青の悪意と曙の意思   作:deckstick

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無印編39話 その胸の奥に

(さてと、残りの9個も問題なくいけるな?)

 

 問題ない。

 裏口(バックドア)の構造は同一。

 むしろ、実証無しで12個あった初回の方が、不安要素が多かった。

 アリシア・テスタロッサの入っているカプセルは、プレシア・テスタロッサの隣。

 治療に必要な要素は全て揃ってる。

 結界も展開済み。情報封鎖も問題ない。

 

「よし、治療開始だ。使用者強制登録(Ich verwende eine)!」

 

 残りのジュエルシード9個も、お姉様の制御下へ。

 ジュエルシード21個全て通常状態で起動、お姉様への魔力供給を開始。

 治療魔法の連携用に、思考支援開始。

 専用の設備抜きでの治療。慎重に進める必要がある。

 空中モニター展開、とりあえず20個くらい。

 何かやってる雰囲気を見せて、黙らせるためのギミック。

 映像を保存されても困らない様に、アリシア・テスタロッサの状態表示のみに限定、内容は本物。

 言語は古代ベルカ。お姉様自身は読めないけど読まないから問題なし。

 

「何をするつもり!?」

 

 フェイト・テスタロッサと睨み合っていたプレシア・テスタロッサが、さすがに気付いた。

 ちょっと慌ててる。

 でも、もう遅い。

 

「口で言っても分からん様だからな。

 黙ってそこで現実を見ているがいい!」

 

 アルハザード式の魔法陣展開、これも認識阻害と幻影でベルカ式に見えるよう偽装。

 アリシア・テスタロッサの魂の補完を開始、可能な限り人格のサルベージを優先する。

 同時に肉体の劣化部の詳細解析及び治療を開始。

 直接の死因は、酸素欠乏の可能性が濃厚。

 遺体の損傷は酸素欠乏、高濃度魔力素汚染、経年劣化が主要因の模様。

 加えて、治療過程で発生したと思われる、呼吸器系及びリンカーコアの破損を確認。

 概ね想定の範囲内。治療による能力変化は劣化の回避を最優先に。

 

(魂の劣化は許容範囲か?)

 

 恐らく。但し、人格の変化や記憶の劣化がどの程度になるかは要観察。

 元の状態を正確には知らない。どうやって比較しよう?

 

(どう変わろうが、プレシアが納得できるかが全てだ。

 治療可能な範囲なら、必要以上には気にするな)

 

 了解。

 リンカーコア、休眠状態での仮稼働へ。

 ……おや!? アリシア・テスタロッサの様子が……!

 てててーてーてーてっててー。

 おめでとう! アリシア・テスタロッサは 優秀な魔導師の卵に 進化した!

 最低でもAA、場合によってはSに届くかも?

 予想以上の強化。

 

(その曲は別の……まあいい、プレシアやフェイトと比べられて劣等感を感じるよりマシだとでも言っておこう)

 

 魔力素の除去は順調。

 内臓組織の修復を開始。

 脳及び神経系の修復を開始。

 呼吸器系の破損は危険域。治療に少々時間がかかる。

 

(魂の定着を開始できる水準まで、どれくらいで回復できる?)

 

 呼吸器系以外は順調。15分程度?

 定着にも時間がかかる。完了までだいたい30分くらい?

 ジュエルシードは不安定だけど、出力の高さだけは称賛。制御可能な範囲、問題ない。

 生命活動再開へ。

 心臓の鼓動開始を確認。

 血管の損傷は軽微。劣化も想定範囲内。

 肺内溶液の強制循環による酸素供給を開始。

 筋繊維の劣化は想定内だけどひどい水準。

 骨格の劣化と併せて、会話可能な水準までは強制治療。

 事後処理の都合と親子の時間の確保も兼ねて、これ以上は機能訓練(リハビリ)も併せて行うべき。

 

(やはり、26年の劣化は激しいか……だが、治療可能なレベルだったのはやはり驚きだな。

 魂が残っている事も奇跡だが)

 

 致命的な損傷がない。

 母の執念の恐ろしさを見た。

 魂は縛られていたから?

