青の悪意と曙の意思   作:deckstick

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A’s編02話 隠れ家

 その日の夜のうちに、まずはリンディ・ハラオウンと顔見せという名の親睦会の日程相談。

 続いて、主要なメンバーと日程を調整。

 その結果、今度の土曜にほぼ全員参加予定で集まる事が決まった。

 ちょっと人数が多いけど、集合場所は目印として通知しやすい翠屋になった。集合時間は開店前の迷惑にならない時間で、実際にどう動くかはアリサ・バニングスが張り切って決めるらしい。

 

 同時に、お姉様と月村家のチャチャが月村忍と面会。

 話の内容は、日本……と言うか、地球での戸籍について。

 やはり伝手はあるけど、表向きの顔、つまり血筋関係や仕事等で協力者がいる方が、設定が作りやすいらしい。これについては八神家関係者となる事が前提条件だし、準備していた経営コンサルタントの会社が役に立つと伝えたら複雑な表情をされた。

 どうも、会社については既に知られていたらしい。突然素行がマシになる問題会社がいくつかあり、その裏にある会社が何者か探りを入れていたとのこと。正体がわかって安堵する気持ちと、こんな事までしていたのかと驚く気持ちが混ざったらしい。

 

 戸籍については、昭和の前半、つまり第二次世界大戦の前に海外へ移住した八神の血筋という感じが無難だろうと結論。変に近いとギル・グレアムが行ったはずの調査内容と齟齬をきたすし、外見が完璧に外国人なので、法的には親族と見られない程度の遠縁に設定。外見は大人状態で、八神エヴァンジュ、八神チャチャの姉妹が誕生する事になった。

 準備に少々時間がかかるのは我慢してくれとの事だけど、それは仕方ない。八神はやてにも連絡して、納得してもらった。

 

 説明する際にお姉様と月村家のチャチャが大人の姿を見せたら、着飾らないのは勿体無いとか言われてた。お姉様は断固拒否。男の感性だから、本来は大人の女になった姿を見られるのすら苦痛だと言ったら、残念そうにされてた。

 ちなみにシンプルなグレーのスーツ、スカートじゃなくてパンツ姿。

 私達の大人モードは、チャチャマル似。元ネタから姉妹機だから仕方ないけど、大人モードでもショートヘアなのが私達。魔法先生ネギま!17巻で茶々丸3姉妹とか呼ばれた際の、真ん中の機体の髪を切って側頭部のユニットを外した感じに近い。設定年齢は20歳。普段は両脇の2機だから、印象はだいぶ変わる。

 服装はお姉様に合わせたシンプルな紺のスーツ、一応スカート。5cm程のヒールで、お姉様と同じくらいの背丈にしてみた。

 

 主の戸籍も、意外な事に主だけなら何とかなるらしい。とても古い、特殊な家系の断絶を防ぐ為の法がひっそりと残っていて、これを使えば、両親が亡くなっていても兄弟姉妹になるという裏技が使えるとの事。色々制限はあるけど、八神はやての状態と目的、主と主の家族の関係を考えると、大きな問題とはならないと思える内容。

 いくら裏社会が大きいと言っても、法的な裏付けがある手法というのは意外。餅は餅屋、相談して良かった。

 詳しく話を聞くと、どうもお姉様の前世とは戸籍の扱い方が少し違う感じ。家長制度が限定的に残っていて、世帯主の責任と権限が強めだったりもする。この辺は、裏社会が強く残っている影響かもしれない

 

 この情報が確定した事に伴い、八神はやて本人の合意の元、ギル・グレアムから切り離す工作を開始する事が決定。

 空間が不安定で猫が来れない今のうちに、八神はやての周囲を固める。具体的には、ギル・グレアムの親権の行使が不適当として、お姉様を未成年後見人とする事は確定。法的な盾になれる立場を確保する。

 ついでに、ジュエルシード事件の報告書の名前を八神エヴァンジュに変更、お姉様と主についてのカバーストーリーも作っておく事に。とりあえず、お姉様が主の魔法の師匠扱いになった。

