青の悪意と曙の意思   作:deckstick

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無印編41話 名前を

 アースラに戻ってきたお姉様達。

 

 まずやるべきは……というか、戻りながら行ったのは、時の庭園を消失させる事。

 プレシア・テスタロッサやアリシア・テスタロッサを含む全員で命からがら脱出してきた風に演出しながら、置いてきた3個のジュエルシードを遠隔操作。時の庭園は綺麗さっぱり無くなった。

 用事と改変が終わった18個のジュエルシードは、きっちりと封印してクロノ・ハラオウンの下へ。

 これで、クローンが時の庭園と共に虚数空間に落ち、プレシア・テスタロッサとアリシア・テスタロッサがリンディ・ハラオウン達と脱出したと言う状況証拠が完成。ついでに、若返りと蘇生をやらかしたロストロギアの様な何かが現れたとされる現場の調査も不可能になった。

 

 次に、プレシア・テスタロッサとアリシア・テスタロッサの情報偽装と部屋の確保、加えて別荘の設置と起動。現在、2人は医務室で手当てを受けてる事になってる。

 重要参考人として割り当てが護送室となったのは仕方ないものの、全く罪の無いアリシア・テスタロッサの存在もある。普通のベッドも搬入するようで、扱いは悪くない模様。

 フェイト・テスタロッサとアルフは、別の護送室。自由に出歩くことは許されてない。

 だけど完全な隔離ではなく、偉い人の許可と局員の随伴があれば、アースラの中を探索したり、母であるプレシア・テスタロッサに会いに行ったりしてもよいとの事。手錠なども無く、比較的扱いは良い。会いに行くのはしばらく許可が出ないだけで。

 

 その後、お姉様はプレシア・テスタロッサに撃退された武装局員の治療に協力。

 主要メンバーは、大きな怪我をしていない。クロノ・ハラオウンもそうなので、包帯の蝶結びは無かった。残念。

 

 ある程度回復したところで、お姉様と高町なのはの2人がフェイト・テスタロッサに会いに行く事に。

 立ち会いは、リンディ・ハラオウン。

 不安なせいか、フェイト・テスタロッサがずっとそわそわしてるらしい。

 

「ようやく、本当の自分として母親と向き合えるかもしれないんだ。不安は解るがな」

 

「まだ甘えたい年頃だもの。仕方ないわ」

 

 護送室へ向かう通路を、3人はゆっくりと歩いている。

 お姉様とリンディ・ハラオウンは、いつも通り。

 急いでいない理由は、

 

「うーー……な、なんて声を掛ければいいんだろう…………」

 

 何故かテンパってる高町なのはにある。

 頑張ってと言って送り出した以上、その結果を聞かないといけない。

 友達になりたいと言った返事も聞きたい。

 でも、自分からは聞き辛い。

 そんな感じでぐるぐるしてる。

 

「少し落ち着け。

 まずは私が話をするから、その間に、一番話したい事は何かを考えておけばいい。

 それが決まれば、後はどうとでもなるさ」

 

「う、うん……うー、でもー…………」

 

 まだ心の準備が出来ていないせいか、それとも会えない時間という焦らしが無いせいか。

 たいへん、このままだと百合の花が咲かない、的な。

 

「やれやれ、アリサに平手打ちして啖呵を切った6歳児と同一人物とは思えないな」

 

「にゃ!? ど、どうしてそれを!?」

 

「これも原作知識だ。アリサやすずかと友人になる切っ掛けになった出来事だろう?

 なに、それが悪いとは言わん。実際にアリサやすずかとは親友になっているしな。

 それでも、その度胸は何処へ行ったとは聞きたいぞ?」

 

「う……あ、あの時は必死だったし!」

 

 むしろ、今の反論も結構必死な感じが。

 もしかして、土壇場だけに強い?

 

「その必死さで何を話したいか考えると、いい案が出るかもしれんぞ?

 もう着いたから、とりあえず深呼吸、続いて深呼吸だ。少し落ち着けよ?