 遺体保存に使われていた術式に、魂に影響しそうな部分がありそうな気配。

 ミッドチルダ式だから、情報不足。とりあえず術式は可能な範囲で記録済み。

 

(偶然か、意図したものか……いや、別の誰かが最初の処置を行った可能性もあるな。

 プレシア自身も解ってないようだし、下手につついて情報が漏れるのは不味いか)

 

 26年に渡る維持という奇跡を成し遂げた本人は、唖然としてる。

 恐らく理解してない。

 というか、この場にいる全員が思考停止状態かも?

 

(アリシアの治療が終わるまでは放置だ。

 余計な手出しをされる前に終わらせるぞ)

 

 了解。

 魂の定着を開始。

 安定までには少々時間がかかる。

 主様の手伝いで磨かれた腕の見せ所。

 がんばる。

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 治療を開始してから、30分と少々。

 元々外傷が無く、見た目は綺麗なままだったアリシア・テスタロッサは、身体機能については最低限の修復を完了。

 魂の定着に若干の遅れはあった。だけど想定内というか、治療時間が少し伸びただけ。

 その様子を見守るのは、ハラオウン家の2人と、テスタロッサの名を持つ2人、それと犬耳。

 時空管理局の2人は、固唾を呑んで事態を見守ってる。

 2人のテスタロッサと犬耳は、唖然とした表情。

 特にプレシア・テスタロッサは、目を見開いたまま瞬きすらしない。

 目を傷めそう。

 

(そろそろ、溶液から出して意識水準を上げても良さそうだな。

 ……骨格と筋肉は、プレシアに抱きつかれても大丈夫そうか?)

 

 一般人のハグ程度なら大丈夫。

 念のために防護魔法を準備。

 カプセル内の溶液を廃棄開始。呼吸器内部の溶液も排出へ。

 浮遊開始。

 自律呼吸開始を確認。

 生命維持に問題なし。

 意識水準、睡眠状態で安定。

 

(自然に意識が戻るのは、数日中といった所か。

 今すぐに意識を戻すと、プレシアが暴走しそうだな……とりあえずはこのままだ)

 

 了解。

 現時点でも、見開き過ぎのプレシア・テスタロッサの目が怖い。

 目玉のおかんがコンニチワ。

 

「さてと、プレシア。

 体は自立呼吸が可能な水準にまで回復、数日中に意識も戻るだろう。

 話を聞く気になったか?」

 

「ア……アリ、シア…………」

 

 フラフラと歩み寄ってくる。

 何だか亡霊ちっく。

 怖い。

 

「アリシアァァァァァ!!」

 

 すごい勢いで抱き着いてる。

 用意して良かった防御魔法。

 

「落ち着けプレシア。アリシアは逃げないと言うか、その勢いで怖がられそうだぞ。

 それに、アリシアの体調は万全じゃないんだ。抱き締め殺す気か?」

 

「アリシア、アリシア、アリシアァァァ……」

 

 聞いちゃいない。

 プレシア・テスタロッサの暴走。

 ぴーからぶっさすネギを準備すべき?

 

(どこの風邪の民間療法だ。やめておけ)

 

 ネギ嫌いじゃないせいか、お姉様がつれない。

 あまりの寂しさに、全私達が泣いた。

 むしろ今から泣く。

 せーの。

 

(やめんか! 私を昏倒させる気か!?)

 

 えー。

 あの様子では、落ち着くまでに時間がかかる。

 プレシア・テスタロッサが落ち着くまでの、ちょっとした息抜きなのに。

 

(そこのハラオウン親子とか放置中のフェイトとか、問題は終わっていないぞ)

 

 はーい。

 話をすべきは……まずは時空管理局?

