青の悪意と曙の意思   作:deckstick

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無印編31話 翼

 変態(ロリコン)が去った後の、アースラでのお話。

 お姉様とリンディ・ハラオウンの簡単な打ち合わせの後、ユーノ・スクライアの緊急検査が行われた。

 変態(ロリコン)の主になったらしいという事で、何か身体的、精神的、魔力的な影響が出ていないか調べる必要があると判断。宵天も真の主だと不老不死化の可能性が否定出来ないけど、とりあえずお姉様の主と同じく不老についてだけは、可能性があると情報公開。

 結果、現状ではほとんど影響なし。ごく僅かな魔力の流れが検出された程度で、念話が繋がりやすい、居場所を把握しやすいくらいと判明。恐らく仮の主の状態で抑えられている様子。

 皆でホッとしつつも、気疲れした事もあって、比較的早い時間だけど休むことになった。

 お姉様への間宮萬太に関する報告は、翠屋に来て主が理詰めで言い負かして追い払った、と伝えて終了。一部はお姉様がダメージを受ける内容、詳細な報告はしないと主と相談のうえで決まっている。

 

 と言うわけで、翌朝。

 お姉様は、高町なのはとユーノ・スクライアを連れて、海鳴市の公園へ来てる。

 何故か変態(ロリコン)もいる。見たくもないのに。

 

 ここに来た理由は、ジュエルシードがあるから。

 真鶴亜美から得た位置情報、陸上にある最後の1つ。

 原作でも高町なのはが確保する分だから、教える事に問題は無い。

 

「フェイトが持って行った分の場所も分かっていたからな。

 協力体制がもっと早く出来ていれば、それも確保出来たんだぞ?」

 

 周囲に人影は無いけど、お姉様は黒龍を起動してカートリッジを2発ロード。

 三角の魔法陣を見せながら、封時結界を展開してる。

 

「そ、そうだったんですか?」

 

「探すの、あんなに苦労してたのに……」

 

「手土産の情報として調べておいたんだ。

 それなりに早く連絡してくると思っていたからな」

 

 お姉様の言葉に驚くユーノ・スクライアと、落ち込む高町なのは。

 それでも手は動かし、砂場の中に埋もれたジュエルシードを掘り出して、封印。

 無事終了。

 

「ん? 次元干渉か?」

 

「え? なになになに!?」

 

 空間が裂けた。

 お姉様はさり気なく黒龍をリロード。

 ユーノ・スクライアは静かに警戒中。

 高町なのはは慌ててる。というか、何が起こってるか理解してない。

 空間の先の座標が探知出来ない。

 お姉様の別荘を外から探ろうとした感じに似てる。

 中から人?

 全体的に白い。

 翼がある。

 気を失ってる。

 怪我もしてる。

 体力の消耗が酷い様子だけど、魔力はあまり減ってない?

 現時点で、高町なのはに迫る保有量。AA+かAAA-くらい。

 持っているのは、折れた太刀?

 ずいぶん大きい。野太刀の可能性も。

 先ほど封印したジュエルシード、シリアル12との対応は確認。

 

「このおでこに白い翼は、どう見ても桜咲刹那ちゃんですね。

 髪が白いのは、染めていないせいでしょう。

 彼女も転生者でしょうね?」

 

変態(ロリコン)は黙れ。

 しかし、ここまであからさまな制限の解除もあるのか……

 リンディ、見ているだろう? こいつをアースラに連れて行って構わないか?

 無理なら私が保護するが」

 

『見えているわ。恐らく次元漂流者でしょうし、こちらの職務の範疇でしょう。

 一旦、全員で戻ってきてもらえるかしら?』

 

『ゲートを作ります。少し待っていて下さい』

 

 空中にリンディ・ハラオウンの映像が登場。

 オペレータみたいに、音声だけでもいいのに。

 

「そうか、わかった」

 

「その小さな体で運ぶのは苦しいでしょう。私が優しく抱きかごぉっ!?」

 

 お姉様の投石。

 変態(ロリコン)の顔面にかいしんのいちげき。

 

変態(ロリコン)は喋るな動くな存在するな」

 

「おやおや、これは随分な言われようですね」

 

 笑顔で鼻血を垂らす変態(ロリコン)

 変態度が急上昇。

 見たくない。

 改心の一撃を放ちたい。

 殴って矯正出来るなら、全力で殴る。

 

『ゲートの準備が出来ました。転送するので、集まってください』

 

「ああ」

 

