青の悪意と曙の意思   作:deckstick

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A’s編10話 オハナシ

 翌日、日曜日。

 そろそろ本局に帰還する予定のアースラでは、お姉様が成瀬カイゼとセツナ・チェブルーに対して魔法の指導中。

 新しいデバイスも快調、実技での不安はほぼ無い。この実力があって実技で落ちたら、嘱託魔導師が魔導師ランク的な意味で激レアになる。拙いながらカートリッジ作成も出来るようになってきたし、自己補給も可能なら色々と楽になるはず。

 もちろん、お姉様の指示は魔法の制御関連に限ってる。実戦を想定した助言はクロノ・ハラオウンが中心だし、今も一緒に訓練場にいる。

 今やっている模擬戦の相手はユーノ・スクライア、バインドやシールドを駆使する相手をどう崩すかの訓練中。今は魔力トレーニングの枷を少し緩めてA相当の魔力量になった成瀬カイゼがデバイスを構えてて、セツナ・チェブルーは休憩を兼ねて観戦してる。

 

 同じ訓練場にはフェイト・テスタロッサとシグナムもいる。記録無しの約束で、守護騎士の実力を見てみたいというクロノ・ハラオウンの希望を叶えた形になってる。

 生真面目な近接主体の魔導師と騎士だからか、妙に惹かれるものがあったらしい。嬉々として……と言うには少々緊迫しすぎた雰囲気だけど、良い感じで試合をしてる。

 

 更に、高町なのはとヴィータもいる。

 こちらはお互いの得意な距離が異なる組み合わせなので、離れようとする高町なのはと寄ろうとするヴィータの壮絶な鬼ごっこになってる。これはこれで、訓練として良い組み合わせ。

 

 そんな最中、爆炎と煙を目隠しにしてユーノ・スクライアの背後を取った成瀬カイゼが放った魔法弾が、

 

「へぶしっ!?」

 

 何故か変態(ロリコン)の顔面に命中。

 

「何をやっている変態(ロリコン)

 

 お姉様の目が冷たい。

 ついでに、クロノ・ハラオウンやセツナ・チェブルー、模擬戦をやっていた2人の視線も同様。

 他の2組は何が起こったかちらっと見ただけで、手を緩めずに模擬戦を続行。突っ込み不要の集中力は流石。

 

「いやいや、転移の目標として、主であるユーノ君は良い目印なのですよ。

 それにしても、なかなか良い魔法弾です。いい感じに星が舞っていますよ」

 

 変態(ロリコン)の頭の上を、何故かヒヨコがくるくる回ってる。

 本人は何の問題も無く立ってるのに。

 

「で、何をしに来た。そのまま別世界を漂っていればいいものを」

 

「いえいえ、重要な情報を掴んだので、お知らせに来たのですよ。

 クロノ君、ここでの会話は記録されますか?」

 

「いや、記録はしていない。

 重要と言うのは、余程のものなのか?」

 

 クロノ・ハラオウンが、念のため空中モニターを出して確認してる。

 特に設定を変えたりした様子はないし、記録する気は本当に無いらしい。

 

「そうですね。このメンバーならまあいいでしょう、エヴァちゃんに言ってしまいますね。

 グレアム提督の裏にいる人達が判明したのですよ」

 

「裏の人達? 原作にそんな連中はいなかったはずだな?」

 

 お姉様が怪訝そう。

 少なくとも誰かが噛んでるという描写は無かったはず。

 他の4人は、“お姉様に言う”の裏、お前達は黙って聞いていろという意味を読んでるし、模擬戦をしてた4人も何かを察したのか、手を止めて様子を見てる。

 

「ええ、少なくとも描写は無かったですね。

 しかし、良く考えて下さい。管理局が何度も対処に失敗して、アルカンシェルで蒸発させるしかなかった闇の書ですよ。いくら優秀な提督と使い魔でも、僅か数人で“転生先の捜索”と“対処方法の捜索または研究”を行い、成功を確信するレベルで達成するのは難しいと思いませんか?」

 

「それはそうだが……物語のご都合主義的な何かじゃないのか?

