青の悪意と曙の意思   作:deckstick

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無印編44話 歴史を見るモノ

「そ、その前提で、拒否出来るわけがないでしょう……

 下手を打てば、管理局どころか次元世界の終焉じゃない。娘達との時間どころか、平和な場所すら無くなってしまうわ」

 

「そうね……明らかに不穏な単語も多かったけれど、内容が真実なら、協力は不要な騒乱を防ぐ事に繋がるわね。

 だけど、どうやってそれが真実だと確認すればいいのかしら……それに、エヴァさんの存在を隠したまま環境を維持する方法なんて、完全な情報断絶以外あり得ないでしょうし……」

 

 プレシアは疑ってねーみてーだケド、リンディが色々考えてんのはやっぱ提督の性かネ? 裏付けが欲しいってのは解るけどヨ、そもそも無理ゲーだぜコレ。

 2人とも顔色は蒼白に近いシ、ヤバ過ぎる情報もあったけど、やっぱ追い詰めすぎダ。

 

「リンディ。知れば知るほど、深みにハマるゼ?」

 

「もう、後戻りできない程に嵌っているわ。

 エヴァさんはあまり知られたくないみたいだけれど、間に立つ私くらいは真実を知っておくべきだと思わない?」

 

「なるほど。確かにそうですね。

 それでは、もう少し後で出そうと思っていたのですが、私からプレシアさんへのプレゼントです。

 ああ、リンディさんも見て構いませんよ。むしろ、ぜひ見てください。恐らく、今後の行動に重要な内容ですので。

 念のために書類でも用意したのですが、デバイスに転送した方が把握しやすいですか?」

 

 偉く大量の書類を出してきやがったなオイ。

 書類関係に慣れてるはずの提督と研究者の顔が、一瞬引き攣ってたゾ。

 

「オイ変態、重要な内容の書類って、何だヨ?」

 

「26年前の事件についての、詳細な資料ですよ。

 この短期間で集めるのはなかなか苦労しました」

 

「何でテメーがそんなモンを集めてんだヨ!」

 

「私の役目は、文化の蒐集ですからね。そのためには、人の記憶を貰うのが一番早いでしょう?

 例えば音楽などは楽譜にしても細かいニュアンスは伝わりませんし、楽器の音色等は何らかの方法で録音するしかありませんからね。

 ですから、私に魔力を蒐集する能力はありませんが、記憶を蒐集する能力はあるのですよ」

 

「方法じゃねーヨ、聞きてーのは理由ダ!」

 

 それに、蒐集すんのは記憶じゃなくて魂だろーガ。しかも、奪われたヤツは痴呆になる可能性があるはずだゼ? 敵なら容赦する必要なんてねーけどヨ。

 ン? むしろ、犯罪者連中ならボケた方が平和になんのカ?

 

「私も、元気な夜天に会いたいのですよ。理由など、それで充分でしょう。

 エヴァちゃんはプレシアさんを救って、夜天の治療を手伝ってもらうつもりだったようですからね。それに気付いた時点で、私に出来る事をやってみたのですよ。原作でもプレシアさんの過去の情報は抹消されている部分がありましたから、キナ臭い事この上ないでしょう? 調べてみたら案の定、ですよ」

 

「そーかイ。で、馬鹿はより馬鹿になってんのカ?」

 

「そうですね。ですが、他人の人権を踏み躙ってきた人に、自分の人権を主張する権利はありませんよね? そもそも、落ちてきた本に当たって怪我をした時に本を裁こうとするほど愉快な人達でもないでしょうし。

 ああ、ゼロちゃんもどうぞ。別に隠すつもりもありませんし」

 

「オレもちゃん付けかヨ。けど、ミッドなら人型になれて喋れりゃ人間扱いされそーなんダから、人外ってのは盾になんねーダロ。

 で、内容は……ゲ、管理局が関わってた証拠一式じゃねーカ」

 

 ネズミが調べてきた情報より、遥かに詳細で広範囲だゾ、コレ。

 関わった人間とかそいつの人事情報は、ネズミの情報と矛盾してなさそーだナ。

 それに、違法物質の取引記録やら利用方法も含んでやがル。決算書やらまで押さえてやがるし、下手に逃げたら監査に問題ありか虚偽申告で告発デモすんのカ?