 お姉様は桜咲刹那もどきを浮遊魔法で浮かせると、静かにゲートへ。

 高町なのはとユーノ・スクライアも続き、変態(ロリコン)は最後にそっとついてきた。

 そして、一行はリンディ・ハラオウンのいる司令部へ。

 桜咲刹那もどきはお姉様が浮かせたまま、ユーノ・スクライアが回復魔法をかけてる。

 元々、傷はそれほど深くない。

 意識が回復するのは時間の問題。

 

「さて、ジュエルシードを封印した直後に現れた彼女だけれど……転生者、という事でいいのかしら?」

 

 リンディ・ハラオウンからの質問は、明らかにお姉様を向いてる。

 というか、お姉様と変態(ロリコン)の会話を聞いていたら、これ以外の結論が出ない。

 

「見た目を考えると、恐らくそうだ。

 私と同じ物語の登場人物の外見なんだが……その前に、ちょっと気になる事がある。

 翼を持った種族に心当たりはあるか?」

 

 割と心配な点。

 異端じゃない場所の有無は大事。

 

「いいえ……それこそ物語ぐらいにしか、翼を持つ人に心当たりは無いわね。

 もしかしたら、情報が制限されている管理外世界にいるのかもしれないけれど」

 

「そうですね。使い魔や疑似生命体などの人工的なもの以外では、私も動物などの特徴を持つ人は見た事がありませんよ。

 そんな人を見付けていたら喜んでエヴァちゃんに記録をお願いするところですが、送った情報に該当するものは無かったでしょう?」

 

「黙れ変態、貴様の情報など調べる気にもならん。

 だが、こいつはここでも異端か……ジュエルシードの悪意も趣味が悪いな」

 

 やっぱり一般的じゃなかった。

 でも、そんな特殊な存在も用意したジュエルシードの超性能に驚愕。

 もはや妄想具現化の領域。腐れ魔法の塊とは思えない。

 

「う……」

 

 桜咲刹那もどきが目を覚ました。

 周りを見回してる。

 状況を理解してない?

 

「目が覚めたか。

 さて、ここがどこか理解できるか?」

 

「エヴァさん、ここは時空管理局の艦船の中だから、私達に任せてもらえないかしら?」

 

 リンディ・ハラオウンがちょっと怒ってる?

 明らかに時空管理局の勢力圏。

 お姉様がでしゃばり過ぎた。

 

「建前としては確かにそうだな。必要だと思ったら口を出すぞ?」

 

「ええ、それは構わないわ。

 さてと、私はリンディ・ハラオウンといって、ここで一番偉い人をしているわ。

 まずはお名前を聞かせてもらえないかしら?」

 

「え……と、はい、私はセツナ・チェブルーといいます。

 すみません、ここは一体……」

 

 なんだか、おどおどしてる。

 状況を全く理解してない?

 

「時空管理局の次元空間航行艦船、アースラの中なのだけれど……分かる言葉はあるかしら?」

 

「時空、管理局……? じげんくうかん……? 航行艦船……船、ですか?」

 

 明らかに、チラチラとお姉様を見てる。

 助けを求めてる?

 魔法少女リリカルなのはを知らない?

 変態(ロリコン)を見ないのは、アルビレオ・イマを知らないから?

 

「なるほど、理解出来ていないようだな。

 ならば、魔法少女リリカルなのは、魔法先生ネギま。

 この名前に聞き覚えは無いか?」

 

「あ、両方とも名前くらいは。

 ネギまは少し知っています。えーと、エヴァンジェリンさん、ですよね?」

 

 やっぱり変態(ロリコン)が魔法先生ネギまの登場人物に似ている事に気付いた様子が無い。

 初期の話しか知らないせい?

 もはや覚えていないか、興味の薄いキャラクターだった可能性も。

 

「外見としてはそうだな。

 一応訂正しておくと、私の名前はエヴァンジュだ。略称は同じだからエヴァとでも呼ぶといい。

 私が分かったという事は、自分の外見が桜咲という事も分かるな?」

 

「はい。桜咲刹那、ですね。

 良かった、やっと話が通じる人に会えました……」

 

 明らかに安堵の表情。

 リンディ・ハラオウン形無し。

 セツナ・チェブルーは、今まで孤独な生活を強いられていた?

 というか、今まで居た場所はどこ?