 海鳴にジュエルシードと闇の書が来る事や、同年代で近くに住むなのはとはやてに高ランク魔導師の素質がある事自体、恐ろしく確率の低い現象のはずだが。

 まして、この世界には私達という存在までいるんだ。調整された結果でなければこうはならんだろう」

 

「そうなのですが、グレアム提督が発見出来た上に対処法を見付けられたのは、偶然やご都合主義だけで解決された訳ではない様なのですよ

 具体的には、とある団体が関わっています」

 

「また時空管理局の一部、という話じゃないだろうね?」

 

 そんな話はもうたくさんだ、と言いたそうなクロノ・ハラオウン。

 思わず口に出た気持ちは解るけど、逃げちゃだめだ。

 

「そうとも言えるのですが、厳密には異なりますのでもう少し聞いていて下さい。

 ロストロギア事件の被害者団体、悠久の翼。これが、グレアム提督の後ろにいる人達です。

 過去の事件の関係者と言える人達ですから、管理局も無関係ではありません。所属してる人に管理局の局員もいますし」

 

「被害者団体、か……管理局やグレアムに圧力を掛けたりしているのか?」

 

 一番ありそうなのはコレ。それも、人権や責任問題を盾にしたタカリが心配。

 でも、ギル・グレアムの周囲にそんな問題が起こってる様子は無かったし、そうだとしても行動方針としておかしい。

 

「この辺は、捉え方によると思いますよ。

 まず、この団体についてです。

 被害者の自活のための相互支援が主な活動ですね。闇の書に限らず、ロストロギアによる被害を何とかして減らせないかという研究も独自に行っていますし、かなり前向きな活動を主体としているようです」

 

「何だ、その口ぶりだとかなりいい団体そうじゃないか。

 どんな問題があるんだ?」

 

「助けた人を手足として使う事、大きな被害を減らすための小さな被害は止むを得ないという考え方でしょうか」

 

「それでも、後ろ向きじゃないだけ真っ当だろう。救済可能な被害者に手を貸すのが取り込む事を目的にしていても、現実として助けられる者がいて、大目標が大きな被害を回避する事なら、マッチポンプとは言えんしな。むしろ、人生に目標が出来る分だけ被害者の復帰が早いかもしれんぞ。

 私としては、被害者だからと権利ばかり主張する連中よりも余程好感が持てる。管理局から見ても協力しやすい団体なんじゃないか?」

 

「ええ、そうですね。下手な権力者より実行力もありますし、実際協力もしているようです。

 それでも、今回の件に関する問題は気付いていますね?」

 

「小さな犠牲、つまりはやての切り捨てだな?

 それに、管理局が使えない手を使うための隠れ蓑として作った団体という可能性もあるか」

 

 それに団体が動いているという事は、説得が難しいという事。情報の秘匿も同様。

 時空管理局との協力体制があるなら、隠れ蓑でなくとも黙認されてる可能性が高い。

 

「その通りです、よく出来ました。

 それでは、以上の説明を踏まえて、これまでの出来事についての調査結果です。

 はやてちゃんを見付けたのは、地球に来た関係者の様です。食糧関係の仕事で日本に来た際にたまたま気付いた様なので、これ自体は偶然かご都合主義的解決だったのでしょう」

 

「教授の時の癖かそれは?

 管理世界の人間が食料関連で来日か……StrikerSにあった日本料理を出してそうな店やらの為の仕入と考えれば、あり得ない行動とは言えないか」

 

「そうですね、一応筋は通っているようです。

 凍結魔法を使っての封印自体は、以前から研究していたようですよ。闇の書に限らず、人を宿主とするロストロギアには有効な可能性があると考えているようです。実践した事例は確認出来ませんでしたが」

 

「凍結封印という手法に、どの程度の信頼性があると考えている様子なんだ?」

 

 そもそも原作守護騎士の説明を聞いても、凍結で封印出来ると思えないけど。

 無限転生だけを抑えても意味は無いし。

 

「内部でも議論はある様ですし、クロノ君が指摘する内容くらいは気付いていますよ。

 解除は困難ではない、どんなに隠そうが見付けられる可能性はある。

 団体である以上は、隠し場所が漏れる可能性がある事も理解しています。それでも、それまでに自分達や管理局が何とかする技術を作れたら良し、いつか奪われるとしてもそれまでの被害は抑えられるという判断です。