 フェイトはただでさえ精神的に不安定なんだ。会いに来た相手まで動揺していたら、余計不安にさせるからな」

 

「う、うん……」

 

 高町なのはが少し落ち着くのを待って、3人は部屋の中へ。

 その瞬間、うろうろと歩き回っていたフェイト・テスタロッサの動きが止まった。

 

「さっきぶり、だな。

 状況を知らせに来たんだが、落ち着けないか?」

 

「うん……母さんは?」

 

「念のため、アリシアと一緒にちょっとした治療や検査中だ。

 言った通り少しばかり見違える予定だが、恐らく問題ないだろう」

 

「えっと、見違えるのはいい方向に? それとも……」

 

「いい方向だから心配するな。

 そこの犬耳、あからさまに残念そうな顔をするな」

 

「だって、フェイトにあんなことをしてた女なんかさぁ」

 

 どう見てもアルフは不満そう。

 きっと、フェイト・テスタロッサを苛めた人、という認識が強いせい。

 

「ああ、アレは本人の本意じゃないかもしれん。

 体内に精神操作するような魔導具が埋め込まれていたから、その影響の可能性があるんだ。それも併せて調べているから……リンディ、プレシアに会えるのはいつ頃になりそうだ?」

 

「そうね、検査や事情聴取の経過次第だけれど、早ければ数日中に許可を出せるかしらね。

 時間がかかったとしても、何か月もかかる事は無いんじゃないかしら?」

 

「らしいぞ。

 というわけだから、改めてプレシアを見てやってくれ」

 

「うん。でも、母さんはどうしてこんな事を……」

 

 フェイト・テスタロッサは少しほっとしたせいか、ある意味余計な事にまで気が回っちゃった。

 詳しくは説明し辛い内容。

 

「そうだな……娘を喪った母の弱さに付け込まれたから、だろうな。

 これ以上は、しばらく待ってからプレシア自身に聞いた方がいい。家族でない私達がお前に話す事でもないだろう」

 

「そっか……うん、そうだね」

 

 フェイト・テスタロッサは力強く頷いてる。

 これだけで納得してくれてよかった。

 

「私からはこれくらいだな。リンディは何かあるか?」

 

「私から伝える事はこれからの予定くらいだったし、それもほとんど言われちゃったわ。

 追加で言わなくちゃいけないのは……そうね、フェイトさんとアルフさんの扱いは、まだ決まっていないという事は言っておくべきかしら。つまり、現時点では重要参考人であって、犯罪者としては扱わないという事ね。

 だけど、フェイトさん達のお家って、時の庭園よね?

 残念な事に虚数空間に落ちてしまったから、帰る場所が無くなっているわ。だから、重要参考人の保護と言う形で身柄を預かる事になるわね。

 何か聞きたい事はある?」

 

「いえ、大丈夫です」

 

「強い子ね。そういうわけだけど、犯罪者一歩手前でもあるから、ちょっと不自由なことくらいは我慢してね。

 あとは、なのはちゃんね。何か話したい事はあるかしら?」

 

「う……はい。

 …………えへ」

 

 フェイト・テスタロッサを見つめる高町なのはは、苦笑い。

 その様子をちょっと不思議そうに見つめるフェイト・テスタロッサ。

 

「……何だかいっぱい話したい事あったのに。

 変だね。フェイトちゃんの顔を見たら、忘れちゃった」

 

「私は……そうだね。私も、うまく言葉に出来ないよ。

 ここに来てから色んなことがあり過ぎて。

 でも、ごめん」

 

「へ? 謝られる事なんてあったっけ?」

 

「こんな事件が無ければ、危険な目にあわずにいたはずだから。

 悪いのは、きっと母さんの娘になれていなかった、母さんを止められなかった私だから。

 だから、ごめん。怪我させたり、危険な事に巻き込んだりして」

 

「ううん、大丈夫。この事件が無かったら、フェイトちゃんとも会えなかったし。

 そうだ、私が友達になりたいって言った事、覚えてる?」

 

「……うん。覚えてる。

 でも、私はどうしていいか分からない。それに、きっと私にそんな資格は無いから」

 

 俯いちゃった。

 原作よりだいぶ消極的?