 テカ、管理局やらの裏事情なんて、ドウやって……って、記憶を集めてだったナ。

 

「手を焼かされていたテロ組織や処分に困った実験体を殲滅するための事故偽装と、そのための違法物質の使用。

 プレシアさんをスカリエッティに協力させて最高評議会が望む技術を開発させる事が目的の、思考誘導の魔導具をプレシアさんに埋め込むための入院理由の作成と身柄の確保。

 資金や技術で協力を受けていたアレクトロ社に対する、新技術という謝礼の引き渡しのためのプレシアさんの排除。開発に協力していた人物の多くはアレクトロ社の技術者だったそうなので、技術の内容と言うよりも名義の引き渡しが目的ですね。

 これらの事情が、あの事故の裏側にあった様ですよ」

 

「オイオイ、盛りすぎダロ。

 石1個でどんだけ鳥を落とすつもりだヨ」

 

「最低3羽ですね。もっとも、余計な被害が大きすぎましたから、脳味噌さん達もやり過ぎと感じたのでしょう。かなり多くの人が更迭されたようですよ」

 

「随分掴んでやがるナ。けどよ、レジアスは噛んでねーのカ?」

 

「重視していなかったので見落としただけかもしれませんが、少なくとも私が集めた情報には名前がありませんでしたよ。

 年齢を考えると入局していなかった可能性すらありますし、入局していても下積み時代でしょう。使い走りに使われる事はあっても、重要な位置での関与は考えにくいですね。

 この後のゴタゴタで武闘派の勢力が増したらしいですし、レジアスの方向性が決まるきっかけになった可能性はありますが」

 

「ホー、そうなのカ。で、この情報、ゴ主人に見せるのカ?

 下手すりゃミッドチルダが崩壊するゼ?」

 

 ネズミの資料で管理局が関わってる事は解ってたけどヨ、どー見ても管理局主導だぜコレ。首の1個や2個で済む話じゃねーケド、本局と地上本部崩壊で済めば御の字かネ? 脳味噌の置き場所次第では、そこも増えそーだけどヨ。

 

「プレシアさん確保の役に立つ手札ですから、恐らく大丈夫でしょう。

 随分と昔の話ですし、時空管理局もアレクトロ社も大荒れで関係者がだいぶ居なくなっていますからね。

 この事件を担当する人が裏側の人でなければ、きっと罪の軽減くらいはしてくれます。正義感の強い人なら冤罪扱いで罪を消した上で管理局内部の膿を潰そうと動くかもしれませんから、そうなればエヴァちゃんも殴り込む理由が無くなるでしょう」

 

「だからと言って、手出ししてコネーとは思えねーゾ?」

 

「脳味噌さん達や残っている関係者がおかしな手出しをしてくるようなら、エヴァちゃんが黙っていないでしょう。私にも色々と手がありますし、ある程度ならエヴァちゃんにばれないよう対処する事は可能ですが。

 数日でこの程度は調べられる私の実力も、舐めてもらっては困ります」

 

「マア、ゴ主人もこれの一部は掴んでたシ、交渉で使う気満々だったから問題ねーカ。

 ケドよ、幻のくせにやる気じゃねーか。どんな風の吹き回しダ?」

 

「夜天を助けたいのは私も同じだと言ったでしょう?

 それに、エヴァンジュを娘のように思っている事も事実ですからね。

 細い絆ですが、家族と呼べる人の為です。ここで力を惜しむほど愚かではありませんよ」

 

「ソウカイ」

 

 ウーン、コリャ大真面目に言ってやがル。

 リンディとプレシアは……資料の確認中だナ。まだしばらくかかりそーだシ、変態は結構イロイロ調べてそうだかラ、もうチョイ聞いとくカ。

 

「んで、夜天改悪のトドメが最高評議会だってのは、何でダ?

 アレが改悪する必要なんてねーダロ?」

 

「ああ、その事ですか。

 過去にも協力的な主がいたのですよ。闇の書の被害を知っていた当時の人達は、まだ人間だった脳味噌さん達を中心にチームを組み、主と協力して闇の書の改変に挑戦しました。

 その内容は、闇の書を自己消滅させるための、自滅術式の追加です」

 

「ヨースルに、失敗しやがったのカ?」

 

「そうですね。闇の書の防衛プログラムに闇の書本体を攻撃させるはずが、闇の書の完成直後に破壊を振りまいて周囲諸共滅ぼすようになってしまった様です。闇の書や防衛プログラム自身も巻き込むので成功したとも言えるのですが、意図した結果にはならなかったのですよ」

 

「時限爆弾を爆破処理しよーとしたラ、合わさって手に負えねー爆弾になっちまったって事かヨ」

 

「そんなところですね。

 それまでは主の意識や理性が飛んだりして集めた力を制御出来ず、暴走して自滅する際に周囲を巻き込むパターンが多かったらしいのですがね。積極的に破壊や浸食を行うような方向付けに成功してしまったので、被害はより大きくなったそうですよ。