 今の管理局の技術を考えると、判断理由に一応の妥当性はあります」

 

「その結果、中途半端な希望を見付けた連中と同じ末路を辿るわけか。

 最悪、その団体に私を売り込むことになるのか? ある意味では過激派だから、そう簡単に納得してもらえるとも思えんが」

 

「使命感に溢れる団体ですからね。自分達の手で何とかしようとする分、排他的でもあります。

 まして、エヴァちゃんや私はロストロギアと呼ばれるのが確実な存在ですから、彼等から見たら排除すべき敵でしょう」

 

「面倒だな……いっそ、目の前に闇の書を突き付けてみるか」

 

「いえいえ、それは最後の手段でしょう。

 それに、某提督さんを忘れていますよ」

 

「……グレアムがいたな。この流れのどこで出てくるんだ?

 団体に所属しているのか? それとも、協力しているだけか?」

 

「過去がどうかまでは判っていませんが、現在は所属していないようですよ。

 悠久の翼が見付けた闇の書とその主を保護という名の隔離をするために、地球出身で闇の書との因縁もあるグレアム提督に話が行ったようです。原作でも妙に素直に引き下がっていましたし、提督自身は完全に納得しているわけではないかもしれませんね。

 細かい点については、まとめた資料を用意してあるので渡しておきます。必要であれば提督本人の記憶も頂いてきますが……必要ですか?」

 

 可能ならあった方がありがたい。

 でも、気付かれると厄介。少なくとも奪われた事自体は、技術さえあれば調べれば解る。記憶や人格の障害という問題もある。

 必要性と安全性を天秤にかけると、微妙?

 

「迂闊に敵対要素を増やすのも問題だしな……

 私の情報はグレアムに渡っていたのか?」

 

「ジュエルシード事件の報告書は見たようですが、それ以上の情報を持っている様子はありませんでしたね。

 とりあえず、娘さんが出来ておめでとうございますと、祝辞を述べればよいですか?」

 

「はやては妹だ、娘にするな!」

 

「そうでしたね。それと、最高評議会の関係者も洗っているのですが……予想していた以上に、アルハザードについての情報を持っていますよ。

 少なくとも闇の書がアルハザード製で、夜天の魔導書と呼ばれていた事は掴んでいるようです」

 

「まあ……それはプレシアがアレだったから、そうだろうとは思っていたが。

 具体的な実態や構造については?」

 

「夜天や私の構造全てを詳細に把握しているのは、エヴァちゃんだけですよ。

 製作関係者全員を考えても個人で見れば、使われた技術の一部だけを詳細に知っているとか、どんな技術をどう組み合わせたかという概要しか知らないとかですからね。

 それらの情報を繋ぎ合わせて全てを把握するには、概要と個別技術の両方を完璧に把握する必要があります。最高評議会が集めた情報はおろか、最高責任者が知る情報でも足りませんよ」

 

「……随分と情報がばらけていると思っていたが、誰も全てを知らなかったという事か」

 

 設計情報は、基本的には階層構造だった。曙天の指令書の構成物はこれでこう組み合わせる、各構成物に使われた技術や設計思想はこう、それぞれの詳細は……みたいな感じ。

 チャチャゼロとチャチャマルすら、設計方針や利用技術に違いがある。恐らく、担当者や設計時期が違う事が原因。

 

「現代の工業製品も似たようなものですよ。

 パソコンだってそうでしょう。CPUやメモリ、マザーボード、電源ユニット、オペレーティングシステム……個別の理論や作り方を知る必要は無く、既製品を正しく寄せ集めれば、個人でも作ることが出来るのですから」

 

「まあ、そうなんだが……改悪した連中は、どこまで理解してやってたんだ?」

 

「電気回路の知識が無いまま配線を変えたり、マトモなロシア語の知識も無いままロシア軍の指令書を書き換えたりしていた、という表現はどうでしょう。

 大きくは外れていないと思いますよ」

 

「……そう考えると、よく無事に動いているな。

 いや、今の立場を考えると、無事という言い方は正しくないか」

 

