青の悪意と曙の意思   作:deckstick

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A’s編01話 手を伸ばす先は

 お姉様は元気が無い。気合と根性で事後処理の打ち合わせを終えた後は、やる気も地を這う勢いで低下中。

 何をする気にもならないという事だったけど、主が八神はやて宅に行く際に連れ出した。

 今は5月9日、日曜日のお昼を過ぎたところ。クローンショックから、まだ16時間ほどしか経過してない。

 

「はあ……こんな顔で会いに行くのはどうなんだろうな」

 

「人間、元気な時もあれば元気がない事もある。

 やる気が出る日も出ない日もある。

 この際、はやてに甘えてみるのもありかも」

 

「いや、さすがにそれは無理だ。

 意識がある時間だけで言っても、40歳を超えてるからな。8歳に甘えるのは心が抉られるから、別の意味で落ち込む自信があるぞ」

 

「それは自信たっぷりに言う事じゃない」

 

「仕方ないだろう、私から見たはやては娘と言っていい年齢なんだ。

 どこぞの変態(ロリコン)じゃあるまいし、甘えさせるならともかく、甘えるのはなけなしのプライドが許さん」

 

「でも、私には甘えてほしい。

 年齢はともかく、立場だけで言えば私が上。

 前世がある分、はやて達より差も小さい。少なくとも娘と呼ばれる程の差は無い。

 大きな問題は無いはず」

 

「確かにはやてよりは問題無いんだが、それでもだな…………」

 

「外見的には、私の方が年上に見える。

 それに、私は甘え方が分からなくなっている。

 甘え方を思い出させてほしい」

 

「それを盾にするか。

 まあ……考えておこう」

 

 やっぱり、お姉様は恥ずかしそう。

 ちょっと顔が赤い。

 元成人男性としての意地と、弱さを見せてしまった羞恥心?

 

「うるさい。いちいち心を抉るな」

 

 お姉様が拗ねそう。

 これ以上は禁止。

 もうすぐ八神家に到着する。

 

 というわけで、八神家に到着したお姉様と主。

 既に勝手知ったる家であり、八神家のチャチャもいる。家主が玄関に出るまでもなく入り込み、そのままティータイムに。

 勉強はちょっと後回しで、お喋り開始。

 

「よーするにや、今まで抱えてた厄介事が片付いたって事やね?」

 

「その中でも大きなものが、ではあるがな。

 考えていた協力者も確保出来たし、準備は順調だ」

 

 最初の話題は、ジュエルシード事件と、現在の状況について。

 どちらも、それなりに良い形だと言えるはず。

 

「そっかぁ。出来れば一度会ってみたいんやけど……」

 

「今日明日というのは、難しいな……来週にでも会えないか、話をしてみるか。

 なるべく大勢で集まれるよう話をしてみよう。それでいいか?」

 

「うん、ええよ。

 大勢かぁ……なんかお祭りみたいや」

 

「どれくらい来るかによるが、賑やかになるだろうな」

 

 顔合わせも兼ねて、全員に会わせる?

 時空管理局(アースラ)組、協力者(テスタロッサ)組、転生者組、現地組、全て?

 

(全員だな。可能な範囲で調整してみてくれ。少なくともプレシアとリンディは必須で、他は調整出来ればで構わん)

 

 了解。

 そんな話や普通の世間話等をしつつ、ティータイム続行。

 そろそろ勉強を始めるかと準備しようとした時。

 

「あんな、ちょっとお願いがあるんやけど……」

 

 八神はやてが、上目づかいで何だか言いにくそうにしてる。

 

「私……だけではなさそうだな。私とアコノにか?」

 

「ものすごく身勝手なお願いやと解ってるし、無理なら無理で仕方ない内容なんやけど……

 お願いします、私のお姉さんになってください!」

 

「えーと……念のために確認するが、どんな内容だ? というか、どんな理由だ。

 日常生活面か? 戸籍や法律的な物か? まさか、百合的な物では……」

 

「いやいやいや、流石にそれは。

 やっぱり、1人暮らしは心細いし……うん、一緒にいる人が欲しいんよ。

 それに、アコノさんはあんまり家族とうまくいってる様に見えへんし、エヴァさんも表に出やすくなるんとちゃう?」

 

 認識阻害を解除した弊害?