 もっとも、最終的に破壊を振りまくという点については変わっていませんから、本当に改変出来たと言っていいのかすら微妙だと思っていますが……公式発表と非公式資料からは、この辺が限度でしたね。脳味噌さん達に近付くことが出来なかったので、これ以上の調査が出来なかったのですよ」

 

 完全な無能ってわけじゃねーナ。ある程度手を出せる程度の中途半端な有能さガ、やっちまった原因カヨ。

 

「ちなみにこれは160年程前の出来事で、次元世界の平定よりも前の話ですよ。

 この事を反省して、どこに闇の書等の危険なロストロギアが現れても対処できる技術と体制作りを目指したのが、時空管理局の前身の組織です。ロストロギア対策技術の開発を行い、各世界の国や治安部隊へ技術と交流の場を提供して、有事の際の解決や相互支援を円滑に行う事が目的の研究所と互助組合と言えば解りやすいでしょうか? 国際連合の様な役目も果たしていたので、緩やかな縛りの平和ではありますが、これを以て平定と言われるようになったようです。

 この頃は、脳味噌さん達も行動方針自体は応援するに足る人達だったのですがね。実力不足はまあ、これほど大掛かりな組織を作るのに充分な実力者なんていないでしょうから、仕方が無いでしょう」

 

「ケド、ソノ成れの果てが、ゴ主人に腐れ脳味噌とか呼ばれる今の状態ってワケカ?」

 

「多くを求めすぎた事、求められ過ぎた事も悪かったのでしょうね。

 裏で動くようになったのも、どうも関係国に公開した技術で一部の国が暴走したからという理由もある様ですし。どこの世界もいつの時代も、程度の悪い国や組織は無くならないという事なのでしょう。

 自分達がやらねばならないという責任感以上に、何とかしてほしいという周囲の期待という名の圧力も大きかったようです。それらの結果として、多くの世界の司法や治安に関する組織を傘下に置いてしまったり、必要以上に手を広げて巨大化し過ぎてしてしまったりしたのではないでしょうか。

 その意味では、人と技術に振り回された犠牲者でもあるのでしょうね」

 

「全てをどーにかしようとするから、そーなるんダ。手の届かねー所は無理だって言っちまえば楽になれるのにヨ。

 デ、ゴ主人の詳しい事を知られたら手出しされるのは確実だろーケド、何処まで知られてそーなんダ?」

 

「プレシアさんが知っていたのですから、エヴァちゃんの情報を持っている事は確実です。リンディさんはまだエヴァちゃんの詳しい報告を上げていないようですし、いつここにいる事に気付くかは別ですがね。

 リーナのクローンを作れるくらい積極的にアルハザードの情報や流出物を集めていたのですから、闇の書が元々アルハザード製だという事も既に気付いているでしょう。

 予測でしかありませんから、これ以上の調査は今後の課題ですね。まだ脳味噌さん達の居場所も掴めていませんし」

 

「最高評議会の記憶も取ってくる気かヨ。下手スリャ今以上に痴呆になるんじゃねーのカ?」

 

「ちょっといいかしら。さっきから最高評議会の方達を脳味噌と言っているけれど……頭脳という意味じゃないみたいだし、どういう事なのかしら?」

 

 リンディが書類から目を上げて、こっちを見てやがル。

 まだ顔色はわりーままだけどシッカリ聞いてやがったナ、やっぱ抜け目ねーヤ。

 

「言葉通りの意味ですよ。あの3人は140年前の次元世界の平定に重要な役割を果たし、時空管理局設立にも関わった人物で間違いありませんが、脳だけになってカプセルの中に浮かんでいる状態です。

 もはや人とは言い辛い姿ですが、彼らなりに不老不死を求めた結果のようですね。140年ほど前に組織を立ち上げた時点でそれなりの年齢だったはずですし、既に200歳くらいじゃないでしょうか」

 

「そうなの……どうしてそんな姿になってまで…………」

 

「先ほど言った通り、自分達が世界を守るんだと言う責任感が暴走した結果のようですよ。

 クローン技術等を使って体を取り戻していない理由は不明ですが、行動の目的そのものは原作で語られていましたね。エヴァちゃんから聞いていませんか?」

 

「いえ……意図は解らないと言っていたわ。

 その様子では、隠していたと見ていいのね?」

 

「そうですね。私でも覚えているのですから、エヴァちゃんが把握していないとは思えませんし……管理局の一員であるリンディさん達と険悪な空気になりたくなかった、という事でしょうか。