「闇の書になってしまっていますからね。

 まあ、そんな状況なんですよ。夜天を助けられるのはエヴァちゃんだけ、という点にブレはありません」

 

「そうか……はぁ、何だか考えるのも面倒になってきた。

 とりあえずグレアムが情報を掴んでないなら、猫が来る可能性が高いから……来たら捕らえた上でオハナシでもするか」

 

 ギル・グレアムの所在地は判明済み。私達とチクァーブが張り付いて調査してるけど、現状では動きなし。ヘルパーだったおばさんに連絡を取って既に手を離れた事を知る事になるけど、少なくとも様子は見に来ると予想。

 そこを、捕らえる?

 簡単な罠、大よその実力も把握済み。チクァーブからの報告も順調だし、問題無い。

 

「物理的なお話ですね、解ります。

 本来はどういう予定だったのですか?」

 

「黙れ変態(ロリコン)

 裏に組織がある事は想定していなかったからな……猫はともかくグレアム自身は、はやてを犠牲にする罪悪感と未来の被害の無さで、説得出来ると思っていたんだが。

 3人なら、最悪でも行動を封じてしまえばどうにかなるしな」

 

「そうでしたか。いやぁ、情報が間に合ってよかったですよ」

 

「まあ、それには感謝しておく。

 ……で、お前は守護騎士に挨拶しなくていいのか?

 せっかくいるところに来たんだ。一応お前の事も説明はしてあるが」

 

「いえ、まだいいでしょう。

 新たなエターナルロリータたるヴィータちゃんに興「二度と姿を見せるな変態(ロリコン)!」

 

 お姉様の拳が空を割った。

 衝撃波が発生する速度の拳が届く前に姿を消した変態(ロリコン)の性能は、ある意味恐ろしい。

 でも、様子を見てたヴィータが物凄く納得してた。要注意人物だと改めて理解してもらえたようだし、物理的に潰すのも構わないけど、周囲の被害が怖い。

 

 

 ◇◆◇  ◇◆◇

 

 

 というわけで、準備万端で待ち構えてた火曜日。

 ジュエルシード事件の事前報告を見て慌てていた上に、ヘルパーだったおばさんに連絡を入れ、予想外の“八神の血縁者”の動きの早さに焦った猫。

 様子を見るために八神家付近に来たところを、クロノ・ハラオウンがあっさりと捕獲。

 そのままアースラまで連行して、ハラオウン親子、お姉様、八神チャチャで囲んだ状態。もちろん、お姉様と八神チャチャは大人モード。

 リーゼアリアには猫じゃなくて人型に強制的になってもらったけど、めっさ睨まれてる。

 主にお姉様が。

 

「お前達と話がしたかっただけだ、そんなに睨むな。

 良い話と、良くも悪くもある話があるが、どちらからがいい?」

 

「話す事なんて無い! クロノ、こんな事をしていいと思ってる!?」

 

「闇の書に関しての背任行為。これだけでも、拘束するには充分なんだ。

 証拠も揃っている。話くらいは聞いてくれ、アリア」

 

「くっ……」

 

 悔しそうにしてるけど、逃げ道無し。

 逃がすつもりも無いけど。

 

「ふむ……そうだな、恐らく悪い方向で受け取られる方から話すか。

 ギル・グレアムに使い魔のリーゼ姉妹、その背後にいる悠久の翼とかいう団体。お前達の計画は最初から破綻しているぞ。はやても闇の書について、既にお前達以上に知っているしな」

 

 お姉様の言葉に、リーゼアリアは睨み付けるばかりで黙ったまま。

 話す事は無いという言葉通り、何も話す気がないらしい。

 

「理解する気も無いか? まあいい、ここからが良い話だからそのまま聞いていろ。

 私には、闇の書を本当の意味でどうにかする手段がある。凍結封印などという不完全な手段ではなく、闇の書による悲劇を、本当の意味で終わらせる事が出来る。

 その上で、はやて達、つまり闇の書の主や守護騎士達の全面的な協力も得ている。

 言いたい事は解るか?」

 

「……信じられるもんか。簡単な方法があるなら、とっくに何とかなってるはずだ」

 