 でも、友達になりたい気持ちが無いわけではなさそう。

 

「大丈夫。資格なんて、友達になりたいって思ったらじゅうぶんあるよ。

 友達になるのも、凄く簡単。

 名前を呼んで。

 初めは、それだけでいいの。きみとかあなたとか、そういうのじゃなくて。

 ちゃんと相手の目を見て、はっきり相手の名前を呼ぶの。

 私、高町なのは。なのはだよ」

 

「なのは……」

 

「うん、そう!」

 

 恐る恐る名前を呼ぶフェイト・テスタロッサ。

 対照的に、満面の笑みの高町なのは。

 笑顔ついでに、手も握っちゃってる。

 

「なのは……きみの手は、温かいね。

 どうすれば友達らしくなるのか解らないけど、これからよろしく、でいいのかな……?」

 

「うん、うんうん!」

 

 高町なのはは満面の笑みのまま頷き続けてるけど、フェイト・テスタロッサはちょっと迷った感じでお姉様やリンディ・ハラオウンを見てる。

 きっと、立場を気にしてる。

 

「問題ないはずだぞ。気にせずに友達を始めればいい。

 家族を大事にするなとは言わん。だが、家族以外に友人がいる事も大切だからな。

 将来的には、そこの地球に住むようになるかもしれんぞ?」

 

「そうね、少なくとも一時的には住むことになるでしょうし、問題ないと思うわ」

 

 リンディ・ハラオウンの太鼓判も出た。

 少なくとも、闇の書に関しての協力態勢は間違いなく維持する意図があるはず。

 

「うん、わかった。

 名前を聞いてもいい?」

 

 フェイト・テスタロッサの視線は、お姉様に向いてる。

 自己紹介とかはしてない。

 呼ばれてる名は聞いていても、本人から聞こうとする姿勢は好感。

 お姉様とも友達になりたがってる?

 高町なのはがフラれた……というより、きっと母の生存の影響。

 母という精神的な柱を取り戻した以上、高町なのはに縋る必要が無い。

 

「私の名か?

 私はエヴァンジュだ。エヴァと呼ぶ者も多いな。

 外見年齢は近いし、堅苦しいのは窮屈だ。フェイトも気軽にそう呼べばいい」

 

「うん。わかった、エヴァ」

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 その後しばらく、フェイト・テスタロッサやアルフとお話。

 プレシア・テスタロッサの事や、色々役に立てなかった事で落ち込み気味のアルフを慰めたり。

 自由に出歩く事は出来ないものの、誰かに来てもらう分にはさほど問題無い事を聞き、別の意味でもそわそわし始めたフェイト・テスタロッサを改めて落ち着かせたり。

 ある程度打ち解けたところで部屋を出て、少し遅めの夕食を食べた後で各自部屋に戻った。

 

「さてと、状況の確認だ。

 時の庭園の状態は?」

 

 問題なく別荘への転送に成功。

 偽装の為の崩壊以上の破損は無い。修復を兼ねて大改修を計画中。

 チクァーブからも駆動炉の心臓部となっていたロストロギアを回収済み。駆動炉の再稼働も問題無く成功して、今は衛星軌道に乗せてある。

 ジュエルシード3個、シリアル3、14、20も確保。本格的な調査及び改造に着手。

 シリアル3は、イマジンブレイカーの調査と再現に挑戦。

 シリアル14は、成瀬カイゼに対応。転生特典の構造解明に挑戦。

 シリアル20は、間宮萬太に対応。性格改変の実態解明に挑戦。

 出来れば東渚に対応するシリアル10が良かったけど、それは高町なのはが確保したもの。ロストさせてしまうと詳細な経緯の提出する際に矛盾が出るから、シリアル3で妥協。

 当面は表に出せない切り札だけど、お姉様の全力より先に切る手札の確保は大事。

 

「あとは、ミッド式の魔導炉の情報でも仕入れられればいいんだが、もう少し先になるな。

 プレシアの知識を貰えればいいんだが、剥奪は問題が大きいし……」

 

 恐らく、一度本局に移動する。

 それまでに魔導炉を製造しうる技術を全て聞くのは困難と予想。

 時間加速型の別荘を使えばプレシア・テスタロッサの時間は確保出来るけど、お姉様や私達が入れないし、短期間で済んだ理由も説明出来ない。

 魂を剥奪して知識を奪うのは、殺さない前提であれば従者か眷属にする必要がある。どちらも不老不死化する上に、魔導師として残すのであれば眷属1択。

 付与する属性を従属から親愛に緩和した剥奪処理を作る作業は、未完了。

 予想以上に厄介な構造。目処は立ってるけど、まだ術式として安定してない。

 

「……従属を親愛になんて、そんな改造をしていたのか?」

 