 

 そして、日が変わり、日中の訓練などが終了した時刻の今。

 お姉様は、リンディ・ハラオウンとプレシア・テスタロッサの2人を前に、たらーっと汗を流してる。

 問題発言をしたのは、リンディ・ハラオウン。内容は、別荘について。

 提出用資料の作成という名の、闇の書に関しての現況を把握してもらうための情報交換をしてたはずなのに。

 

「……それは、誰が言っていたんだ?」

 

「クーネさんよ。デバイスの格納領域を居住空間にする事の確認は、それを公開しても問題無いかの確認を兼ねていたのね?」

 

 変態(ロリコン)が口を滑らせてた。

 なんて迷惑な。

 

「アレが口を滑らせていたのか……うん、今すぐ焼くべきだな。アレをのさばらせておいて、いい事があるとはとても思えん」

 

「殺すのは待ちなさい。地球上には用意出来ない、魔法に関する研究室を作る場所としてどうかと提案されただけよ。

 時の庭園を崩壊させたのは貴女の都合なのだし、闇の書の対策を研究する名目がある以上は何らかの施設は確保すべきよ。惑星1つ分の広さがあるなら、研究所を作る場所くらいは確保出来るでしょう?

 それほどの広さの空間を安定させる技術は流石だと思えるし、研究者の興味と言う意味でも、見てみたいわ」

 

「はぁ……あれはあれで問題があるんだ。

 本来はもっと小さい、大きなビルくらいの空間を用意するつもりだったんだがな」

 

 と言うか、運搬用に使ってる格納領域特化型デバイスを流用するつもりだった。

 ちゃんと準備してたのに。

 

「別荘の公開に問題がありそうなら、それは対外的な説明として使えそうね。

 少なくとも人が住める環境で、従者が住んでいるはずと聞いているけれど……見る事に何か問題があるのかしら?」

 

 リンディ・ハラオウンは不思議そう。

 確かに、環境自体には問題がない。

 

「……最大の問題は、その従者達だ。

 連れて行くのは、ここまで知られているなら構わんのだが……あいつらの前では絶対に私やアコノの悪口は言うな。宗教国家の首都で神を冒涜する言葉を叫ぶのに似た結果を招くぞ」

 

「それは、従者が貴女の信者だとでも言いたいのかしら?」

 

 プレシア・テスタロッサも不思議そうにしてる。

 外見を考えると、神様とか教祖とかには程遠いのは確か。

 

「リンディには言ってあるんだが……従者にする術式には、私に対する忠誠心やらを植え付ける効果があるんだ。使い魔の様なものだと思ってもらえれば、だいたい合っているはずだ。

 その状態で2500年ほど放置したら、忠誠が信仰になってしまったらしくてな。程度は様々だが、大雑把に言えば狂信者の類になってしまっている。迂闊に私の敵だと思われたら、何を仕出かすか予想も出来ん」

 

「そう。それなら、少なくとも貴女の味方だと思われている間は問題ないという事でしょう?」

 

「そうね。それほど心配しなくてもいいんじゃないかしら?」

 

 プレシア・テスタロッサとリンディ・ハラオウンは、どうしても見たいらしい。

 何だか余裕の表情。

 

「……やれやれ、何かあっても知らんぞ。

 それで、いつ行くんだ?」

 

「今からでも問題ないわ。そのつもりで来ているのだから」

 

「そうか。まあいい、行くぞ」

 

 

 ◇◆◇  ◇◆◇

 

 

 というわけで、別荘に転移完了。

 足元には、いくつかの大きな円が書かれた、石畳の広場。

 目の前に広がるのは、青い空と白い雲、広がる山野と農地、大きな建物がいくつか。

 建物は、アパート風だったり、オフィスビル風だったり、温泉旅館風だったり。

 農地近くには、作業用具等の倉庫兼休憩所があったりもする。

 

「……これが、別荘? 生成された空間なの?」

 

 プレシア・テスタロッサが驚いてる。

 明らかに異常な広さと、自然な光景。

 もうちょっと閉じた感じを予想してたかもしれない。

 

「そうだ。明らかに異常な代物だろう? 地形や気候は地球を再現しているし、広さも概ね同じくらいだと思っていい。

 こんな代物は無闇に見せていいと思えんし、もう一度作れと言われても不可能だろうが……存在が知られるだけでも、色々とな」

 

「そうね。明らかに異常だけれど……ロストロギアとはそういう物だし、貴女の存在そのものも似たようなものでしょう?