 転生者以外に、魔法先生ネギまの話は通じない。

 秘密を抱えたまま、見知らぬ地で孤独を感じていた可能性も。

 オリ主ヒャッハーをしていたのなら話は変わるけど、そんな感じの性格ではなさそう。

 

「安心しているところに悪いが、嬉しくない情報だ。

 把握している世界に、翼のある種族は心当たりが無いらしい」

 

「……えっ?

 ということは、桜咲の刹那みたいに、迫害対象……ですか?」

 

 セツナ・チェブルーのテンションが一気に下がった。

 心配そう。

 不安そう。

 

「その翼は隠せるのか?」

 

「それは大丈夫です。寝る時にも邪魔になるせいか、消せるんです。

 でも、隠さないといけませんか……綺麗ですし、結構自慢なんですが」

 

 白くて大きな翼。

 確かに綺麗。

 勿体無い。

 

「確かに、隠すのは惜しいですね。自慢するのも納得の、天使の様な美しさですから。

 ぜひもふ「黙れ変態」」

 

 お姉様の声が、1オクターブ下がった。

 ぱしゅっ、と軽い音がして、黒龍から余剰魔力が放出された。

 変態(ロリコン)は氷漬け。ざまぁ。

 ついでに周囲の気温もちょっと下がったけど、気にしない。

 

「とりあえず隠す必要があるかどうかは、今後次第だな。

 と言うわけで、いくつか質問や確認だ。

 まず、前世の記憶を持ち、胡散臭い神っぽい何かに願いを言って、転生した。

 この説明で間違った点はあるか?」

 

「いえ、まさにその通りです。

 空を飛びたいとか、剣術を使いたいとか、主人公達と同じくらいの強さとか言った覚えがあります」

 

 空を飛びたいが、翼。間違いない。

 折れた太刀を持ってた。何らかの剣術を使えると見ていいはず。

 主人公と同じくらい……実力が不明。桜咲刹那相当なら、高い戦闘力を持ってるはず。

 魔力量は高町なのはに迫るものがある。鍛え方次第では、同程度の強さになるのは充分可能と思える。

 同程度を目指すなら、若干少ない魔力量を剣術で補う形になる。シグナムに近い戦闘形態が完成形?

 

「まさに桜咲が適役の条件だな。

 次だ。ここがリリカルなのはの世界だという事は知っているが、その内容は知らない。

 この認識であっているな?」

 

「はい、間違いありません。

 魔法少女という名前から、ファンシーな内容を想像していました。

 今までいたのは、どちらかと言えばゲーム的なファンタジーでしたが……」

 

 ファンシーな内容という事は、ふりふりの服装に変身するのが希望だった?

 ゲーム的なファンタジーも気になる。

 れべるあっぷ的な世界?

 もしかして、召喚獣や精霊も?

 

「くっ……色々と突っ込みたい上に途轍もなく興味深いが、その話は後にするぞ。

 リリカルなのはの登場人物に対して、何か思うところはあるか?」

 

「いえ、全く。外見も性格も知らないので、何か思うにも情報が足りませんし。

 ここも何だかメカメカしいですし……うーん、やっぱりどんな世界で、どんな人がいるのか想像できないです。

 会ってみてどんな人か判断する事になるので、別に登場人物かどうかは関係ありません」

 

 タイトルくらいは知ってる、という表現と矛盾しない。

 本当に内容を知らない模様。

 

「では、ここが物語の世界と認識した上で、何かしたい事はあるか?」

 

「特にありません。

 むしろ、元の日本みたいに平和な国に行けるなら、ゆっくりしたいです。

 今までいた世界が命懸けのゲームみたいな感じで、生き残る事で精一杯でしたから」

 

 外見的には、難しい?

 桜咲的な意味では、翼を隠せば何とかなるかも。

 

「ならば、ニコポやナデポと言った能力を持った、他の転生した者が近づいてきたらどうする?」

 

「えーと……それは、どんな能力ですか?」

 

 用語が通じてない。

 二次創作系の話にも疎い?

 

「済まない、通じなかったか。

 ニコポは、笑みを向けた相手に惚れられる能力。

 ナデポは、頭を撫でた相手に惚れられる能力。

 概ねこんな感じに思えばいい。要するに惚れ薬の様な能力だな」

 

「そんな、人をモノの様に扱う能力があるのですか?

 そんなものを望むような外道は、人類の害悪です。

 迷わず切り捨てます」

 

 言い切っちゃった。

 殺人予告。

 でも、何だか頼もしい。

 

「よし、合格。お前は私が守ってやる。

 魔力もある様だから、私が知る系統で良ければデバイスも作ってやるし、魔法も教えてやるぞ。

 拠点は日本だ。地名は少し違うし前世より10年近く前のようだが、前世の日本にかなり近い。

 元々に近い生活は可能だ」

 

「本当ですか!?