 2人共、話をしたい様子。

 思考支援の水準を低下、以後、必要に応じて調整。

 

「エヴァンジュ、蘇生……いや、治療は成功した、という事でいいのか?」

 

 クロノ・ハラオウンの顔に、信じられない、と書いてある。

 26年前に死亡した少女が息を吹き返した。

 普通なら信じられない。

 

「そうだな。全体的に劣化が激しいからリハビリは必要だが、その程度までは何とかなった。

 後は、プレシアが納得出来るかどうかなんだが……アレはいつ落ち着いてくれるだろうな?

 26年越しの悲願だから、気持ちは分かるんだが」

 

「だけど、あれ程強い意思で願っていて、どうして最後に選んだ手段がアルハザードだったのかしら。

 エヴァさんは、やっぱり管理局が関わっていると思っているのでしょう?」

 

「それ以外に何かあるなら教えてくれ。少なくとも、私には思い付かん」

 

「確かに、他の説明が出来るような情報は無いわね。

 26年前の事件の真相、過去に逮捕歴の無い大物犯罪者、経路不明の情報流出。

 プレシア女史がきちんと話してくれたら、調査も進むのでしょうけれど……」

 

 時空管理局が自分を捜査?

 捜査対象は、最終的に最高評議会やレジアス・ゲイズに行き着くはず。

 きっと、無理。

 

「私としては、プレシアが消されないかの方が心配だな。

 相手は管理局の内部、それも大物だ。都合の悪い存在を簡単に見逃すとは思えん。

 そこに行き着く前に、うまく交渉か取引が出来ればいいが」

 

「交渉か取引? ……何かあるのか?」

 

「ちょっとした資料は入手したし、ある程度は何とかなるだろうと踏んでいる。まあ、これもプレシアが正気に戻ってからの交渉や、プレシアが持つ情報次第だな。

 それよりも、少しフェイトと話をしてくる。これ以上放置するのも可哀そうだ」

 

 そう言いながら、お姉様はハラオウン親子の傍から、フェイト・テスタロッサの傍へ。

 フェイト・テスタロッサの表情は、困惑一色。

 

「だいぶ衝撃的だったと思うが、大丈夫か?」

 

「えっと……あの少女は、いったい…………?」

 

「辛い過去の話を繰り返す事になるが、落ち着いて聞いてくれ。

 あの子が、アリシア・テスタロッサ。お前の体と5歳以前の記憶の元となった、プレシアの娘だ。

 

 だが、お前はお前自身が言ったように、プレシアに娘として生み出されたんだ。アリシアの代わりじゃない、プレシアのもう1人の娘として生きていい。

 例えアリシアの代わりだったと言われようが、失敗作だと言われようが、そんなものは子の存在を勘違いした親の言い訳だ。姉の面影を妹に重ねる親などいくらでもいるし、アリシアとお前が別の存在だと言う事、お前がプレシアに生み出された存在だという事は、永遠に変わらん事実だからな。

 クローンだと言う事も気にするな。魔法が知られていないそこの世界ですら、体外受精も代理母もクローンも、基本的な技術はあるんだ。本質的には生物ですらない私から見れば、生まれ方の違いなど細事でしかない。

 

 それを理解せずに暴言を吐く有象無象が現れる可能性はあるが、無視していい。お前がプレシアを母と呼ぶ限り、それは真実であり続ける。

 家族の事に要らん口を出す阿呆など、鼻で笑い飛ばしてしまえ」

 

「生物じゃ……ない?」

 

「私の本体は魔導具だ。人よりも傀儡兵に近い存在だな。

 ロストロギアの一種と言ってしまっても構わんぞ?」

 

「そっか、そうなんだ……そうだね。うん、分かった」

 

 フェイト・テスタロッサの表情が、引き締まった。

 きっと、何と言われようと、例え望まれなくても、プレシア・テスタロッサを母と呼び続ける覚悟を決めた。

 そうなるよう、お姉様が誘導してる。

 

「だが、もう少し甘えた方がいいだろうとは思うぞ。全力でぶつかって初めて届く事があるのは、なのはと戦って少しは理解出来ただろう?