 原作で語られた情報を纏めると、脳味噌さん達が選ぶ指導者による中央集権体制の構築が目的で、戦闘機人や人造魔導師はその為の戦力だそうですよ。その裏で暗躍するつもりみたいですから、要するに次元世界の影の支配者になりたいようです」

 

「実際にそう思っている可能性は……高いのかしら?」

 

 リンディは違っててほしそうだけど……ここまでの話を聞いてても、ムリだろソレ。

 

「私が調べた限りでは裏側の活動に大きな差異は無いようなので、実際にそう思っている可能性は高いですね。少なくとも、違う目的だと言えるような情報は見付けていませんよ。

 ちなみに、原作のスカリエッティが言うには、戦闘機人に拘るのはレジアス、人造魔導師やロストロギアに拘るのが最高評議会だそうですよ。スカリエッティの指名手配の内容や過去の出来事を考えると、どれも実際に関わっていると思える技術です」

 

「そう……そんな事になっているの…………」

 

 どーすんだよ、リンディが死人みたいな顔で落ち込んじまったゾ。

 楔とか棘とか、そんな生易しくねー代物を打ち込んで、何をしたいんだヨ。

 

「多くの次元世界の協力で運営されている組織の影で蠢いている人物が支配者面で何を言っているんだ、としか思えませんがね。

 そもそも、手駒で犯罪者のスカリエッティに“平和を守り正義を貫く為なら、罪もない人々に犠牲を出してもいいと、なかなか傲慢な矛盾を抱えておいでだ”などと言われる手法を取っていますし。自分達が責任を取る立場に立つ気も無いまま協力者達の信頼を裏切らせているのですから、エヴァちゃんが腐れ脳味噌と罵倒する気持ちも解ります」

 

「オイ、何追撃してんだよ、このド変態!」

 

 この流れだと下手すりゃ管理局と全面対決カ? ンなメンドクセー事したくねーゾ。

 テカ、脳味噌の状態で表に出るのは問題しかねーと思うんだガ、感覚が麻痺してんのかこの変態は。アレか。とっととクローンでも作れって言いたいのかヨ。

 

「いやぁ、私も今の脳味噌さん達はどうかと思いまして。

 今回の件が、管理局の自浄作用が働くきっかけにでもなればいいのですが」

 

「やり過ぎダ、このド(ヘンタイ)ガ。

 ケドよ、原作知識ってやつはともかく、脳味噌の昔話はその時期に調べてたんダロ?

 いくら夜天やゴ主人の為っつっても、随分と準備が良くねーカ?」

 

「姉である夜天を助けたいから、では納得出来ませんか?

 その為に、可能な限りの情報や技術をエヴァちゃんに持ってもらったわけですし。私に夜天を治せる能力や技術はありませんから、治し得る手段や情報の確保は、アルハザード時代から始めていたのですよ。

 それに、治した後の事も考える必要がありました。エヴァちゃんがどう動きたいか、どんな結末を望むのかを考えれば、誰が本当の敵になるのか、敵になった場合にどう抑えるのかといった情報は必須でしょう?」

 

 夜天や宵天の修復用情報も、やっぱりコイツの仕業かヨ。

 イモート達の困惑の原因ははっきりしたけど、コレもゴ主人にゃ言えねーよナァ。

 

「ん? だけどよ、何で今頃プレシアの過去を調べたんダ?

 ソレに、管理局の過去の情報は、ゴ主人に送ってねーダロ? 見付けたって聞いてねーゾ」

 

「原作に強く関与する人物のいる世界に移動する事も中々手間取りましたし、近寄ってしまうと身動きが取れなくなるのですよ。闇の書や最高評議会の脳味噌さん達も該当しますし、しかも半径数十キロくらいは近くと判断されるようで、迂闊に近付くことも出来なかったのですよ」

 

「カリムの寝顔はどーやって撮影したんだヨ。

 近寄らなきゃ無理ダロ?」

 

「聖王教会にお邪魔するのは、かなり無理をしたのですよ?

