青の悪意と曙の意思   作:deckstick

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無印編38話 時の庭園

 お姉様達が、時の庭園に転移してきた。

 アースラに残るエイミィ・リミエッタが指揮するために、サーチャーも一緒。

 場所は、屋敷入り口前。

 警備システムのレベルが上がり傀儡兵が現れた現状とアースラの性能では、これ以上奥への転移は危険がある模様。

 目の前には傀儡兵が12体。

 

「鬱陶しい雑魚がたむろっているな」

 

「雑魚って……Aランク相当ですよ?

 侮っていい相手では……」

 

 同じAランク相当のユーノ・スクライアにとっては、油断出来ない敵。

 でも、お姉様にとっては雑魚。

 

「そこで見ていろ駄フェレット、格の違いを見せてやる。

 いくぞ、ロードカートリッジ、誘導狙撃弾(Sniper Kugel Induktion)!」

 

 原作のスティンガースナイプ相当魔法、更に加速&強化版。

 最後の中型もまとめて、どっかん。

 入り口前の傀儡兵12体、一発で終了。

 

「は、速い!?」

 

 ユーノ・スクライアが驚いてる。

 ここで驚くのは高町なのはの役目だったのに。

 

「さあ、突っ込むぞ!

 ロードカートリッジ、高速飛行(Kurzen flug)!」

 

「ちょ、ちょっと待て! そんなに急ぐなエヴァンジュ!」

 

 クロノ・ハラオウンが何か言ってる。

 でも、気にせずに単独先行。

 

(妹達、この先の情報を。

 原作通り、次は直線通路の先の、雑魚がうようよいる広間か?)

 

 通路に敵影無し。

 足場が抜けた通路の先の広間に、傀儡兵が6体。

 中型1、飛行型2、小型歩兵3。

 このまま真っ直ぐ突っ込んで問題無し。

 虚数空間への落下にだけ注意。

 

(よし。突っ込むぞ、ロードカートリッジ!)

 

 ロード直後、高速飛行のまま蹴り一発で扉を粉砕。

 傀儡兵6体を視認、射線良好。

 

高速散弾(Bleischrot)!」

 

 どっかん。

 やっぱり1発で終了。

 リンディ・ハラオウンの儀式魔法展開の場所を確保。

 アースラやデバイスの情報収集に干渉する準備を開始。対象(リンディ)が来るまでに済ませる。

 

(私はこのまま突っ込む。誘導と索敵を頼む)

 

 了解。

 お姉様は階段を下へ。

 

「やれやれ、随分と優秀だ」

 

 クロノ・ハラオウン他5名、お姉様が去った広間に到着。

 お姉様の攻撃魔法と何かが爆発する音が、盛大に響いてくる。

 

「だけど、凄いわね。

 戦闘の訓練を受けていないと言っていたけれど、信じられないくらいだわ」

 

 リンディ・ハラオウンが、壊れた傀儡兵を見て感心してる。

 

「ですが、圧倒的な速度と十二分な威力で殲滅している様ですから、戦闘ではなく蹂躙、むしろ速射の訓練と言いたいのかもしれません。

 このまま放っておくわけにもいきませんし、僕はエヴァンジュを追います。

 君達はどうする?」

 

 クロノ・ハラオウンはプレシア・テスタロッサへ向かう宣言。

 やはり、お姉様の話が気になる?

 

「傀儡兵相手に陽動を頼まれているから、駆動炉に向かう方向で暴れさせてもらうよ。

 危なければ撤退してもいいらしいから、気楽な任務だね」

 

「陽動が要らないような気もしますけど、敵の排除は無駄にはならないと思いますし」

 

「ついでと言ってはなんですが、庭園の駆動炉を制圧いたしましょう。

 これが、エヴァ様からの元々の指示でございましたからな」

 

「僕は、そちらの手助けをします。敵もそっちの方が多いみたいですし」

 

 転生者3人とユーノ・スクライアは、お姉様の指示通り。

 

「そうか、分かった。

 駆動炉のエネルギー反応は上層だ。気を付けて行ってくれ」

 

「分かった」

 

 成瀬カイゼが頷き、セツナ・チェブルー、チクァーブ、ユーノ・スクライアと共に上の通路へ。

 リンディ・ハラオウンは、儀式魔法の準備を開始。

 

「クロノ、気を付けて。

 ほとんどエヴァさんが始末してしまっているとしても、油断してはいけないわ」

 