 私達は貴女の正体を知っているのだから、必要以上に隠す必要は無いわ」

 

「そうね。驚かないと言えば嘘になるけど、驚くような技術をエヴァさんが持っている事自体は不思議じゃないもの。

 必要以上に情報を出すつもりもないし、どの程度知られたくないかを予め教えてもらっておく方が、色々と調整はしやすいわよ」

 

 何だか、2人の態度が生暖かい。

 確かに、一番ヤバそうな“アルハザードの最終兵器”という事が知られてる以上、そこまで警戒する必要は無さそうだけど。

 

「……まあ、今のミッドの常識は知らんから、相談はさせてくれ。

 それより、従者達への対応は間違えるなよ。外部の人間を入れるのは初めてなんだ、どんな対処をしていいか私にも解らんからな」

 

 お姉様が見てるのは、旅館風の建物から出てくる2つの人影、その服装はヴィクトリアンなメイドさん。

 1人は褐色肌で元気そうな雰囲気の黒髪ショートヘア少女のナーディ。

 もう1人は色白でお人形さん系無表情な銀髪ツインテール少女のリル。

 背格好が似た人物を見付けたからやっちゃったんだ、と言ったら、お姉様に呆れられた2人。

 

「彼女達が従者ね?」

 

 リンディ・ハラオウンもその姿を見て、お姉様に確認してる。

 正確にはリルは使い魔で、魔法が使える。立場としての従者という表現なら間違ってないけど。

 

「そうだな。私やアコノが来た時は、侍女の様な役目を担当している者の中の2人だ。

 普段は確か料理関係が担当のはずだ。あいつらの茶や菓子はなかなかいいぞ?」

 

「その材料は、ここで作った物という認識で正しいのかしら。

 昔の資料で見た気がする植物もあるようだけれど……」

 

 プレシア・テスタロッサは、別荘の環境の方が気になる様子。

 今となっては珍しい植物は、確かに多いかも。

 

「2500年程前に集めて、食材関係はそれを品種改良したものが多いからな。

 あまり管理していない森の動植物はほぼそのままだろうが……今となっては滅んでしまった世界のものもあるかもしれん。

 ああ、動植物の情報を集めたのは、あの変態(ロリコン)だ。その点だけは感謝しているよ」

 

「……それでも、ここの植生は学者にとって垂涎モノでしょうね」

 

 そうこうしているうちに、ナーディとリルが到着。

 そして、一礼。

 

「ようこそいらっしゃいませ!

 エヴァ様、今日のお客様は他にいらっしゃいますでしょうか?」

 

 目をキラキラさせて、ナーディがお姉様に尋ねてる。

 走ってきたせいか微妙に息が上がってるのを、頑張って隠してる。

 

「いや、この2人だけだ。とりあえず応接の方に通して、茶と菓子を頼む。

 私は少し設備の確認をしてから向かうからな」

 

「はい、了解いたしました!」

 

「設備の確認? 今する必要があるのかしら?」

 

 ナーディは元気に頷いてるけど、プレシア・テスタロッサは不思議そう。

 

「お前の研究室を作りたいのだろう?

