「さて、そろそろ実戦ね」
曙天の指令書が起動して10日。
資料庫の調査に着手、夜天の魔導書からの情報は無く、宵天の歴史書からはどんどん妙な作品や資料が送られてくる状況が続いている。
そんな中、各所への紹介以降姿を見せなかったリーナが現れ、唐突に言い放った。
「実戦?」
周囲に大量の本を浮かべているお姉様が、不思議そうな眼をリーナに向ける。
お姉様は実体具現化していて、ゴスロリと呼ばれる服を着た少女の姿をしている。
その姿は、間違いなく真面目に調査をしているエヴァンジェリンに見える。
「ええ、そうよ。
アルハザードの。この時代の。
現実の姿を見ておいてほしいの」
「現実を見ろ、か。
資料はここにあるだろうから、実感してこいって事か」
「物語の世界。
物語の登場人物の姿。
物語で語られた能力。
食事も睡眠も不要な体。
ここに生きている、ここで生きなきゃいけないって実感は湧いてないでしょう?」
「……確かに」
お姉様は、ここ5日ほどは資料庫に籠ったまま、資料の取り込みを行っている。
この状態で生きていると実感するのは、確かに簡単ではないだろう。
「他にも目的はあるけど、今日は私と作戦行動よ。
そうそう、その姿だと持っていけないから、本の姿でね」
「そうか、分かった」
◇◆◇ ◇◆◇
「と言うわけで、やってきました。
王の為にとか言いながら人間爆弾を放り込んでくる、テロ組織の拠点になりまーす」
中継ポートを経由して到着したのは、緑豊かな地に作られたそこそこの大きさの都市だった。
今いる上空から見える範囲では、建物を見る限り石造りの建造物が多いようだ。しかし、川沿いに作られている巨大な塔が目立ちすぎて、他の建物が全く目立っていない。
文化としてはあまり発展していないようにも見えるが、人間爆弾を放り込めるだけの魔法技術は持っている、という事だろう。
そして、ここにいるのはリーナとお姉様……曙天の指令書のみ。
リーナは手を出さないと宣言したため、お姉様のみで作戦を実行しろと言われているようなものだ。
防衛プログラムや私達は、現時点では戦力に含まれていない。
お姉様の指示が有れば戦場に立つ気は十分だが、未だ指示が無い。
「それで、命令内容は?」
「つれないわね。
さてと、命令を伝えるわ。
一言で言うと、塔及び見える範囲にいる人物の殲滅及び塔の破壊。
地形や塔以外の建造物への被害も一切制限しない。
撃ち漏らしは許さない。一人残らず殺しなさい」
「……何ともまあ、軍らしい命令と言うか」
「出来ないとは、言わせないわ。
それだけの能力はある。
方法は選り取り見取りと言えるくらいにね」
「だよな……」
お姉様は複雑な表情で地上を見下ろしている。
塔の中は、恐らく役所や研究施設なのだろう。多くの人がいる様子が見える。
だが、外には普通の住居や商店街もあるのだ。
所謂女子供の姿も多い。
「これが、アルハザードの現実。
この時代の戦争の姿。
敵対する者、危険な者、気に入らない者は屈服させる。
屈服しなければ滅ぼす。
屈服すれば搾取する。
人権なんて概念が存在しない、強者と弱者、勝者と敗者で全てが変わる世界」
「……これを、実感させたかったという事か」
「そうよ。
弱者や敗者は、強者や勝者のための存在に成り下がる。
そして、私達が属している国は、強者や勝者であり続けようとしている。
貴女が国民皆軍人の国に作られ、国民として国の保護下にあり、それを受け入れている以上、国の敵を殺すのは必要な行為よ」
お姉様は、何も言わない。何も言えない。
教えられていた。アルハザードの国民は全員が軍人だと。
聞かされていた。搾取しか能が無く、自制できない国だと。
立ち会っていた。自身を国民として登録する時に。
知っている。軍は国の敵を殺すための力だと。
理解はできる。自身は軍人であり、敵を殺す事を求められていると。
「ただ腐った国に貢献するのが嫌なら、貴女が敗者を利用しなさい。
死が無駄でないと言い放ちなさい。
出来ないのであれば、製作者として貴女を壊します」
そう言うリーナは、仮面のように冷たい表情をしている。