「それは私が目覚めたのが最近だからだな。それに、同じ事はお前達の計画にも言えるぞ。

 まあ、続きはお前の主人を交えてだな。グレアムは私室にいるから、クロノ、通信を頼む」

 

「はあ……それも確認済みなのか。どこまで見通してるんだ」

 

 ため息をつきながら、クロノ・ハラオウンが通信を始めてる。

 もしもし、私チャチャ。今、ギル・グレアムの斜め後ろ上方で様子を見ているの。

 

『どうしたんだい、クロノ……?』

 

 通信に出たギル・グレアムの表情が固まった。

 あちらからもバインドでぐるぐる巻きのリーゼアリアが見えてるから、当然と言えば当然。

 

「お久しぶりです、グレアム提督。

 私的に話をしたいという方がいるので、連絡させてもらいました。

 エヴァンジュ、後は頼む」

 

「ああ、任せろ。

 初めましてギル・グレアム提督、と言うべきだろうな。私は八神エヴァンジュ、八神はやての保護者になった者だ。

 お前達が何をやってきたか、何を目的としているかは理解しているから、誤魔化す必要は無いぞ。それは、後ろのリーゼアリアを見れば解るだろう?」

 

『アリアを捕らえて人質にでもするつもりかね?

 もっとも、それが本物のアリアだとすればだが』

 

 おや、すっとぼける方向らしい。

 残念、リーゼアリアは見捨てられてしまった!

 

「心配するな。必要ならお前自身を捕らえれば済む話だから、私達がお前達の動きを捉えている証拠として捕まえただけだ。

 と言うわけで、闇の書について話がある」

 

『闇の書、か。

 あの忌まわしいロストロギアについて、どんな話があると言うのかね?』

 

「あくまでも白を切る気か。まあいい、それなら一方的に通告するだけだ。

 私はこれから、闇の書の闇を祓う作業に入る。

 私からの要求は、邪魔をするな。この1点だけだ。お前の背後にいる悠久の翼や管理局の連中も含めてな。

 迂闊な手出しをするようなら、管理局やミッドチルダを壊滅させるつもりで攻撃する。具体的には、闇の書を持って殴り込みだ。

 ちなみに、これが闇の書だ」

 

 お姉様、手元に闇の書を転送。

 闇の書は、自力でふわふわ浮かんでる。

 

『話にならん。今の話の、何を信じろと言うのかね?』

 

「そうだな。とりあえず、1つずつ証明するか。

 チャチャ、行け」

 

「はい」

 

 八神チャチャ、適当に転移。

 私斜め後ろ上方にいたチャチャ。今、八神チャチャと同じ姿でギル・グレアムの後ろにいるの。

 

『何っ!?』

 

 ドッキリ成功。

 ギル・グレアムの驚いた表情はレアもの。

 

「こんな感じで、いつでも手出し出来るわけだ。人質を取る必要も無い事は理解出来たか?

 チャチャ、戻ってこい」

 

『はい』

 

 ギル・グレアムの所で姿を見せていたチャチャ、隠れやすいところに転移。

 それに合わせて、八神チャチャがお姉様の所に転移。

 

「ただいま」

 

「お帰り。

 これで、管理局への出入りが障害とならない事は証明出来ただろう。少しは信じる気になったか?」

 

『……恐喝に応じる気は無い』

 

「やれやれ、信じられないような話を信じてもらうためにやっている事なんだがな。

 ならば、このリーゼアリアが本物だという事は信じられるか?」

 

『信じられん。それだけの力を持っているのだ、偽物を準備する事くらい簡単だろう』

 

「なるほど。なら、どうなっても問題ないな。

 喰らえ、闇の書」

 

「おい、エヴァンジュ!」

 

 蒐集開始、標的はリーゼアリア。

 リーゼアリアは苦悶の表情だけど、悲鳴も上げない。なかなか根性が据わってる。

 むしろ、ちょっと慌ててるクロノ・ハラオウンの方が煩い。

 

「心配するな、殺しはせん。

 そもそも、闇の書の完成を目指すには、誰かのリンカーコアを蒐集する必要がある。

 良かったな、闇の書完成直後の凍結封印を目指すお前達の目標にも、1歩近づいたぞ?