 そもそも、親にわがままを言うのは子供の義務だ。少しくらい困らせる位でないと、親が育てている実感を持てん。プレシアは子を構いたいタイプの母親に見えるから、いい子で大人しくしているより、思うままにぶつかりに行った方が喜ぶと思うぞ。

 アリシアが目覚めたからと言って、遠慮するな。むしろ、アリシアと一緒に突撃するつもりでいた方がいい」

 

「そ、そう……なのかな?」

 

「もっとも、生まれた順序的にはアリシアが姉でお前が妹になるだろうが……見た目やらは逆転してしまっているからな。悪いが、その辺は家族で何とか折り合いをつけてくれ。

 人としてのアリシアは5歳のままの可能性が高く、最悪記憶の一部を失って退行する可能性すらある。体を無理に成長させても図体の大きい子供が出来るだけで、下手をすれば発達障害や知能障害に見られるかもしれん。そもそも、プレシアの中のアリシアは5歳のままだ。その成長を見守る邪魔をしたらブチ切れかねんぞ。

 だからと言って、お前が5歳以下に戻るのも無理がある。5歳児の振りなど簡単ではないし、なのはとの付き合いもあるだろうからな」

 

「う、うん……」

 

 表情がちょっと崩れた。

 そういえば、みたいな感じ?

 アリシアとフェイトの混同を防ぐためでもあるけど、これは言わない方が良い事。

 

「さてと、後はアレを……止められると思うか?」

 

「えっと……多分、難しいんじゃないかな…………」

 

 絶望した。

 娘にも止められない母に絶望した。

 ついでに、未だに信じられないものを見たような顔で思考停止してる犬耳にも絶望した。

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 それから、更に10分程。

 プレシア・テスタロッサはようやくアリシア・テスタロッサから離れた。

 

「やれやれ、やっとで話が出来る状態に戻ったか?」

 

「失礼ね……と言いたいところだけど、確かにそうね。

 でも、アリシアの蘇生については礼を言うわ」

 

「治療だと言っているだろう。

 さて、話の続きだ。現時点で、選択肢は3つ提示できる。

 1つ目。先ほどの条件を受け入れる。ああ、先にアリシアを治したからと言って、内容を変える気は無いぞ。

 2つ目。当初の予定通り、アリシアと虚数空間に落ちる。

 3つ目。改めて私と戦う。

 さあ、どれがいい?」

 

「……馬鹿ね。1つ目以外の選択肢があり得ると思えるの?」

 

「あり得た場合は、私から1つ目の選択肢が消える。消さずに済んで何よりだ。

 では、私が提供する2点目だ。娘“達”と過ごす、心の準備は出来ているか?」

 

「母さん。

 私は、アリシア・テスタロッサじゃありません。

 だけど、アリシア・テスタロッサと同じ、母さんの娘です。

 母さんの娘として、姉さんの妹として。

 私は、家族の笑顔を見ていたい。

 それだけが、私の望みです」

 

 フェイト・テスタロッサは、やっぱり覚悟完了。

 ついでに、自分から妹の立場に立つつもり?

 でも、きっとこれがフェイト・テスタロッサの、本当の心の声。初めてのワガママ。

 

「フェイトは、既にお前を母と呼び続ける覚悟を決めた様だぞ。

 現実は非情だったかもしれんが、捨てたものでもないだろう?」

 

「…………少しだけ、時間を頂戴。

 心の整理は、したいわ」

 

 むしろ、あれだけの暴言の後ですぐ受け入れられたら、裏を警戒する必要がありそう。

 心の整理が出来れば、後はきっと大丈夫。

 

「そうか。フェイト、済まないがアースラに戻っていてくれないか。

 プレシアも少し時間が欲しいと言っているし、心配しなくても近いうちにまた会えるさ。

 少しばかり見違えるかもしれんが、まあ、期待して待っていてくれ」

 

「え、ええと……」

 

 フェイト・テスタロッサは困った顔で……リンディ・ハラオウンを見てる?