 ミッドの場所は調べる事が出来ましたし、1度でも何らかの方法で移動に成功した世界には出入りできましたからね。転生機能を使って、狙って飛んでみたのですよ。

 いやぁ、実体具現化も転移も飛行も出来なくなりましたよ。本の模様として物語を浮かべたり、微弱なサーチャーを出して簡単な情報を探ったりが限界でした。オリヴィエちゃんやオーリスちゃんの時もそうだったので、解っていましたがね。

 その分、突然自由に動けるようになった時は驚きましたよ」

 

 あー、ジュエルシード封印までの制限ってヤツの影響ってカ。

 そんな状態じゃ、プレシアやアリシアにも簡単に近付けねーナ。何で行かなかったのか、って疑問は残るけどヨ。

 

「なら、歴史書の本分の情報は、何でゴ主人に送ってねーんダ?」

 

「管理局やベルカの過去について秘密にしていたのは……怖かったのですよ。

 私が夜天の弟の様な立場だと知った時には、夜天を助けられると喜んだものです。リーナが夜天と通信出来ると知った後は、夜天の改変を避ける様に促したり、いざと言うときの切り札、つまり曙天の用意をしてもらったりもしました。

 ですが、結果的にリーナは命を捨ててしまいました。それも、原因はどうも私やエヴァンジュの言葉に感じるところがあったからの様ですから、おかしな修正力でもあるのではと疑ってもいます。

 そして、いざアルハザードという枷、リーナという夜天との繋がりが無くなってから、ふと疑問に思ったのですよ。私はいつまで夜天を助けるために動こうと言う気になれるのだろうか、エヴァンジュが真実を知れば、私が原因で地球に生まれる事が出来なかったと恨むのではないか、と」

 

 あー、ゴ主人は夜の一族の可能性が高いと思ってたしナ。

 恨む可能性は……低そうだけど、無くもねーヤ。

 

「いつまでたっても目覚める様子の無いエヴァンジュの話を耳にする度に、罪悪感は増す一方でした。そんな状態で夜天の事を押し付ける気にはなれません。2人……夜天とエヴァンジュに関する情報は可能な限り集めていましたが、私の胸に留めていたのですよ。

 おかげでまともな資料の多くを止める事になり、趣味を兼ねた幼女達の姿が目立つ結果になってしまった上に、初めて対面したエヴァちゃんの予想以上の可愛さに舞い上がってしまって、余計に嫌われる羽目になったのですが。

 世の中、こんなはずじゃない事ばかりですよ」

 

「ため息をつく場面じゃねーヨ。幼女情報や変態行動で嫌われてんのは自業自得だゼ。

 で、ユーノのとこに来たのは何でダ? 変態(ろりこん)のお前が、何を思って野郎のトコに来タ?」

 

「女顔のショタ君に興味があった事もありますが、やはり無限書庫ですね。あれはロストロギアの流用なのですがなかなかに堅牢でして、簡単には侵入出来ないのですよ。

 彼にくっついていれば、無理せずに入れそうでしょう?」

 

「趣味じゃなくて実益カ?」

 

「ええ、そうです。それに、ユーノ君はなのはちゃんの部屋に入り込んでいましたから、寝顔もばっちりだと思いましたし。パジャマパーティーにでも混ぜてもらえたら最高です。

 何より、男なら美少女達の盾にしても心が痛まないじゃないですか」

 

「最悪だなテメー」

 

「一流のロリコンだと言って下さい。

 ところで、何か言いたそうですが……どうしましたプレシアさん?」

 

「それで、貴方達は管理局をどうしたいのかしら。

 このまま放置するつもり?」

 

 今度はプレシアか。自分達の未来がかかってるシ、気になるのは仕方ねーナ。視線に怒りが混じってんのは、事故の原因を知ったせいだろうしヨ。

 てか、アリシアは呑気なもんダ。こんな空気の中まだ寝てやがル。

 

「別に、私は何も思っていませんから。脳味噌さん達を応援する気は全くありませんし、支配しても破壊しても面倒なだけで楽しくなさそうです。

 もちろん、余計な手出しをされた場合は全力で叩き潰しますが、それだけです。闇の書対策の名誉を受け取る気のないエヴァちゃんも、同意見だと思いますよ。

 この資料は、プレシアさんを早急に確保するための手札だと思ってください。要するに、管理局の罪を個人に擦り付けるな、と交渉するための材料ですね。それに、最高評議会やレジアスへの牽制にもなるでしょう」

 

「最高評議会やスカリエッティは、放置するという事?」

 

「関わってこなければ、そうなりますね。接触が無い確率は極めて低いとも思っていますが。

 敵対的であれば、相応の痛みを感じて頂くことになります。

 表面上は友好的でも下心満載であれば、仲良くする必要性を感じません。極めて丁寧に退場して頂きます。

 これ以外の可能性は、無視して問題ないでしょう」

 

「……フフ、そういう事ね。

 確認するわ。私の役目は、管理局への威圧と、エヴァンジュの精神的な拠り所になる事。

 これで合っているわね?」

 

「おや、随分機嫌がいいですね。

 認識はとても正しいのですが、問題ありませんか?」

 

