答えよう。

 26年前は中央技術開発局で第3局長だった人物だ。

 当時、彼女が個人で開発していた次元航行エネルギー駆動炉、ヒュードラで違法な材料を使用して実験を行い、事故を起こしている。その事故の際に中規模次元震を起こしたことを受けて、中央から地方に放逐された。

 辺境に異動後も数年間は技術開発に携わっていたが、行方不明になってそれっきりだ。

 事故については、材料の違法性等について様々な異論もあったようだが……分かっている事は、この程度だ」

 

 映画版と違い、民間企業にいたわけではない模様。

 テレビ版の状態で確定、現時点では本局の情報を得ていない段階。

 問い合わせしたかも不明。機密を扱う部屋は相応の対策がされてる。

 3人がその部屋にいる時間は長い。その間の事は把握出来てない。

 アースラのメインシステム中枢に侵入出来てないのがもどかしい。

 

「なるほど、エイミィが調べた範囲までか。

 本局への調査依頼をしていないか、まだ調査結果が来ていない段階という事だな」

 

「原作とやらで、そこも知られているのか…………」

 

 クロノ・ハラオウンの想像で正解。

 調査依頼はしたか、するつもりだった雰囲気。

 予想していたより知られている事が多い事に焦っている感じ?

 物語としては重要な要素。

 

「この先に本局からの情報で判明する事を言っておくぞ。後で照合してみるといい。

 プレシアはこの事故の際に、当時5歳になる実の娘、アリシアを亡くしている。

 そして、プレシアが最後に行っていた研究は、使い魔を超える人造生命の生成。そして、死者蘇生だ」

 

「つまり、プレシア女史は娘を蘇らせようとしている、という事になるけれど……ジュエルシードでそれが可能なのかしら?」

 

 お姉様の情報と現在の状況を考えると、当然思い付く関連性。

 可能かどうかは、ジュエルシードの性能次第。

 ぶっちゃけて言えば、普通なら無理。

 

「不可能でしょう。過去の歴史を見ても、死者の蘇生に成功した事例はありません。

 ロストロギアが多く作られた時代ですら、そうなんです」

 

 だけど、クロノ・ハラオウンの常識は、この場では微妙に残念。

 お姉様は普通じゃない。

 でも、それを言う必要は無い。

 

「恐らく、プレシアもそう思ったのだろう。

 これをここで言うのは少々心苦しいが……あえて、今言っておく。

 プレシアの人造生命生成技術には、開発コードが付けられていた。

 その名は、プロジェクトF.A.T.E。フェイトと言う名の少女はこの技術で作られた記憶転写型のクローンで、オリジナルはアリシア。つまり、プレシアの亡くなった娘だ」

 

「な、何だって!?」

 

 なんだってー。

 クロノ・ハラオウンがやっぱりうるさい。

 

「クロノは、驚き過ぎだ。さっきから反応が同じになっているぞ?」

 

「驚かない方がどうかしている!

 それが本当なら、あの少女は存在自体があってはならないものになりかねないんだ!!」

 

 わお、フェイト・テスタロッサを全否定?

 原作では可愛い妹になるのに。

 不憫な。

 

「管理局が守るべき法や倫理の問題は、私は知らん。

 法そのものも知らないし、管理局の倫理観や事後処理の方法も分からんから、フェイトがどの様な扱いになるかはお前達次第だ。

 とにかく、プレシアは娘との生活を取り戻すために、娘のクローンを作った。

 だが、それはプレシアにとっては失敗作だった」

 

「失敗作? あんなに可愛らしい御嬢さんなのに?」

 

 リンディ・ハラオウンは、ちゃんとフェイト・テスタロッサを人として扱ってる。

 子を持つ身としては普通の判断?

 

「プレシアにとっては、だ。

 アリシアとは、魔法資質が違う。利き腕が違う。性格が違う。

 娘とは思えなかったようだな。娘の記憶を持つだけに、嫌悪感が勝っていた様だ。

 原作ではプレシアに“良く出来たお人形”と言われるし、相当酷い暴力も振るわれてもいる。

 遠目で確認しただけだが……ここのフェイトに鞭で打たれたような傷が見えた事もある」

 

「自分で作っておきながら、何て事を……」

 

「そうなの……随分と酷い話ね。

 だけど、どうしてそんなフェイトさんがジュエルシードを集める事になったのかしら?」

 

 クロノ・ハラオウンは絶句。

 リンディ・ハラオウンは、それでも思考を止めない。

 提督の肩書は伊達じゃない。

 

「フェイトの理由は、単純だ。

 母であるプレシアが求めているから。

 母であるプレシアに喜んでほしいから。

 目的や用途すら聞かされないまま、母の笑顔を見たい一心で駆け回っている」

 

「健気な子ね。プレシア女史は、何も思ってないのかしら?」

 

「そこは語られていない部分だ。色々と考える事は出来るが、憶測に過ぎん。

 さて、ここからは特に重要な情報になる。よく聞いておけよ?