 指示に従っていいか迷ってる?

 

「そうね、その方がいいかしら。

 ある程度落ち着く時間も必要でしょうし、体もまだ本調子ではないでしょう?

 一旦アースラに戻って休むといいわ」

 

 リンディ・ハラオウンの指示で、フェイト・テスタロッサとアルフ退場。

 結局アルフは複雑な表情のまま喋らなかった。プレシア・テスタロッサに思う所は多々あるはずだけど、フェイト・テスタロッサの意思を優先した感じかも。

 これで、話が出来る環境が整った。

 

「さて、と。私から次に提供するのは、お前の治療だが……その前に話を聞きたそうだな?」

 

「そうね。フェイトを去らせたという事は、あまり良い事とは思えないわ。

 何をどうすれば罪人の私が名声を得る内容になるのか、是非教えてほしいところね」

 

 確かに、普通なら贖罪等の表現になりそう。

 でも、フェイト・テスタロッサを退出させた目的は、予測されてた。

 だいぶ落ち着いて考えられる状態になった模様。

 

「では、はっきりと言うぞ。

 私がこれから行うのは、闇の書の悲劇の終焉だ。

 実作業としての助力は恐らく不要だ。必要なのは、有象無象を黙らせる事が可能な実力と知名度だな。その為に、表に立ってもらいたい。私は表に出る気は全く無いから、名誉もそのままお前が受け取ればいい。

 フェイトを外したのは、まだ子供だし、大人の取引の現場に立ち会わせる必要も無いだろうと思っただけだ」

 

「闇の書、ですって?

 あんな危険物を、どうにかできるとでも思って?」

 

 やっぱり、普通はそう考える。

 ある程度優秀なら、犯罪組織すらも闇の書は厄介なロストロギアだと思ってそう。

 

「思っている。

 そもそも闇の書は、元々マトモな魔導具だった物が改悪に改悪を重ねた末に、あんな代物になってしまったものだ。詳細の調査はまだまだだが、本来の姿は知っているからな。私は、あれを本来の姿に戻してやりたい。

 技術については、ジュエルシード21個、内12個はお前が制御中だった物を奪う形で完全制御し、アリシアを治療した事では不満か?」

 

「……そうね、確かに、尋常ではない技術を持っている事は理解したわ。

 それに、管理局の執務官が何も言わない以上、絵空事とは言いにくい……

 そう判断させるためにここに連れてきたのでしょう?」

 

「それも考えんでもなかったが、それが理由で連れてきたわけではないぞ。闇の書をどうにかする以上、管理局とも話をしておく必要があると判断したまでだ。

 この交渉を完全に裏でやってしまえば、お前を表に立たせる事が難しくなるからな」

 

「そう。つまり、私に望むのは邪魔者の威圧と言った所かしら?」

 

 プレシア・テスタロッサは、役目を正しく把握してくれた。

 あと少し、時空管理局にちょっと圧力をかけておく?

 

「そう判断してもらってもいい。

 交渉やら多少やってもらう事はあるだろうが、実際の対処をするという名目もある。場所はそこの世界になるが、娘達と過ごす時間は確保しやすいだろう。

 むしろ、対処する時間を与えないような馬鹿共がいるなら、闇の書を持って潰しに行ってやる」

 

「お、おいエヴァンジュ!

 本気で言っているのか!?」

 

 クロノ・ハラオウンが焦ってる?

 厄介な者が担当者として来た場合は管理局を壊滅させると聞かせておいたのに。

 長宗我部千晴の精神的ダメージは無意味だった?

 

「当然だ。闇の書の対処をするなという態度を取るという事は、地球、つまり管理外世界などどうなってもいいという事だろう?