「ええ。アリシアを殺したのは管理局とアレクトロとスカリエッティという事でしょう? 積極的に復讐するのは面倒が多そうだけれど、意趣返し位はしたいわ。それに、アリシアとの時間を取り戻してくれたエヴァンジュには、本当に感謝しているの。

 子供が3人になったところで問題は無いし、精神的に頼られるくらい親密になったら、アルハザードの最終兵器が守護に付くという事と同義よ。頼もしい事この上ないわ。

 持っているであろう技術にも興味があるし、犯罪者として追われる生活も終わりに出来る。

 多少の制約はあるとしても、これだけの利点があるのだから拒否する理由がないわ」

 

 オゥ、完璧じゃねーカ。ココまでイイ感じで受け入れてくれるたぁ、ゴ主人も色々仕込んだ甲斐があったってモンダ。

 笑みがちとコエーけどヨ。

 

「そうですか。それは良かったです。

 ところで、セツナさん。そろそろ状況を理解していただけましたか?

 かなり危険な領域まで踏み込んでしまった事を理解していただいた上で、この場の情報は漏らさない事は約束して頂きます。出来ないのであれば、消えて頂くことになりますよ」

 

「大丈夫です。

 それに、エヴァさんが寂しがっている事は理解しました」

 

 謎はすべて解けた、みたいな顔をしやがっテ。

 コイツの頭はどーなってんダ? 今のゴ主人の精神状態じゃ、ソレを言うだけでやべーんだゾ。

 

「それに、私は他の人達よりも少し近い立場に立てるかもしれません。

 剣術限定ですがそれなりの力はありますし、これはエヴァさんが持たないものです。

 この世界の常識や魔法については努力中なので何とも言えませんが、魔導師としてそれなりの実力も身に付けば、もう少し歩み寄れそうな気がします」

 

「エヴァちゃんの支えが増える事自体は喜ばしいのですが、セツナちゃんにそれを求めるつもりはありませんよ。

 むしろこの場の話を全て忘れるか、離れて頂いた方が安心出来ます」

 

「まさか。一番共感出来る大切な友人ですから、簡単に手放したくありません。

 それに、今はまだ貰ってばかりですけど、私だって少しは返したいんです」

 

 頑固者メ。

 ダガまあ、こんな奴は嫌いじゃねーナ。

 

「んじゃ、セツナはゴ主人の友人として、隣に立てるくらいになりナ。

 使うのが剣なラ、オレが仕込んでヤル」

 

「おや、いいのですか?」

 

「手は多い方がいーんだヨ。

 ソレに、迂闊な事をするようなら、オレがバッサリ斬ル。

 覚悟シトケヨ?」

 

「わかりました」

 

 オシ、コレでセツナも問題ねーナ。

 で、残るはリンディか……マア、管理局の防波堤になってくれりゃ文句ねーカ。

 別に毒を仕込む必要もねーだろーシ、必要なら、ゴ主人が後から話しつけるダロ。てか、既に死人の顔になっちまってるからナ。

 殺すのは好きだガ、味方ぽいヤツを苛めるのは好きじゃねーんだヨ。

 

「で、リンディはどーするんダ?

 おれは別に、管理局を直接どーこーしようとは思ってねーゾ」

 

「そうですね。不愉快な手出しをされない限りは、私も不干渉ですし。

 プレシアさんの確保については手伝っていただきたいですが、その後は手を引く事も未来の1つではあります」

 

「……プレシアさん。1つ質問してもいいかしら?

 ジュエルシードの情報は……どうやって?」

 

「スカリエッティよ。あいつが、いつもの気持ち悪い笑みを浮かべながら、情報を押し付けて来たわ。願望機たるジュエルシードを使えば、失われた世界にも行けるんじゃないか、とね。

 情報をくれた管理局の友人が足止めをしてくれるから、確保して利用法を編み出してほしいとか言っていたけれど……きっと、実際に使い物になるか実験したかっただけでしょうね。そもそも、事故の後でアリシアの遺体が保存処理されていた上に、蘇生法の研究に協力する事が司法取引で提示された時点で、おかしい事に気付くべきだったわ。

 この資料が示している管理局と犯罪者の繋がりは、私が知る事実と矛盾せず、むしろ裏付けにしかなっていない。つまり……恐らくとしか言えないけれど、管理局から回された情報よ」

 

「そう……駄目ね、裏側の繋がりを考え始めると、切りがないわ。

 もしここで手を引けば、きっとグレアム提督や最高評議会とエヴァさん達の間で全面戦争が始まるわね。夫の事もあるし、逃げるという選択肢だけはあり得ないわ。

 エヴァさんや闇の書について、時空管理局の関係者でここまで踏み込む事が許されているのは私1人だもの。私には、時空管理局の抑えと折衝役を求めているのでしょう?」

 