 空き部屋が無いならどうにかする必要があるからな。とりあえずその確認だ」

 

「そう。なら、少し待たせてもらうわ」

 

 プレシア・テスタロッサの返事を聞き終えるころに、お姉様は転移。

 黙って黒龍を起動、ついでにカートリッジのロードまでこなす辺り、まだ実力を見せる気は無い模様。

 

「それでは、お二方はこちらへどうぞ!」

 

「ちょっといいかしら。お2人は、エヴァさんの従者という認識で間違っていないわね?」

 

 案内しようとするナーディに、リンディ・ハラオウンが質問。

 お姉様が居ない事をいい事に、情報収集をするつもりらしい。

 それを見越して席を外してるけど、随分とあからさま。

 

「はいっ! エヴァ様の従者にして、今は侍女をやらせていただいております。

 名前はナーディです。よろしくお願いします!」

 

「同じく、リルです。よろしくお願いいたします」

 

 元気に頭を下げるナーディと、静かにちょっとだけ頭を下げるリル。

 少なくとも表面上は、忠誠心の高い侍女と言える範囲。

 

「そう、こちらこそよろしくお願いするわね。

 私達は、エヴァさんと一緒に大事なお仕事をすることになった、言わば仲間みたいなものなのだけれど、エヴァさんはあまり自分の事を話してくれなくて。

 エヴァさんの事とか昔の事とか、話せる範囲でいいからお話しない?」

 

「えっと、それはいいですけど……」

 

「立たせたままというのは失礼になりますし、歩きながら話すことも出来ます。

 先ずは移動をお願いいたします」

 

 ちょっと困ったナーディが視線でリルに助けを求め、リルはちょっとため息をつきながら2人を誘導していく。

 

「いきなりこんなことを言って、ごめんなさいね」

 

「いえ、予想はしておりました。

 ですが、あまり多くを話す事は許されておりません。ご了承下さい」

 

「ええ、色々と話せない事もあるでしょうから、それは気にしなくても大丈夫よ。

 どういった事なら話してもいいのかしら?」

 

「エヴァ様の過去や技術に関しては、今の時代では問題になる部分もあるそうなので、基本的に口外を禁止されております。

 それ以外、例えば私達の過去については一部を除いて禁止されておりませんから、問題ありません」

 

 歩きながら、リルとリンディ・ハラオウンが静かに会話を続けてる。

 ナーディとプレシア・テスタロッサは、ちょっと後ろでそれに聞き耳を立ててる。

 

「そう。でも、リルさんの過去は、話しても問題の無い内容なの?」

 

「私達従者の中では、ありふれた過去ですから。

 強いて特徴を挙げれば……そうですね、エヴァ様に直接自爆テロを仕掛けて、手足が吹き飛んだ状態でエヴァ様を見上げた記憶がある事くらいです。

 エヴァ様が無傷だった事は幸いでした」

 

「そ、それは……その、普通はあまり話したくない過去でしょう?」

 

「問題ありません。それがきっかけで救って頂いたのですから。

 そもそも私達従者は、エヴァ様やエヴァ様の所属していた国と敵対していた者ばかりです。

 組織や所属ごと潰された者と、攻撃を仕掛けて反撃された者。大きく分けてこの2種類しかおりません」

 

「そう、なの。ナーディさんもそうなのかしら?」

 

「は、はい! エヴァさんのいた国と戦争していて、前線の砦丸ごと救われました!」

 

「救われた……それはその、冷たい言い方をすれば、殺された、という事でいいのかしら?」

 

「いいえ? 少なくても、私はここにいますし。

 あ、でも、殆どの人は眠ってますし、一部の人は消えちゃっているらしいので、殺されたという表現でも間違っては……」

 

「ナーディ、言葉が崩れています。

 それに、頑張って柔らかい言い方をしても、命を捧げた、くらいが適切かつ限度です。その事は理解しているでしょう?」

 

「でもでも、エヴァ様はそれを気にしちゃってるのも知っちゃってるし、私達は生きてるし!」

 

「ごめんなさい、ちょっと無神経な質問だったわね。

 それなら、お2人にとって、エヴァさんはどんな人なのかしら?」

 

「一言で言えば、神様、でしょうか。

 ここは小さくて閉じた世界ですが、これほど穏やかで幸せな場所は他に知りません。

 この天国の様な環境をお創りになられた創造主様で、敵対していた私達を救って下さった救い主様で、私達に知識や技術を与えた上でそれを自由に使う事を許される指導者様で、未熟な私達の失敗も優しく見守って下さる保護者様で、普段は私達が様付で呼ぶ事すら嫌がる程に対等な目線に立って下さるお方です。

 エヴァ様自身は神ではないと仰っていますし、万能ではない事も知っていますが、私はエヴァ様こそ神という概念に最も近い存在だと考えています」

 

「うんうん、禁止されてないなら、平伏したくなっちゃうお方です!