 それに、ここで蒐集されておけばもう一度蒐集する意味が無くなるから狙われにくくなる上に、完成するまでに充分回復出来る。いい事尽くめじゃないか」

 

「ぐ……き、キサマ…………」

 

 蒐集されながら、めっちゃ睨んでる。お姉様もノリノリで悪役をやりすぎ。

 蒐集終了、リーゼアリアが倒れた。

 割と軽めの蒐集だから命に問題は無いけど、しばらく魔法が使えないはず。

 

「チャチャ、こいつをグレアムの所まで送ってやれ。

 一応怪我人だから、さっきと違って丁寧にな?」

 

「はい」

 

 八神チャチャ、気を失ってるリーゼアリアを抱えて転移。

 今度は真面目に次元世界を渡る必要があるから、到着にはちょっと時間がかかる。

 お姉様は改めてギル・グレアムの方を向くと、闇の書の蒐集済みページを見せた。

 

「これが本物の闇の書だと納得出来たか?

 言っておくがリーゼアリアは1週間かからずに回復可能な程度にしか蒐集していないから、生かすも殺すもお前次第だ。隠しても表に出しても何かあった事がばれるから、好きにするといい。

 これで、下手に手出しをしたら本局に闇の書を持って襲撃に行くと言った事について、実行可能だと証明出来たと思うが。そろそろ他の話を聞く気になったか? まだ信じられないなら、本局にいるリーゼロッテやお前自身も同じようにしてみせるぞ」

 

 ギル・グレアムが頭を押さえてる。

 混乱や錯乱したりしない辺りは、流石歴戦の勇士?

 お姉様は、闇の書を転移させた。具体的には私達が持って時空管理局の本局へ向けて移動中。

 襲撃、襲撃、さくっと襲撃?

 

「グレアム提督。

 エヴァンジュはかなり強引ですが、それに見合う力があります。それに、目的や手法もきちんと知れば納得出来るものでした。

 話だけでも聞いて頂けませんか?」

 

 クロノ・ハラオウンが援護開始。

 お姉様がノリノリだけど、一応打ち合わせ通り。

 

『……いったい、何を言いたいのかね?

 闇の書を見付けたのであれば、時空管理局に報告して指示を仰ぐべきだ』

 

「まだ言うか。私がはやての保護者になったと言っただろう?

 日本の法的に、既にお前ははやてに対する権利を失っている。逆に言えばお前が今まで保護者だった事実があり、お前の地球の身分を使ってはやてへ送金やらを行っていた証拠も掴み、リーゼアリアがはやてのヘルパーとして出入りした上で認識阻害やらの魔法を設置していた証拠もあるという事だ。

 管理局としての動きは悠久の翼とやらがメインで、お前自身はあまり動いていないのも知っている。それでも無限書庫の調査依頼やらで名前が出ているし、闇の書発見当時にバタバタ動いた際の情報隠蔽が不十分で、通信記録も残っていた。これでもまだ不足か?

 というか、はやての資産やらの書類がお前の手元にある時点で、言い逃れは出来んぞ。

 それと、私は管理局員でも管理世界の住人でもないからな。管理局に指示されるつもりは無い」

 

「グレアム提督。僕も独自に調査を行っています。

 その結果は、提督が闇の書に関与している事を確信出来るものでした。言い逃れの意味はありませんし、罪を問うために話をしているわけでもありません。

 エヴァンジュが行おうとしているのは、僕や母さんも納得した内容です。少なくとも、提督達が選んだ道よりも。その為の話を聞いてもらえませんか」

 

『……そうか。ならば、聞かせてもらおう。

 闇の書を、一体どうするつもりなのか』

 

 ギル・グレアムが深いため息をついた時、八神チャチャが現地入り。

 宅配便でーす。リーゼアリアの受け取りお願いしまーす。

 

「さっきも言ったが、闇の書の闇を祓う。

 具体的には元の姿、夜天の魔導書に戻すという事だが……夜天の魔導書について、お前達は知っているか? あまり知っている様子は無かったんだが」

 