「分かっています。

 母さんも気を付けて」

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 その後、SクラスとAクラスの人工リンカーコアを持つチクァーブの分体2体が電子精霊の機動力を見せ付け、あっという間に駆動炉の制御装置の内部へ侵入。

 現在は制御装置を制御下に置くべく、電子的な制圧を試みてる。最悪でも駆動炉の強制封印で何とかなるし、傀儡兵に気付かれていない上に制御装置を攻撃しないだろうから、とても安全。

 

 成瀬カイゼ、セツナ・チェブルー、ユーノ・スクライア、チクァーブは快調に暴れてる。

 

 しかもチクァーブが分体をたくさん、具体的にはAからAAAクラスの人工リンカーコアを持つ8体に加えて、デコイ、対AI、戦闘支援用に数十の分体を出してるため、計算上の投入戦力としては原作を大きく上回る。ネズミ耳の犬上小太郎がいっぱいで可愛いけど、やっぱり口調のせいで残念気味。

 途中で現れた大型の傀儡兵は、人工リンカーコアを持たない分体が侵入。内部のAIに破壊工作(クラッキング)を仕掛け、動きを鈍らせている間に砲撃であっさりと撃破。

 侵入した分体ごと。

 障壁を張らせない鮮やかな手並み。しかも、AIの乗っ取りに成功した小型の傀儡兵を戦力や盾として使ったりもしてる。なかなかえげつないけど、有効な手法。

 恐らく全体俯瞰及び管制用と思われるあまり動かない分体も数か所にいるし、3人の肩にも分体を配置して戦闘指揮と連携補助をしてる。お姉様達に対する私達のような役目も果してる模様。

 

 成瀬カイゼとセツナ・チェブルーにとっては、良い実戦経験の場。元々命懸けの戦闘を知っている上に、密に連絡を取れる司令塔と補助しあえる仲間がいて、駆動炉まで急ぐ必要も無いからか焦りも無い。

 結果的に手堅く落ち着いた戦いを見せてる。単騎で力押ししがちな高町なのはよりも安心の内容。

 

 ユーノ・スクライアは、完全後衛。AI攻略中の傀儡兵をバインドで縛ったり、ちょっとした足止めをしたりしてる。動きの悪くなった傀儡兵の1体や2体では、ユーノ・スクライアのバインドから逃れられない。バラバラになった瞬間に再度縛ってるし、危なげない状況を維持してる。

 

 結論、私達の手助けは不要。陽動と言うよりは、殲滅戦として文句のない戦闘が出来てる。

 お姉様の蹂躙と併せて、傀儡兵の損耗速度が半端ない。

 

 

 そうしている間に、リンディ・ハラオウンのディストーションシールドも展開完了。

 効果は、次元震の低減に留まってる。原作より多いジュエルシードを相手にするのはやはり苦しい模様。

 だけどこの状態で、音声のみとはいえプレシア・テスタロッサの所に通信を繋ぐ技量は見事。

 

「プレシア・テスタロッサ。

 終わりですよ。次元震は、私が抑えています」

 

 通告は原作通り。

 でも、原作と違って次元震は収まってない。

 

「駆動炉もじき封印。

 貴女の元には、執務官も向かっています。

 世界をいくつも崩壊させるような事態を招いておいて、一体何をするつもり?」

 

 そういえば、プレシア・テスタロッサからは行動目標を聞いてない。

 苦しくても裏を取ることを忘れないリンディ・ハラオウン。

 流石、提督。

 

「私達は旅立つの。忘れられた都、アルハザードへ。

 この力で旅立って、取り戻すの。全てを!」

 

 次元震が収まりきっていないせいか、プレシア・テスタロッサはまだ強気。

 

「忘れられし都アルハザード、そしてそこに眠る秘術は、存在するかどうかすら曖昧な、ただの伝説です」

 

「違うわ。アルハザードへの道は、次元の狭間にある。

 時間と空間が砕かれた時に、その狭間に滑落していく輝き。

 道は、確かにそこにある」

 

「ずいぶんと分の悪い賭けだわ。

 それに、何も出来ない虚数空間をどうやって渡るつもり?」

 

「道は、そこにあるのよ!」

 

 プレシア・テスタロッサの逆鱗に触れた?

 だけど、虚数空間についてこんなに無知だとは信じられない。

 何らかの認識阻害の影響?