怒りでもなく、悲しみでもなく。ただ、役目を遂行する機械の様に。
手段はある。
お姉様が敗者を「利用」する方法。
ただ殺すだけではない、後に続けるための能力。
「……剥奪、か」
「手段は問わないわ。
書の主として命じます。この地に、全員死んだ、塔が崩壊したという結果を作り出しなさい」
「…………わかった」
お姉様は呟くように言うと、両手を地上へと向けて目を閉じた。
「……対象、3168人。
剥奪可能なリンカーコア保持者……656人。
剥奪、全ての人物より魂。全ての可能対象者よりリンカーコア」
銀色に輝く
「……これが現実、か」
諦めたような、どこか遠くを見ているような。
お姉様は感情を感じられない表情でその光を見ているが、それは次々とお姉様の体に吸い込まれていく。
「現実よ。
その光は、貴女が奪った命そのもの。
せめてもの手向けと思うなら、大切に使いなさい」
「……そう、だな」
全ての光が無くなると、一旦魔法陣が消えた。
それを確認すると、お姉様は右手を天に向ける。
「メテオ」
たった一言。それに、一瞬の六芒星。
それだけで、眼下にそびえていた塔が、全壊と言っていいくらいに崩壊した。
「これで、いいんだな?」
「ええ、任務完了よ。
これ以上ここにいる必要もないし、戻るわよ」
「……ああ」
◇◆◇ 100の判断 ◇◆◇
私は、チャチャ00100。
チャチャシスターズの人数と、剥奪したリンカーコアや魂の管理を担当。
役割名は
私の番号が、私達の人数。
お姉様の知識を参照。人事及び総務に該当業務あり。
リンカーコア及び魂の大量入手。
実行時のお姉様は、殺すことを躊躇っていた。
だけど、死んでいない。
ここに存在している。
リンカーコアは、予想以上に上質。
現地の魔力素は中濃度、低適合性、高負荷率と判定。
お姉様の知識を参照。負荷による高地トレーニングや魔力トレーニングに類似。
高品質リンカーコア保有者は自然に鍛えられると推測。
チャチャシスターズの人数調整。
お姉様は、殺して減らす事はきっと反対。
リンカーコアに戻すことも、きっと良い感情を持たない。
多少余裕がある程度の人数に限定。
現状。資料の整理が急務。
アルハザード崩壊までの時間、推測不能。
崩壊までに既存資料の取得までは終わらせるべき。
明らかに人手が有用。
増加可能最大人数、656人。
記憶能力の拡張も必要。
お姉様の記憶を参照。コンピュータによるデータベース。
有用な概念に思える。実用化の手段を検討。
お姉様の自衛のための出力補助にも有用。
護衛用自動人形も検討。
魔法の研究にもきっと必要。
リンカーコアの用途は多岐に渡る。
200人の増員を提案。
現在必要なのは、お姉様の業務を補佐する力。
資料を取り込む力。
整理の優先順は低い。
自衛もそこまで必要でない。
チャチャシスターズに高品質のリンカーコアを割り当てるべき。
適材適所。
自分達の闇は、自分達の責任で処理する。
◇◆◇ 1の決断 ◇◆◇
私は、チャチャ00001。
お姉様の補佐主任。役割名は
私達のまとめ役を兼任。
お姉様の知識で言えば、言い出しっぺの法則。
本望。
300人となることが決定。
全員への通達及び意見調整は、今後確実に困難になる。
支配者層と労働者層の分離。
望ましくない。
支配者はお姉様一人。これが前提。
ある程度限定した代表者による合議制。合議担当はある程度入れ替わりを推奨。
恐らくこれが理想。
現在の
実質的に5つの部門。
現在は情報を得るために
得た情報を扱う
お姉様の希望、魔法の研究はきっと
魔法、武術、戦術。
状況把握はチャチャネットワークで即座にできる。
剥奪したリンカーコアや魂の管理。そこまで手間はかからない。
5部門それぞれで、最適な組織は異なる。
合議に参加する代表を決める方法も部門毎に異なっていい。
まずは、割振り。
状況に応じて調整や人数追加も検討。
組織の組み方は、試行錯誤。
自分達がやりやすい方法がよい。
次話は、少し時間が飛びます。
2017/04/15 実感できる→実感する に修正