 守護騎士が来るまで待てなかった模様。

 でも、主と家族の関係は確かに非干渉過ぎるけど、それにしては何だか違和感。

 決して嫌われているような感じはしない。手を出しあぐねてるような感じにも見える。

 

「一緒にいる事については、たまに泊まりに来る程度なら問題ない。

 現状で姉になる事は難しいはず。車椅子の子供が2人で住むと言う状況は、いくら認識阻害をしても違和感が大きすぎる。

 だけど、家族になるという提案自体は、悪くないと思う」

 

「そうか? グレアム対策やらで面倒なことになりそうなんだが」

 

「私の家族は裏側の人間じゃない。私達が地球を離れる可能性も無いわけじゃないし、不老についても正確な説明が出来ない。近い将来に離れる事になるのは確定している。

 それなら、問題が起きる前に離れておくのは無難な手と思える」

 

 現在の計画通りに進めば、八神はやても不老不死化する。

 戸籍やらの書類的なものはどうにかするとしても、人間関係的な部分は将来的に問題となる可能性が高い。

 

「そっちの対処か……確かに、家族としてまとめて色々誤魔化せる方が、楽そうではあるか。

 だが、車椅子2人という状況はどうするんだ? せめて守護騎士が来てからなら、説明もしやすいと思うが」

 

「大人が居ればええの?」

 

「大人が必要なら、エヴァとチャチャが大人の姿になって先に同居している事を装う方法もある。

 外見をある程度変えられるはずだから、説明する時に姿を変えれば説得力を持たせることは出来るはず」

 

「いや、それはそうなんだが……

 偽装を止める目処は立っていないし、迂闊な事をすれば猫共も感付くはずだぞ?」

 

 戸籍については、月村家か高町家に相談すれば何とかなる可能性が高い。

 フェイト・テスタロッサの隠れ家を用意出来て、アースラの現地拠点も確保出来る程度の伝手が、時空管理局にはある。その伝手の一端を担っていた以上、心当たりが無いとも思えない。

 餅は餅屋。疑われても問題ないような偽装方法を相談出来るはず。

 

「今から戸籍を用意するなら、大人の姿で確保してしまった方が便利。

 子供では出来ない事も多いし、外見が変わらない点も大人の方が疑われにくい」

 

「いや……まあ、確かにそうなんだが、この姿と本以外の外見は、あくまでも一時的な物だ。使ったことが無いから、どれくらい変えていられるかも解らん」

 

 こんな事もあろうかと、お姉様の記憶から大人の姿の構築も完了済み。

 ついでに補助の姿として負荷が小さくなるよう最適化も進めてる。

 現状での最大連続使用時間は約10日間。変形時の負荷は5分で回復出来る程度、変形中の負荷は使用時間の半分程の時間で回復出来る水準に抑えられたはず。

 幻影を併用したり、人前に出ない時に本か現在の姿に戻ったりすれば、ほぼ常用可能な計算。

 姿を大きく変えるほど、負荷が大きくなる。計算上では、蝙蝠だと半日で限界になる。限界からの回復はどの姿を使用した場合でも5日ほど。

 

「それなら、早めに試そう。大人バージョンのエヴァンジェリンなら全く問題ないはず」

 

「……お前ら、いつの間に」

 

 また呆れられた。

 頑張ったのに。

 

「えーと、エヴァさんは大人になれるん? 魔法って凄いなぁ。

 私も夜天の魔導書の主になったら、この姿のままになるんやろ? 似た事が出来るなら便利そうや」

 

「大人モードを実現する魔法は存在するはず。

 術式は……見付けてる?」

 

 ベルカ式の魔法が存在する事は確認済み。Vividで使われていた身体強化による大人モード。

 個人毎に調整が必要だから今すぐに使う事は難しいし、そもそも八神はやては現時点で魔法を使えない。正確には使わない方がいい。

 

「あー、まあ、2人は調整すれば可能……らしい。

 そんな期待した目を向けるなはやて。とりあえずサンプルを見せるから、術式を確認する間くらい待て」

 

 構成情報転送、実体具現化回路への介入を開始。

 ベルカ式とは異なる手法だけど、外見への影響は似たようなもの。

 見本用に、ベルカ式の魔法陣を展開。

 外装変更。

 

「こ、この姿は……」

 

 お姉様もびっくり?