 意識誘導の可能性も。

 間もなくお姉様が到着。

 サーチャーやデバイスへの干渉を開始。チクァーブに駆動炉封印を指示。

 

「これ以上踊らされるなプレシア! 使用者強制登録(Ich verwende eine)!」

 

 お姉様、壁を蹴破って登場。

 ジュエルシード12個、裏口(バックドア)を開放。使用者情報を更新、お姉様の制御下へ。

 魔法陣やら魔法名やらは、ベルカ式に偽装。アルハザード式だとは悟らせない。

 暴走の強制停止に既存の抑制回路は役に立たない。力尽くで抑え込む。

 

「何をしたというの!?」

 

 プレシア・テスタロッサが驚いてる。

 次元震の規模を現状で固定、ディストーションシールドを強制解除。

 アースラからリンディ・ハラオウンへの魔力供給を横取り。

 リンディ・ハラオウンには、問題無いからクロノ・ハラオウンを追うよう通告。

 

「ジュエルシードを支配下に置いただけだ。

 何しろ、私が作ったデバイスを元に作ったらしい腐れ魔導具だからな。

 管理用の裏口がそのままだったのには笑うしかないが、それだけだ。

 では、話を始めようか。プレシア・テスタロッサ」

 

「偉そうな口を。消えなさい小娘!」

 

 プレシア・テスタロッサの雷撃。

 でも、駆動炉はジュエルシードを抑えるのとほぼ同時にチクァーブが封印済み。

 無理し過ぎたせいか、AAの魔導師と同程度の威力になってる。

 お姉様は別途障壁も張らず、防護服だけで防御。

 

「ふん、見た目に誤魔化されたな。

 存在期間だけで言えば、私はお前より圧倒的に年上だ。

 ジュエルシードの基礎構造を知る者が、こんな見た目通りの年齢のわけが無いだろう?」

 

「……何者なの?」

 

 やっとで、プレシア・テスタロッサがお姉様を警戒した。

 ずいぶん遅い。

 プレシア・テスタロッサの後ろに、レイジングハートとバルディッシュが落ちてる。

 共に破損が酷いけど、破壊はしていない模様。

 

(レイジングハート、バルディッシュ。お前達は主人の元に居たいだろう。

 送ってやる。あいつらの傍に居てやってくれ)

 

(Yes, sir)

 

(Thank you, little lady)

 

 ジュエルシードの魔力を使って、こっそり転送。

 気付かれずに成功。問題ない。

 クロノ・ハラオウン到着。息は切れてるけど、当然ながら無傷。

 アースラのサーチャーも付いてきた。干渉は念入りに、お姉様の姿や声も残させない。

 高町なのはやフェイト・テスタロッサのいる部屋は、実際の声や姿を確認出来る状態に。恐らくフェイト・テスタロッサの気付けくらいにはなる。

 リンディ・ハラオウンはこちらに向かってる。もう少しで到着予定。

 

「はぁ、はぁ……エヴァンジュ、急ぎ過ぎだ。

 だが、もうジュエルシードは封印済みなのか……

 話はどうなっている?」

 

 クロノ・ハラオウンは、文句を言いながら状況確認。

 ジュエルシードが封印済みだと思われた。

 お姉様の制御技術を称賛。

 

「まだ、まともに話せていない。

 要するに、今からだ」

 

「そうか。それなら、前口上だけ言わせてくれ。

 時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。

 僕達は、少なくとも話し合いが終了するまでは手出しをする気が無い。

 話し合いを受け入れるか、抵抗するかは自由だ」

 

「判断材料として一応言っておくが、私からの提案はなかなか良いものだぞ?

 少なくとも、アルハザードへ行く事に比べれば、確実性と言う意味で随分と差がある。

 それに、見てわかるだろうが、私がジュエルシードを制御しているからな。

 魔導炉の補助無しで12個のジュエルシードと戦いたいのなら仕方ないが、話くらいは聞いてもいいだろう?」

 

 プレシア・テスタロッサは、お姉様を睨んだまま考え中。

 クロノ・ハラオウンは、制御しているというお姉様の言葉にちょっと驚いてた。

 そうしている間に、リンディ・ハラオウン到着。

 睨み合うお姉様とプレシア・テスタロッサの空気を読んだのか、静かにクロノ・ハラオウンの隣に移動した。

 

「……いいでしょう、言ってみなさい」

 

 リンディ・ハラオウンが何も言わない事で手出しする気が無い事は本当だと判断した?