 現在のプレシアの目的は、ジュエルシードを使ってアルハザードへ行く事だ。

 虚数空間の先にあると確信しているようだな」

 

「アルハザードだって!?」

 

「忘れられし都と、そこに眠る秘術。存在するかどうかすら曖昧な、ただの伝説と言われているけれど」

 

 やっぱり、クロノ・ハラオウンはうるさい。

 リンディ・ハラオウンの言った内容は、テレビ版でも呟いてた。

 でも終盤のはず。

 

「つまり、アルハザードに眠ると言われている秘術に縋るしか方法が無い、おとぎ話のような話を信じるしかないと、覚悟を決めた上での行動だという事になる」

 

「そういう事なの……

 エヴァさんはアルハザードについて何か知っているのかしら?」

 

「そうだな……虚数空間に落ちて、滅んだのは事実だ。

 その意味では、プレシアの行動も全く理解が出来ないというわけではない」

 

「まさか、アルハザードは実在したのか!?

 率直に聞くが……もし、プレシアがアルハザードに辿り着けたとしたら。

 その時は、娘を取り戻すことは可能なのか?」

 

 クロノ・ハラオウンが現実に復帰?

 おとぎ話の世界へようこそ?

 

「不可能だろう。虚数空間の中だぞ?

 仮に蘇生魔法があったとしても、使うことは出来んだろう。

 大体、防御魔法も飛行魔法も使えない場所に、どうやって行こうと言うんだ。

 それとも、今は虚数空間でもそれなりに魔法が使える様になっているのか?

 私の過去や原作では、普通は出来ないとされていたんだが」

 

「い、いや、虚数空間はあらゆる魔法が一切発動しなくなる。

 落ちてしまえば、重力の底まで落下するはずだ」

 

「やはり、その認識でいいのか。

 ちなみに虚数空間は、物理的には宇宙空間に近いはずだ。

 空気も水も無いから、魔法で身を守る気でいるなら確実に死ぬぞ」

 

 お姉様の様に宇宙空間でも問題ない体でない限り、魔法に頼らない宇宙服や宇宙船が必須。

 時の庭園や居住区画がそれを想定した構造には見えない。

 アルハザードは、星ごと落ちたから空気があっただけ。惑星と言う名の宇宙船相当。

 対虚数空間用結界があれば魔法で保護も可能だけど、お姉様は公開してない。空間生成魔法の一部として組み込まれているだけ。

 誰かが作ったか、空間生成魔法の解析に成功して抽出されているなら、クロノ・ハラオウンの認識がずれてるという事に。

 

「そ、そうなのか……プレシアは、どうしてそんな手段に……」

 

 クロノ・ハラオウンが、おとぎ話の世界から追い出された。

 今度こそ現実に復帰?

 

「そこも、私が疑問に思っている点だ。

 疑問に思う点は色々ある。ミッドチルダの常識は知らんから、私の疑問がそちらの常識で解決するなら教えてくれ。

 

 まずは、最初の駆動炉の事故についてだ。

 次元航行エネルギー駆動炉など、個人で開発するものなのか?

 そもそも、技術開発局の局長を務めるような人物だ。駆動炉の開発をするなら、開発局としてきちんとした体制を整えられる地位と実力を持っているだろうし、そうすべきだと思うが……大魔導師と言われる人物やミッドチルダなら違うのか?」

 

「い、いや……普通は大きな開発チームを組み、何年もの時間をかけて行うはずだ」

 

「どう考えても、開発の動機も、資金の出所も思い付かん。

 誰か強力で断りにくいスポンサーに依頼されたとかでもない限りな?」

 

「確かに、そんな大規模な開発は個人で出せる資金で出来るものじゃない……

 つまり、プレシアには何か後ろ盾がいた、と考えているのか?」

 

 普通はクロノ・ハラオウンの様に考える。

 むしろ、気付かない方がおかしい。

 でも、ここは疑惑のまま放置。

 

「次だ。事故で亡くした娘を蘇らせようとする事は理解も同情も出来るんだが……技術の出所がおかしい。

 これは3作目の設定になるはずだが、ジェイル・スカリエッティは既に指名手配されているか?」

 

「ジェイル・スカリエッティだって?