 エヴァ様の前でしちゃうとすごく嫌な顔をされるので、させてもらえないのですが……」

 

「ナーディ、言葉遣いは少しだけ直りましたが、お客様に対してその態度は良くありません」

 

「あぅ。ゴメンナサイ」

 

「私達も堅苦しいのは苦手だから、気にしなくて大丈夫よ。ね、プレシアさん」

 

「ええ。気楽にしてもらっていいわ」

 

 

 ◇◆◇  ◇◆◇

 

 

 その後、2人は応接間に到着。

 ここは主様が来た際の休憩所として使われていた部屋で、今でもくつろげる空間として整備されてる。主様とお姉様の好みの関係で装飾品はほとんど無いけど、ソファーの座り心地は良いし、壁紙やカーテン、照明器具で優しい雰囲気を出してる。

 

 別荘産の茶葉と材料で作った紅茶とお菓子が用意出来た頃に、お姉様が到着。

 

「やはり、研究室として使える様な空き部屋は無いな。ちょっとした書斎くらいの部屋なら確保出来るが……時の庭園の広さを考えると、手狭に感じる可能性は高い。

 当初の予定通り、対外的に公開できるデバイスの格納領域に研究所を用意したいが、構わないな?」

 

「そうね、研究室としてはその方が無難ね。

 別荘としては、アリシアやフェイトを連れてきた時にゆっくり遊べるような場所や、寝泊まり出来るような部屋が優先かしら。

 あとは魔法の練習が出来るような場所があれば充分だけれど、それは屋内というわけにはいかないでしょう?」

 

「小さな書斎くらいは確保するが、他は宿泊施設扱いでいいという事か。魔法の練習専用の場所はあるから、遭難しない程度に使ってくれていい。

 それで、この別荘は公開出来ると思うか? 作れと言われても二度と作れない代物ではあるんだが」

 

 主に、材料的な意味で。

 人が住める星を含む惑星系を1つ丸ごと使うなんて、今となっては難しそう。

 

「公開するとしても空間を生成するロストロギアとして、が限度かしらね。

 これほどのものは時空管理局でも聞いた事が無いわよ。現存する最大の生成空間は無限書庫で、それもロストロギアを利用していると聞いた事があるし」

 

 無限書庫がロストロギア?

 提督のリンディ・ハラオウンが聞いた事があるなら、少なくとも表向き、もしくは時空管理局内では正しい情報と思える。

 これは……ひょっとする?

 

「そうか。無限書庫に似た扱いになる可能性が高いのか……?

 あれは書庫自体ではなく中身が問題だと思うし、少なくとも即封印は無いな?」

 

「エヴァさん個人が所有する物でしょう?

 2500年も稼働し続けているなら大きな危険性も無いでしょうし、内部で生活している人もいるのだから、即座に封印するという事にはならないと思うわ。

 情報が漏れた場合は、その……犯罪者対策は必須になるでしょうね」

 

「出入りは私かチャチャがいないとほぼ不可能だから、蠅共がいくら来ようが侵入される可能性は低いんだが……鬱陶しい事にはなりそうだ。

 私自身が公開出来る代物じゃない以上、非公開のままになるだろう。とりあえず、無闇に人を招待して良い場所ではないという認識で良さそうだな」

 

「そうね。信用できる相手だけに限定した方がいいでしょうね」

 

「予想通りではあるな。

 それより、そろそろ食べ物の感想を聞かせてくれ。こいつらは、結構気にしてるんだぞ」

 