 プレシア・テスタロッサが厳しい目付きのまま、お姉様に話を促した。

 

「ふむ、では、簡単に言おう。

 私が提案するのは、互いに求めるものを提供し合う、相互利益の協力体制の構築だ。

 先に私が求める事を言っておくか。

 私が求めるのは、この先予定している作業の手伝いだ。大魔導師と呼ばれる知名度を借りたい。

 詳細はまだ伏せるが、成功すれば大きな名声が得られるような内容だな。

 得られる名声は、全て持って行けばいい。過去の罪とやらの清算もそれでできるだろう」

 

「そう……それで、言いたい事はお終い?」

 

「いや、私が提供するものはここからだ。

 まず、アリシアの治療だ。恐らく可能だろうと踏んでいる。

 それと、プレシア。お前の体の治療だな。アリシアが目覚めてから共に過ごすには病み過ぎだ。

 あと、コレは要求にもなるが、出来ればフェイトを娘として扱ってやれ。アリシアの願いにそれらしいのが無かったか?

 要するに、娘達と過ごすための前提条件を整えると言っている」

 

 あれは映画版の会話。

 さて、どう出る?

 アリシアの治療という表現をどう受け取るかが勝負?

 

「治療……ですって?」

 

 プレシア・テスタロッサの目が、より厳しくなった。

 信じられない?

 アリシアの蘇生と言わなかった事が気に入らない?

 

「私が見る限り、アリシアは完全に死んだと言える状態ではないように思えてな。であれば、蘇生より治療と言う表現が正しいだろう。

 お前がアリシアの治療にかまけて無くしていた家族を、改めて始めてみるのもいいと思わんか?」

 

「フン、馬鹿な事を。

 何を根拠にそんな事を言っているの?」

 

 鼻で笑われた。

 でも、信じられない事は理解出来る。

 

「詳しくはまだ話せんが、そうだな……

 願望を叶えると言われるジュエルシードが、この場に21個全てある。

 全て使えば、大抵の願いはどうにかなりそうだと思わんか?」

 

 根拠より実現手段の提示。ジュエルシードの責任にしてみた?

 アルハザードの情報は話せない。話せる中では現実的な実現手段に思える。

 緊急報告。

 フェイト・テスタロッサと高町なのはが、デバイスに魔力を込めて高速修復。

 フェイト・テスタロッサとアルフはお姉様の所に向かうつもり。

 高町なのはは、戦闘中のセツナ・チェブルー達に合流予定。

 

(プレシアと話したい事は、原作同様だな?)

 

 恐らく。

 高町なのはに、頑張って、と言われてた。本来は戦闘後、別行動になる際の言葉。

 フェイト・テスタロッサとアルフが時の庭園内に移動。

 かなり下層への直接転移。到着までさほど時間はかからないはず。

 

「そもそも、お前はこれを使ってアルハザードに行くつもりだったのだろう? 存在する場所の分からないアルハザードに行く道を作るより、目の前の人の治療の方がよほど簡単だ。

 そうだな、もし失敗したらペナルティも受けようじゃないか。

 アリシアの治療に失敗したらこの話は白紙に撤回していいし、欲しいなら私の首もくれてやる。

 最も、そんな事態にならない自信があるから言える事だがな」

 

 わお、大胆。

 リンディ・ハラオウンとクロノ・ハラオウンの顔も険しくなった。

 ほいほい命を投げ捨てるように見えるのが気に入らない?

 フェイト・テスタロッサとアルフ到着。

 アルフの表情は険しい。

 フェイト・テスタロッサは、ちょっと悲しそうな表情。

 プレシア・テスタロッサは、2人を睨み付けてる?

 

「……母さん」

 

 先に口を開いたのは、フェイト・テスタロッサ。

 プレシア・テスタロッサの表情は厳しいまま。

 

「何をしにきたの。

 消えなさい。もう、貴女に用は無いわ」

 

「……貴女に言いたい事があってきました。

 私は……私は、アリシア・テスタロッサじゃありません。

 貴女が作った、ただの人形なのかもしれません。

 だけど、私は……フェイト・テスタロッサは、貴女に生み出してもらって、育ててもらった、貴女の娘です」

 

「ふっ……ふふふふふふ、だから何? 今更貴女を娘と思えと言うの?」

 

「貴女が……それを望むなら。

 それを望むなら……私は、世界中の誰からも、どんな出来事からも、貴女を守る。

 私が、貴女の娘だからじゃない。貴女が、私の母さんだから」

 

「下らないわ」

 