 広域指名手配されている、次元犯罪者のはずだ。

 指名手配者のリストで見た覚えがある。罪状は、確か……」

 

 おお、名前を知ってた。

 というか、やっぱり3作目も含んでいる模様。

 この時点で知っているのは、クロノ・ハラオウンの記憶力が優秀なのか、ジェイル・スカリエッティが有名なのか。

 

「世界規模のテロリズムや違法医学、それにロストロギア関連といったところか?」

 

「そう、それだ。

 ……随分と詳しいんだね」

 

「重要なポイントでな。特に、違法医学がポイントだ。

 スカリエッティ自身は、主に生命操作や生体改造を得意としている科学者だ。

 そして、プロジェクトF.A.T.Eの基礎を作ったのは、スカリエッティらしい」

 

「つまり……プレシアは、スカリエッティと繋がっている、と言いたいのか?

 まさか、技術開発局の局長が、背任行為を行っていたと……」

 

 駆動炉開発と併せると、分かりやすい結論。

 でも、これだけで終わらせるわけがない。

 

「いや、これだけならそう見えるが、まだ先がある。

 スカリエッティにも後ろ盾がいる。実際に動いているのはレジアス・ゲイズだ。

 ミッドチルダの首都防衛隊の長官だったか?」

 

「地上の法の守護者だぞ!?

 優秀な人物で、人望も厚い。犯罪者との関係なんて、あってはならない事だ!」

 

 優秀であるほど裏があるなんて、良くある話。

 むしろ、裏を使いこなせるからこそ優秀と言える場合もある。

 

「だが、闇の書事件のはやてを犯罪者と呼ぶのがレジアスだ。事件の経緯はさっき話した通りだが、いくら情報が制限されていると言っても、あれで犯罪者と呼ぶのは納得できるか? 自身が後ろめたい事をしているから過剰反応しているようにしか見えん。

 それに、レジアスも駒の一つだ。

 スカリエッティは、管理局の最高評議会がアルハザードの技術を使って作った、人造人間のようなものらしい。

 開発コードは無限の欲望(アンリミテッドデザイア)

 コードネーム通り、底無しの探求欲と、底が抜けて倫理観が無くなった狂人が出来上がったわけだが」

 

「最高評議会、が……

 次元世界の平和の守護者が、どうしてそんな事を……」

 

 執務官のクロノ・ハラオウンには、そう簡単には信じられない話?

 時空管理局への信頼が、判断の邪魔をする可能性も。

 その信頼を少し揺らがせておきたい。

 

「人手不足の管理局。最高評議会やレジアスの支援で戦闘機人を作り出したスカリエッティ。スカリエッティの研究を引き継いで結果的に人造魔導師を生み出したプレシア。

 意外に簡単な構図に思えるぞ?」

 

「つまり……管理局が、最高評議会が! 違法研究で現状の打破を狙っているという事か!?」

 

 原作ではもっとひどいけど、これ以上の逆撫では止めるべき。

 協力者にするなら、貶し過ぎるのも良くない。

 真実にいつか自分達で辿り着いてほしい。私達も確認してないし。

 

「最高評議会の意図までは分からんが、そう捉えるのが自然だと思わんか?

 禁断の果実ではあるが、成功すれば効果はありそうだからな」

 

「……仮にそうだとして……プレシアが違法な研究を行っていた事に変わりは無い。

 利己的な動機だった可能性が消えたわけでも無いだろう?」

 

 おや? 現実として受け入れた?

 受け流した、かもしれない。

 プレシア・テスタロッサに罪を被せるのは、クロノ・ハラオウンらしくない。

 

「いや、私が疑問に思うのは、正にそこだ。

 個人で開発していた、個人で使う必要の無い新型駆動炉。

 娘を事故で亡くした後、都合よく現れるクローン技術。

 研究に行き詰った頃に現れた、ジュエルシード。

 ジュエルシードはユーノが発見して、管理局と相談の上で、管理局へ輸送していたと聞いたが、どうしてプレシアがそれを知っている?」

 

「どういう……事だ…………?」

 

 あれー?

 動揺する執務官。

 ここまでくれば、想像しやすいはずなのに。

 

「そういえば、ユーノ。

 ジュエルシードを発掘してから事故で散らばるまでの期間は、どれくらいあった?