 落ち込んだままっつっても、きちんと判断は出来てるみてーダ。

 顔色最悪だシ、ちと気負いすぎかもしれんが……他に適任者はいねーし、仕方ねーだろーナ。狂人に情報を渡したのは、管理局の犯罪者共で間違いねーだろーシ。

 

「そうして頂けると、平和に話が進みますからね。

 リンディさんとして問題無いのであれば、ぜひお願いしたいですよ」

 

「問題が無いわけないじゃない。

 でも、平和を維持するためには他の手が無さそうという事は解るわ。

 もちろん、この資料の内容も改めてじっくりと確認させてもらうけれど、構わないでしょう?」

 

「もちろん。交渉できちんと使って頂く為にも、存分に確認して理解して頂きたいですね。

 ああ、脳味噌さんや犯罪者さん達に嗅ぎ付けられると面倒なことになるので、その辺は注意して下さい。武力も権力も、動き出してしまえば穏便に相手をするのは不可能ですからね」

 

「そうね、時空管理局の内部で権力を使われてしまえば、普通の方法ではどうにも出来ないでしょうし。

 でも、もし……いえ、それは後で考えるとしましょう。

 まずは、この場をどうエヴァさんに説明するかが問題かしらね」

 

 あー、ダイブ踏み込んじまったし、アリのまま話したらゴ主人はまた暴走するからナ。

 指摘は正しいんだガ、案も出してほしいぜリンディ。

 

「とりあえず、プレシアに気付かれた、てのは隠さねー方がマシだナ。

 ゴ主人も原因だし、隠し切れると思えネー」

 

「そうですね。必要以上の隠し事は無い方がいいでしょう。

 ですが、エヴァちゃん内面の暴露については無かった事にしましょう。

 プレシアさんについては、エヴァちゃんの過去に気付き、仲良くなれば心強い協力者になれる事から協力に積極的になった、程度の筋書きが無難でしょう。

 いかがですか?」

 

「私が積極的にエヴァンジュを構うのも、アリシアに対するアルハザードの最終兵器の保護が目的。

 それで問題無いわ」

 

「おや、親馬鹿は変わりませんか」

 

「あの中での3ヶ月で全くぶれなかった事、私が私である証よ。

 ただ、上からの密命とはいえなぜ個人で駆動炉開発を了承したのか、なぜ蘇生ではなくクローンなんてものに縋るようになったのか、なぜフェイトを作った時にアリシアの体をそのままにしたのか、なぜ虚数空間の事を考えなかったのか……どうしても解らないわ。

 恐らく、これが認識阻害か思考誘導と言っていた魔導具の効果ね」

 

「なるほど、エヴァちゃんがそう言っていたのであれば、間違いなさそうですね。

 プレシアさんの基本路線はこれで良いでしょう。リンディさんは……アルハザードの最終兵器と管理局の対立を避けるために動く、という事でどうでしょう。これ自体は真実でしょうから、問題ないと思いますが」

 

「そうね、その意図は間違いなくあるから、真実と言っていいでしょうね。

 だけど、あの資料についてはどう説明するのかしら?」

 

 アー、事件の調査資料カ。

 出した理由くれーは決めておかねーとヤベーナ。

 

「プレシアさんが協力的で、リンディさんが防波堤役を請け負ってくれると言う前提に立てますからね。プレシアさんを確保するための手札を渡したと言えば充分でしょう。

 この方針で、リンディさんは何か問題はありますか?」

 

「これ以外の説明を思い付かない程度には、無いかしらね」

 

「では、この路線で行きましょう。

 セツナちゃんは……そうですね、血塗られた過去の話を聞いてしまった事は、エヴァちゃんに謝っておいた方が無難でしょう。

 口を挟むことも出来ないまま話を黙って聞いていた、辺りが落としどころでしょうか」

 

「分かりました。口を挟めなかったのは事実ですし、問題ありません。

 途中からハブられていた方が無難かもしれませんけど」

 

「ふむ、聞いていない方が無難という事ですか。では、最終兵器と呼ばれていた事は聞いてしまった事にして、それ以降の黒い話からは外れていたという事で。

 それでは、説明用にもう少し詳細な状況を考えておきましょう。

 鋭くてもどこか抜けているエヴァちゃんはともかく、チャチャちゃんに突っ込まれるような隙があるとまずいですからね」

 