 壁際に待機してる、リルとナーディ。

 何だか、ものすごく目が真剣。

 

「そうね、頂こうかしら。

 見た目は、あの世界のケーキに近いのかしら? 味も……うん、覚えがある味に近いわ」

 

 この世界と言うか、翠屋のケーキに近い。

 高町恭也や高町美由希がアースラに持って行った事があるから、リンディ・ハラオウンは食べた事があるはず。

 

「近いと言うか、ケーキを参考にして、別荘の材料で作ったものだな。私の好みで甘さは控えめだが、なかなかの再現度だ。

 昔の菓子の方が歴史的に面白いとも思ったんだが……材料やらの関係で改良し過ぎていて、あまり原形を留めていないらしい」

 

「そう。資料的な価値はありそうだけど……あら、おいしいわね」

 

 色々な世界の料理を、色々な世界の材料で再現や改良したものは、歴史学者的にはどうなんだろう?

 とりあえず、再現ケーキはプレシア・テスタロッサの口にあった模様。

 

「フェイトが持って行ったケーキもこれに似た感じだったはずだぞ。

 精神誘導は恐ろしいな」

 

「……私は、これをフェイトの気持ちと一緒に潰していたのね。

 確かに恐ろしいわ」

 

「まあまあ、あまり暗い話は無しにしましょう。

 今日は別荘という物がどんなものなのかを見に来ただけなのだし」

 

「そうだな。ところで、私がいない間、少しくらい話をしただろう。どう思った?」

 

「そうね……思ったよりは普通、かしらね?

 確かに片鱗は見えたけれど」

 

 本人がそこにいるから、狂信者という表現はお姉様もリンディ・ハラオウンも使わない。

 暴走怖い。

 

「まあ、普段はそうだな。この2人は相当穏便な方だからと言うのもあるが……

 そうだな、例えばの話をするか。この別荘の維持が私にとって不都合となったと仮定しよう。

 ナーディとリルはどうする?」

 

「まずは、エヴァ様の必要な物を確保して別荘の外へ送り届けます!

 あとは……えーと、私達が別荘自体に出来る事は無いですし、消滅か指示を待つくらいしか思い付きません」

 

「それ以外にする事はあるでしょうか?」

 

「それは……原因の解決や外への移住はしないのかしら?」

 

 元気に答えるナーディと、不思議そうなリル。

 思わず質問したリンディ・ハラオウンの表情が引きつってる。

 

「私達はエヴァ様の好意によって生かされています。そんな私達がエヴァ様の重荷になる事があってはなりません。

 移住の指示や許可があれば別ですが、そうでなければ私達の存在自体が問題になったと理解するべきです」

 

「エヴァ様からお預かりしている命ですから!」

 

 何か問題でも? と言いたげなリルと、元気いっぱいで死亡宣言をしてるナーディ。

 その様子を見て、リンディ・ハラオウンの表情が更に引き攣ってる。

 

「当面はそんな事にはならんだろうが、こいつらの考えは、平和というか、穏便な方でコレだからな。過激な連中は……リル、予想出来るか?」

 

「エヴァ様に別荘を維持したい気持ちがある事が確認出来た場合は、不都合となる原因、恐らくは誰か他の人でしょうから、その排除に動くのではないでしょうか?

 逆に維持しない事に意味や価値があると確認出来た場合は、自らの手で全てを破壊しようとするでしょう」

 

「まあ、そんな所だろうな。

 元々が圧倒的な力の差がある国に反抗してた連中だから、実力不足は躊躇う理由にならんし」

 

「ふふ、安心したわ。

 少なくとも貴女の仲間である間は、ここは色々な意味で安全な場所という事でしょう?」

 

「まあ、そうだが……そう解釈するのか」

 

 プレシア・テスタロッサは、随分と高く評価してる。というか、危険性を低く見積もり過ぎ?