 そんな馬鹿に取られる時間など勿体無いだけだ」

 

「交渉担当の手を煩わせるからと言っても、実際の作業が止まるわけではないだろう!」

 

「対外的にはプレシアが行う事にするんだ。

 であれば、プレシアが手出し出来ない状況では事態が変わる事を避ける必要がある。

 つまり、実際の作業が進まなくなるという事だが?」

 

「しかし、作業を進めることだって出来るだろう!」

 

「私は表に出る気が無いと言っているだろう。だからこそ、名誉やらを全てプレシアに渡すと言っているんだ。

 第一、私の存在まで表に出てみろ。地球に押しかけてこようとする無能や憑かれたかのようにアルカンシェルを撃とうとする馬鹿が増えかねんが……作業に支障の出ない形で対処できるのか?

 それくらいなら、作業時間の確保の方がよほど簡単だろうに」

 

「そ、それは……」

 

 クロノ・ハラオウンが黙った。

 お姉様が夜天の妹、現状では闇の書の妹だと忘れてた?

 あまり魔導具らしくないせい?

 仮にそうでも、それがお姉様なんだから困るよねー。

 ねー。

 

「……随分と不穏な様子だけど、いったい何者なの?」

 

「信じられるかは微妙だが……まあ、言ってしまった方が動機やらも理解しやすいか。

 私は夜天の魔導書、今は改悪されて闇の書などと呼ばれているが、アレの妹だ。私は妹として、姉を助けたい。改悪されて暴走するようになった状態は、姉も本意ではないはずだしな。

 だが、私が表に出れば、闇の書と同じ目で見られる可能性が高すぎる。闇の書の悪名が広がり過ぎているせいでな。

 となれば、誰か優秀な技術者を立てて私の存在を隠した方が無難だが、生半可な技術者では闇の書を何とか出来るわけがない。最低でも天才や鬼才と呼ばれるレベルでなくては看板になる事すら出来んが、そういった人物はよほどの事が無い限り他人の言葉では動かないものだ。少なくとも、名誉は餌にならん。

 つまり、私の手の届く範囲に居て、大魔導師と呼ばれる実力と名声を持ち、アリシアという対価を用意できるお前が、最も適任だった。

 私の存在と動機、それにお前を選んだ理由はこんな感じだ。理解してもらえたか?」

 

「……まるで、物語の様な話ね」

 

 プレシア・テスタロッサは呆れてる。

 信じられてない?

 今となってはアルハザードより現実的なのに。

 

「事実は小説より奇なり、と言う言葉がある。

 前提はともかく、そこからの思考はそう奇を狙ったつもりはないぞ」

 

「その前提がおかしすぎるでしょう!

 そんな内容が信じられるとでも思っているの!?」

 

「思わんさ。だが、これが私の真実だし、夜天を助けるために協力する以上は、いつか知る事だ。

 それに、私が今で言うロストロギアを作っていた頃の技術を持つという事を明かしたんだぞ?

 これを否定するなら、アリシアを治療した事について、それが可能な別の理由を教えてほしいものだ」

 

「…………そう。ジュエルシードによる治療は、交渉のためのフェイクという事ね」

 

「いや、ジュエルシードは腐れ魔導具だが、魔力の出力だけは阿呆の様に高いからな。不安定だが私が制御出来る範囲だから、治療の為に有り難く使わせてもらったよ。

 ああ、今話した情報を知ったという前提で、あの時の言葉をもう少し正確に言い直すか。

 願望を叶えると言われるジュエルシードが、この場に21個全てある。

 全ての魔力出力を私の技術で使えば、大抵の願いはどうにかなりそうだと思わんか?」

 

「……ふふ、ふふふふふ…………

 随分と踊らされたものね」

 

 プレシア・テスタロッサが壊れた?

 切れる寸前?