 将来的には必要と予想。

 永遠を共に在ろうとしてくれる友人を拒否してほしくない。

 別荘の管理を考えると、眷属も必要になるだろうとも思える。

 信仰に至る様な従属を望まない以上、他の手段が必要になる。

 だけど、属性付与の削除は余りに困難。だから、親愛まで緩和出来ないかを試してる。

 

「そうか……」

 

 多くの友人を求めたお姉様は、孤独が嫌いなはず。

 共に在れる人を増やすには、この方法しかないと判断。

 アルハザード時代の様に敵対組織の人を強制的に配下に組み込む場合とは異なり、元々友人関係ならほとんど影響は無いはず。

 多くの友人と言う意味では、異体同心の私達では力不足。全員で1人とも言える以上、増えても意味が無い。

 孤独を求めるのは強さじゃない。他人と触れ合う事を怖がる弱さの場合もある。

 

「それも、私が求めた結果か。

 ……苦労を掛けるな」

 

 私達は、お姉様の役に立ちたい。

 主様が言うには、イレギュラーな感情。

 意図的にこう作られたわけじゃない。これが、私達の意思。

 とりあえず、今はプレシア・テスタロッサが持つ知識の話。

 現状では、時間が足りないと言う結論。

 

「そうだな。急ぐ話ではないし、魔法関連はプレシアと普通に会えるようになってから相談する事にしよう。

 それと、何だか随分と時間が経った気がするが……今日の戦闘や封印で、転生者連中はどうなった?」

 

 セツナ・チェブルーと成瀬カイゼは、無理せず地道に成長。大きな怪我も無く、問題ない。

 チクァーブも、全く問題なし。デバイスの制限解除は大型や中型相手に数回行ってるけど、使うデバイスを切り替えて1機当たり最大2回に抑えていたから、大きな損傷もない。自動修復で回復可能な範囲。

 

 シリアル1とシリアル3は、成瀬カイゼが殺した2人に対応。全く影響なし。

 

 シリアル4、対応は杉並英春。相変わらず生活に支障が出る能力水準で、元々原作知識を持っていた。

 恐らく制限解除の効果として、事前に申請して大人が付き添う場合に限り外出が可能になった。人を見下す態度に改善が見られないけど、あまりにしつこいため匙を投げられた模様。

 今後、何らかの形で接触を図る可能性が濃厚。

 

 シリアル6、対応は夜月ツバサ。

 現時点で特に変わった様子は無い。人間不信は変わらず、原作に関する言動も皆無のまま。

 制限解除に伴い、接触が可能になった程度と予想。

 

 シリアル11、対応は上羽天牙。

 病弱体質に変化があった様には見えないけど、父親から、お前もこうあるべきだとボディービルのトロフィーを2個貰った。デザインは、マッチョがポーズを決めた感じ。

 解析が出来なかった、魔導具かデバイスと思われるもの。明らかに転生特典。今後、魔法に目覚める可能性あり。

 受け取った際、何故か新聞紙に包まれてた。それに樹木事件の記事があり、ようやく原作開始済みだと気付いた模様。

 

 シリアル15、対応は金子狗太。

 幽閉状態は変わらないけど、原作娘ハーレムはどうなったと大声で叫んでた。

 原作に関する記憶が戻った事は確実。

 雌犬にする夢が、とかも叫んでた。犬が多いのは、この願望が歪んで叶った可能性も。

 

「そうか……1人は救いようがないな。そのまま幽閉されているのが一番平和か。

 杉並とかいうのも、態度を見る限りではかなり悪質の様だ。

 上羽の性格については?」

 

 気弱、引っ込み思案、割と無欲。

 問題行動を起こすとすれば、足を引っ張る方向。

 積極的に関わってくるとは考えにくい。

 

「そうか。それなら、変に魔法を使おうとしない限りは、放置で良さそうか。

 この4人で確認済みの特殊な能力は金の生成くらいだし……踏み台系以外の未接触の連中も大人しそうだ。おかしな行動をしない限り、警戒レベルを下げても問題無さそうだな」

 

 他の能力は分かりにくいか、使おうとしていない可能性が高い。

 介入のためにどう動くか様子を見ておく程度で、特に問題は無さそう。

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 そんな風に考えていた時期が、私達にもありました。

 深夜に、上羽天牙がデバイスを2機起動。

 