『夜天……? それは何かね?』

 

「聞いたことも無いのか。管理局の上層部……少なくとも最高評議会はある程度真実に辿り着いているはずなんだがな。まあいい、そこから説明してやる。

 闇の書の本来の姿は、夜天の魔導書という名だ。各地の魔法の技術を調査するための魔導具で、要するに情報収集のための資料本だな。取り込んだ魔力で暴走する様な、阿呆な代物ではない。

 一部の主や余計な手出しをする馬鹿共のせいでどんどん改悪された結果が、今の闇の書というわけだ。改悪部分を何とかすれば、無闇に破壊をまき散らす事は有り得んという事でもある」

 

『闇の書の改変も、望んだ結果を得られた記録が無い。

 無謀だ』

 

「正しい知識も無しに手を出すからそうなる。

 お前達の手段もそうだ。凍結封印が有効だと本当に信じているのか? 高々1人2人の魔力で封じる事が出来るなら、どうしてクライドは命を落とす必要があった。地球に、はやての手にあるのは何故だ。

 確かに、はやてを殺さず封じていれば無限転生は働かないだろう。だが、闇の書の闇、狂った防衛プログラムはコアがある限り再生機能が止まらんし、コアを破壊しても闇の書が完成している限り復活し続ける。

 それに、防衛プログラムがはやてを侵食し続ければそう長く持たん。具体的には1年以内に命を落とすのは確実だが、封じた状態の主を侵食から守る方法など無いぞ。

 そんな代物を抑え込める、隠し通せると、本気で思っているのか? 仮にお前達の計画が成功しても、その効果はすぐに失われるぞ」

 

「エヴァンジュ、言い過ぎだ」

 

 クロノ・ハラオウンに止められた。

 なだめ役を押し付けたけど、お姉様がノリノリすぎてやり辛そう。

 

「まあ、そうだな。駄目出しもこれくらいにするか。

 要するに、夜天の妹である私が必要な物を持っている、何とかすると言いたいわけだ。

 はやてと夜天は家族だ、必ず救う。

 そのための犠牲も最小限にしよう。少なくとも、好き勝手に魔導師やらを蒐集させるしかないお前達の計画よりも問題を抑えてみせる。

 未来に闇の書の犠牲など出させん。

 意図的に管理局と敵対する気は無いが、邪魔をするなら容赦しない。必要な情報はリンディ達に伝えてあるから、これからどうするかはお前達で相談してくれ」

 

 お姉様、退場。

 残るはギル・グレアムとハラオウン親子。管理局員同士の話し合い。

 

『……リンディ提督。どこまでが本当の話かね?』

 

 深くため息をつきながら、ギル・グレアムは今まで一言も喋ってないリンディ・ハラオウンの方に目を向けた。

 何だか、出来れば嘘であってほしい、と言いたい感じ。

 

「疑問は尤もですが、全て本当の事ですグレアム提督。

 彼女、エヴァさんが闇の書……夜天の魔導書の妹にあたる魔導具だという事も。

 これまで何もしていなかったのは、エヴァさんが起動に耐えられる主に出会えず、眠り続けていたため。ようやく起動に耐えられる主と出会い、目覚めることが出来たそうです」

 

『それがジュエルシード事件の報告書にあった八神エヴァンジュの、真実の姿か』

 

「ええ。エヴァさんの主は小野アコノさん。既にはやてさんの姉になって八神アコノさんですが、この件に関して全面的に協力しています」

 

『地球でベルカ式の魔導師が多く見付かったのは、彼女が原因という事か。

 魔力はCクラス相当という事だが……』

 

「これまでに計測出来た、本人の魔力量のみでの評価です。

 報告書に記載していませんが、ジュエルシードを完全制御する技術を持ち、無茶なカートリッジシステムを組み込んだデバイスを使っています。

 実際の戦力としてはクロノ以上、オーバーS相当は間違いないと思って下さい」

 

『何とも……容易く本局までアリアを連れて来た事実が無ければ、とても信じられん内容だな。

 だが、あれは彼女自身の力ではないのだろう?』

 