 設定年齢は22歳。スレンダー気味だけどボン・キュ・ボンの色気たっぷりスタイルに、不自然じゃない程度に長い脚。服装はあえて大人の女性を演出、黒いナイトドレス露出多め。

 具体的には魔法先生ネギま15巻、ネギ・スプリングフィールドとディナーを食べてるエヴァンジェリンの外見。

 奇を衒わず、正統派をとことん追求したバランスの良い美女。身長もヨーロッパの成人女性の平均身長を参考にした165cm。

 髪の先から爪の先まで、どこを出しても恥ずかしくない出来。超頑張った。

 八神家のチャチャの視覚情報をお姉様に転送。鏡よりも良く見えるはず。

 

「…………と、とにかく服を変えろ!

 ジーンズでも何でもいいから、は、早く!」

 

 お姉様・いん・ぱにっく?

 顔が真っ赤。必死で体を隠して蹲ってる。

 ここまで慌てるのは予想してなかった。

 

「ひょっとして、大人の自分が見られるのは恥ずかしい?」

 

「なんか、元が男の人やってのが解る反応やな。

 私なら大喜びする破壊力やのに」

 

 お姉様の服装変更完了。

 今は、濃い色のジーンズに白い長袖のワイシャツ、その上に紺のベストを着た状態。

 外見的に、茶目っ気を出して男装風にしようとしてみた美女。

 

「その服装なら落ち着ける?」

 

「……すまん、取り乱した。

 参ったな……女の体や裸にも慣れたつもりだったんだが」

 

 服装が変わって、とりあえずお姉様は立ち上がった。

 まだ顔は赤いし、服装と言うか、露出や服の隙間をものすごく気にしてる。

 

「随分慌てとったな。

 でも、美人さんやなぁ。それに、この辺も……」

 

 ふに、っと。

 久しぶりに、八神はやての右手が暴走?

 既に車椅子から落ちて、お姉様に倒れこむようになってる。

 

「ちょっと待て、何をする!?」

 

「こういうのは、荒療法ってのがいいんやない?

 それに、こんなことするのは久しぶりや」

 

 八神はやては揉むのを止めて、顔を埋め始めた。

 何をとか、何にとかは、あえて言わない。

 凄くぼかして言えば、いい笑顔でお姉様に抱きついてる、になる。

 

「……全く、無茶をする。怪我でもしたらどうするつもりだ?」

 

「エヴァさんやチャチャちゃんがそんなヘマをすると思えへんよ。

 それに、他人を頼ることも考えた方がいいってアコノさんも言ってたんやし、アコノさんはエヴァさんのご主人様や。エヴァさんがこの姿で大人の役をするって事はお母さんか年の離れたお姉さんやし、頼りになる家族のエヴァさんを頼るのは問題ないはずや!」

 

 何と言うドヤ顔。

 でも、大枠としては否定出来る要素が見当たらない。主の発言は確かにあったし、姉になる話についても拒否してない。

 

「確かにそうなんだが……」

 

 お姉様が苦笑しながらため息をついてる。

 パニックを有耶無耶にされた事には気付いてるはず。策士八神はやての片鱗を見た気がする。

 

「だけど、そこまで取り乱す理由が解らない。

 同じくらいスタイルのいい従者もいるし、幼くても20年以上女性の体だったのに」

 

「いや……前世は男だという事は知っているだろう?

 その時の感覚はまだあるんだ。それに、チャチャの視線が胸元やらに向いていてな。だから……なんだ。男がどこをどういう目で見るのか、思い出してしまってな」

 

「幼い少女だからと、そういった目で見られる可能性を無意識に除外してた?」

 

「いや……ああ、そうか。そういう事になるのか。

 自分の体に色気の様なものを感じなかったから平気だっただけで、自分の体に色気を感じて、それを見られる事を自覚したのが駄目、なんだな……」

 

 未だに引きずってた。

 というか、意外な自己防衛方法だった。

 

「そうなん? 女の人は見られて綺麗になるって聞くよ?」

 

「私の精神は男なんだ。その感覚は理解出来ん」

 

「そっか。でも、今はお母さんや」

 

「せめて姉にしてくれ……」

 

「よし、言質取った!

 これからはエヴァお姉ちゃんや!」

 

「……しまった」

 

 

 ◇◆◇  ◇◆◇

 

 

 その頃、アースラでは。

 

「か、母さん……?」

 

「え? えーと……誰だい?」

 

 フェイト・テスタロッサとアルフが、混乱している!