 

「だが、私でもアルハザードに行く事は出来ん。仮に辿り着いて治療に関係する魔法の資料が見付かったとしても、虚数空間の中では使えないだろう。そもそも、空気や水が無く魔法も使えない虚数空間で、どうやって生きて辿り着くつもりだったのか教えてほしいものだ。

 要するに、極めて分の悪い賭け、しかも賭け金は自分とアリシアの命だったという事だな。

 それを覆して、娘達との時間を現実にするんだ。少しくらいは感謝してほしいものだが」

 

「そう……ね。確かに、アリシアは息を吹き返したわ。

 だけど、まだ問題が無いとは言えないでしょう?」

 

 横目でアリシア・テスタロッサを見ながら、プレシア・テスタロッサの表情が緩んでる。

 何だか、(アリシア)に関する場合だけ優しげになる模様。

 なんという親馬鹿。

 

「まあいいさ、すぐに信用されるとは思っていない。

 少々時間がかかるんだ、お前の治療も開始するぞ」

 

 ジュエルシード21個、出力上昇。

 プレシア・テスタロッサのリンカーコアの修復及び高濃度魔力素汚染の後遺症治療を開始。

 その他、劣化箇所を調査開始。

 

「蘇生があの時間で完了したのに、同じくらいの時間がかかるという事かしら?」

 

 お姉様が治療と言っているためか、プレシア・テスタロッサは大人しくしてる。

 だけど、不思議そうな表情。

 

「治療だと言っているだろう。それに、内容はアリシアに行ったものとそこまで違わん。

 確かに意識に関する部分はないが、それに替わる別の治療もある。その意味では、より時間がかかっても不思議ではないぞ」

 

「そう。内容くらいは聞かせてくれるのかしら?」

 

「損傷したリンカーコアの修復、魔力素汚染の治療、その他体の劣化箇所の補修は確定で、これはアリシアと似た感じだな。違いは症状が軽い事と、魔力素汚染が現在形か後遺症かくらいだ。

 別の治療と言うのは、まあ、悪い事ではない。期待して待っているといい」

 

 緊急報告。

 プレシア・テスタロッサの胸部に魔導具を発見。

 外部から確認できる術式から推測すると、精神に影響する代物である可能性が濃厚。

 恐らく認識阻害や思考誘導の効果を持つと予想。

 

(認識阻害や思考誘導、だって……?)

 

 胸部の奥深く、大動脈付近。

 転移で突っ込むにも、手術等で埋め込むにも、高度な技術が必要。

 胸部に手術痕は無さそう。転移での直接埋め込みが行われた可能性が高い。

 下手に抵抗されるだけでも命に係わり、問題なく完了しても処理後数日は安静にする必要がある場所。本人が知らない間にと言うのは考えにくい。

 取り出した後も最低数日、出来れば数週間の療養期間が必要。

 きちんと説明してから取り出す事を推奨。

 

「……プレシア。随分と厄介な事になっているな」

 

「そう。やはり、私の体はもう……」

 

「違う。確かに余命が短かった事は認めるが、治療可能な範囲だ。

 お前の体内に、魔導具が埋め込まれている。効果は精神操作系……認識阻害や思考誘導の様だ。

 埋め込んで数日は安静にする必要がある場所のはずだが、いったいいつ埋め込まれた?」

 

「何ですって!?」

 

「精神操作系魔導具だって!?

 どうしてそんな物がプレシアに……!」

 

 プレシア・テスタロッサが驚愕。

 安静が必要なのに知らなかった?

 でも、やっぱりクロノ・ハラオウンが首を突っ込んできた。

 余裕があったらΩ(ひとかげ)の準備をしておいたのに。

 

「理由など私が知るか。むしろ、誰が埋め込んだかが問題だ。

 最低でも数日は安静にさせられた事があるはずだ。覚えは無いか?