 当面の危機は去ったシ、いい環境を作る事は出来たナ。やれやれダ。

 ケドよ、変態(ロリコン)が実は変態(へんたい)じゃねーってのは……いや、変態(ロリコン)ドS(ヘンタイ)はあるのカ。

 ヤヤコシイし、道化を続けるみてーだから、やっぱ変態でイイヤ。




エヴァ、マジ暴走。
プレシア、マジ超重要人物。 ←ここまで設定山盛りで、チョイ役はあり得ませんよねぇ。
リンディ、マジ受難。 ←やっと空気じゃなくなったよ!
チャチャゼロ、マジお父さん。
リーナ、マジ何やってんの。
クーネ、マジいい人。 ←いい性格の人(悪い意味で)かもしれない。

まずは、スーパーチャチャゼロタイム。
続いて、スーパークーネタイム。 ←なんか継続してた?

プレシアのボヤキ
 あ……ありのまま、今起こったことを話すわ。
 娘との時間を取り戻したと思ったら、恩人に殺されそうになったと思ったら、守ってやってほしいと頼まれたと思ったら、恩人の愛されぶりを披露されたと思ったら、脅されていた思ったら、余計に救われた気がするわ。
 命と頭がどうにかなりそうだったわ。
 駆け引きとか交渉とか、そんなものじゃ断じてなかったわ。
 もっと恐ろしいものの片鱗を味わったわ……
 あれでは断れるわけがないでしょう! 断ったら、娘との平和な時間なんて簡単に吹き飛ぶじゃない!
 最終兵器の子守なんて、どうしてこんなことになったのかしら……でも、アリシアやフェイトと過ごせる上に、管理局やアレクトロやスカリエッティに意趣返しも出来そうね。アルハザードの技術にも興味があるし、条件としては悪くないわ。

リンディのボヤキ
 あ……ありのまま、今起こったことを話すわ。
 プレシア女史の事後処理の相談に来たと思ったら、アルハザードの最終兵器の話になったと思ったら、時空管理局の存亡の話になっていたと思ったら、時空管理局の真実を教えられたわ。
 常識と信頼がどうにかなりそうだったわ。
 時空管理局の闇とか裏取引とか、そんなものじゃ断じてなかったわ。
 もっと恐ろしいものの片鱗を味わったわ……
 こんな話、誰かに漏らしたら私も時空管理局も無くなりそうね。私がエヴァさんたちに協力するのは、避けられそうにないわ。
 時空管理局の提督のはずだけれど、どうしてこうなったのかしら……エヴァさんやプレシア女史の罪(ジュエルシード事件の情報偽装、26年前の事故)も、元を辿れば時空管理局の問題に辿り着くみたいだし。時空管理局の一員としては、頭の痛い話だわ。


プレシアとリンディ、マジ涙目。
ついでに、数人(エヴァ、チャチャゼロ、クーネ、リーナ)のキャライメージが大きく変わる。 ←どうでしたか?
でも、プレシアに救いはある。 ←あります……よね?
一番可愛そうなのは、きっとリンディ。 ←辛い立場になっただけに見えるんですよー


……うん、2012/11/23に感想の返信に書いた内容は、嘘じゃないはず。


なお、宵天が記憶を集めたのは「魂の(一部)蒐集」の能力についてですが、エヴァが同じことをしようとすると「魂の剥奪」になり殺してしまう(死体を作らない為には従者化or眷属化が必須になる)ため、情報収集だけに使うには宵天の方が使い勝手がいいです。
但し、宵天の剥奪も「奪う」のですから、影響が無いわけではありません。具体的には、記憶や人格の部分消滅が起こります。分かりやすく言えば、記憶喪失、精神疾患、痴呆に似た症状が現れます。

能力の関係を簡単に書くと「(夜天のリンカーコア蒐集+宵天の魂蒐集)×魔改造=曙天のリンカーコアや魂の剥奪」という図式になります。広域化&遠距離からの強制実行が可能になった代わりに手加減が出来なくなっている辺りが、魔改造たる所以です。

※クーネが魂の一部を奪ったからと言っても、記憶や人格の影響が必ず見えるわけではないです。周囲の情報から元に戻ったり(Aが好きだからA’も好き→A’が好きという部分を失っても、同じロジックで補完されたら元に戻る)、同じ情報がいくつかの場所にあったり(記憶の場合は思い出したりする度に新たな記憶になる可能性がある等)します。
 でも、魂そのものを調べる技術があれば、一部を失っている事は簡単に解ります。

※エヴァは全取得全貸与なので部分消失はありません。命などを含めた全てを奪うだけで。


2020/01/29 ―(横線)→ー(長音符) に修正
2022/08/26 チャチャゼロの発言を「ゴ主人」に統一

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