 ありがとうございます、是非お願いします!!」

 

 セツナ・チェブルーは喜んでいる。

 犬ならきっと、ぶんぶん尻尾を振ってる。

 むしろ、そんな姿が幻視出来そうな勢い。

 

「ええと、ちょっといいかしら?

 地球で翼を隠して生活するより、ミッドチルダの方が過ごしやすいんじゃないかしら。

 使い魔みたいに明らかに人じゃない方々もいるから、翼があっても迫害はされないでしょう。

 魔法が公になっているから、場所を選んできちんと手続きをすれば、個人で空も飛べるし」

 

 リンディ・ハラオウンの勧誘!

 

「うっ、そ、そんな所が……

 でも、日本も捨てがたいですし……ううぅ」

 

 セツナ・チェブルーは動揺した!

 

「拠点については、慌てずにゆっくり考えればいいさ。

 いきなり言われても、情報不足では判断のしようも無いだろう?

 知識が無い場所と故郷に似て非なる場所は、比べられないだろうからな。

 実際に両方見てから考えればいい。それくらいの猶予はあるはずだ」

 

「そ、そうですね。

 情報収集は基本でした」

 

 何だか、ゲーム的な思考をしてる?

 だけど、安易に選択する事は避ける程度の冷静さはある模様。

 あとは、うまく誘導すれば問題ない。

 

「さて、そろそろ人物の紹介をしておくぞ。現状把握のための情報でもあるからな。

 そこの小さい女の子が、原作タイトルにも名前がある主人公、高町なのはだ。この場にいる唯一の地球人だな。

 隣の小さい男の子が、ユーノ・スクライア。地球ではフェレットの姿で、要するにマスコット役だ。

 さっきも名乗っていたが、ここで最も偉い艦長のリンディ・ハラオウンと、その息子で2番目に偉いクロノ・ハラオウンと、3番目でクロノの補佐で通信担当のエイミィ・リミエッタの3人くらいは覚えた方がいいか。

 ここまでの5人は、リリカルなのはに重要な立場で登場する人物でもある」

 

「は、はい。

 そうなると、ここは原作で登場する場所、という事ですね」

 

 理解が早い。

 ゲームやアニメ自体を知らないわけではない模様。

 

「そうだな……次元世界や次元空間の説明が難しいな。

 有り体に言えば宇宙船の中だ。詳しくは後で教えてやるから、とりあえずそう理解しておけ」

 

「宇宙船、ですか。

 宇宙戦艦長門やスタートラックみたいなものだと思えばよいという事ですね」

 

 こっちは通じた。

 むしろ、男らしい品揃え。

 

「……即座に出るのがそれなのか。

 失礼だが、前世は男だったりするのか?」

 

「はい。女性の体って、色々面倒ですね」

 

 あっさり認めちゃった。

 お姉様の仲間を発見。

 主に性転換的な意味で。

 ついでに人外的な意味でも。

 

「そうか……私も前世は男だった。

 ついでに、人間でもなくなっている。吸血鬼の様な能力を望んだせいだろうがな」

 

「本当ですか!?

 こ、こんな苦労を分かち合える相手と会えるなんて、今日は人生最高の日です……」

 

 がっしりとお姉様とセツナ・チェブルーが握手してる。

 仲間意識?

 色々と同類。

 

「私も転生者で、今は人間でもなくて、前世も男なのですが?」

 

 変態(ロリコン)が何か音を出してる。

 というか、いつの間にか氷が解除されてる。

 とりあえずは無視無視。

 

「ん? ……何か聞こえた気がするが……まあ、気のせいだろう。

 ああ、気を付けろ。ここには変態(ロリコン)がいるからな。

 下手に気を抜くと、寝室に侵入されるぞ」

 

「そ、そうなんですか!?

 気を付けます!」




何のことは無い、せっちゃんとったどー! の回。

エヴァが散々口を出していますが、任せてという要求を(理解は示しましたが)了承していません。
むしろ、必要だと思ったら口を出すと宣言し、了承されています。
そして、必要だと思ったから口を出しました。
だから悪くない。と、全力で主張します。リンディも様子見に入ってましたし。


次話はセツナに関する説明の回となります。セツナがいた世界の話も出ますが、今後その世界の出番はありません。ありませんからねっ!

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