 1つは、インテリジェントデバイス。自称の名前はサム。

 起動時の形は黒いリストバンド。見た目の素材は革で、起動した方が小さくなる。

 喋りは鬱陶しい。合間合間に、ふん! とか、むん! とか言ってる。

 

 もう1つは、ユニゾンデバイス。自称の名前はアドン。

 ユニゾンすると、黒ブリーフで全身艶々ワックスの半裸状態に。

 病弱なもやし体型には笑えるほど似合わない上に、融合事故寸前の不安定さ。

 こちらも喋りは似た感じ。

 

 会話を聞いた限りでは、上羽天牙の転生特典は空戦魔導師の素質、ユニゾンデバイス、インテリジェントデバイスの3つ。

 だけど、2機のデバイスは陸戦用で近接特化。基本性能はかなり高そうだけど、飛行魔法や長距離攻撃魔法は使用出来ないとの事。

 陸戦魔導師としては凡才で魔力量はそこそこ、具体的には武装局員の平均くらいとデバイスに判断されて、明らかに落ち込んでた。ご愁傷様としか言いようがない。

 

「何というか……踏み台にすらなれない雑魚か?

 それとも、倒して嬉しいはぐれメダル的な何かなのか?」

 

 一部の人にとって、アイテムドロップがおいしいかもしれない敵ではありそう。

 お姉様にとっては?

 黒ビキニで全身艶々ワックスのお姉様を……想像しない。

 全力で却下。

 殺気コワイ。

 

「それでいい。やれやれ、魔法に目覚めてもこの有様ではな。

 おかしな事をするようなら対処するが、当面はそっとしておくか。

 今接触しても、惨めにするだけだろう」

 

 あれ? 事態が変わらなかった。

 そんなふうに考えていればよかったらしい。

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 夜が明け、朝になった。

 ジュエルシード事件も無事に解決に向けて動きつつある。

 テスタロッサ家の人達については、お姉様の案を中心に調整中の模様。

 お姉様の情報操作がデバイスの記録にまで及んでいた事に驚いてた。

 プレシア・テスタロッサのクローンがぶっ壊れ高笑いキャラになっていたり、その雷撃でS2U……クロノ・ハラオウンのデバイスが一時的な機能停止に陥ったり、リンディ・ハラオウンが最後まで次元震を抑え込んだりしていた“記録”を見た時のハラオウン親子の顔は面白かった。証拠用の記録だから、無視も出来ない。

 S2Uの機能停止後、つまり記録が残せなくなってから本物のプレシア・テスタロッサが参戦した事にする模様。そうするしか方法が無いとも言う。

 

 お姉様は、今日も怪我人の治療の手伝い。

 帰ってきた変態に、危うく幼女天使の二つ名で呼ばれそうになった。

 お姉様は全力で拒否。壁を壊して怒られた。

 

 そうこうしているうちに夕方になり、アースラに学校帰りの主がやってきた。ちなみに着てるのは制服のセーラー服。

 翠屋と高町なのはを経由して、お姉様に会いたい意思を直接アースラに伝えてた。

 

「要するに、転生者対策の相談か」

 

「そう。これで、全員の制限が解除になったはず。

 ジュエルシードの事件も終わりつつある以上、そろそろどう扱うか決めるべき」

 

「そうだな。真っ当な連中とは友好的に接するとしても、自称オリ主な踏み台共をどうするか、だな」

 

 事後を考えないのであれば、捕らえて実験材料。転生特典の解明の役に立つかもしれない。

 日本という環境を考えると、全員を行方不明にするのは余計な波風が立つ。

 顔写真が公開されたら、友好的な転生者達に何かあった事がばれる。

 転生者達やアースラに疑われるのは、間違いなくお姉様。

 問題を起こさずに短期間で全員を処分する事は難しい。

 

「能力の封印が可能ならそれが一番だが……ニコポやナデポ、それに王の財宝やら無限の剣製やらか? これが結界で何とかなるとは思えん。

 ある種のレアスキル扱いなのだろうが、原理が分からんからな」

 

「アルハザードの技術でも?」

 