 切り捨てる前の一瞬、プレシア・テスタロッサの表情が優しくなった。

 なんて原作同様。

 

「やれやれ、娘が頑固なら母も頑固だな。似た者親子じゃないか。

 リンディ、済まないが残りのジュエルシードを出してくれないか。

 証拠を見せない限り、この頑固者は納得しそうにないんでな」

 

 睨み合う親子を放置してお姉様は飛行魔法を解除、リンディ・ハラオウンへと歩み寄ってく。

 こっちの目的は、全てのジュエルシードの確保。

 頑張れお姉様。

 

「どうするつもり?」

 

 リンディ・ハラオウンは、怪訝そう。

 ジュエルシードも出してくれない。

 

「実際にアリシアを治療すれば、少しは話を聞く気にもなるだろう。

 と言うか、命のある娘を連れて虚数空間に落ちる程には狂っていないと信じたい」

 

「そう……後で返してもらうわよ?」

 

「仕方ないな。それは約束しよう」

 

 思ったより、リンディ・ハラオウンの抵抗が小さい。

 後で返す約束だけでいいのは予想外。

 

(受け取り次第、私を所有者としてロックした上で召喚機能を埋め込むぞ。

 どうせリンディやクロノの前では気軽に使えないし、原作通りならスカリエッティ辺りの手に渡るだろうからな。くすねるのは難しいから、その頃に返してもらおう)

 

 了解。

 召喚術式の用意と改変箇所の確認は完了済み。

 いつでも大丈夫。

 

「だが、本当に蘇生が可能なのか?」

 

 クロノ・ハラオウンは疑惑の表情。

 やはり蘇生は信じられない模様。

 情報の封鎖を行う準備は完了済み。そろそろ頃合い?

 

(わかった、結界を張ってくれ。

 ここからオフレコだと思わせるぞ)

 

 了解。結界の準備開始。

 情報封鎖……完了。

 2人共ちょっと反応した。気付かれるように展開したのは成功。

 

「コレを何だと思っている?

 望みを叶えると思われているロストロギアだぞ。

 性格も頭も処理能力も制御能力も記録されている魔法の質も悪いが、出力だけは保証してやる」

 

「だからと言って、死者の蘇生など……出来るのか?

 過去にその様な記録は無いし、魔法を学べば出来ない事が常識として解るはずだが……」

 

 死者の蘇生は、確かに記録に無いはず。

 でも、それは、“死者”の“蘇生”の記録を探すから。

 

「少なくとも、前者は死者の定義の差だ。さっきから治療と言っているのが聞こえていないのか?

 今でも仮死状態からの回復ならいくらでも例があるだろう。それに、心臓が止まっても、医師なりが死亡と判断するまでは死者でもない。

 昔は、治療が可能と思われる状態であれば、それは仮死と扱っていた。つまり、心臓が止まっていようが、体が半分になっていようが、治療可能と判断できる間は死者だと見なさない。

 程度に差があるだけで、今だって似たようなものだろう。言っている意味は分かるな?」

 

「つ、つまり……蘇生が出来ないから死者なのであって、治療者が諦めるまでは死んでいない、という事になるが……」

 

「今でも、植物状態で体だけが生きている状態はあるだろう。

 あれは生きているのか? 死んでいるのか?

 生きるとは何だ? 心臓が動いていればそれでいいのか?

 死ぬとは何だ? 二度と意思の疎通が出来なくなる事とどう違う?

 

 どうやっても意識が戻らないのが確実であれば、例え心臓が動いていても鮮度のいい死体と変わらん。逆に言えば、意識が戻る手段があり、それを行使するつもりなら死んでいないと言えんか?

 少なくとも、私が眠る前の文化ではそう扱っていた。死者の蘇生を試みる際も、調査で可能と判断された時点で仮死だったと見なされる。

 故に、死者からの蘇生は有り得ない。あるのは、仮死だった者の治療だけだ」

 

「そ、そんな事が……いや、だけど、生き証人の言っている事だし……」

 

 クロノ・ハラオウンが思考の迷宮入り。

 存分に逝ってらっしゃい。

 少なくとも、アルハザードと古代ベルカはこの考え方をしてた。

 でも、大きな組織はきっとこの情報に気付いていても、隠してる。

 死者蘇生の記録は無い。表現自体は、嘘じゃない。

 それに、プレシア・テスタロッサの成果を見る限りでは、今は魂が軽視されているか、かなりの誤解がある様子。使い魔を作る際に人造魂魄を使う以上は技術が失われてるわけじゃないけど、正確な概念を理解していなければ、本当の意味での蘇生は夢や幻。フェイト・テスタロッサの様に別の人格になる。

 それは、厳密には蘇生と言えない。蘇生が出来ないという常識に繋がっても不思議じゃない。

 リニスに記憶が無かった事を考えると、フェイト・テスタロッサに関しては記憶転写の為にプレシア・テスタロッサが余計な手を加えたからの可能性もあるけど。

 

「だけど、そこまで言うのだから、見込みがあるのでしょう?