 検査でも治療でも意識不明でも何でもいい、何か思い出せ」

 

「数日以上、ね……ヒュードラの事故の後、しばらく意識不明だったらしいわ。

 あとは、管理局員になって数年した頃に、体調を崩してしばらく入院した事があるわね。

 それと……幼い頃に入院した事があるはずよ。

 心当たりはこの程度ね」

 

「入院や治療をしたのはどこだ?」

 

「全て、ミッドチルダの先端技術医療センターのはずよ」

 

「……リンディ。そこは管理局関係の医療施設か?」

 

「時空管理局の、医療技術開発の中心地でもある施設ね。

 少なくとも、犯罪者が簡単に入り込めるような場所ではないわ」

 

「そうか……これは、思ったより状況が悪いかもしれん」

 

「ええ。どうやら、その様ね」

 

 あまり納得していない表情のプレシア・テスタロッサ。

 だけど、お姉様とリンディ・ハラオウンの表情は良くない。

 行動を誘導するためにいろいろ言っていたけど、事実がもっと怪奇なのは予定外。

 

「……とりあえず、そこに魔導具があるのは現実として認めるとして、だ。

 プレシア。数日は安静にしてもらう必要があるが、除去して構わんな?」

 

「ええ。そんな物があると知った以上、そのままにしたくないわ」




次元震未終息(まだ続いています)段階でプレシアとアリシアが生存していて、フェイトがプレシアの元を離れない覚悟を決めました。要するに、テスタロッサ家存続ルートに入るみたいです。

原作無印は、結局12話のラストシーン以降しかブレイクしませんでしたね。
ここ数話は、色々準備してきた伏線とも呼べない何かをかなり素直に使ったつもりです。プレシアをスケープゴートにするとか、アリシアの蘇生とか、有言実行です。
……素直、ですよね? このまま素直に話が進むかは別ですが。


エヴァがフェイトに言っている中の「クローンの技術もある」は、わざと「(少なくとも公表されている範囲では)クローンの人間はいない事」や「広義のクローン技術という意味で言っている事」を伝えていません。フェイトの背を押す事が目的ですし、管理世界でも人のクローンは倫理的や法的な問題があるというのは変わらないでしょう。

ちなみに、形態はともかく、クローン(同一遺伝子情報を持つ生物)に含まれる生態や技術は、現実でもそれほど特別じゃないです。
単細胞生物や一部植物(竹林は同一のDNAです。芋を植えて芋を収穫するのはDNAが変わらないですよね)は天然のクローンですし、桜の染井吉野は100%人工クローンと言っていいです(種子が発芽しないため、接木等で増やします)。2004年設定なので、割と有名な羊のクローン(ドリー)が死亡して1年、商業用ペットとして猫のクローンが作られる年ですよ。


妹達が言っている「ぴーからぶっさすネギ」が分からなくて気になる人は、ニコニコかようつべ辺りで「初音ミクの暴走」を聞いてみてください。うん、ボカロ厨なんです。


そして、管理局(の暗部)に対するアンチ・ヘイト風味が強くなってきました。当初から「アンチ・ヘイト」のタグは付けてましたが、このタグに相応しい流れ……なのか?
この設定(かたち)が一番しっくりきちゃったんですよぅ。それと、ヘイトの裏側の情報も無印編の間に少し出すので、もうちょっと(現実時間で1か月ちょっとくらい?)待ってくださいねー。ヘイトの為の設定ではなく、色々とある仕込みの一環です。
べ、別にプレシアの設定を作ってたらこうなっちゃっただけで、管理局の過去を真面目に考えようとか思ってるわけじゃないんだからねっ!


2013/06/13
 別の誰か最初の処置→別の誰かが最初の処置 に修正
 後書きの「クローンの人間はいない」を「公表されてる範囲ではいない」に緩和しました。
 ※とらハにクローンがいるそうなので、とらハ設定を組み込んだこの話で居ない事は断言出来ませんでした。情報ありがとうございます。
2013/06/15
 不安要素が多かった近かった。→不安要素が多かった。 に修正
 空中モニターの描画を追加。
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