 ソファーに寝かせられ、治癒魔法の結界に包まれてるリーゼアリアを見ながら、ギル・グレアムはため息をついてる。

 偽装情報を流しまくって、普通に戻ってきたという“記録”も作成中。余計な馬鹿に突っ込まれる要素は排除してある。目の前のリーゼアリアが“現在進行形で移動している状況”をモニターで見ている以上、私達の実力が本物ではないとは疑えないらしい。

 

「アリアさんを本局に届けたチャチャさんは、エヴァさんの守護騎士に近い存在です。ですから、闇の書と守護騎士の関係と同様に、切っても切れない間柄という事です。

 エヴァさんは、グレアム提督に力を見せるという選択をしました。嘘でも冗談でもなく、本気だと示す為に。より良い未来へ進むために。

 素直な人ではないので解りにくいのですが、エヴァさんの計画に対する覚悟と妨害に対する行動方針、それにグレアム提督達の計画の問題点を教えた上で、せめて敵対しない事を選択してほしいという意思表示なんです」

 

『……そうか』

 

 ギル・グレアムが萎びてる。

 この分なら、リンディ・ハラオウンも籠絡し……もとい、説得しやすいと期待。

 闇の書の出番が無かったのは、ちょっと残念。




地球→本局の転移ですが、原作での描写を見る限り、本来は結構時間がかかりそうです。
・アースラの移動にそれなりの時間がかかってる(無印7話)
→160ヘクサ後に到着予定。1ヘクサ=1分相当だと3時間近く? この時点で本局より遠い場所にいるとは考えにくいし、予定を時間で表現している以上「間も無く」より長い時間のはず。
・襲撃事件はなのはの世界から個人転送で行ける範囲にほぼ限定(A’s3話)
・本局からだとかなり遠い、中継ポートを使わないと転送出来ない(A’s3話)
・仮面の男が現れた2つの世界は、最速で20分はかかりそうな距離(A’s8話)
→個人転送は最低でも片道10分かかる距離をカバーできるが、その範囲に本局は無い。
なので、ほぼ瞬間転送に見えた妹達(チャチャ)の個人転送は驚異的なはず。タネはA’s7話の仮面の男と同じですが。

でも、クロノはさほど時間を掛けずに往復してる(A’s10話。闇の書完成後に地球で仮面の男を捕まえる→本局?でグレアムに会う→暴走に間に合う)んですよね。会ってる時の部屋の風景的にもグレアムの行動的にも、アースラにいたとは思えませんし。
とはいっても、なのは&フェイト(しかもフェイトは途中で一時脱落)で1時間戦い続けるなんてムリゲーすぎるし、封印可能なのは数分だけで今ならまだ間に合うとか言ってたのは、なんでだろうなー?
というわけで、転送ポート(設備的な支援)を使っての転移は、個人転移より早い事にします。そして、本局までの魔力的・情報通信的な回路を構築している妹達は普通の個人転送より早く移動可能(アリアの配達が比較的短時間の理由)。次元空間航行艦船は大人数の独立運用と同時に、転送ポート(設備)の運搬も重要な役目。これなら矛盾しないかな?


そして、闇の書の防衛プログラムに関してですが、エヴァの説明は正確じゃないかもしれません。
グレアム「それ(闇の書を主ごと凍結して閉じ込める)ならば、転生機能は働かない」(A’s10話)
シャマル「主の無い防衛プログラムは魔力の塊みたいなもの」(A’s12話)
シグナム「コアがある限り、再生機能は止まらん」(A’s12話)
アインス「遠からず新たな防御プログラムを生成し、また暴走を始めるだろう」(A’s13話)
ここで問題です。主がいる状態だと防衛プログラムも凍結可能で、かつ再生も生成もしない可能性はどれくらいあるでしょう?
でも、細かい事はいいんです。検証出来るのはヤバくなってからだし、はやてが1年以内に死ぬ方が重要です。これも凍結中はどうなんだという疑問は無視して、何もしなかった時の話に内容をすり替えてますけどねっ。


2013/11/15 無暗→無闇 に修正
2015/02/10 全てを把握可能する→全てを把握する に修正
2016/04/06 実践→実戦 に修正
2017/04/15 選択しました→選択をしました に修正

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