 協力すると言った以上、仕方ないわ」

 

 渋々、と言った雰囲気で取り出されたジュエルシード、9個。

 これで、21個全部そろった。

 フェイト・テスタロッサもいるけど問題ない?

 

(フェイトにとっては家族の事だ、秘密のままに出来る物でもないだろう。

 では、始めるぞ)




何だか、テレビ版第12話にガッツリ対応しています。
第11話のセリフもちょっと入りました。

ようやく、エヴァの戦闘らしい戦闘シーン?となりました。
でも、力を抑えまくっています。本人的には、超手抜きです。魔力は全てカートリッジ(但し大量消費)で、魔法も本来はそこまで高度な物ではありません。但し、主に速度面で魔改造が入っているため、普通の人に扱えるかは微妙です(例:最初の誘導狙撃弾(Sniper Kugel Induktion)の誘導は術者が制御する必要あり。弾速がアクセルシューターやスティンガースナイプより早いため、難易度が半端ないです)。
これでも無双状態なので、これ以上の手札を見せる必要がありませんし、見せる気もありません。

屋内で高速飛行は普通やりませんが、これも魔法自体は高度なものではありません。妹達という優秀なナビとレーダーがあり、魔法の機動力不足を補うための壁走りを何とも思わないため可能な事ですが。
超音速飛行はしていませんし、通路の安全確保もしているので、本人的にはとても親切なつもりですよ。


ちなみに庭園突入戦への投入戦力ですが、暫定の戦力評価的にはこうなります。
①駆動炉までの通路
 ※駆動炉に到達する必要すらない陽動戦。危なくなれば撤退可。
 AA~AAA:なのは(ちょっと遅めの途中参加)
 A~AAA:チクァーブ×2
 A~AA:カイゼ、セツナ、チクァーブ×3
 A:ユーノ、チクァーブ×3
 デコイ&対AI&戦闘管制:チクァーブ×いっぱい(数十)
 A:傀儡兵×複数(チクァーブが制御に成功したもの)
②駆動炉周辺
 ※駆動炉に標的を絞って安全な場所にいるため、傀儡兵は放置。
 A~S:チクァーブ×1
 A:チクァーブ×1
 制御装置制圧:チクァーブ×数体
③プレシアまでの通路
 ???:エヴァ
 AAA:クロノ(傀儡兵殲滅済みの通路を移動する簡単なお仕事)
となっています。人工リンカーコア持ちチクァーブが足りないのは、地球での活動にも1体使っているからですね。チクァーブ本人のAAは分体の維持に割り振っているため、個体で見ればC~Fレベルにまで落ち込んでいます。それでも飛行や移動に支障が出ない辺りに、転生特典「好きな場所に自由に移動する能力」のチートぶりが光っています。
というか、ぶっちゃけ①もチクァーブだけで問題無かったとも言えます。デバイス12機のリミッター解除が許可され、内9機(本人資質用のは予備機扱い)が①の現場に在りました。そのため、交換する手間を気にしなければ1機あたり2回でも18回、3回なら27回はAAA級の魔力で魔法が使えたのですよ。自動修復が間に合えばもっと行けますが、AAA級をそこまで使う必要がある戦闘中だと無理でしょうねぇ。

原作だと
①駆動炉までの通路 + ②駆動炉周辺
 AA~AAA:なのは、フェイト(通路の後半のみ参加)
 A~AA?:アルフ(通路のみ参加)
 A:ユーノ
③プレシアまでの通路
 AAA:クロノ
ですから、原作の倍以上と言っていいはずです。
勝利条件も甘くなっていますし、ぶっちゃけ余裕です。


なお、フェイトのちょっとした話をおまけに付ける予定でしたが、次の小話(無印編最終話の次?)に移動になりました。


2013/06/15 放置して、お姉様はリンディ→放置してお姉様は飛行魔法を解除、リンディ に変更
2013/06/21 犬神→犬上 に修正

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