 別荘に遊び場や書斎を用意するのは、問題ないらしい。

 時の庭園があるから本来は不要という話もあるけど、まだ言えないし。

 

「この際だから、いろいろ聞いておきたいのだけれど……

 貴女の力でもアルハザードに行けないと言う話は、本当なのかしら?」

 

「本当だ。虚数空間のどこにあるのか知る方法も無ければ、狙って移動する手段も無い。

 何らかの事故や偶然で虚数空間の外に出ていない限り、辿り着くのはほぼ不可能だな」

 

「だけど、エヴァンジュさんは虚数空間内で無限転生は機能する可能性がある、と言っていたでしょう?

 それが実体験だとすると、使える魔法がある事は確定するのだけれど」

 

「……確かに言ったな。だが、虚数空間内は空間自体が異常な状態で、動作中の魔法も崩壊するから、通常の転移魔法では発動したとしてもどこへ飛ぶか解らん。同じ理由で探知も不可だ。

 無限転生にしても、働く時点で私の意識も無くなっているから、自動ランダムワープの様なものだ。どこかに狙って移動する機能も制御するだけの意識も無い以上、普通は使い物にならん」

 

「そういう事ね。

 だけど、アルハザードに眠るという秘術は、存在する事は確実という事ね……」

 

「それなんだが……はっきり言うぞ。アルハザードを美化しすぎだ」

 

「どういう事かしら?

 貴女程の存在を作れるアルハザードに、技術が無いとでも言いたいのかしら?」

 

「いや、確かに高い水準の技術は持っていた。

 それでも、あらゆる魔法がその究極の姿に辿り着いたなど、実情を知っている私から見れば片腹痛い表現だぞ。

 時間を操るどころか、未来や過去を見る事すらまともに出来ない。

 人を楽しませる事など、考えてもいない。

 たかが20年しか活動していない私が空間魔法の祖と呼ばれたという事は、それまではまともに研究すらされていなかった分野があるという事だ。

 搾取しか考えず、内外に敵ばかり作っていた軍国主義国家が究極だと? 笑わせるな」

 

「それでも、この空間……別荘は、驚異的な水準よ。

 究極と呼んでも差し支えは無さそうだけれど」

 

「プレシア。お前が開発した、不安定なリンカーコアを安定させる技術があったな。人造魔導師にありがちな症状を抑えるためだったか?

 あれは未だ管理局に提出されていない、お前とお前が教えた者だけの医療技術だ。言いかえれば、管理局員のリンディは知っているという事でもある。

 だから、管理局はその症状を持つ者を治療出来る。

 ……おかしな話だな」

 

「つまり、この空間の生成技術は……」

 

「私と私の従者達、それに私の主……リーナ。知っていたのは、これだけのはずだ。

 何故か変態(ロリコン)が知っていたが……」

 

「つまり、アルハザードに夢を見るな、現実を、アリシアを見つめなさいという事ね」

 

「プレシア……親馬鹿は解ったから、フェイトも入れてやれと言っているだろう」

 

 やれやれと言いたげなお姉様。

 強引な話題変更だし、リンディ・ハラオウンとプレシア・テスタロッサが一瞬顔を見合わせてたから、主様の話を避けた?

 トラウマになってる事も説明したらしいから、チャチャゼロはいい仕事をしてたらしい。

 でも、変態(ロリコン)は危ない。色々な意味で。




リンディとプレシアの口調が似ているのに、良く一緒に出るという困ったことになってまいりました。
人選的に言って、他に選択の余地は無かったのですが……うぅぅ。
なお、関係者以外立ち入り禁止にした部屋で資料を作成している事になっているので、書類上は外出ではありません。


ちなみに、高町なのはの通学は再開しています。
忍と戸籍の話(日曜夜)→日が変わって(月曜)なので、このタイミングですね。


2013/08/23 以下を変更
 その症状を持つ患者は今すぐ管理局に行こう→管理局はその症状を持つ者を治療出来る
 コピペし忘れていた後書きを追加
2013/11/15 無暗→無闇 に修正
2017/04/25 驚かない言えば→驚かないと言えば に修正

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