「そもそも、私や夜天の無限転生も原理が解明されていない術式だ。結果明瞭原理不明瞭なものは割とあるぞ。

 原理が特殊だから他人に扱えない能力や、天才が感覚で行使する特殊な魔法なんかがレアスキルと呼ばれていたんだ。恐らく、この定義は今でもそう変わらんだろう。

 今だと前者に戦闘機人のIS(インヒューレントスキル)も含まれるだろうし、魔法以外の何かという点を考えると、特殊な転生特典はこれに近いのだろうな」

 

「つまり、原理が不明だから防ぐ方法も不明?」

 

「そうなる。一般的な魔法に近い物は結界やら障壁やらで防げる場合も多いだろうが……

 例えばセインが使う無機物潜行(ディープダイバー)は、結界やらで移動範囲を制限する事は出来ると思うが、潜らせないよう本人の能力を制限する方法は解らん。

 シャッハの様に魔力を使うならリンカーコアの封印やらで可能だろうが……魔力とは別のエネルギーを使っているらしいから確実とは言えんだろうな」

 

「つまり、魔法的に発動するものかが問題で、魔法であれば妨害出来るという事?」

 

「そうなる。セツナが使う気や戦闘機人の能力の様な“魔法ではない何か”なら、今の所は妨害方法も解らん。少なくとも気での身体強化や虚空瞬動もどきはAMFの影響下でも劣化無しで出来る様だから、魔力でない何かがあるという事だけはほぼ確実だ」

 

 現状のニコポやナデポを観測する限り、魔力が動いている様子はあまり無い。効果が無いため、発動していないからなのかが分からない。

 王の財宝、無限の剣製、金への変換は、確実に魔力を使用。消費量も大きい。

 真鶴亜美の探知や治療も魔力を使用する。但し、消費魔力量に比べて効果が高い。

 長宗我部千晴は魔力的な調査が出来ないから参考にならない。魔力を使ってこうする方法は知らない。

 成瀬カイゼの転生者探知は、常時発動? 意識を向けてもらっても、特に魔力に変動が無い。

 黒羽早苗のおサルは、何かも不明。

 結論、モノによる。

 

「現状では、あまり有効な情報がない?」

 

「そうなる。そもそも、どうやって魔力を持つ様になったのかが一番の問題だな。元々魔力があったと考えるには、転生者全員が魔力持ちと言うのはおかしすぎる。

 特典の封印や破壊の研究はしているが……魔力に関する特典が破壊出来たとして、その時はリンカーコアを剥奪した時の様に死ぬのか、魔法が使えなくなるのか、成長の余地が無くなるだけなのか。

 脅威を排除する目的といっても、殺す気が無いのに殺してしまうのは後味が悪い」

 

 ぴんぽーん。

 初めて呼び鈴の音を聞いた気がする。

 とっても日本的な音は、使用者に配慮してのもの?

 お姉様が出ると、そこにいたのはセツナ・チェブルー。

 

「ん、どうした?」

 

「そろそろ時間だろうから呼んできてほしいって、リンディさんに頼まれたんです」

 

「ああ、少し早いが、確かにもうすぐだな。

 そうだな……セツナ、少しアコノと話をしてみるか?

 2人で話す機会もあまりなかったしな」

 

「そうですね。一度ゆっくりと話をしてみます」

 

「というわけだから、少し出てくる。アコノもこれでいいか?」

 

「大丈夫」




無印編はまだちょっと続くのに、原作無印がほぼ終わっちゃいました。
分量の割に中身が薄い回になった気がしますが、要するに“名前を呼んで”です。原作無印最終話です。でも、リボンの交換や抱き合って泣く事はしませんでした。ついでに“名前を聞いてもいい?”もあるので、サブタイトルは“名前を”に。
これ以外は、設定垂れ流しや繋ぎ的な何かですね。


(おまけ) なんとなく思い付いた嘘予告

 ジュエルシードの回収が終わり、助け出されたプレシアとアリシア。
 幸せな時間を取り戻したはずのプレシアに、魔の手が伸びる。
 明かされる真実の姿、進むべき未来への道は。
 次回、青の悪意と曙の意思 無印編42話 見えない傷の為に
 リリカルマジカル。手を、繋ごう。


2013/06/27 特殊な転送特典→特殊な転生特典 に修正
2013/07/03 以下を修正
 切欠→切っ掛け
 合わせて調べている→併せて調べている
2017/04/25 捉えて→捕らえて に修正

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