 数か月か? 1年か?」

 

「いえ、3週間ちょっとです。

 発掘直後に管理局に連絡して、1週間でジュエルシードと思われると判定されました。

 その時点で管理局への輸送が決まって、輸送船の手配や輸送準備に2週間です。

 事故があったのは、輸送の3日目でした」

 

 予想よりだいぶ短い。

 でも、ユーノ・スクライアの証言。

 嘘を言う必要が無い以上、恐らく正しい。

 

「思ったより短いな。

 追われる身のプレシアがそんな期間で、発掘されたロストロギアの存在を知り、それが何かを判断し、利用法を調べ上げ、輸送船の航路を割り出して移動し、都合よく輸送船が原因不明の事故を起こし、狙っていた積み荷が管理外世界の狭い範囲に散らばり、それを把握した上で回収する為に魔導師を送り込んできたのか?

 有り得ないぞ。大魔導師とやらをどんな神に愛された化け物だと思っているんだ。

 仮に1人や2人でそれが可能なほど優秀なら、ジュエルシードは既に全てプレシアに回収されているさ」

 

「つまり、エヴァさんは、プレシア女史は管理局に踊らされている、と言いたいのね?」

 

「そうだ」

 

 リンディ・ハラオウンが、ばっちり誘導された。

 

「管理局を馬鹿にするのも……!」

 

 クロノ・ハラオウンは、抵抗しているものの認識は似た感じ。

 

「なら、他にどう説明すればいい?

 技術開発局にいた頃は、明らかに管理局の関係者だ。

 クローン技術の元は、最高評議会とレジアスの息がかかったスカリエッティのもの。

 ジュエルシードは、発掘チームか管理局に関係者が居なければ、情報を得る事すら不可能だろう。

 アルハザードの情報は、スカリエッティがアルハザードの技術で作られたという事から知ったのかもしれん。スカリエッティを作った技術が人造魔導師を生み出す技術に通じるなら、プレシアにその情報が流されていても不思議ではないからな」

 

「そ、それは……」

 

 咄嗟に反論が出るほどの穴は無いはず。

 クロノ・ハラオウンが、管理局の裏側まで熟知しているとは思えない。

 リンディ・ハラオウンでも、きっと無理。

 

「まあ、管理局も巨大な組織だ。

 後ろめたい事も時には必要だろうし、手段はともかく、戦力の確保という目的は管理局にとって悪い事ではないのかもしれん。そもそも私は部外者だし、直接何かあったわけでもないから、それについてとやかく言う気も無い。

 だが、被害者だと思った者に同情して、救いの手を伸ばす事くらいは許されるだろう?

 はやてや夜天と一緒にフェイトを助ける事も出来そうだし、悪い話ではないと思うぞ」

 

 尤もらしい建前。どう受け止める?

 最初の“技術者を確保したい”発言をどう扱うかが焦点。

 

「そう……エヴァさんは、プレシア女史を救うことが出来る。

 そう考えているのね?」

 

「恐らくは。

 もちろん、確実にと言えるわけもないし、迷惑をかける事になる事も理解している。

 だから、チャンスは1回でいい。私が、プレシアを説得する機会が欲しい。

 その際も、会話を記録しないなら、リンディとクロノの2人は聞いていてもらっても構わない。

 説得に成功した場合は、必要になる裏工作にも協力しよう」

 

「随分と熱心だけれど……エヴァさんとプレシア女史はどんな関係なのかしら?

 過保護の対象になっているように見えるのだけれど」

 

 別方面の探り?

 技術者確保の話は流されてる?

 

「今のところは、何の関係も無い。話をしたことも、会ったことも無いからな。

 せいぜい、原作を見て少々同情している程度だ。

 だが、私達の未来に必要だと思った。

 それだけだ」

 

「そう……どんな未来を望んでいるのかしら?」

 

 行動の意図を確認しに来たという事は、技術者確保の話は流されたかも。

 ここは、お姉様の本音で問題ない。

 

「私は、あいつら……アコノ、夜天、はやて達と日本で平和に暮らしたいだけだ。

 地球で魔法を公開する気は無いし、管理局に何かしようとも思わん」

 

「あら。それを望むなら、私達に接触したのは悪手じゃないかしら?」

 

「夜天……闇の書を完全に隠すことが出来るのなら、可能な限り接触を避けただろうな。

 だが、グレアムが知っているのは確実で、封印の為のデバイスも準備が始まっているだろう。

 誰が闇の書の情報を知っているのか、何かあった時の遺書的な用意が無いか……完全な隠蔽の為にはどれ程の手間がかかるか予想も出来ん。全て調べて潰して回るのが現実的でないなら、何らかの対策が必要になるだろう?