 

 

 プレシア・テスタロッサとリンディ・ハラオウンの打ち合わせと、フェイト・テスタロッサとアルフにクロノ・ハラオウンが事情を説明し終わった後で、テスタロッサ家全員の顔合わせが行われてる。

 参加者は、プレシア・テスタロッサ、アリシア・テスタロッサ、フェイト・テスタロッサ、アルフ。立会人としてクロノ・ハラオウンもいるけど、部屋の片隅で静かに見守っているだけ。存在感無し。

 でも、若返ったと聞いていたはずの2人は、絶句してる。見た目はともかく、雰囲気的には元のプレシア・テスタロッサの面影があまり無いのが原因かも。

 

「フェイト~」

 

 アリシア・テスタロッサは、満面の笑みでフェイト・テスタロッサに手を伸ばしてる。

 まだ自力で歩き回れるほどには回復してない。車いすに座ったまま体を起こしてる。

 

「姉さん、あまり体を乗り出すと危ないよ」

 

 フェイト・テスタロッサはアリシア・テスタロッサの手を取ると、そっと体を押した。

 

「えへ。フェイト、おっきい~」

 

 ぽふ、と車椅子に寄り掛かったアリシア・テスタロッサは、満面の笑顔でフェイト・テスタロッサを見上げ、握ったままの手をモミモミしてる。

 

「え、えーと……プレシア………?」

 

 ほのぼのとした空気の幼い姉妹を、穏やかな目で見ているプレシア・テスタロッサ。

 計算上、肉体年齢は30歳くらい相当のはず。随分と若々しい上に、雰囲気も柔らかい。

 アルフは、まだ戸惑ってる。

 

「ええ、そうよ。

 今まで随分と酷い事をしていたという自覚は出来たし、今までの事、これからの事で話したい事もあるわ。

 アリシア、フェイト。2人ともちょっといいかしら?」

 

「うん、ママ」

 

「はい、母さん」

 

 言葉は確認みたいだけど、言葉の圧力的な意味でちょっと命令っぽい。

 少女2人の背筋が伸びた。

 

「まず、2人に謝らなくてはならない事があるわ。

 アリシアには寂しい思いをさせてきたし、フェイトには辛い思いをさせてきた。

 振り返ると不本意だと思えるし、どうしてそんな事になったのか自分でも解らないけれど、私が行動した結果なのは消えない事実よ。

 こんな私だけど、これからも母として認めてくれるかしら?」

 

「もっちろん。ね、フェイト」

 

「うん。これまでも、これからも。ずっと、母さんは母さんだから」

 

「ありがとう、私の可愛い娘達……!」

 

 プレシア・テスタロッサが、2人を抱きしめてる。

 アリシア・テスタロッサは力いっぱい、フェイト・テスタロッサはおずおずとだけど、2人ともしっかりとプレシア・テスタロッサに抱きついてる。

 テスタロッサ団子が出来てる。

 

「あと、アルフ」

 

「ア、アタシ?」

 

「そうよ。貴女はフェイトの使い魔として、2人を守る役目があるわ。

 当面はそれ以上を求めないけれど、何かあったら覚悟なさい」

 

 ガサツだから求めても無駄だろうし、って聞こえた気がする。

 リニスに比べると、マナーやらが欠けてるのは確か。

 

「あ……うん、それは当然だからいいんだけど……本当にプレシアなのかい?」

 

「私が、私以外の何かに見えるのかしら?」

 

「いや、ちょっと前に見た時とは別人だし」

 

「私が変わった証として納得しなさい。

 それと、今のままでは2人の教育に悪いわ。徹底的に教育しなおすから、アリシアとフェイトの為に頑張りなさい」

 

 プレシア・テスタロッサの背後に、修羅が見える。

 威圧感が半端ない。

 教育ママ(でもアルフ限定)な親馬鹿になったらしい。

 

「は、はい……」

 

 アルフが萎れてる。

 ちょっと哀れかも。




テンプレイベント「オリ主八神家入り」フラグが(今頃になって)立ちました。「小話 その2」の伏せてない伏線の回収でもあります。はやて、待てませんでした。

ありがちイベント「大人化」及び「TSで性別の不一致に悩むオリ主」、エヴァがクリアしました。大人エヴァは今後ちょくちょく登場するでしょうと言うか、対外的にこっちが基本になっていきます。

プレシアによるアルフ魔改造フラグが立ったかもしれません。アルフ魔改造はともかく、それをするのがプレシアというのは稀な気がします。


エヴァの大人モードですが、毎日使う前提で1日に使用出来るのは最大で(24時間-5分)÷3×2≒15.94時間です。
朝8時に大人化すれば夜12時近くまでいけますし、仮に限界まで解除しなかった場合でも8時間5分休めばまた16時間変え続けられる程度にまで回復するので、大丈夫だろうという判断です。

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