 私としては、必要以上の騒動は避けたい。何の準備も無いまま情報が広まり、地球に押しかけられるのも困る。

 お前達に私の立場を話したのは、防波堤的な役割をしてくれることを期待してという事もある」

 

「私達が情報を広めてしまうかもしれないわよ?」

 

「もしそうなったら、私の目が節穴だったという事だろう。

 結果的に余計な手出しを防げないなら、手段を間違えた私の責任だ。私の全てを以て排除するさ」

 

「全て、ね。

 そこに本局の襲撃も含むのね?」

 

「当然だ。人手不足だろうが、何十もの世界を傘下に置く管理局の物量を甘く見る気は無い。

 仮に闇の書の破壊能力を全て発揮させることが出来たとしても、過去の闇の書に対処してきたはずの管理局を相手に正面から勝てると思うほど夢想家でもない。

 であれば、物量を封じる……つまり管理能力を失わせるか、せめてこちらに構う余裕を失わせるしかないだろう?」

 

「つまり、好き好んで襲撃するわけではない、と」

 

「難民やら犯罪者やらが押し寄せてくる可能性も否定できんからな。必要も無いのに混乱させる事こそ悪手だ。

 だが、私が優先するのは、アコノ、夜天、はやて、地球の順だ。

 見た事も無い他の世界がどうなろうが、私は、私の手が届く範囲を守るために動く」

 

「そう……分かりました。協力しましょう」

 

 納得してくれた?

 成果として充分。

 今のところは、これ以上望む必要は無さそう。

 

「かあさ……艦長! いいんですか!?」

 

 クロノ・ハラオウンは慌て過ぎ。

 普段の地が出そうだった。

 

「もちろん、状況が変わった場合は協力出来ない事もあるでしょうし、機会を作ることに失敗する可能性も否定はできないわ。

 それは理解してもらえるわね?」

 

「もちろんだ。

 まずは、本局からの調査結果を見て判断してもらえばいい」




Q:これがアンチやヘイトの要素ですか?

A:そう受け取られる可能性がある表現だと思います。

但し、エヴァや妹達は、言っている事(管理局の裏側の話)が事実かは確認していません。あくまでも交渉のために言っていて、違っていた場合は「原作を見た限りではこう思えたけど、現実では違ったのか」と言い張る気が満々です。
でも、「初めに」に書いた通り、「主人公の感情」によるものは激しい表現もあります。
というか、アンチ・ヘイト的な表現は、無印編終盤以降が本番かもしれません。


無印の決定的ブレイク、始まるでしょう? 見ての通りテレビ版の設定を基本としたプレシア救済ルートの駒を進めています。
どう動くか、何をしたいかをバラしまくるうちの主人公達。その過程も楽しんでいただけると良いですが、更に予想の斜め上を行く事ができれば、嬉しいですね。


そして、この話が妹達分の無かったALL会話の回でした。
空気を呼んで黙っていた妹達に喋らせたら、何だかはっちゃけました。
その後も色々変わって、原型をあまり留めてない気もしますが。


(おまけ) IF:プレシアの過去、魔導炉実験事故が映画版だった場合

エヴァ&妹達は、プレシアの過去がテレビ版と確信していたわけではありません。
プレシアの過去が映画版である可能性は、警戒対象内です。なので、最初に「どこまで知っているか」を聞いています。
答えてくれなかった場合は何処に所属していたかの確認をして、それでもダメなら本文と以下の2種類を併用していたでしょう。

「まずは、最初の魔導炉の事故。アレクトロ社の開発主任の頃に事故を起こして退職したのは、まあ理解できる。裁判記録がある以上は訴えられたはずだし、責任問題もあるだろうからな。
 だが、その実験は来月の予定だったものを本社命令で無理矢理10日後に早め、本社から増員として送られてきた人間が無理に安全措置の作業を奪って、実施されたものだ。
 初めて新型魔導炉に触れる人間が通常より短期間で安全措置をするというのは、研究者の私としては正気を疑いたくなるのだが……ミッドチルダでは普通の事なのか?
 どう考えても、事故を起こしたかったとしか思えん。
 こんなふざけた実験で娘を亡くした母親の気持ちは、想像くらいは出来るだろう?」

これは、同情してもらうための材料として使用。
そして、プレシアが娘を蘇らせようと研究を始め、スカリエッティが目を付けた(蘇生に近い記憶転写型のクローンというアイデアと、その基盤と成り得る技術を見せれば勧誘は簡単だっただろう)、となります。ジュエルシードについては同じです。

こっちだと1回減る分踊らされてる感が少ないので、様々な思惑に振り回されて可愛そうだから助ける、という流れになったでしょう。この方が管理局アンチ的な要素が減りますね。


2013/05/06 輸送艦→輸送船 に修正

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